モルガナさんとの亜空間生活   作:最下

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「そろそろ、聞かせてもらえます? あなたの答えを」「…………は」

 

 

『あなたも世界を観察しませんか?』

『……は?』

 

 

フラグとはここまで完璧に回収されるものなのか。意味が解らない、解らない事の連続だ。何なんだよそれ、世界の半分をお前にやろう的な意味なのか、どうしてそうなった。

 

 

『私は数多の次元、平行世界を観測してきました。ですが未だに辿り着けず……』

『そこで私の手中に私と志を共にする者を欲したのです』

『それが、あなた』

 

 

顔色や声音に冗談は含まれていない、だがまだ信じるには値しない。俺の立場、俺の理由、今俺が立っているこの空間、あんたが求めるモノ、全てが全て明確にされていない現段階で、超常だけを見せられても反応に困る。くだらないと吐き捨てることも出来やしない。

 

 

『志を共にできると? しがない一高校生と』

『ええ』

 

 

……理解の範疇を盛大に超えている。彼女の言う「俺の欲するモノ」、それが理由なのだろうが俺の深層に真理や条理への欲求が眠っているとはやはり思えない。

 

 

『仮に、仮に俺がYesと言った場合、またはNoと言った場合は?』

『Noの場合は全て昼休憩に見た、無意味な夢になるだけ』

 

 

断ったら口封じに消す、なんて物騒な事はないようだ。事実俺あらゆる面で変な女性に拉致られて亜空間にいったぜー! と言ったところで頭の病院に拉致られるだろう、まず言う相手もいないけど。

 

 

『Yesなら観察者の権利、即ち私の隣に立てる様になるための……研修を行います』

『案を受け入れた直後も気になりますけど、待遇面を』

 

 

寮があるよ! 新人さんも歓迎だよ! 気軽に来てね! の情報だ、必要な情報ではあるが俺が知りたいのは俗に言う給料とか休日面の話だ。バイトの求人情報は都合が良い事しか書いていない、これで週八勤務だよ! なら速攻破談だ。

 

 

『ああ、そっちですか。そうですね……基本あなたの目的に沿った観察をしてもらいます』

『まぁ俺の目的は置いておきます』

 

 

それはぼちぼち問い詰めればいい、今でも後でもまともな答えが返ってくるとは思えないが。

 

 

『それと私の腕として動いてもらうかもしれません。あくまで優先は観察ですが』

『ああ、やっぱりそうなるか』

 

 

手中に収めるのはその意図があったからか。一点を除けばデメリットが目立つ、だが俺が望むもの、求めるモノ、目的。それを知りたくなってきてしまった、この理解不能な人物が興味を示すものを俺が探し求めている……? 

 

 

『あなたの不安要素を削りましょうか、家族について……いえ知り合いについて』

『……何ですか』

『私に着いて行ったら失踪と同じ、そう思うでしょう?』

 

 

……正直そこまで頭が回っていない、自分の事と目の前のことで手一杯だ。だが警察沙汰の問題になる可能性に、小町や親父達を巻き込むのは忍びないのは確かだ。

 

 

『ご安心を、世界は都合良く回りますから』

『どういう事ですか』

『誰も気付かないだけですよ、あなたがいなくなった事に』

 

 

そっかなら安心、とはならない。

 

 

『人間は縛られ過ぎです。あなたの求める事を成しなさい』

『俺の……求める事……』

 

 

全てを、取っ払って、単純に、俺のしたい事を、求めるモノを……。

 

この年で幼子も目を剥く様な我儘が許されるなら……俺は

 

 

『そろそろ、聞かせてもらえます? あなたの答えを』

『…………は』

 

 

俺は、俺の答え。俺の欲するモノ、この目の前の、理解不能な人物の興味を惹く様なモノ。知りたい、知る必要がある、知らなきゃいけない気がする。運命やら定めは信じていない、だが今回限りははそういうものなのかもしれない。

 

 

『俺も知りたいです。俺にその権利があるなら』

『ふふふ、歓迎しますよ八幡。ようこそ追求者の道へ』

 

 

  *  *  *

 

 

「何処に行ったかと思えばわざわざこんなものを……感謝します」

「こんなもの呼ばわりですか。どういたしまして」

 

 

亜空間の星と闇に不釣り合いなベッドに腰掛けて、神妙な顔をしたモルガナさんに礼を言われる。モルガナさんの検査が終わった数時間後、空中で休む彼女の姿は2年前まで庶民だった俺には眺めていて複雑だった。腐っても怪我人、化け物でも怪我人、この場に合う家具とは言えないが必要なくなったら破棄すればいい。

 

 

「少し離れたところにいるんで、お大事に」

「ここにいてください、暇になるので」

「ああ、はい」

 

 

怪我人なんだから寝てろ、と言ってやりたいが色んな意味で無意味だ。可能なら一人でいたいが結局はモルガナさんの気分次第なので、大人しく従うに限る。

まあ、普段はお互いに観測の合間合間に話すだけだし、言いたいことは今のうちに言わせてもらおう。

 

 

「……あまり無茶しないでください」

「心配してくれるのですか」

「面倒事の回避っすよ、捕まったのを引き取りに行くのも手間ですし」

 

 

多分俺の保護者だろうし、なら皺寄せが来るなら俺だ。別にこの人が捕まるだけならあははーと笑って済ませてやるんだが、俺の住まいであり観測場である此処に干渉されたら、それこそ一大事の面倒事だ。それだけで他意はない。

 

 

「ふふっ、肝に銘じておきます」

「なんすか、その全て見通していますよー、みたいな表情は」

 

 

見通されていてもおかしくないのが怖い、見通すことが出来るのはもういいとして、せめてそれを悟らせないような言動を取ってくれたら幾らか気分が楽になるのに……無理か。そこら辺の気遣いをあなたに要求するのは無理か。

 

 

「いえいえ可愛い弟子を持てて私は幸せですよ」

「微妙にずらそうとしないでください」

 

 

実質肯定してるじゃねぇか。

だが、いや、まあ、可愛いはともかく、弟子と認識して貰えるのは素直に嬉しい。最初に詰め込むだけ詰め込んで、それからは先日のアドバイスのみの放任師匠だが、求めるモノに対するあの一途差は尊敬に値する。

 

 

「んんっ! それと面倒は嫌ですが、最初の契約通り仕事を与えられたらやりますよ」

「…………」

 

 

……モルガナさん? そこで黙られると少し怖いです……、差し出がましかっただろうか……足元に及ばないのは事実だが下働きならこなせると思ったが、自惚れか……。

 

 

「ふっ、ふふふ、あはははははっ! 」

「も、モルガナさん……?」

 

 

楽しそうに、普段の胡散臭さが匂う笑みとはかけ離れたその笑顔は美しい女性のものだ。俺の磨かれた目は騙せない、これがこの人の本来の、本物の笑顔なのだろう。……綺麗だな。

 

 

「あなたは本当に可愛いです、ふふふっ」

「……覚えて置いてくれれば十分ですから」

「いいえ、今此処で約束しましょう。望むなら指を切り落としますよ?」

「そんなガチな指切り拳万は結構です!」

 

 

起源に沿った重々しい約束をしてほしい訳じゃ無い、最低でも覚えてくれればいいんです。……だが約束をすると言うなら異論は無い、不相応ながら安否を心配に思う事も一度はあるのだから。

 

 

「私からも聞きたい事があります、あなただけじゃ不平等ではありませんか?」

「ええ、そうですね。どうぞ」

 

 

俺の返答を聞くと先ほど笑みとは打って変わって真剣な顔になる。その表情が変わる刹那に瞼の隙間から赤い瞳が覗いた。

 

 

「元の世界に帰りたいと思いませんか?」

「なに、を……?」

 

 

何を、言ってるんだ……?

 

 

「ただの確認ですよ、確認。どうです?」

「ありません、ありませんよ」

 

 

驚きのまま矢継ぎ早に否定する。この約束をした矢先に聞く様なものでもないだろう。それにホームシックを患う時期はとっくに過ぎている、そりゃあもう一年は前に。

 

 

「妹が愛しいかと思いましてね」

「愛しいっちゃあ愛しいですけど、俺に会う権利があると思ってんですか」

 

 

私利私欲の為に勝手に置いて消えて、寂しいからってのこのこと会いに行けと? さよならは言っていないからって会えるとでも? そこまで俺の神経は図太くない、寧ろ俺はガラス細工のように繊細に出来ていて簡単に砕け散る。

 

 

「権利など誰も具有しておりません。それは主張するものですよ」

「そうっすね、俺は主張しませんけど」

「ふぅ……、頑固ですね」

 

 

自分を守るためだ、下手な妥協はできないだろ。

それに恐ろしい、小町は俺がいたことを忘れ本人も他人も一人っ子として認識されている、俺が望んだことで後悔こそしていないが、目の当たりにするのは怖い。

 

 

「明日、デートに行きましょう」

「お断りします」

「おや? あなたは権利を主張しないのでしょう?」

「うぐ……」

 

 

モルガナさんはチェシャ猫の様な笑みを浮かべる。駄目だ、それはまずい。今の話の流れ的に行くところは決まっているようなものではないか。俺の元の世界、すなわち小町が生きている世界だ。……今更戻れるかよ。

 

 

「んじゃ、何処に行きましょうか。俺は札幌でラーメンがいいですそうしましょう」

「またまた、解っているくせに。往生際が悪いですよ」

 

 

くそう、解りたくないんですよ、わかっているでしょうが。もし会ったらどうするんだよ、てかこの人的に絶対小町に会うよ、試す気満々だよ。

 

 

「行き先は千葉。拒否権は勿論、異論反論は受け付けません。そのおつもりで」

 

 

やっぱりか……いや、ここで過去を過去にする絶好の機会かもしれない、忘れこそしないが足を引っ張る記憶にはさせない。ごめんな小町、最後に利用するような真似をして……。

 

 

「ふふふ、ご安心を。妹さんに干渉するような真似はしませんよ」

「……信じますよ」

「ええ、弟子の頼みなら」

 

 

さっきまでその弟子の要望ガン蹴りしといて何言ってくれてんだ。

 

 

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