オーキド博士の兄というひと言でレットのみならず思考は停止した。そして次々と疑問が湧いてきた。それを見通してショーキドは話始めた。
「突然言い出して信用できないだろうが証拠はある。マサラタウン住民票だ」
ショーキドはポケットから1枚のカードを取り出した。マサラタウンに住む者が持つ身分証明書。随分汚れているが、本物だった。
「ふむ、まずはどこから話そうか?聞きたいことはあるかね?」
レッドはいろいろと思い浮かんだが取り敢えず1番気になっている事を聞いた。
「オーキド博士のお兄さんが何故この世界にいるのかが気になります」
「この世界、か。レッド君は、ここがマサラタウンが無い世界だと理解しているのかね?」
「いいえ、よく分かっておりませんが?情報が少ないです」
「そうだな、まずはこの世界から説明しよう。今我々が居る世界はポケモンと人間が共存している世界ではない。いろいろと言い方があるだろうが、別世界、パラレルワールドと呼ばれるものだ。同じ地球だが、地理歴史、文化に言葉が変わっている。その別世界に我々は何らかの力によって来てしまったということだ。ここまではわかったかな?」
「ええ」
「うむ、そしてわしが何故ここで暮らしておるかと言うとな、ロケット団がとある研究データを盗んだからじゃ。それをわしは追っていたらこの世界にいた」
----40年前グレン島ポケモン屋敷
7月グレン島にあるポケモン研究所。一人の最高顧問とその助手二人が話し合いをしていた。一匹のポケモンのコピーについて。
ポケモンの名前は『ミュウ』。太古の昔、どこかに存在したといわれた『最果ての孤島』に住むと呼ばれる幻のポケモン。そのポケモンの遺伝子情報を持った化石が見つかったのだ。
グレン島のポケモン研究所はロケット団が裏で援助をしていた。当時のロケット団ボスであり、サカキの母は遺伝子情報を使ってポケモンのクローンを作ろうとしていた。遺伝子があれば、メタモンの遺伝子情報と掛け合わせれば、ポケモンのクローンが作り出すことができる。これで、幻のポケモンを作ろうとしていた。
この研究の最高顧問のフジ博士は日記にこう綴っていた。
『7月5日、南米のギアナにて『ミュウの遺伝子』を発見』
研究はフジ博士と助手のショーキドとオーキドの三人がロケット団に利用されているのを知らずに「ポケモンが進化するわけ、ポケモンの誕生の秘密」を暴くため、日夜研究を続けた。
『2月6日ミュウの卵が完成』
メタモンの卵に注射でミュウのDNAを入れたところメタモンのDNAが変化が確認された。実験は成功、後は卵が孵化するのを見守ることだけだった。ところが次の日研究所にロケット団が現れた。
ロケット団は『ミュウ』をロケット団の世界征服の道具とするため研究所からミュウの卵を奪いにきたのだ。ロケット団の下っ端はスリープやユンゲラーを使い、フジ博士と助手のオーキドを「さいみんじゅつ」で眠らせ、記憶の改ざんを行い、ミュウの遺伝子実験に関する記憶を封印した。
「ユンゲラー!スリープ!さいみんじゅつだ!!」
「ショーキド君!!これを持って逃げなさい!」
「兄さん早く!!ロケット団にこの化石と実験データを渡してはいけない!!」
「フジ博士!!オーキドォ!!」
ショーキドは必死に逃げた。ポケモンの背中に飛び乗り空を飛び回り追っ手を振り払おうとしたがトキワの森で捕まった。
「ったく手間取らせやがって」
白衣を着たロケット団の研究員がショーキドを蹴り飛ばした。
「げほっ、博士とオーキドはどうした!?」
「安心しな命はとってねぇ。今まで研究してもらったんだ、命だけは助けてやったさ。ただし、記憶を消してやったがなぁ!ギャハハ!!」
「ぐっ、貴様ぁ!!」
「おっと、早くボスにこれを渡さねば。ケーシィ、『テレポート』」
「させるかぁ!!」
ショーキドは逃げようとする研究員とケーシィに向かってタックルをかました。その瞬間世界が歪み空間にヒビが入る。空間が割れたと思うと、二人と一匹は空間に飲まれていった。
「気がついたらこの世界の海辺にいて、化石も研究員もいなかった。わしは、弟と博士が守ろうとしたものを守れなかった。わしはすべてを失った」
ショーキドは涙を流しながら言った。
ミュウのこども事件。レッドは脳内で思い出していた。
研究所でミュウのクローンを作ったら「ミュウツー」が生まれ、研究所や実験に関わった人物がミュウツーに殺された事件。ほとんどの関係者が殺されたため詳しい真相は迷宮入りとなったが、レッドがグレン島のポケモン屋敷でフジ博士の日記を発見。ミュウの遺伝子の事件なので、ミュウと一緒に調べていた。チャンピオンとなった後、グレンジムのカツラに聞いて当時の研究顧問の名前など訪ねたり、ロケット団アジトを調べまわり、フジ博士は、シオンタウンに住んでいるフジろうじんと同一人物と判明。ミュウとレッドがフジろうじんに詳しい話を聞きに尋ねたら、フジろうじんはミュウの姿を見て昔の実験記憶を思い出し、自分の犯した罪をミュウに告白して謝罪した。
ミュウはいつもレッドにしか見えないように姿を隠していたため、初めてレッドたちに会ったときにフジろうじんはミュウに気がつかなかった。その際、ミュウはフジろうじんを「やさしいおじいちゃん」と評していたため、フジろうじんの謝罪にも怒ることなく許した。ミュウ曰く「これからもポケモンにやさしくしてくれればそれでいいよ」とのこと。その後オーキド博士にミュウは姿を現し、記憶を取り戻させ、極秘にミュウツーの居場所を特定することを条件に過去の過ちを水に流した。その後、ミュウツーがオリジナルのミュウが自分を探していることを知り、オリジナルを殺し自分がオリジナルになろうとマサラタウンのレッド宅を襲撃。そして、レッドのママにフライパンでぶっ飛ばされ、ママがレッドのバックからモンスターボールを取り出し投げつけゲットして事件は解決した。
「ショーキドさん、ロケット団はミュウと私が壊滅しました」
レッドはハンカチをショーキドに渡しながら言った。
「なんと、今なんと言った?」
「ロケット団は壊滅しました、といいましたが?」
「いや、そこではない『ミュウ』といったかね?」
「ええ、……ミュウ出てきてやれ」
『……しょうがないわね』
ミュウは『へんしん』を解いてバッジから元の姿へと戻る。ショーキドは驚いた表情を隠せない。
「わたしは、夢を見ているのか?」
『夢じゃないわ、現実よ。私はポケモンのミュウ、レッドの友達よ』
テレパシーでショーキドに伝えるミュウ、ショーキドは涙を流して言った。
「すまないっ!本当にすまないことをした!!」
『いいの、私の先祖の化石だものあまり気にしてはいないわ。オーキド博士にもフジおじいちゃんにも言ったけど、怒っていないから謝罪なんていらないわ。悪いのはロケット団だからね』
ミュウはショーキドの肩をたたいて言った。ショーキドは声を殺して泣いていた。
「それで、ショーキドさんはどうして暮らしていたのですか?」
「ああ、この世界に来てとにかく実験データがなくなったのをひたすら探していたんじゃ、自分と一緒にこの世界に来たはずだからな。だが探しても探しても見つからなくってな、諦めていたときある異変が起こったのじゃ。『深海棲艦』とよばれる化け物が生まれたんじゃ」
『しんかいせいかん?』
「うむ、この世界では昔、世界大戦が起こっての、その際に沈んだ大砲を積んで武装した船の魂が具現化してこの世界の海を占拠したのじゃ。わしは思った。もしかして実験データを悪用して作ったポケモンなのかもしれんと。しかし、調べようにもポケモンはこの世界におらんし、何もできずにいた。その時『艦娘』と呼ばれる存在が生まれた。さっき出て行った彼女も『艦娘』の一人じゃ。彼女らの力を利用して『深海棲艦』からこの国をまもっておったのだよ、そう、ポケモントレーナーのようにな。ところが、この前新たな『深海棲艦』が発見された、それがこれじゃ」
ショーキドは一枚の写真を取り出して見せた。
「おい、これは!」
『……ルギア!』
ギラティナと戦っていたあの黒いルギアが写っていた。
「ふむ、やはりそうか。どうやら実験データがこの世界に影響しているようだな」
「ショーキドさん私たちはこいつに襲われて戦ったらこの世界に飛ばされたんです」
「なんと!そうだったのか!!」
ショーキドは腕を組み呟いた。
「そうなると、まずいの。下手をすれば世界が崩壊することになる。どうしたものかの」
『あら、何も悩む必要はないわ。私とレッドがその『しんかいせいかん』をぶっ飛ばすの手伝うわよ』
ミュウが言った。
「ミュウ!?」
『レッド何驚いているの?私の先祖の遺伝子で世界が狂っているのよ、知らない顔して帰るわけにもいかないでしょ?』
レッドは真剣な顔をして言った。
「そうだな、ポケモンが無いショーキドさんだけじゃルギアに勝てないし、他のポケモンもいるのかもしれない。ショーキドさん、僕たちにできることは無いですか?」
「君たち……協力してくれるのかね?」
『ええ、他人事じゃないもの、頼まれなくても勝手にやるわ』
「むしろお願いします、協力してください」
レッドが頭を下げてお願いする。ショーキドはレッドの両肩を掴んで言った。
「すまない、君たちには迷惑をかけてばかりだ。こんな私に力を貸してくれないか?」
「ええ、かまいません」
『まかせてよ』
ミュウとレッドの言葉に感動してショーキドは涙が流れてしまう、今まで生きてきてよかったと。
「レッド君、君にお願いがある!!『艦娘』を率いる提督になってもらいたい!!」
次回、レッド着任する。
秘書艦とかどうしようかな?