ハイスクールD³   作:K/K

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真・女神転生ⅢのHDリマスター版が出ますねー!
ようやくPS2を眠らせられます。


凍結、引継

 神をも殺すフェンリルはヴァーリと共に何処かへ転送された。これで戦いが楽になる──などということは微塵も無かった。

 現にロキが生み出した量産型のミドガルズオルムが一斉に炎を吐き出すことで壁の様になり、不可視となったスコルとハティが親と同じ神殺しの牙で狙い、それらを合わせても尚強いロキが場を極寒に染めていく。

 

「ヒーホー! オレ様にそんな冷気が通用するかホ!」

 

 霜が張り、大地が凍結していく最中にジャアクフロストが一人降り立つ。無謀な単独行動に思えたが、不思議なことにジャアクフロストを境にして冷気がこちら側に伝わってこない。

 ロキが放つ白い冷気がジャアクフロストへ吸い込まれていき、それに応じてジャアクフロストが発するオーラが増していく。

 

「ほう? そういう体質か──あー、面倒くせぇ奴が混じっているなぁ」

 

 ロキは冷気を出すのを一旦止める。わざわざ相手に力を与えることはしない。

 そこに一誠が近付き、ミョルニルレプリカを担ぐ様に振り上げ、背部のブースターによって得た加速で一気に振り抜く。

 当たった、と思った瞬間ロキの体が煙の様に揺らいで消え、盛大に空振りしたミョルニルレプリカの起こす風圧が遥か先にある木々をしならせる。

 攻撃したのが幻影であったことを悔しがる一誠であったが、同時に瞬きもしていないのに即座に入れ替わったロキの早業に戦慄を覚えた。

 

「相変わらず力だけはあるなぁ」

 

 すぐ背後からロキの声。後ろ目掛けてミョルニルレプリカを振るうが、ロキはいない。

 

「──だが、雷一つ起こせないミョルニルレプリカなど恐れるに足りん!」

 

 今度は正面。急いで向き直る一誠。目の前にロキが悪神と呼ぶに足りる凶悪な笑みを浮かべて立っている。

 攻撃を選ぶよりもその笑みと気迫に気圧されて反射的に後ろに下がってしまう。その時、ロキの指先が腹部を掠めた。

 何かしようとしていたが何とか避けられた、そう思っていた一誠だが──

 

『相棒! 不味いぞ!』

「えっ?」

 

 慌てた様子のドライグの声。ただならぬものを感じてロキが先程触れた腹部に目線を下げる。いつの間にかそこには術式が浮かび上がっていた。

 

「なっ!」

 

 あの僅かな間でロキは『赤龍帝の鎧』に術式を打ち込んでいたのだ。

 刹那、一誠の脳が極限まで回転する。もしかしたら『赤龍帝の鎧』の防御力で耐え切れるかもしれない。が、そう考えても安心など出来きず拭い切れない悪寒が残り続ける。そもそも、ロキがそんな半端な術式を使うとは思えない。

 一誠は決断する。

 

「ドライグ!」

 

 一誠は意志で自分がこれから何をするのか伝えた。ドライグもすぐにそれを了承する。

 

「おおおっ!」

 

 気合の声と共にミョルニルレプリカの槌を術式が刻まれた自らの腹部に叩き込む。ドライグに頼み、『赤龍帝の鎧』の一部の強度を緩めて貰ったお陰で術式周りの装甲が砕け散る。

 ある程度加減はしたとは言え、ミョルニルレプリカの一撃による腹への鈍痛に耐えながら背中のブースターを使って装甲の破片から離れる。

 間もなくして装甲に施された術式が発動。魔術による光の杭が装甲の内側から生えた。あのまま放置していたら、あの杭で刺し貫かれていただろう。

 そして、その光の杭が爆発を起こす。その煽りを受けて一誠は吹っ飛ばされてしまう。飛ばされながらも一誠は自分の判断が本当に正しかったことを実感した。刺し貫かれて内側から爆破など生きていられる訳が無い。

 同時に自分の成長も実感する。色々な戦いを経て戦いへの直感が磨かれつつあった。

 と、思った所でブースターによる急ブレーキを掛けるのを忘れていることに気付き、一誠は樹木に勢い良く後頭部を打ち付けてしまう。

 

「ぐおっ!」

 

 衝撃で目玉が飛び出してしまうかと思える程の痛み。樹木を背にしたまま一誠は暫くの間動けなかった。成長の兆しを見せた途端、油断で大きなミスをする辺り、まだ色々と改善の余地がある模様。

 ロキの方は一誠の素早く、的確な判断に感心しながら、木を背にして動かない一誠の様子を見ている。ロキは一誠が痛みで動けなくなっていることに気が付いていない。

 正面から一誠を見つつ、横目で自分の子ら、孫らの戦いぶりも確認していた。

 量産型ミドガルズオルムたちの炎に対し、木場が魔剣創造によって魔剣を無数に創り出し、吐かれた炎の壁にそれを一斉に発射する。

 飾り気の無い両刃の直剣が炎に触れると剣身に炎が吸収され真っ赤になる。

 

「──新作だよ」

 

 以前、炎を消し去る氷の剣──炎凍剣を創り出したが、今回の魔剣はそれとは目的が異なる。

 炎の壁を突き破り、量産型ミドガルズオルムの一匹の目にその内の一本が突き刺さる。その途端、魔剣が爆発して量産型ミドガルズオルムの顔半分を吹き飛ばした。

 炎を閉じ込めて圧縮し、逆に攻撃として利用する。それがこの魔剣の能力である。

 木場のカウンターによって怯んだ量産型ミドガルズオルムたちに今度はゼノヴィアとイリナの聖剣が振るわれようとする。

 

「イッセー!」

「おう!」

 

 ゼノヴィアが一誠に声を掛けると、すぐに意図を察した一誠が理由も問わずに応じる。すると、ゼノヴィアの空いていた手に一誠の籠手に収められていたアスカロンが現れた。

 ゼノヴィアはデュランダルの聖気に竜殺しの聖気を合わせ、相乗効果で威力を高めると二振りの聖剣を平行に並べながら上体を捻り、振り抜く予備動作に入った。

 量産型ミドガルズオルムの一匹がそれを見て炎を吐き出そうとする。が、その直前に量産型ミドガルズオルムの口が突然閉まる。

 イリナの『擬態の聖剣』が紐状になって、量産型ミドガルズオルムが気付かない内に忍び寄り、攻撃のタイミングを見計らって口に巻き付いたのだ。

 吐き出される筈の炎は行き場を失い、結果として喉を逆流。そのせいで喉が内側から赤くなったかと思えば暴発を起こし、喉に数か所穴が開いてそこから炎が噴き出てきた。

 自らの炎に悶え苦しむ。その間にゼノヴィアが動く。

 踏み込みから始まり、そこから全身の関節、筋肉が一纏めとなって稼働する様なイメージで二本の聖剣を振り抜く。

 音すら置き去りにしそうな勢いで振るわれた聖剣から閃光が奔る。それが自爆した量産型ミドガルズオルムを通過すると、胴体と首が切り離される。勢い余って後方に居た顔を半分吹き飛ばされた量産型ミドガルズオルムの頭も飛び上がる。ゼノヴィアは、一振りで二匹の敵を仕留めてみせた。

 喜びも束の間、ゼノヴィアとイリナは突然その場から飛び退く。間を置かずに地面に爪痕が出来上がる。勝利直後という最も気が緩むタイミングを狙ってスコルかハティのどちらかが襲い掛かって来た。

 ゼノヴィア、イリナはフェンリルの子が発する殺気を感じ取り、兎に角その場から動くことを優先したことで間一髪逃れられた。フェンリルの子がもう少し殺気を隠すことが上手だったら、今頃引き裂かれていたことだろう。

 しかし、攻撃が空振りしたからといってそれで終わりではない。場合によっては次の攻撃に繋がることとなる。

 

「むっ」

 

 ゼノヴィアが着地をした瞬間、足と地面の間に何かが転がっていたことに気付く。拳程の大きさの石を偶然踏み付けてしまい、それによってゼノヴィアはバランスを崩して転倒してしまう。

 

「しまった!」

 

 すぐさま体を起こそうとするゼノヴィア。だが、彼女の嗅覚が風の中から漂ってくる獣のニオイを感じ取る。位置は目の前。

 この時のゼノヴィアの体勢は中途半端であった。立ち上がろうとしている時に身に染みついた反射行動で聖剣を構え戦闘態勢に移ろうとする。ちゃんと立ち上がることも剣を構えることも出来ず、無防備に近い状態を敵前で晒してしまった。

 やられる、と思った瞬間、誰かが横から滑り込む様にして間に入ってきた。

 

「させませんよ」

 

 月光を受け、冷たく輝く眼鏡。聖王剣コールブランドを握るアーサーが、聖王剣を一閃。空間に裂け目が生まれる。

 聖王剣の能力で出来た空間の裂け目が一気に閉じる。凄まじい悲鳴と共に何も無い場所から赤い血が飛び散り、続いて子フェンリルの爪らしきものが地面に落ちた。

 空間の裂け目を利用し、子フェンリルの攻撃からゼノヴィアを守りながら爪を切り落としてしまう。

 深爪という言葉では済まない傷を受けて流石の子フェンリルもたまらず声を上げてしまう。

 

「そこにゃん」

 

 咆哮から無理矢理立ち直った黒歌が、声で子フェンリルの位置を特定すると痛みで硬直している間に仙術を発動。乾いていた大地が瞬時に泥沼と化し、不可視の子フェンリルの体が沈み込む。

 

「おまけにゃん」

 

 泥が噴き上がる。その泥を被ってしまったせいで子フェンリルの体が空間から浮き出てきた。

 

「バッチリ見えてるぜぇ!」

 

 美候が如意棒を伸ばし、その先端を子フェンリルの脳天に叩き付ける。泥の地面に顔面から突っ伏す子フェンリル。美候は子フェンリルの脳天に如意棒を当てたままそれを支えにして棒高跳びの要領でフェンリルの真上に跳び上がるという器用な動きを見せる。

 美候は跳び上がると如意棒を元の長さに戻し、子フェンリル目掛けて投擲。

 

「デカくなれ! 如意棒!」

 

 投げ放たれた如意棒は、美候の声で巨大化し、子フェンリルを押し潰す。

 

 

 ◇

 

 

 ゼノヴィアらが子フェンリルと戦っているのと平行して、シンたちももう一匹の子フェンリルと戦っていた。

 隙を伺っているのか息を殺し、気配も殺している子フェンリル。シンの目やケルベロスの鼻でも探知し辛い。

 

「グルルルル……コレシカナイカ」

 

 ケルベロスは一人で納得するとシンたちから離れて前に出始める。

 

「危ないよ!」

「ヒホ! ダメだホ!」

 

 ピクシーとジャックフロストが止めようとするがケルベロスは足を止めない。

 

「グルルルル。一番頑丈ナオレノ役目ダ」

 

 孤立状態となったケルベロスはそう言ってシンの方を見る。何をするのか察したシンは一度口を開け、何かを言おうとしたが何も言わずに閉じてしまう。

 ケルベロスがやろうとしているのは褒められるやり方ではない。しかし、必要ならばシンもまた同じ方法をとっていただろう。そして、自ら進み出たケルベロスの心意気を無下には出来なかった。

 

「間薙君……」

 

 朱乃もケルベロスが何をしようとしているのか分かり、シンに本当にいいのか尋ねる様に声を掛ける。

 シンは朱乃を見た。シンと目が合った時、既に彼が覚悟を決めていることを理解し、これ以上何を言っても無駄だと分かってしまった。

 

「来イ。臆病者」

 

 姿を隠している子フェンリルを罵るケルベロス。偶然か、それとも罵声が聞こえたのか、その直後にケルベロスの体が木の葉の様に宙を舞った。

 硬質な体毛の奥にある肉が裂かれ、血飛沫が飛び散っていく。子フェンリルの恐らくは爪撃をまともに受けてしまった。

 

「アオォォォン!」

 

 胴体半ばまで裂かれる傷を負いながらケルベロスは身を捩り、前足に渾身の力を込めて振る。

 何も無い空間にケルベロスの爪によって流血が起こる。自分の身を犠牲にしてケルベロスが子フェンリルの位置に目印を付けた。

 その瞬間、シンは地面を蹴り砕く勢いで走り出していた。数歩で最高速に達すると空中で滴る血に向かって跳躍。

 一切の躊躇も無く流血箇所に五指を捻り込む。

 響き渡る絶叫。悲痛な叫び如きでシンの手が止まる筈も無く、そのまま周囲を掴むと全力で引き剥がした。

 繊維の千切れる音が無数になり、流血が赤黒い肉の露出となる。子フェンリルを透明化させている毛皮の一部を無理矢理剥がす。

 すると、千切れる音と共にシンが掴んでいる毛皮が子フェンリルから剝がれ落ちる。体を動かし自ら千切ることでシンから逃れたのだ。

 シンは子フェンリルの毛皮を投げ捨て、ケルベロスの方へ向かう。そして、鬣部分を掴むと少し乱暴だが引き摺って運んでいく。

 ケルベロスの受けた傷は深く、臓物が今にも零れ落ちそうである。シンは渡されていたフェニックスの涙をケルベロスの傷口へ掛ける。染みて呻くが裂けた傷が塞がり始め、薄い膜が出来上がる。しかし、それでも完治には至らない。

 

「ピクシー」

「うん」

 

 ピクシーはケルベロスの胴体に触れ、治癒の魔法を施す。フェニックスの涙で治し切れなかった部分も塞がっていき、取り敢えず流血は止まった。

 

「──まだ行けるか?」

 

 重傷を負った者に対し、酷と言える問い。

 

「アタリ前ダ」

 

 だが、ケルベロスは当然の様に答える。ここで大人しくしていろと言われる方が、ケルベロスのプライドが深く傷付く。

 ケルベロスの答えを聞いて、シンは治療を施されている彼から目を離し、子フェンリルを探す。ケルベロスの捨て身によって付けられた目印、否、それは既に狙うべき的と化している。

 

「雷光よ!」

 

 宙にある赤黒い肉へ向け、バラキエルが雷光を槍の様に投擲する。朱乃よりも数段上の威力を持つそれは轟音と共に子フェンリルへ命中。

 体の中へ直接雷を流し込まれた子フェンリルは堪らず透明化を解除。体を激しく痙攣させる。陸の上に上がった魚の様に跳ねる子フェンリル。それが止まると泡が付着した口腔から煙を上らせる。だが、まだ息がある。それどころか立とうとしていた。尋常じゃない生命力である。

 バラキエルがもう一撃浴びせようと構えるが、すぐに後ろへ下がる。バラキエルの目の前を炎が通過。残り二匹の量産型ミドガルズオルムが子フェンリルを守る為に妨害に入ったのだ。

 バラキエルは横目でもう一匹が炎を吐こうとしているのが見える。攻撃を子フェンリルから量産型ミドガルズオルムへ変えようとした時、タンニーンが量産型ミドガルズオルムへ飛び掛かり、喉元に喰らい付く。

 片腕、片翼を失っている重傷とは思えない程の俊敏さ。そして、顎の力だけで自分と同じ体格の量産型ミドガルズオルムを持ち上げた。

 喰らい付いたままタンニーンは火炎球を吐く。隕石に匹敵すると言われるタンニーンの炎を直にもらった量産型ミドガルズオルムは、その炎の破壊力に耐え切れず頭部と胴体と焼き切られる。

 分断された頭と体は少しの間動いていたが、断面は完全に炭化し、一部は蒸発までしているので助かる筈も無く動かなくなってしまう。

 

「はあ……はあ……」

 

 残りの量産型ミドガルズオルムは一匹。タンニーンがこちらもやろうとするが、脚から力が抜けて倒れそうになる。踏ん張って堪えるタンニーン。ロキの凍結によるダメージがまだ深く影響を及ぼしている。

 最後の量産型ミドガルズオルムがそんなタンニーンに襲い掛かろうとするが、突然目の前に魔法陣による障壁が現れて、それに衝突して阻まれる。

 量産型ミドガルズオルムが障壁にへばりついている間に周囲に幾つもの魔法陣が出現し、そこから放たれる魔法の光が量産型ミドガルズオルムに放たれる。

 魔法陣を発動させたのはロスヴァイセ。攻撃と防御の魔法を同時に発動させる高等な技術を見せる。

 

「今すぐ回復を!」

 

 アーシアの神器による治癒の光がタンニーンに降り注ぐ。治癒の神器による効果は、タンニーンの凍結によって深いダメージを受けた体を回復させていくが、それでも治りが遅い。それ程ダメージが深刻であることを意味する。

 

「助かる……!」

 

 タンニーンは震える脚に力を込めて背筋を伸ばして立ち上がった。

 その間にロスヴァイセの魔法によって量産型ミドガルズオルムは身を捩って苦しむ。魔法陣から放たれる光は頑丈な量産型ミドガルズオルムの鱗を溶かし始めていた。逃げようにも量産型ミドガルズオルムを妨害した障壁が四方にも展開して閉じ込めているので逃げられない。

 遂に防御の為の鱗が完全に溶け、魔法陣の光が量産型ミドガルズオルムの肉を貫く。防御する術を失った量産型ミドガルズオルムに為す術はもう無く、最期はロスヴァイセの魔法によって穴だらけとなって絶命した。

 

「やれやれ、情けない」

 

 重傷を負うスコルと如意棒によって身動きが取れないハティ。そして、全滅をした量産型ミドガルズオルムを見てロキは失望した様子を見せた。だが、そこに怒りも焦りも哀しみも無い。手駒を封じられ、失ってもロキの余裕は微塵も揺るがなかった。

 

「甘やかしすぎたか? ──最初のガキ共の出来が良すぎたなぁ、無駄に期待をしたぜ。──そうだな」

 

 もう一人の己と雑談と反省をする姿は不気味であると同時に底知れぬ強者の雰囲気を出す。実際に多対一の状況下で並び立つシンたちなど眼中に無い振る舞いは、強者のそれであった。

 

「しかし、お前たちには悪い事をしたのかもしれないな」

 

 ロキが笑う。それに合わせ、ただでさえ低かった気温が急速に下がっていく。寒いを通り越して痛みを覚える程の冷たさになっていた。

 スコルとハティ、量産型ミドガルズオルムたちを倒した時の高揚すらも一気に凍り付きそうな程の冷気。

 

「勝てるかもしれないという幻想を抱かせてしまったっ!」

 

 ロキから発せられる殺人的な冷気の波。視界に入るもの全てが瞬時に凍結していく。

 

「部長っ! 皆っ!」

 

 偶然、ロキの魔法で吹っ飛ばされて射程外にいた一誠はその光景の一部始終を目撃する。

 極寒の地獄へと変えられていく中、シンの前にジャックフロストが駆け込み、盾になる様に四肢を限界まで広げる。

 

「ヒホォォォォ!」

 

 ジャアクフロストが見せた様にジャックフロストの小柄な体に磁石の様に引き寄せられていく冷気。しかし、ジャックフロストの吸収する許容量を遥かに超えているロキの冷気は、ジャックフロストが守ろうとしていたシンを確実に凍結させていく。ジャックフロストが威力を押さえてこれである。彼が居なければ即凍死していたかもしれない。

 ケルベロスの治療をしていたピクシーも冷気が迫っていることに気付く。逃げようにもピクシーの羽では冷気から逃れられない。

 

「グルルルル!」

 

 急に影が差したかと思えば、ピクシーは地面に体を押え込まれた。ケルベロスが圧し掛かり、自分の身でピクシーを冷気から守ろうとする。

 

「ダメだって!」

 

 押さえつけられたピクシーは、ケルベロスを離れさせようとポカポカと叩くが、ケルベロスを押し返すことは到底出来なかった。

 

「グル、ルルル!」

 

 凍り付く速度を少しでも緩めさせるため、ピクシーまで凍り付かない様にするため、ケルベロスは体内で炎を生み出し、そのまま閉じ込めておく。それによって僅かながら凍結を防げる。

 

「ヒホォォォォ!」

 

 ジャアクフロストは持てる全ての力で迫り来る冷気をその身に取り込んでいく。最初に受けた時とは比べ物にならないレベルの冷気がジャアクフロストの体内に入っていき、ジャアクフロストは胸焼けの様なものを感じた。

 

「おい! ジャアクフロスト! 無理すんな!」

 

 美候が声を掛けるが、ジャアクフロストは止めない。

 

「アーサー! 早く空間を斬るんだぜぃ!」

「分かっています! ですが……!」

 

 コールブランドを一閃させ、空間に裂け目を生み、そこに一時的に避難するつもりであった。だが、アーサーがコールブランドで空間の裂け目を作った片っ端から裂け目の間に蜘蛛の巣の様に裂け目同士が繋がり始め、すぐに修復されてしまう。

 

「やられました……! ロキがこの周囲一帯に魔法を施しているみたいです……! コールブランドの能力を封じる為に!」

 

 スコルとハティをけしかけたのは、自分たちを倒す為だけでなく一枚でも手札を引き出させることも目的としていたのだ。そして、それに抜け目なく対処する。ロキの掌で踊らされていたことに気付き、アーサーは端正な顔を悔しさで歪める。

 戦い専門の美候は、ロキの圧倒的な冷気を防ぐ手立てを持たない。せいぜい自分一人なら逃げることが出来るが、仲間を置いていくなど論外。

 黒歌を見る美候。視線の意図を察した。黒歌はいつも立てている猫の耳を力無く垂らす。

 

「ごめんね」

「謝ることはねぇぜぃ」

 

 仙術でも神の力の前には及ばない。無力であることを謝罪する黒歌に、美候は快活に笑ってみせる。黒歌の力でも駄目ならば仕様がない。

 

「──つーわけだ。わりぃが頑張ってくれぃ、ジャアクフロスト」

「ヒホホホ! ヴァーリの代わりに俺様がお前らの面倒を見てやるホ!」

 

 仲間の命を背負ってもジャアクフロストの態度は変わらない。寧ろ、ここにヴァーリが居たら為していたであろうことを自分が代わりに為すことに喜んでさえいる。

 

「助かったらお前ら全員、俺様に感謝の土下座をするんだホ!」

「へいへい。分かった分かった。土下座でも何でもしてやるぜぃ!」

「本当、可愛い見た目の癖に可愛くないにゃん」

「まあ、それを合わせて彼の魅力ですから」

 

 ジャアクフロストのどこまでも上からの態度に呆れつつも、一時だがロキの冷気の冷たさを忘れることが出来た。後はジャアクフロストを信じて耐えるだけである。

 タンニーンは今からやることがこの戦いに於いて最後の役目であると自ら定めた。

 碌に動かないこの役立たずの巨体を最後の最後で役立たせることが出来る。

 リアスたちに迫る冷気の波動。その前にタンニーンが壁となる。

 

「く、ぐう! おおおお!」

「タンニーン!」

 

 超低温によって急速に冷やされるタンニーンの体。鎧そのものと言っていいドラゴンの鱗が、急激な凍結によってひび割れていく。

 

「リアス嬢……! その眷属たちよ……! 暫くの、辛抱だ……!」

 

 タンニーンの巨体はリアスと一誠を除いた眷属、そしてバラキエルも冷気から守る。

 

「貴方の体が!」

「どうせ、まともに、動かない身! 少しでも役立てられるなら、本望っ!」

 

 リアスは止めさせようとするが、タンニーンの意志は強固であった。

 だが、冷気の直撃は避けられても余波だけで体が凍り付きそうになる。

 

「タンニーン殿、私もお手伝いしよう!」

 

 バラキエルは手を輝かせて、その手を振るう。雷光が礫の様に散るとそれらが稲妻によって繋がり出し、タンニーンを含めた自分たちを守る雷光の網を張る。

 雷光から発せられる電熱がロキの冷気を軽減させる。

 

「ヒ~ホ~。なら僕も~」

「ランタン君?」

 

 リアスたちの前にフヨフヨと浮遊してきたジャックランタンが、カンテラを掲げる。カンテラの炎が激しく燃えると、下がっていた温度が徐々に上がってくる。

 バラキエルの雷光と、ジャックランタンのカンテラによる二重の耐冷防御がロキの冷気から皆を守ろうとしていた。

 各々が身を犠牲にし、あるいは尽力することでロキの冷気を耐えようとする。その光景はロキにある種の感動を覚えさせる。

 何せ凡庸でありきたりな愛と友情の完結よりも、足掻いても無駄だった悲劇的な結末の方が感情を揺さぶられる。

 シンたちは全力を以って抗っているが、ロキはまだ全力を出してすらいないのだ。

 

「我が齎す死は優しいぞ? 眠る様な死だ。──夢心地を保証してやるよ」

「やめろぉぉぉ!」

 

 ロキの力の高まりを感じ取り、一誠は魔力噴射を全開にして突っ込んでいく。ミョルニルレプリカに魔力を込め、更に『赤龍帝の贈り物』により破壊力を可能な限り引き上げる。

 

「おおおおおっ!」

 

 必死な様子でミョルニルレプリカを振り下ろす一誠に対し──

 

「はっ」

 

 ──ロキは一笑。その笑みに一誠は悪寒を覚えるがもう止めることは出来なかった。

 その刹那、世界は白く染められる。

 数秒後、落下音がし、ロキの足元に転がる物体。全身を氷漬けにされた一誠であった。それだけでは無い。ロキを中心にしてあらゆるものが凍て付く。ロキのみが動くことを許された静止世界がそこには広がっていた。

 

「他愛ないな──下っ端相手に大人気ねぇな。まあ、こういうのも面白いからしょうがねぇが──相変わらず悪趣味なことを言う。下っ端でも容赦なく潰すのが礼儀というものではないか? ──ひゃはは、そういうことにしておいてやるよ」

 

 リアスたちはロキの予想に反して粘ってみせたが、結果を見ればこの通りである。幾ら束になろうと神である自分には敵わない。

 魔人である人修羅を警戒し、もう一人の自分も使う本気を見せたが、魔人であっても自分には遠く及ばない。警戒し過ぎたとも言える。

 

「用心をするなら、マタドールの方だったか? ──あんな奴と関わるだけ損だぜ。何の得にもなりゃしねぇ──分かっている。しかし、結局姿を見せなかったな……」

 

 戦闘狂であるマタドールが、戦いが終わるまで一切姿を見せなかったことに安堵よりも先に違和感を覚える。事前に接触して釘を刺しておいたが、律儀にそれを守って今日まで戦闘行為を全くしてこなかった。戦いと勝利のカタルシスを手に入れる為に乱入してくる確率が高いと踏んでいたが、予想が外れた。

 

「それならそれでいいが」

 

 ロキは凍り付いて動けないリアスたちの頭上に無数の魔法陣を展開させる。そこから魔法を放てば、氷像と化した彼らは簡単に砕け散る。

 

「さよならだ、リアス・グレモリー御一行」

 

 別れの言葉と共に魔法陣から魔法が放たれる──かと思いきや、突然ロキはそれを中断し、ある方角を凝視する。体ごと身構えるその姿は強い警戒があった。

 

「何だこれは……!」

 

 信じられない程巨大な力を感じ取った。しかも一つだけでなく二つも。どちらもロキの力を上回っているかもしれない。そんな力を感じ取って無視が出来る程、ロキは鈍感でも剛胆でも無かった。

 

「この感じ、白龍皇か……! それに魔人の気配も……マタドールもいるのか!」

 

 一個体からこれ程の力を出せるのかと思うと寒気立つ思いである。この力を相手にするかもしれないと考えると、ロキは無意識に息を呑み喉を鳴らした。白龍皇と魔人。二つの大きな力が共に感じられたということは交戦状態にあると思われた。勝った方をロキは相手にしなければならない。

 しかし、ロキの不安とは裏腹に強大な力は突然感じられなくなる。

 

「消えた……隔離されたか? ──或いは両方くたばったのかもしれねぇな。そっちの方がこっちとしてはありがてぇ。──あまり楽観的には考えたくはないがな」

 

 事態を重く見た悪魔側が二人を隔離したのではとロキは予想する。同時にあの戦いに巻き込まれただろう我が子フェンリルの不運に同情する。

 恐らくは生きていないだろう、とロキは思った。仮に生きていたとしても戦える状態ではないと思われる。

 フェンリルが使えなくなったことは痛いが、あれだけの力を秘めた白龍皇と魔人を遠ざけることが出来たのは大きい。ロキもフェンリルを悼み賞賛の言葉を送る。心の中で。

 暫し黙禱染みたことをしていたロキ。だからこそ、ほんの少しだけそれへの反応が遅れる。

 体に張り付いた氷を砕きながらぎこちない動きで巨体を起こすタンニーンに。

 

「お、おおお、おおおおっ!」

 

 赤紫色の姿を真っ白に染め上げられたタンニーンが大口を開ける。その口から昇る白い煙は冷気のものではない。

 防御用の魔法陣を展開し、タンニーンの攻撃に備えるロキだったが、タンニーンの吐いた炎はロキへ飛ぶことはなく、見当違いの方向へ飛んでいく。

 顔面まで氷に覆われ、視界も閉ざされた状態では無理も無い。タンニーンの最後の足掻きにロキは軽い拍手を送る。

 

「恐るべき生命力だ。だが、ここまでだな」

 

 ロキの言う通り、タンニーンの体から力が抜け倒れる──直前に僅かに踏み止まる。

 

「ここ、まで、だ。後は──」

 

 そこまで言い掛け力尽きるタンニーン。ロキはその言葉に不穏な予感を覚えた。それを後押しするかの様にいつまでも聞こえないタンニーンの炎の着弾音。もう隕石の衝突並みの爆発音が鳴っていい筈。

 外れたタンニーンの炎。ロキの記憶が正しければその方向には──ロキの視線がそちらへ向けられた。

 

「何……?」

 

 巨大な炎の塊が空中で留まり、その大きさを縮小させていく。小さくなっていくことで炎の先に誰かが立っていることに気付く。

 やがて、全ての炎が吸収され、全身から熱気を放ち極寒世界を溶かし始めるシンの姿が見える。

 

「タンニーンの炎を取り込んだのか……──はっ! どいつもこいつも吸収、吸収! 戦い辛いんだよっ! 鬱陶しい!」

 

 もう一人のロキが苛立ちのまま吐き捨てると、手を振り下ろす。放たれた冷気がシンに向かって怒涛の如く押し寄せてくるが、シンは大きく息を吸い込む。本来ならマイナスの空気を吸い込めば肺に多大なダメージを与えるが、シン自身が熱源となって周囲を急速に暖めているので思いっ切り吸い込める。

 限界まで空気を吸い込むと、今度は一気に吐き出す。だが、吐き出されるのは空気ではなく橙色に輝く業火であった。

 タンニーンを彷彿とさせる『炎の息』が、ロキの冷気と衝突し、一瞬で相殺されてしまう。それを見たロキは目元を微かに震わせた。

 

「ジャックフロスト」

「ヒ、ヒホ……」

 

 後ろにいるジャックフロストに声を掛けると苦しそうな声で返事が戻って来た。シンが強烈な冷気を耐えられたのは、殆どをジャックフロストが吸収してくれたお陰である。しかし、その代償としてジャックフロストは見るも無残な姿になっていた。

 

「オ、オイラも戦うホー……!」

「―—止めておけ。そんな姿で」

 

 シンは後ろで転がっている大きな雪玉に対して、そう言った。よく見れば小さな手足が付いておりバタバタと動いている。

 

「ヒ、ヒホォー」

 

 この大きな雪玉こそジャックフロストの成れの果てである。体に隠れて見えにくいがちゃんと頭も付いている。ロキの強力な冷気を取り込むだけ取り込んだせいで肥満体の様な体になってしまい、碌に動けなくなってしまっていた。

 冷気を相殺されたロキは、観察する様な目でシンを見る。

 

(炎を吸収しただけであれ程の威力……? 自身の魔力とタンニーンの力を掛け合わせた結果か……? 我々の様に)

 

 そう考えた途端、不快感を覚え面白くなくなる。自分たちの領域に土足で踏み込まれた気分である。

 危険というよりも目障りな存在と認識し、ロキは魔法陣を展開しようとするが、視界の端に閃光を映したことで、魔法陣をそちらへ展開。すると、堕天使の光と雷を合わせた雷光が魔法陣に衝突。

 雷光は魔法陣によって阻まれたが、それが消えた直後に真紅の魔力が魔法陣に触れ、透過でもしたかの様に魔法陣に穴を開け、ロキ本体を狙う。

 

「くっ!」

 

 体を捻り、真紅の魔力を躱すロキだが、衣服の一部が触れ、跡形も無く消滅する。

 

「リアス・グレモリー……!」

 

 ロキの目に映り込む霜が付着し斑となった紅色の髪。白い肌を更に青白くしながらも強い意志を込めてリアスはロキを睨んでいた。

 無事なのはリアスだけではない。朱乃、アーシア、小猫、ギャスパー、木場、ゼノヴィア、イリナ、ロスヴァイセが顔面蒼白状態だが動き、戦う意志を見せている。

 助かったのはタンニーンが我が身を犠牲にして盾になってくれたこと。そして──

 

「……無事か?」

「……ええ」

「……そうか、それなら、いい」

 

 朱乃が複雑そうな視線を向けるのは、地面に膝を突いたバラキエル。黒翼は殆ど凍り付き、冷え切った気温の中で大量の汗を流している。彼が周囲に巡らせた雷光による結界もまたリアスたちを救う助けとなった。

 そして、もう一人──

 

「ラ、ランタン君……!」

 

 地面に転がる氷像と化したジャックランタン。彼が必死になって周りを暖め、温度を下げない様にしたお陰でリアスたちはまだ動ける。しかし、代償として冷気に弱いジャックランタンは完全に凍り付けになってしまった。

 ギャスパーは友の死を目の当たりにし、冷気ではない震えに全身を襲われる。が、そこで気付いた。ジャックランタンが握り締めるカンテラにまだ小さな火が灯っていることに。息を吹きかければ容易く消えそうな小さな火だが、それはジャックランタンがまだ生きていることの証明であった。

 

「待っててね……!」

 

 友が救われることを願い、ギャスパーは冷たくなっているジャックランタンの頭を撫でた。

 

「生きてるかー……」

「にゃん……」

「はい……」

 

 美候たちもロキの冷気に耐え切っていた。しかし、体は異様に重く、ダメだと分かっているが凄まじい眠気で今にも倒れてしまいたい衝動に駆られていた。

 

「爺の修行よりもきっついぜぃ……」

「にゃあー……耳の中まで凍っているにゃん」

「手が柄とくっついてしまいましたよ……でも、これで剣を落とす心配は、無くなりましたね……」

「……真面目な奴が偶に言う冗談って何でこんなに笑えないんだぜぃ?」

「本当にゃん」

「……私なりに和ませるつもりだったのですがね……」

 

 冗句が思いの外不評だったことに、アーサーは少しだけ傷付いた表情となった。

 

「おい、ジャアクフロスト……大丈夫か?」

 

 前で猫背になっているジャアクフロストを呼び掛けるが、返事は無い。

 

「おい、本当に大丈夫か?」

「無事かにゃん?」

 

 もう一度呼び掛けると、ジャアクフロストはゆっくりと後ろを振り返る。何故か口元を手で覆っていた。

 

「ヒ、ヒホ……今は……話し掛けるんじゃ……ないホ……うぷっ」

 

 今にも吐きそうな様子のジャアクフロスト。ロキの冷気を大量に吸収したが、ジャアクフロストの体型はジャックフロストの様に丸々と大きくなっていない。それは彼が上手くロキの力を取り込んだからであるが、それでもやはり許容量を超えていたらしく、今にも取り込み切れなかった力が口から逆流しそうになっていた。

 

「だ、大丈夫ですか? 背中を擦りましょうか?」

「い、今のオレ様に、さ、触るんじゃないホ、さ、触ったら、爆発するホ! うっ!」

 

 頬を膨らませるジャアクフロスト。それを見て、美候たちは一歩下がる。だが、ジャアクフロストは美候たちの前で意地でも醜態を晒したくないのか、そこで留まる。

 

「オ。オレ様は暫く休憩だ、ホ……後は、お前らに、任せてやる、ホ……」

 

 体調を最悪でも上から目線で言うジャアクフロストに苦笑しながら、美候たちは弱った体に鞭打ってジャアクフロストの前に出ていった。

 

 

 ◇

 

 

(眠い……)

 

 一誠を襲うどうしようもない程の眠気。今までこんなにも眠いと思ったことは無い。

 眠っている場合ではないと分かっているのに、瞼を開けることが出来なかった。

 

『相棒!』

 

 極度の体温低下で意識を失おうとしている一誠にドライグが必死に呼び掛ける。

 

(ドライグ……)

 

 それに応じようとするも、体は一誠の意志に応えてはくれなかった。

 すぐ近くなのに遠くに聞こえる仲間たちの声。皆が戦っているのが伝わってくる。

 

(俺も……)

 

 自分も戦わなければならない。その気持ちとは裏腹に一誠の意識は闇の中に沈んでいった。

 

「あっ」

 

 目が覚めるとそこは一誠が意識を失った時に見る謎のベッドルーム。だが、いつもいる筈の夕麻の姿は無かった。

 代わりに部屋の隅で無言で立つ歴代赤龍帝の思念。マタドールに怨みを抱き、度々一誠の神器を暴走させていた思念である。

 しかし、この時の思念は前とは違い、いきなり一誠に襲い掛かることはしなかった。

 

「あの……ん?」

 

 一誠にしか聞こえない声。それは一誠のある覚悟を確認するもの。

 

「……ですよね。あのロキを倒すには、それしかないです」

 

 一誠は自嘲気味に笑う。また声無き声が聞こえた。

 

「そりゃあ、怖いですよ……怖いけど、命懸けにならなきゃただ死ぬだけなんです……何も出来ずに! それだけは……それだけは出来ません!」

 

 それを聞き、思念から声が飛ぶ。

 

「え? 一緒に?」

 

 聞き返そうとした時──

 

『相棒っ!』

 

 ──ドライグの声で一誠の意識は暗闇から戻って来た。

 

『寝るな! 寝たら──』

「我、目覚める、は……」

『それは……!』

 

 辛うじて意識を保っている一誠の口から紡がれるか細い詠唱。

 

「覇の理、を神より、奪いし、二天龍、なり……」

『──それしか道は無し、か』

「無限を嗤い、夢幻を、憂う……」

『だが、それがお前の選んだ選択なら──』

「我、……赤き覇王と、成りて……」

『──俺は最期まで付き合おう!』

「汝を……紅蓮の煉獄に、沈めよう……!」

 

 一瞬の静寂。それは嵐の前の静けさ。次に来るのは天地を揺るがす膨大な魔力の波動。

 

『Juggernaut Drive!』

 

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