ヘヴィーオブジェクト ~語られる伝説の終止符~   作:白滝

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投稿空きましたが、少しずつ進めていきたいと思います(汗)
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第5章 殺意の狼煙は硝煙と共に >>モロカイ島沖陽動作戦

 真珠湾(パールハーバー)に設立された『情報同盟』軍の基地は、オブジェクト全盛のこの時代にしては珍しく非移動型ベースゾーンだった。

 何故かと問うまでもない。その部隊が保有するオブジェクトがこの環境に適してるからだ。1000人を超える兵隊の都合よりもたった1機の殺戮兵器の都合を優先するというのも、この時代らしい。

『かたじけない、ベルモットスプレー大佐。我々「正統王国」軍第37機動整備大隊も大混乱の渦中にある。情けない話だが、通常の指揮系統が機能していない』

「建前はいらんぞ、カピストラーノ中佐。第37機動整備大隊と言えば、どうせあの『ドラゴンキラー』の片割れが勝手に突っ走ったのだろう」

『……痛み入る。いくら世界的勢力が連合軍を組んでいるとはいえ、本来ならばこんな許可など下させないだろうに。誠に申し訳ない』

「貸しを作ってやったと大仰に構えておけ。そもそも指揮系統が乱れたのはこちらも同じだ。でなければ、私が派遣されたりせん」

 レイス=マティーニ=ベルモットスプレーは、指揮系統が乱れた際に派遣されるピンチヒッターの指揮官だ。ゆえに、自分が派遣された時点で現状がどれだけ緊迫した戦況下にあるかを理解していた。

 彼女の傍に控えていた青年が、彼女の耳にそっと耳打ちした。

「例のヘイヴィア=ウィンチェル軍曹が我々の基地に到着したとの事です」

「カピストラーノ中佐、件の馬鹿が我々の庭にやって来たそうだ。貴君の要望通りに物資の支給やら協力するつもりだが、あまり生意気な事を言うようだったら首輪を付けて調教してやっても構わんな?」

『それは是非ともお願いしたい。何なら、首輪だけでなく股間に貞操帯まで付けてやってくれ』

 無線を切り、彼女は肘掛け椅子に改めて深く座り直した。

 青年は彼女の肩を揉みながら、自分の肩も凝っていそうに気だるげに首を回している。

「伝説の『ドラゴンキラー』の片割れさんを、我々の迎撃作戦に協力させるのですか?」

「まさか。偽の情報を渡して囮に使うに決まっているだろう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 『情報同盟』軍のパールハーバー基地に到着したヘイヴィアは、基地の入り口で入念な身体検査を受けた後、監視付きで基地内に通された。

 寄り道する暇もなく、そのままいきなり司令室に案内される。

「……歓迎してもらっといて何だが、よその軍の兵士を司令官に会わせるのはどうなのよ?信頼の証と受け取っていいのか?」

「司令官が直々にお前の額に鉛玉をブチ込みたいのかもな」

 監視の兵士に軽口を叩かれながら、ヘイヴィアは司令室に入った。

 簡素な間取りの部屋にいたのは、金髪で碧眼の二十歳くらいの女性。彼女の肩を揉んでいる秘書は、ヘイヴィアよりも四、五歳上で中年に差し掛かっていそうな中年男性だった。しかし外見はかなり若く見え、傷だらけのヘイヴィアの方がどちらかと言えば老け込んで見えた。

「『正統王国』軍第37機動整備大隊のカピストラーノ中佐から連絡は受けている。貴様がヘイヴィア=ウィンチェル軍曹だな?」

「保険証も運転免許証も持ってないが構わねえか?あぁ、身体検査ならベッドの上で手解きを願いたい」

「その下品な減らず口が貴様の身分証みたいなものだ。我々としても時間が惜しい、クソ面倒な手続きなど省く」

 さっさとブリーフィングに進め、という彼女の視線を受けた青年が、説明を引き継いだ。

「まずはこちらの自己紹介を。我々は『情報同盟』軍第86機動整備大隊、そしてこちらの女性将校がレイス=マティーニ=ベルモットスプレー大佐であります。私はその秘書になります」

 青年は続けてプロジェクターを取り出し、映像を交えて現状の『ピリオド』の動向を説明した。

「かのクウェンサー=バーボタージュ氏率いる国際テロ集団『ピリオド』は、クルーザーに乗って逃亡しています。傍には同氏の開発した第三世代オブジェクト『クラウンマグナム』が警護しており、同じオブジェクトしか攻撃を仕掛けようがありません。トーキョー湾での戦闘データを電子シミュレート部門に解析させましたが、我々『情報同盟』軍第86機動整備大隊が保有する第二世代オブジェクト『ライトニング919』では勝率1.9%。100回戦って99回負けます」

「……まぁ、だろうな。第二世代オブジェクトが何機集まろうが、環境改変能力を持つ『クラウンマグナム』には勝てねえだろうよ」

「ですので、そもそも我々は『クラウンマグナム』に勝つ気はありません。『クラウンマグナム』と『ピリオド』を分断する作戦を展開中でして、ウィンチェル軍曹にはそれに参加して頂きたい。ざっくり言えば、分断して『クラウンマグナム』を足止めしている間に、首謀者であり陣頭指揮を取っているクウェンサー=バーボタージュ氏を強襲して殺害しよう、という概要です。詳細は後で説明致しますが、ここまでで何か質問は?」

「……そんな誰でも思い付くような対抗策なんぞ、アイツにお見通しに決まってんだろ。それよか、うちの『ベイビーマグナム』が遅れて加勢に来ると思うんだが、それを含めた戦闘シミュレーションはどうだ?」

「全敗です。勝てる要素は見当たりません。総合マルチロール型の第一世代なので、『クラウンマグナム』の環境改変能力にある程度喰らい付く事はできます。けれど、人工AIを二つも併用した操縦技術でそもそも劣りますし……」

「………………」

 ヘイヴィアは黙って考えに耽る。

「おい、こいつの提案などどうでもよかろう。いくらあの『ドラゴンキラー』の片割れといえど、オブジェクトをぶっ壊すのはこいつの役回りではなかったんだろう?耳を貸すだけ時間の無駄だ。さっさと作戦を説明するぞ」

「いや、ちょっと待て。『クラウンマグナム』に勝つ方法があるかもしれねえ」

 二人が驚いた表情をした。

 ヘイヴィアは神妙な面持ちで、二人に作戦を進言する。

「俺にオブジェクトを倒すアイディアなんてねえ。知識もねえ。だが、アイツの思考は読める。アイツならきっと潜伏する基地に、あれを用意しているはずだ。それを利用すりゃあ、もしかすると……」

「なんだなんだ、代名詞が多くて訳分からんぞ。キッチリ説明しろ」

「その前に、『正統王国』第37機動整備大隊と無線を繋いでくれ。『ベイビーマグナム』のエリート、ミリンダ=ブランティーニ大尉と話がしたい」

 レイスの許可を得て、青年が無線を繋いだ。

 背後から復旧作業の音を響かせながら、ミリンダが返事をしてくる。

『勝手に「情報同盟」ぐんのきちにむかったらしいね。フローレイティアがすごいおこってたよ?』

「ババアって言われたくなかったら、皺を増やさないよう常にニコニコ笑ってろってアドバイスしといてくれ」

『で、どうしたの、ヘイヴィア』

「『クラウンマグナム』に勝てる算段がある。でも、そのためにはミリンダにとある覚悟をしてもらわなきゃならねえ」

『……かくご?』

「あぁ、それはな――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほぼ騎兵隊じゃねえか」

 ヘイヴィアは溜め息をついた。

 携帯端末でハワイ諸島の地図を眺める。左から順に、ニイハウ島、カウアイ島、そして『情報同盟』軍の基地があったオアフ島、それからモロカイ島、マウイ島、そして最後に最大面積を誇るハワイ島、といった配置になっている。マウイ島の下には、『島国』本州の下にある四国地方のように、ラナイ島とカホラゥエ島が鎮座している。

 『ピリオド』の逃走ルートから電子シミュレート部門が必死に予測演算した結果、奴らが向かっている潜伏基地はそのラナイ島だと推測された。

 よって、その一つ前のモロカイ島で待ち伏せ、分断作戦を決行する手筈になっている。ヘイヴィアは分断された『ピリオド』を追い駆けてクウェンサーを殺害する討伐部隊に参加した。

 なんと小隊の指揮官はヘイヴィアだった。『正統王国』軍人であるヘイヴィアが『情報同盟』の部隊を仕切る役回りに『情報同盟』兵士から不平が爆発したが、そこは

「安心しろ。こんな見た目でもあの『ドラゴンキラー』の片割れ。一緒にいればしぶとく生き残るはずだ」

 というレイスの一声で一蹴された。

 勝手に期待値がぐんぐん上げられていくが、別にヘイヴィアは優秀な軍人ではない。多少器用貧乏なところはあるが、飛び抜けた長所を誇れる程ではない。

 仕方がない。

 本作戦の提案者はヘイヴィアなのだから、ここで役を降りたら全体の士気に関わる。

「チッ、やっぱリーダーは慣れねえぜ……行くぞ。この天才美形元貴族ヘイヴィア様に続きな!」

 ヘイヴィアの後に30人ほどの『情報同盟』軍人が続く。ここは既にモロカイ島に上陸した後で、ヘイヴィア達の数キロ先の沖では『クラウンマグナム』と『ピリオド』の軍艦が海上を並走していた。

 そろそろこちらの連合討伐部隊の接近が『ピリオド』側にもバレる頃だ。いや、クウェンサーはこちらに気付いていて泳がせているのかもしれないが。

 駆けるヘイヴィアの傍に、味方の『情報同盟』軍人が並んだ。

「ウィンチェル隊長。作戦開始の合図を」

「うし、始めるか!……こちらヘイヴィア=ウィンチェル軍曹。これより『ピリオド』を分断し、拠点へ逃げ込んだ残党を強襲する。目標はクウェンサー=バーボタージュの殺害。スマートに振る舞う必要はねえ、下品に食い散らかして最悪のテーブルマナーで相手をしてやれ」

『こちら司令本部、レイス=マティーニ=ベルモットスプレー大佐だ。「正統王国」ではふざけたジョークで発破をかけるらしいが、我が部隊では低俗な発言を控えて頂こう』

 そうこう言っている間にも、状況は変化した。

 海上を走行する『クラウンマグナム』の向きが変わる。

 主砲を向けた先には、一機のオブジェクトがあった。

 『ライトニングサージ』。『情報同盟』では『ライトニング919』と呼ばれている第二世代オブジェクトだ。

 天候が曇天時限定のオブジェクト。ヨウ化銀を上空へ撒いて雲を拡大させ、避雷針用のパラボラアンテナを上空へ発射して戦場一帯に雷を落とす。一般的にオブジェクトは電磁パルス(EMP)耐性が高いけれど、照準を担うセンサー群まではそこまで強固に守られていない。例え対電磁パルス(EMP)用にケーブル配線をビニール被膜しようが、雷撃の奔流が焼き尽くしてしまう。

 雷のサージ電流で敵機のセンサー類をまとめて潰して機能不全に陥らせる戦法から、『五感殺し』という異名まで付けられている。

 『クラウンマグナム』と同様に天候兵器のコンセプトを汲んだ最新鋭の第二世代。真珠湾(パールハーバー)基地に『ライトニングサージ』が派遣されている理由も、赤道に近く雲が多いからだった。

 一般的なオブジェクトの射程圏は10kmだが、上空の雲の面積をまとめて射程圏に変える『ライトニングサージ』は遠距離攻撃を得意とする。ヨウ化銀を積んだ特殊弾頭をコイルガンにて上空に打ち上げた。炸裂した弾頭が、真っ白な雲を稲光する暗雲へと染め上げていく。

 即ち、落雷。

 天候を支配するーーそれはかつて、神にのみ許された行為のはずだった。科学を極めた冒頭的な人間は、そんな偉業さえ踏みにじってコンビニエンスに再現する。

 それがオブジェクト。

 それが『ライトニングサージ』。

「……でもよ、アイツの作った『クラウンマグナム』はスケールの次元が違えんだ」

 環境改変能力を持つ万能マルチロール機である『クラウンマグナム』は、そもそも惑星規模での災害に対応する。

 言うなれば、完全な上位互換。方式や原理は違えども、『ライトニングサージ』と全く同一の現象を起こす事ができた。

 『クラウンマグナム』も上空の雲へ向けて主砲を発射した。放たれたのは当然、特殊弾頭(EMT)

 直後、轟々と唸りを上げる暗雲にスパークが走った。

 落雷を乗っ取ったと気付けたのは、おそらく『ライトニングサージ』のエリートだけだった。あるいは、ヘイヴィア=ウィンチェルも含むのか。

 『ライトニングサージ』は、咄嗟にシャークアンカーに偽装したアース用バンカーを海中に伸ばす。天空から射られた雷轟の槍に『ライトニングサージ』が撃たれる。

 バリバリバリバリ!!と空気と海水が焼ける蒸発音が10km以上離れたヘイヴィア達の小隊まで届いた。

 『クラウンマグナム』は止まらない。『ライトニングサージ』の足元へ向けて特殊弾頭(EMT)を放った瞬間、海中が氷結した。それはアース用バンカーに纏わり付く錘となって、『ライトニングサージ』の高速機動を制限する。

 まるで割り箸に纏わり付く綿飴のようだった。氷という巨大な錘を吊り下げた『ライトニングサージ』に、急旋回は不可能。

 『クラウンマグナム』は七門ある主砲を下位安定式プラズマ砲を全門斉射する。大破もクソもない、コックピットをブチ抜く一撃必殺。

 ぽっかりと穴の空いた『ライトニングサージ』が誘爆しながら轟沈していく。

「何だと……!?分断どころか、時間稼ぎすらできないのか!?」

(当たり前だろうが、能天気共が。アイツの作ったオブジェクトがこんな程度で止まるかよ)

 蒼い顔をし出す味方の兵士を無視し、ヘイヴィアは冷静に分析を進めていた。

 時間にして、せいぜい5分もなかった。瞬殺だ。

 これじゃあ『クラウンマグナム』に随伴している『ピリオド』を分断できない。

「ウィンチェル隊長、作戦失敗です!!撤退してレイス司令官の指示を仰ぎましょう!!」

「寝ぼけてんのか?そんなんだからテメェらは駄目なんだ。このまま俺らの歩兵小隊だけで作戦を続行する」

「不可能です!!我々歩兵部隊ではどうしようもないでしょう!?オブジェクト相手に生身であなたは怖くないんですか!!」

「この俺様が自殺志願者に見えんのか?怖えに決まってんだろ。だが、このままアイツを逃がす訳にはいかねえ。『ピリオド』に体勢を整える暇を与えないラストチャンスなんだよ」

『こちら司令本部のレイスだ。どうみても不可能だ、撤退しろ。これは命令だ。無視すれば軍法裁判にかける』

「ほら、司令官もそう言っておられます!!」

 味方の兵士の意見を無視して、ヘイヴィアは潜伏基地へ走った。

「なんだテメェら、もしかして軍規違反童貞のムッツリ優等生共か?なら丁度良い、真っ赤な顔した上司を放置プレイする独断専行の気持ち良さを俺がレッスンしてやるぜ。なぁ、ナイト様」

 ヘイヴィアの独り言に『情報同盟』軍の兵士が絶句する。

 返事をしたのは、脳内に響く幻聴だけだった。

『よせよヘイヴィア。俺はお前と違ってフローレイティアさんの言いつけをしっかり守ってたぜ。マゾい性癖を共有した憶えはないって』

 

 

 

 

 

 

 

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