他の書いてたら遅くなりました。申し訳ありません。
一応言っておきますが、エタってません。やる気はありますが時間がないだけです。大学院以上に社会人って忙しいですね。当たり前か。
感想の返信ができておりませんがきちんと読んでます。非常に励みになります。書いてくださる方々は本当にありがとうございます。
78話です。
目が覚めて窓の外を見る。それが朝のルーティンだった。
環境が多少変わってもそのルーティンは変わらない。いつも見ていた自室からの風景とは違うが、その行動自体にはなんの変化もない。
だが見える視界は、半分になった。
左半分の視界は闇に染まり、感じられる光は今はない。包帯が巻かれた左目ではなにも見ることができなくて当たり前だ。
だが、なんとなくわかる。この左目は以前のようには機能しないだろうということが。この包帯が取れても、恐らく見えるのは僅かな光だけ。それがわかってしまうのは、どこか悲しい。
左目が使えないということは、以前のように動き回ることはできないということだ。できるかもしれないが、そのためにどれほどリハビリを行えばいいかはわからない。
そのことを考えると、残った視界が少し色褪せたように感じられた。
***
雪ノ下と共に佐々木さんの元に行き、簡単に要件を済ませた。要件といっても俺が様子を見にきた以外では雪ノ下が由比ヶ浜と共にいつ見舞いに行けばいいかを聞くだけなので大した要件でもないのだが。
その流れで横山の見舞いにも行った。手術はどうやら無事終わったらしいが、手術後で疲れていたらしく少し元気がなかったようにも見えた。それは雪ノ下も気づいたらしくあまり長居もせず早々に退散し、雪ノ下とも解散した。
帰路についているとスマホの振動を感じる。画面を見ると、そこには『二宮さん』の文字があった。
「はい」
『比企谷、今大丈夫か?』
「大丈夫すよ、どうしました」
『時間はこれからあるか?』
ボーダーから支給された方のスマホを見ると、時刻は7時前だった。今日は小町に弁当を持たせているから晩飯は大丈夫。カマクラの餌も多めにいれてきてるから多少遅くても問題ないだろう。
「ええ、まぁ」
『そうか、なら少し付き合え』
「わかりました。俺はどこ行けばいいですか?」
『宏岡を覚えているか?』
宏岡…あのバーでバイトしてた人か。
「あのバーにいた人ですよね」
『そうだ。そのバーに来い。遠いようなら迎えに行くが』
「いや、そんな遠くないんで大丈夫すよ」
『そうか、なら現地集合でいいか』
「はい」
『ではまた後で』
そう言って二宮さんは電話を切った。
「……なんかあったのかな」
俺の予感はやはりバカにできないことがすぐにわかる。
*
「二宮さん」
バーの前のベンチで長い足を組んで座るスタイリッシュな人に話しかけるのは少々気が引ける。相手が二宮さんじゃなければなにも見てないような素振りでスルーしてるだろう。
「急に呼び出して悪いな」
「大丈夫す。で、どうしたんすか?」
「……鳩原の一件だ。少しわかったことがある。それの確認だ」
確認……つまりある程度信憑性のある情報を得たということだろう。
「宏岡さんに?」
「ああ。あいつなら知っているだろうことがある」
「……でも、それ」
「言いたいことはわかる。『前は答えなかったのに今回は答えるのか?』といったところか」
「…そっすね」
「そう考えるのが妥当だ。だがこちらもある程度手札を用意すれば向こうもこちらが『事情を知る人間である』ことを察して話すと踏んだ」
「なるほど」
向こうが事情をある程度知ってるなら話してもいいと思えるのは比較的当たり前な感情だ。だがその場合、こちらの知っている情報がどの程度のものかにも大きく左右される。だからある意味博打ではあるが、これならいけると二宮さんが判断した以上俺は同行して前と同じことをするだけだ。
「いくぞ」
「うす」
ーーー
「いらっしゃ〜いって、あれ?二宮じゃん。あ、比企谷くんも。お久しぶり〜」
店に入ると宏岡さんは少々驚きながらも笑顔で迎えてくれた。
「なになに〜珍しい。なんかあった?」
「少し、話を聞きたくてな。大丈夫か」
「ん〜そうね。私もう少しで上がりだし、その後で良ければ。今はお客さん結構いるから仕事しながらはちと厳しいかな」
「わかった。それでいい」
「よっし!じゃあ注文は?」
「ジンジャエール」
「だよね〜」
ーーー
「ほー、いいお店ね。気に入ったわ」
その後、宏岡さんのバイトが終わる時間まで待ち、そのままそこで話すのもアレだからという理由で場所を移した。移した先は喫茶店あんていく。ここは基本静かで従業員も信頼における人間であるため俺がお勧めした。今は霧島はおらず、店長の芳村さんだけだったが、寧ろその方が今はちょうどいい。
「で?話って?」
運ばれてきたコーヒーを一口飲むと、宏岡さんはそう切り出す。
「雨取麟児についてだ」
「あら、それについては前に話したと思うけど」
「それ以上のことを、お前は知っているだろう」
「なにを根拠に?」
「これだ」
そういうと二宮さんはタブレットに一枚の画像を映し出した。
そこには複数の人間がなにか話をしているようにも見える画像だった。ほとんど見覚えはないが、二人ほど見覚えのある背格好をしている。一人は目の前の宏岡さん。そしてもう一人は鳩原さんだった。
「これ…」
「一般人のお前は知らないだろうが、警戒区域付近には監視カメラやレーダーが多数存在している。仮に一般人が侵入した時、その場所の特定が早くできるようにな」
「あらら」
「本部も、鳩原が消えた日の監視カメラの映像は確認していたが、それより前のものまでは把握しきれていなかった。だが今回その映像を遡ったらお前が映っていた」
「あ〜……」
「ここまでわかっている以上、知らぬ存ぜぬで通すことはできんぞ」
困ったように笑いながらも、これ以上隠すことはできないと悟ったように宏岡さんは軽く息を吐いた。
「ん、そこまで知られてたら私ももう隠せないね」
「やはりなにか知っているのか」
「まぁね。でも二宮が思ってるよりは知らないよ」
どこから話すかなー、と言いながら宏岡さんは珈琲を口にする。
「まず私と麟児さんが知り合いなのは前に話したよね」
「ああ」
「麟児さんね、妹の千佳ちゃんがネイバーに狙われてることを知ってたの。だからそれをどうにかしたかったみたいでね」
やはり妹の雨取のための行動だったか。約半年前に考えた俺の直感は間違ってなかったか。
「で、なにが聞いたいの?といっても、私もあまり話せることはないわよ」
「この計画の立案者は誰だ」
「立案者……それはわからないわ。私はあくまで目撃者であって、深入りはしてないの」
「なるほど。ではお前が知ってるのはどこまでだ」
「私が知ってるのは、麟児さんが複数人で向こうへ行くための準備をしていたということだけ。それがいつ、どこで行われるのかまでは知らなかったわ」
「協力者については」
「少し。私が目撃した中にその協力者がいたことはなんとなくわかったけど、それが誰かまでは。多分二宮が前に見せてきた女性のことなんでしょうけど」
「人数は」
「大人数ではなかったわ。正確にはわからないけど、十人未満なのは確か」
少し後悔が滲む表情をしながら宏岡さんはコーヒーをすする。
その表情を見た二宮さんは、僅かに目を細めながら言った。
「止めなかったのか?」
「当然止めたわよ!ボーダーっていう専門の機関があるんだしそっちに依頼するなりした方がいいに決まってるんだから」
「ではなぜ奴らはこちらに依頼してこなかった」
「麟児さんの妹の千佳ちゃん……ああ、ネイバーに狙われてる子の事ね。その千佳ちゃんの希望だったらしいの。『他人に迷惑かけたくないから』って」
迷惑かけたくない、ね。
「その結果、ボーダーに頼らずトリガーを横流しした挙句失踪か」
「そうなるわね」
「トリガーを横流ししたのは?」
「その協力者でしょうね。二宮の言う鳩原さんのとこよ、多分」
「…そうか」
「それで、後は想像通り『このことは内密にしてくれ。もし俺が帰ってこなくても』って言われたのよ。だから言わなかった」
「それについては大方予想できていた。責める気はない。なんにしてもこの薄っぺらい笑顔を貼り付けた女が関わっていることが知れたからいい」
その言葉に宏岡さんが僅かに眉を潜める。
それに気づいた二宮さんは訝しげに目を細める。
「…なんだ」
「ううん。いやね、確かに二宮が見せてくれた写真は貼り付けたような笑顔だけど、私が見た鳩原さんはなんというか……そういう顔はしてなかったなって」
「どんな顔だ」
「うーん、言うなれば……『決意を固めた顔』って言うのかなぁ。ちょっとしっくり来ないけど、そんな感じ」
………決意、ね。
「…なるほど。知ってることはそれくらいか?」
「そうね、もう知ってることは全部話したと思うわ」
「…時間を取らせたな」
「ん、いいわよ。ところでこちらも聞いていい?」
「なんだ」
「なーんでこの話する時いつもその子連れてるの?」
あ、それ聞く?俺の役目基本嘘発見機なんだけど。
「……こいつも、ある意味当事者だ」
「ふーん、そ。貴方も大変ね」
「いえ」
当事者というには少し違うが、間違ってはいないけどちょっと違うんだけどね。
「よし、じゃあ帰るか」
「そーね。そろそろ時間も遅いし」
珈琲を飲み干して宏岡さんは伸びをした。そのまま財布に手を伸ばすが、二宮さんがそれを止めた。
「時間を取らせたからな。そのくらいはこちらで出す」
「あらそう?じゃ、お願いね」
鞄を持つと宏岡さんは芳村さんにお礼を言って店の出口に向かっていった。
「あ、そーだ。最後にいいこと教えてあげるわ、二宮」
「なんだ」
まだ情報を出し損ねていたのかと思った二宮さんは宏岡さんに目を向けた。
だが振り返った宏岡さんは片目を瞑りながら二宮さんにこう言った。
「あんた、嘘つくの下手だからもうちょいまともな言い訳考えときな。その子が当事者じゃないことくらい、なんとなくわかるわよ。比企谷くんをなんで同席させたかまでは聞かないでおいてあげる」
宏岡さんはそれだけ言って帰って行った。
なーんで陽乃さんみたいなことすんのかねぇ。
「チッ」
案の定二宮さんの舌打ちが聞こえた。
ーーー
「世話になったな」
「いーえ」
帰り道を歩きながら二宮さんはそう言った。
「宏岡の話はどうだった」
「全部本当のことでしょう」
少なくとも俺は嘘を言ってるようには見えなかったし、なによりサイドエフェクトは反応しなかった。つまり俺の中では宏岡さんは嘘はついていないということになる。
「……そうか」
「目星い情報は無さげでしたね」
「いや、十分だ。今玉狛所属の雨取千佳の実兄、雨取麟児のことを知れた。それに、どうやら玉狛の新人達はその案件について一枚噛んでる可能性がある」
新人、つまり空閑と三雲のことだろう。しかし空閑はネイバー。つまり噛んでる可能性があるとしたら、三雲の方だろう。
「そういう情報があったんすか?」
「いや。だが考えてみれば至極真っ当だろう」
二人が雨取に協力する、ということを考えれば確かに筋は通る。なにより三雲は雨取とボーダー以前から交流があったらしい。なら三雲に当たりを付けるのはなんら不自然ではない。
「それ以外もなんかあるんじゃないんですか?」
「…ああ。佐々木から情報をもらった」
なにしてんのあの人。重傷なんだから大人しくしてんさいな。
「関わった以上、お前にも近いうちに開示する。だが」
「守秘義務、でしょう?一般公開されてない情報の時点でわかりますよ」
「…ならいい」
話しているうちに、うちの近くまで帰ってきていた。小町が帰るまで少し時間があるため、風呂と軽食の準備をしておこう。
「今日は助かった」
「このくらいなら、いつでも」
「じゃあな」
「うす」
そう言って二宮さんは帰っていった。
「…そういや、一色のあのイベントどうなんだろ」
どことなく嫌な予感に身を震わせながら俺はマンションへと急いだ。
*
「で、あのイベント結局どうなったんだ」
翌日の放課後、部室に来た一色にそう問いかけた。
「とりあえず、2月12日にコミュニティセンターの調理室が取れたのでイベントはその日に行おうと思ってます〜」
バレンタインの2日前か。一応公共のイベントとかの名目で立ち上がったものだし妥当だろう。少なくとも一色の私情で開催されたイベントなどとは口が裂けても言えない。
「ふーん」
「ちょっと先輩ー!聞いといてその反応はないでしょう!やる気ないんですか⁈」
「そう言われてもなぁ」
やるか無いのは確かだし、なにより味見役なんぞ大している意味ないから興味も無くなる。
「参加人数は?」
やる気が皆無な俺に苦笑しながら雪ノ下はそう一色に問いかけた。参加人数は重要だ。それによって用意する材料の量やそれにかかる金額も変わってくるからな。うん、カンパなんぞ絶対にせんぞ。
「そこはまだですね。開催まで結構日にちがあるのでその間に上下すると思います」
「だろうな」
「あと、私達だけじゃなくて海浜総合高校の方々も参加します」
「ふーん」
……ん?
「おい、海浜総合?」
「はい!玉縄さんからお声がけがあったので!」
ええ…あの意識高い系とまたつるむの?
だがそこで文句をいうのは違う。これは俺らが主催のイベントではないのだから。
「ま、いいんじゃね?他人を巻き込むことができるのって大事だから」
なんかそんな感じのこと誰かが言ってた気がする。誰だっけ、忘れたな。
「ですよね!それに、向こうからも予算引っ張ってこれれば、私も義理チョコの代金が浮きますから!」
絶対それが本音だろ。いやいいんだけどさ。
「前回みたいなことにはなってねーだろうな」
「大丈夫です。今回はこちらが主体になってやっているんで。綾辻先輩が向こうに主導権を渡さないようにしてるのもありますが」
「……まぁ、そうなるでしょうね」
雪ノ下が苦笑しているが、それも前回のクリスマスイベントのザマを見れば仕方のないことだ。あのまま奴らに主導権を握らせ続けていたらとても残念なイベントになっただろうし。
だが、だからといってなにもしてないわけではないのだろう。さすがになにかしらの役割は与えられているはずだ。でなければ呼ぶ意味がないし。だがそこまでこちらが関与するのは違う。あくまで奉仕部は手伝いであり、俺たちが主体でやるものではないのだから。
「だからといって蔑ろにしているわけではないですよ?ちゃんとやることはやってもらってますし、意見交換も行ってますから」
「へー!なんかめっちゃいい感じになってるね!」
「前が酷すぎただけだろ」
「それは!…そうかもだけどさ!」
「講師は、とりあえず雪ノ下先輩がやるってことでいいですよね?」
「構わないわ。とはいってもそんな難しいことはしないでしょう。設備的にも、予算的にも」
「欲を言えば以前佐々木先輩が作ってくださったあのケーキレベルのものが良かったんですけどー、さすがに厳しいですよねー」
「…無論教えることはできるわ。でもあのレベルをやるとなると、予算が少し嵩むし、なによりあれを全員が同レベルにできるかと言われれば少し厳しいでしょうね。私はできるけど」
なんで最後の言葉を強調したの?君ができることくらいもうわかってるから。そこで対抗心燃やさなくていいから。
「まーとりあえず今はそんな感じに決まってます。またなにか決まったら連絡しますんで、よろしくです!」
「わかったわ」
「ではでは!私はこの辺で!」
そう言って一色は帰っていった。とりあえず恙無く進んでいるようで良かった。
「ねぇヒッキー」
「ん?」
「なっちゃんとサッサン、いつお見舞いにいけばいい?」
ああ、その話か。そういや部室来たら既に一色いたからその話する暇なかったな。
「今週の日曜日ならどっちも検査とかないから一日中暇らしい」
「日曜ね!ゆきのんもいくよね?」
「ええ」
「おっけー!じゃあ、どーする?」
「俺はバスでいく。お前らは?」
「あたしは…土曜日ゆきのんの家泊まってそのまま一緒に行こうかな。いい?ゆきのん」
「ええ、構わないわ。じゃあ比企谷くんとは当日現地集合ってことでいいかしら」
「ん、りょーかい。時間は?」
「そうね、あまり早すぎるのも考えものだからお昼…11時くらいでどう?」
「わかった」
ならその日は予め小町に弁当持たせておいた方がいいかもな。夜食用の下拵えもしておこう。
当日のプランを考えながらスマホのメモ帳に書いていく。
「じゃ、当日はそんな感じで」
「おっけー!あ、ゆきのん。お見舞いの品どうする?」
「そうね…土曜日に一緒に買いに行きましょう」
「そうしよっか」
そんな仲睦まじい様子を横目にボーダーのスマホを取り出す。そういえばそろそろランク戦シーズンが始まるな。
うちは現状、A級ではあるけど完全別枠扱いだからな。二人とも入院中だし、なおかつ俺も怪我が完治してない。今シーズンはランク戦無理だろうな。
…横山の目、どうなったかな。
ーーー
「ヒッキー」
下校時間になり、校門前で雪ノ下と別れる。
由比ヶ浜はバス停まで一緒に行こうといって来て、少し歩いたところで声をかけられた。その様子は少し神妙だ。
「どした」
「サッサンとなっちゃんさ…その、怪我結構酷いんだよね」
ああ、そのことね。
「…ああ」
「どんくらい酷いの?」
「…そうだな、見舞いに行くんだし知っておいた方がいいか。佐々木さんは左腕欠損、横山は眼球をやられた」
「えっ……欠損って」
「なくなったってこと」
「そんな…サッサン、もう料理できないの?」
わかってた反応とはいえ、少し心が痛む。ここまで他人のために悲痛な顔になれる由比ヶ浜は、やはり優しいんだろう。
「どう、だろうな。ボーダーの技術者達が義手を作ってくれてるらしいが、それがいつになるかはわからん」
そもそもそれが以前のように動くようになるかもわからない。あの人の今後は俺には計り知れない。
「なっちゃんは…目?」
「ああ。経過観察中だが、最悪失明らしい」
あの本人の様子からして、多分、もう……。
「二人とも、そんなに酷いんだ…」
「ああ」
「……サッサン、なっちゃん」
泣きそうなほど心を痛めているのがわかる。由比ヶ浜はとても優しい。だから友人の痛みを自分のものとして受け止めることができる。そういう人間は得てして貴重だ。一緒に痛みを背負ってくれる人というのは家族を除くと案外少ない。他人のために痛みを背負うなんてことは、本来面倒で、良いことなんぞなにもない。それでも、それをわかった上でそうしてくれる人がいる。それだけできっと二人は救われる。
「お前が二人の友人で良かった」
「え?」
思わず口にでた言葉を由比ヶ浜は上手く聞き取れなかったのか首を傾げる。
「んにゃ、なんでも。ま、基本病院って暇らしいからさ。話し相手になってやってくれ」
「う、うん」
「帰るか」
「あ、待ってヒッキー!」
夕焼けがもうほとんど沈んだ空を眺めながら、二人の身を案じた。
ーーー
帰宅してカマクラに餌をあげて、晩飯の準備をする。
適当に音楽を流しながら調理を進めていると、ボーダーの通知音が聞こえてきた。調理がひと段落したところでスマホを見ると、ランク戦開始の通知だった。
「そういや明日からだっけか」
他人事のように言っているが、事実他人事だから仕方ない。なにせ俺は今シーズン出ないわけだし。
「ん」
スマホが振動をはじめ、画面に映し出されたのは『綾辻』の文字。
「もしもし」
『あ、八幡くん。今平気?』
こうして綾辻の声を聞くのも久しぶりに思える。実際は本部で会っていたりしたが、プライベートの方で綾辻の声を聞くのは大規模侵攻以来だった。
「ああ」
『よかった』
「なんかあったか?」
『ううん。久しぶりに話したかっただけ』
「そうか」
ソファーに座ると、カマクラが横でまるくなった。
「忙しそうだな、最近」
『ん、まあね。大規模侵攻の後処理はまだちょっと残ってるから』
「手伝える事があったら言ってくれ」
『ありがと。でも大丈夫よ。もうほとんど終わったし、あとは上層部がやることだから』
「そうか」
『…二人は、どう?』
「佐々木さんは意識も戻って、とりあえず安静にはしてるけど元気そう。横山は…」
『…目、だよね』
「ああ。手術はしたみたいだが、あの様子からすると多分……もう、あんまり見えないんじゃないかな」
確証はない。本人もまだ経過観察の段階だとは言っていたが、そう言っていた横山本人がどこか諦めたような雰囲気があった。
『そう、なんだ』
「あいつが選んだことだ。『どうしてそんなことをしたのか』みたいなことだけは言わないでほしい。そもそもあいつが死ぬ可能性があるのにも関わらず防衛に参加したのは俺と佐々木さんのためだから」
『うん、わかってる。夏希も戦ったんだよね。その選択をした夏希達を誇りに思うし、尊敬する。私が同じ立場で同じ選択は多分できない』
死ぬ可能性がある。そう言われただけで戦うことをやめる人は多いだろう。というかほとんどやめるだろうな。当たり前だ。ボーダーはあくまで『死ぬ事がないから』学生のような子供に戦わせているし、本人達もそれを理解しているからこそ戦場に出れる。
だがその前提が崩れたら?きっと戦える奴は少ない。当たり前だろう。誰だって死にたくない。俺もそうだ。
でもその恐怖を乗り越えて戦った二人はすごい。できることをしたい。大切な人が戦ってるのに、自分だけ逃げるなんてことはしたくない。そんな思いを胸に戦った二人を俺は心から尊敬する。
「…本当にすごいよ、二人は」
『それは八幡くんもでしょ?』
「……」
『八幡くん?』
「俺は、二人ほど立派じゃねーよ」
俺が戦ったのは、人のためじゃない。自分のためだ。
あの時感じた恐怖は、死ぬ可能性がある戦場に行くからじゃない。
「俺は、独りになるのが怖かったんだ」
だから二人を死なせたくなかった。いつも側にいてくれた二人に、また側で笑って欲しかった。二人だけじゃない。小町、雪ノ下に由比ヶ浜、平塚先生、戸塚、あと一応材木座だけでなく、出水や米屋みたいなボーダーの仲間にも生きててほしかった。また話したくて、一緒の時間を過ごしたくて。そんな利己的な理由で戦っただけだ。
そんな立派なものじゃない。まだガキの俺が、ガキみたいに駄々こねるために戦った。結果として俺は大勢を救ったのかもしれない。でも、その大勢に俺の大切な人がいないなら、きっと俺はそれを『無意味』と思うだろう。思ってしまうだろう。
『そうかもね。八幡くんは、そういう理由で戦える人だから』
そんな俺の考えを見透かしているのかいないのか、綾辻は俺にそういった。
「二人ほど立派じゃねぇ」
『でもね、それが結果的にはみんなのためになってる。だからそんな風に自分を卑下しないで』
「……」
『そもそも!戦う理由なんて人それぞれなの!それに良いも悪いもきっとない。自分のためでも、人のためでも、守るために戦うことになるのは同じ。だから、それでいいんだよ』
人それぞれ、ね。
復讐、守護、愉悦、色々ある。
今回は運良く生きててくれた。今後二人が、みんながこうならないという保証はない。それでも、俺の行動に意味はあった。今はそれでいい。そう思えた。
多分、そんなことは心のどこかでわかってた。でも、誰かにそれをいって欲しかった。多分それだけだろう。ここ数日、うじうじ考えていたけど、結局俺は寂しがり屋なのかもしれない。以前佐々木さんにそう言われた。…いや、佐々木さん以外にも言われたかも?
「…だな。サンキュ、楽になった気がする」
『そう?八幡くん、昔からすぐ一人で抱えるから』
「ぼっちだからな」
『まーたそういって。今はたくさん仲間がいるでしょ?』
「…そうだな」
『そうだ、今度みんなでどこかいきたいねって話してたの』
「いいな、それ。そのみんなが誰になるかは知らんが」
『それはこれから決めればいいでしょ?みんな、生きてるんだから』
「そうだな」
その言葉に少し安堵しながら、綾辻との会話は続く。
そのまま小町が帰ってくる直前まで、綾辻と色々話をしていた。
*
数日後、ランク戦が始まった。
たまたま休日だったため、小町に弁当を持たせてそのあとは暇だったから本部の作戦室に籠もっていた。カマクラにはおやつあげてきたし、晩飯までには帰るから大丈夫だろう。
「今日は、どこがやるんだ?」
作戦室にあるオペレーターが使うパソコンをいじりながら今日のランク戦の組み合わせを見る。
ざっと見たが、今注目を集めているのはやはり玉狛第二だろう。なにせ新生部隊だし、色々と噂は絶えない(らしい)からな。その噂の玉狛第二の試合は昼の部らしい。つまりもう少し時間があるということだ。
「ふぅ」
背もたれに寄りかかり天井を見上げる。この作戦室はいつも佐々木さんか横山がいた。無論いない時間帯もあったが、佐々木さんがチームを抜けて、横山も入院している今、この作戦室に入ってくる人間はほぼいない。
「静かだな」
普段から騒がしいというわけではないのだが、なにかしら人の気配がしていたため静かだという印象はなかった。少し寂しい気もしたが、ある意味新鮮だし良しとした。
と、そこでポコンとメッセージ受信のウィンドウが開いた。メッセージの相手は熊谷だった。
メッセージを開いてみると、チャットの招待URLが貼ってあり、内容は『暇なら一緒にランク戦見ないか?』といったものだった。特に断る理由もないので参加することにした。
『お、きたきた』
『こんにちは、比企谷くん』
開いたウィンドウに熊谷と那須の顔が映された。
『オンラインになってたから呼んでみたの。ついでにランク戦でも解説してくれたらなーって』
ちゃっかりしてんなお前。いやいいんだけどさ。
「ま、いいけどさ。お前らは…那須の家か」
『そう。今日は朝の部だったからもう終わったわ。今日の反省も含めてね』
「…日浦は?」
あの元気な小町の友人の姿が見えない。志岐はいないのはデフォだとして、日浦がいないのは珍しい。
『ちょっと用事。ちゃんとランク戦には参加したから大丈夫よ』
………。
「そうか」
違和感はあった。だがそれを今二人が口にしようとしないのなら、俺がわざわざ聞くようなことでもない。言わないってことは、今は言うべきではないと判断したのだろう。
「志岐は…寝てるのか」
『多分ね。朝弱いし』
『ランク戦見るだけだからわざわざ起こすのも悪いしね』
『まーね。反省会とかミーティングにはちゃんと来るから大丈夫よ』
「あいつらしいわ」
『で?今日の注目はどこよ』
「言わなくてもわかるだろ?玉狛第二だよ」
『新しくできた玉狛の部隊よね。比企谷くん的にはどう?何度か交流あったんでしょ?』
交流…交流というのかな。まぁ交流か。模擬戦という名のサンドバッグにされてたんだし。主に空閑に。
「んー、まぁ特に言わなくてもすぐわかると思う。それにすぐに戦うことになるだろうよ」
『え?なに、そんなに強いの?』
「一人、A級レベルがいる。白い頭のチビだ」
『A級レベル…比企谷くんと、どっちが強い?』
「まだ俺だろうよ。だがあいつがトリガーの扱いに慣れて自分なりのスタイルを見つけたら、どうだろうな」
少なくとも寄られたら俺に勝ち目は無さそうだ。あの小柄で俊敏な動きを捉えられるほど俺の近接戦闘の能力は高くない。
『そっか…楽しみね』
『そうね、負けてられないわよ!』
「まぁ今日の下位の試合はすぐ終わるだろうな。さすがに下位レベルだったらあいつ一人で瞬殺できる」
『他の子は?やっぱ他の子も強いの?』
「んー、ぶっちゃけまだ弱いな」
三雲は正直まだまだ下位レベルだ。C級レベルよりは上だろうが、B級だとまだ低い方だろう。雨取もトリオンはすごいが、結局人を撃てないしまだまだ経験値不足。中位まで行ったらさすがに空閑一人でゴリ押しは無理だろう。
「頭使ったら中位でも勝ち抜けるかもな」
多分上位でボコられて帰ってくるけど。
『あんたがそれだけ言うなんて珍しい。よっぽど見込みがあるのね』
『比企谷くん、割と辛口だもんね』
辛口かもしれんが、二宮さんほどではないと信じたい。
『ねえ、比企谷くん』
「ん?」
『夏希ちゃんと、佐々木さんはどう?』
「佐々木さんは割と元気。昏睡してた割には本当に元気よ」
『…さすがね』
「横山は……」
***
数日前
小町と共に二人の見舞いに行った。
佐々木さんは特に変わらずなにかの調べ物をしつつ、友人が持ってきたという携帯ゲームをしていた。
横山は手術前だったため面会した時は普通だった。
「夏希さーん!」
横山の病室に小町が勢いよく突撃する。あんま騒ぐなよ。
「おー小町ちゃん!来てくれてあんがとー!」
「いえいえ!夏希さんのためですから!」
「おおー!嬉しいこと言うねぇ!私の妹にならない?」
「一考の余地がありますね…」
「おいこら」
なに妹口説いてんだお前。やらんぞ。そして小町ものるな。
思ったより元気だな。そう振る舞ってるだけかもしれんが。
「調子はどうだ?」
「ん?変わらないよ」
そう言って横山は包帯が巻かれた顔の左側を軽く小突いた。
「手術は、するんだよな」
「一応ねー。ま、望み薄って感じだけど」
「望み薄、ってことはもう見えないんですか?」
小町の悲痛な表情に困ったように横山は笑い、そして小町の頭を撫でた。
「先生が言うにはね、手術が成功してもせいぜい光を感じられる程度らしいの。ガチャ目の究極系って感じかな?」
「…そんな」
「悲しい顔しないで小町ちゃん。そりゃ、私だって見える方がいいよ。でもね、私の眼球一つでたくさん助かったって考えたら、そんなに辛くないんだ」
横山は、後悔してない。それがよくわかる。
横山の選択はきっと誰でもできるものではない。大人でも難しいだろう。それをやってのけた横山が悲しまないでと言うのだから、本人の前でその選択のことをどうこう言う気はないし、それを選択した横山を誇りに思う。
「でもやっぱ怖かったわー。トリオン体とはいえ、黒トリガーとの対峙はもう二度としたくない。よくできるわねあんなのの相手」
「俺だって好きでやってるわけじゃねぇ」
「にしし」
そう言って笑う横山は髪が邪魔なのか髪をかき上げた。
「あー、小町ちゃん。ヘアゴムある?」
「ありますよ!」
「ごめん、一個もらっていい?この前切れちゃって」
「大丈夫です!」
「ありがと」
「あ、小町が纏めてあげますよ」
「ほんと?じゃ、お願いしようかな」
「お任せを!」
小町はヘアゴムを手に横山の後ろに回り、髪を櫛でとかしはじめた。
「夏希さん本当に綺麗な黒髪ですよね〜」
「ふっふっふ、髪は女の命なのだから手入れは欠かさないよ?ま、最近はやってないけどね」
「手入れしてなくてこれですか⁈羨ましい〜」
「なーに言ってんの!小町ちゃんもいい髪してるじゃん!今度、私おすすめの手入れ方法教えてあげるよ?」
「本当ですか⁈ぜひぜひ!」
仲睦まじく会話する横山と小町を見て少し安心する。確かに横山の左目はもう十全に機能することはないのかもしれない。
それでも横山が選んだことを俺は誇りに思うだろう。これから先もずっと。
「あ、そーだハッチ」
「ん?」
「私が復帰するのは、先の話だけどさ。これからもよろしくね」
「おう」
「あと今度あんていくでバイトしてる女の子紹介して」
あんていくでバイトしてる女の子?ああ霧島のことか。
「トーカさんのことですか?」
「んー、多分そう。あの片目隠してる」
「いいけどなんでだ?」
「あの子の髪型、ちょっと参考にさせてほしくてね。あの髪型どうなのかちょっと聞きたいの」
「なるほどな。わかった、連絡してみる」
「よろしく〜」
後で知ったが、左目はもう十全に機能しないどころか跡も残るらしく、それを不快に思ったりする人がいるかもしれないと横山は考えて霧島に髪のことを聞こうとしたらしい。まぁ傷跡が怖いとかいう人もいるかもしれんしいい配慮かもしれん。
「大丈夫そうだな」
「うん、大丈夫よ」
「よかったよ」
そういうと横山は太陽のように笑った。
***
「ま、こんな感じで横山は大丈夫だ」
『そう。夏希ちゃんが大丈夫でよかった』
無事かどうかはわからんが、とりあえずピンピンしてるからいいだろう。
「今度見舞いにでもいってやってくれ。喜ぶよ」
『もちろん。普段から良くしてもらってるからね』
『あ、そろそろ始まるよくまちゃん』
『あ、そう?んじゃ比企谷、解説よろしく』
「はいはい」
その後、空閑がものの数分で全員倒して下位のランク戦はすぐに終息し、玉狛の新人がやばいと一躍有名人になってた。
要望があったので今回の大規模侵攻での戦功をのっけときます。
特級戦功
比企谷八幡
佐々木琲世
空閑遊真
太刀川慶
三輪秀治
天羽月彦
一級戦功
出水公平
米屋陽介
二宮匡貴
嵐山隊
小南桐絵
横山夏希(オペレーター)
迅悠一
東春秋
二級戦功
烏丸京介
木崎レイジ
三雲修
柿崎隊
那須隊
奈良坂透
古寺章平
来馬隊
大規模侵攻編でずっとワールドトリガーサイドばかりだったからしばらくガイルサイドに焦点を当てるつもりだったのに、バレンタインイベントってよく考えたら2月なんですよね。ワールドトリガーサイドはB級ランク戦がメインだし、そこまで絡めることもないかなと思ったんですけど、なんだかんだでワールドトリガーサイドも結構書くことになりそうです。どうにかしてガイルサイドとワールドトリガーサイドのキャラを絡めていきたいんですが…難しいですね。
とりあえず次回もよろしくお願いします。