水晶と虚無   作:is.

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第10話 破壊の杖

森の中の不自然に開けた土地の中央に木組みの小屋が一軒建っていた。

見るからに不自然な雰囲気に包まれた小屋を、少し離れた茂みの中からルイズ達フーケ討伐隊一行は覗き見ていた。

ゴーレムの後をずっとつけていたバッツによれば、だんだんとその体を小さくしたゴーレムは最終的にこの小屋付近で消えて無くなったのだという。

周囲も調べてみたが、この小屋以外に人の気配はしないというのだ。

もっとも、あの小屋の中に秘密の通路があってそこから逃走を図っているのであればとっくに取り逃がしているのだろうが。

少なくとも小屋の中からは人の気配がするので人質となったミス・ロングビルは中に居るのだろう。

小屋への偵察は本人の希望によりバッツとタバサの二人に任せられる運びとなった。バッツがいち早く立候補し、それを受けてタバサが続いた格好になる。

何故タバサが付いてくるのかは理解できないでいたが、とにかくバッツは小屋へ向かう。途中の地面に罠の類が仕掛けられていないか警戒する事は怠らない。

小屋の中に入るとそこには人影は無く、中央にテーブルが一つ置かれているだけであった。テーブル以外に家具らしい家具は何一つ無い。明りを灯す器具すら無い。

念のため床も調べたが、抜け道も見当たらなかった。何も無い殺風景な部屋の中にテーブルが一つきり。生活感どころか、使用された形跡すら感じられない。

罠が仕掛けられている可能性も考慮しつつ、テーブルに向かう。そこには質素な杖が一本置かれているだけであった。

 

「これが……破壊の杖?」

 

タバサがテーブルの上の杖を拾い上げる。まさしく杖といった見た目のそれは、外見からは『破壊』なんて名前が付いているようには見えないほど、ごく普通の杖であった。

バッツと感覚共有しているルイズの口から杖の特徴を聞いたコルベールは、それが間違いなく『破壊の杖』であると断言した。

ミス・ロングビルの保護には至らなったが、目的の一つである杖の奪還に成功したので、ひとまず小屋を出ようとする。

その時、異変が起こった。

地響きが起こり、辺り一面の地面が大きく揺れた。立つこともままならない程の揺れの強さに、バッツはタバサを押し倒し、庇うように覆い被さってなんとか耐えることに成功した。

 

「大丈夫か?」

「……うん」

 

タバサが少し頬を赤くして答えるが、暗闇の中なのでバッツにはそれが分からなかったようだ。

ホッとしたのも束の間、今度は小屋を包み込むように周囲の土が盛り上がり始めた。入口の扉や窓は真っ先に塞がれ、バッツとタバサは閉じ込められてしまった。

タバサが幾つかの呪文で土の壁に穴を開けようと試みるが、どれも大した効果が無い。

 

「……閉じ込められた」

「八方塞り、か?」

 

何か罠でも作動させてしまったのだろか。それともどこかでフーケが様子を窺っていたのだろうか。

しかし閉じ込められてはしまったが、今のところそれ以上の事が起きる気配も無い。外にはコルベール先生もいる事だし、程なく救援が来るだろうと予想しているバッツはそれほど切羽詰まった様子を見せない。

その証拠に壁の向こう側から何かをぶつけるような衝撃音が響いてくる。この土壁がどれ程の厚さがあるかは分からないが、そう時間がかからずに救出されるだろう。

ひとまず安心したところで、タバサは改めて破壊の杖を見る。

それはまさしく杖だ、何の変哲もない。手に取ってみても、何も感じない。何も感じないどころか、この杖を使って魔法を使おうにも肝心の魔法が発動しない。

破壊どころかメイジ用の杖ですら無かった。

何を以って『破壊』なんていかつい名前が与えられたのか理解に苦しむタバサに、バッツが思いがけない一言を掛ける。

 

「まさかこんな物がここにあるなんて思いもしなかったな。破壊の杖、か。まぁ、知らなきゃ破壊なんて呼ばれててもしょうがないかもな」

 

バッツは知っている、この杖の正体を。その事実に目を丸くするタバサ。今日一日で一番表情を変えた。いつもの無表情は流石に維持できなかったようだ。

 

「あなたはこれを知って……」

 

バッツに言葉の真偽を問いただそうとしたタバサの言葉は最後まで発せられる事は無かった。

突然、周囲の土壁が動き出したのだ。小屋ごと押しつぶすかのように締め上げて来る。小屋全体がが軋みを上げる。

それほど頑丈そうには見えないこの小屋は、程なく押しつぶされ、中のバッツ達ともども押しつぶされてしまうだろう。

二人の焦りが頂点に達する。タバサは先程よりも強力な呪文で壁に穴を開けようとするが、やはり全く歯が立たない。無駄だとわかっていても、何もしないわけにはいかない。

そうしているうちにも壁は迫り、二人を飲み込もうとしている。

万事休す。もう駄目だとタバサが目をギュッとつぶる。と、バッツがタバサの手を握ってこう言った。

 

「大丈夫だ。ちょっとだけ目を閉じていてくれ。心配するな、俺を信じろ」

 

信じろ、なんて言われても今日初めて口をきいたような相手を簡単に信じられるはずは無い。しかし目の前の男からは有無を言わせないようなオーラが立ち上っているような気がする。

不思議な剣を持ち、トライアングルメイジ相手に全く引けを取らないだけの力を持つバッツの、その不思議な雰囲気に呑みこまれてしまいそうだ。

どうせこのままでも何も打つ手は無いのだ、藁にすがってみるのもいいかもしれない。力強くバッツの手を握り返すと、今度は静かに目を瞑った。

 

 

小屋の外では突然の状況の変化にうろたえていた。先ほどから火系統の魔法で土の壁を崩そうと頑張って入るが、いかんせん中に人がいる状況では上手くいかない。

威力を上げ過ぎれば間違って小屋ごと吹き飛ばすような事にならないとも限らない。

出力調整に細心の注意を払わなくてはいかず、結果として十分とはいえない威力でしか魔法を放てないでいた。

 

「ミスタ・コルベール!まだなんですか!?中にはバッツが……!」

「分かっています、ミス・ヴァリエール。しかし、この状況では……」

 

茂みから出て土壁の所まで来ているルイズ達は、それぞれが得意の魔法でなんとか壁に穴を開けようと四苦八苦していた。

ルイズとキュルケは火系統の呪文で壁を壊そうと、ギーシュとコルベールは錬金でなんとか崩そうと試みている。が、ギーシュはドット、コルベールは土系統も使えるが主として使用しているわけではないので大した効果を上げられないでいた。

壁が動き出してからは焦りの度合いが増したなんてものではない。

 

「あぁもう、埒が明かないわ。こうなったら、全員で一気に魔法をぶち当てて壁を壊すしか!」

 

キュルケが叫ぶ。

 

「駄目です、ミス・ツェルプストー。それでは中に居る君の友人にも危害が及びます」

「しかしもう、そうする以外に手はありません!!」

「まだ諦めてはいけません。何かまだ手段が……」

 

そんな言い合いをしているうちにも土の壁はだんだんとその幅を狭め、確実に中の物を押し潰そうとしている。建物が押しつぶされているであろう音が中から響いている。

メキメキと軋みを上げ潰されているであろう小屋の断末魔の中に、まだ二人の声が混ざっていないのだけが唯一の救いだ。

 

「そうだ!破壊の杖を使えばこんな壁くらい壊せるんじゃないですか?使い方を教えて下されば私がバッツに伝えますから!!」

 

ルイズが頭をフル回転させて一つの希望を見出す。魔法学院の宝物庫に収められるだけの威力を秘めたマジックアイテムなら、この状況を打破できるかもしれない。

 

「残念ながら、あれの使い方を知っているのはオールド・オスマンただ一人だけなのです」

 

ルイズの妙案もあっさりと否定されてしまう。

 

「ミスタ・コルベール!もう限界です!!……くっ、ヴェルダンテさえ連れて来ていればこんな事には……!!」

 

ギーシュが悲痛な叫びをあげる。

 

「……仕方ありません。ミス・ツェルプストー、ミス・ヴァリエール、今から私と、三人で一気に壁を破りにかかります。でも気を付けて下さい、撃ちぬく様に放つのではなく、なるべく外縁部を狙って抉るようにやるのですよ!」

 

コルベールは決心する。三人が全力で魔法を放ち、なるべく中の人に危険が及ばないように壁を抉るようにして穴を開けようというのだ。

 

「それではカウントダウンでタイミングを合わせます。いきますよ、5…4…3…2…1…今です!!」

 

三人の杖から一斉に火球が放たれる。一番大きいコルベールの火球に他の二人の物が吸収されるようにして出来た大きな火の玉が、狙い通りに土壁の一部を削り取り、そこから中のバッツとタバサの姿が覗いた。

 

「やった!成功した!!」

 

そう喜んだのもほんの一瞬の事で、折角穿った穴も直ぐに新たな土壁で塞がれてしまった。

土壁が再生する……、考えてみればその可能性は大いにあり得たのであるが、この緊急事態に於いて誰もがあえて考えないようにしていたのだ。

最悪の状況。例えもっと大きな穴を開けたり、壁を全て取り払う事に成功したとしても直ぐに戻ってしまうだろう。

壁を壊して、その壁が再生するまでのほんの僅かな時間に二人を救出して出てこなければならない。もしくは、中とタイミングを合わせて穴を開けた瞬間に飛び出してもらうか。

しかし、もう時間が無い。先ほど穴を開けた直後から、壁が狭まる速度が上昇してしまっているのだ。

ルイズ経由で中と連絡を取り合うだけの時間の余裕も無い。あとはこちらの意図に気が付いて、穴をあけると同時に飛び出してくるのを期待するだけか。

もう迷っている暇は無い。土壁の幅からして、もう中の空間はそう残されていないだろう。最後のチャンスだ。

 

「二人とも、もう一度だけ試します。これが最後のチャンスです。ありったけの魔力を込めて、必ず二人を救い出しますよ!」

 

コルベールの言葉にルイズとキュルケの二人が続く。

もう土壁ではなく、土塊と呼んだ方がふさわしくなったモノに向かって三人が魔法を放つ。先ほどよりも幾分大きな火球が目標に向かって真っ直ぐに飛んでいく。

中の人を傷つけないように、細心の注意を払って軌道を制御するコルベールの額に汗がにじむ。これが失敗したらもう後がない。

大切な生徒と、生徒の使い魔。この二人をみすみす見殺しになんて出来はしない。

火球が土壁に当たる瞬間、壁の一部が盛り上がり、まるで飛んでくる弾を掴む手のような形状になって伸びてきた。土の手と火球が真っ向からぶつかって軽い爆発が起こり、辺りに土煙りが立ち込める。

煙が晴れた後にあったのは、もはや土壁でも土塊でもなく、完全に土の『ゴーレム』であった。

右手には誰が人間を握っていた。目を凝らして見れば、それはミス・ロングビルである。気絶しているのだろうか、ピクリとも動かない。

握られているのはミス・ロングビルで、バッツでも、タバサでも無い。ということは……。

 

「そ……そんな……」

 

ルイズが力無く膝をつく。救えなかったのだ。

バッツとタバサは恐らくあのゴーレムの中に生き埋めになっているのだ。いや、もしかしたら既に押し潰されていて…………。

 

「い……、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

ルイズの叫びが木霊する。一番考えたくなかった結末。最も避けたかった未来。目からは涙が溢れ、その瞳には何も映らない。ただ呆然と虚空を彷徨うだけである。

その場の誰もが絶望に心を支配される。

そしてゆっくりと、ゴーレムの肩に乗る人影から勝ち誇ったような声が発せられる。

 

「なんだなんだ、この『破壊の杖』の使い方を知ってるのは、あのオスマンのジジイだけなのかい。なんかの封印が施されているとは思っちゃいたが、そこまで徹底されてるとはねぇ」

 

男とも女とも判別の付かないフーケのものと思しきその声は、皆の神経を逆なでするに十分であった。

 

「折角のお宝も使い方が分かんないんじゃあ、その価値も半減以下だ。おまけに見た目がしょぼいんじゃ、何の価値もありゃしない。ここはひとつ、この女とあんた等の命と引き換えに、あの腐れジジイから聞き出すとしようかねぇ」

 

下卑た笑いを響かせるフーケに、コルベール達は怒りを爆発させる。

 

「貴様……盗みを働くだけでは飽き足らず、人の命を何だと思っているんだ!!」

「さぁねぇ?でもあんた等みたいな貴族様だって、そんなに命を大切にしてるようには見えないけどねぇ。戦争だの何だので好きなだけ命を奪っておきながら、都合のいい時だけ善人ぶるんじゃないよ」

「き……貴様ぁ……、貴様は許さん!」

「はっ!今度は私を殺そうってのかい?あんたたちこそ人の命をどう思っているのかねぇ?」

「黙れこの賊めが!!」

 

生徒を守り切れなかった事に怒っているのか、それともフーケの言葉に激怒しているのかは判別が付かないが、コリベールが学院では今まで見せた事の無い激しい怒りを露わにしている。

杖の先に高熱の炎の塊を造り出すと、それをゴーレムの上に立つ人影に向かってまっ直ぐに撃ち出す。しかし火弾はフーケに届く事無く、ゴーレムによって防御されしまう。

無論、ゴーレムとて無事には済まない。炎を受けたところは焼け落ちるが、直ぐに再生させられてしまう。先ほどの壁と同じような結果だ。

体長10メイルほどの巨大なゴーレム。学院を襲ったときに比べればかなり小さいが、それでも大きいということには変わりは無い。加えて恐ろしいまでの再生能力。

コルベールと同じように怒りに任せて魔法を放つキュルケの攻撃すら、大したダメージを与える事が出来ない。

コルベールは相手の力量を見誤ったのを後悔していた。

トライアングルメイジが3人もいれば、例え相手がスクエアクラスであろうともなんとかなると高をくくっていたのだ。

何より、自分の力を過信していた。その結果がこれだ。大切な生徒を失い、人質すら奪い返せていない。

しかし、後悔からは何も生まれない。今は最善の策を考え、それを実行しなければならないのだ。

 

「ミス・ヴァリエールにミスタ・グラモン。ここはなんとか私とミス・ツェルプストーの二人で足止めをします。ですから、あなた達二人は学院に戻り、他の教師の加勢を要請してください」

 

生徒一人を失って、ここで賊を逃すわけにはいかない。今は恥も外聞も無い。一人でも多い助力を求め、確実にフーケを捕らえなければ。

 

「わかりました。バッツの弔い合戦です。必ずあいつを捕まえましょう」

 

ルイズは涙を拭ってそう頷くと、ギーシュと共に『フライ』の呪文で学院へと飛び立とうとする。

 

「誰の弔いだって?勝手に殺してもらっちゃ困る」

 

そこへ、居るはずの無い人物の声が届いた。

 

「…………バッツ…………!!」

 

ルイズの瞳に、バッツの姿が映る。少し土で汚れてはいるが、大した怪我も無くピンピンとしていた。傍らにはタバサの姿もある。

 

「バッツ……生きて……」

 

目の前の光景が信じられないルイズは、強すぎる感情の波の前に口がうまく回らない。そして一気に緊張が解けて安心してしまったのか、膝の力が抜けて後ろ向きに倒れこんでしまった。

慌てて走りよってルイズを倒れないよう抱え込むと、

 

「すまない。少し遠くに出ちゃってね、心配かけたみたいだな」

 

とルイズに謝った。

 

「心配したなんてもんじゃないわよ。死んじゃったかと思ったじゃない」

 

涙声で答えるルイズの表情は、怒りではなく安堵の気持ちに満ちていた。

 

「バッツ君、どうやってあの中から!?」

 

コルベールが駆け寄って来た。

 

「そんなことより、今はあのゴーレムを何とかしなきゃいけないんじゃないか?」

「ううむ、そうですが……」

 

コルベールの問いには答えず、バッツはゴーレムを優先させるように話を逸らし、デルフリンガーを構えてゴーレムに向かって走り出した。

 

「破壊の杖は取り戻しました」

 

と、タバサはコルベールに杖を手渡すと、そのままゴーレムへと向かっていく。

バッツとタバサの無事の生還および加勢によって形勢は傾き始めた。わずかながらフーケ討伐隊のほうが押し始めたのだ。

ゴーレムの上半身は魔法の使えるルイズ・キュルケ・タバサ・コルベールの4人で攻め、足元はバッツとギーシュのゴーレムの連携で攻撃を加える。

 

「おいおい相棒、こりゃいくらやってもキリがねーぜ」

 

デルフリンガーが弱音を上げる。実際、斬っても斬ってもすぐ切り口が塞がってしまうゴーレムの相手をするのは精神的にキツイ。

足も腕も太いので、一太刀で両断することは難しい上、一撃加えても次の斬撃の間までに元に戻ってしまう。斬っても斬っても一向に倒れる気配が見えてこない。

 

「相棒よ、なんか一発逆転できるよーな必殺技みてーなのはねーのかよ!?」

「あることはある、でもこの状況じゃちょっと無理だ」

「バッツ君、何か秘策でもあるのかね?」

 

デルフリンガーとバッツの会話に割り込んできたのはコルベールだった。決め手にかける今の状況を打破できるだけの手立てを思いつけないでいた彼は、バッツの案に興味を示した。

 

「あの破壊の杖を使う」

「なんだって?破壊の杖を……“使う”!?」

 

バッツはニヤリと笑う。

 

「ああ、あいつに破壊の杖の威力を見せ付けてやれば良いのさ」

「君はあの杖を使えるというのかね?」

「使うのは何も俺じゃなくても良いさ、先生でも構わない」

「……どうやって使うのですか?」

「それには先ず……」

 

バッツはゴーレムの右手に握られている人質に目をやる。

 

「あの人を救い出さないといけないな。それは俺がやるから、その間の時間稼ぎは頼んだ」

 

コルベールと軽く作戦の打ち合わせをすると、それぞれが駆け出す。コルベールはルイズとキュルケの元にくると、バッツの作戦を伝える。

二人は軽く驚いたもののすぐに作戦を理解し、頷いた。

バッツはゴーレムの目の前まで駆けて行くと、一度しゃがみこんだと思ったら信じられない跳躍力で見えなくなるまで上昇していった。

バッツを目で追うゴーレムの足元で、今度はギーシュの攻撃が始まる。

数体分の魔力を使い、通常の数倍の大きさのワルキューレを生成し、ゴーレムと相対する。それでもまだフーケのゴーレムのほうが倍以上の大きさがある。

 

「ミスタ・コルベール、僕のワルキューレの剣を『錬金』でもっと硬くて熱に強い金属に変えてください。僕の実力じゃ青銅が精一杯なんですよ!」

 

ギーシュの突然の頼みごとに意味を理解できないコルベールであるが、熱心なその眼差しに言われるまま『錬金』をかける。

次にギーシュはルイズとキュルケ二人に、錬金で強くなった剣に向かって火球を撃つように指示する。

 

「なんでそんなことしなきゃなんないのよ」

「いいから早く!!」

 

ギーシュに急かされるまま、火球を放つ二人。その炎の塊を剣で受けると、ワルキューレはそのままゴーレムに斬りかかった。

防御の為に体を土から金属に変えたゴーレムであるが、そのままワルキューレの剣に切り裂かれる。火球を受け赤熱した剣は先日の『ゲーム』での光景を思い起こさせた。

 

「どうだこの化物め!」

 

即席フレイムタンともいえる攻撃で、倍以上の体格を持つゴーレム相手に奮戦するワルキューレ。そこにコルベールらの支援攻撃が加わり、ゴーレムの動きを完全に封じた。

そこに、遥か上空からバッツが急降下し、ゴーレムの右手首に斬りかかった。全体重に落下速度を加えた衝撃でなんとかゴーレムの手を切り落とすのに成功する。

その弾みで宙に投げ出されたミス・ロングビルの体はタバサの『レビテーション』によって保護される。彼女が地面に降り立つのを見届けると、バッツが叫ぶ。

 

「今だ!!」

 

ルイズが破壊の杖を掲げる。ゴーレムに止めを差すのを申し出たのはルイズだった。バッツの説明どおりに杖に嵌められた赤い石一度を外し、上下逆に嵌め直すとそれをゴーレムに向ける。

シュッ。

とても細い光の筋が走ったかと思うと、ゴーレムの体を凄まじい熱量を持った光の球が包み込んだ。辺りには熱風が吹き荒れ、とてもじゃないが近寄ることは出来ない。

炎ではなく、純粋な熱の塊がゴーレムを消し飛ばし、跡には焼け焦げた地面が残るだけであった。

 

「これが……破壊の杖の真の力……」

 

皆、そのあまりに強すぎる杖の力に言葉が出ない。今目の前で起こったものは、火系統のスクエアメイジ何人分の威力に匹敵するのだろうか。そんなものがこの一見何の変哲も無い杖に込められているのだ。

オスマン氏が封印するのもうなづける。

そのあまりの威力に、手にしたそれがひどく禍々しい物に思えたルイズであったが、その杖が彼女の見ている目の前でボロボロと崩れだし、ついには幾つかの小さな木片となってしまった。

 

「ミスタ・コルベール!!杖が……杖が!!」

 

崩れてしまった杖の残骸を拾い上げながら、コルベールは静かに言った。

 

「破壊の杖の奪還自体には成功したのですし、なにより悪用は避けられたので良しとしましょう。もしかしたら、バッツ君はこうなる事を知っていたのかもしれませんが」

 

その言葉に、皆の視線が一斉にバッツに向けられる。しかしバッツは、

 

「さあな。古いものだったみたいだし、腐ってたんじゃないか?」

 

と、とぼけるだけだった。

 

「ミス・ロングビルも無事に戻ってきましたし、フーケも……」

 

そういって辺りを見回す。塵すら残っていないゴーレム跡から察するに、ゴーレム上にいたフーケとて無事には済まないであろう事は容易に予想がついた。

もしかしたら、ゴーレムと共に消し飛んでしまったのかもしれない。

 

「……恐らくフーケも、もう襲っては来ないでしょう」

 

コルベールが苦い気持ちを抑えながら淡々と述べる。この状況では恐らくフーケは生きてはいないだろう。あの凄まじい熱の嵐の中では例えスクエアメイジでも生き残るのは難しい。

一瞬の内に蒸発してしまったのかと考えると後味が悪い。

 

「とにかく、これで任務は完全に遂行できたのです。胸を張って学院に戻ろうではありませんか」

 

努めて明るく振舞うコルベールに促され、一同は帰路につき始める。タバサが指笛を吹き、シルフィードを呼び寄せる。

飛んできたシルフィードを見てバッツが一言、

 

「ここにも飛竜がいるのか」

 

と言ったのを聞き逃さなかったタバサは

 

「火竜じゃなくて風竜。この子は火なんか吐かない」

 

と反論した。言葉の意味が微妙に伝わっていないことに気がついたバッツは軽く笑う。反対にタバサはバッツの笑う意味が理解できなくて首をかしげるだけだった。

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