「どうした?朽木。そんな怖い顔をして。俺はただ、仲間の首を持ってこいと…」
「海燕殿は自分を見逃す代わりに仲間を差し出せなどと、冗談でも口にするはずが無い。海燕殿を侮辱するな!」
袖白雪を構え、海燕殿の名を語る敵に切っ先を向ける。
「それでこそ、朽木だ」
また、懐かしい声がする。
心で否定しても目の前で起こる現実がこの男を海燕殿と叫び続ける。
「俺は志波海燕だ」
「その名を口にするな!!」
「まあ、待て話を聞け。って聞かないか。……なら、懐かしいものを見せてやる」
男は斬魄刀を回転させる。
そしてその動作を私はなんども見たことがある。
「水天逆巻け『捩花』」
それは海燕殿の斬魄刀の始解だった。
海燕殿はそれで幾つもの虚をたおしてきた。
独特の高い構え。
片手首を軸にした回転を主体とする舞を思わせる槍術。
槍撃と共に巻き上げられた波濤で敵を圧砕、両断する。
そんな技の数々を思い出させる。
「懐かしいだろ、朽木。本当の事を話してやるよ。とりあえず実力も確かめた。心も変わってねぇ。いや、強くなったな、朽木」
優しい声を見せる、男。
先程までとは明らかに違う。
懐かしさはあった。
しかし、どこか確かめるようなその口調に違和感はあった。
警戒は怠らない。
「まず、俺は志波海燕だが、志波海燕じゃない。身体は虚だ。それには俺が死んだ後の本当の話をしなけりゃならねぇ」
「あの虚が藍染の実験体ってのは話したな。ここ虚圏で再構成された。しかし再構成っつたってそれは死体でしかない。蘇る訳ではねぇからな。だが死体だからこそ有用性を持つ破面……十刃がいた」
「そいつは
「後は分かるな。志波海燕として戻ってきたあの虚を奴は喰らった。普通の虚ならそのまま死神の力を手にしたといい気になるもんだ。だが、奴は研鑽を続けた。死神と同じように斬魄刀と対話しようとしたんだ」
「そして俺は奴と会った」
「会った?それではまるで…」
「俺は捩花に救われたんだ。精神を捩花が保存した。捩花の精神と引き換えにな。そして俺は捩花になった。そして奴と対話した」
「それで海燕殿は……」
「誰が虚の手助けなんかしてやるかとそこでぶっ殺そうとしたんだがな。なにやら気になること言いやがるし、それが嘘にも思えないし、とりあえず協力体制をしいたんだ」
「し、信じたのですか!?虚の言葉を!」
「しょうがねぇだろ。殺す気だったが倒されたしな。それに俺はきちんとお前に預けてきたからな」
「え?」
「俺の心は朽木、お前に預けてきた」
「あ…」
私は思い出す。
生前、海燕殿に話された話を。
私が何のために護廷十三隊にいるのかを。
戦って守るためにいるのだと。
心を守るために戦うのだと。
当時はくさいセリフだと思ったものだ。
人と人がふれあう時、初めて心が生まれる。
私の心がここにあるならそれが私がここにいるべき理由だと。
そして、絶対に1人で死ぬことはしていけないとも。
心を預けるために。
仲間に心を預ければ、預かったものの中で心は生き続ける。
そう、死ぬ間際にもそう言われた。
なぜ、忘れていたのだろう。
心の在り方を。
「アイツ朽木がそれを忘れてるだなんて言いやがってよ!そんなわけ……あったみたいだな…あーあ、折角の先輩のありがたい言葉だってのによ!」
「か、海燕殿っ!!申し訳ございません!!!」
「………よかったぜ、朽木。お前が無事で…」
「海燕殿…」
「ごめんな、朽木」
殺気は無い。
敵意も無い。
合ったのは謝罪だけ。
「海燕殿?」
意識が薄れていく。
思考がまとまらない。
ここまで来て、嘘だったのか。
そんな筈はない。
それならそこにいる男は酷く邪悪な笑みを浮かべる筈だ。
そんなことをせず、こちらを悲しそうな目で見つめている。
そして目を伏せ、言葉を紡ぐ。
「すまん、朽木。ここでお前は1度死にかける必要がある。心苦しいがな。騙してばっかだが、朽木。信じてくれ」
その言葉を聞き、私は意識を失った。
「カイ、お疲れ様。感動の再会はどうだった?」
暗闇の中からアーロニーロが現れる。
「嬉しくはあった。しかし、本当にここに来るのは早すぎると言わざるを得ない。冬までなぜ、待てなかった」
「そのせいで計画が前倒しだよ。いや、お陰かな」
やれやれといった風に腕を上げるアーロニーロ。
しかし、その顔は笑っている。
「さて、次の準備だ」
俺は朽木を抱え、アーロニーロについて行く。
闇に完全に2人が入るとそこは音の無いただの空間となった。