目が腐ったボーダー隊員 ー改稿版ー   作:職業病

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重い話が続いています。作者が根暗思考故か展開も根暗になっていきます。悪役は根暗通り越して陰湿です。
そして諸事情により感想の返信がまだできていませんが、きちんと読んでいます。非常に励みになりますので今回の話の感想とまとめて返信させていただきます。申し訳ありません。


66話です。


66話 『未来』とは、常に変化するものである。

ある男がいた。

 

その男は昔からどこか人とズレていた。なにがズレているかと聞かれれば感性やらセンスやら色々と言葉では表しづらいものがズレていた。幼少期、少年期、青年期、成人してからも周囲とのズレを感じ続けていた。そしてそのズレは、その男を孤独にした。

 

しかしこの男は常人とは違って孤独でいることに対してなんの感情も湧いてこなかった。別段両親からの扱いが酷かったわけでもない。なのに彼は生まれた時から感情が乏しかった。つまり、先天的に感情が乏しかったのだ。

その感情の乏しさの代わりに、と言っていいものなのかはいささか疑問ではあるが、男は天才だった。頭脳も、そして肉体も、あらゆることがすぐにできた。努力をしたことがない、というわけではないが、常人と比べてはるかに必要な努力量は少ない。その才能が男をさらに孤独にした。

その才能が認められ、男が就いた職場は諜報員だった。そしてそこであらゆる人間の闇を見た。いつしか人間に対してこう考えるようになった。

 

 

「人間は、なにも残せない」

 

 

それは彼が人間に対して、そして自らに失望した瞬間だった。同じ人間である以上、自分も見てきた人間と同じ闇を抱えている。そんな自分には、なにも残すことができないのだと考えたのだ。

 

だがそんな男にある転機が訪れる。

 

一人の女性と仕事で関わりを持った。その女性は快活で、男と違い感情が忙しなく変化する明るい人だった。男を闇とするなら、その女性は間違いなく光だろう。

その女性とは仕事をする上での付き合いだったが、どんな話をしても全く表情が動かない男を普通の人間は気味が悪いと思うのだが、その女性も普通ではなかった。男に対してなぜか興味を持ったのだ。

そのため女性は男との仕事が終わってからも時間を見つけては男と会おうとし、会うたびになんとかして笑わせてやろうとした。

一方男は女性に対して当初は興味がなかったが、ここまでしつこく自分に関わろうとする女性を不思議に思った。邪険にしているつもりはないが、世間一般では自分のような態度は素っ気なく感じられ、他人からすればいい感情を抱かれるような態度ではないと知っているからだ。そして男は聞いた。

 

「なぜ自分にここまで関わろうとするのか」、と。

 

それを聞くと女性は笑って答えた。

 

「だって、面白そうだったから」

 

まるで当たり前かのように女性はそう答えた。

それを聞いた男は数瞬ぽかんとしていたが、吹き出すように笑った。その笑顔は、男の人生において始めてといってもいいほど自然に出たものであり、そして人生で最もいい笑顔だった。

 

それからというもの、女性と男の付き合いは続いた。男は女性との付き合いを次第に快く思うようになり、彼女と会うのが楽しみになっていった。対する女性は男を次第に男性として見るようになり、気づけば交際するにまで至っていた。さらに月日は流れ、二人は遂に結婚した。

結婚して数年後、二人は子供を授かった。そして生まれた我が子を抱いた男は、妻となった女性とともに笑いながら泣いた。

 

そして、人でも残せるものがあるということに気づいた。

 

そして生まれた息子の名前は二人の好きなものの漢字を使ってつけられた。

 

女性の好きなものは『珈琲』

そして、男が『好きになったもの』である、『世界』

 

 

 

 

二つの漢字を使ってつけられた息子の名は、『琲世』

 

 

 

 

男にとって、守るべき存在が増えた瞬間だった。

 

 

 

 

そしてその男ーーー有馬貴将は今、守るべき存在の一つを失い、残った存在を守るべく戦場に立つのだった。

 

***

 

警戒区域外

 

目の前に佇む黒いドロドロの塊と俺は対立していた。

そのドロドロは人の形をある程度保っているが、常に少しずつ身体を流動させいる。俺を見つけてから動きは止まったが、こいつを操っている奴(いるとするなら)は相当思考回路が外道な奴だ。動かないと見せかけて下から触手のばしてモールクローみたいにズドンとやってくる可能性だってある。横山がいればトリオン反応を辿ってそれがやられているかどうかわかるのだが、横山は今連絡が取れない。安否すらわかっていない状況だ。死の未来が出た以上、最悪の事態の可能性だってある。

だが出水に言われたように俺にできることはなにもない。横山の近くにいる人たちに横山のことは任せるしかない。

 

なにより俺の後ろには雪ノ下や由比ヶ浜達がいる。

 

俺がいなくなればあいつらを守れる存在はほかにいない。あいつらを追ってあのドロドロの核にされる、なんで可能性もなきにしもあらずだ。

結局俺がやるしかないのだ。俺自身のためにも。

そう思考を切り替え、短剣を構えた。

 

その瞬間、ドロドロは予備動作無しで身体から鋭い触手を伸ばしてきた。ある程度予想していた俺は遅れることなく回避する。回避された触手は地面に突き刺さり穴を開けた。結構な威力と斬れ味があるようだからシールドでは防ぎきれないだろう。エスクードセットしてないが、エスクードなら防げそうだ。ブレードで軌道を逸らすのもいいかもしれない。

 

そう考えたところで腕をブレードに変形させ振り下ろしてきた。下手に受けることはせず、短剣で受け流す。

 

「アステロイド」

 

近距離でアステロイドを放つ。受けた部分は穴が空くなり凹むなりで効果はあるように見えるが、それもすぐに修復されてしまう。メテオラも試してみたが、似たようなものだった。

 

「さてどうするか……」

 

ただ倒すのなら核となる部分を壊せば終わりだが、今回はそうもいかない。なにしろ核が民間人なのだ。壊すとか普通にやばい。

しかしだからといってトリオン切れを待つのも時間がかかる。ここでどうにか打開策を見つけなければならない。あれは佐々木さんの新型トリオン体と同じようなもの……。

 

「トリオン体……?」

 

トリオン体の弱点は二つ。トリオン供給器官と伝達脳だ。今トリオン供給器官は民間人となっているが伝達脳は?囚われた民間人の様子は明らかに正気ではなかった。あの状態でとても戦闘操作ができるとは思えない。つまりオートにしろリモートにしろなにかしらあれを操っている核、または存在がいるのではないだろうか。

どこにあるかはわからない。敵の性格からして民間人に引っ付いている可能性もある。核を壊した際に同時に民間人も傷つけさせるために。だが試す価値はありそうだ。

どこにその核(仮定)があるかはわからない。だがここは直感と予測で場所を見つけるしかない。まずは頭からやってみるか。こういうのは大体頭か心臓あたりに核があるって相場が決まっている。

 

そう考えドロドロが放ってくる触手を建物を盾にしながら躱し、vigilを起動させる。姿と反応、どちらも消失させた瞬間敵の動きは止まった。レーダーが内蔵されてるかはわからないが、これで完全にやつが俺を捉えることはできなくなった。

足音も極力殺しながら移動し背後を取ると俺はジャンプし、短剣を抜いて頭に突き刺そうとした。

 

その瞬間ドロドロは俺の方に的確に触手を伸ばして俺を串刺しにしようとした。

 

「っ!」

 

シールドを起動してどうにか軌道はずらせたが、シールドは貫かれた。

これでわかった。こいつはリモートだ。もしあいつがオートならこいつが俺を見つけることはできない。もしかしたら別のなにかで俺の存在を感知したのかもしれないが、多分それはないだろう。操作してる奴がいないとあんな的確に攻撃してくるわけない。

vigilは姿を消すことができて、レーダーからも消えることができる。だが、音までは消せない。菊地原のように音に強いやつには大体の場所がバレるのだ。音を殺して移動することもできるが、どんなに頑張っても菊地原レベルの聴力から逃れることは俺にはできない。それに衣摺れとかの音を消すこともできない。だから多分、音で反応されたのだろう。

 

あとは……俺と同じタイプの可能性か。自分で言うのはアレだが、俺のサイドエフェクトはかなり珍しい部類になる。汎用性はともかく希少性で言えば間違いなく迅さんと同レベルの希少度だ。俺と同じサイドエフェクトの持ち主がでてくることはほぼない。

だが『ほぼ』であり可能性はゼロではない。サイドエフェクトというものは主に人間の能力が強化されたものだ。俺の超直感が存在している以上、他の人が超直感を発現しないとは言い切れない。

 

「まぁ、さすがにないと思うけどな」

 

というか敵に俺と同じ能力持ちがいたら割としんどい。自分で言うのはあれだがこの能力は敵にいたらかなりうざいだろうから。

 

敵の分析をある程度済ませた。あとはどうするかだ。あるかどうかわからないが核を探して叩いてみるしかないだろう。というかあんだけの性能を持つやつだ。核がないはすがない。黒トリガーのトリオン体にも伝達脳とトリオン供給器官があるのだから、モブであるあのドロドロにないわけない。少なくとも供給器官はある。

ドロドロの強度はない。アステロイドでも傷がつけられるのだ。中の人がどこにいるかはわかる。ならメテオラとアステロイドで表面削って中の人を引っ張り出すこともできるだろう。

 

あまり時間はない。ならばさっさとやるしかあるまい。

 

そう考えて俺は走り始めた。俺の動きに反応して敵は腕をブレードに変化させて振り下ろしてきた。それを俺は横っ飛びでかわし、vigilを起動。民家を素早く登り速攻で真上からメテオラを放つ。表面がある程度削れたのを見てさらにアステロイドで中の人周辺を削り倒す。中の人がある程度露わになったところで敵に飛びつく。そして中の人を掴むと無理やり引っこ抜こうとした。当然敵もやられっぱなしではない。飛びついた俺の足を拘束してブレードを突き刺そうとする。

 

「おせーよ」

 

突き刺さる寸前、俺は中の人を引っ張り出すことに成功した。中の人が抜けると敵の動きは止まり、すぐに崩れた。

 

「おわっ」

 

飛びついていた敵が崩れたことで俺は地面に転がることになった。なんか今日床に叩きつけられること多くない?地べたに這いつくばってろってことなの?必要なら靴舐めくらいしますよ俺は。関係ないか?関係ないな。

無駄な思考をしながらも引き抜いた民間人に目を向ける。気を失っているようで反応はないが、呼吸はしているし外傷もなさそうだ。

 

「救護班呼ぶか……それともこのままどっかに連れて行って保護してもらうか」

 

どうするべきかわからなかった俺は本部に指示を仰ごうとした瞬間

 

「っ!」

 

民間人の胸あたりから触手が俺を貫きにかかってきた。直感で避けられたが、他の人なら即死だっただろう。

さらに同じ場所からドロドロが溢れ出てきて再び男性を取り込もうとした。またあれになるのは非常に面倒だ。

 

「バイパー」

 

ならばドロドロを吐き出してる中心を集中砲火すればどうだろうと思いバイパーで一気に攻撃を加える。

結果としてこの攻撃は成功だった。核が壊れたのか知らないが、全てのバイパーを叩き込むとドロドロの噴出は止まり、民間人は解放された。

 

「……倒した、のか?」

 

多分大丈夫だろう。嫌な気配がしない。中の人も恐らくトリオン使われただけだし。念のため本部で保護してもらおう。

そう考えて本部に連絡を入れようとすると

 

 

 

「いやぁ!すごいですねぇ!こんなあっさり倒しちゃうとわ!」

 

 

 

戦場に似つかわしくないほど明るい声が響いた。

声がした方を見るとそこには黒いコートを羽織り、フードを目深に被って顔を完全に隠したどこから見ても怪しさしかない男がいた。その男はズボンもブーツも果ては手袋までも黒で全身真っ黒だった。なにこいつ。13◯関?

 

「……お前は?」

「あ、僕ですか?すいませんが名乗るほどの名前は持ち合わせていませんねぇ。ジョン=ドゥとでも名乗っておきますかねぇ。あ、それともアラン=スミシーの方がいいですか?」

「……ふざけてんのか?」

「はい」

 

はいって……これどう答えるべきなの?というかこいつ敵だよね?どうみても怪しいよね?

……この声、どっかで聞いたことあるな。どこだ?でも敵に接触したことなんてないし……。

 

まぁいいか。

 

「まぁのんびりお話でもしましょうよぉ。働くのって嫌でしょそちらも」

「働きたくないことに関しては大いに同感だがそうもいかん。お前が敵なら尚更な」

「えぇ〜僕は敵じゃありませんよ。だってほら、僕戦う気ありませんから。やるのは基本支援と嫌がらせだけですから」

 

嫌がらせしてる時点で敵じゃねぇか。

 

「あ、嫌がらせするのはあなた方に限らずやってますけどね」

「いやなんでだよ」

「だって、僕だけ色々やらされてるのにその間他のみんなずーっと高みの見物してるんですもん。文句いってもあの根暗は聞きませんから意趣返しに嫌がらせしてなにが悪いんですか」

 

今の会話でわかった。こいつは社畜だ。かなりいいように扱われていて、それを自覚している。

そしてなにより、性格は最悪だ。さっきのやつも恐らくこいつの手によるものだ。平気で仲間を売ったり、罪のない人を手にかけるだろう。

……これ以上会話してなにかしらの情報が引き出せるとは思えん。とっととやってしまおう。

 

「それにしても、こちらの世界はすごいでうおぁ!」

 

その言葉を言い終わらないうちにバイパーで顔を狙って撃つ。ドンピシャの位置だったが、ギリギリかわされた。

 

「うるせぇ。さっさと死ね」

「ちょちょちょっと!いきなりなにするんですか!まだ会話の途中だったじゃないですか!責任者出してください!警察を呼べ!」

 

……マジでふざけてんのかこいつ。だが、なんか嫌な感じするな。というか警察?警察でどうにかなるならボーダー(俺たち)いらねぇんだよ。

 

「…………」

「あっ、話し合いましょうお茶でも、あ、コーヒー淹れましょうかネイバーブレンドまあまあタンマタンマ多分相性的にはバッチリだと思うんですよね親睦を深め合うにはちょうどいい機会フレンド申請中!ごめんなさい!謝罪はいかが⁈安いよ安いよ!」

必要(いら)ねーよ」

「ですよね!!!逃げるぞ!!!」

 

そう言って黒コートは俺に背を向けて走り出した。

……なんか調子狂うな。マジで戦闘能力ないやつなのか?いや、そんなはずない。あの嫌な気配は絶対になんか隠してる。やれるならさっさと消してしまうのがいい。そう考えて俺は黒コートを追った。

 

「うわぁ追ってきた!」

「当たり前だろ」

「過去を振り切りダッシュ!ニムダッシュ!風よりも早く!!!」

 

バイパーで割とガチで攻撃してるのに全て紙一重で避けられる。こいつの回避能力はすごい。こちらを向いてないのに全て避けるなんてこなかなかできない……というかそんなこと可能なのか?聴力に自信のある菊地原でもこんなことはできない。迅さんならあるいはって感じするが、普通ならできない。気配だけで回避できるなんて見聞色の覇気でもないと無理だ。

 

……まさかこいつ。

 

割と悪い考えが頭をよぎり本気のバイパーを放つ。すると避けきれずフードを弾いた。中から出てきた顔はいつの日か俺がすれ違いとてつもなく嫌な気配を放っていた人だった。こいつネイバーだったのか。やはり先行して潜入してる奴がいたんだ。

 

「……いやぁ、ほんとに強いなぁ。予め目をつけていた僕の目に狂いはなかったなぁ」

「……なぜ俺に目をつけた」

「言う義理がありますかぁ?」

「ねぇな。死ね」

 

そう言ってアステロイドを威力高めで設定して放った。

 

「もー!争いは嫌!」

 

顔を覆って泣き真似をする黒コート。

だがここで警戒を解かなかった俺は自分を褒め称えた。

 

「なので!」

 

凄まじい速度で伸びてきた黒い触手が俺の顔面を貫こうとし、さらには地面から生えて俺を串刺しにしようとした。

 

「っ!」

 

どうにかかわしたが、腕に少し傷を負いそこからトリオンが漏れ出した。

 

こいつ……やっぱ隠してやがったな。そんでさっきの敵もこいつが原因だ。あのドロドロは見間違いようが無い。

 

 

平和的解決(一方的虐殺)しましょ」

 

あは

 

あははははあはあははは

 

笑笑笑笑笑

笑笑

笑笑笑笑笑笑笑笑

笑笑笑笑

笑笑

嗤笑笑

嗤嗤笑嗤嗤嗤笑笑嗤嗤嗤笑笑

嗤嗤笑笑嗤嗤笑笑嗤嗤嗤嗤笑嗤嗤嗤嗤笑笑嗤

 

「……クソが」

 

悪が俺に嗤いかけてきた瞬間だった。

 

 

 

 

時は少し遡る。

 

 

 

「『射』印+『強』印」

 

『強』印によって強化された弾丸が初老の男に襲いかかる。

しかし初老の男、ヴィザはそれを難なくかわす。

 

「!」

 

遊真の驚愕の一瞬の隙を突いてヴィザは鞘から仕込み杖を引き抜き、ブレードを展開しながら高速で遊真に襲いかかった。

 

(速い……)

 

致命傷は避けられたが、レプリカをまとっていた左腕は切断されそこからトリオンが漏れ出す。レプリカは切られた左腕から抜け出し遊真の側で静止した。

 

「レイジさんが脚削ってくれてなきゃ、腕だけじゃすまなかったかな」

『さすがは国宝の使い手というわけだな』

「こりゃ余計にオサムたちのとこには行かせられんな」

「…ほう、これは珍しい。トロポイの自律トリオン兵とは……。なるほど、これで多彩で複雑な攻撃にも合点がいきました。黒トリガーとはいえ、それほどまでの種類の機能を使い分けるとなるとそれなりに処理に時間が要りますからな。それにしても……これほどの若さでここまで周到な戦いぶり、実にお見事」

「……そりゃどーも」

「後学の為にじっくりお手合わせ願いたいところですが、そうもいかない」

「……へぇ」

「もたもたしていては雛鳥に逃げられてしまう」

 

その瞬間、遊真の嘘を見抜くサイドエフェクトが反応した。

 

「……?」

 

敵の目的はC級隊員の捕獲。ならば今の言葉が真実であったならなにもおかしくはない。なのに今、遊真のサイドエフェクトは反応した。

それはつまり……

 

「……!」

 

今目の前にいる敵の目的は捕獲ではなく囮であるということだ。

 

「レプリカ、こいつも囮だ。オサムとチカを守れ」

 

だからといってこれほどの敵を放置するわけにもいかない。そこで遊真はレプリカに二人を守らせる判断をした。

 

しかしレプリカが遊真の意思を汲み取るほんの数瞬の間に別の声が発せられてその判断をかき消した。

 

「その必要はない」

 

遊真が声のした方を振り返ると、そこには死神が立っていた。

 

「君のトリガーはレプリカとの連携があって初めて真価が発揮される。二手にわかれては文字通り戦力は半減する」

 

その死神は、『白』……いや、『死』を連想させるような存在だった。

 

(この人は……)

 

遊真はその死神に見覚えがあった。いつの日か緑川をボコボコにした日、会議室にいた幹部と思われる人の一人だ。あの時はオーラも感じなかったため、戦闘員ではないのだろうと思ったが、その時の考えが愚かに思えるほど今はオーラを感じる。

 

「……ほう」

 

ヴィザもそのオーラを感じ取ったのか、糸目をわずかに開いた。ヴィザの記憶の中にもこれほどオーラを感じる存在はほぼいない。そんな存在がまさか玄界という比較的平和な世界にいるとは思いもしなかった。

 

「この黒トリガー使いは、俺が引き受ける。君は仲間のフォローに向かえ」

「……見たところあんたノーマルトリガーでしょ?相手黒トリガーだよ。正気?」

 

本能的には目の前の死神が自分よりも強く、そして黒トリガー相手でも簡単にやられるほどやわではないことくらいわかっているが、それでもノーマルトリガー単体で黒トリガーと戦うなど通常なら自殺行為だ。遊真がそう言うのは当たり前のことである。

 

だが死神は遊真の言葉など聞こえていないかのように無反応で、真っ直ぐ敵に突っ込んでいった。

 

(速い!しかし、些か真っ直ぐ過ぎではないですか?)

 

速さのみでは自らの剣は破れない。それを見せつけるかのようにヴィザは迫り来る『白』に向かってブレードを展開しながら仕込み杖を神速と言えるほどの速度で振り下ろした。敵に向かってタイミングを合わせて斬りかかるだけなので先ほど遊真の腕を斬り裂いた斬撃よりも速度は上だった。

遊真ならば反応すらできない。それほどの速度の斬撃を、死神はいとも容易く、最小限の動きで回避し、挙げ句の果てにはヴィザの顔面に向かってカウンターを放った。

 

「っ!」

 

咄嗟に反応したヴィザは回避の勢いをそのままに、死神から距離を取った。死神は手にしたブレードーーレイガストを下ろすことなく出現させたキューブで弾丸の追撃を放った。

追撃の弾丸はブレードの壁に防がれたが、ヴィザは反撃することは一切できなかった。今のわずかな一合でかかった時間は、2秒を切っていた。

 

「……これほどとは」

「すっげ……」

 

2人の感嘆の声も興味無さげにスルーした死神は、ヴィザに目を向けた。銀灰色の瞳がヴィザを捉え、その瞳を見たヴィザはわずかに寒気を覚えた。

『空虚』。まさにそれを示すような瞳だったからだ。とても人間ができる目ではない。そう思わせるほど冷たく虚ろな瞳だったのだ。

 

「……まさかこれほどの使い手が玄界にいるとは」

「…………」

(そして普段平和なこの世界にこれほどまで冷たい目をする者がいるとは……)

「……空閑、君は早く仲間の元へ向かえ。あちらもあまりいい状況ではない」

「……了解」

 

自らを超える実力を見せつけられた以上、遊真とレプリカは後を死神に任せて修達の元へと向かった。

 

「……ふふ、まさかこの歳でこのような感情が生まれるとは思いもしませんでしたよ」

 

残された死神に向けてヴィザは笑みを浮かべながら仕込み杖を構え、そして不思議な感情に支配され、震える身体を抑え込んだ。

 

今ヴィザを支配している感情。それは『歓喜』。

 

長年鍛え上げ、まさに熟練の域に達している自らの技を、全力で、なんの気兼ねもなく振るうことのできることへの歓びだ。

 

(血湧く、とはこのことですかな)

 

長年忘れていたような感情が蘇り、ヴィザの心を熱くした。

 

だがそれに対して向かい合う男は

 

「…………」

 

まるでなにも感じていないかのように、ブレードの切っ先をヴィザに向けるだけだった。

 

死神ーー有馬貴将は単身でヴィザ(最強の敵)に向かっていった。

 

 

「死ねぇ!」

 

刃が目の前に迫りそしてわずかに髪を散らした。

 

「らぁ!」

 

影浦のスコーピオンがエネドラの身体を切り裂くが瞬時に元に戻る。弱点以外のダメージは完全に無効化されてしまう。

 

『敵は恐らく弱点を常に体内で移動させ、的を絞らせないようにしている。だがその弱点を剥き出しのまま移動させているとは考えにくい』

『ならシールドでも纏わせてるの?』

『黒トリガーにシールド機能が付いているとは思えん。特にあの黒トリガーには必要ないだろう。故に、あの硬質化でカバーしていると考えるのが妥当だ』

『あの程度ならオレが斬れるぜ』

『せめて場所が分からなければどうにもならん。解析には少し時間がいる。それにもうそろそろ北添も合流する。北添が合流したら硬質化の場所を割り出し、解析し、場所を常に表示するようにしてしまえばいい』

『オペレーターの解析次第か。ここなら色んなオペレーターが見てるから解析はすぐ終わるね』

『そうだ。北添が来るまで遊んでやるとしよう』

「面白え!」

 

そういうと影浦はエネドラに向かって走り出した。

 

「ケッ、猿が正面から突っ込んできてなにができんだ」

 

そういうとエネドラは無数の刃を形成し、その刃を波の如く影浦に飛ばした。これほどの数になるとどこを攻撃するかなどもはや関係ない。高威力の刃に飲まれてそれで終わりだ。

だが影浦は凄まじい速度でスコーピオンを振るい刃を砕き、砕ききれない刃を真戸が撃ち砕き、追加で押し寄せてきた刃を絵馬が狙撃で防いだ。

そしてエネドラに向かってマンティスを放とうとした瞬間、足に不快感を感じた。影浦はそれに瞬時に反応し、横っ飛びで地面から生えてきた刃を回避した。数瞬空中に飛んだ影浦に向かってさらなる攻撃が加えられるが、空中に形成した真戸のシールドを足場にそれを回避。そしてマンティスによって液体の身体を斬り裂き、さらには真戸の放った弾丸がエネドラの身体を貫いた。

 

「無駄だ猿が!」

「…………なるほど」

 

今の銃撃により真戸はさらにエネドラの考えを読み取る。

そしてそれを遮るかのように刃の雨が影浦と真戸に襲いかかる。

だがそれは爆発によって一気に消し飛ぶ。

 

「おせーぞゾエ!」

「ごめんごめん」

 

グレネードランチャーを構えた北添が軽い口調で影浦の苦言に答える。

 

「……んで、ナツキは?」

「外傷だけなら致命傷にはなってないけど、出血が酷過ぎたみたい。まだ安心は出来ないって」

「…………そうか」

「カゲ、顔に出すくらいなら口に出しな。カゲ1人のせいじゃないんだから」

「……ああ。だがそれを言うのは後だ。あのスライムを殺してからだ」

「だね」

『君らの気持ちはよくわかる。そして影浦の言う通り、反省はこいつを消してからだな』

『うん』

『で、どうするの真戸さん。全員揃ったよ』

『今から作戦を伝える。各自、伝えた通りに行動しろ。だが作戦とはあくまで方針であり、各々状況に応じて臨機応変に対応してくれ』

『ああ』

『うん』

『了解』

 

ーーー

 

(チッ……うぜぇな)

 

目の前で自らに攻撃を加えてくる敵にエネドラは内心で舌打ちをする。目の前の敵はどんなに攻撃してもダメージを入れることができない。敵1人1人ならばエネドラに負ける要素はない。だが彼らは互いにフォローし合ってエネドラの攻撃を凌いでいる。もともと3人でも凌ぎきれていたのだが、北添が加わったことによりその防御の壁はより厚くなった。単純に北添の火力もあるが、北添自身が常日頃から好き勝手暴れる影浦のフォローをしているため、援護が達者なのだ。それゆえ、火力ではなく特異性が売りのエネドラの泥の王(ボルボロス)では攻めきれない。

 

(あの犬は俺がどこを攻撃してくるかわかるみてぇだな……あいつだけ回避能力が高え。他の猿共は距離の問題か。近づけばすぐに殺せるだろうが……うまく距離取ってきやがる)

 

エネドラの泥の王(ボルボロス)の攻撃は固体化したトリオンを刃のようにして相手を攻撃するものだ。それゆえ地面から刃を生やすことも可能ではあるが、風刃ほどの速度は出ない。それに地面から刃を生やすには地面を掘り進める必要がある。通常の攻撃よりも速度が落ち、さらには掘り進める際に出る振動を感知されることもある。振動を感知されないように遅く掘り進めてはそもそも当たらないため、地面から刃を生やすのは乱戦や誘導してでの攻撃が有効だろう。

 

(こいつら全員八つ裂きにしてやりてぇが……猿なりに頭はあるようだな。仕方ねぇ、ガスブレードで腹の中から掻っ捌いてやる)

 

そう考えエネドラはトリオンを気体に変え、トリオンを敵の体内に送り込もうとした。

 

『トリオン展開を確認。寺島、空調を全開にして気体を押し戻せ』

『はいはい』

 

真戸の指示であらかじめオペレータールームにいたチーフエンジニアの寺島雷蔵は真戸の言葉と共に空調を全開にし、エネドラのトリオンを押し戻した。

 

(風で押し戻される……)

 

間宮隊がやられた体内からの攻撃の仕組みは単純である。まずトリオンを気体に変化させ、不可視化することで敵の体内に侵入。そのトリオンを体内で固体化させ、内側から食い破るといった攻撃だ。

 

『なるほど、気体にもなれるってことなんだ』

『デフォルトは液体みたいだけど、気体のままなら攻撃も防御もできない。なにより弱点を隠すことができないもんね』

『弱点を気体にはできねぇのか?』

『それができるなら君の攻撃に焦ることなどないだろう』

『それもそうか。にしてもよ真戸サン』

『なんだ』

『いつ気づいたんだ?気体にもなれるって。あの様子からするとあんた、はじめからわかってたんだろ?』

『そんなことか。簡単なことだ。固体、液体ときたら気体になれてもなにもおかしくはないだろう』

『なるほどね、言われて見れば簡単なことだったね』

『寺島、敵の体内に存在する硬質化したトリオンを我々の視界に表示しろ』

『俺はオペレーターじゃないんすけど。それに複数あるから本物以外も映っちゃうけど』

『構わん。本物があろうがなかろうが一度私と影浦で全て消し去るのだからな』

『なにするか知りませんが……ほい、どうぞ』

 

そうして視界に表示された硬質化のトリオンを眺め、腰に挿してある少し大きめのハンドガンに特殊な大きい弾丸を込める。

 

『おい』

『なんだ?』

『いつからダミーがあるって気づいてたんだよ』

『北添が合流する直前だ』

 

 

『…………なるほど』

 

 

『あの時か』

『あの時の銃撃で硬質化の1つを恐らく砕いた。なのに奴は何食わぬ顔で我々に攻撃を続けた。あのスライムがいかに快楽主義であっても自らの弱点が危機に晒された状態で平然と攻撃を続けるとは思えん。奴が実は凄まじい演技派で我々にそれを悟られないようにするブラフならば話は別だが、そんなことを考えるタイプではあるまい』

『つか、あんたのトリオンであの硬質化砕けるのかよ』

『普通のトリガーならば私のトリオンでは砕けん。だが威力の底上げのためにいくつか改造を施している。使い勝手は悪くなってるがな』

『なるほどな』

『ではいくぞ。あのダミーを私と影浦で砕く。北添は迫るブレードを極力減らせ。そして絵馬、わかっているな』

『うん』

「いくぞクソスライム!」

「調子こいてんじゃねぇ犬が!」

 

一気に距離を詰めた影浦はスコーピオンを縦横無尽に振り回し、迫るブレードを砕きながら硬質化の局所防御を切り裂く。

真戸は距離を保ちながら特定の局所防御に弾を集中させ、影浦ほどの速度はないにしろ的確に砕いていく。

 

(こいつら、ダミーをピンポイントで…?)

 

反撃のためにブレードを放っても中距離から放たれる援護射撃により大半が砕かれる。

 

(どうなってやがるこいつら……!止まらねぇぞ⁈雑魚トリガーの分際で!)

『……そろそろか』

 

真戸はそう考え、物陰に瞬間的に隠れて、弾倉を付け替える。真戸のカスタムトリガーはリロードする際、いちいち弾倉を付け変えなければリロードしたことにならない。弾が切れるとその度にあらかじめトリオンでできた弾が込められている弾倉を付け替えるため隙ができる。シールドと併用すればある程度隙は埋められるが、それでも隙があることに変わりはない。故に、リロードの時は敵の射線や視界から外れてリロードするのだ。

だがその制約により真戸のカスタムトリガーの弾丸は物質化しており通常のものより威力、貫通力共に高い。加えて鉛弾とぶつければ鉛弾を無効化させることもできる(相当な技術が必要だが)。

 

『寺島、そろそろ奴はこちらにイラつき地面からブレードを生やしてくる可能性がある。アレを起動しろ』

『アレを?そこそこトリオン消費するんすけど……』

『黒トリガーを潰すためだ。安いもんだろう』

『……わかりましたよ。動体トリオン感知、カウント3で起動』

 

その寺島の言葉と共に真戸は物陰から飛び出し、再び銃撃を浴びせる。

そしてダミーを増やす速度が追いつかなくなってきたエネドラはとうとう耐えられなくなり、全力で影浦と真戸を倒しにかかる。

 

(くたばれ!)

 

エネドラが地面に液体のトリオンを流しこんだ瞬間

 

『起動』

 

低い音が室内に響き、影浦達の視界に赤いアウトラインに囲まれたエネドラのトリオンが表示される。

それにより影浦だけでなく真戸も余裕を持って回避をすることができ、さらにダミーを砕いていく。

 

(どうなってやがるこいつら!この乱戦の中オレの攻撃がどこから来るのかわかってやがるのか⁈あの犬はオレの攻撃場所がわかるみてぇだが、あの雌猿まで簡単に避けてるのはどういうわけだ⁈)

 

今までは時々地面からの攻撃を仕掛けた際、完全に回避しきることはできずにいて掠るくらいはしていたはずなのに、今は攻撃してくる場所がわかっているかのように回避している。無論、エネドラは動体感知のことを知らないためなぜ避けられるのか理解できない。

 

「そろそろ終わりにするか」

 

攻撃を掻い潜りながら真戸は大きめのハンドガンを構えた。

直感でやばいと感じたエネドラは真戸に大量の刃を向かわせるが

 

「おいおい、真戸サンばっか見てんなよ。寂しいじゃねぇか」

「させないよ」

 

影浦と北添によりそれらを全て防がれる。

 

「巻き込まれるなよ」

 

真戸の言葉と共に放たれた変わった形状の弾丸ーーメテオラ・バレットはエネドラの体に向けて真っ直ぐ飛んでいき、ダミーの1つに突き刺さった。

そして一瞬の間の後、凄まじい爆発を起こした。

 

「っ」

 

そして爆発の中心にいたエネドラは液体のトリオン体を爆散させた。

だが液体は床に染み込んでいき、本体はどこにも見当たらない。

 

「倒せてねえのか」

「当たり前だ。このオレが猿ごときのトリガーにやられるかよ」

 

言葉と共にエネドラは先ほどとは真逆の場所から出現した。

 

「やるじゃねぇか。猿にしては、頑張った方だと思うぜ?まぁ無駄骨だったがなぁ」

『おい、なんであれ生きてんだ』

『土壇場でカバーを外して弱点を逃したのだろうな。その程度の頭は残っているようだ。だがこれで準備は整った。絵馬』

『わかってるよ』

『タイミングは撃ちやすい時で構わん。やれる時にやれ』

『了解』

「さてと、遊びはこんなもんでいいか。気づいてないかもしれねぇから言ってやるが、今度はこっちが風上だぜ?」

 

そう言ってエネドラは再びガスを展開するが

 

「……あ?」

 

そのガスはまたも押し戻された。

 

「馬鹿め、貴様がそちらに回避したことはわかっていた。だからその瞬間に空調を止め、逆方向から空調を展開しただけだ」

「……」

「『遊びはこんなもんでいいか』、と言ったな。我々との闘いを遊びと感じている……実に傲慢で度し難いほど愚かな考えだ。弱点を瞬間的に無防備にしなければならない程一時的とはいえ追いつめられておいて未だに我々のことを格下だと考えている脳はやはり致命的だな。事実、トリガーの性能は我々と貴様では天地ほど離れている。だがそれを扱う者のおつむが残念では……まさに豚に真珠だな」

「調子に乗んな猿がぁ!」

 

襲いくるブレードを真戸はリロードを済ませた銃で打ち砕き、エネドラのトリオン体を貫いた。

 

「てめぇのトリガーごときでどうにかなると思ったか!」

 

しかし弱点を撃ち抜くことはなく、局所防御によって防がれた。局所防御は体積がブレードに比べて小さいため硬度が高く、真戸の一撃では壊せない。

 

『私のトリガーセットにスタアメーカーはない。それ故マーカーをつけることができない。だから最初にできたものをずっと目で追い続ける必要があるが、できるか?』

 

真戸から伝えられた作戦の言葉を思い出しながら絵馬は小声で呟いた。

 

「……できるさ」

 

ダミーが視界に生成されるが、絵馬の瞳は本物の場所を正確に捉えていた。

影浦と北添のコンビによる攻撃でエネドラは防戦一方で動きが鈍い。

 

(だっておれは)

 

それを鷹のように鋭い目で捉えて引き金に指をかける。

 

(鳩原さんの弟子だ)

 

引き金に力を込めた瞬間、エネドラがこちらに気づき刃を向けてくる。だがそれは全て空中に展開されたシールドを足場にして飛び上がった影浦に砕かれた。

 

「終わりだ、クソスライム」

 

そう言った影浦の顔のすぐ横を絵馬の放った弾丸が通り過ぎ、エネドラの弱点を貫いた。

 

「貴様の弱点を正確に割り出すため一度ダミーを全て砕く必要があったのだ」

「て、てめぇ……」

「貴様の行動パターン、回避パターン、攻撃方法、全てを利用させてもらった。実に扱いやすかったぞ」

「この、クソ猿共がぁぁ!」

「いい断末魔だ。貴様が弄んだ私の愛弟子を傷つけた報いだ。無様を晒して死んでいけ」

 

そう言って真戸はもうヒビが全身に入りトリオン体が破壊される直前のエネドラに向けてメテオラ・バレットを撃ち込み、そして爆散させた。

 

***

 

医務室

 

「…………ん」

 

目が醒めると、知らない天井だった。周囲は騒がしく人が忙しなく動いているのがわかる。どういうわけか視界が狭いため、暗闇に包まれている左目に触れてみると布の感触がした。

 

(……そっか、あたし……目、やられたんだった)

 

やられた直後はほとんど気にならなかったが、今は鋭い痛みを感じる。さすがに病院でなければこれ以上の治療はできないのだろう。

左目に触れていた左腕に違和感を感じると点滴のようなものが繋がれていた。チューブの中を通る液体は赤いため輸血だと理解するのに時間はかからなかった。

 

「…………」

 

頭がうまく働かない。最後の記憶はデバイスをいじってやることやりきったと同時に気が抜けたことだ。恐らくそこで意識が落ちてしまったのだろう。

 

「あ!よかった!気がついた?」

「…………ええ」

 

すぐ側にいた女性の看護師が彼女の顔を覗き込み顔を綻ばせる。

 

「よかった……血を流しすぎてたから手遅れだった可能性もあったから……」

「…………」

「目が覚めたならもう命に別状はないわ。あとは大人しくしていてね」

「……あ!あの、基地に侵入してきた……ネイバーは?」

「たった今報告があったの。影浦隊と真戸暁開発副室長が倒したって。だから、もう大丈夫よ」

 

 

『大丈夫』

 

 

その言葉を聞いた瞬間、瞳から熱い雫が零れ落ちた。

 

「みんな、は?」

「影浦隊も真戸さんも無事よ。通信室にいた人の何人かは手遅れだったけど……貴女のおかげでたくさん救われたわ」

「う、あ……」

 

救えた。

そして、生きている。

 

その事実に彼女は涙を堪えることができなくなり、看護師の腕に縋り付きながら泣いた。

 

「うっ……うぁあ、あぁ……」

 

怖かった。自分が命を張っても誰も救えないのではないか。無駄死にになるのではないのか。死の未来が見えていた以上、その可能性だって大いにあった。それを彼女は理解していた。自分は戦うことすらできない。わかっていたからこそ、より怖かった。

しかしその恐怖全てを押し殺し、自らの信念に従った。そのことに後悔はないが、恐怖が無くなったわけではない。しかもあのように弄ばれ、殺されかけたのだ。あの場における彼女の恐怖はどれほどのものかは、想像を絶する。

 

だからこそ、生きているという事実に17歳の少女は安心感により涙を止められなくなった。

 

戦えない彼女は、彼女なりに闘い抜くことができた。その事実からくる達成感に、嗚咽を抑えられなくなった。

 

彼女は闘い、生き残った。

 

 

エネドラがやられたことにより、彼女の死の未来は完全に消えた。

 

 

***

 

 

「お……」

 

目の前で磁力を操る青年と闘いながら未来が変わったのを感じ取った。

 

「……よかった」

 

迅の見える未来の中から、彼女の死の可能性が消え去った。

 

「ありがとう、影浦、北添、絵馬、真戸さん」

 

少し軽くなったが未だに重さを残す気持ちとは裏腹にとてつもなく軽いブレードを迅は振るった。

 

 

 

 

 

 

 

横山夏希

両足:損傷(回復見込みあり)

左目:重傷(程度不明)

 

死の未来:完全消滅

 

 

 




有馬貴将
メイン
レイガスト
スラスター
シールド
バッグワーム

サブ
ハウンド
スコーピオン
シールド
グラスホッパー

トリオン体標準装備としてメテオラ・バレットも装備。

ニムラ
年齢:不明
出身:不明
トリガー:「罪の水(ギフト)
サイドエフェクト:???
好きなもの:嫌がらせ(極)、悪巧み、炭酸水


真戸さんのカスタムトリガー
銃(アサルトライフル)
形は普通のアサルトライフルだが、リロードはいちいち弾倉を付け替える必要がある。その分放たれる弾丸は威力が高く、物質化しているため鉛弾等のシールド透過系トリガーにも干渉できる。ぶっちゃけ実弾の銃をトリオン仕様にしただけ。使う人は今のところいない。

メテオラ・バレット
注射器のような形をした弾丸。中にはメテオラを圧縮したものが詰まっており、当たった場所に圧縮メテオラを注入、内側から爆発という割とえげつない仕様。自爆モードイルガーも爆散させる。
それ用の銃でなければ撃つことはできないし、一発ごとにリロードしなければならない。加えて反動がかなり大きくクセがあるため使いこなすのにはかなり慣れがいるし、トリオンの消費もでかい。その分威力は非常に高く、トリオン体のどこでも当てればほぼ確実に仕留められるほどの威力。注射器の針の部分のトリオン密度は高く、ラービットの腕にも突き刺すことが可能なほど。一撃必殺技といっても過言ではないが、やはり使い勝手は悪いため使う人はいない。

動体感知
敵の『動く』トリオンを感知して視界に赤いアウトラインで表示させる。前に夏希がやったオペレーターの動体感知よりも使い勝手も良く処理も早い。その分トリオンの消費は激しく、クールタイムも長い。感知範囲は任意で変えることができる。対策は『動かない』こと。動かなければ感知されない。
今回は訓練室にその機能を持ったデバイスを真戸さんがダイナミックエントリーした時に仕掛けておいたが、本来ならそれ専用のドローン的なものを飛ばす必要がある。ランク戦だったら多分秒でドローンが見つかって撃ち落とされる。個人で使うなら多分まだ出てきてないスポッターが使うと思われる。トリオン消費が激しいから多分2、3回しか使えない。


佐々木世良(せら)
有馬さんの嫁で琲世の母親


なお、今回の話でもし影浦隊と真戸さんが負けていたら夏希および医務室にいる隊員は全員死んでました。訓練室を出たエネドラは割と近くにあって騒がしい医務室を襲撃して他の隊員が到着する前に全滅するからです。つまり影浦隊と真戸さんは仕事とはいえ多数の命を救ったということです。
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