偽史・恋姫無双――乱世を照らす太陽――   作:味噌の素

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1~7話を結構、大幅に書き直したので、以前と同様、一度見たかたでも、再読を推奨します、ご迷惑をおかけします。


陽雲の交わり

 

「はぁ、すっかり遅くなってしまいましたね……へくちゅ!」

 

そう呟きながら冀州の夜道を歩くのは紅羽、炎樹、趙雲の三人であった。

季節は既に、夏となって久しいはずだったが、季節にそぐわない冷たいつむじ風が、ひゅうひゅうと吹き付けている。

 

「坊っちゃん、お体を崩してはいけませんぜ急いで帰りましょう。朱禹様も心配してるだろうし……」

 

そういって、炎樹は紅羽に上着を差し出すと、紅羽は「ありがとう」と一言、礼をしてから趙雲に尋ねた。

 

「星さんは、平気なんですか?僕より全然寒そうな格好してますけど」

 

「気遣い痛み入る……ですが、ご心配には及ばない紅羽殿。以前は、ここより北の幽州に居たのですぞ?」

 

紅羽と趙雲は既に真名を交換し合い、共に呼び合っていた。

 

先刻の黄巾賊の一件から既にかなりの時間が経過し、辺りにはすっかり夜の帳が落ちて、人っ子一人見当たらない時分となっていた。

 

「……坊っちゃん、今日は早くお休みになった方がいい。明日は朝一番に宮殿に行って、事情を説明せにゃならんでしょう……最も、あのワガママ姫達がそんなに早起きできるのかは、甚だ疑問ですがね……」

 

「うん、わかってるよ。はぁ……それにしても、結局家には殆ど居られなかったね。母上怒ってるんだろうなぁ……」

 

そう、紅羽が呟くと少し責任を感じたのか、趙雲がぴたりと立ち止まり、一言。

 

「申し訳ありませんな、まさかせっかくの休日だったとは、私も露とは知らず……」

 

「ううん、別に星さんのせいじゃないよ。僕だって、まさか黄巾賊が来るなんて思ってなかったからね」

 

と、慌ててかぶりを振り、否定する。

趙雲も納得したのか、再び歩き出す。

 

「ところで、子龍さんや。もうかなり遅い時分だが、宿の宛はあんのかい?」

 

炎樹が、悪戯を面白がる子供のような顔で趙雲に尋ねる。

 

すると、趙雲もはて?と少々困ったような顔で切り出す。

 

「そういえば、今日のいざこざで今夜の宿の事をすっかり忘れていたな。はてさて

、どうしたものか?……」

 

と、思案顔でこう答えたが、次の瞬間、飛び出た炎樹の言葉に、紅羽は仰天することとなった。

 

「それなら! 坊っちゃんの屋敷に泊めて貰うってのはどうでい? いくら体が丈夫って言っても、寒いもんは寒いだろ!」

 

炎樹は、憎たらしい笑みを浮かべて、グッ!と親指を立て。

趙雲は、さも名案だ!とばかりに、ニタリと笑い。

紅羽は、思わぬ不意打ちをくらい転倒してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……いいかい?絶対に気付かれないように、こっそり、こっそり歩くんだよ?」

 

現在、屋敷の裏門からまるで盗人か密偵のように、慎重に歩みを進めている三人である。

だが、何故こんなことをしているのか?簡単に言えば、朱禹に見つからないためである。

 

炎樹曰く、大袈裟に身振り手振りを交えて、朱禹に見つかれば、地獄を見る!とのことらしい。

 

母の、稽古の際の気迫を知っている紅羽からしてみれば、全く以て笑い飛ばせる話では無かったため、現在盗人の真似事をしている、という次第であった。

 

(母上に見つかれば、絶対に雷が落ちる。連絡も無しにこんなに遅くなってしまったし、その上知らない女の人を、「今日、家に泊めることにしたから! え? 今日初めて知り合った人だけど!」なんて言ったら間違いなく折檻される……)

 

ガクガクと怯えながらも、全く無駄の無い動きで"二人"は庭まで辿り着いた。

 

「……よし、ここまで来ればあと少しだ。星さん、ついてきてるかい?」

 

「ええ、ここにおりますぞ。だがしかし……」

 

え?と趙雲の指差す方を見る。

 

 

 

 

……すると、そこには正しく、悪鬼羅刹の化身が、炎樹の首根っこを掴み、仁王立ちする姿があった。

 

 

 

「な、なんで俺まで……坊っちゃんは、あっち……」

 

「近くに居た、お前が悪い。それに、どうせお前が唆したんだろう?」

 

ガクリ、と頭を垂れ、完全に気を失った炎樹。

それを、朱禹はポイッと無造作に放ると、綺麗な放物線を描き、庭の池へと吸い込まれていった。

 

「紅羽殿、あの御仁が母上か?すごい覇気だ。是非手合わせを……紅羽殿、紅羽殿?」

 

 

(ああ!今夜の月は、なんて綺麗なんだろう……)

 

趙雲はいつも通りの様子だったが。紅羽はあまりの恐怖に、完全に現実から目を背け、夢の世界へと旅立ってしまっているようだった。

 

あまりの恐怖に、粗相をしなかっただけましだろう。

それくらいに、朱禹の顔は語るのも恐ろしいほどの形相となっていた。

 

「なあ、紅羽よ……」

 

「ひやぁ!!母上、命だけは……命だけはどうか……」

 

「……その反応は流石に傷つくぞ、私は別にお前をどうこうしようとは、思っておらん」

 

「一緒に寝ますし!お風呂も一緒に入ります!肩だって叩きますし!!それから、それから……え?」

 

未だに、混乱から立ち直らない紅羽に、朱禹はその後も優しく続けた。

 

「だから、何もせんと言っている。元より稽古以外で、お前をどうこうした覚えは無いんだが……」

 

「た、確かにその通りですが、稽古のときの印象が強すぎて……」

 

「別に、夜遊びをして帰ってきた訳でもあるまい。そこの女人を連れ帰ってきたのも、忍びこもうとしたのも、どうせ炎樹の悪巧みだろう?全く、あのアホは教育係でもあるくせに、ろくなことを教えんな」

 

そう言って紅羽の頭を一頻り撫でた後、今度は、趙雲の方へと向き直った。

 

それと同時に、趙雲も槍を握る手に力を込めるが、返ってきたのは予想外に優しい言葉だけであった。

 

「さて、お客人。今夜はちと冷える、立ち話もなんだ、早く家に上がるといい。酒もあるし、部屋も蒲団も余っている」

 

振り返った朱禹に、やや警戒していた趙雲も毒気を抜かれ、わずかに込めていた力を抜く。

 

「それは、なんとも……ありがたい。厚意に甘えさせていただこう……名は?」

 

「朱禹でいい、紅羽の為ではあったが、馳走も用意してある、遠慮せずにゆっくりしていくといい」

 

「誠に……誠にありがたい」

 

と、再び朱禹に対し、一礼をする。

三人は、和気あいあいとした雰囲気で、屋敷へあがっていく。

すると、中から女中が出てきて三人の履き物を正したり、上着を預かっていく。

朱禹は、その内の一人に対し、おもむろにこう告げた。

 

「そうそう、池のゴミを掃除しておいてくれ。なに、藁にでも包んで街道に放り出しておけばいい。あと、今日は門の錠をしっかり閉めておくようにな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや~! それにしても、袁家にあの! 趙子龍がいるとなれば、まさに安泰ですな~、この炎樹も、安心して坊っちゃんのお守りができるってもんですわ、ブワハハハー!」

 

「……お前、仕置きがまだ足りなかったか?」

 

一行は現在、袁熙宅の来客用の客間で、宴を開かれていた。

人数こそ三人と、どんなにブッ飛ばされてもすぐに、何事もなかったかのように帰ってくる一人と、合わせて四人であったが、酒と、料理と、部屋の質のお陰か、かなり盛大のようだ。

 

「まあ、もういいか、今日は気分が良いしな」

 

「そうですな、人数が多い方がやはりこういった宴は楽しいもの……ささ、もう一献」

 

宴会は賑やかに進んでいき、盛り上がりの様子を見せて来ているが、そこに少々、場にそぐわない声が聞こえた。

 

「ふぁ~、母上ぇ、僕はもう、眠たくなってまいりました……」

 

趙雲、朱禹、炎樹の三人は、かなり出来上がってきている様子で、宴もまだまだこれから、というところであったが。

 

どうやら、紅羽は連日の疲れもあったのか、先程からこくり、こくりと船を漕いでいる。

 

「うむ、本当に疲れているようだな、落ち着く香も炊いておいたから、今日は温かくして、早めに寝るといい」

 

「ふぁ~い、おやすみなしゃい、母上ぇ~」

 

そういって、ふらふらとした千鳥足ではあったが、「おやしゅみなさい」と、ペコリと一礼をし、紅羽は自室へと戻っていった。

 

「ふむ、ああいうところを見ると、まだ幼子なのだと実感しますな……」

 

「うむ、あの子はまだ、幼い。必死に大人になろうとはしているが……」

 

と、朱禹は少し悲しそうに顔を伏せる。

 

「あの子は、立場もあり、色々と危ないことがある。私ももちろん全力で対処はするつもりだし、炎樹もいるが……それでも足りない。子龍殿の槍には、助けていただくことも、多かろう」

 

「ふっ、母上殿、そこはご安心あれ。私とて伊達に"常山の昇り龍"と呼ばれていた訳ではありませんからな。我が忠義の槍の冴えを、とくとご覧にいれましょう」

 

「ははは!頼もしい限りだぜ。ところで子龍さんよ、そういえば……なんで坊っちゃんに仕えようと思ったんだい?まあ、俺も何となく予感はあったが、えらく突然だったようだったがなぁ……」

 

どんどんと、酒は進んでいき。

2、3の話を経て、次の話題は、趙雲の仕官の理由についての話となった。

この話には、元より興味があったのか、普段はあまり感情を表情に出さない、朱禹も、心なしか好奇の色が顔に浮かんでいた。

 

「ああ、それについては、私も聞きたいと思っていたんだ。是非とも聞かせてくれぬか?」

 

「そうですな……これは、私がまだ幽州にいた頃なのだが、ある占い師から、こう予言されてな、我ながら些か単純だ、とも思ったのだが……」

 

そこで一度、杯に入っていた酒を、グッと一息であおる。

場に、少し緊張した雰囲気が流れるのを感じながら、趙雲はこう告げた。

 

「"貴女は近く、太陽と出会う、その太陽は乱れ行く世を、優しく照らす夜明けの光となる。そして、どんなに流れ行く雲も、月か、あるいは太陽の下には、必ずあるものだ、それが貴女の理となるだろう"と。私はあのとき、紅羽殿が暗い夜を照らす太陽に見えた、それだけのこと……」

 

そう話終わった後、炎樹はしきりに「へぇ~」と呟き。

朱禹は満足そうに、頷き、趙雲の空いた杯に酒を薦めた。

 

 

 

そんな様子で、三人は樽が空くまで飲み明かし、大いに語り合った。

 

 

 

 

 

 




かーさんは、バカとアホには厳しいお人。
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