今日は高校の制服ではなく、吸血鬼殲滅部隊“月鬼ノ組”の制服に袖を通し、家を出る。
左側に刀“獅子斬童子”を吊り、銃“六道煉獄”を右側に付けたホルスターに納める。
壁近くまで移動する鉄道に向かい、与一と君月が来るのを待つ。
「あ、廉君!おはよ!」
制服の上から丁寧に外套を羽織り、制帽を被った与一が到着する。
「おはよう、与一。制服似合ってんじゃん」
「ありがとう。廉君も似合っててカッコいいよ」
暫く二人で雑談してると眠そうな表情で君月がやってくる。
「君月君、おはよ」
「眠そうだな、君月」
「お前らか、おはようさん」
「それじゃ、壁近くまで移動しながら任務の話でもしようか」
やって来た電車に乗り込み、二人が席に着くと、俺は向かい側の席に座る。
「今回の任務は新宿奪還を目論む関西方面の吸血鬼の調査だが、具体的なことは後で説明がある。それと、俺達は“月鬼ノ組”シノア隊の一員になる。階級は俺の方が上だが、戦闘指揮ならシノアの方が優秀だ」
俺の話すことに二人は真剣に聞く。
「それと、独断専行だけはするな。必ず部隊で固まって行動すること。壁の外で一人になった瞬間、死ぬと思え。いいな?」
そう言うと、二人は頷く。
「よし。それじゃあ、最後に一つ…………死ぬなよ」
そう言い、壁近くまで着いたので電車を降りる。
二人を連れゲート近くまで行き、警備兵に近づく。
「吸血鬼殲滅部隊“月鬼ノ組”です。外へ出ます。ゲートの開放を」
そう言うと警備兵はこそこそと話し出す。
「吸血鬼殲滅部隊ってあの………」
「まだガキだぞ」
「馬鹿。あそこにいる人、橘廉也准尉だぞ!」
「橘って、帝鬼軍最強って言われてる……!?」
警備兵たちがヒソヒソ話して数秒後、ゲートが開かれ、俺達は荒廃した世界を目の前にする。
下に降り、シノアと優の到着を待ってるとグレンが金髪のツインテールの女とやってきた。
「三葉か」
三宮三葉。
三宮家の人間で、吸血鬼殲滅部隊に13の時に入隊したエリートだ。
「グレン中佐、納得できません!」
何かグレンと言い合いしてる。
いや、言い合いって言うか、三葉の文句か?
その時、シノアと優も到着し、俺達の所に来る。
「よぉ、重役出勤だな。シノア隊長」
「重役ですからね」
俺の皮肉をひらりと躱し俺の横に並ぶ。
「あ、優君!」
「遅ぇよ、馬鹿優」
「誰が馬鹿優だ。てか、アレ何?」
優はグレンと三葉の方を見て言う。
「百歩譲って新人教育の分隊長をやれって言うなら分かりますけど、寄りによっていつもヘラヘラしてる柊シノアが分隊長だって言うじゃないですか!」
三葉は妙にシノアをライバル視してる。
何を考えてるんだ、グレンは?
「おお、揃ったか」
グレンが階段下から俺達を見上げるように言う。
「現れたな!柊シノア!」
「はぁ~い、現れましたよみっちゃん♪」
三葉はシノアを指差し、近寄る
「喧嘩すんなよ。三葉はこれからお前の分隊に…」
「もちろん大丈夫ですよ、中佐。私は大人なので実力のない負け犬の遠吠えなど――」
シノアの言葉に三葉は鬼呪装備を出して怒る。
「ぶっとばす!」
「あははぁ~」
シノアは楽しそうに“四鎌童子”を出し、三葉の攻撃を受け止め、二人は打ち合う。
「はぁ」
グレンはため息を吐きながら刀を抜き、俺も同じように刀を抜く。
そして、グレンはシノアの、俺は三葉の鬼呪装備を弾く。
「これ以上俺に迷惑掛けるっつうなら、独房に入れんぞ」
「ありゃりゃ」
シノアは首をグレンに捕まれ、大人しく下がる。
「随分と過激な挨拶だな、三葉」
俺は片手で三葉の頭を掴んで言う。
「おに………廉也か。お前も一緒なのか?」
「ああ、そうだ。ま、よろしく頼むぜ」
そう言って、俺は刀を鞘に戻し、三葉の頭を離す。
二人の喧嘩を治め、全員が整列する。
「俺は別ルートで新宿に向かう。その前に、改めて言っておく」
グレンがそう言い、三葉の頭をポンポンと叩きながら言う。
「こいつが新しい仲間、三宮 三葉だ。“月鬼ノ組”は基本五人一チームで動く。このチームは六人だ。五人未満で武装した吸血鬼とぶつかると殺される可能性があるからな。この城壁を出た瞬間からどんな状況でも決して仲間割れや単独行動は許さない、いいか?」
「いいかね?Mr.猪突猛進君?」
シノアが俺の隣の優に尋ねる。
「はっ!約束できねぇな。目の前に吸血鬼が居たら、俺は一人で――」
優がそう言った瞬間、三葉は優の横顔に蹴りを入れる。
優は咄嗟に、手を上げ蹴りを防いだ。
「何すんだよ?」
「ふぅん、反応はいいな。だがあたしはお前のような馬鹿が一番嫌いだ。お前のような奴が部隊を危険にさらす」
三葉は優に向かってそう言い放つ。
俺はその光景を眺めて、口を開いた。
「三葉、そろそろ足を下ろせ。中見えてんぞ」
「見え?……………ッ!!?」
三葉は自分の今の体勢に気付き、顔を真っ赤にしてスカートを押さえた。
「スカートの中がスパッツとはいえ、女があまり男に向かって足を上げるな。はしたないぞ」
「ううううううううるさいぞ!お兄ちゃん!」
その瞬間、空気が凍った。
「「「お兄ちゃん?」」」
優、与一、君月の三人が口を揃え言う。
グレンは口を開け「は?」みたいな感じになってる。
「えっとだな。俺と三葉は昔、一緒に仕事してた時があるんだよ。その時、色々あってな。三葉は俺の事をお兄ちゃんって呼んで慕ってくれてるんだよ。同い年なのにさ」
そう説明すると、シノアはにやっと笑い、未だに顔を真っ赤にしてる三葉に近寄る。
「おやおや、みっちゃん?今、廉也をお兄ちゃんとよびませんでしたか?
「よ、呼ぶわけないだろ!」
そう言っても、顔を真っ赤にしてたら意味ないぞ。
「そんなこと言っちゃって。そんな事言ってたら廉也から嫌われますよ」
「え!?ご、ごめんなさい、お兄ちゃん!もうあんなこと言わないから!」
驚きの豹変ぶりだな。
優たちはと言うと、後ろの方でコソコソと話してた。
「お兄ちゃんだってよ」
「ブラコンかな?」
「ブラコンだな」
聞こえてるぞ。
「あはっ、みっちゃんはああ見えてちょろいですからね~」
「可愛い妹分だろ?」
泣きそうな三葉の頭を撫でながら言う。
「可愛いだってよ」
「シスコンかな?」
「シスコンだな」
「よぉし、お前ら。そこに直れ。全員ぶっ倒す」
三人に向かって刀を抜き、怒気を放つ。
三人はすみませんでしたと、土下座をする。
するとシノアが何故か俺の方を不服そうに見て来る。
どうした?
「廉也は妹萌えなんですか?」
「は?」
コイツは何を言ってるんだ?
「えい!」
するとシノアはそう言って、俺の右腕に抱き付いて来る。
「おい、シノア。何をして「お兄ちゃん♡」
全世界が固まった気がした
グレンは口を開け固まり、優たちも口を開けて固まった。
そんな中、一人だけが声を上げた。
「こ、こらシノア!私のお兄ちゃんに何抱きついてるんだ!」
「いいじゃないですか。別に減るもんじゃないですし」
「お兄ちゃんが困ってるだろ!離れろ!」
「い・や・で・す」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ三葉、三葉の言葉をのらりくらりと躱しつつ、俺に抱き付くシノア。
騒がしいな………………
「…………はぁ~。ここ………壁の外なんだが…………」
グレンの声が寂しく、そして儚く俺の耳に届いた。
こんな部隊で大丈夫か?