蒼穹の艦これ   作:ザミエル(旧翔斗)

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注意:この物語はファフナーの世界観が混じっています。
そのため深海棲艦が同化を仕掛けたり艦娘が主砲以外の武器を使ったりします。
それらが嫌な方は見ない方がよろしいかと。
なお、フェストゥムとかファフナー自体は出ません。
ご安心を。



開―始まり―始

 

 

 

海は黒く染まっている。

ダラダラと黒い液体が流れ落ち、しかし水ではない故に、水よりも比重が軽い故に海面を黒く染めている、それはとても油臭く――――船の中から溢れ出ていることから重油であると分かる。

 

―――その船は大破を通り越してもはや轟沈しようとしていた。

 

艦橋が潰れ、艦底に穴が開いたことによる浸水で乗組員は殆ど死に絶え、残っているのは甲板に出ていた上で、とても幸運に恵まれていたその男、初陣で何もすることが無く甲板にいた男だけだった。

 

だが―――これから死にゆくことを考えた時、その男は本当に幸運だったのかは定かではない。

むしろ生き地獄を味わう分不幸なのかもしれない。

だがそれでも男は今、必死に生きようとしていた。

 

「くそ―――チクショウ」

 

言える罵詈騒音は尽き、もはや陳腐な言葉しか出ないような状態。 幾重にも体に刻まれた傷に身体の反応は鈍く、遅々として動かない。

故に――――敵は彼を逃すことなどなかった。

 

「あ、あぁあ――――」

 

恐怖に男が目を見開く。

男の視線の先には等身大の異形がいた。

それが男の、男が乗っていた船を大破―――否。 轟沈まで追い込んだたった一体の異形だった。

 

『giigaa――――a anataha』

「な、こいつ、しゃべッ!?」

 

うめき声のような、鉄が擦れるような音が響き―――よく聞き取ればそれは声の様に聞こえる。

それを聞こうとしたのが、男のここまでの運の尽きだった。

 

『anataha――――ソコニイマスカ?』

「ッあ――――ひ」

 

男がそこから先の言葉をいう事はない。

言葉の意味を理解し、それに対する答えは当然だと思ってしまった(・・・・・・・)その瞬間―――男はどうしようもなく終わってしまったのだ。

口を大きく開き近づくそいつに男は何も出来ることはない。

逃げることも、何もかも。

ただそれでも男に変化は起きる―――黒い瞳は金色に輝き始め、体全身から翠色の結晶が生え始めて激痛をもたらす。

 

「いたい―――心が消える……これが、深海棲艦―――いやだ、助けて……父さん、母さん―――姉ちゃ……」

 

最期の言葉は家族に助けを求めるだけの言葉、それだけの恐怖に満ちた声だった。

同時に、結晶が生える音が響く中歯と歯が噛み合う音が響き、何かが潰れた音が響いた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

ガラガラと揺れる馬車の中で待ちぼうけて幾時間か?

鞄に入れてある書類はとうの昔に読み終え、何度も読み返し内容をほぼ暗記してしまったほどだ。

 

「――――暇だ、それに尻も痛い」

 

男はそう漏らす。

そこに不平不満があるわけではない、ただ現実問題として代わり映えのしない一面の畑とかすかに見える海の景色に飽きているだけだ。

 

「んぉ、すまんのぉあんちゃん。 おそうて」

「あ、そんなことないですよ御者さん。 行き先が近いから乗せて貰ってるのにそんな」

 

大分年を取った御者の申し訳なさそうなセリフが聞こえて振り返りながら弁解しつつ、しかし彼は変わらず退屈に飽き飽きとしていた。

そんな様子を理解している御者は眉尻を顰め、再び謝るばかり。

 

「ほんとにのぅ……わしがお前さんくらいの時は‘くるま’というもんがあってそれにのってきゃパーッと小一時間なんじゃがなぁ」

「車ですか……確かに速いかもしれません。 でも、こんな荒れ果てた道じゃあ今の馬車の方が便利ですよ」

「んぉ、本当かのう? そいつは重畳重畳――――と、もうそろそろつくぞい」

 

安心したのか御者が笑い、男また微笑む。

そして御者の台詞に顔を馬車の正面へと向ければ寂れた港町があった。

 

「……ここが?」

「うむ、ここが横須賀鎮守府――――正式には元横須賀鎮守府か横須賀鎮守府跡地と言った方がいい様相じゃな」

 

そう言われるほどには事実、横須賀鎮守府であろうこの場所は寂れに寂れている。

人影は少なく、建物と呼べるものは建物と呼ばれた物がほとんどだ。

 

――――つまり風化している。

 

本当に此処なのかと思わず書類を再び見てしまうほどに本当に酷い有様だった。

そんな有様に若干唖然としている間にも馬車は動き、そして止まった。

 

「到着、じゃな。 わしは此処から資材搬入用に別の入り口にいかなきゃなんじゃが……お前さんはこっちの方がいいじゃろう?」

「え、ええ。 ありがとうございます―――えっと」

「おおそうじゃった、思えば未だに名乗り忘れとったな―――わしは日野洋治、まあしがない爺さんじゃよ。 お前さんは?」

「ありがとうございます日野さん。 自分は生、皆守生(みなもりしょう)です」

 

馬車を降りてから改めて一礼する。

生が顔を上げたところで若干日野が目を大きく開けていた。

 

「む、すまんな……でもそうか。 お前さんが……」

「?」

「ああ気にせんでええ」

 

日野の様子に若干疑問を覚えながらも歩き出す。

しかし、歩いて数歩で生は直ぐに日野に呼び止められて振り向いた。

少しだけ困ったような笑い顔の日野は一言だけ告げた。

 

「お前さんは知るじゃろう。 此処から先に進んだ時、絶望の中に希望が生まれることを」

「それは一体――――?」

「その答えを知るのはお前さんじゃよ――――そいじゃあの」

 

疑問の答えを言わず日野は去っていき、釈然としない表情のまま生は蒼穹を眺めた。

快晴で―――とても平和に見えた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

書類の中に一緒にあった地図を頼りに5分ほど中を歩いた感想はやはり誰もいないという事だった。

人っ子一人、誰一人として見かけない。

故に根拠のない疑惑は疑念に代わっている。

 

それは本当に此処、横須賀鎮守府に深海棲艦を打破しうる新兵器があるというのか? ということ。

 

書類には機密情報故に書かれていないこと。

それはつまり新兵器云々というのは単なる嘘偽りなのではないかという疑念は芽生え、疑問に思いながら横須賀鎮守府本庁、陸側に立っている風化が少し遅れているその建物の中に入る。

やはりそこも埃臭く、手入れがあまりされていないように見え、疑わしさは天井登りだ。

 

「司令室は―――直ぐ近くだな」

 

案内板を確認しながら生は転属用の書類を取り出して直ぐ近くの指令室へと向かい、ドアの前に着いた所で鞄に入れていた帽子を被り、四回ドアを叩いた。

 

中から入れと言葉が響き、人がいたことに生は少しだけ安心感を覚えつつ、一拍おいて部屋に入室する。

部屋の中はやはり簡素、そして中央奥の椅子には初老の男が座っていた。

堂々と中央まで歩き、帽子を脱いで敬礼する。

 

「失礼します。 大本営の任に従い出向しました、海上防衛軍:戦術指揮の『皆守 生』少尉であります」

「横須賀鎮守府総司令官兼技術開発部局長代理『真壁 史彦』だ――――まずは書類を置いてそこの椅子に座ってくれ」

「はッ!」

 

書類を卓上に置いてから下がり、椅子に座る。

生は司令が書類を読んでいる間にざっと目を回して室内を確認して、やはり彼以外に人がいないことを確認したうえで発言に疑問を覚えた。

 

―――技術開発部? 何もない此処で?

 

ますます胡散臭いと思いつつ、表面上は態度を崩さないようにして待ち、生は司令が書類を読み終えるのを待った。

 

「―――確認した。 さて、色々話す前に君はまずこう思っているだろう。 ―――人っ子一人いない此処で本当に兵器の開発が行われているのか? と」

「―――はい、見た限りでは誰も開発などを行っているようには見えなかったので」

「当然だな……だが兵器開発を行っているのは事実だ。 ―――まずは場所を移そう」

 

苦笑しながら司令は引き出しからスイッチを一つ取り出し生の目の前で押し込んだ。

途端、司令室の壁の一角がスライドし、エレベーターが現れる。

 

「来たまえ、この先が真の横須賀鎮守府だ」

「は、はい」

 

想定外の光景に生は若干フリーズしかけながら、しかし司令の声に反応ししたがってついていき、若干大きめのエレベーターに乗る。

司令が操作し、ガコンと大きな音を立ててエレベーターは下り始めた。

下降し始めて数秒後、静まり返ったエレベーターの中にため息のような音が響く。

司令は振り返り、若干疲れたと言った表情で生と目を合わせた。

 

「すまない、本当はもう少しゆっくりとしたい所だったのだが……奴らに気付かれるわけにはいかないからな」

「奴ら……深海棲艦の事ですか?」

「それもある、だがそれ以上に、他国にこの兵器の事を知られるわけにはいかんのだ」

 

ここで生は新兵器についての疑いをようやく捨てた。

現在まだ生存が確認されている国―――ロシアやドイツ等が情報を盗ろうとする程の物。

それ程の物であるならば疑う余地はないと。

 

そう考える間にエレベーターは止まった。

扉が開いた先は―――広い部屋だった。

幾つもの電子機器や机が並び、何十人もの人が作業していた。

そこは、都でも見ないほどに最新の、先端技術の山だと理解できた。

司令は椅子に座り、改めて振り返った。

 

「改めて言わせてもらおう。 こここそが横須賀鎮守府、そして日本を護る最新兵器の開発を行っている技術開発部だ」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「ふざけているのですかッ!」

 

怒りを隠しきれずに叫ぶ。

卓上に書類が叩きつけられ、散らばっていく。

だが、それに何かを思う以上に我慢ならないと生の怒りが噴出する。

面と向かい合う司令は、しかし憮然と告げた。

 

「事実だ。 ―――これが私達が10幾年を掛けて生み出した新兵器。 深海棲艦の読心と同化という恐るべき能力に対抗できる在りし日の艦の名を冠する乙女達艦娘とそのサポート用の為のジークフリードシステムだ」

 

艦娘。

受精卵の時にかつて日本が鹵獲した深海棲艦の核を少量投入したうえで成長した結果、海上での戦闘能力と海上で戦うための艤装への適性を手に入れた少女と書類には記されていた。

そして実験中に二人、命を落としたと。

人体実験、そんな非道な事許されるべきではない。

 

「人命を弄ぶなど何を考えている!? 上に、大本営にこのことを告発させてもらう!」

「上はこのことを承知している! そうでもしなければ戦えんのだ!」

「っ!? だからといって……一度も実戦に出したことのない、さらに言えば子供を戦わせるなど!」

「もう後がないのだ! 核も何もかも、試しても無駄だったのは知っているだろう―――毒を制するには毒しかないのだ」

「―――――っ!」

 

反論したい、だが反論できない。

生の理性的な面ではこれは効果的だと書類を読み込んで結論は出ている。

だが―――それでも人道的観念ではそれは許せることではない。

受け入れることは出来なかった。

 

 

 

 

 

―――だが、状況はそれを許さなかった。

突然CDC(総合管制室)に鳴り響いた警告、それが示すのは―――。

 

「真壁司令、東京湾近郊のバード(監視装置)の索敵に艦あり! 深海棲艦ですっ!」

 

すなわち敵の出現だ。

 

「ヴェルシールド展開、並びに迎撃用意! 艦娘の状況は!」

「現在艤装をティターンモデルからノートゥングモデルに改装中、出撃は不可能です!」

「―――敵の動きが予想以上に遥かに速い」

「第一ヴェルシールド突破されました!」

 

直ぐ様司令が対抗の為に指令を飛ばすが芳しくないことが分かる。

新兵器である艦娘も艤装の改装で出せない。

つまり対抗策はないのだ。

 

にわかに騒然としてきたCDCには焦りが広まりつつあった。

 

「―――アタシが出るよ」

 

そんな中に、幼い少女の声が響いた。

その声に司令は動きを一瞬止め、直ぐ様声の発生した方向、つまり後ろのエレベーターの横の出入り口へと目を向けた。

生もまた目を向けて―――そこに茶髪に赤い眼鏡を掛けた13歳程度の少女を見た。

暗い、酷く沈んだ瞳を司令へと目を向けていた。

司令が、呻いた。

 

「――望月、だが艤装は」

「めんどくさいけどアタシの艤装はまだコアの摘出、および移植の段階に行ってない。つまりまだティターンモデルとして直ぐに動かせるはずだよ」

「―――分かった。 望月の艤装の準備を始めろ、望月は出撃ドッグに急げ」

「あいよ――――っと」

 

去ろうとした望月はそこで一旦足を止めて、生の前に立った。

 

「……なんだ」

「あんたが新しいシステム担当、司令官でしょ? めんどくさいけどアタシも実戦は初陣だから―――任せたよ」

 

一度頭を下げて、今度こそ望月は走って行った。

 

―――彼女は戦う覚悟を決めている。

 

生はそれを理解して、辛いと感じた。

だが、もう迷う時間はなかった。

 

「―――司令、この一件、了承します」

「感謝する、皆守少尉。 書類の通りだ、ジークフリードシステムに急いでくれ」

「了解です」

 

 

《こうして僕たちは戦うことを選ばされた。 この先が絶望か、地獄か。 幼い僕たちにはまだわからなかった》

 




続きは未定です。

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