花を護る騎士 ブレイドナイト   作:葵祈つばめ

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“キュアモフルン”

エコーと同じく映画限定なのか、それとも今後の本編に出てくるのか…

何はともあれ、四人目のプリキュア(≡ε≡)


ハートキャッチ編アフター

「ねぇ明君、モデルやってみない?」

 

テスト結果の発表日から数日後の昼休み、いつもの三人で教室で弁当を食っていた時にももかが俺にそんな事を言ってきた。

 

「何だ?藪から棒に」

 

「今度、雑誌の仕事で童話の服を現代版にアレンジする企画があるの」

 

「へぇ」

 

「面白そうね」

 

「でもね、私がやる童話には相手役が必要なの」

 

「ガールズファッションの雑誌なんだから相手役はゆりで良いんじゃないか?」

 

何も俺が出る必要は…

 

「相手役は男性じゃなきゃ駄目なのよ」

 

…あった。

 

「だからお願い!明君!」

 

ももかは両手を合わせて俺に頼んできた。

 

はぁ…しょうがない。

 

「わかった。引き受けてやるよ」

 

「やった〜!ありがと明君!」

 

ももかは無邪気にバンザイをして喜びを顕にした。

 

…そんなに喜ぶことか?

 

「それで?ももかは何の童話をやるのかしら?」

 

「そうだな。先に引き受けちまったが俺の役も教えてくれ」

 

ガールズファッションの雑誌の企画と言う事から予想するに、ももかは何かの姫役で俺は王子役か?

 

「私がやるのは赤ずきん。で、明君は狼の役よ」

 

「…何故その童話を?」

 

「最初、会議でシンデレラか美女と野獣のどちらかをやるか話し合ってたらしいんだけど、その二つは定番過ぎて面白くないって事で赤ずきんが選ばれたの」

 

「…どっから赤ずきんが出てきたんだ?」

 

「その会議の時、偶然編集長が赤い服を着ててそれで…」

 

「赤ずきんが出てきたと?」

 

「そうなのよ」

 

「…それはそれは」

 

凄い閃きを御持ちでいらっしゃる。

 

「…ふふっ…明が狼。…似合いすぎだわ」

 

「うっせ。…因みにももかさん?引き受けた話は無かった事には?」

 

「ゴメンね明君、無理」

 

「だよなぁ…」

 

「しかももう、編集長さん達には伝えてあるの。狼役にピッタリな人、私知ってますって」

 

「…俺が出るのは最初っから確定してたのか」

 

最初に何役をするのか聞いて無かった事を悔やむが、引き受けた手前、今更後には引けない。

乗り掛かった船だ。

最後まで付き合うか。

 

「ほんとにゴメンね明君?」

 

「気にすんな」

 

「ももか、その撮影の日私も行っても良いかしら?」

 

珍しいな。

ゆりがそんな事を言うなんて。

 

「良いわよ。けど珍しいわね、ゆりがそんな事を言うなんて」

 

ももかも俺と同じ事を思っていたようだ。

 

「ももかの赤ずきん、そして狼になった明を笑いにね」

 

「…馬鹿にしてるよな?」

 

「失礼ね。馬鹿にしてるわけじゃないわ。楽しんでいるのよ」

 

「…そうかい」

 

滅茶苦茶良い笑顔は何を意味しているのやら…

 

「えぇ良いわよ」

 

「で、その撮影はいつの何時から始まるんだ?」

 

「今度の日曜の午前11時からよ。どうせなら三人で一緒に行きましょ?10時半に迎えが来るからそれに間に合う様にうちに来てくれる?」

 

「おう」

 

「えぇ」

 

「それじゃあ決まりね」

 

引き受けちまったがこの話、いったいどうなるのやら…

 

「…確か童話だと狼は狩人にお腹をサクッと。…果たして明はどうなるのかしらね?」

 

「嫌な事言ってんじゃねぇよ…」

 

…因みにこの件についてえりかはももかから直接聞いてたらしく、放課後ファッション部の部室に行ったらあれこれ質問責めにあった。

 

挙げ句、えりかは日曜日につぼみといつきを引き連れて見に行くと言っていたが、明さんに迷惑だからとつぼみといつきに反対された。

 

つぼみ、いつきナイス判断だ。

 

だが、えりかは不満らしく、結局撮影した写真を数枚見せてもらう事で納得した。

 

やれやれ。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

日曜になった。

 

俺とゆりは30分前にフェアリードロップに着いた。

 

「おっはよ〜!明君!ゆり!」

 

「おーっす」

 

「おはよう。明、ももか。今日は楽しみだわ」

 

どっちの意味の楽しみなんだかねぇ。

 

「まだ迎えまで時間があるから中で待ちましょ。それと今日着る服の写真があるから明君はそれの確認を」

 

「了解」

 

そうしてフェアリードロップの中へ入った。

 

ん?

 

「静かだな」

 

いつも此所へ来るとえりかとか、えりかとか、えりかとかが…って、全部えりかだな。

 

兎も角、喧しいえりかがいない。

 

「パパとママは買い物に行ってて、えりかは朝からつぼみちゃんといつきちゃんの三人で植物園に行ってるわ」

 

「成程」

 

「で、私達も仕事が終わったら植物園に行く事になってるわ」

 

「そうかい」

 

「これが今回の服かしら?」

 

と、ゆりが二枚の写真を見せてくれた。

 

「さて、どれどれ…」

 

一枚目の写真には白のブラウスに黒のベスト、深緑のスカートに黒のカジュアルブーツ、そして赤のフード付きジャケットが写っていた。

 

「…まさかこのジャケットが頭巾要素なのか?」

 

「そうよ」

 

あらま。

些か強引な気もしなくもないが此如何に?

 

「…何処か学生服にも見えなくもないわね」

 

「今、日本の学生服はデザインが可愛いって最近海外からの評価が高いのよ。だからでしょうね」

 

「へぇ、そーなのか」

 

それは意外な情報で。

 

「そして次の写真が明君の着る服よ」

 

「ん、どれどれ…」

 

二枚の写真には黒のレザージャケットに白のワイシャツ、黒のジーンズに黒のミリタリーブーツ、そして黒のマントが写っていた。

 

「このマントは何だ?」

 

「マントじゃなくてこれはキルトよ。前にえりかがデザインしたあの服のアレと同じのよ」

 

「となると、腰に巻けば良いのか?」

 

「えぇ」

 

「成程」

 

前無しのスカートみたいな感じか。

中々凝ったデザインだな。

 

「それにしても見事な程全身真っ黒ね。いっその事、シャツも黒にすれば良いんじゃないかしら?」

 

「白は狼のお腹の部分を表現しているから流石に全身真っ黒はね?」

 

「狼って黒色だったか?」

 

俺的にはどちらかと言うと灰色のイメージがあるんだが。

 

「黒にした方がダーティでワイルド感が出るらしいのよ」

 

「そうね。確かに黒はそうよね」

 

俺をチラリと見ながらゆりはそう言った。

 

「何だよ」

 

「いえ、何も」

 

白々しい奴め。

 

「あ、場合によっては撮影の時に色々変更するかもしれないから明君頑張ってね」

 

「へいへい」

 

俺がそう返事をした時、フェアリードロップの外で車の止まる音が聞こえた。

 

「時間か」

 

「そのようね」

 

「それじゃあレッツゴー!」

 

『戸締り忘れるな(ないでね)?』

 

「は〜い」

 

ももかが無事に戸締りしたのを確認して俺達は車に乗ったのだった。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

そして撮影所に到着。

 

車を降りた俺とゆりはももかの案内の元、撮影所の中へと入り、撮影スタッフチームの元へ挨拶をしに行き、そして撮影を始める為各々、つってもゆりはももかの付き添いだが別室に別れて例の衣装に着替える事になった。

 

………

……

 

「御剣君の髪の毛、とても綺麗ですね」

 

着替え終わったり俺は今、スタイリストさんに髪型を撮影用へ変えてもらっていた。今は結わえていた紐をほどき、櫛で鋤いてもらっている最中。

因みに素材が良いからと言われたからメイク云々はしていない。

 

「そうですか?自分ではよくわからないんすけど」

 

「今まで沢山の男性の髪をに触れてきたけど、御剣君程の綺麗な髪は無かったわ。…何か手入れとかは?」

 

「何もしてないっすね」

 

「何もしてなくてこの綺麗さ…しかもスタイルも良くてイケメン…」

 

「………」

 

このスタイリストさん、初めて美希に会った時に言われた事と殆ど同じ事を言ってるよ。

 

「更に料理も出来て、性格も良い…まさに完璧ね」

 

完璧とまで言うと、このスタイリストさん美希なのかと思いたくなるぜ。

 

「はい。これで完成」

 

「どもっす」

 

髪型が完成した。

と言っても、鋤いた後に首筋部分で結わえただけだが。

 

これだけで良いのかと聞いたら、これは狼の尻尾をイメージしているから良いんですと言われた。

 

兎に角、終ったなら撮影スタジオに行くとするか。

 

………

……

 

―ざわざわざわ―

 

「………」

 

撮影スタジオに入った直後、周りにいた人達(主に女性陣)がざわざわと騒ぎ出した。

 

流石にこの状況で気付かない程俺は鈍くはないが、正直嬉しいような恥ずかしいような微妙な気分だ。

 

「着替え終わったのね、明」

 

「あ、ゆり」

 

いつの間にかゆりが隣にいた。

 

「ゆりだけか?」

 

「えぇ。ももかはまだ準備中よ」

 

「成程」

 

女の子の準備は長いってよく言うもんな。

 

「それより、髪を下ろしたのね明」

 

「あぁ。狼の尻尾をイメージしてるんだとさ。どうだ?似合ってるか?」

 

「えぇ。服もそうだけど、とても素敵よ」

 

「サンキューな。だが、正直な事を言うと気恥ずかしくて次からは遠慮したいぜ」

 

「あら残念。私は結構好きなのに」

 

「一度やってみろ。そうすれば俺の今の気持ちが分かる筈だ」

 

「そうかしら?…それなら私も機会があればやってみようかしら」

 

なん…だと、

ゆりが乗り気!?

 

「ゆり、いったいどうゆう風の吹き回しだ?普段なら遠慮するわ、って言うくせに」

 

「失礼ね。私だってお洒落ぐらいするわよ?」

 

「ん、いや、まぁ、そうだが…」

 

確かにゆりの言う通り、ゆりも大人びていても女の子。

お洒落をするのは当然と言えば当然なのだが…

 

「ねぇ明」

 

「な、何だ?」

 

「今度ももかから話がきて配役が合った時は三人で出ましょ?」

 

………

 

「そうだな。次は三人で一緒に出るか」

 

「ありがとう明」

 

「気にすんな」

 

頼まれたらからには仕方無いもんな。

 

「…と言うわけで、ももか。明の了承は得たわ」

 

…へ?

どゆこと?

 

「やったぁ〜!」

 

うぉ!?

びっくりした。

 

いつの間にか俺の後ろにももかがいた…。

 

「さっすがゆりね!私だったらこんな上手く誘えないわ!」

 

「そうかしら?ももかがやっても明は了承すると思うわよ?」

 

………

 

はっはーん、成程。

 

「そう言う事か」

 

「ごめんなさい明」

 

「別に怒っちゃいねぇよ。…因みにゆり、さっき言った私もやってみようかしらは本心か?」

 

「えぇ」

 

そっか。

 

「それなら次が楽しみになってきたぜ」

 

「やった〜!」

 

「てか、ももか。いつの間に俺の後ろにいたんだ?」

 

「ん?明君がゆりと話し始めてた時からよ?」

 

「最初からいたのか…」

 

変だな。

気配には敏感な筈なんだが…

 

「それよりも明君、その格好凄い似合っているわ。しかも髪を下ろしてるからいつもより更に格好良く見えるわ」

 

「サンキューな。ももかも似合ってるぜ。しかもももかも髪型を変わったんだな」

 

今ももかの髪型は三つ編みになっており、肩から垂らしていた。

 

「写真を撮る時フードを被るからね。どう?似合ってるかしら?」

 

「あぁ。初めて見るから凄い新鮮だな。ゆりもそう思うだろ?」

 

「えぇ。とても可愛らしいわ」

 

「イェーイ♪」

 

三つ編みにした影響か、笑顔でピースをしているももかがいつもよりも何処か少し幼く見えた。

 

―ももかちゃん!御剣君!そろそろ撮影始めるよー!―

 

「はーい!それじゃあ明君、撮影頑張りましょ!」

 

そう言ってももかは俺の腕を引っ張りながら撮影ブースに歩き始めた。

 

「…歩きづらい。離せ」

 

「ぶ〜!狼さんのケチ〜!」

 

急に赤ずきんの設定を出してきやがった。

 

「ケチで結構。オラ、ささっと離しやがれ」

 

「や〜!」

 

「…聞き分けが悪い奴は食っちまうぞ?」

 

「きゃ〜!狼さんに食べられる〜!」

 

………

 

はぁ…疲れる。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

撮影が無事に終了し、俺達は車で植物園迄送ってもらった。

 

「疲れた…」

 

「楽しかった〜♪」

 

「私も楽しかったわ」

 

何故、見事に意見が分かれているのか?

原因は撮影時のとある事のせいなのだが言いたくない。

 

だが強いて言うなら、人生で二番目にドキドキしたぜ」

 

「ぶ〜、二番目なの〜?」

 

おっと、

声に出てたか。

 

「一番目は何なのかしら?」

 

「一番目?そりゃあ…」

 

「………」

 

「………」

 

………、

 

「さて、つぼみ達が待ってるから早く行かないとな」

 

そう言って俺は植物園の中へと歩きだした。

 

「え〜!言わないの〜!」

 

「逃げたわね」

 

そりゃ逃げるっつーの。人生で一番目にドキドキした事がムーンライトに変身したゆりの姿なんて言えるか。恥ずかしい。

 

そんな事を思いながらももか達の追撃をのらりくらりとかわし続けていたら、

 

「両手に花か。良い身分だな」

 

と、サラマンダーに言われた。

 

あ、サラマンダーか。

 

………

 

『サラマンダー!?』

 

俺だけじゃなく、ゆりも驚きの声をあげていた。

 

「久し振りだな」

 

「どうして此所に?てか、サラマンダーがいるって事はオリヴィエもいるのか?」

 

「オリヴィエなら彼処だ」

 

サラマンダーの指差す方を見ると、

 

 

―つぼみ、博士、この紫色の花は何て名前なの?―

 

―この花はミズカンナと言うとても珍しい花なんです―

 

―ほう。この花が分かるとは、流石つぼみちゃんだね―

 

―ありがとうございます!―

 

―ミズカンナ、…どんな花なの?―

 

―ミズカンナとは、クズウコン科ミズカンナ属の多年草で原産地は北アメリカの南部、主に湿地体に生えています。日本へは昭和時代の初期に渡来してきました―

 

―へぇ、北アメリカなんだ―

 

―オリヴィエは行った事があるんですか?―

 

―うん。まだ男爵と出会ってまだ間もない頃に―

 

 

「………」

 

園内の池の前で三人仲良く話をしていた。

 

「お父さんもいたのね…」

 

「流石、博士だけあって詳しいものだ。ところで、そちらのお嬢さんはどちら様で?」

 

「…あ、そっか。サラマンダーは会ってなかったな。彼女は来海ももか。えりかの姉だ」

 

「初めまして」

 

「初めまして。私はサラマンダー。以後お見知りおきを」

 

ももかとサラマンダーの自己紹介が済んだ時、オリヴィエが俺等に気が付いた。

 

「明!それにゆりにももかも!」

 

「よぅ、久し振りだな」

 

「ももかさん、撮影は終わったんですね」

 

「えぇ。とても楽しかったわ♪」

 

「ゆり、楽しかったか?」

 

「えぇ、とても。お父さんの方は?」

 

「はっはっは。仕事が楽しくてつい食事を抜いてしまいがちだよ」

 

「無茶だけはしないでね?でないとまたあの時の様に彼に殴られるわよ?」

 

「…そうだな。それに約束をしたからな」

 

「えぇ」

 

泣ける展開だねぇ。

 

「ねぇねぇ、明君」

 

「ん?」

 

「ゆりとゆりのお父さんは何の話をしているのかしら?」

 

「さぁな。俺は知らねぇな」

 

「そうなの」

 

「あぁ。でも今あの二人は幸せそうだからそれで良いんじゃねぇか?」

 

「うん、そうね」

 

それなりの事を言って誤魔化したが、俺は本当は知っている。

何せ、二人が言う“あの時”は惑星城の屋上でデューンと戦っていた時の事で、“彼”とは俺の事だからだ。

 

惑星城の屋上で変身が解けてしまった俺達三人を庇うためにデューンが放った攻撃を生身で受け止めた英明さん。

 

そしてゆりに母さんを頼む、と伝えたその瞬間唯でさえサバーク博士の正体、ダークプリキュアの正体を知ってギリギリだった俺の堪忍袋の緒が切れた。

 

そして俺は直ぐ様英明さんの元へ駆けながら変身し、爆発するギリギリの瞬間に英明さんの首根っこを引っ張り此方へ走ってきてたゆりの方へ飛ばし、ブレイドストライクで爆発を防いだ。

 

爆発を防いだ後、俺はゆりと英明さんの元へ行き、英明さんを殴った。

 

“生きることから逃げんじゃねぇよ!”って怒鳴りながらな。

 

そして約束させた。

 

“償うならテメェの一生を懸けて償いやがれ!”ってな。

 

しかし今考えるとあそこまでキレたのは人生で初めてだったな。

 

と、思いながら意識を戻すと、ももかはつぼみと、ゆりは親父さんと各々話していた。

 

「しかし、サバーク博士がまさか彼女の親だったとはな。二人には悪い事をしてしまった」

 

「英明さんにはもう謝ったんだろ?後でゆりにも謝れよ?」

 

「あぁ、わかっている」

 

「なら良い。…ところで二人はどうして此所に?」

 

「オリヴィエがどうしても此所へ来たいとしつこくてな」

 

「ちょっと!男爵!?」

 

「あぁ、成程。納得したぜ」

 

「明まで!?」

 

「青春か」

 

「背伸びしてるだけだ」

 

「確かに背、低いもんな」

 

「そうだな」

 

『はっはっは』

 

「二人とも!!」

 

良いんだオリヴィエ。

言わなくてもつぼみ以外には伝わってるから。

 

「それにしても二人はよく飛行機乗れたな。戸籍あるのか?」

 

「あぁ、少々不満があるが」

 

そう言ってサラマンダーは二人分のパスポートを俺に見せてきた。

 

二人のパスポートにはこう書かれていた。

 

サラマンダー・アンジェ

オリヴィエ・アンジェ

住所:×××の○○、△□。聖アンジュ院

 

…アンジェ?

 

「サラマンダー、アンジェって…」

 

「あぁ。忌々しいあの女はパリに院を造ってたらしくてな。そして何の因果か私達は今そこにやっかいになっているんだ」

 

「院長が言ってた。この院に住む者には皆名前にアンジェって付ける決まりがあるんだって」

 

「成程。それでなのか」

 

「どうせ付けるならあのナイトの方がまだマシだ」

 

「それについて院長は何て?」

 

「“我は愛するアンジェを護る為に生まれた存在。我の名は我の後継者のみに継がせる”って記した記録があるって言ってた」

 

「成程。だからサラマンダーは不満なのか」

 

「敵ながらあのナイトは好感が持てた。それに比べてあの女はまったく…どこまで私を苦しめるつもりだ……」

 

そう言って後ろを向き空を仰ぎ見るサラマンダー。

だが、今の言葉に違和感を感じた俺はオリヴィエに小声で話し掛けた。

 

「…不満の割りには声が明るい気がするのは俺の気のせいか?」

 

「…気のせいじゃないよ。何だかんだで男爵はキュアアンジェに感謝してるんだよ」

 

成程。

 

「…素直じゃないだけか」

 

「…明、それ男爵には言わない方が良いよ。前に僕も言ったら男爵が怒ったから」

 

「…図星を突かれたか。まったく、子供かっつーの」

 

「…だね」

 

「二人共、何か言ったか?」

 

『いや、何も?』

 

探られる前に俺はサラマンダーの気を逸らす事にした。

 

「そう言えばえりかといつきは何処に?」

 

「二人は薫子さんとさっき新しい紅茶を用意をしに」

 

「こりゃタイミングが悪かったな。更に三人分用意させる事になっちまうな」

 

俺がそう言った直後、

 

「みんな、紅茶持ってきたよ!」

 

「…もぐもぐ…しかも薫子さん特製クッキー付き〜!」

 

「ふふふ、お口に合うかしら?」

 

タイミングが良いのか悪いのかえりか達がやって来た。

 

てか、えりかの奴、既にクッキー食ってるし…

 

「あ!明さん!」

 

「撮影終わったんですね」

 

二人が俺に気付いた。

 

「おう。終わらしてきたぞ」

 

「もも姉とゆりさんは?」

 

「二人は各々つぼみと親父さんと話してるぞ。…おーい、茶が来たぞー」

 

「はーい!」

 

その後新たに三人分の紅茶を用意してもらい、サラマンダー達は優雅なティータイム。俺達は写真の御披露目会。

 

「もも姉!早く写真見せてよ!」

 

「はいはい、今見せるわよ」

 

ももかはポーチの中から数枚の写真を取り出しえりかに渡した。

 

「どりゃどりゃ…おぉ〜!明さん格好良い〜!」

 

「えりか、わたしにも見せてください」

 

「ボクも気になるな」

 

つぼみといつきも写真を見て、

 

『おぉ〜!』

 

予想通りの反応をしていた。

 

「ねぇ、明」

 

「何だ、オリヴィエ」

 

「つぼみ達が見てる写真は何を撮った写真なの?」

 

「ももかと俺がお洒落した写真」

 

「?…明ってそんなにお洒落する性格だっけ?」

 

オリヴィエよ、

その疑問は正解だ。

 

「実はな…」

 

俺はももかに誘われたあの日から今に至るまでの説明をした。

 

斯々然々、以下省略。

 

「…て訳だ」

 

「…あぁ〜…」

 

「止めろ。その目で俺を見るな」

 

「あ、オリヴィエ一緒に見ますか?」

 

「…うん」

 

つぼみに聞かれてオリヴィエは写真を受け取った。

 

「明…」

 

「だからその目を止めろ」

 

写真を見たオリヴィエは先程と同じ目で俺を見た。

 

「ふっふっふ〜、皆驚くのはまだ早いわよ?」

 

「どーゆこと、もも姉?」

 

「…やっぱあの写真も見せるんだな」

 

「もっちろん♪」

 

「…そうかい。ならどーぞ」

 

「止めないのね、明」

 

「言って止まるタマじゃねぇだろ」

 

「明さんももも姉のことがわかってきたね」

 

「まぁな」

 

言っても止まるタマじゃないもも姉。それなら此れからは“タマ姉”と略して呼ぼう。

 

なんてな。

 

「ジャジャーン!これぞまさしく狼男明君!」

 

『!?!?!?』

 

写真を見たつぼみ達は驚きのあまり、固まっていた。

 

「…どうしたの?つぼみ?」

 

まだ写真を見てないオリヴィエが写真を見ようとしたら、

 

「駄目です!オリヴィエにはまだ早すぎます!!」

 

「あ、復活した」

 

いち早く復活したつぼみによって写真はオリヴィエの手の届かない高さへ。

 

「…つぼみの意地悪」

 

「ち、違うんですオリヴィエ!?わたしはオリヴィエの為を思って!?」

 

「…確かにオリヴィエにはまだ早いかな〜」

 

「…うん。正直に言うと、僕達にも早い気がする」

 

ん、えりかといつきも復活したか。

 

「まだえりか達には刺激が強過ぎたようね」

 

「まぁそうだろうな」

 

「あ、更にもう一枚あるけど、どうする?」

 

『見せてください!』

 

「…手のひら返しが早いな」

 

未だに攻防しているつぼみとオリヴィエを後目にえりかといつきはもう一枚目を見た。

 

『ぐはぁ!?』

 

今度は声が出る程ダメージを受けたようだ。

 

………、

 

さて、ももかが何の写真を見せたのかここで説明をしよう。

 

オリヴィエも見た一枚目の写真は俺とももかのツーショット写真。

 

これはまだ良い。

だが、問題は二枚目からだ。

 

狼の肉食っぷりをもっと出したいと言うカメラマンからのリクエストで、ももかに“壁ドン”した写真を撮る事になった。

 

壁ドンした瞬間、スタジオ内の女性スタッフ達から黄色い声が上がったがももかは至って通常だった。

何せ、“きゃ〜!明君大胆〜!”と楽しんでいたからな。

 

序でに言うとこの時は俺はまだドキドキしていなかった。

ドキドキしたのは三枚目の時。

 

壁ドンを撮ってテンションが上がったカメラマンが今度は“顎くいっ”をリクエスト。

そしてももかが即承諾をし、やる羽目に。

 

少しは俺の話を聞けっつーの。

 

で、結局顎くいをしたんだが、あまりにもももかとの距離が近かく、平然を装っていたが内心で柄にもなくドキドキした。

 

因みにこの時も女性スタッフの黄色い声が凄かったがももかは先程と変わらず至って通常だった。

何せ、“きゃ〜!明君に食べられる〜!”と楽しんでいたからな。

 

ゆりでさえ頬を少し赤く染めてたってのにももかめ、メンタル強すぎだっつーの。

 

「明さんともも姉、顔近っ!」

 

「うっわあ!?うっわああっ!?うっわぁぁぁっ!?」

 

あらら。

いつきがパニックに。

 

「…いつき〜落ち着け〜」

 

「ふむ、確かに此れはオリヴィエにはまだ早いな」

 

「ですよね!サラマンダー!」

 

いつの間にかサラマンダーがつぼみから写真を受け取って見ていた。

 

「むぅ…男爵まで…」

 

「まぁそう凹むなオリヴィエ。ルーガルーになったコイツなんて見たくないだろ?」

 

「…え?明が?」

 

「あぁ。しかもお前よりもずっとルーガルーだ」

 

「明…」

 

「…またその目か」

 

いったい何を想像したんだか。

 

「てか、サラマンダー、写真を返してくれ」

 

「あぁ」

 

サラマンダーから写真を受け取った俺はもう一度その写真を見た。

 

狼ファッションの俺は兎も角、赤ずきんファッションのももか…。

 

「赤ずきんなのに頭巾を使っていない事に胸を痛めたももかの職場の人達。…頭巾だけに“ズキン”とな」

 

『………』

 

『プッ…、っく…くくくっ……』

 

あ、やっぱゆりと大人組にはウケるよな。

 

そんな事を思いながらその後も植物園でワイワイと賑やかに騒ぐ俺達だった。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

後日、雑誌が発売され学校の奴等だけじゃなく、なぎさ達からも狼として俺は暫くの間、弄られるのであった。

 

「ガルルゥ……」

 

 

【完】

 




なんとか今月中に書けた。

さて、どうしよう。
スイート編アフターは話が浮かんでるが、スマイル編アフターの話が全然浮かばん( ̄▽ ̄;)

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