偽史・恋姫無双――乱世を照らす太陽――   作:味噌の素

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第1章 動乱の影
日出る処に皇子はあり


天は乱れ、地は荒れ果て、人は隣人の病や死に嘆き苦しむ後漢末期。

後の世にも名を遺す名高き英雄多きこの時代、天はまたここに一人の英雄を誕生させた。

或いはこの乱世を終わらせる救世の雄か、或いは荒れた地と人に天罰を下す使者か……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー燃える、燃える、燃えるーー、

 

家が、街が人が、命が、……燃えていく。

 

怨讐、慟哭、辛苦、叫喚、ありとあらゆる負の感情が渦巻き、そこは正しくこの世の地獄と化していた。

 

「うぅ……いてえ……いてえよぉ」 「お父さん……お母さん……ねえ、起きて……起きてよぉ」

「うわああ!熱い!熱いよ!助けて、お兄ちゃん!」

 

馬に踏み潰されて肉の塊となった者、刺し貫かれて、或いは切り刻まれて、大量の血を流し、死に至る者、身体が燃えて、火傷によって死に至る者。

 

死因は様々では有るが、恐らく、この瞬間では、この世界で最も死に溢れている場所であると言えただろう。

 

「ふぅ……はぁ……っっ……くぅ……!んっ……」

 

その現場より少し離れた、小高い山の上で、一人の小柄な少年が、体を引き摺りながら、這う這うの体で、力尽きたように木にもたれ掛かる姿があった。

 

その顔色は死人のように蒼白で、身体中が血にまみれており、平時では煌びやかであろう、服も、髪も自分の血と他者の血で赤黒く染め上げられていた。

 

その少年は、幼さが色濃く残る端整な顔を痛苦に歪ませ、街が一望できる場所まで、覚束ない足取りで向かっていった。

 

「大丈夫……きっと大丈夫だ……近くから見れば、きっと大したことは無いさ」

 

希望を声に出し、口の端を持ち上げ、憔悴しきった顔に無理矢理に笑顔を浮かべる。

そんなことでもしなければ、彼の身体も、心も保たないであろうことは一目瞭然であった。

 

「そうだよ!ここにいる人達だって、あっちで戦ってる皆だって、きっと……っ!?」

 

しかし、少年の瞳に映った現実は、絶望という二文字をこの上なく表していた。

彼の愛する国、優しく、豊かで、暖かい、威光で照らされていた楽園は、阿鼻叫喚の地獄絵図へと塗り替えられていた。

 

「あぁ…………あぁ……ああ!はは……うぇ、姉さ……皆……申し……訳、申し訳……ありません」

 

少年は膝から崩れ落ち、光を無くした昏い眼窩で茫洋と街を見下ろし、それ以外を忘れてしまったかのように、ただ涙を流すことしかできないでいた。

 

 

 

 

 

 

 

ーーその日、黄金の国と呼ばれた冀州は、落日の日を迎えた。ーー

 

 

 

 

 

 

 

 

何故このような悲劇が生まれたのか?それを知るためには、まずは先程の少年の生涯を追っていくのが良いだろう。

 

希望と絶望、栄光と挫折、喝采と糾弾、そんな数奇な、ありふれた彼の生涯を、是非とも皆様には御鑑賞頂きたいと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「袁隗様!お世継ぎ、ご誕生いたしました!男の子でございます!」

 

「それは誠ですか!ええい、政務は一時中断です!私はすぐに朱禹(しゅう)の元へ向かいます!後はお任せします」

 

漢の北の方角を位置する汝南。

 

そこは現在新年も斯くや?というほどの騒ぎとなっていた。

待望の世継ぎ、袁隗とその妻、朱禹ももちろんのこと心待ちにしていたが、その家臣たち、さらには町行く庶人たちに至るまで、その全ての者が心待ちにしていたのであった。

 

それと言うのも、彼がこの町を納めてからというものの、賊の襲撃は目にみえて減り、税率は軽くなり、商いはますます盛んになっていった。

 

皆一様に「まさに!まさに名君よ!」、と褒めそやすことに疑問を挟むものはいなかった。

 

そんな我らが名君に待ち望んでいた世継ぎが産まれたのだ、皆が皆まるで自分のことのように喜んだ。

 

さて、そんな我らが愛しき名君は今は?というと……

 

「ああ!我が子に最初になんていってあげたらいいんだ!?名前を呼べばいいのか!?それとも私が父だぞ~とでも言えばいいのか!?いや!!そもそもこれはほんとに現実なのか!?まだ私は夢の中なのでは!?」

 

……端的に言うと焦りに焦っていた。

 

まあ、そんな彼も半刻も惑えば落ち着きもするというもの、意を決して妻とその子が待つ母屋へ入ろうと覚悟を決めた。

 

「ああ、いつまでもこうしている訳にはいかないな、速く顔を見せてあげないと…」

 

 

 

そう意を決して戸を開け放ったが果たしてそこで一番に目にしたのは眩いばかりの光であった。

 

(な!この光は!?)

 

と、目を覆ったのも数瞬ばかり、次に目を開けたときには、優しげに我が子を腕に抱く妻と、その腕に抱かれて静かに寝息をたてる我が息子が瞳に飛び込んできた。

 

(気のせいだったか?いやしかし…)

 

袁隗様!元気な男の子でございます!

そう声をかけられハッ!と我に返り、改めて注視してみる、が特に変わった所は見受けられない。

 

(…それにしてもなんて可愛らしい子なんだ)

 

と、速くも親バカを発揮していると、抱いていた妻も、こちらにそっと腕をさしだしながら。

 

「さあ、貴方もこの子を抱いて名前を呼んであげて…」

 

そして、彼もその声に応え、まるで壊れ物の陶器を抱くかのような繊細で抱き上げこう囁いた。

 

「おはよう。生まれてきてくれてありがとう、紅羽(くれは)」

 

後に、袁家にその人あり、音に聞こえし「光輝の皇子」その誕生の瞬間であった。

 

 

 

「おお!!!遂に産まれおったか!!!!」

 

この広い、いや、無駄に広い汝南の宮にて、大陸中に響き渡らんばかりの声を挙げたのは、何を隠そう汝南袁家の当主、袁成その人であった。

 

「はーーはっはっはっ、とうとうあのヘタレ小僧も子供をこさえたか!」

 

と、ひとしきり高笑いをし終えた後に一息ついてこう呟いた。

 

「はぁ~、麗羽とも仲良くできるような子であったらよいのだがなぁ…」

 

 

 

 

 

 

 

処は変わり、汝南の中では恐らく二番目に長大である屋敷、持ち主は先の袁成の弟にして、袁隗の兄にあたる袁縫の屋敷。

 

「おーよしよし、美羽ちゃんは乳より蜂蜜のほうがよかったでちゅね~」

 

この二歳ほどの幼児を抱き乳……もとい蜂蜜を飲ませているのが袁縫であった。

 

「失礼いたします、七乃にごさいます、ご報告にあがりたいことが御座いまして来ました」

 

と、声の方に袁縫は一瞥くれると。

 

「おお!七乃か、ほれほれ見てみい、この蜂蜜をのむときの美羽の可愛さよ」

 

「あー!だめじゃないですか!蜂蜜は二日にいっぺん!おやつの時間にしかあげちゃだめですって奥方様からもきつく言われております!」

 

「ほ~そうだったかの、まあ余は美羽の可愛い顔を見れればそれでよいのじゃ!」

 

「まったく、そんなに飲ませて美羽様が御体を崩されたらどうするのですか!?また奥方様にお叱りになられても七乃は知りませんからね!」

 

などと言う七乃の言葉もどこ吹く風といった感じである。

 

「はぁ~まったく、こんなんで美羽様は立派な王になれるのでしょうか?」

 

と、七乃は今から将来を心配するが、そう遠くない未来にこんな素敵な言葉と巡り会うこととなる、「この親にしてこの子あり」と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~時は少し過ぎ、紅羽誕生の報せから一年後~

 

「おーっほっほっほ!わたくしに似てそれはそれは高貴な顔立ちをしてらしてよ!」

 

…などと言うこの友(アホ)の戯れ言を一体何度聞いたことであろう?と思い返してみる。

 

(少なくとも百はこえたかしら?)

 

と曹猛徳は、これ以上無駄なことはないであろう、と思案してみるが、恐らく何度もその話は聞いた、と言ってみたところで、どうせ明日にはまた同じ話を聞かされるであろう、ということを彼女の幼いながらも聡明な頭で結論付けて書に目を落とすこととした。

 

(それにしても、この麗羽が自分以外のことでここまで誉めるなんてね…)

 

曹操はそんなことを考えながら、麗羽のやかましい話に適当に相槌を打ちながら考えるのであった。

 

(もしかしたら、将来私の覇道を支える道筋と成り得るかもしれない…でなくば)

 

 

 

 

時は後漢、今だ天にも地にも人にも乱れは見えず……

 

 

 

 

 




※袁煕さんは本来袁紹さんの息子ですがここでは袁紹さんと袁術さんの弟ということになりますね、袁煕さんは史実や演義より若干チートですがそこをご了承できる方はよろしければ次話以降もよろしくお願いします(*^-^*)

…ていうか袁家に少しくらいチートがいたっていいじゃないか泣

追記:大幅に文章を改訂しました。
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