前回、今までで多分一番お気に入り数が増えた回でした。読んで下さる方々、本当にありがとうございます。
69話です。
あらゆる手を尽くした。
できることはした。
でも、結局こうなった。
相手は俺よりも多いトリオンを持ち、俺よりも高性能のトリガーを使い、極め付けに俺よりもうまくサイドエフェクトを使う。
手数
技術
工夫
嫌がらせ
あらゆることが通じなかった。
もうどうすることもできない。
そう感じてしまった瞬間、抵抗する力すら湧いてこなくなった。ニムラと名乗るこいつが俺の頭を踏みつけていようが、大事な人達の顔を思い浮かべようが体は全く動かない。大事な人を思い浮かべて気力が湧いてくるのは多分ラノベ主人公くらいだ。現実では実際にそんな場面に立ち会うことはほぼないが、実際に立ち会うと本気で身体が動かなくなる。
これが絶望か。
アニメとかマンガではよくみる単語だが、実際自分がなるとシャレにならないくらい体が動かなくなる。感情が体と密接な関係にあるというのはやはり正しかったのか。
迅さんの言っていた死の未来というのはこのことで多分間違いないんだろうな。ベイルアウトもできない。敵は強すぎて勝てるわけがない。加えて性格は最悪。死ぬビジョンしか見えない。
「ん……?」
ニムラと名乗る敵が声を上げる。
「あ、あー。そうなるか、そうくるか。うーん、これはダメだなぁ。もうこれはダメだ」
なんだこいつは。なにを言っている。なにがダメなんだ。
「まさかこうなるとはなぁ。やっぱ僕のサイドエフェクトに
……?
「あーあ。せっかくここまで準備したってのになぁ。まさかこんなことできる人がこっちにいるとは思わなかった。うーわ今までの時間とリソース全部無駄ってこと?最悪だよもう……仕方ない。こうするしかないか」
そう言って敵は俺の頭から足を離すと俺の腹を蹴り上げてきた。
「ごっ!」
「あ、起きましたー?まぁ気絶なんてしてなかったから抵抗する気が無くなってただけなんで聞こえてたと思いますけど」
「……なんだお前、なにがあったってんだ」
「いやぁ、僕にとって都合の悪いことが起きてしまいましてね。本当ならここで貴方のこと殺すつもりだったんですけど、それができなくなりました」
「……は?」
殺すのができなくなる都合の悪いことってなんだよ。意味不明すぎてわからんぞ。そもそもこいつは俺よりもはるかに超直感を使いこなしている。それならそこまで都合の悪いことを感じ取ることくらい可能だろう。
「……あ、もしかしてなんで僕がその都合の悪いことを感じ取れなかったのか考えてます?」
「お前マジでエスパーかなにかなのか?」
「ははっ!そんな能力は持ち合わせていませんよぉ。貴方がわかりやすいだけですって!」
「…………」
「うーん、まぁ言ってしまってもいいか。ここまで僕のトリオンを削ったご褒美ってことにしてあげますよ」
「…………」
「あ、信じてませんね?まぁ信じないのが普通ですよねぇ。うーんどうしよ」
そういってこいつは考える素ぶりを見せると良いことを思いついたと言わんばかりの笑顔になった。
「じゃあまず!僕の
*
なにも見えない。
黒
黒
黒
黒
黒
全て黒で埋め尽くされている。
なにも見えない。
なにも聞こえない。
なにも感じない。
周りを見てもなにもない。
声も出ない。
「…………?」
ふとなにかが聞こえたような気がして振り返るが、変わらずなにもない。黒が広がっているだけだ。
『…………』
やはりなにか聞こえる。
だがそれがなんなのかはわからないほど微かな音だ。しかし、確かに聞こえる。
『……き………!お…………ろ!』
徐々にその音は大きくなり、人の声であることがわかってきた。
『さ……!お………き!』
その声がする方へ手を伸ばす。するとそこから光が溢れてきた。
『佐々木!起きろ!』
聞き覚えのある声がすると同時に、視界は光に包まれた。
ーーー
「はっ!」
突如として目が醒める。先ほどまでなにか別の場所にいた気がするがどうも思い出せない。
そして周囲には見知った人達が自分の顔を覗き込んでいた。
「…………」
状況がわからず琲世は目を白黒させる。
「……僕、は?」
「お前は敵のトリガーに乗っ取られていた。それを俺達が救い出した」
状況が飲み込めない琲世に風間は普段通りのあまり感情の籠らない声で返した。だがその普段通りの感じが琲世の混乱を少し和らげた。
「……そう、なんですか」
「レプリカの解析、ハッキングによってお前の伝達脳を乗っ取っているトリガーのプログラムを消去した。それによりどうにかお前の意識を取り戻した」
「大変だったんだよ。あとでなんか奢ってね」
「おい……」
歌川は横目で呆れたように菊地原を見たが、それでも二人ともどこか安堵したような顔色になっている。
そのことに少しだけ嬉しく思いながらも琲世はとても申し訳ない気持ちになった。最後の記憶は少年に話しかけて、その少年から黒いドロドロが出てきたこと。それ以降の記憶はないが、今の説明で敵として戦っていたことはわかる。そして彼らに多大なる面倒をかけたことも。
「すみません……油断しました」
「反省は後だ。とにかく今は敵の排除にあたる。すぐにいくぞ……と言いたいところだが」
「え?」
「レプリカからお前に伝えておかなければならないことがあるらしい」
風間がそういうとレプリカ(豆粒)は琲世の懐からにゅっと出てきた。
「僕に伝えることって?」
『端的に言えばハイセが今使っているトリガーは黒トリガーに侵された』
「……どういうこと?」
『ハッキングにより私が消し去ったのはあくまで伝達脳を操っている
「オペレーターのパソコンの処理能力を使ってもできないの?」
『できない。そもそも今の私のサイズでは黒トリガー由来のものをどうこうするには能力が足りなさ過ぎる。本来の私でもできるかはわからない』
「…………」
『話を戻そう。ハイセのトリガーは敵の黒トリガーに侵されたが、伝達脳を乗っ取るプログラムのみが消去された。それによりハイセのトリガーには黒トリガーの能力が残ったままとなった』
「……どういうこと?」
『ハイセのトリオン体は乗っ取られて敵となった瞬間、再生能力が格段に上がった。さらにスコーピオンと敵のあのドロドロしたものを融合させることでドロドロの時よりも自由自在に動かせる触手が使えるようになった。他にも細かいところはいくつかあるが、要はその敵として使っていた能力をハイセが扱えるようになったということだ』
「……!」
『長くなったが、私が言いたいことは先ほどまで使っていたトリガーとは似ているが異なるものであるということだ。同じような感覚で使って感覚が違いすぎて戸惑った挙句やられてしまうということを防ぐために伝えておいた。すぐに扱えるようにはならないだろうが、ハイセなら戦いながらも慣れていけるようになるだろう』
「……そっか、ありがとうレプリカ」
「話は済んだな?よっしゃ、この先にいる敵をぶっ倒しにいこうぜ」
その太刀川の言葉に全員呆れながらも頼もしさを感じた。これこそ不動の一位を守り続ける太刀川慶であると。
「そうですね、行きましょう」
そう答えると琲世は立ち上がり、左目を紅く染めた。
*
「本当の、目的?」
しかもこいつ、『僕の』って言ったぞ。つまりこいつと他の攻めてきてるネイバーの目的は違うということだ。
「ええ。彼らの目的はトリオン能力の高い人の確保と、トリガー使いの捕獲ですね。それくらいは無知なあなた方でももう予想はしているでしょ?」
「…………ああ」
会話をしながらも(無駄だとは思うが)次の手を考え始める。会話しているということは少なからずそちらに意識が向いているということなのだからワンチャンあるかもしれないレベルだが。
「あ、その前に」
「⁈」
足元が急に沈む。足元を見ると真っ黒いドロドロが広がっていた。そこに足が沈み込み抜けなくなっている。なにこれ。底なし沼?
「反抗されるとだるいんで拘束しておきますねぇ」
「……しねぇよ」
「いえいえ。そういうのいいですから」
「…………」
「それで僕の本当の目的についてでしたね。僕の本当の目的は……」
「僕のチーム、あなた方にわかりやすく言えばこちらの世界に攻めてきている人を全員殺すことでーす!」
「……は?」
なに言ってんだこいつ。殺す?自分の仲間である奴らを?
「あれ?理解できませんでしたぁ?」
「殺すって……お前、仲間じゃないのか?」
「仲間?いえいえそんな。
「お前、本当になにがしたいんだ。お前ほどのトリガー使いなら俺なんかもう殺せているだろう。なのにわざわざ生かして遊んで、挙げ句の果てには俺を殺さない、いや、殺せないとか言って」
「あーまぁでもこれだけだとなに言ってんだこいつってなりますよねぇ。じゃあ殺せない理由は言ってあげましょう。多分お気づきだと思いますけど、この街の至る所に隠しカメラを付けました。黒くて丸いやつ」
……出水達と行動していたとき俺が見つけたあれか。こいつが仕掛けたものだったんだな。まぁ他にいるわけないか。
「ブラックアイって名前なんですけどね?あれで得られた映像は僕を含めた他の全員がいつでも見れるようになってるんですよ。範囲は狭いですけどレーダーもついているので付近に敵がいたらレーダー反応の取れるブラックアイの映像を見てから行動するとかもできるんですよ」
つまり不意打ちとかは全く効果がなくなるってことか。一見大したことないように思えるが、こちらが次にどういう行動をするか、またはどこに意識が向いていないかがわかるから初動のアドバンテージを取れるため地味に強い。
「で、そのブラックアイなんですが……一部、僕以外が見れないような仕様のブラックアイがあるんですよ。他の全員を殺せるようにするため」
「……仲間の背後を取る為か」
「だーいせーいかーい!いやぁやっぱ同業者は違いますねぇ!」
誰が同業者だ。お前みたいな性悪と一緒にすんな。いや俺こんな性格悪くないよね?……ないよね?
「でもそれが僕を含めてみーんな見られなくなっちゃったんですよ。多分そちらの技術者の方かな?ハッキングしてくれちゃってもう」
……ああ、多分横山の作ったデバイスか。ハッキングするとか言ってたしな。図らずも俺は横山に救われたのか。
「で、それがないとうまーく全員殺すことができないんですよ。だから貴方は殺しません」
「……いや、だからの使い方間違ってね?」
「……ああ、そうか。これ説明するにはもっと説明がいるのか。無知って面倒だなぁ。まぁでもこれについてはわかるの僕くらいか」
なにをぶつぶつ言ってんだ。言うなら早くしやがれ。この拘束されてる状態地味にきついんだから。
「ヒキガヤさん、貴方は僕のと同じ超直感の持ち主だ。これから貴方に超直感について少し教えてあげます」
「……は?」
「まさかこちらで超直感の持ち主に会うとは思いませんでしたよ。こんなレアなサイドエフェクト、僕以外持ってる人なんていないと思ってましたからねぇ」
「……こっちのセリフだ」
「で、超直感についてでしたね。超直感っていうのは『持ち主が本能的に感じ取っていることをよりわかりやすくしたもの』です。それくらいはなんとなくわかっているでしょ?」
「…………」
「もちろん僕も超直感における全部のことを理解しているわけではありません。僕がわかっているのは僕が実験して判明したことまでです。なので、僕がわかっていることの一部を貴方に教えてあげます」
「お優しいことで」
「あ、やっぱりそうです?ほら、僕って善性の塊みたいな人だから」
「人でなしの間違いだろうが」
「はは、その通りですね。で、僕がこれから教えてあげるのは……超直感の『向き不向き』についてです!」
ーーー
「向き不向き……?」
サイドエフェクトにそんなのあるのか?超技能ならともかく、超感覚のサイドエフェクトだぞ。
「そんなの……」
「あるんですねぇこれが。例として……ああ、強化視力がわかりやすいな。僕の知ってる人の中で強化視力持ちは二人います。一人は動体視力に、もう一人は遠方視力に特化しています。簡単にいえば近接戦闘のインファイターか、遠方から狙撃するスナイパーかの違いですね」
……たしかにこうして聞くとサイドエフェクトにも向き不向きがあると思える。有馬さんがまさに強化視力の動体視力向きの人だ。
「で、僕が思うにヒキガヤさんの超直感は『自分にとって都合の悪いこと』を感じ取るのに向いている。無論根拠はなにもありませんけどねぇ。心当たりがあるんじゃないですかぁ?」
「…………」
思い返すと心当たりはある。というかありすぎる。今まで嫌な予感ほどよく当たってきたが、いい予感はあまり当たらなかった。というか嫌な予感についてはほぼ的中しているまである。
「お前は違うのか」
「ええ。僕の超直感は嫌な予感はほとんど感じ取りません。……ああいや、これは誇張したな。あまり、レベルですね。でもいい予感についてはすごく感じ取れますよ。特に僕が『楽しい』と思えることについてはすごく、ね」
……なるほど、こいつは快楽主義者の究極系みたいな奴なんだろうな。
「なので僕の超直感はあまり嫌な予感を感知しません。今回、この状況は僕にとって都合の悪いことだった。というか事実都合の悪い状況です。だから僕はこの事態を察知することができなかった。逆にヒキガヤさんが僕の立場なら、察知できたかもしれませんね」
「……おい」
「はい?」
「都合の悪いことを察知するのが俺の超直感で、都合のいいことを察知するのがお前の超直感だと言ったな」
「はい」
「それになんの違いがある」
「えぇ〜そんなこともわからないんですかぁ?あー説明めんどくさ。まぁいいけど。
わかりやすく言えば、僕のは『僕にとって最高の未来』に向かうために必要な手段を理解する超直感。逆にヒキガヤさんのは『ヒキガヤさんにとって最悪の未来』を回避するのに必要な手段を理解する超直感です。同じ超直感でも僕のは都合の悪いことは察知できないので、最高の未来へ向かうのに必要なことのみをしているつもりでもいらないことをしてしまったり邪魔が入ることは察知できない。逆にヒキガヤさんのは最高の未来への手段はわからないが最悪の事態になることはないということですよ。予想ですけどね」
……根拠はない。その前提で話されたこの言葉は妙に説得力があるように思えた。理由はわからないが、聞いていて納得できるなにかがこいつの言葉にはあった。多分、話しながらこいつも同じことを思っているのだろう。不本意ではあるが、やはりこいつと俺は同族なのだ。
「残念ながら未来視ほど有能になれないのが辛いとこですよねぇ」
「…………?」
今普通にああって答えようとしたけど、こいつなんで未来視のことを知ってるんだ?外の世界には未来視持ちがいたりするとか?迅さんがいる時点でいてもおかしくはないが、そんなゴロゴロいるはずがない。超直感持ちですら天文学的な確率レベルだというのに。まぁこれについては考えても無駄だろうけど。
色々わかったが、未だにわからないことがある。それは奴が俺を殺せない理由だ。あいつが味方を殺せなくなった理由はわかったにしても、それが俺を殺せない理由にはならないはずだ。
「とりあえずここまではわかりましたね?で、僕があなたを殺せない理由ですけど」
タイミング良く解説がくる。こいつマジでエスパーだろ。いやサイドエフェクト的にエスパーと思われても仕方ないけど。あれ、なんかブーメランきたわ。
「簡単な話、ヒキガヤさんを殺さない方が僕にとって都合がいいのですよ。理由はわかりませんけどね」
「……直感か」
「ええ。この状況になってすぐにそう感じました。なので殺しません」
「…………」
「でもむしゃくしゃするので誰かしらぶっ殺さないと気が済まないんですよぉ」
その瞬間、沈み込んでいた足がさらに沈みはじめた。
「なので!これからこちらに向かってくる人たちのことをぶち殺してストレス発散しようと思います!」
「て、めぇ!」
「あなたのことは殺しませんけど、こちらの世界の人々はみんな仲間思いなのでこういうことした方がダメージ大きいでしょう?だから殺します」
「この……ゲスが」
「ふふふ、いい目ですねぇ。なーんでヒキガヤさんは
そうしゃべりながらもどんどん身体は沈んでいき、もう首から下は完全に沈んでいた。これから俺がどうなるかはわからないが、それでも最後の抵抗としてニムラを睨みつけることだけはやめない。
「遺言、でも聞きましょうか。言い残すことはありますぅ?」
「地獄に落ちやがれ、クソ野郎」
「ふふ、いいですね。ではヒキガヤさん、また会いましょう」
そうして俺は完全に飲み込まれ、視界は黒に染まった。
***
「……反応が消えた」
琲世達が一人で戦っているであろう隊員の元へ向かっている途中、歌川がそう声を上げる。
「この先にいた隊員の反応が消えました」
「……やられたか」
「このあたりは未だにベイルアウトできない。そうなると……」
「生身がその場に残されていると考えるのが自然ですね」
「急ぐぞ。もうすぐそこだ。すぐに現着できれば救える可能性がある」
「はい!」
ーーー
「あれ、新手ですかー?」
現場に到着するといたのは黒コートを着た黒髪の青年だった。だか明らかにこちらの世界の人ではない。他のネイバーと違ってツノはないが、それでも雰囲気が違いすぎる。
そしてその人物に琲世は見覚えがあった。
「……旧多さん」
「あ、この前の!いやぁこの前はお世話になりました!」
「……知り合いか?」
「少し前に、道で……」
「……先行して侵入していたやつがいたのか」
「あ、そうだ!貴方にお礼がしたかったんですよ!」
ふざけたような態度でぶらぶら動きながら旧多はそんなことを言いはじめた。どう考えてもまともなお礼ではないことだけは琲世にもわかった。
「…………結構です」
「いやいやぁ、僕としてはお礼しなきゃ気が済まないんですよ。僕が頑張って練り上げた計画をご破算にしたり、僕のトリガーで手駒にしてあげたのにあっさりプログラム破った挙句その機能をうまく扱えるようになっちゃったりして。ここまできたらもうやる事は一つしかないでしょう?」
どう考えても恨みしかない言動に琲世は少したじろぐ。本来ならこの程度ではたじろいだりはしないが、言葉に並々ならぬ殺意と憎しみが込められているのが感じ取れたからだ。むしろ笑顔で普通のテンションでここまて殺意と憎しみを込めて話せるものなのだろうかと琲世は思った。
「やはり……僕に取り付いていた
「ええそうですよ。他にも緊急脱出のトリガーを封じたのも僕ですね」
「なににしてもお前を放置することはできなさそうだな」
そう言って風間は両手にスコーピオンを出現させた。それに続き歌川と菊地原もスコーピオンを構える。
「こいつは……さっきの佐々木よりも斬りがいがありそうだ」
太刀川も弧月を抜き、不敵な笑みを浮かべる。
「僕は、僕のために。みんなのために戦う」
自分にそう言い聞かせるようにしながら琲世も弧月を抜いた。そして左眼を紅く染め上げ、腰のあたりから大きな赤黒い触手を4本出現させた。
「へぇ……ハッキングされて元に戻ってから10分も経ってないのにもう
そう呟くと旧多はくつくつと嗤い始めた。
「ふふふ、あなた方はこちらの世界でもトップレベルに強いんでしょうねぇ。なんとなくわかりますよ。あなた方なら黒トリガーにも対抗できるかもしれませんねぇ。でも……」
「下です!」
そう言葉を切ると同時に菊地原が声を上げ、それと同時に全員が飛び上がり下から出てきた触手……赫子を回避した。
「まずは君から♪」
「なっ!」
その瞬間、普通のトリオン体でも出せないほどの速度でニムラは菊地原に迫り、手にした刀で菊地原の首を飛ばしにかかった。
だがそれは琲世の伸ばした赫子によってギリギリ防がれ、菊地原はなんとか脱出できた。
「……ありがとうございます」
「いいよ。助けてもらったんだし」
「……はい」
「ん〜これほどとは!いい、実にいいですよ!でもねぇ、その程度じゃ僕には勝てない。それにねぇ」
そういうとニムラは刀の鋒を琲世達に向けた。
「僕、意外と強いんですよ?」
その言葉とともに発せられた殺気が、その言葉が嘘ではないことを物語っていた。
「……気を抜くな。今までの奴とは、レベルが違うぞ!」
「はい!」
「見えないとこからの攻撃は僕が聞き取ります。聞き漏らしなんてしない。全部見切るつもりでいきます」
「滾るねぇ!」
味方全員の言葉を頼もしく思いながら琲世は息を吐く。
「なにもできないのは、もう嫌なんだ」
そう言いながら弧月を構え、赫子を左腕に纏わせた。
「……もう纏わせることもできるとは。これは予想外だなぁ。……うん、決めた」
「佐々木琲世、貴方だけは殺さないといけませんね」
そう言ってニムラは笑顔を消して赫子を展開し、刀を構えた。
刹那の沈黙の末、太刀川の弧月とニムラの刀が火花を散らした。
*
「ニムニム〜スラッシュ!」
ふざけた台詞と共に放たれた斬撃は太刀川が想像していたよりも遥かに重いもので若干押される。
さらに間髪いれずに放たれる連続斬撃をどうにか仲間の援護により防いでいるが、ブレードの性能が違いすぎる故か徐々に太刀川は押されていった。
「どしたどした!」
「んの、やろ……」
「太刀川さん!」
太刀川の背後から琲世が赫子を展開し、ニムラに襲いかかるが
「ふぅん」
その全てを一太刀で斬り裂き無効化した。
「あ、それ」
「っ!」
さらに反撃として放たれた斬撃は透明化して背後から近づいてきていた風間の首を落としかける。幸い警戒していた風間は掠る程度ですんだが、首から僅かにトリオンが漏れ出す。
『透明化していたのに的確に首を狙ってきただと……?』
『……もしかしたら、ヒキガヤと同じようなサイドエフェクトを持っている可能性がある』
『あんなレアそうな能力持ちが二人もいてたまるか』
『ヒキガヤが持っている以上、可能性は少ないながら存在するだろう』
『チッ、それもそうか』
「あっは、落ちなかったか〜❤︎。んじゃお次は〜……」
そう言ってニムラは刀を高速で振り回すと、そこにちょうど透明化で奇襲を仕掛けてきた歌川と菊地原を斬り裂いた。
「ぐっ!」
「っ!」
スコーピオンでどうにか受けたが、もともと耐久性のないスコーピオンで黒トリガーの刀を受けきることはできずそれなりに深い傷を負った。
「おまけぇ!」
そう言って刀を振り上げると地面から赫子が生えてきて、歌川と菊地原を貫こうとする。
「させるか」
「そら!」
だが聴覚情報を共有していた風間と太刀川が生えてきた瞬間に根元から斬り裂く。
「助かりました」
「構わん。集中しろ。一瞬でも気を抜いたらやられるぞ」
「はい」
「あーそびーましょ!」
そう言って風間に振り下ろされる刀を琲世はかばうように立ち塞がり受け止めた。
(重、い!)
「ほらほらどうしましたぁ⁈」
「っ!」
背中から赫子を展開し攻撃するが、ニムラはそれを鼻歌まじりに仰け反って回避する。さらに赫子を使って追撃するが、それらは全て斬り裂かれてニムラに届くことはなかった。
「ん〜初めてにしてはかなり上手ですけど、所詮付け焼き刃ですね。大したことない」
「……」
「佐々木、もっと上手く使えねーのか?」
「無茶言わないで下さいよ。これでもかなり頑張って操作してるんですから」
「寧ろ初めてでなぜそこまで扱える」
「感覚、としか……もしかしたら操られてる時の感覚が無意識に残ってるのかもしれません」
『その可能性は高いな。でなければここまで上手く扱える説明がハイセの才能以外に無くなる』
「才能はないな」
「えぇ〜……」
「修業時代にお前に言った言葉を忘れたか」
『お前に才能はない』
「……はは、そうでしたね」
「お前はいつも通りにやればいい、佐々木」
「はい」
そう答えると琲世は弧月を逆手に持ち直した。
「アップはこんなもんでいいですかねぇ。じゃあそろそろ本番いきますよ〜」
ニムラはそういうと刀を構え直し、そして振りかぶった。
「来るぞ!」
「いけ、銀喰」
振り下ろされた刀から赫子のようなものが飛び出し、そしてそれについていた口が琲世達に襲いかかった。
***
暗い
完全に沈められてからすでに五分近く経っているが、未だに沈み続ける感覚は消えない。どんなにもがいても身体は浮き上がらない。トリオン体といえども呼吸は最低限必要だし、ずっと呼吸しないでいるとスリープモードに移行して生命維持にエネルギーを回すことになるから一応死ぬことはない。それでも呼吸ができないというのはなかなかのストレスになるものだ。
周囲は水なのかなんなのかよくわからないもので満たされており、感覚としては海に沈んでいっているような感じだ。マリアナ海溝にでも沈められてるのだろうか。いやそれ割とシャレにならんな。トリオン体なら水圧とかで死ぬことはないけど誰も助けに来れないぞ。
このまま俺がどうなるかはわからない。シールドを足場にして浮き上がっていく方法も試したが、シールドは形成した瞬間に溶けるようにして消えた。この空間では恐らくトリガーは使えない。多分vigilとかなら使えるんだろうが、ここでvigil使ってもトリオンの無駄遣いになるだけだ。
あの旧多ニムラと名乗った奴の言葉を信じるなら俺はここでは死なないだろう。あいつの言葉に多分嘘はなかった。だがこのまま沈んでいって俺はどこへ行くのだろう。
考えてもわからない。だから考えることをやめて俺はなにも映さない目を閉じた。
その瞬間だった。
沈む感覚が急に浮遊感に変化した。
「は?」
視界が明るくなり、急に視界は暗雲に囲まれた空だけになった。下を見ると街があった。
というか、空中だった。
「うおおお!?」
変な声をあげながら落下していき、
「ぐへぁ」
またもや潰れたカエルのような体勢で着地してしまった。勘弁してほしい。今日だけで何回床に叩きつけられればいいんだ。
幸いトリオン体なので衝撃だけでありほとんど痛覚はない。というか痛覚これであったらしばらく動けない。最悪死ぬし。
改めてトリオン体に感謝しながら顔だけあげるとそこには見知った顔があった。
「…………」
「…………」
その顔は驚きもしていたが、それと同時に呆れたような顔でこちらを見てきた。
「……なぜお前がここにいる」
そいつは心底嫌そうな顔でそういった。
サイドエフェクトの向き不向きは作者の独自解釈です。同じサイドエフェクトを発現する可能性があるのなら、その同じサイドエフェクトを発現した中でも能力の得意不得意がありそうだなと思ったので。
次回もよろしくです。