目が腐ったボーダー隊員 ー改稿版ー   作:職業病

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大規模侵攻です。
新トリガーはまだ先。


60話です。


8章 大規模侵攻編
60話 暗雲は、彼らの心にも立ち込める。


四年前を彷彿とさせるような空だった。

 

先ほどまで晴れ渡っていたというのに、一瞬で分厚く黒い雲が三門市を覆っていた。こんなに天気がいきなり変わると、最近見た機械で天候を支配する映画を思い出しちゃうレベル。天変地異でも始まるのか。

 

本部に向かって走る。トリガーはまだ起動していない。トリオンを少しでも温存するためだ。しかし制服だと走りにくいな。生身の身体能力じゃ建物の上なんか登れないし、そのあとフリーランニングすることもできない。それにさっきまでいたバーと警戒区域は地味に遠い。この距離を生身で走って行くのはちょっときつい。それにマラソン大会で少なからず体力を消耗してる。さっさとトリガー使った方が良さそうだ。

 

「トリガー起動(オン)

 

今まで使っていたトリガーを起動し、いつもの隊服になる。

トリオン体の身体能力は生身よりもはるかに上であるため、電柱を使って建物の上に上がる。グラスホッパーを使えば楽だが、トリオンは温存したい。

建物の上に上がると、そこからフリーランニングで警戒区域に向かう。入隊して、二宮さんに訓練をつけてもらってる合間の時間で、暗殺教室に憧れてフリーランニングの練習をしていた黒歴史を持つ俺だからできる。失敗して仮想空間の建物から転がり落ちたとこを二宮さんに見られ頭吹っ飛ばされたのもいい思い出だ。……いや、いいのかな?うん、考えるのやめよう。悲しくなってくる。

 

しかし実際混雑している道を通るよりフリーランニングで上から行った方がはるかに早い。そこそこ遠いから最短距離で行っても10分はかかりそうだ。

 

『敵は西・北西・東・南・南西方面に戦力を分散!このままでは警戒区域を突破します!』

 

本部からの通信で状況を確認する。戦力を分散してこちらの戦力も分散させようといったところだろうか。

 

『トラップを起動せい。多少は足止めになる。だが早く部隊が着かなければ基地のトリオンが空っけつになるぞ』

『西と北西の方角に向かっていない敵はトラップで対処。現場の隊員はトラップで足止めされている敵の排除に回れ』

『本部長!勢力の大きい西と北西はどうするのですか!』

『問題ない。そちらにはすでに迅と天羽が向かっている』

 

あの2人ならどんな数でもトリオン兵程度なら十分対処できるだろう。天羽が相手にしたとこは多分更地になるけど。天羽の黒トリガー、一回しか見たことないけど恐ろしい威力だった。あれの相手はどんだけ金積まれてもしたくない。

 

そうこうしているうちに現場の隊員が続々と集まってトリオン兵の排除に当たっているようだ。これなら俺仕事しなくてもいいんじゃないかな?ダメか?ダメか。

 

ピピ

 

通信が入る音がしたため、回線を開く。

 

『よーすハッチ』

「横山か」

『そー。絶賛寝不足でハッチみたいな目になってる横山でーす』

「おい、一言多いぞ」

『今どこよ』

 

シカトか。こいつ俺の扱い酷くない?いつもか。

 

「まだ警戒区域の外。今警戒区域に向かってる途中だ」

『ん、みたいね。今レーダーでハッチの場所検知したよ。南東の方角ね』

「どうすればいい」

『とりあえずそのまま警戒区域に向かって。今は現着した部隊がトリオン兵抑えてるけど、これは多分まだ前哨戦よ。どこでどうなるかまだわからないからハッチはトリオン温存しながら警戒区域に向かって。それで近くに戦闘してる部隊があったらそこに加勢する。現時点ではそれでいいわ』

「了解。……というかお前今どこにいんだ?」

 

作戦室にいるにしては周囲がやたらざわついている。A級の作戦室はB級と比べて広いが、それでもそんなたくさん入るわけではない。加えてこんな事態の時に他の作戦室で油売ってるバカはいないだろう。

 

『通信室よ。零番隊って作戦室ないからここで色々やるの。手が空いてる時は他の人のサポートもしやすいしね』

 

通信室か。ならこれだけざわついてるのが聞こえるのもわかる。

…………嫌な予感するな。伝えるべきなのか。

 

『とはいってもまだ零番隊として出動命令は出てないから、零番隊用のトリガー使っちゃダメだからね』

 

……仕事中だし、そういう指令なら仕方ないか。独断で変えられるものでもなさそうだし。横山の言葉を聞きながらそう考えた。

 

「使わずに済むのが1番なんだがな。そしてもう帰りたいし」

『はいはい冗談言う余裕があるなら大丈夫ね』

 

いや冗談じゃないんだけど……帰れるなら帰りたいんだけどマジで。だって死ぬかもしれないんだよ?

 

俺も、お前も。

 

『とにかく早く向かってね』

「わーってるよ」

『……ハッチ』

「ん?」

『……死なないでね』

「……ああ。お前もな」

 

それだけ言って通信は切れた。

燻る不安をかき消すように、俺は床を蹴った。

 

 

本部から南の方向

警戒区域内

 

そこでは3人の少女がトリオン兵を相手にしていた。

振り下ろされるモールモッドの鎌を黒髪ショートカットの少女がブレードで受け止める。

 

「玲!」

「まかせて!」

 

その掛け声と共に儚げな雰囲気の少女はトリオンの弾丸でモールモッドの口の装甲を破る。

 

「茜ちゃん!」

「はい!」

 

ツインテールにした少女が、破壊された装甲の間を通してモールモッドの目を破壊し、モールモッドを沈黙させた。

 

「……よっし、終わり!」

「お疲れ様、2人とも」

『お疲れ様です!』

 

少女達はB級11位部隊の那須隊。ボーダーでも珍しいガールズチームだ。

ちょうど防衛任務の時間帯であったため、いち早く現場に現着できた。そのおかげで他よりも少しだけ早くトリオン兵を殲滅させることができた。尤も、南方向に向かうトリオン兵の数が他と比べて少しだけ少なかったのも要因ではあるが。

 

「小夜ちゃん、他に近くに敵影はない?」

『はい。レーダーに反応はありません』

「ありがとう。くまちゃん、茜ちゃん、他の部隊の加勢に向かいましょう」

「OK」

『了解です!』

「じゃあ1番近い南西方向に……」

 

そう言いかけたところで、何かを砕くような音がする。

その音は、先ほど倒したバムスターの腹部から聞こえた。そこを見ると、バムスターの装甲を破って中から見たことのないトリオン兵が現れた。

見たところ、他のどのトリオン兵よりも小さく二足歩行だ。レーダーに先ほどまで感知されなかったということは、恐らくこのトリオン兵を抱えていたバムスターが停止して一定時間経ったら起動するようにできていたのだろう。

 

『な、なんですかあれ』

「トリオン兵……よね。新型?」

「そうね。でも小さいからって油断しちゃダメよ。少し近いから距離を取りましょう」

 

新型のサイズを見て、少しだけ油断しそうになったが、那須は師匠である比企谷の教えである『知らない相手は常に最大限警戒して、どんな動きをされてもある程度対処できるように気を張れ。得体がしれなければ、とりあえず距離を取れ。それで即死する可能性は減る』という言葉を思い出し、チームメイトにもそうするように促す。

その言葉でチームメイトの熊谷と日浦は気を引き締め、少しずつ下がろうとする。

 

だが次の瞬間、新型トリオン兵は床を蹴り、那須の目の前まで迫ってきていた。想像を遥かに凌駕する速度で、那須は反応が遅れる。

 

「玲!」

 

普段から近接戦闘がメインであった熊谷は咄嗟に反応が遅れた那須の前に立ちはだかり、新型トリオン兵の剛腕を弧月で防いだ。

だがあまりの勢いの強さと咄嗟のことで体勢が不十分であったことから、その勢いのまま熊谷は剛腕に吹き飛ばされ、壁や家を貫通し、数十メートル吹き飛ばされてようやく止まった。

 

「くまちゃん!」

『だ、大丈夫よ』

 

幸い、剛腕はブレードで完全に防げていたためトリオン体に損傷はなかった。だがあまりの衝撃の強さから、トリオン体であってもすぐに立ち上がることは熊谷にはできなかった。

 

「くっ!」

「落ち着いて茜ちゃん!敵の狙いは分断よ!くまちゃんが戻るまで攻撃しないで逃げることに専念して!」

「っ!はい!」

 

那須の声に応え、狙撃を中断した日浦は熊谷のフォローに回るために熊谷が吹き飛ばされた方向へ走り始めた。

新型トリオン兵はそれを確認すると日浦の方へ向かおうとするが、突如飛んできたトリオンの弾丸がそれを許さなかった。

 

「…硬い!」

 

バイパーを放ってとりあえず追跡は一時的に中断させたが、新型トリオン兵の装甲はほとんど傷ついてない。頭の装甲はすこし凹んだ程度で、防御に使っていた腕の装甲はほぼ無傷だ。

 

(バイパーの火力じゃ、あの装甲は壊せない。でも合成弾を使うスキはない。とりあえずくまちゃんが戻るまで防御に徹させるしかない)

 

那須はそう考え、バイパーで全方位から攻撃を再開する。

それにより新型トリオン兵は攻撃するようなそぶりは見せず防御に徹しているが相変わらず装甲は破れない。

 

『ごめん玲!あと1分で戻る!』

「了解」

 

日浦のフォローのおかげか、熊谷は予想よりもかなり早く立ち直ったようだ。

 

(あと1分なら……)

 

そう考え、一瞬気が緩んだ。その隙を新型トリオン兵は見逃さなかった。

もともと近接戦闘など専門外である那須は弾の速度ならともかく敵そのものの速度が速い相手への対応は経験が少なく、現実での肉体の虚弱さも相まって攻撃手への対応が他の射手と比べて悪い。比企谷という師匠からの教えや、チームメイトの熊谷との練習試合等を行うことでだいぶ良くはなったが、それでも専門外のことであることに変わりはない。加えて今回は未知のトリオン兵。対応が遅れてしまうのも仕方ないことである。

 

「しまっ…」

 

わずかな時間で距離を詰められ、その大きな腕に掴まれ壁に叩きつけられる。

 

「かはっ…」

「玲!」

「那須先輩!」

 

トリオン体は基本痛みをあまり感じないが、衝撃を消すことはできない。強烈な衝撃により肺の空気が一気に押し出された。

その衝撃で一時的に意識が飛びかけ、行動ができなくなる。そうしてる間に新型トリオン兵の胸部装甲が開き、虫の足のようなものが那須を捕らえようと迫る。

 

「っ!」

「玲!」

「那須先輩!」

 

熊谷と日浦が視界に入ったが、熊谷の旋空では届かないし、日浦が今から狙撃しても間に合わないし、そもそも装甲の厚さからアイビスでも弾かれるだろう。バイパーやアステロイド、メテオラでも押し返さないのは明白だ。

 

(……ダメだ)

 

迫る触手をどこか他人事のように見つめていた。これがどんな効果を持つのかわからないが、見た所捕縛用だろう。

このままネイバーの世界に連れ去られるのかもしれない。そうなったらもう戻れないかもしれない。

 

そんなことを考えていると、通信が入る時の独特のノイズが走る。

 

『すぐにフルガードしろ』

 

突如入った内部通信の言葉に一瞬理解が遅れたが、すぐにフルガードで自分の目の前を覆った。

 

徹甲弾(ギムレット)

 

突如上から降ってきた徹甲弾にも反応した新型トリオン兵は装甲の厚い腕でガードするが、貫通力の高いギムレットを防ぎきることができず腕にヒビが入る。貫通はできないが、機能を落とすのには十分だろう。ガードをすり抜けてきた徹甲弾には足を貫かれ、バランスが崩れる。その際、那須を拘束していた腕にも一発徹甲弾が当たり、拘束する力が緩んだ。

その隙を見逃さず、那須はメテオラでトリオン兵を攻撃。衝撃でのけぞった隙を突いて脱出した。

 

「なんでいきなり新型と当たるんだよ……」

 

死んだ魚のように無気力な目をし、特徴的なアホ毛を持つ少年が脱出した那須の傍らに立っていた。

 

それは那須の師匠であり、想い人でもある比企谷八幡だった。

 

 

戦場についたらいきなり強い新型トリオン兵と出くわしてしまった。いや自分から行ったわけじゃないんだが、横山から救援信号が出ていると言われその方向に行ったら新型が居たのだ。しかも視界に入った時には那須が押さえつけられ、さらに虫の足みたいな触手で捕らえようとしてた。それなんてエロゲ?プレイがハード過ぎるのでちょっと遠慮したいです。

 

「無事か?」

「うん、ありがとう」

 

那須も見た所特に負傷はしていない。強がりではなさそうだ。

 

「本部、こちら比企谷。現在、那須隊と共に新型トリオン兵と接触、交戦中。新型は二足歩行で他のトリオン兵と比べて小型であるが、戦闘能力ははるかに高い。また、隊員を捕縛しようとする行動が確認できた。それがなにを意味するのかはわからないが、各員、警戒するよう通達お願いします」

『新型…?さらに隊員を捕縛…だと?了解した。情報提供感謝する。各員に通達する』

「ども」

 

そこで通信は切れた。

……さて、このうさぎどうするか。さっきの感じから多分俺でも下手に動けばやられかねないくらい強いのはわかる。那須隊が全員いるから慎重にやれば多分問題はない。だがトリオンはあまり消費したくないからできるだけ早く始末したいとこだ。

 

「……まず耳を落とす。足ぶち抜いたから機動力落ちてるし、頭の装甲にもヒビ入ってる。そこから崩すぞ」

「なんで耳なの?」

「あれ、多分レーダーだ。レーダー落とせば感度も下がるだろ」

「ちょ、なんであんた耳がレーダーだってわかってるの?」

「さっきの徹甲弾、完全に死角から打ったのに反応された。トリオン兵は基本視界に入らないものはトリオン感知のレーダーに感知されたものか音にしか反応しない。内部にレーダーが搭載されてるのかもしんないが、近接戦闘メインで高い感度を求められるタイプなら外側にレーダーつけて感度少しでも上げた方がいい。んで、それっぽいのはあの耳だけ。違っても耳落としゃ音で反応されることも少なくなるからとりあえず耳だな」

「……あんたって、やっぱすごいのね」

「……いや、たまたまだから」

「たまたまでそこまでわかんないわよ普通」

 

いやいや、俺なんかただの一般人だよ?サイドエフェクトなかったらただの目も性根も腐った引きこもりがちなオタク少年だよ?あれ、なんか自分で言ってて悲しくなってきた。

 

「まぁ俺のノーマル具合はいいとして」

「どこがノーマルよ」

 

いやノーマルだろ。人をアブノーマルみたいに言わないで?

 

「熊谷、前衛を頼む。極力俺と那須でフォローするから」

「……了解、任せて」

「那須、お前は熊谷のフォローをしつつ頭の装甲のヒビ狙って攻撃してくれ」

「わかったわ」

「日浦、俺と那須が装甲剥ぐから、弱点晒されたらそこで狙撃だ。お前の一発で決める。それまで待機。タイミング見逃すなよ」

『は、はい!』

「俺は全員のフォローする。好きに動け。面倒なことに敵が多い。さっさとバラして次行くぞ。動き見てから作戦立てるから」

『了解!』

 

嫌な予感がする。早急に始末しないといけない。そんな予感が俺の中で燻っていた。

 

ーーー

 

「うお!」

「比企谷!前に出過ぎよ!」

「わり…」

 

ヒビが入った剛腕が目の前を通り過ぎる。その際凄まじい風圧が俺を襲った。風圧でこれかよ。たまんねぇなマジで。

しかし、頭の装甲ヒビ入ってるのに硬いな。これはアステロイド集中砲火でやっと崩せるレベルかな?それとも徹甲弾もう一発?

 

「ほんっとに硬いわね…ブレードでも傷が浅いわ」

「弾丸じゃほぼ無傷だしね…」

「あの硬さじゃアイビスでも弾かれんな」

『ど、どうするんですか?』

「………」

 

どうすると言われても、目ん玉ぶち抜くしか言えないんだよなこれ。とりあえずバイパーで片耳潰したらその方向の対応が少し遅れるようになったから多分耳がレーダーなのは確実だ。

となると……

 

「よし、今から作戦伝える」

「え、もうできたの?」

「ちょいとリスキーだけどな。まぁなんとかなるだろ」

『だ、大丈夫なんですか?』

「ちょっと。俺に対する信頼0なの?一応隊長やってんのよ俺」

 

日浦からの俺の評価が思っていた以上に下で泣きそう。多分小町からダメな話聞かされてたからだろうな……。

 

「那須と熊谷で動きを少しだけ止めろ。その隙に頭の装甲を俺が砕く。砕けたら熊谷と那須で同時に両サイドから攻撃。ガードが外れた瞬間日浦が狙撃で弱点を潰す。あ、狙撃はイーグレットな。アイビスだと遅くて防がれるかもしれんから」

『で、でもイーグレットの火力で大丈夫ですか?』

「トリオン兵の弱点の強度はどの種類でも同じだ。うまくぶち抜いてくれ。お膳立ては頑張るから。那須と熊谷が」

「そこは『お膳立てはしてやるから』じゃないの?しかも他力本願だし」

「いや失敗しないとも言い切れないじゃん……未知の相手なんだし」

「あんたどーでもいいとこで弱気になるわよね」

「ふふ、比企谷くんらしいじゃない」

 

なんで戦場でしかも敵前でこんなのほほんとしてんの?いや無駄に緊張するよりはいいけど。

でもそろそろ動き出すだろう。というかダメージ負って慎重に行動するようになるトリオン兵とかなに。今時のAI進化しすぎじゃない?いやそもそもトリオン兵ってAIなのか?うん、どうでもいいな。

 

そんな無駄な思考を停止させるかのようにトリオン兵は突っ込んで来た。

 

「熊谷!」

「簡単に言ってくれるわね!」

 

俺を狙って横に振り回された剛腕を熊谷が俺の前に出て、さらに弧月で押し上げることにより軌道を逸らした。片足が削られてるトリオン兵はその勢いを殺しきれず少しだけ体勢が崩れる。

その隙に俺と那須は両側面に飛び

 

『アステロイド!』

 

頭の装甲のヒビが入った部分に集中砲火を浴びせる。するとさすがにヒビが入って脆くなってたのか、弱点である目が露わになった。

 

『装甲が剥がれた!』

「まだ撃つなよ。ガードが外れてない」

 

そう言って俺は二つのトリオンキューブを出現させ、合成弾の合成にかかる。この合成には4秒くらいかかるためその間無防備になる。そしてその隙を当然ながらトリオン兵は見逃さない。

剛腕が振り下ろされる。だが熊谷が再び俺の前に飛び出した。

 

「くっ!」

 

まるで金属を殴るかのように重い音が響いた。

 

「うぁぁ!」

 

弾かれそうになったが、どうにか熊谷は腕の軌道を逸らすことに成功した。

そしてその瞬間、俺は合成弾が完成した。

 

「コブラ」

 

貫通力を増した変化弾を放ちトリオン兵に向かって撃つ。トリオン兵は学習しているのか、正面から受けず、できるだけ回避に徹して露わになった弱点は腕でカバーして防いだ。さすがにあの腕をぶち抜く火力はコブラにはない。

 

だがその瞬間、再び両側面に影が現れる。

 

影は那須と熊谷であり、2人は同時に攻撃を繰り出した。

 

「アステロイド!」

「旋空!」

 

2人の攻撃を防ぐためにトリオン兵は腕を攻撃される両側面に広げた。ブレードすら防ぎきる装甲の厚さゆえに2人の攻撃は両腕に防がれた。

 

そしてその瞬間に残っていた耳が消え、両肩の装甲と装甲の隙間に弾丸が突き刺さる。わざと外したコブラを戻って当たるように軌道を設定したのだ。

それにより完全にガードが外れ、一瞬防御をすることができなくなった。

 

「日浦!」

『はい!』

 

日浦が放った狙撃が的確に弱点の目に突き刺さった。

そして念のためとでも言うように那須がバイパーでさらに弱点の目に追撃を加え、結果、目標の新型トリオン兵は完全に沈黙した。

 

ーーー

 

「目標沈黙」

「ふー……とりあえず無事倒せた」

 

よかったーこれで誰かベイルアウトしたりしたら俺も自分の無能さに悲しくなって一緒にベイルアウトしちゃうとこだった。

 

「どうやら嵐山隊と風間隊も倒したみたいね」

「いろんなとこで新型出てんな……しかも捕獲用みたいだし」

「捕獲は、大型の役目じゃないんですか?」

「詳しいことはわからんが、多分この性能の高さからしてこいつはトリガー使いを捕獲するためのトリオン兵じゃねーかな。いや、予想でしかないんだけどさ」

「……そうね、トリガー使いを捕獲するためならこれだけの性能があっても…」

「まぁこいつがどんな役目があるかは考えなくていいだろ。とりあえず捕獲用ってのはわかったし」

『そうですよね!とりあえず倒せたんだし!』

「ふふ、茜ちゃん。お疲れ様」

『いえ!先輩方も!』

「とりあえず、お前らはB級合同部隊に合流しとけ。そういう指令来てるから」

「合同部隊?」

「新型相手だと、A級でも単独で挑めば喰われかねん。それに人型ネイバーまで来たらいよいよA級でも少数じゃ対処できん。だから戦力を失わないためにもB級は合同部隊を組んで新型を各個撃破するんだとさ」

 

妥当な判断だろう。ここで戦力を失えば今後のボーダーの活動が厳しくなる。戦力はそう簡単には育たないのだ。

 

「そうね、じゃあ私たちは指令通りB級合同部隊に合流するね」

「ん、了解」

「しっかりやりなさいよ」

『頑張ってくださいね!』

「…まぁ善処するよ」

「……ねぇ比企谷」

 

突然改まったような態度になる熊谷。なんだよ、なんも変なとこないぞ俺。多分

 

「佐々木さんは?」

 

その言葉に若干息が詰まる。

 

佐々木さん。

 

あの二宮さんに危険宣告され、横山が参戦を決心した日以来、俺は佐々木さんに会っていない。会わなかった、というより、会えなかった。なぜかはわからない。ただ、なぜか会いづらかった。わからない。なぜなのか考え続けたのに答えはでない。横山に相談することもできず、ズルズル引きずりここまで来てしまったのだ。

 

「……わかんね」

「………」

 

俺の言葉に熊谷はなにかの事情があるのを察したのか、それ以上言葉を出そうとしてこない。そもそも那須は知ってるからなにも聞いてこない。

 

「……そ。ならいいわ」

「無理、しないでね」

「……ん、悪いな」

 

そう言って那須達は合流に向かった。

那須達が去ったのを確認して俺は横山に通信を入れた。こうなってしまった以上、黙ってるわけにもいかない。

 

「……横山」

『ん?どしたん』

「……佐々木さん、今どうしてる?」

『避難誘導してるC級のフォローに向かってる。どーもそっちにトリオン兵多いみたいだから』

「…そうか」

『どしたん、いきなり』

「……いやさ、俺、二宮さんに佐々木さんの戦い方は危険だって言われたんだ。それに俺たちの死刑宣告。……佐々木さん、大丈夫だよな」

『………』

 

横山は答えなかった。いや、答えられなかったのかもしれない。

なにしろ昔の佐々木さんの戦い方を1番最初に指摘したのは横山だからだ。心当たりは、あるのだろう。

 

『わからない。でも心配なのも確かだから、一度サッサンに通信入れてみるね。可能なら誰かにヘルプ行ってもらうし、それこそ手が空いたらハッチが向かってあげて』

「……ん、了解」

 

そう言って通信を切った。

 

「…………」

 

『このままだと、お前達全員死ぬ』

 

迅さんの言葉がじわじわと不安を煽る。思考がまとまらない。どことなく嫌な感じがずっとする。

 

「ああ、クソ」

 

頭をガシガシとかいて顔を叩き思考を無理矢理にでも入れ替える。ここはすでに戦場だ。ぼんやりしてる暇はない。

ちらっと先ほど倒したトリオン兵の死骸を見て、そしてトリオンキューブを生成し、トリオン兵の死骸から人知れず湧き出てきていたあの虫みたいなトリオン兵をバイパーで破壊してたまたま近くに来ていた出水たちと合流すべく走り出した。

 

 

「……気づかれたか?」

 

遠征艇内部

 

角をつけた武官を思わせる男が映像の途切れた画面を眺めながらそう呟く。

 

「はぁ?たまたまだろ?一応ラッドでもラービットのはらから湧き出て来りゃ音は出んだ。その音に猿がたまたま気づいただけだろ」

 

男性にしては長髪であり、片目が黒く染まっている。発言は非常に口が悪く、明らかに相手を見下したものだった。

 

「ふむ、そうかも知れんが、だがあの複数のラッドをほんの一瞬だけしか見ていないのに的確に弾丸を当てて潰す腕前はなかなかだな。俺の雷の羽(ケリードーン)とぜひ撃ち合ってみたいものだ」

 

武官と思われる男と良く似た顔立ちの男が首を鳴らしながらそう言い、好戦的な笑みを浮かべた。

 

「……玄界(ミデン)の兵士にも腕が立つ者がいるようですね。少なくとも射撃の腕は確かなようです」

 

整った顔立ちの他の者と比べて若い男がそう分析する。

 

「ほほう、玄界の進化も目覚ましいようですな。兵士の質がどんどん上がっている。ぜひ、連れて帰り仲間としたいですが、非常に困難でしょうな」

 

他のメンバーと比べて一際歳を重ねていることがわかり、唯一角をつけていない男性が先ほど映された少年を高く評価する。だが歳を重ねてなお、この中で最も強い気配を放っていた。

 

「先ほど映された少年、ニムラから報告を受けていた少年だと思われます。外見的特徴がほぼ一致するのと同時にトリオンもなかなか大きい。まず間違いないかと」

 

ショートカットの女性がそう分析する。

 

「ニムラの報告だと、『この少年は居たら面倒』とのことだったな、ミラ」

「はい」

「……そうか。ニムラの言葉は仕事上のことに関しては無視しづらいな」

「ああ?んなことほっといてさっさとぶっ殺しゃいいんだよ!」

「口を慎めエネドラ」

「あ?てめーこそ誰に口聞いてんだカス」

 

まさに一触即発な雰囲気の中、遠征艇に通信が入る。

 

『どーもーみなさんお元気ですかー?長旅お疲れ様でーす』

 

そんな雰囲気を嘲笑うかのような声が遠征艇に響く。

 

「おやニムラ殿。どうされたのですかな?こちらに通信を入れて来るなど珍しい」

『いやーみなさんが随分派手に、しかも予定よりも早く始めてらっしゃいますからぁ、ちょーっと現状報告だけでもしておこうかなーっと』

「殊勝な心がけですな」

『でしょう?僕もそうだと思ったんですよー』

「無駄口を叩いていないで報告をなさい、ニムラ」

『お堅いなぁミラさんはぁ。まーそんなとこも魅力的ですけどねぇ』

「…思ってもないことを言う暇はないでしょう?」

『はいはーい。デバイスは配置しました。みなさんが突入する瞬間に合わせてデバイスを起動させますので、突入するときは言ってください』

「ニムラ、数は足りたのか?」

『そーゆーわかってることを聞くのはよくないと思いますよハイレイン隊長〜。隊長が資材ケチったせいで足りるわけないじゃないですかぁ』

「………」

『まぁ一部の地域には配置できましたよ。あとみなさん来るの聞いてたのよりだいぶ早いせいでデバイス起動にも少し時間かかりますからね』

「はぁ?おいてめーちゃんと仕事してたのかオイ!」

『うるさいなぁ。予定では二日後だったじゃないですか。それに合わせてやってたんだから予定通り行かなくても当たり前じゃないですか〜。そんなこともわかんないんですかぁ?トリガーホーンに頭やられましたかぁ?』

「んだとてめぇ…」

「エネドラ」

「………ケッ」

「ニムラ、お前もだ」

『元はと言えば全部あなたのせいですけどねハイレイン隊長』

「……突入のタイミングはこちらで指示する。それまで待機していろ。それと、ブラックアイの方はどうだ?」

『誤魔化しましたねぇ。そちらも色々見やすく、そしてわかりにくいとこに配置しておきましたよ。映像は少し粗いかもしれませんが、資材ケチった隊長が悪いんですからね』

「……わかった。時間まで待機していろ」

『了解ですよ』

 

そう言って通信は切れた。

 

「隊長、ニムラの態度を改めさせた方がいいかと」

「言いたいことはわかるが、不可能だろう。あいつは何者にも染まらない。なにをしようとあいつは変わらない。なにかは知らないが、ニムラはあいつの目的の為にやることをやっているだけだ」

「しかし…」

「ならミラ、ニムラを変えることがお前にはできるか?」

「…………」

「あいつは拷問されても変わらんよ。仕事はするのだ。ふざけた態度は多めに見る」

「確かにニムラは態度こそふざけているが、仕事はしっかりしているからなぁ。実力も、単純なトリガーの扱いもよく洗練されている。なにより作戦を立てるのに当たり、相手が確実に嫌がることをするからハズレることがない」

「それについてはあいつの性格とサイドエフェクトの影響だろうな」

「あーあ、なんであの馬鹿の話なんぞしなきゃなんねぇんだ。んなことよりさっさと俺を出せハイレイン」

「慌てるな。お前たちの出番はすぐだ。まずは玄界の戦力の底を見てからでないとな」

 

そう言って武官、ハイレインは侵略される街を見て一人嗤うのだった。

 

 

ーーー

 

 

「あーあー、面倒だなぁ」

 

人々が避難する方向とは真逆の方向に向かって一人歩く青年がいた。

 

「隊長さんが機材もっとくれれば、もーっと簡単に目的達成できただろうに」

 

黒髪の青年はそう呟きながら人々の波を掻き分けてある方向へと向かう。その方向は警戒区域がある方だった。

 

「あの子がいると計画に色々支障が出そうだし、隊長は思考回路根暗だし、チームは脳筋ばっかだし、頼れるのはヴィザおじいちゃんだけだなぁ」

 

その青年は手でなにかのデバイスをくるくる回しながらなお歩き続ける。

 

「あー、あとこの前会った人ともなんか縁がありそうだなぁ。まぁもし会えたらこの前のお礼として」

 

 

 

平和的解決(一方的虐殺)してあげようかなぁ」

 

 

 

そう言って人の波から抜け出した青年は酷く歪んだ笑みを浮かべ、警戒区域へと消えていった。

 




トリガーセット(通常時)
メイン
バイパー
アステロイド
シールド
グラスホッパー

サブ
バイパー
アステロイド
メテオラ
シールド

不穏な空気しかない。
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