「………ィン!リィン!起きなさい、リィン!」
「ん、おっ!?」
自分を呼ぶ声と体を揺さぶられ、目を覚ます。
辺りを見渡すと、見知らぬの公園の景色が目に映った。
「全く、起こしてと言ったのはそっちじゃない。中々起きないから、苦労しましたわよ」
「スマンな」
私怒っています、とアピールするリィに謝罪し、トリスタに着いてから始業式までに時間があったため、近くの公園のベンチで休憩していたらシエスタをすることにしたことを思い出す。
時計を確認すると、予定していた時間より少しオーバーしてしまっていた。
「ほら、行きますわよ」
「ああ」
差し出された手を握り、二人で咲き誇るライノの並木道を歩き出す。
「それにしてもこの景色、綺麗ですわね。風流、と表現するのでしたっけ?」
リィが話しかけてくるが、先程夢で見た過去の事で考え込んでいたため気づかなかった。
あの時、俺達は必死に戦いこの世界を護り切った。でも、あの選択が正しかったのかを不意に疑問に思ってしまう時がある。
「ちょっと、リィン。どうしたのよ?」
「悪い。ちょっと考え事していてな」
「ふーん。ま、何度も言いますけど、私は後悔していませんわよ。あの子の命も救えましたし、何より胸を張って貴方の隣に立っていられる。私は、それで十分救われてましてよ」
恥ずかしかったのか、顔を俯かせて握る腕に若干力を込めるリィ。
その様子を見て、改めて自分は果報者だと実感する。
「サンキューな。これからも頼むよ」
「もちろんですわ。ところで、用事ができましたので少しばかり手を放して欲しいのですが」
「入学初日に暴行事件なんて起こさせねえよ!」
俺達の視線の先でリムジンもどきの導力車から降りている、青い髪をポニーテールにしている少女に懐からリンゴが描かれた錠前を取り出したリィが行おうとしている凶行を止める。
このリィの様子から見ると、アルゼイド関係の人かな?
「冗談ですわ。これから学友となるアルゼイドの小娘如きに、マスターの《鉄騎隊》筆頭たる私が大人げない真似をする筈がありませんわよ」
「だといいんだけどな」
そうこうしている間に、少女は校内に入って姿を消し、俺達も校門を潜る。
一抹の不安も残るが、彼女持ち、将来はユミルの領主と安泰、これ以上のない恵まれた環境に俺はいる。
「……何事も無ければいいんだけど」
「無理ですわね。私も知らされてませんけど、《蛇》から監視を受けてる時点で何か周りで起きるのは確定ですわね」
「だよなぁ」
俺って、どうしてこうも平凡から見放されているのかやら。転生している時点で、平凡もあったもんじゃないけどね!
少し歩くと、遠目では見えなかった校舎の全容が見えてきた。
「でかいなー。うちの屋敷以上の大きさだな」
「だから、アンタの比べる対象は例外物件よ」
「えーと、新入生のリィン・シュバルツァー君とデュバリィ・シュバルツァーちゃんかな?」
リィと校舎を見上げていると、正面から茶髪の小柄な少女と黄色いつなぎを来た少年が近づいてきて声を掛けられた。
「ええ、如何にも私はデュバリィ・シュバルツァーです」
「おい待て。いつからお前は我が家の養子になった!?」
「養子じゃないわ!めかk…愛人よ!!」
「予想を斜め上行く回答だった!?」
「ちなみに、本妻はアルf」
「それ以上は言うな!!」
何か出てはいけない名前が出そうになるが、リィの口を塞いで強制的にカットする。
よし、俺は何も聞いてない。何かの弾みで義妹がポロッと漏らした、ハーレム計画のことなんて思い出してないんだからな!!
何はともあれ、リィン・シュバルツァー、16歳の春。この瞬間、一度停滞していた運命の歯車が動き出す音が聴こえたような気がしたのだった。