……スターウォーズの新作が見たい
一輝は何時もの秘密の場所である地下の書庫に籠っていた。一輝は書庫の一角で掌を突出しその姿勢を保っていた。その額には幾筋もの汗の軌跡が見て取れる。
一輝の視線の先には長机が床から1メートル近く離れた所に浮かんでいた。机と言っても8人は腰掛けることが出来るような重厚な物であった。それは多少危なげに揺れはするものの安定して浮遊を保っていた。
「よしっ!」
一輝は彼にしては珍しく少年らしい声を上げ掌を降ろした。それに伴い机は床に落ち鈍い音を立てた。それを使用人に聞き取られないか一瞬動きを止めたがすぐにそれはないと考えなおした。
新しい養子、即ち次期当主候補を黒鉄の家に迎えてから一輝が原因で蔓延していた暗い空気は取り除かれた。そして「いらない子」の一輝が何をしようとも気にする者は一人を除いていなかった。
「お兄様!? ここにいるのでしょう!? 開けてください!?」
この屋敷で唯一、一輝を気にしている者である妹が扉を何度も叩いていた。だが一輝はそれを無視し椅子にもたれかかり目を閉じ休息を取った。このフォースと呼ばれるエネルギーの行使は精神的な疲労をもたらし休息を必要とした。しかし本によるとフォースの行使を極めれば極めるほど疲労は少なくなり何れは無制限の行使が可能であると書いてあった。
瞑想に近い休息を終えた時には妹はいなくなっていた。使用人が連れて行ったのを一輝は感じていた。
(…そういえば習い事の時間か)
珠雫の事に少し考えを割くもすぐに終わった。そしてフォースについて考えを巡らせ始めた。一輝はフォースについて学び始め一か月程でフォースによる物体の移動―所謂サイコキネシス―と生命の探知―とは言っても距離にして半径数メートル程ではあるが―を習得していた。
フォースが可能にすることとしてはサイコキネシス、身体能力の強化、認識能力の増幅、
読心、洗脳、治癒といった物が挙げられると本に書いてあった。またフォースの扱いと理解を極めるとフォースライトニングと呼ばれる稲妻を身体から発生させたり霊体化と言う擬似的な不老不死を得る秘法すらもあるとの事であった。
(この力を全て……いや、これらの中の幾つかでも物にできたら…)
一輝はそこまで考え自分が幸せだった日々を思い出す。厳しくも優しい父と優しい母、そして自分を慕ってくれる妹、無口な兄。
「そうだ、取り戻すんだ」
一輝は改めて言葉に出し決意する。力を示せば嘗ての日々が戻ってくると一輝は一片の疑いもなく信じていた。
一輝は椅子から立ち上がり再度念を集中させた。その姿はつい一か月前まで魔力量という超えようの無い壁に突き当たり絶望していた姿とは思えないほど活力と希望に満ち溢れていた。
黒鉄珠雫は使用人に連れられ廊下を歩いていた。珠雫は先程まで兄である一輝を探していた、とは言っても場所はわかっている。問題は兄がそこから出てこないということであった。
一輝が分家筋の少年の私刑にかけられてから自室に戻る事が殆どなくなり地下の書庫に籠りがちになった。何とか兄と話をしようとするも珠雫にも習い事や稽古があり時間を取れないのが現状であった。
(どこかでお兄様と話をしなければ)
それが珠雫の偽りない気持であった。 一か月前珠雫は一輝が無表情で父と兄を羨ましそうに眺めているのを見た。王馬を見つめる一輝の眼は憎悪、悲しみ、妬みといった負の感情で満たされており珠雫は声をかけることが出来なかった。珠雫はあの時兄である一輝を恐れてしまった。彼女にとってその時の兄はまるで壊れてしまったように感じられた。
(私が兄様を愛さずに誰が兄様を愛すのか)
それが珠雫を突き動かす行動原理であった。一輝は珠雫の前では常に朗らかに笑い優しく接してくれた。しかしその笑顔が陰りを見せたのは3年前の兄の魔力量測定の日であった。そして珠雫への態度がよそよそしくなったのは2年前の珠雫の魔力量測定の日、珠雫が高い魔力量を誇るという事が明らかになって以来だった。
一輝は自分に魔力が無いという事が明らかになって以来文字通り寝食を削り鍛錬と勉学に励んだ。例え魔力がなくとも他で補えれば両親は自分を認め、自分を愛してくれると信じた。しかし誰も彼を認めず愛さなかった。その度に兄は傷ついていった。
(何故父様も母様も兄様を愛さないのか)
兄はあんなにも努力したのだから認められ愛されるべきであると彼女は考える。故に彼女は兄を認めず傷付ける父も母も使用人も分家の人間を憎んだ。
「珠雫お嬢様、もうあの落伍者に会うのを控えたほうがよろしいかと」
「なぜ?」
珠雫の思考を使用人が遮る。
「お嬢様にいい影響を与えないからです。それに旦那様も快く思っておられません」
使用人はそう言い一輝に対する中傷を始めた。珠雫は目の前にいる使用人に対し殺意を抱いた。
一輝がフォースの修業を始めてから4年が過ぎ一輝は12歳になり小学生を卒業した。それでも生活は変わらず学校から急いで帰り剣とフォースの修業に励む、その繰り返しであった。
時刻は深夜、黒鉄本家の敷地の外れにある道場。とは言っても使われていたのは10年近く前であり今は屋敷の近くに新しい道場が建てられここに来る者は滅多にいなかった。
一輝は屋外の修練場の巻き藁の前に目を閉じ拳を突出したまま立ち尽くしていた。次の瞬間目を見開き拳を開きフォースを解放する。それと同時に掌から稲妻が走り巻き藁を一瞬で焼き尽くす。
「……やった。やったぞ!」
一輝は歓喜の声を上げた。暗黒卿と呼ばれる者の中でもフォースに熟練した者が扱えるシスの稲妻を拙いながらも習得に成功していた。自分の成果を確認し満足すると縁側に座り本を開く。
(……そろそろ『武器』を作り始めてみよう)
一輝は本のあるページで指を止めた。その頁にはフォースを扱う者達固有の武器であるライトセーバーなる武器について紹介されていた。
外見は金属製の円筒、起動すればプラズマの刃が出現し万物を焼き切ると書いてあった。昔の一輝は作成方法が書かれていないか何度も読み返したがただフォースが導くとだけあった。それに不安を覚えたが2年ほど前ライトセーバーの作成に必要な物、手順、設計図が頭の中に浮かぶようになっていた。材料は何とか集められそうなものばかりであったが怪しい物があり、それこそがライトセーバーの心臓部であるアガデンクリスタルという物であった。
しかし本によればシスと呼ばれる存在は邪悪なフォースを水晶に込める事により代用が可能であると述べている。一輝もそれに従い慣れないながらも一年程手頃な水晶に負のフォースを注いだ。すると月日が経つにつれ透明であったただのクリスタルが燃え盛っているかのように赤く染まり禍々しいエネルギーを内包する物と化した。
一輝は懐から取り出し、眺めていた水晶を仕舞い込んだ。
「……まずは目先の事か」
まだ材料は集まりきっていないので日課である剣の鍛錬に移る。
『陰鉄』
名を呼び固有霊装を顕現する。一輝はフォースを扱う中で力そのものの扱いに慣れ魔力の繊細な操作に成功し固有霊装の具現化ができるようになった。
黒刃を構え振るう。踏込からの一撃、後退しながらまず一撃。その反復を繰り返しそのスピードをどんどん速める。こうして一輝の修練は始まった。
一輝がライトセーバーの作成を決意してから半年経ち材料集めは最後の一つという所まで来る。
一輝は茂みから黒鉄家の敷地を巡回する警備員の詰所を伺う。流石は日本を代表する魔導騎士の家系なだけあって本家の敷地は広く、その敷地を巡回する銃火器で武装する多数の警備員は黒鉄の家の力を暗に示していた。
「よしっ!」
自分に喝を入れ詰所の扉を開ける。中には警備員が数人いるのが確認できた。
「……黒鉄の坊ちゃん、いったい何を?」
カービン銃を手にした警備員が訝しげに言う。
『何を言っているんですか、僕はあなた達の上官ですよ』
一輝は言葉にフォースを込め吐き出す。
「…………ああ、そうでした。すいません」
二人ともどこかぼんやりとしながらも一輝の言葉に同調する。
「…それで一体何の用が?」
『エナジーセルを幾つか渡してくれ』
一輝が部屋の隅の扉に目をやった。
「……了解しました」
警備員の一人がぼんやりと部屋の隅の扉を開け中に入る。そのまま武器ロッカーのダイヤルを暗証番号に合わせ、中から小さい直方体の物体を幾つか持ってくる。
一輝はそれを受け取ると抱え駆け出した。
一輝は今まで親の期待に応え、愛されるためにいい子であり続けた。一輝は生まれて初めて悪い事を行った。
一輝は修練場で胡坐をかきライトセーバーの組み立てを行っていた。周囲にはパーツを取るのに使用したスクラップが転がっている。最後の難関であったエナジーセルはフォースによる洗脳が上手くいき肩すかしであった。このエナジーセルは10年ほど前米軍が開発したブラスターと呼ばれるエネルギー弾を発射する銃の動力源であり日本でも警察や軍を中心に配備が進んでいた。さすがは黒鉄の家と言うべきかこの最新の武器を自分の家の警備隊に配備させていた。
(……まるで測ったかのようにぴったりだ)
頭の中に浮かぶ設計図に従い本体は殆ど出来上がっていた。一輝は手中の金属製の円柱に深紅のクリスタルとエナジーセルを組み込んだ。エナジーセルが組み込めるか不安であったがカチリと子気味のいい音と共に嵌ってくれたことに安堵する。
円筒のスィッチを押すと深紅の光刃が出現する。
「……すごい…」
一輝はその光に魅せられる。軽く振るうとそれに応じモーターと古いテレビを掛け合わせたような音が響く。フォースでスクラップの中から電子機器を放りライトセーバーで一閃する。
「…………」
金属製のそれがまるでバターか何かのように切断された。一輝は改めて血紅色の光刃をまじまじと見た。
「熱ッ!」
一輝はライトセーバーを取り落した。柄の刃に近い部分が恐ろしいほどの熱を持っている。
軽い火傷を負った指を見、地面に転がり雑草を焼く光刃を恨めしげに見た。
スターウォーズBFをプレイした人は読んでくれてる人の中にいるでしょうか?
自分は前作のようにストーリーモードがないのが残念でした。
感想を頂けると嬉しいです。