水晶と虚無   作:is.

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第05話 服を買いに

ルイズとの交渉により、洗濯と掃除の役目は免除された。そもそも、学院勤めの使用人がやってくれる仕事なのだ。わざわざバッツがする必要がない。

ルイズとしても、主従をはっきりさせる為に扱き使う名目でしかなかったので、意外とあっさり取り下げてくれた。

強がっているようだが、根はそれほどねじ曲がっているわけではないらしかった。

 

朝日が昇る頃に起きて厨房で賄い食を頂く。その後ルイズを起こして、ルイズに伴われて食堂へ。食事中バッツは給仕を手伝い、終わったら一緒に授業に参加する。

昼食及び夕食は給仕の手伝いの後、食後の休憩時間を利用して手早く賄い食を厨房にて頂く。その間、ルイズは食堂で待っていてくれる。

夕食後はルイズは女生徒用地下浴場で、バッツは屋外の使用人用サウナにて汗を流す。大抵早く上がるバッツがルイズを待ち、合流したらルイズの部屋へ。

以上がバッツのトリステイン魔法学院での日常となった。

 

大したイザコザの無い学院での生活は、エクスデスとの激戦後の骨休めとしては申し分なかった。

レナ達の事は気になるが、この目新しい生活にも興味が尽きない。

なんだかこのままずるずると行きそうではあるが、取りあえずは暫くこのままで過ごす事にした。

エクスデスはもういないのだ。世界を危機に落とし入れるような事態がそうそう起こるなんて思えないし、思いたくない。

 

そんな事を考えながらも、平和な生活を満喫していた。

今までは旅から旅の毎日だったが、こうやって一所に腰を落ち着けるのも悪くない。まだ数日ではあるが。

こちらでの生活が始まってすぐ、バッツはこの国の言葉を習った。

駄目もとでルイズに教えを請うと、思いのほか快諾された。「自分の使い魔が字も読めないなんて恥ずかしい」というのが理由らしい。

文字自体は見た事のないものであったが、意外とすんなり覚える事が出来た。書き取りは未だ苦労するが、読み取りにはもう問題無い。

自分でも驚く習得速度であったが、ルイズによればそれも召喚魔法の効果なのだという。言葉が通じるのと同じ原理なんじゃないか?との事らしい。

なんにせよ、こちらで生活する上で不便が無くなるのは良い事だ。

それ以外にも暦、距離、通貨の単位も教えてもらった。

 

 

 

「明日、街に出かけるわよ」

 

こちらの世界に来てからの日数が両手では数え切れなくなろうかというある日、ルイズが突然言い出した。

 

「何しに行くんだ?」

 

この学院内での生活は、それほど不自由は無い。確かに娯楽性には欠けるが、それ以外には特に目立った不満も無い。

と、言う事は娯楽を求めて街へ繰り出すのか?サーカスや演劇でも興行してるのだろうか。

そういえば、今日の昼間にルイズ宛に届いた手紙を見てなにやらニヤ付いていたのを見たが、それが何か関係してるのだろうか。

 

「はぁ?あんたの為に行くに決まってんでしょ」

 

ルイズの口から意外過ぎる言葉が飛び出る。俺の為?それこそ何の為だかわからない。

キョトンとしていると溜息交じりにルイズが続ける。

 

「あんたの、そのみっともない格好をなんとかしなきゃなんないでしょ。その為に家にお金の無心したんだから」

 

どうやら今日読んでた手紙は実家からのものだったらしい。満足のいく金額を貰えたため、少し上機嫌だったようだ。

 

「でも親に何て言って金を送ってもらったんだ?」

「少し手のかかる使い魔を召喚しちゃったって書いたのよ。飼うために色々物入りだって具合にね。幸い、親元までは使い魔の詳細が伝わって無いから二つ返事でくれたわ」

 

飼うため、か。まるでペットだ。流石に親を説得する為の方便なのはわかるが、やはり釈然としない。

 

「街まではちょっと時間がかかるから、明日は早く起こして頂戴」

「何時頃だ?」

「そうね……日の出位が理想的ね。いつも起こしてもらう頃には出発したいから」

 

日の出頃か、丁度バッツが起きる頃だ。ルイズにそんな早く起きれるのかと心配すると、今日は早く寝るから大丈夫よ、と返ってきた。

 

 

 

翌日、いつも通り日の出の少し前に目を覚ましたバッツは、ベッドで眠るルイズに声をかけた。予想通りぐずるルイズを、少々強引に叩き起こす。

大あくびをしながら身支度を整えるルイズを残し、バッツは食堂裏の厨房へと向かう。

マルトーに今日は手伝えない旨を伝えると、休日くらいゆっくりすればいいと快く了解してくれた。

賄い食を二人分もらうと、トレーに載せてルイズの部屋へ向かう。

 

部屋ではルイズが準備を整えて待っていた。いつもの制服ではなく、乗馬服に身を包んでいる。その上にマントを羽織る姿は何だかちぐはぐで不格好だ。

 

「外出時もマントを着用するのは規則なんだから仕方ないでしょ」

 

とむくれるルイズも、その格好はあまり気に入っていないと見える。

二人で軽い朝食を摂ると、厩舎から馬を一頭借りて街を目指した。

 

 

トリステイン城下町は魔法学院から馬で約三時間。

トリステインの王国の中心都市である。王城を中心として広がる町並みは、なかなかに壮観である。

 

 

最近チョコボにばかり乗っていたから、久々の馬に尻が痛くなるバッツに対し、ルイズは慣れたもので平気な顔だ。

通りに面した仕立屋に入ると、主人が恭しく出迎える。

 

「これはこれはルイズお嬢様。本日はどのようなご用件でしょう?」

 

ルイズはこの店の常連だったらしく、店主の対応も慣れたものだ。

 

「今年の流行ものでしたら、このようなモノがお似合いかと……」

 

と幾つかの服を取り出そうとするのを制する。

 

「この男の服を幾つか仕立てたいの」

「こちらはルイズお嬢様の新しい召使で?」

「そんなものよ。見ての通り、こいつは服のセンスが壊滅的に悪いから、私に釣り合うくらいには洗練されたものにして頂戴」

「かしこまりました」

 

仕立屋に言われるまま、先ずは採寸をし、その後デザインの検討に入った。

店主の提示した最近の流行りの何点かの中から選ぶのだが、ルイズの選ぶのは悉く派手な物ばかりでバッツを困らせた。

 

「これなんてどう?」

 

そう言ってルイズが持ってきたのは、真っ赤な生地に同じ色の大きなフリルが縫いつけられたものだった。まるで踊り子の衣装みたいなそのセンスに唖然として言葉が出ない。

 

「じゃあこれならどうよ」

 

次に持ってきたのはパッと見、白無地のシャツだ。しかし、目を凝らすと全身が刺繍で飾り付けられているのがわかる。薔薇などの花が全身に散りばめられているのは着るには恥ずかしすぎる。

その後もルイズが選ぶの選ぶの、男物なのか女物なのか判別に困るような物ばかりであった。バッツに着せるというより、自分で着たいものを持ってきてるんじゃないかと勘繰るほどに少女趣味な物ばかりを選んで来る。

男だというのにフリルやレースの刺繍が散りばめられているような物は流石に勘弁して欲しい。色も赤や金の派手目なものしか選んでこないのも悩みの種だ。

 

一方のバッツが選ぶのはどれもこれも地味な物ばかりで、ルイズに一瞥されただけで却下される。

次から次へとデザインの注文が飛び出て来る状況に、流石の店主も引きつった笑いを浮かべてしまう。

 

小一時間に及ぶ激しい議論の末、ようやくデザインが決定した。フリルなどは全力で排除し、オーソドックスながらも品の良さが滲み出る物を選んだ。

ルイズの求める高貴(?)な雰囲気とバッツの求める飾り気の無いデザイン。その両方を満たす妥協点にたどり着けたのは店主の功績だった。

色は今着ているモノと同じ系統に落ち着いた。この点はバッツが一歩も譲らず、流石のルイズも折れざるを得なかった。

決定したデザインを元に少し手を加えてバリエーションを出したものを数点頼むと店を後にする。仕立て上がるのに一週間ほどかかるという店主の言葉に「一週間もこの冴えない格好のままか」と不満を漏らすルイズであった。

 

店を出ると、太陽は真上にまで昇りきっていた。まさか自分の服選びにこれほどまで時間が掛かるとは思いもしなかったが、ルイズの方はというと「早く終わって良かった」という顔をしている。

女性の買い物、特に服選びはえらく時間がかかるのは知っていたが、女性と一緒に服を選んでも同様に時間がかかろうとは……。

その後は、ルイズに連れられて更に靴などを買い揃えさせられた為、昼食をとったのはかなり遅れた時間になってしまった。

 

食事の後はバッツの希望により武器屋を見て回る事になった。見て回る、と言ってもこの街に武器を取り扱う店は一軒しかないのだが。

メイジ用の杖などの魔法具を取り扱う店は何件かあるものの、基本平民しか使わない武器は需要が無いとの事。

戦うのは貴族の仕事であり、大きな戦で平民が駆り出されるような事がない限り、そういった物に陽が当たらないのだ。

 

バッツの中のイメージでは武器防具屋というのは比較的町の中心にあり、重要な産業の一つであった。通りに面した立地の良い場所にあるのが常だと思っていたが、ここトリステインでは少し勝手が違っているようだ。

事前に調べておいたメモを片手に、ルイズは裏通りの方へと足を踏み入れる。華やかな表通りとは違い、どこか陰鬱な雰囲気の漂う狭い通りを更に裏の路地へと入って行った先に、目的の店はあった。

そこかしこにゴミが散乱している薄暗い路地に建つその姿は、武器屋というより違法な品物を取り揃える裏モノ屋といった方が近い。

 

店の中は昼間だというのに薄暗い。ランプが灯されているものの、かえってそれが不気味な雰囲気を醸し出している。

店内奥のカウンターに座る店主らしき男は、帳簿の類なのか、なにやら紙の束をしきりに読み返している。

暫くしてようやくこちらに気が付いたのか、厄介者でも見るような目つきでこちらを睨んでくる。

マント姿のルイズを見とめると、

 

「ここは貴族の方が来られるような所じゃありませんぜ。杖を御所望なら表通りで探してくだせぇ」

 

と、ドスの効いた声で牽制してくる。「客なんだけど」とルイズが腰に手を当てて言うと、主人は目を丸くして驚いた。

 

「こいつぁ驚いた!貴族様が武器を買いにくるなんて珍しい事もあるもんだ!こりゃ明日は雨だな」

「何がそんなに珍しいのよ」

「いやさ、お嬢さん。貴族は杖を振る事はあっても剣をお振りにはならんでしょうよ。もしそうなんだったら、ウチももっと繁盛してまさぁ」

「何か勘違いしてるみたいだけど、別に私が使うわけじゃないわ。使うのはコイツ。」

 

隣に立つバッツを指差して言う。すると主人も合点がいったのか、渋々ながらも腰を上げる。

 

「どういった物をお探しで?自慢じゃないが名剣秘剣もいくつか取り揃えてますぜ」

「武器のことは良くわからないわ。適当に似合いそうなの見繕って頂戴」

 

とルイズが言うのを聞き、主人の口の端が怪しく歪む。「それならとっておきのがありますんで」と店の奥に消えるのを見届け、ルイズがバッツに基本的な質問をする。

 

「あんたはどんな武器使うの?やっぱ剣?」

「大抵のものは扱えるかな。剣でも槍でも弓でも、斧だっていけるぞ。一番得意なのは剣だけどな」

 

主人が奥からなかなか戻らないが、その間に店内の武器を見て回る。色々な武器が取り揃えてあるが、そのどれもが今一つおざなりな扱いをされているように見える。

 

「何かめぼしいものあった?」

 

とルイズが聞いてくるが、流石に無造作に樽に突っ込んである物や壁に立て掛けられているだけの物の中には、コレといって目を引くものは無い。

暫くして、ようやく奥から戻ってきた店主の手には一振りのやけに豪華な剣が握られていた。

 

「最近は貴族様の中で、付き人に武器を持たせるのが流行りだそうで。そういった場合こういうのをお求めになる事が多いんでさぁ」

 

と主人が見せたのは細身の剣だった。ナックルガード付きのレイピアで、取り回しには便利そうだ。あちこちに金の装飾が施されている。

どう?という表情でルイズがこちらを見るので、試しに少し握ってみる。2,3度空を斬ったところで主人が感想を聞いてきた。

 

「どうでさぁ、なかなかの業物でしょ。携行にも便利だし、ウチじゃ一番の売れ筋なんだがね」

「細いのが少し不安、か。もっと太くて頑丈な剣があると良いんだけど」

「剣と人には相性ってもんがありやすぜ。お前さんくらい細い体じゃ、この程度の物がお似合いだと思うんだがね」

 

と講釈を垂れる主人に「いいから別の剣を持って来なさい」とルイズが言うと、憎々しげにこちらを睨み奥へ戻っていった。

再び現れた店主は、今度は抱える程の両手剣を持って来た。刀身の中央には色とりどりの宝石が埋め込まれ、ヒルトや柄頭にも豪華な装飾が施されている。

握りにも上質な布が用いられ、鏡のように磨き上げられた刀身と合わせて、見るからに高価な雰囲気を放っていた。

 

「ウチで一番の業物がコイツでさあ。かの高名なゲルマニアの錬金魔術師シュペー卿の手による逸品で、これほどの物はなかなか出回りませんぜ。少々値は張りやすが、それに見合うだけの価値は十分に有りまさぁ」

 

そう自信満々に解説されると、試し斬りがしたくなってしまう。しかし余程大切と見えて、試し斬りどころか触ることも許してくれない。

それじゃあ価値がわからないを説得すると、渋々ながらも持つ事だけは許されたが、試し斬りは絶対に駄目だと念まで押されてしまった。

垂直に立てると、柄頭がバッツの肩まで来る大剣をいとも簡単に構える。ふらつくでもなく、手慣れた様子でしっかりと腰を落として構える姿に、ルイズばかりではなく店主からも驚きの声が漏れる。

バッツはそんなに恵まれた体格をしているわけではない。どちらかというと痩せ気味に見える位なのだが、それは見た目だけで服の下には鍛え抜かれ均整のとれた体があるのだ。

所謂「脱ぐと凄い」という状態だ。

五分程度振り回して剣を主人に返す。

 

「どうよ、スクエアクラスのメイジ様の手による一振りですぜ。魔法が掛かけられてるから切味はお墨付きだ。これ以上の物にゃ、そうそうお目に掛かる事はねえってもんですよ」

 

自信満々に勧める主人の表情と対照的に、バッツの顔は芳しくない。

 

「この程度の物なら、要らないな」

 

バッツの口から飛び出した言葉に、主人の顔が凍りつく。

 

「『この程度』だと?仮にもスクエアクラスの造った業物なんだ、それをこの程度呼ばわりするなんて自分の力の無さを棚に上げて……」

「かーっかっかっ!とんだモヤシ野郎だと思ったら、なかなかどうして。剣を見る目だけは一端じゃねぇか」

 

主人の言葉を遮るように、店内に声が響き渡る。男の声だが主人の物でも、バッツの物でも無い。店内には三人しかいないが、それ以外の声が発せられたのだ。

 

「この店で売ってんのなんて、みんな見かけ倒しの飾りばっかよ。それを見抜けるなんて、ちったぁ腕に覚えがあんだろうな」

 

困惑しているのバッツとルイズの事などお構いなしに、謎の声は続ける。

 

「やいデル公!これ以上商売の邪魔するんだったらこっちにも考えがあるぞ!二度とその減らず口を叩けなくしてやろうか!」

「おもしれえ!こちとらこの世にも飽き飽きしてたところだ!望むところだ、やれるもんならやってみろってんだ!」

 

主人が店内の一角に向かって怒鳴りつける。するとその辺りからあの謎の声が返ってくる。何が何やらさっぱりわからない。しかし、誰かが隠れているような気配は無い。

最も誰か隠れているとしても、未だ姿を現さない意味がわからない。

 

「すいやせん、お客さん。直ぐに黙らせやすんで」

「一体何と喋ってるんだ!?」

「それは……、こいつなんでさ」

 

店主はそういうと、店内に置いてある樽の中から一振りの剣を取り出した。見た目は刀に似ている。それをスケールアップしたような大剣だ。

鞘に入っているものの、鍔の辺りが少し露出している。どうやら声はその隙間の辺りから聞こえてくるみたいだ。

 

「これって……インテリジェンスソード?」

 

ルイズが少し面喰って尋ねる。

 

「そうでさ。ホントならもっと高値を付けられるようなもんなんですが、いかんせん口が悪いのと見た目で中々買い手が付かなくって困ってやしてね。捨てようにも、呪われそうで捨てるに捨てられないのも悩みの種なんでさ」

 

そう言って主人が剣を鞘から抜く。成程、刀身は見事なまでに錆まみれで手入れに骨が折れそうだ。いや、研ぎ出しじゃ足らず、打ち直しが必要かもしれない。

 

「インテリジェンスソードって何だ?」

「意志を持つ魔剣の事よ。あ、魔剣って言っても禍々しいものじゃなくて、魔法によって色んな効果を付加された物の事よ。誰がやったかは知らないけど、こいつの場合は意志を与えられたみたいね」

「ほぉー、こっちの娘っ子は貴族のメイジか。少しは勉強してるようで結構結構」

 

ハバキの辺りの金具を口の用にカチカチと鳴らして剣が喋る。

デル公と呼ばれた剣を手に取って見つめるバッツの瞳に少年のような輝きがあるのに気が付き、ルイズに嫌な予感が走る。

 

「あんた、このボロ剣を欲しいだなんて言い出さないでしょうね」

「駄目か?」

「駄目に決まってるでしょ。大体、そんな使えもしない剣買ってもしょうが無いでしょ」

「手入れくらいはきちんとするさ。錆を落とせばまだ使えるかも知れないだろ?」

 

バッツが興味を示したのに気付いた主人は、これはチャンスとばかりに一気に畳みこむ。

 

「お客さん、こいつを引き取ってくれるんだったらお安くしときますぜ。但し、返品だけは勘弁してくだせえ」

 

返品不可というところに店主の必死さが伝わってくる。余程厄介払いがしたいのだろう。それならばタダにしてでも押し付ければいいようなものだが、そこは商売人根性が許さないのだろうか。

「どうせこの店にはこれ以外に買う物が無いんだ、これ一本くらい良いだろ?安くしてくれるって言ってるんだし」とルイズに耳打ちする。渋々と言った表情でルイズが店主に値段を聞くと、

 

「他の剣なら新金貨でも二百と言いたいとこですがよ、こいつなら五十で結構でさ」

 

思っていたより安い値段にルイズは気前よく支払う。正直、午前中に買ったバッツの服の総額と大差ない。

財布から金貨を取り出して主人に渡す。間違いなく受け取った主人は、厄介払いが出来て嬉しいのか上機嫌でこんなアドバイスもくれた。

 

「もしこいつが煩く感じたら、こうすれば一発で解決しまさぁ」

 

剣をガチンッと音のするまで鞘に押し込むと、剣は急に大人しくなった。さっきまでの喧噪が嘘のようで、これなら普通の剣と変わらない。

 

 

 

「何しやがんだ、あの野郎!ま、これであの辛気臭い面拝まなくて良くなるかと思うとせーせーするな」

 

店を出てから剣を少しだけ引き抜くと、とたんに喋り出す。

 

「しっかしおめーもよ、何が楽しくて俺みたいなボロっちい剣なんざ買う気になったのかねぇ。自分で言うのもなんだけど」

「喋る剣ってのが珍しくてさ。それに持った感じ、あの豪華な剣よりよっぽど造りが良かったしな」

「うれしー事言ってくれるじゃねぇか、気に入ったぜ。このデルフリンガー様がおめ―の相棒になってやるよ」

「デルフリンガーってのが名前か。俺はバッツだ。これからよろしく頼む」

「任しときなって。俺が相棒になったからには苦労させねぇよ、相棒」

 

デルフリンガーの早速の相棒呼ばわりに苦笑する。そんなやり取りを冷めた目で見ていたルイズは

 

「あんた、役に立たなかったら直ぐに溶かしてつっかえ棒にしてやるんだからね」

 

と言い放つ。まるでバッツと初めて会った時のような態度だ。あの時は面喰ったが、今では理解できる。口ではこんな事を言っいるが、本心から言っているわけでは無い。

勿論そんな事は知らないデルフリンガーは、その挑発ともとれる言葉に

 

「へっ、剣もまともに振れない貴族の娘っ子に俺の価値がわかってたまるかよ」

 

と喧嘩腰で返す。そんな様子に呆れつつ、バッツ達は帰路に付いた。

 

トリステイン魔法学院までは馬で三時間。門限に間に合うにはまだ日が高い時間に帰り始めなくてはならない。

往復で六時間も掛かる為、一日を買い物で潰しても実際に店で選んでいられる時間はあまりない。

チョコボならもっと早く帰れるのにな、なんてつい考えてしまうバッツであった。

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