「それじゃ改めて、俺はバッツ・クラウザー。旅人……かな。まあ今は君に呼び出された使い魔?って事になるらしいけど」
「私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。あんたのご主人様のメイジよ」
テーブルを挟んで向かい合って座る二人は、ごく簡単に自己紹介をした。
握手をしようと差し出した手を無視されてしまったバッツは、しばらく所在無げに手を動かしたのち、軽く肩をすくめた。
ここは寮塔にあるルイズの部屋。
救護室での衝撃的な対面のあと、二人は場所をこのルイズの部屋へと移したのだった。
こういうと何事もなく事が運んでいるようだが、実際はそうではなかった。
救護室へ来るなりバッツをなじったかと思えば、当のルイズはその場に座り込んで泣き出してしまった。
初対面の女の子にいきなり怒られたかと思うと、次の瞬間には泣き出されてしまってバッツには何が何だかさっぱり分からなかった。
大声をあげて泣きわめくのではなく、静かに涙を流して嗚咽を漏らす少女の姿にバツの悪さを感じてなんとかなだめようかとするが、上手くいかない。
シエスタと二人で必死になだめ、なんとか泣き止ませることに成功するのに1時間以上かかってしまった。
ひとしきり泣いて気持ちが落ち着いたルイズを抱きかかえ、シエスタの案内でこの部屋まで来たのがつい先程の事。
それじゃあ改めまして、という事で自己紹介という運びになったのだ。
目の前に座るルイズは、まだ少し目が赤い。あれだけ泣き腫らしたのだから、それも仕方のない事だった。
それを見られまいとしているのか、ルイズはなかなかバッツと視線を合わせようとしない。
不覚だった、とルイズは思う。いくら感情が昂ぶっていたとはいえ、いきなり使い魔の前で泣き出してしまったのだ。これでは主としての威厳もへったくれもない。
何故あの場面で泣き出してしまったのかは、当のルイズにもわからない。気が付いたら涙がこぼれていて止められなかったのだ。
その上、一時間もの間使い魔と使用人になだめられるなんて一生の不覚といえる失態だった。
あまりにも恥ずかしい姿を見せてしまい、その気恥しさもあってバッツの顔をまともに見られないでいた。
しばしの沈黙の後、話を切り出したのはバッツの方だった。
「君が俺を召喚したって聞いたけど、出来たら元の場所に戻してくれないかな?いきなりこんなところに連れてこられても困るし……」
「無理よ」
バッツの願いに即座に否定の言葉が返ってきた。
「無理って……、こっちに呼び出したんだから帰す事くらい出来るんじゃないのか?」
「無理なのよ。『サモン・サーヴァント』は呼び出すだけの魔法なの、使い魔を元に戻す呪文なんて存在しないの。だって使い魔は一生かけて主に仕えるんだもの。帰す必要なんてないわ」
「別に呪文で戻せって訳じゃないんだ。もっと別の方法でいいから、俺を元の場所へ戻すことは出来ないのか?」
「あんたはそんなに私の使い魔になるのが嫌なの?」
「嫌っていうか、いきなりそんな事を言われても困る。第一目が覚めたら勝手に見知らぬ土地に連れられてきて、勝手に使い魔にされて一生仕えなさいなんて言われてもハイわかりました、とはいかないよ」
今まで逸らしていたいた視線を急に合わせ、ルイズがバッツの目の前に迫る。
「なんでそんなに帰りたがるのよ!家族?それとも恋人?」
「家族は……居ない、恋人も……まぁ」
「だったら良いじゃない、私の所に居なさいよ」
フンッ、と鼻を鳴らし、腕組みして椅子に座り直す。
「大体、もう一度『召喚』を成功させる自信なんて無いわよ。あんたに逃げられたら私はどうして良いか分かんないわ……」
視線を横に逸らし、拗ねた子供のような表情で俯きがちにそう呟く。消え入りそうなその声を聞き取れず、バッツが聞き直そうとするとルイズは顔を真っ赤にしながら話を逸らした。
「な、何でもないわよ!そうだ、あんた旅人って言ったわよね、じゃあ良いじゃない。これからは私が食事の面倒を見てあげるわ、もちろん寝泊まりするところもね。使い魔として居てくれるんなら、あんたに不自由な思いはさせないわよ」
「そういう事じゃないんだ。なんていうか、その……」
「はっきりしないわね」
バッツは口ごもる。別にルイズの元に居る事が苦痛ですぐにでも逃げ出したい言う訳ではない。
きちんと筋を通せばそれほどまでに悪い話でもない。傭兵みたいなものだろう。受けるかどうかはバッツ次第ではあるが。
それよりも急に居なくなったことでレナたちに心配させているのではないかと気になってしょうがないのだ。
それに、どこまで説明して良いものかも考えあぐねているのだ。昼間のシエスタとのやり取りで自分が別の世界に来てしまった事はなんとなく理解していた。
そしてこちらの世界は価値観やら制度やら、何もかもがバッツの世界とは勝手が違うらしいという事も見当をつけていた。
だから、軽率に自分の事を話す事はためらわれた。自分が当たり前だと思っている事でも、何がこちらの世界での禁忌に触れるのかわからない。
考えなしに話してしまって、いきなり捕まって牢獄へ放り込まれるなんて事になったら目も当てられない。
特に魔法に関しては、元の世界とこちらの世界では扱いにかなりの差があるようであった。
「貴族は魔法を使える者が多い」「魔法を習うための貴族専用の学校がある(このトリステイン魔法学院の事)」「普通の人は魔法が使えない(らしい)」
シエスタとの会話で分かった事だけでもこれだけある。
だから自分が魔法を使える、しかもかなり強力な魔法を行使できると知られると何かまずい事態になりそうで怖かった。
それともう一つ、誰に話そうが自分が別の世界から来たとは信じてもらえるとは考えられなかった、というのも理由の一つに挙げられる。
バッツ自身、ガラフの世界に行くという経験が無かったら、自分の住む世界以外の別の世界が存在するなんて事を理解できなかったであろう。
どういう原理でこうなったのかは分からない。ガラフの隕石のような力が働いたのか、それともデジョンのような呪文なのか。
でも、なんとなくではあるがルイズに対してその事だけは嘘をついてはいけないような気がしていた。
信じてもらえなくてもいい。だが自分はこの世界の人間ではない事だけはキチンと伝えなければいけないような気がした。
本当にもう元の世界に戻れないにせよ、戻る方法がそのうち見つかるにせよ、これから世話になりそうな相手に対して全てを嘘で塗り固めるという事に罪悪感を感じでいるのだ。
「口で説明しづらいんだけど……、まぁとにかく俺の話を聞いてくれ」
そう言ってバッツはテーブルに地図を広げた。広げた地図には、シエスタが見せてくれた物よりも広範囲の、それこそ世界中の地形が余す所無く詳細に記載されていた。
「なによこれ……。なんでこんな上等な地図を持ってんのよ。あんた旅人だっけ?だから持ってるの?」
ルイズの反応を見る限り、やはりこの国ではこれほどの広範囲の地図はそうは無いらしい。
「重要な点はそこじゃないんだ。重要なのは……俺にはこの地図に載っていること全てに心当たりがない事なんだ」
「はぁ……?」
ルイズにはバッツの言わんとする所が理解できない。自分の地図なのにその内容がわからないなんて、いよいよもって馬鹿なのか。
「何て言えば良いのかな……?う~ん……これは特殊な地図で、今居る世界の地形を自動的に描き出すんだ」
「それで?」
「だから目覚める前後、つまりここに来る前後でこの地図の内容が全くの別物になってしまっているんだよ」
「私が召喚する前はもっと違う地図だったって事?」
「そう、この地図は世界中のことが載ってるから、どんなに遠くの国に来たって、その程度じゃ変化する事は無いんだ。ここまで変わってしまったって事はつまり……」
「別の世界に来たから、地図の中身も変わってしまった、って言いたいの?」
「そう、そうなんだよ!」
バッツは自分の意図するところが伝わって喜ぶ。しかしルイズは変化前の地図の姿を見ているわけではないので、今一つ信じることが出来ない。
「仮にあんたが違う世界から来たとして、じゃあなんで今、こうして私とあんたが会話出来ているわけ?まさか世界は別でも言葉は一緒でした、なんて言わないでしょうね」
それはバッツにもわからない。本当に言語体系が似通っているのか、それとも何かしらの力が作用して言葉の理解を助けているのか。
でも、シエスタが見せてくれた地図に書いてあった文字は読めなかった。文字が違うのに言葉が一緒という可能性は低いだろう。
「それはわからない、でも本当なんだ。俺は別の世界から来て、でも何故かこの国の言葉もわかる」
「そんな都合のいい話あるわけ無いじゃない。大体、魔法でも使わない限りそんなことは……」
そこまで言ってルイズはハッとする。
「サモン・サーヴァント!!」
そうだ、魔法ならば可能なのではないのか。使い魔を呼び出す魔法に、意思疎通を助ける効果があっても不思議ではない。
いや、人外のモノを使い魔として使役して何の不都合も無いのだ、そういう効果が組み込まれていると考えるのが当然だろう。
使い魔は主の言葉を理解し、主も使い魔の気持ちを理解できるのだ。それに使い魔となることで人語を使えるようになる場合もある。そういった効果がバッツにも働いたのではないか。
それが『召喚』の際の効果なのか『契約』での効果なのかはわからない。でも、ありえる話だ。
言葉が通じる点については仮説が立ったものの、バッツの話は話半分、といったところだろうか。鵜呑みにするには突飛過ぎるのだ。
「あんたが別の世界の人間だってのは、まぁ信じてあげてもいいわ。嘘でも私には関係無いもの。でも、帰りたいってのは聞けない話ね」
と、ルイズはバッツの左手を指差しながら言う。導かれるまま手の甲を見たバッツの目に、見慣れない文様が飛び込んでくる。
「それがあんたの使い魔のルーン、私の使い魔ですって証みたいなものよ。それがある限りあんたは私の使い魔なの。私から離れることは出来ないわ」
いつの間に現れたのだろうか、見知らぬ落書きみたいなものを落とそうと左手の甲をゴシゴシとこするが、全く消えない。刺青のようなものなのだろうか。
「何だよコレ、一体どうやったら消えるんだ」
「基本的には消えることは無いわ。消えるとすれば、それはあんたか私が死んだ時よ」
「死……って」
あまりの事実に言葉が詰まる。使い魔とやらを辞めるには自分が死ぬか目の前の少女を死なせるかしないといけないのか。
自分が死ぬのはまっぴら御免だし、かといってルイズを殺してしまうわけにもいかない。
となると、大人しくルイズの使い魔としてこちらの世界に留まり、なんとか平和的にこの問題を解決する方策を見つけ出さなければならないのか。
目の前の問題の大きさに頭を抱えるが、渋々ながらも差し当たってはルイズの元で厄介になる決心をしたバッツは
「……わかった。それじゃ暫くは君の使い魔で居よう。死にたくはないし、君に死なれても寝覚めが悪い」
と、使い魔で居る事を承諾した。
「わかればいいのよ、わかれば」
ルイズは上機嫌でそう答えると、バッツに対して「使い魔としての何たるか」を講釈し始めた。
「まず最初に、使い魔は主人の目となり耳となる能力が与えられるのよ」
「……つまり?」
「主人と使い魔は感覚を共有できるわけ。どんなに離れていてもあんたが見た事は私にも見えるし、あんたが聞いた事も私には聞こえるの。でも常にってわけじゃないわ。主人が望む時だけ」
こんな風にね、とルイズが短く呪文を唱えると、奇妙なことが起こった。なんとバッツは自分とルイズを同時に見ていたのだ。
「な……何だコレ!」
そう叫ぶ声が自分の耳に届く。まるで他人の声のように自分の声が聞こえる様子に、驚きは増すばかりだ。
「な……、一体何をしたんだ!!」
「うるさいわねぇ、少し黙りなさいよ。これが感覚共有よ。何であんたにまで効果があるのかわからないけど、これでよく理解できたでしょ」
しばらく目を交互に開閉したり、耳を片方ずつ塞いだりして漸く状況を把握できた。どうやらこの『感覚共有』をしている間、バッツの左目と左耳がルイズのモノと入れ替わっているらしかった。
ルイズも同じような状態なのだろうか?全く奇妙な魔法だ。
「話を続けていいかしら?次に使い魔の役割として、アイテム集めがあるわ」
「アイテム集め?」
「主人の望むものを集めてくるのよ。勿論、盗みや強盗をしろってんじゃないわ。山に行ったりして探してくるのよ」
「何のために?」
「主に薬の材料だったり、魔法の補助のための触媒だったりするわ。特定の種類のコケやキノコや硫黄とか……。あんたに集められる?」
「山歩きは得意だよ、アイテム探しも。どんなものが欲しいか、図鑑とかで説明してくれれば問題ないと思う。鉱物を掘るのは勘弁して欲しいけど」
「そう、頼もしいこと。期待はしないでおくから安心なさい」
なんでかは知らないが、ルイズは一々バッツをけなすような一言を付け加える。眉をしかめるバッツの事などお構いなしにルイズは続ける。
「これが一番重要な事なんだけど……、使い魔には主人の身を守る義務があるのよ。だからあんたは私を守って敵と戦わなくちゃならないのよ」
「戦う……、か」
「そうよ。でも……あんたじゃ無理ね」
「?」
「忘れたとは言わせないわよ。あんたが現れた時、あんなに大怪我してたじゃない。何と戦ってたんだか知らないけど、瀕死の重傷を負う程度なんだからあんたも大した事ないんでしょ」
「あれは……相手が相手だったし」
「ハッ……言い訳?じゃあ何と戦ってたって言うのよ。韻竜?グリフォン?」
ネオエクスデスの事を話すことはためらわれた。それこそ信じてもらえないだろうし、簡単に信じられても困る。
だから相手を納得させられないと知りつつも、言葉を濁す。
「まぁ、そんなとこかな?もう少し強いけど。それに負けたんじゃ無く勝ったんだけどな」
「ああ、そう。それじゃ期待しないでおくわ。でも危険な目に会った時、真っ先に逃げるような真似したら承知しないわよ」
予想通り、またしてもこちらの話を信じてもらえなかった。だが、それでも構わない。
あんな凶悪な存在を知る必要は無いし、必要な時に十分な働きを見せれば良いだけの話だ。別に問題はない。
ふとルイズが時計に目をやる。結構な時間だったらしくちょっと驚いた顔を見せた後、もう寝なきゃと寝支度を始めた。
バッツが見ている目の前でいきなり服を脱ぎ出したのだ。バッツはたまらず声を上げる。
「お……おい!何をやってるんだ!俺がまだ居るってのに、恥ずかしくないのか!」
「何って、着替えに決まってるじゃない。制服のまま寝るなんてはしたない真似するわけないでしょう」
「男が部屋の中に居るってのに、いきなり脱ぎ出す方がはしたないだろう」
「別に構わないわよ。どうせ男っていっても、居るのは使い魔のあんただけなんだし。なんとも思わないわよ」
「使い魔だけど俺は男だ!少しは恥ずかしくないのか!?」
「使い魔なんて召使と同じよ。貴族は召使相手に一々気になんて掛けないものよ」
なんて神経の図太い少女なんだろう。これくらいの年頃にでもなれば、こんな事したら恥ずかしくて死にそうになるくらいではないのか。
こちらの世界の貴族ってこんな人間ばかりなのだろうか。なるべくルイズの姿を見ないよう、背を向けて考える。
しばらくすると着替え終わったのだろうか、脱いだ服を適当に畳んだあと、ルイズはそれを持ってバッツの元にやってきた。
「使い魔としての最初の仕事を与えるわ。明日これを洗濯しておいて頂戴。あと、部屋の掃除もしておいてね」
先程まで身に着けていた服を押しつけられ、バッツは困惑の表情を隠せない。ご丁寧に下着が一番上にのっている。
レナはこんな事しなかったな、と思い出す。同じ貴族でも大違いなものだ。
レナ達と旅をしていた頃は、レナは洗濯は自分ですると言って聞かなかった。ガラフやファリスの分と一緒に洗うといっても、顔を真っ赤にして頑として聞きいれなかった。
ファリスが女と知れ渡った後は、ファリスを説得してこちらの分と一緒に洗わないようにさせるくらいであった。それほど、女性にとっては恥ずかしい事なのだろう。
それなのにこのルイズは当たり前だと言わんばかりに、自分の洗濯物を寄こした。所変われば品変わる、と言うがここまで違うものなのか。
「あと、明日は7時に起こして頂戴。寝坊なんてしたら承知しないわよ」
「時計はどこにある?」
「そこの壁際にあるでしょ」
「……文字が読めない」
ハァ……、と溜息をつき、面倒くさそうにルイズは説明する。7時の位置はどこで、1時間が何分か、1分が何秒か。
時間の概念が自分の世界と大体一緒だという事を理解できたバッツは、それならば、と承諾する。
一人ベッドに潜り込もうとするルイズにもうひとつ質問する。
「俺はどこで寝たらいいんだ」
部屋の中にはベッドは一つしか見当たらない。いくらなんでもそこで一緒に寝ろなんて言い出すまい。ならば床の上で直に寝ろというのか。流石にそんな扱いは御免だ。
ルイズは無言で、部屋の一角を顎で指し示す。そこにはクッションの山が出来ており、整えれば人一人くらいは十分に寝られるようになっていた。
室内の他の調度品とは明らかに雰囲気の違うその様子に、このクッションの山は自分の為に用意されたのであろうことが見て取れた。
少し前までその場所は藁の寝床があったのだが、流石に藁では可哀相とのことで急遽クッションをかき集めて設えたのだ。
バッツがこの部屋に来てから用意をしていた様子はない。となれば前日か、少なくとも今日救護室に来るまでには用意を終えていたのだろう。
床か、それとも外での野宿を覚悟していただけに、ルイズの意外な対応に心温まる思いがした。
正直なところ、これまでのやり取りでバッツの中でのルイズの印象は良いものではなかった。
我儘で、自己中心的で傲慢でとにかく鼻持ちならない性格だとばかり思っていたが、意外や意外、気遣いの出来る優しさを持ち合わせていたとは。
ルイズの方を見ると、既に寝息をたてていた。寝付きの良いお子様のようだ。
そんなルイズの寝顔をじっと見つめる。
クルル位の年頃らしき外見にレナによく似た桃色がかった金髪、そして意志の強そうな眼つきはどことなくファリスを連想させる。
そんな、まるで仲間の特徴を凝縮したような容姿を持つルイズに、不思議な親近感を抱かずには居られなかった。
いや、望郷の念が彼女の中に無理矢理にでも仲間の面影を見出そうとしているのかもしれない。
だが今はどちらでも良かった。見知らぬ世界に一人でいる不安が、ルイズの傍に居ると少し和らぐ気さえする。
明日からの事を考えると不安で堪らなくなる。無事にレナ達の元に帰る事が出来るのか。それまでの間、こちらでの生活は上手くやっていけるのか。
考えれば悩みは尽きない。
だが、とにかく今は前に進まなければいかない。
室内のランプの明かりを息を吹きかけて消すと、バッツも自分の寝床へと潜り込んだ。
見た目よりも良い寝心地に、あっという間に睡魔が襲ってくる。3日も眠り続けていたらしいがこれはこれで別腹らしい、と可笑しくなる。
目を瞑ると、程なくして深い眠りにおちていった。
夢も見ない深い眠り。
これからどうなるのだろうか。
誰も答えられる者の居ないその問いに、二つの月が優しく包むように世界を照らしていた。