本当に同じ中学校の敷地内にあるのかという程、先程のなだらかさとは打って変わった、急過ぎる山地の道を歩く。道の上は均されておらず、所々岩で出来たつまづきポイントが見受けられた。というより、そもそもここは道なのかという疑問が浮かぶ。まぁこれも、E組を最底辺に止め、他者の生徒達の軽蔑対象にする為の作戦の内なのだろうが。
「……全部、糞両親の所為です」
恨めしく思いながら、自身の右手を眺める。
そう、全ては私の両親の所為。春休み中に、両親がベッドの上で身動きが取れず、唯ぼんやりと目を空間の中で彷徨わせていた私に、笑顔で言った言葉を思い出す。
「大丈夫よ、千鶴。もう少しで、頑丈な身体になれるから」
「そうだ。父さんに任せてくれれば、お前の身体はもっと、もっともっともっと強くなる」
ガッ……‼︎
メキメキィ……‼︎
私の拳で軸を崩された1本の木が、大音量の悲鳴を上げて、道の外に向かって倒れ込んだ。が、周りの木々に軌道を阻まれ、途中で止められてしまった。木の葉の緑と、幹の破片の茶が宙を舞い、地に引きつけられていく。
元々病弱だった私が悪いなんて微塵も思っていない。誰が好きでこんな身体になるもんか。
私は、貧弱な身体で産み落とされた。しょっちゅう病気にかかり、学期の終始入院、なんてザラだった。両親は、科学者としての仕事の合間、春休み前までは献身的に看病をしてくれた。しかし、ある1日で、家族としての愛が崩壊する。
私を、改造したのだ。
父が見付けた、細胞を活性化させ、ありとあらゆる肉体的能力を大幅に増幅させるチップ。疲れ果て、狂う寸前の2人にとって、これは狂気の滑潤油と言えただろう。早速、私の身体に埋め込んだ。するとどうだろう。私の身体は、今迄の病弱っぷりは何処に消えたと聞かれる程、強くなった。そう、免疫力だけでなく、筋力、身体能力も……。それを知り、怒り狂っていた私を見兼ねたのだろう、両親は私を捨て、身勝手にも消えた。そんな両親を恨むのは、筋違いなのだろうか?
「少し……、騒ぎ過ぎましたかね」
辺りを見回して、溜息をつく。唯でさえ遅刻しているのに、これ以上遅くなったら、また怒られてしまう。1日に、それも午前中に2回も怒号を浴びせられるのは、真っ平御免だ。
そこで、ふと気付く。
E組の構成は、どうなっているのか?
怒りに身を任せてここまで来たので、何も情報を得ていないのだ。いや、生徒の構成は学年下位の奴らばかりだろう。E組決定からの脱出は、不可能に等しい。変わったのは、かつてA組の隠れた五英傑、などと噂されていた私の墜落位か。
問題は、担任だ。本当に予測が出来ない。前のE組担任……確か……、そう、雪村だ。だが、彼女の姿は見ていない。もう、この先の校舎にいるのだろうか。
私の思考が疑問を整理していっている内に、坂道の先に木造の建物がちらつき出した。
どう考えても今時使われていないような、木造の校舎。色ムラのある木板が壁を作っており、屋根は所々に板が継ぎ足されている。1階建てのそれは唯静かに佇み、私を嘲笑いながら歓迎している様だった。
結論を言ってしまうと、勉強するには適していなさ過ぎる環境だ。これでは勉強出来まい。そして、私もここで勉強すると思うと、失望の念に狩られる。
1人絶望に浸っていると、その校舎から、長身の男性が現れた。黒髪を逆立て、山には不適切な黒スーツを身に纏う彼は、無表情のまま真っ直ぐこちらに向かってくる。もしかしなくても、私に用がある?
「……君が、緊急で
「……あ、そうですけど……。何方様でしょうか?」
「俺か?俺は────」
防衛省から来た烏間だ。彼はそう続けた。いや、意味が分からない。何故、学校に防衛省のお方がいるんだ。学校と防衛省、駄目だ。どう考えても繋がらない。
「ここに来て直ぐの所悪いのだが、このクラスに入るにあたって説明が必要なのでな。着いて来てくれ」
思考が纏まらない私を放ったらかして、烏間たる男は校舎の中に消えていく。え、ちょっ、置いていかないでよ。
私も後を追って、ボロ校舎の中に足を踏み入れた。