明:「スマホとガラケーの二台持ちで良かったな」
とある日の休日、俺とゆりは朝からいつきん家にお邪魔して道場で門下生達に“とても楽しい”稽古をつけていた。
「んじゃま今日の稽古はこれで終わりだ。みんなお疲れさん」
『押忍!ありがとうございました!』
「お疲れ様。また楽しくやりましょうね」
と言ってももう終わったけどな。
今は縁側に座り身体を休めながら門下生達を見送ってる最中だ。
今日に限らず門下生達との稽古は俺とゆりが一人残らずボロボロにしてるんだが、それが門下生達の闘志に火をつけてるらしく何度も立ち向かってくるから俺らも楽しくて仕方ねぇぜ。
「お疲れ様です明さん、ゆりさん」
「おう、いつきもお疲れさん」
「お疲れ様いつき。今日は悪かったわね」
何せ今日の稽古は昼頃までの予定だったのに結局ほぼ一日使っちまったし、昼飯も用意してもらったからな。
まぁ俺やゆりも作ったけどさ。
「いえ、明さんとゆりさんのお蔭で門下生達の実力が上がってきてるのでこちらも助かってますよ」
そう言いながらいつきも縁側(ゆりの左側隣)に座り、どうぞと用意していた水筒を俺達にくれた。
「サンキューな。……ぷはぁー、生き返るぜ」
やっぱ一汗かいた後に飲む水は格別だぜ。
それに道場の縁側に座って見る夜空も中々だ。
「それにしても今日は盛り上がりましたよね」
「あぁ、何せ熊さんがゆりから一本取ったからな」
元々熊さんは門下生達の中では頭一つ分抜き出ていたし、覚えてないとは言えクモジャキー時代に俺達と何度も戦ってたからな。
今日の稽古ではそれが上手いこと作用してゆりから一本取れたのかもしれねぇな。
「…でもその後で直ぐに取り返したわ」
「それでもだ。今まで稽古してて俺やゆりから一本取れる奴なんてさつきさんかいつきぐらいしかいなかっただろ?」
「…えぇ」
他の師範代達は俺やゆりとの相性が頗る悪いのか、殆んど防戦一方だからな。
「そんな中で初めて門下生達の中で一本取れる奴が現れたんだから今は素直に喜ぼうぜ?」
「…それもそうね。ごめんなさい。みっともない姿を見せてしまって」
「いえ、ボクは気にしてませんから」
「俺もだ。…それに人間、たまには素を曝け出さねぇと息苦しいくなるってもんだ」
「…明さんは常に素を曝け出してる気がするんですが」
おーおー、いつきも中々言う様になったな。
兄貴分として嬉しいもんだぜ。
「そりゃあ、“人生・オープン・マイ・ハート”が俺のモットーだからな」
「そうなんですか?」
「そんなわけないでしょ。どうせいつもの軽口よ」
「なんてこった、こうもあっさりバレるとは……」
「それぐらいわかるわよ。いったい何年来の付き合いだと思っているのよ」
「さぁな?何年来なんだ?」
「さぁ?長過ぎて私は忘れたわ」
「なら言うなよ」
「なら明はわかるのかしら?」
「わからん」
「それでよく人の事が言えたわね」
「ごめんなさい」
「素直でよろしい」
「え?え?え?」
なんてこった、俺とゆりの軽口の言い合いについてこれなかったいつきが困惑しちまいやがった。
「落ち着けいつき。今のやりとりは唯の軽口の言い合いだ」
「そうよ、唯の冗談。聞き流すのが最良の手よ」
俺とゆりにそう言われたいつきは深呼吸をして無事に落ち着いた。
「…ふぅー……」
「大丈夫か?」
「…なんだかゆりさんの意外な一面を垣間見た気がします」
「ふふふ、こんなサービス滅多にないわよ?」
「だってさ。良かったないつき」
「…一連の流れのせいで素直に喜べません」
「「なんてこった」」
「もう勘弁してください……」
「「はっはっはっは」」
たまにはこんな日があっても良い筈だよな。
「……でも、こんなお兄様やお姉様がいたら毎日が楽しそうだなぁ」
【終わり】
オマケ
〜強敵〜
いつき:「それにしても今夜は月が綺麗ですね……」
明:「………」
ゆり:「………」
いつき:「???」
明:「なんてこった、今の聞きましたかいゆりさんや」
ゆり:「えぇ、二人同時にだなんていつきったら大胆ね」
いつき:「え、あ、あ!ち、違いますよ!?」
明:「どうしますゆりさんや」
ゆり:「良いんじゃないかしら?いつきは誠実で優しいし腕っぷしも確かだものね」
いつき:「…冗談で言ってますよね?」
明、ゆり:『あぁ(えぇ)、冗談(よ)だ』
いつき:「…明さんは兎も角、ゆりさんも大概いい性格ですよね」
明:「いや〜」
ゆり:「照れるわね」
いつき:「…はぁー、やっぱりこの二人にはまだまだ敵わないなー……」
明:「頑張れ武術っ娘」
ゆり:「修行あるのみよ」
いつき:「…はい」