目が腐ったボーダー隊員 ー改稿版ー   作:職業病

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平成最後の投稿です。令和でもよろしくお願い申し上げます。





67話です。


67話 『万能』なものは、この世に存在しない。

「どわっ!」

 

目の前に迫る触手(大)を辛うじて躱す。

敵が本性を現してからは防戦一方だった。あの黒い触手は素早く、柔軟性もあり、なおかつ威力もある。シールド程度なら簡単に叩き割ってくる。しかも地面から突き刺しにきたりもするからなおのことしんどい。めっちゃ強化されたスコーピオンみたいなものだろうか。ブレードというよりは鞭に近いが。

 

「んん〜よく避けますねぇ。さすがだなぁ」

「……クッソが」

「はいはーいそんな悪態ついてる暇あるんですかぁ?」

「ごっ!」

 

唐突に背後から飛び出してきた触手にぶん殴られて吹き飛ばされる。

 

「前方注意ですよ〜」

 

そして吹き飛ばされた方向から鋭い触手が迫ってきた。

 

「ざっけんなマジで!」

 

短剣を投げ瞬間移動することでどうにかそれを避ける。

先ほどから敵はわざわざ触手で打撃しか俺に当てて来ない。さっきの背後からの攻撃もそのまま俺を貫いてしまえばそれで終わりだったのにやつはあえてそれをしなかった。その理由として、奴は俺をいたぶって遊ぶためだと考えるのが妥当だろう。どこまでも性格が悪い奴だ。俺もよく卑怯に陰湿に最低に戦ったりするが、下手に敵で遊ぶような趣味はない。

 

「……このままじゃマジで一方的虐殺されるな」

 

本部に通信しようと思ったら通信できなかったし、ベイルアウトは封じられてるし。あれ、これもしかしてマジで俺死ぬやつじゃね?ここが俺の墓場なのか、そうなのか。嘘だと言ってよ戸塚。

 

そんな無駄なことを考えながらも思考を止めることはしなかったため、ここまで戦ってわかったことはいくつかある。

まず奴の性格は最悪。俺の想像するよりもはるかに下衆な発想で攻撃をしてきたとしてもおかしくはないということ。

さらに奴の回避能力は俺や佐々木さんと同等かそれ以上のものだ。シールドを一切使わずに俺の全力のバイパーを掠りもせずに回避しきった。俺のバイパーをシールド使わずにノーダメで回避しきったのは今のところ有馬さんだけだ。つまり、回避能力は有馬さんレベルということだろう。奴の元々の身体能力によるものなのか、それとも俺や有馬さん(・・・・)のようにサイドエフェクトによるものなのかはわからないが。

そして最後に奴のトリガーについて。あのトリガーは恐らく黒トリガーだ。でなければ連続であの威力で攻撃を仕掛けることなどできはしないだろうから。そしてなにより、あれだけの攻撃能力を有しておきながら民間人などを使って兵を増やすことだってできる。そんなことはいくら強化トリガーでもノーマルトリガーでは不可能だろう。

 

通信はできない。周囲に味方はいない。実力差は歴然。逃げることすらままならない。

わかったことをまとめると完全に無理ゲーということだった。なんだこれクソゲーじゃねーか責任者出せ。

 

「……これは、詰んだかぁ?」

 

そうボヤきながらも俺の頭はこの現状を打開するための策を考えている。今のところどんなにシュミレートしても途中で終わってしまうのだが、それでも諦めるわけにはいかない。

 

「いやぁ、こちらの人たちってすごいですよねぇ」

 

その思考を遮るようにして唐突に発せられた言葉に俺の思考は一瞬止まる。

 

「……あ?」

「まだトリガー技術が来てから日が浅いのに、ここまで優秀な兵士がいるんですからぁ。安全対策もしっかりしてる。とても素晴らしいです。こちらでは到底同じ月日で同等のことを成し得ることはできませんからねー」

「…………」

「兵士の育成も期間の割にかなりできてますね。実力に多少の優劣はありますが、トップレベルは我々でもかなり手こずるレベルですから。どんなシステム使ってるのか、技術者的にすごく気になりますねぇ」

 

こいつ、技術者なの?というか技術者が戦場に来るの?

 

「ああ、そうそう。あなた方が負けても逃げられるあのトリガーあるじゃないですかぁ。あれ、封じたの僕です」

「……は?」

「でも僕を倒せば解除されるものではありませんけどねー。いやぁ苦労しましたよ。あなた方基本だーれもあのトリガー使わないんですもん。おかげであなた方が戦ってる側で解析する羽目になってしまいましたよぉ」

 

やっぱこいつは先行して俺らのことを探っていたのか。あの時気付いていれば、と考えたがすぐに改める。あの現状でこいつをネイバーであると断定する材料はなにもなかった。強いて言うなら俺の直感だが、俺の直感は絶対ではない。あの時点ではどうすることもできない。

 

「できればあなた方の基地も見ておきたかったんですが、さすがに無理でしたね」

「…………お前らの目的はトリガー使いの捕縛か」

「そうですねー少なくとも根暗隊長の目的はそうです。なーんかトリオンすごい子もいたみたいなのでその子拉致できれば根暗隊長もホクホク顔になるんじゃないですかぁ?」

「……お前の目的は違うのか」

「おお、いいとこに気づきますねぇ!さすが同業者(同族)は違いますねぇ!」

「あ?同族?」

「そう、僕の目的は違う。こんなつまらない政治に巻き込まれてやりたくもない仕事を人質取られてやらされたんだ。楽しいことしなくちゃあやってられない!」

 

サラッと無視してんじゃねぇよ。なんだよ同族って。あれか、陰湿なとこなのか。

 

「お互い命をかけたギリギリの殺し合い……その場面で敵を一方的に虐殺する……それくらいのことさせてもらわなくちゃあ割に合わない!」

「……最悪だな」

「お褒めに預かり光栄です。ああそうだ、お名前を伺ってもいいですか?」

「……比企谷」

「ヒキガヤ、ですか。カエルみたいですねぇ」

「うるせぇ」

 

なんでネイバーにまでヒキガエル扱いされにゃならんのだ。

 

「ああ申し遅れました。僕は旧多ニムラといいます」

「旧多……?」

 

なんだそれ、日本人みたいな名前じゃねぇか。

 

「じゃあヒキガヤさん」

 

 

 

 

世界(おままごと)しましょ

 

 

 

 

その言葉と同時に大量の触手が敵……旧多の背中から現れ、そして襲いかかってきた。

 

 

「邪魔、だ!」

 

目の前に大量に群がるトリオン兵を切りながら琲世はそう声を上げる。トリオン兵はバムスターやモールモッド等の普通のものばかりだがいかんせん数が多すぎる。琲世といえどこの物量を一人でどうにかするのは厳しいものがあった。

 

「くっ……」

『これだけの量をハイセのみに投入しているとこを見ると、やはり敵はハイセを足止めしたいのだろう。それだけ敵にとって重要な局面と考えられる』

「……だろうね」

『だが逆に捉えれば、ハイセがここを突破できれば敵にとってかなりの不都合になるということだ』

「それはわかる。でも……」

 

琲世もレプリカの言っていることはよくわかる。なぜ敵が琲世をピンポイントで足止めしようとしてるのかはわからないが、これだけあからさまにやられれば自分を足止めしたいということはよく理解できる。さらにそれを破ることができればよりいい状況に持っていけるであろうことも。

だが琲世の戦い方はもとより多対一を想定した戦い方ではない。一対一を意識した戦い方だ。無論、多対一が苦手というわけではないのだが、どうしても戦闘力は落ちる。しかもこれほどの物量は例え太刀川であっても簡単には突破できないだろう。

 

「……レプリカ、こいつらがこの先に行かせたくない理由はわかる?」

『この先でベイルアウトを封じているものとはまた別のジャミングが感知できる。そしてそこにトリオン反応もある。そこから推測できることは、その隊員の援護に行かせたくないといったとこだろう』

「……なら無理矢理でも押し通ることは?」

『ハイセならば可能だろうが、その場合この場にいるトリオン兵もまとめてそちらに向かう。おススメはしないが、決めるのはハイセだ』

「……得策、とは言えないか」

 

スコーピオンを投げて、迫り来るトリオン兵から距離を取りハイセは思考する。

 

(この先に誰がいるかはわからないけど、どちらにしてもこのトリオン兵どうにかしないとどうすることもできない。でも僕だけじゃこの数を捌くのは無理だ。せめてあと一人……A級レベルがいないと厳しいな)

 

そこまで思考したところでハイセの元に通信が入る。

 

『ーーーーー』

「……はは、いいタイミングですね。狙ってました?」

『ーーー』

「まあなんでもいいです。手伝ってくれるなら、それに越したことはありません。でもわざわざバッグワーム使う必要はあるんですか?」

『ーーーーーーー?』

「……はぁ。僕がどうこう言うことじゃないですね。それじゃあ頼みますよ」

 

 

 

「太刀川さん」

「任せな」

 

 

 

その言葉と同時に琲世の目の前まで迫ってきていたトリオン兵は無数の斬撃によって斬り刻まれた。

 

「かっこいい登場ですね」

「真似してもいいんだぞ?」

「遠慮しておきます」

 

現れたのは、現役の隊員の中で不動の一位に君臨し続け、かつて迅とともに鎬を削った男、太刀川慶だった。

 

「佐々木、なんでこんなにうじゃうじゃいるんだ?お前なにやらかしたんだ?レポート出し忘れたか?」

「それは太刀川さんでしょう?先週締め切りのレポート、あったでしょう」

「え?マジ?」

「それを賭けてランク戦やろうって言ってきたじゃないですか」

「…………」

「覚えてないんですか?」

「そんなことより、なんでこいつらこんないるんだ?」

「……不明です。この先にいる隊員への援護をさせないためにやってるのだと予想されます」

「へえ……援護封じ、ね」

 

露骨に話題をそらされて呆れながらも琲世は状況を伝えた。それに対して太刀川は何食わぬ顔で思考を始めた。

 

「なら意地でもここ通んなきゃなぁ」

「そうですね」

「どっちが多く倒せるか勝負しようぜ」

「今戦争中ですよ?」

「その方がやる気でるだろ?」

「……はぁ、わかりましたよ」

「ついて来られるか?」

「善処しましょう」

「いくぞ国近、ちゃんとおれの撃破数数えておけよ」

『ほーい。サッサンのも数えておくね〜』

「ありがとう」

「んじゃいくぜ」

「はい」

 

そう言いながら琲世は新トリガーを起動した。

 

「ブースター、オン」

 

同時に琲世の身体にトリオンが巡り、身体能力が強化され、同時に琲世の左目が紅く染まった。

 

「へぇ、いいなそれ」

「太刀川さんには扱えませんよ。このトリオン体じゃなきゃまともに扱えません」

「なら期待していいんだよな?」

「……好きにしてください」

 

そう言いながら琲世は弧月を手にトリオン兵の群れに突っ込んでいった。

 

「やれやれ、冷たいねぇ」

 

そうぼやきながら二本の弧月で迫ってきたモールモッドを切り裂くのだった。

 

 

 

 

(このオレが……こんな猿共に……)

 

トリオン体を破壊され本体に戻されたエネドラはまだノーマルトリガーにやられたという衝撃を受け止めきれないでいた。

だがエネドラも状況が状況であるため怒りをぶつけるのは後回しにすることにし、目の前にいる敵を睨みつけ、回収が来るまで時間を稼ぐことを考えた。

 

「忍田本部長、この黒トリガー使いはどうする。私の好きにしていいというのなら四肢をぶち抜いて生け捕りにし実験サンプルにするが」

『君が言うと冗談に聞こえない。とりあえず捕虜にしろ。トリガーを回収して拘束するんだ』

「……了解した。北添、影浦、聞いていたな?」

「はい」

「ああ、とっ捕まえりゃいいんだろ?」

「そうだ。黒トリガーの回収を忘れるな。さてスライム、君はこれから捕虜だ。抵抗しなければなにもしないが、下手に抵抗するなら……」

 

そう言って真戸は一度言葉を切り、手に持つ銃の弾倉を付け替えた。

 

「容赦はしない」

 

その言葉に含まれる殺気からそれが嘘ではないことをエネドラは感じ取りわずかに冷や汗を流した。

 

(……ミラの奴が回収に来るはずだ。ビーコンは生きてるからオレのとこにゲートを開けるだろうが。さっさと来やがれ。なんのためにてめぇがいると思ってやがる)

 

こんな状況でも傲慢な姿勢を崩さない思考をしているエネドラの目の前にゲートが開き、そこにはショートカットの女性が立っていた。

 

「回収に来たわエネドラ。派手にやられたようね」

「チッ……おせぇんだよ」

 

女性から差し出された手をつかもうとエネドラが手を差し出した瞬間

 

 

「あら、ごめんなさいね」

 

 

空間から伸びてきた斬撃にその手は斬り落とされた。

 

「ぐっ、ぁぁぁああああぁ!ミラ、てめぇ!」

「回収を命じられたのはあなたのトリガーだけなのよ」

「なん、だと?」

「気づいてる?あなたのその目の色。トリガーホーンが脳にまで根を張ってる証拠よ。それにより人格にまで影響が出てるわ。このままいけば記憶……果ては意識までに影響が出るでしょうね。ここで生き延びてもどのみち近いうちにあなたの命は尽きるわ」

「て、めぇら!」

「それに……泥の王(ボルボロス)を使ってノーマルトリガーに敗北なんて致命的失態ね」

 

そう言ってミラは目の前で苦しむエネドラにトドメを刺そうとした瞬間、背後から光る刃が伸びてきた。それを難なく弾くと、それをやった狂犬のような男を見る。

 

「あら、これはなんのマネかしら?」

「はあ?そりゃこっちのセリフだワープ女」

「あなた達の敵を排除しようとしてるのよ?むしろ感謝してほしいわね」

「いきなり出てきてなに勝手なことほざいてやがんだ。それ倒したのはオレ達だ。よくわかんねーこと言ってねーでさっさとその黒トリガー置いて消えろ。というかてめーも敵だろうが」

「……悪いけど泥の王(これ)は渡さないわ。それに……あなた達がやらなくても、元々エネドラは始末する予定だったから」

「てめぇら!諮ったな!」

「……胸糞悪いな」

「影浦、手を出すな。奴がこちらに攻撃を加えてきたのならともかくなにもしないなら手を出すな。なによりあのワープ能力でやろうと思えば我々の基地を落とすことだってできる。今はなにもするな」

「……ケッ」

「賢明な判断ね。じゃあここで失礼するわ。それとエネドラ」

 

 

「さようなら」

 

 

冷たく言い放たれた言葉と共に伸びてきた釘のようなものがエネドラの身体を貫く。

 

「残念だわ。昔は聡明で良い子だったのに」

 

それだけ言って女性ーーミラは消えた。

 

「ハイ……レイ、ン……」

 

そして穿たれたエネドラは最後に虚空を睨みつけるようにして、絞り出した呪いを刺客を差し向けた男に吐き出し、そして生き絶えた。

その様を影浦達はなんとも言えない表情で見ていた。

 

「…………勝ったのに後味最悪だな」

「……だね」

「…………」

「本部長、指示を」

『……ああ。遺体を別室に運んでくれ。そいつのツノは未知のトリガーテクノロジーだ。今後に使える。あとあのワープも無限ではないはずだ。ビーコンのようなものがあるだろう。それを探してくれ』

「了解。北添、手伝え。影浦、絵馬、お前たちは夏希の容体を見てきてくれ。無事が確認できたら戦場に向かえ。まだ戦争は終わっていない」

「ああ。行くぞ、ユズル」

「うん」

 

そう言って二人は医務室に向かった。

残された真戸と北添は苦悶の表情を浮かべ、憎悪をたぎらせた目をしたまま死んでいるエネドラに目を向けた。今にも動き出しその口から呪詛を吐き出してきそうな表情だった。

 

「……いいんですか?」

「なにがだ?」

「自分で夏希ちゃんのとこに向かわなくて」

「……本当なら行きたいが、今は任せるさ。彼らにこのような作業は向いてないだろうしな。特に絵馬はまだ中学生だ。本来ならお前たちもだが、こんな場面を見せるべきではない。それに仮にも私も大人だ。責任と立場がある。愛弟子に会うのは、この戦争が終わってからだ」

「……なら、手早く済ませましょう」

「ああ」

 

そうして真戸は今にも動き出しそうなエネドラの亡骸に手をつけた。

 

 

 

 

「何体いった」

 

残骸の山の上に立つ男、太刀川はそう言葉を発した。

 

「……10超えてから数えてません」

『サッサンは21だねぇ〜』

「国近、おれは?」

『太刀川さんは30〜』

「合わせて41か」

「51ですね」

「51か。完全におれら、というか佐々木に向けられてんな」

「ここまで僕一人にリソースを割く意味はなんですかね」

「警戒されてるんだろうな」

「……僕を警戒して太刀川さんを警戒しないのは変だと思うんですけど」

「そうさせるなにかがあんだろ」

「…………」

 

理屈はわかるが、それでも理解はできなかった。実際、新トリガーを使っても琲世は太刀川には恐らく勝てない。トリガーの性質上負けることはないかもしれないが、勝つことはできない。

だというのに敵は太刀川ではなく琲世を妨害しに来た。何かしらの意図があるにしても現時点ではそれを知る術は琲世にはなかった。

 

「……とにかく進みましょう」

「だな」

 

刀を収めこの先にいる隊員の元へ向かおうとしたところでレーダーに隊員の反応がでてきた。

 

「ん?誰かこっちに向かってんな」

「一人、みたいですね」

「どうする、合流するか?」

「……その人の実力次第ですね。B級下位なら言っちゃ悪いけど足手まといなのでいない方がやりやすいです」

「妥当だな。国近、その隊員と通信はできるか?」

『ん〜……一応通信飛ばしてるけど、反応ないなぁ』

「シカトしてんのか?」

『正常に飛ばせているならシカトされてるってことかなぁ』

「この状況でオペレーターからの通信シカトするバカがいんのか?」

「とにかく接触しましょう。ただ、太刀川さんも知ってるかもしれませんが、人の身体を乗っ取るタイプのトリガーが敵にいるみたいなので警戒は怠らないように」

「お前がやったやつだよな。俺もやってみたかったのになぁ」

 

呑気にそう呟く太刀川を呆れつつも頼もしく思いながらその隊員が来るであろう方向を琲世は見つめる。

視界に映ったのはB級でよくあるジャージタイプの隊服を着た少年だった。エンブレムのとこに順位が書いてないからチームランク戦には出場していないのだろう。恐らくまだチームを組んでいないB級に上がりたての少年だと琲世は考察した。

 

「誰だあれ」

「多分、B級に上がりたての子ですね。エンブレムに順位が書いてないんで」

「なら知らなくても仕方ねえな」

「……とにかく接触しましょう」

「おう」

 

そう言って琲世と太刀川は少年に近づく。最大限警戒をし、いつでも対応できるようにしながらゆっくりと少年に近づいていく。

 

「……君、大丈夫?」

「…………」

 

琲世がそう声をかけるが少年は反応しない。ただ琲世と太刀川を見ながら微動打にしない。

 

「おい、聞いてんのか?」

「僕たちの声は届いてる?」

「…………」

『……太刀川さん、これは多分乗っ取られてます』

『みたいだな。さっさとぶった斬っちまいたいとこだが……あいにく今はベイルアウトできないからな。下手にやってトリオン体解除されたらこいつが死にかねん』

『……レプリカ、この子どうなってる?』

『レプリカ?』

 

その言葉を聞くと黒い豆粒が琲世のポケットから出てきた。

 

「……なんだこいつ」

『初めましてタチカワ、私はレプリカ。琲世の味方だ』

「へぇ……玉狛関連か?」

『察しが良くて助かる』

「とりあえず今はいいや。後で色々聞かせてもらうぜ」

『私が話せる範囲でなら話そう。それはともかく、この少年の状態についてだな』

「うん。レプリカ、なにかわかる?」

『この少年のトリオン体の内部にこの少年のものではないトリオン反応がある』

「別のトリオン反応?」

『このトリオンは先ほどハイセが戦ったものと同じトリオン反応だ。つまり……』

「乗っ取られてるのは確定か……」

「しかしぶった斬るのもなぁ」

「トリオン体を破壊して、そのあと救護班に来てもらいましょう。本部で保護してもらえるなら、それでいい」

『それが賢明だろう』

「けんめい……」

「じゃあ下手に抵抗されないうちに」

 

そう言って琲世は『赫く』染まるスコーピオンを右手に纏わせ、そして少年に向かって突き出そうとした。

 

その瞬間、少年は顔を上げると目と口を開いた。

 

「っ!」

 

そしてそこから黒い『なにか』が飛び出し、そして琲世の視界を黒く染めた。

 

 

 

 

「はっ、はっ、はっ……」

 

迫ってきた触手の全てをどうにか回避することができ、反撃に転じたが、結果としてはなにもできなかった。俺のバイパーもあの触手に全て弾かれ仕込みメテオラもことごとく破壊されテレポーター奇襲も完全に読まれていた。その後猛攻を受けたがどうにかダメージを受けることなく回避しきることができた。全部サイドエフェクトのおかげだ。サイドエフェクト万歳。

だがサイドエフェクトでの回避も限度がある。現に少しずつ回避がしんどくなってきているし、奴の攻撃もキレが上がっている。

 

「無理ゲーだろマジで」

 

走りながらそうぼやく。

vigilを使いすぎたのか、トリオンは残り半分を切っていた。節約しているとはいえ、こいつとの戦いで結構消耗した。というかこいつ相手に出し惜しみしてたら既にやられてた可能性の方が高い。

だがあれだけの攻撃をしてきているというのに奴のトリオンはまだまだ底をつきそうにない。黒トリガーは総じて性能が破格だがそれ相応にトリオンを消費するようにできている。だからあのわくわく動物野郎(出水命名)の消費量もかなりのものになっているはずだし、こいつの消費量も多いはずだ。

無論そいつの持つトリオン量によってどれだけ戦えるかは大きく差が出るだろう。それに黒トリガーでも燃費の良し悪しはあるだろう。だからまだまだ戦えるのかもしれない。

 

だがこれほど攻撃し、防御したらかなりのトリオンを消費したはずなのになぜここまで続けて攻撃ができるんだ?

 

黒トリガーとはいえ、ここまで継戦能力があるとは思いづらい。防戦一方ならともかく、こんな猛攻してまだトリオン持つとは思えないのだ。

 

「あ、もしかしてそろそろこう思ってるんじゃないですか?『トリオン持つのか?』とか『トリオン切れはまだか?』とか」

 

突如発せられた言葉が図星すぎて言葉を失う。雪ノ下ばりのエスパーなのかこいつ。

 

「……エスパーかよお前」

「いやぁ、そちらがわかりやす過ぎるだけでは?」

 

雪ノ下にも似たようなこと言われたことあるような……。

 

「で、実際トリオン持つかどうかですよねぇ?実際僕のみのトリオンならそろそろトリオン切れになってます」

「……『お前のみ』なら?」

「僕のトリガー、『罪の水(ギフト)』って言うんですけどね?このトリガーかなーり汎用性高くて色々できるんですよぉ。先代は頭悪くて全く使いこなせないポンコツでしたがね。まぁ汎用性が高い分燃費はあまり良くないんです。僕のトリオンでもあまり持ちません。でも相手をいじめてなおかつ任務を果たすには継戦能力がどーしても必要になってくるんですよ。そこで僕は考えました。

 

『僕のトリオンだけで足りないなら、他から持ってくればいいじゃないか』とね!

 

あ、ラッドっていう虫みたいなトリオン兵わかります?あれの能力で周囲の人間からトリオンを少しずつ吸収してゲートを開く能力があるんですよ。それを応用して周囲の人間からトリオンを吸収するデバイスをこの街の至る所に配置しました。それで吸収したトリオンを僕が自由に扱えるようにしてね!」

「……なんだそれ」

 

つまり他から持ってきたトリオンを溜め込んで好きに使うことができるってことだろう。なんだそれ、どうしよもねぇじゃん。どれくらいためこめるかはわからないが、それなりの量だろう。

 

「ついでにこちらの民間人が避難した場所にもいくつかしかけてありますよ。仕掛けたけど誰も来なかったとこもありますけどね」

 

つまり現在進行形でやつはこちらの民間人のトリオンを吸収しているということだ。

 

「まぁ時間をかけないとそんな量にはなりませんけどね。今回は一月ほど時間があったためかなり吸収できましたけど今吸収できるものなんてたかが知れてます。無いよりはマシですけどね」

 

佐々木さんのようにすぐに回復するようなものではないことがせめてもの救いだ。これで回復が佐々木さん並みに早かったらマジで詰んでる。

 

「それにしてもさすがですね」

「……あ?」

 

なんかこいつ発言が色々と唐突で意味わからんぞ。なぜ急に褒められた。

 

「こうやって僕がつらつらと解説している間にもしっかり罠や仕込みをしているとこですよ」

「……なんのことだ?」

「しらばっくれるのも良いですけどねぇ。なにを仕掛けたかはわかりませんが、あなたの周囲になにか仕掛けましたよね?」

「…………」

 

おいおい、なんでバレてんだよ。そんなわかりやすく仕掛けた記憶はねーぞ。

 

「僕はね、実は結構強いんですよ」

「……知ってる」

「それにね、頭も結構いいんですよ」

 

技術者やってたらそりゃ頭もいいだろうよ。

 

「僕があなたと初めて会った時を覚えてますか?」

「あ?」

「ほら、道ですれ違ったでしょう?あなたは声かけて来たじゃないですか」

 

ああ、あの凄まじく嫌な予感がした時か。忘れるわけない、というか忘れられるわけない。

 

「ああ」

「君はあの時、僕に対して嫌な予感(・・・・)がしたんじゃないですか?」

「……どういう意味だ」

 

冷や汗が流れる。

口の中が乾いていく。

鼓動が早くなっていく。

 

まさか………そんなことがあるのか。考えていた中で選択肢にはあった。だがそんな低確率なことが実際にあるのか?

 

「低確率でも0でなければ、ありえるんですよ」

 

ああ、そうだ。わかることはできなかったが、確かに確率として存在する以上、あり得ないわけではない。『そうあって欲しくない』という俺の思い込みがあっただけだ。

 

「僕は、サイドエフェクト持ちなんですよ」

 

もしかしたらあの凄まじい悪寒はこのことを知らせるためにあったのかもしれない。

 

「そのサイドエフェクトは」

 

だがそれを気づくことができず、なにもしなかった。

逆にやつはそのことに気づき、俺を排除しようと策を練った。きっと今はその差がでてきているのだろう。その脅威と面倒さを誰よりも理解しているからこそ、それに全力で取り組んだ。

 

 

「超直感」

 

 

ああ、クソ。俺はこれに気づかなかったのに対してやつは気づいた。つまりサイドエフェクトとしては奴の方が熟練度は上なのだろう。もしくは脳のスペックかもしれない。ならばこの追い詰められたこの現状は当然だろう。トリガーの性能を抜きにしてもいつか追い詰められていたということだ。

 

思っていなかったわけではない。可能性として考慮はもちろんしていた。だが、俺や迅さんのようなサイドエフェクトはランクが高くて発現する人がそもそも少ない。だからその中で同じサイドエフェクトを引き当てることなどさらに低い確率となる。

 

「さぁ、ヒキガヤさん」

 

 

 

「遊びましょう」

 

 

 

死の未来が、迫ってくるのを感じた。

 

 

 




罪の水(ギフト)
黒トリガー。基本的になんでもできるトリガー。見た目は黒いドロドロで、基本的な攻撃方法はドロドロを変形させて戦うことだが、トリガーを解析して仕組みを使用者本人が完全に理論的に理解することができればドロドロを使って完璧に再現することもできる。敵を乗っ取る、罠として仕込む、自分に纏わせ身体能力を向上させる、傷ついたトリオン体を再生させるなどなんでもあり。そのかわり燃費は悪くて継戦能力は低い。

次回もよろしくです。
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