偽史・恋姫無双――乱世を照らす太陽――   作:味噌の素

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勇飛の刻ー前編ー

大陸随一、帝のお膝元である都ーー洛陽ーー

 

それと比較しても全く劣らぬ、どころか、ここ最近ではそれ以上の活気を見せるのではないか?ともされるここ、冀州であるが、その冀州にあっても一際出入りが激しく、また活気づいているのが、この州の統治者達の住む宮殿であった。

 

そんな宮殿の一室では現在、袁家一門やそれに仕える一部の将軍などによる、簡素な会議が開かれていた。

 

「今日は、最近まで皆さんが頑張ってくれていました、お陰で特に大きな仕事もありませんね」

 

朝食を一通り食べ終えて、皆一様に茶などをすすり始めたところで、紅羽はこう切り出した。

 

「あら?そうでしたの?確かに最近までは、皆さんなにやら慌ただしい気がしてましたわね」

 

「うむ! 妾の遊び相手も七乃しかいなかったぞ!」

 

「ええ、姉さん方を除いては皆忙しかったですよ……」

 

紅羽は既に今日何度目かもわからない、溜め息をついた。

 

「へ~、それじゃあ今日は皆さん1日休み、ていう感じですか?」

 

「やったー! 12日ぶりの休みだー!」

 

「はい、そうですね、特に斗詩さんには特別に褒美を与えたいくらい、頑張ってくれましたし。猪々子さんは、少々遅刻は見受けられましたけれど、よく頑張って頂きました。本当にありがとうございます。お二方の配下の人達には、"袁本初"様から労いの言葉が直々にあった、と伝えてあげてください」

 

そこでにこり、と花の咲いたような笑顔を、紅羽は二人に向けた。

 

「そ、そんな私なんて大したことしてませんよ、紅羽様のほうがよっぽど仕事が多かったじゃないですか……この5日間、私達より早くお休みになっているところを、見たことありませんよ?」

 

「ええ、ですが、それくらい当然です。それくらいは働かなければ、兵と将を束ねるものとして誰よりも動かなければ、それが生前の父上のやり方でしたし。幼い僕なら、尚更それをしなければ誰も信用はできないでしょう?

 

「う~ん、相変わらず紅羽様は生真面目だな~。もっとあたいらに甘えてもいいんだぜ?もちろん性的な意味でも、な!斗詩!」

 

「え!? う、うんそうだね、文ちゃん、私達はいつでも、その……大丈夫ですよ~?」

 

「じょ、女性が! そ、そそそ、そのようなことを軽々しく口にすべきでは、あああ、ありません!」

 

と、文醜は冗談めかした感じで。

顔良は、素なのか冗談なのか、計りかねる様子で口にする。

 

紅羽は気を紛らわすように、手元にあった茶を、ぐいっと一気に飲み干し、平静を取り戻し、ふぅ、と一息つきながら思考する。

 

(はぁ、全く年上の女性は苦手だ……)

 

といっても、ここに遣える女性達はみな歳上である。

年に似つかわしくない落ち着きや、威厳を見せる紅羽ではあったが、どうにも年上の女性には弱い様子であった。

そこはやはり年相応というべきだろう。

 

「と、とにかく斗詩さんと猪々子さんは今日は休み!七乃さんも今日はお休みになって構いませんよ、わざわざお手伝いありがとうございました」

 

「あら、そうですか♪それでは久し振りに美羽様を愛でる会の会合でも……」

 

「なんですか……その怪しげな会合は? お願いですから、冀州で変なもの広めないでくださいね? やるなら揚州に帰ってからにしてくださいよ」

 

またしても、ため息をつく紅羽であったが。

 

「あれ? 紅羽様はお休みになられないんですか?」

 

と、願良から疑問の声があがった、それに続いて文醜からも。

 

「そうですよ! 紅羽様も心労ばかり溜めてると身長が伸びませんぜ♪」

 

「よ、余計なお世話です! 実際問題、全ての将兵が丸一日休息をとるわけにはいかないでしょう、まだ少し仕事が残っている方もいますしね。なにより、袁家の者全員が休んでいては他の皆さんに示しがつきませんからね……」

 

「あら、紅羽様も相変わらず生真面目ですね~。文醜さんの言ではありませんが、少しくらいお休みになっても罰はあたらないんじゃないですか?」

 

と張勲からも声があがるが……

 

「……そうですね、姉さん達がもう少しでも真面目になさってくれるのなら、僕も少しは気が楽になるのですがね……」

 

紅羽の視線の先には、何やら鏡に向かい、高貴なる袁家のポーズとやらを練習する袁紹の姿と、給仕に蜂蜜水のおかわりを催促する袁術の姿があった……

流石に願良はもとより、文醜、張勲達もこれには紅羽に同情したのは言うまでもなかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……というわけで紅羽様、我が国の改善点と長所は一通りわかりましたかな?」

 

ここ、冀州の宮殿、その離れの部屋のある一室では今現在、紅羽の親衛隊長にあたる炎樹による、政治の勉学が行われていた。

 

「うーん、まず長所としては人の入りがすごく多くて商いが盛んだね。勿論他の長所もあるけれど、この点で言えば他の州と比べても随一だと思うよ」

 

「そうです坊っちゃん、ではその長所を踏まえての改善点は?」

 

そんな様子で、紅羽に対し教鞭を振るうのは、第3部隊袁煕隊所属の親衛隊の隊長にして、袁煕の身の回りの世話を任される、近習の頭を勤める炎樹という男である。

山賊や海賊を思わせる出で立ちに、巨木のような偉丈夫であるが、彼とその親衛隊の面々は、20年ほど前までは正真正銘の山賊であった。

 

しかし、ある事件を契機に紅羽の母に当たる朱禹と、父に当たる袁隗に恭順の意を示し、絶対の忠誠心をその息子である袁煕にまで捧げる程となったのである。

 

「うん、人の出入りに対しての街道や家屋が少ないことだね。後は民や兵達の毎日の糧食は充分に足りているけれど、有事の際の兵糧が若干足りていないかな?」

 

「その通りです坊っちゃん!では、その点についての改善策については、どのように考えますか?」

 

「う~ん、街道や家屋に関してはまあ問題ないと言えるね。幸いにして袁家はお金がすごくあるし。ただ、ちょっとまずいのが兵糧の話だけれども、こちらについては少し山の方を開拓するか、或いは山を切り崩すことも視野にいれないといけないかもね、ほかにも……」

 

(うむ、坊っちゃんも少し前までは内政については全くだめだったが、今ではすっかり俺が教えることもなくなった)

 

と、炎樹は紅羽の話を聞きながら考えていた。

 

(昔から袁家一門に於いて、過去にも未来にもこの子に及ぶ者は現れないだろう。という話も、この分ならば現実のものになるだろう、二年程前の、あの事も相まって都での評判もうなぎ登りだ)

 

そう考える炎樹の脳裏には二年前のある事が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その当時、既に袁家の当主となっていた袁紹と、他の有力な諸侯数名が所用で洛陽にいる帝から召集がかかり、その袁紹に伴い、当時十才にして既に文武に秀でた神童として名高かった袁煕が同伴していったときのことであった。

 

召集された諸侯や、都に仕える将軍らを交えた会議も終わり、予定よりも会議が速く終わったこともあり、帝からの日頃の働きに報いよう、との一声により大将軍何進を主宰とした盛大な宴会が行われた。

 

宴会も盛り上がりを見せ始め、会の主な話題は、諸侯達の家臣や一族の自慢大会となりはじめていた。

 

実のところ、当初の予定ではこの宴会が行われるであろうことも、当初の予定でほぼ決まっていた。

その折に自分の最優と思う将を、それぞれ1名は連れてくることも各諸侯の間では暗黙の了解となっていたのであった。

 

さて、そのような経緯も踏まえて順に紹介が進んでいき、弁舌に於いて敵うもの無しとされる智将や、軍略に於いて右に出るもの無しとされる知将、正に一騎当千と目される猛将など、そうそうたる顔ぶれとなっていた。

 

そのようにして紹介は進んでいき、いざ袁紹の番となったときに袁紹はハッとなり思い出した。

 

(そう言えば、斗詩さんと猪々子さんを連れてくるのを忘れていましたわ……)

 

恐らく袁家の二枚看板として名高い、顔良と文醜が出てくるのであろうと、ある程度予想されていたが、諸侯達は袁紹の次の言葉に大いに驚愕することとなった。

 

「袁家一番の将は、この袁顕奕さんですわ!!」

 

と、各将のそうそうたる顔ぶれに目を輝かせていた紅羽は、あまりの不意討ちを受けて思わず椅子から転げ落ちそうになった。

 

一部の各諸侯からは失笑を買い、ある諸侯からは呆れの眼差しで見られ、またある諸侯からは値踏みするような視線を受けていた、その態度に腹を立てたのか袁紹は……

 

「この紅羽さんはこの年にして冀州に於いては並ぶもの無しとされるほど知勇に優れた将ですわ!!! (たぶん……)」

 

などと宣う袁紹に対し、危うく紅羽は卒倒するほどの思いであった。

そんな紅羽の心情を、知ってか知らずか袁紹はなおも……

 

「この紅羽さんに用兵でも、一騎打ちでも、敵うものがおりましたらかかってらっしゃい!! おーっほっほっほ!!!」

 

という、ありがたいお言葉(追い討ち)も頂く始末である。

 

それは挑発以外のなにものでもなく、日頃より袁紹に対し、あまり良く思わないものたち(主に家柄や血筋に所謂コンプレックスをもったもの達)は、これ幸い、とばかりに武将や用兵家などを並べ立て、挑みかかったのである。

 

その場にいる、挑みかかった者達、誰もがこのような幼子に負ける訳はないと考えていた。

 

(名家名家と口ばかりの小娘めが!精々そこのガキと一緒に痛い目をみるがいい)

 

などと、嫉妬心丸出しで挑みかかるものが大多数であった。

 

ただ、その中で水を打ったように冷静なのは何進、曹操、公孫賛、袁術詭下の孫策など、その実力を知るものか冷静に状況を見守ろうとするもの達の一握りであった。

 

(さて、紅羽君はどれくらい成長したのかな?)

 

と、親心のように見守る者や。

 

(……あの麗羽が自分以外で認める数少ない者、もしその才が本物であるのなら私の覇道の、利になるか、それとも立ち塞がる者なのか……冷静に見極めなくちゃね)

 

と、自身の利益と成りうるのか測ろうとする者。

 

(いや~、あの子も大変だよな……実力は勿論折り紙つきだけどなんか可哀想だよな、私と同じ苦労人の匂いがするよなぁ……)

 

と、妙な共感を感じているもの。

 

(相変わらず可愛らしい子ね~。さて、私も実力を見るのは初めてだからちょっと楽しみね♪)

 

と、半ば面白半分に観戦しようとするもの。

 

そんな面々に囲まれながら今、時代はここに新たな偉大なる英雄を誕生させようとしていた。

 

 

 

 

ーー袁煕顕奕、数えて10をやっと越えたばかりのあまりに早い勇飛の刻であったーー

 

 




どうも皆さん、3話目でございます、今回から次回、次々回くらいにかけてなぜ「光輝の皇子」なんていう大層な二つ名なのかと、なぜ12才にしてあんなに能力が高いのか?等の説明会みたいなもんになるかと思います。そっからはもっと話を速く進めれるようにがんばります。

更新のペースについてですが、早いときで1日1話ペース、普通のときで2日に1話、遅くとも3日に1話は投稿していこうかと思います。


追記:大幅に文章を改訂しました。12/27
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