目が腐ったボーダー隊員 ー改稿版ー   作:職業病

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2話連続更新です。この59話から見ている方は一つ前の話をご覧ください。
相変わらず筆の進みが遅い作者ですが、次から早くなる(と信じている)。
タイトル?ごめんなさい、今回は全く思いつかなかったんです。

59話です。次は過去編も更新したいなぁ。


59話 『葉山隼人』を見抜いた彼は、『前兆』を感じ取る。

早朝

 

普段通り目を覚ます。最近は目覚ましが鳴る五分前に目がさめるようになった。といっても休みの日はトレーニング後に二度寝かますのだが。

普段通り。そう、普段通りのはずだ。

 

なのに今日はなにか違った。全身にまとわりつくような、よくわからない寒気が、そして重圧がある。

俺はこの感覚を知っている。これは、四年前のあの日と同じ感覚だ。

 

「…………」

 

つまり、今日がその日なのかもしれない。

そう思い俺は真戸さんに作ってもらった新トリガーを学校のカバンに放り込む。今日は肌身離さず持っていた方がいいだろう。

そしてそうでないことを願いつつトレーニングに向かった。

 

「なんでよりによって今日なんだよ」

 

俺のぼやきは曇天の空に吸い込まれていった。

 

 

今日はマラソン大会であるため、通常の授業は一切ない。朝っぱらから走らされるのだ。尤も、毎朝走ってる俺からしたら特に感じることのないのだが。

 

マラソン大会は学年ではなく、性別という括りで分けて走る。男子は10キロ、女子は5キロだ。なんで倍も違うのだろうか。

走る距離から男子は先にスタートする。女子は男子がスタートしてからいくらか時間を置いてスタートするため、男子のスタートラインには女子がひしめいていた。主に葉山を見るためだと思われる。

 

「葉山先輩ー!二連覇目指して頑張ってくださーい!」

 

葉山にそう声援を送るのは一色。そして一色は隣にいる三浦に気を使うように視線を向けた。

 

「は、隼人…頑張って」

 

控えめながらも三浦は葉山にそう声援を送る。その声援は葉山に届いたようで軽く手を挙げ微笑み返した。それを見て三浦は少し安堵したような表情になる。

 

「あ、あとついでに先輩もー」

「おー!」

「いや戸部先輩じゃないですから」

 

多分、俺に向けて言った声援なんだろうが、戸部が勘違いして返事をして一色から心無い言葉を受けていた。戸部の耳に届いたかは定かではないが。

 

「が、頑張れー!」

 

聞きなれた声がし、そちらを向くと由比ヶ浜がこちらに手を振っていた。今日葉山に話を持ちかけることは由比ヶ浜と雪ノ下の両方に伝えてある。それも含めての声援だろう。下手にリアクションするのも変だから軽く手をあげる程度に反応しておく。

由比ヶ浜がとなりの雪ノ下になにか声をかけると、雪ノ下がこちらを向いてなにかを呟いた。周囲の声によってそれは掻き消されたが、口の動きと状況からなにかしらの声援を言ったのだろう。そちらにも手を軽く振る程度に反応しておき、俺のすぐ後ろにいる戸塚に目を向ける。

戸塚はわかっているようで、俺の視線に気づくとすぐに頷いてくれた。

 

あとは、俺がどうにかするだけだ。

 

平塚先生がスタートのピストルを持って壇上に上がるのが見える。その顔はすごくワクワクした表情だった。うわぁ、あの人こういうの好きそうだもんなぁ。

 

「位置について、よーい!」

 

破裂音とともに全員が一斉にスタートする。葉山の後ろについていた俺はすかさず葉山の後ろについていくように走り出した。

さすが昨年一位を取っただけあり、ペースはかなり早い。俺にとってはこの程度のペースならついて行けるが、他の普段から走り込みをやってない連中には厳しいだろう。

 

そして後ろをみると、戸塚を中心としたテニス部のメンバーが横一列に並んで走っていた。これにより二位集団がこちらに追いついてくる確率を少し減らすことができる。シンプルに邪魔だから。

とはいっても、邪魔できる程度であり、すり抜けてくる奴も確実にいる。だからこそ早めにやることをやっておきたい。だが焦って早すぎても周囲に聞かれる可能性がある。

 

だからこそ、あのポイントで俺は葉山に仕掛けるのだ。

 

ーーー

黙々と走り続けて気づけば5キロ地点になっていた。

これで半分走りきった。あと半分もあると思うか、あと半分で終わると思うかは人それぞれだ。だがその感情は必ず心に隙を生む。

 

「よくついてくるな」

 

黙々と走り続けていた葉山が唐突に俺にそう言う。

 

「毎日走ってんだ。この程度のペースについていくくらい大したことじゃねーよ」

「鍛えてるんだな」

「イメージつかねーだろうがな。本気出しゃ多分お前も抜けるかもな」

 

最後に断言はできないがな、と付け加える。

そう言いながらも走り続ける。そろそろ仕掛けてもいいだろう。

 

「ならなぜわざわざオレについてくるんだ?」

「聞きてーことがあってな」

「文理選択のことか?なら前に…」

 

「三浦は女よけにはちょうどよかったか?」

 

葉山の言葉を遮ってそう告げた。

その言葉を聞くと葉山は俺を鋭い表情で睨みつけてきた。そらそうだわな。いきなりそんな突かれたくないとこ突かれたらそうもなる。そういう顔が見たかったんだよ、図星を突かれて余裕が無くなってる顔がな。

 

「どうだったんだよ。ちょうどよかったか?」

 

全く物怖じしない俺に苛立ったのか、俺から視線を逸らしペースを上げた。だがそれに難なく付いて来る俺にさらに葉山は苛立ちを募らせる。

 

「……少し黙れ」

 

そう言うと葉山はさらにペースを上げる。だがそれでも余裕の表情でついてくる俺に苛立ちを隠せなくなっているのが目に見えてわかる。

 

「嫌だね、俺は良いやつじゃないからな」

「冗談だろう?君を良いやつだと思ったことは一度もない」

「知ってる」

 

お前が俺を良いやつと思うことなどないだろう。そもそもいい事こいつの前でしたことなんてないし。

 

「文理選択、どっちにしたんだ?」

「言うと思っているのか?」

「まさか。お前がそういうやつなのは知ってるさ」

「なら無駄なことはするな。黙って走れ」

「お前が俺に進路を言うとは思えない。だからこちらの望む進路にしてもらうしかない」

「なんだそれ。めちゃくちゃだ」

「言葉の通りだ。んで、進路だが……理系にしろ。どっちを選んだのかなんて知らん。だが、お前の望みを叶えられるのは文系よりも理系の方が確率高いぞ」

 

その言葉を聞くと葉山は止まった。そこそこ早いペースだったから少し息が切れている。かく言う俺も少し息が切れているのだが。というか走ってる時に急に止まるのってほんとは良くないんですけど?せめて歩くくらいしない?

 

「……オレが、望むこと?」

「あくまで予想だけどな。というか、お前の望みは理系じゃなきゃかなわんと思った方がいい」

「……オレの望みがなんなのか、わかるのか?」

「お前、俺がはじめに進路聞いた時こう言ったろ。『煩わしいのをやめてくれ』って」

「………」

「つまりお前は、『みんなが望む葉山隼人』をやめたいんだ」

 

その言葉を聞くと葉山は俺から視線を逸らし、ゆっくり歩き始めた。葉山から答えは聞いていない。とりあえず着いていこう。

 

「……なぁ、聞いてもいいか?」

 

葉山は口を開くと、俺にそう言って来た。

 

「好きにしろ」

 

素気無く俺は返す。

 

「なんで、それが俺の望みだと思ったんだ?」

「……俺はあんまお前のこと知らない。だからあくまで印象と推測だ。それでいいか」

「構わないよ」

「……お前の笑顔、いつも薄っぺらいんだよ。『周囲は自分にこういうことを望んでいる。だからそれに応えましたよ』って顔に書いてあるみてーだ」

「…まさか、それだけかい?」

「いや。それにお前、俺にこう言ったろ。『オレは君が思ってるより、いい奴じゃない』ってな。つまり、お前は俺が知らない一面を持っているってことだ」

 

俺が知っている葉山隼人はたかが知れてる。スポーツ万能、成績優秀、イケメン、性格もイケメン。この程度だ。この程度しか知らない俺は葉山隼人が凄いやつ程度にしか思わない。これだけ聞いたら誰でも似たような印象を受けるだろう。

そんな俺に葉山隼人は『自分はいい奴じゃない』と言った。つまり普段の顔とはまた違う顔が葉山隼人には存在しているということだ。

そしてその一面はどんなものか?それは『周囲の期待通りの葉山隼人とは違う葉山隼人』であることはわかる。そして周囲の期待に応え続ける自身をいい奴ではないと評する。

 

つまり、葉山隼人は周囲に応え続ける自身が嫌いなのだ。嫌いとまで言わなくとも、好ましくは思ってないだろう。

 

だが周囲はそれを気付かずさらに期待を寄せる。そして葉山は家柄上、または立場上仕方なくそれに応え続ける。そしてさらに期待が高まる。この繰り返しの結果、形成されたのがある種の偶像『葉山隼人』だ。

そして偶像と化した自分ではなく、本当の自分を『見つけてくれる』ことを、葉山は期待した。皮肉にも俺に。

葉山にとって何より不幸だったのは、その期待に応え続けることができる器量があったことだろうか。どこかで限界を迎えればここまでにはならなかったのかもしれない。

 

「確たる証拠はなんにもない。だがこの考えに至るのには、そんな苦労しなかったよ」

「………本当にすごいな、君は」

「……俺に対してわざわざ感情をオブラートに包まなくてもいいんだぞ。所詮他人だ。友人どころか知人ですらない」

「…オレは、君に期待していた」

「お前が言っても皮肉にしか聞こえん」

 

残念ながらスペックで言えばこいつは俺より上だ。そんな人間が期待?皮肉かよ。自分に自信があるうちは期待なんて言葉使うな。

 

「目に見える能力なら、もしかしたらオレは君より上かもしれない。でも君はオレにはない能力がある」

 

念能力でも使えるのか、俺。そしたらすごい。もうボーダー辞めてハンターになろうか。

 

「君は、人を理解し、そして変える能力がある。それはオレにはないものだ」

「仮にそうだったとしても、俺がはじめからそうだったわけじゃねーぞ」

 

そこに至るまで数々の挫折と後悔を味わっている。生まれつきの能力じゃねーんだよ。色んな人と触れ合い、話し、学んで来たからこそ今の俺がある。

 

「オレが君と同じ境遇だったとしても、オレは君のようにはできなかっただろう」

「…………」

「君の言った通りさ。オレが今君に向けている感情は、賞賛ではなく嫉妬だ」

 

持たざる者が持つ者へ向ける感情。それは嫉妬か諦めだ。

 

「君を褒めるのは、オレのためさ」

「気持ち悪いからやめてほしいがな」

「はは。でも、そうするしかないんだ。君に負けるのがたまらなく嫌なオレがいる。君に劣ってるという事実に直面することに耐えられる自信がない。だからせめて同格であって欲しい。そんな人間らしい(薄汚い)感情から来てるんだ、君への賞賛は」

「その薄汚い(人間らしい)感情から来る賞賛を受ける俺の身にもなりやがれってんだよ…」

 

そこで戸塚をはじめとする二位集団が俺たちの横を通り過ぎる。戸塚が俺の方へ視線を向けるが、俺はただ目を合わせるしかしなかった。戸塚は詳細はわからないだろうが、なにもすることなくそのまま俺たちの横を通り過ぎた。

 

「オレは君が嫌いだ。だから負けたくない。せめて同格であって欲しい。君に負けることを、肯定するために」

「はぁ……俺がお前に優ってるとこなんて、ほんの僅かしかねーよ。皮肉かよったく」

「だから、君の言う通りにはしない」

「……そーかよ。んじゃ、話は終わりだ。さっさと行けよ。お前ならまだ一位狙えんだろ」

「ああ、勝つさ。それがオレだ。それに、君に負けたくないんでね」

 

そう言って不敵な笑みを浮かべると、葉山は走り始める。

 

「……そんな顔もできんだな、お前」

 

遠ざかる葉山の背中にそう呟いた。

 

「はぁ……やっぱ、リア充はリア充だな。かっこいいじゃねーかよ」

 

頭をガシガシかきながら俺もたらたら走り始めた。

 

 

その後、テキトーに走って真ん中くらいの順位で俺はゴールした。そして葉山はやはり一位だった。

 

そして女子のマラソンが終わった後になぜか表彰式的なやつが行われ、そこに一位の葉山が呼ばれていた。あれ?去年こんなのあったっけ?管轄多分生徒会だからもしかして一色が独断でやったってこと?なにあの子すごい。私欲で勝手にプチ行事やるようになるとか。

 

『葉山先輩おめでとうございますー!もう私、絶対勝つと思ってましたー!』

『みなさんのおかげで、最後まで駆け抜けられました。応援ありがとうございます。特に優実子といろは、ありがとう』

 

その言葉を聞いた一色と三浦は一瞬呆然としたが、すぐに再起動し顔を赤く染めた。そして周囲は更に盛り上がり歓声や指笛が響いた。

そしてこの葉山の言葉により雪ノ下との関係性の噂に決着がついた。周囲からは「噂は噂だねー」みたいな言葉もちらほら聞こえる。

 

『はーい!葉山先輩ありがとうございましたー!……二位以下は別にいらないですよねー』

 

そして一色はなんとも公私混合した発言をして、しかもその声がマイクに拾われるという失態を犯した。綾辻が横で苦笑いしてるのが見える。

んー、これは知らん。責任は自分で負え。

 

そう考え視線を後ろに向けると、片足をかばうように歩く辻の姿が見えた。ジャージが汚れているとこを見ると、転んだのだろう。

 

「辻、大丈夫か?」

「比企谷……いや、少し転んでな。膝を打った」

「ジャージに血ぃ沁みてんじゃねーか。ほら、肩貸すから保健室行くぞ」

「悪い。助かる」

 

ーーー

 

「そういやさ、お前今日横山見た?」

「横山?いや、見てない。というか、横山のことならお前の方が詳しいだろう」

「いやそうなんだが、あの運動バカが今年の女子のマラソンのトップ10に入ってなかったから……休んでるのか?」

「後で聞けばいいだろう。奈良坂が同じクラスなんだし」

「そうだな」

 

あいつなーにしてんだろ。皆勤賞逃してまでやることってなんだ?いやまぁ休んでるかどうかまだわからんけど。

そんなこんなで、保健室到着。扉を開けると

 

「あ」

「え?」

 

雪ノ下がいた。

 

「あれ、なにやってんのお前」

「……少し休んでたら棄権させられたのよ」

 

ああ、そういや体力なかったな。でもその口調からすると走りきる気ではいたの?

 

「比企谷くんは……辻くんの付き添い?」

「ああ、歩くのキツそうだったからな」

「そう、そういうこと」

 

というかお前辻は知ってんのな。俺のことは知らなかったのに。あ、前に会ったっけ。

 

「…………………」

 

そして女子がとことん苦手な辻は顔を雪ノ下から逸らし、なにも喋らなくなった。

……うん、仕方ないよな。とりあえず治療するか。

 

「雪ノ下、ここら辺のやつって勝手に使っていいのか?」

「随分手癖の悪いことをしようとしてるわね。この紙に書いておけば問題ないはずよ」

「ん、サンキュ」

 

そう聞いたから俺は必要な消毒液やらガーゼやらをテキトーに取り出し雪ノ下に渡す。辻には悪いが、あまり治療などしたことない俺より雪ノ下にやらせる方が確実だ。面白がってる?いいえ、合理的判断です。ほんとだよ?

 

「……………………」

 

恨みがましい視線をわずかに感じるが、軽く手を上げて心の中で謝る。ごめんね。

少しして、辻の治療が終わった。

 

「はい、これで終わりよ」

「…………………あ、ありがとうございます…」

「ええ」

 

顔は一切見ないが、ちゃんとお礼は言えた。うん、俺は嬉しいぞ。後でぶった切られそうで怖いけど。

 

「あ」

 

そういえば聞きたいこと、あったんだったな。

 

「? なにかしら」

「雪ノ下は進路どっちにしたんだ?」

「…あなたからそういうことを聞くのは初めてね」

「……かもな」

「…一応、文系ということになってるわ。だから、とりあえずあなたと由比ヶ浜さんと同じね」

「……カテゴリーではな」

 

そもそも雪ノ下は国際教養科だ。国際教養科にクラス替えはないから同じクラスにはならんが。

 

「辻はどっちにしたんだ?」

「……俺も文系だ」

「なら来年同じクラスになるかもな」

「ああ。俺も国立文系志望だからな」

「へえ」

「とは言っても、来年は特進クラスに行く予定だが」

「え、そうなの?」

「ああ」

 

となると、現在特進クラスの横山と同じクラスになるのか。こいつの胃が心配でならない。喜んで虐めてそう。

そこで時計を見ると、そろそろあの式典モドキも終わる頃合いだと思われる時間になっていた。

 

「そろそろ、教室に戻るか」

「ああ」

 

と、そこで保健室の扉を開くと由比ヶ浜がいた。

 

「うお!」

「わぁ!ヒッキー!あと辻っちも!」

「……………………」

 

あー、また辻が喋らなくなった。

 

「今来たのか?」

「うん!ゆきのんを迎えに来たの!ごめんねゆきのん、遅くなって」

「いいえ、気にしないで。そんなに待ってないわ」

「………俺は先に教室に戻る。じゃあな比企谷、また本部で」

「ん?お、おお」

 

そう言うと辻はさっさと教室に戻ってしまった。

辻は女子全般苦手なのに、由比ヶ浜みたいに初っ端からパーソナルスペースが狭くフレンドリーに接してくる女子は特に苦手なのだろう。仕方ないことだ。気持ちはよくわかるぞ。

 

「……あ、あれ?あたし、なんかしちゃった?」

「あーいや、前にも言ったがあいつ女子とはほぼ喋れないんだ。目を合わせることすら難しい」

「あ、そーなん?」

「いや前にも言ったろ…」

「あなたもお世辞にもコミュニケーションが得意とはいえないけれど、彼は女性に対してだけ病的にコミュニケーションが取れないのね……」

「…否定できんな」

 

事実、コミュニケーションは得意ではない。話すこと自体はできるのにな。初見の人にはダメだ。こればっかりは天性のものなのかもしれん。

 

「んで?なにしに来たんだ?」

「あ、優美子達が打ち上げ兼隼人くんの二連覇のお祝いするの。よかったら、来ない?」

 

マラソン程度で打ち上げするのかよ。二連覇のお祝いならまだわかるけどさ。

 

「……あなたも行くなら」

 

雪ノ下のその言葉を聞いた由比ヶ浜は俺に期待の視線を向けた。

 

 

俺に拒否権はなかった。

 

 

打ち上げは、なんかオサレなバーみたいなとこだった。いやみたいなとこってより、まるっきりバーだった。まぁソフトドリンクだけ飲んでれば問題ないか。

 

「やっべ帰りたい」

「入って5秒も経たずにそれ?行くって言ったのだから、ちゃんと顔出すくらいしたらどう?」

 

そんな苦言を雪ノ下は横からいってくるが、このリア充雰囲気はどーも合わない。

 

「でも無理にあそこに混ざる必要はないだろ?」

 

あのウェイウェイ言ってる戸部やら三浦やらのとこに突っ込んでいく勇気は俺にはない。というか俺が行ってもなんだこいつみたいな目で見られること間違いなし。ぼっちはちゃんと空気を読みます!

 

「そうね、私もあそこに行ける気はしないわ。尤も、すぐに由比ヶ浜さんに連れて行かれるでしょうけど」

「間違いないな」

 

そう言って俺は入り口付近のカウンター席に座る。雪ノ下もその横に座った。

 

「ジンジャエールで」

「私も」

 

ジンジャエールはすぐに運ばれて来た。カクテルとか酒じゃないから注ぐだけでいいため、早いのだろう。

 

「それじゃ、お疲れ様」

「はいお疲れ」

 

そう言って互いに軽くグラスを合わせる。

ジンジャエールはやはりうまい。うまいのだが、どうも今朝から続いてる嫌な感じが少しずつ強くなってる感じがしてせっかくのジンジャエールもイマイチ楽しめない。

どうしたものかと思っていたら、葉山が目の前まで来ていた。視線からして用があるのは俺ではなく雪ノ下の方だとわかる。

 

「…なにか、用かしら?」

「あ、いや……すまない、変な噂とか、迷惑をかけた」

「迷惑というほどのことではないわ。それに、気遣ってくれたことには感謝しているの」

「ん……君は、少し変わったな」

「どうかしら。ただ、昔とはいろんなことが違うから」

 

そう言って雪ノ下は視線を由比ヶ浜達に向けた。

俺はその『昔』になにがあったのかは知らない。聞いたところでどうにもならないらから。予想はできても、いつか雪ノ下の口から真実が語られるまで予想は予想でしかない。

 

「ゆきのーん!料理きたよー!」

「由比ヶ浜さん」

「ほらほら!いこ!」

「ええ」

 

予想通り、雪ノ下は由比ヶ浜に連れていかれた。

由比ヶ浜に連れて行かれるのを見送りながら、葉山は俺の隣に並ぶ。

 

「…やっぱり彼女は少し変わった。もう陽乃さんの影は追ってないように見える。でも、それだけのことでしかない」

「……かもな。でもいいんじゃねーの?あの大魔王の影追っても、あいつは所詮大魔王にはなれんから」

「……ああ、そうだな。あ、そうだ。一つ言い忘れていたけど、進級や進学程度で人間関係はリセットされないよ」

「ほっとけ。俺はされるんだよ」

「それは比企谷だけだろう?」

「お前もだろう?進級進学したらみんな環境が変わる。前と同じ関係には、二度とならねーよ」

「……その通りだけど、揚げ足を取られた気分だ」

「当たり前だ。揚げ足取ったんだからな。というか、だったらなんで誰にも進路言わなかったんだよ。おかげでこっちは面倒事増えたんだが?」

「……それしか選びようがなかったものを選んでも、それを自分の選択とは言わないだろう?」

 

そうか、だからなにも言わなかったのか。実にこいつらしい、周囲の期待に沿った回答だ。周囲に散々言ってたからな。『自分のことだから、ちゃんと自分で考えなきゃならない』と。その当の本人が自分の選択ではなく、状況からの選択だったのだ。

 

「……そーかよ。本当に不憫な奴だな、お前」

 

その言葉に葉山は肩を竦める。

 

「面と向かって同情されたのは初めてだな」

「みんなお前のことは恵まれてると思うだろうからな。持つ者には持つ者なりの苦しみがあんだろ」

 

気持ちがわかる、と言ったら嘘になるがな。

 

「やっぱり、オレは君が嫌いだ。でもそれはあくまでオレの感情だ。君はオレをどう思ってるんだ?」

 

なんだこいつ藪から棒に。海老名さんが聞いたら確実に勘違いするセリフを本人が近くにいるこの現状で言わないでもらえます?というか改めて嫌いっていう意味ある?

 

「なんだ突然」

「興味本位さ」

「どーでもいい。所詮、友人ですらない奴のことを気にかけるほど余裕ないんでね」

「そうか」

「…でも、好きか嫌いかで言われたら嫌いだな」

「……っくく、そうか!面と向かってそう言われたのは、初めてだ!」

 

そう言いながら葉山は笑う。

 

「でも、オレは選ばない」

「…選ばないってのは、どちらも見捨てるのと同義だ。選ぶ強さが、切り捨てる覚悟がない奴の選択だ。それでも選ばないのか?」

「ああ、選ばない。それが、1番いい選択だとオレは信じてるから」

 

ああ、こいつは選ぶ強さも切り捨てる覚悟もあるのにそれでも選ばないということを選択するのか。

ならこいつは俺だけでなく、佐々木さんとも相容れない。選ばなければ、どちらも見捨てて、どちらも台無しにするということが痛いほど理解している、俺たちとは。

 

「……そーかよ。どこまでも期待に沿った回答だ」

「ああ、それがオレだ」

 

かっこよく言ってんなよちくしょう。

 

そんな感情を飲み込むためにグラスを煽った瞬間。

 

 

今までに感じたことのない悪寒を感じた。

 

 

「…んだ、これ」

「比企谷?顔色が悪いぞ?」

 

傍らにいた葉山が俺の背中に手を当てるが、悪寒は治らない。歯が震える。グラスを握る手が震えて止まらない。

 

「……まさか」

 

席を立ち、バーの扉を開く。

すると先ほどまで快晴だった空は分厚い黒い雲に覆われていた。そして本部の方には無数の黒い空間。

 

「な、なんだ……あれ」

「隼人くん、ヒッキーどしたの……って、なにあれ!」

「なになに?」

「え?」

「うわぁ、空暗!」

「なんだこれ」

 

後ろからゾロゾロ出てくるが、そんなことを気にかける余裕はない。

このゲートの数、今まで見たことない数だ。

つまりこれは、始まったと見ていいのだろう。

 

「ひ、ヒッキー…」

「比企谷くん…」

 

雪ノ下と由比ヶ浜が不安そうに俺に声をかけてくる。

 

「お前ら、今すぐ避難しろ。俺はやることあっから」

 

荷物を頼む、と付け加え、不安そうにする二人に極力落ち着いた声でそう言って、一人走り出した。

 

 

 

俺にとって最期になるかもしれない闘いが、始まってしまった。

 




大規模侵攻、次回から。

横山さんが学校バックれたのは、デバイスを作ってたからです。無事完成したとか(睡眠時間を犠牲に)
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