ハイスクールD³   作:K/K

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対話、対談

 アザゼルからのお叱りが終わり、兵藤家の玄関から居間へと移動するシンとその仲魔たち。移動する間、ピクシーやジャックフロストがニマニマしながらシンを見続けている。普段は叱る立場のシンが逆に叱られているレアな光景を目の当たりにしてご満悦の様子。

 オーフィスも何故かシンを凝視しており、アザゼルに引っ張られて連れられている間もシンから視線を外さない。

 好奇の視線を浴びせ続けられるシンは非常に居心地が悪かった。

 居間へ着くと一誠たちが待っていた。一誠はシンの顔を見ると気不味そうに視線を逸らす。シンが先程アザゼルに怒られている現場を目撃してしまっており、どんな言葉を掛ければ良いのか迷っているのだ。

 だが、一誠たちとは違い、視線を向けて来る者たちも居る。シンも知っている人物らだった。

 

「おひさー人修羅ちん」

「お久しぶりです、間薙さん」

 

 小猫の姉の黒歌と京都で協力してくれたルフェイ・ペンドラゴン。

 ルフェイの隣には灰色の大型犬、ではなく狼が座っており、その狼にも見覚えがあった。狼と目が合う。途端に狼は牙を剝いてシンを威嚇し出す。

 

「こら! フェンリルちゃん! ダメだよ! 威嚇しちゃ!」

 

 ルフェイが狼の名を呼んで叱る。聞き間違いでなければ狼をフェンリルと呼んだ。ロキとの戦いで呼び出されたその牙で神をも喰い殺すことが出来る神狼。ヴァーリとの戦いの最中にヴァーリごと転移させられ、その後はヴァーリたちに連れて行かれたことまでは聞いていたが、ヴァーリチームの軍門に下っていたのを初めて知った。

 嫌われるような事をした記憶が無いが、シンはフェンリルから随分警戒されている。

 

「ねえねえ。放っておいてもいいの?」

 

 吞気に欠伸をしているケルベロスにピクシーがひそひそと話し掛ける。以前、フェンリルに対しケルベロスが対抗心や敵意を剥き出しにしていたが、今は見向きもしていない。

 

「グルル……アンナモノハ虚仮脅シダ。恐レヲ見セナイ為ノ」

 

 ケルベロスは鼻を鳴らし、フェンリルの威嚇が表面的なものに過ぎないと看破する。ピクシーはケルベロスの言っていることを参考にして今も牙を剝いているフェンリルをよく観察してみた。すると、威勢とは裏腹に尻尾が丸まっていることに気付く。どんなに虚勢を張っても体は正直に反応していた。加えてケルベロスの鼻はフェンリルから放つあるニオイを敏感に察知していた。

 恐れというニオイを。

 

「奴ノ牙ハトックニ折レテイル」

 

 ケルベロスの指摘は、フェンリルの内心を正確に見抜いていた。

 ロキとの戦いを終えた後、消耗し切ったフェンリルをヴァーリが連れ帰り、『支配の聖剣』の能力でヴァーリチームの支配下に置かれたが、実はそんなことをしなくともフェンリルの心と牙はとっくに折られていた。

 フェンリルはヴァーリによって倒された、とヴァーリは仲間に説明をしたが、正確には違う。フェンリルはヴァーリとマタドールの戦いの余波に巻き込まれ、直接戦闘をせぬまま敗北していた。ヴァーリが倒したというのはフェンリルの名誉を守る為のヴァーリなりの気遣いであったが、その気遣いによりフェンリルの自尊心は完璧にへし折られた。

 今のフェンリルにとってトラウマが三つある。一つ目はドラゴン。原因はヴァーリであり、それが理由で一誠にも恐怖から出会い頭に威嚇してしまった。

 二つ目は魔人。マタドールのせいで心に深い傷が出来ており、魔人特有の気配を感じるシンにも先程のように強く警戒してしまった。

 三つ目はマダ。マダに押さえ付けられ間近で見せられたロンギヌススマッシャーと血のアンダルシアの衝突は、今でも悪夢に見る。そして、その時のマダの愉快そうな笑い声は耳の奥にこびりついている。

 フェンリルからすればヴァーリ、マタドール、マダは理解不可能な狂人であり恐怖とトラウマの対象。折角離れることが出来たのに、それと似たニオイがする一誠とシンが近くにいるのでフェンリルは若干情緒不安定になっていた。

 

「落ち着いて下さい、フェンリルちゃん。ここには貴方の敵はいませんよ?」

 

 ルフェイがフェンリルを撫でて宥めようとする。

 人畜無害な気配とニオイを纏うルフェイの傍にいるお陰で不安定な精神を辛うじて正常に保つことが出来ている。ルフェイを守るように傍に付いているが、実際に守られているのはフェンリルの方であった。

 妙に喧嘩腰なフェンリルを無視し、シンは周りのリアスたちの様子を確認する。

 一誠は緊張しており表情が固まっている視線をあちこちに向けており、頭の中で色々と考えているように見えた。

 木場とゼノヴィアも表情が硬いが、いつでも飛び出せるように準備を済ませていた。

 リアスは非常に不機嫌そうで表情が険しい。彼女にとって気分が害することが起こった様子。何が原因かは探らなくても分かる。

 朱乃はシンたちの為にお茶を用意している。いつも通りのように見えるが、動きがややぎこちない。彼女もまたオーフィスという存在に緊張していた。

 部屋内に小猫の姿は見当たらない。最近様子がおかしかったので席を外している可能性がある。或いは不仲の黒歌と顔を合わせたくないという理由も考えられる。またギャスパーの姿も見られなかった。一年生同士なので小猫を心配して付き添っているのかもしれない。

 イリナは複雑そうな表情をして悩んでいる。

 アーシアとレイヴェルは既に答えが決まっているのか、この中で一番落ち着いていた。

 オーフィスの登場は一誠たちに多種多様な反応をさせている。

 

「もー。挨拶しているのに返さないなんて失礼なんじゃないかにゃー?」

 

 無反応なシンに黒歌が少し怒ったように文句を言ってくる。黒歌の言葉でようやく反応するシンであったが、挨拶を返すことなく無感情な目で黒歌たちを無言で見るだけであった。

 

「な、何か少し見ない間に迫力増してないかにゃ?」

「あ、あの……何か気に障ることでもありましたか?」

 

 オーフィスと一緒に一誠宅にやって来た黒歌とルフェイ。怒られたり、慌てたり、驚かれたりしたが、その中でもシンの反応が最も冷たい。こちらを見ているようで見ていないような何を考えているのか全く読めない目を向けられると心臓が締め付けられる気持ちになる。

 

「……このセッティングはやっぱりヴァーリから頼まれたんですか?」

 

 シンの無感情な目が今度はアザゼルに向けられた。ヴァーリチームの二人がいることと、この前のアザゼルとの会話から導き出される答えはそれしかない。

 

「ちょっと違うな。オーフィス自身も話したかったんだとよ。ヴァーリたちはそれに協力したんだ」

 

 オーフィスが何を話したかったのか少々興味が湧く。

 

「それでアザゼル先生は手を貸したんですか?」

「……まあな」

「事後承諾で?」

「その通りよっ!」

 

 不機嫌であったリアスが立ち上がりながらシンの一言で怒りを爆発させる。

 

「やっぱり非常識でしょう、これは! 貴方もそう思うわよね!? シン! 長い時間を掛けて出来た協定を破棄されかねない行為よ! ああ、もう! やっぱり頭に来る!」

 

 アザゼルがオーフィスを連れてきた時点で一度爆発したリアスの怒り。今も各勢力を脅かしているテロリスト集団の親玉を招き入れる。バレたら悪魔や天使から堕天使サイドが糾弾、或いはそれ以上のことをされても文句を言えない協定違反である。

 しかし、三勢力が協力体制を結ぶことを強く説いていたアザゼルがそんなことを分からない筈が無い。分かっていて何か考えがあってやったことだと冷静になった。

 冷静になって考え、考えた結果やっぱりアザゼルのやったことは腹が立つので二度目の怒りが再燃、爆発する。

 リアスの再炎上に誰もが言葉を失ってしまう。

 

「きっと貴方のことだから、私たちが想像も出来ないような危ない橋を渡ったり、口に出せないような手段をとったんでしょ! 一人で! 勝手に!」

 

 リアスの詰問に対し、アザゼルも口を閉ざすしかなかった。普段だったらリアスなど年季の違いで小娘としてあしらうのは簡単であったが、リアスの目が潤んでいることに気付いて何も言えなくなっていた。

 

「他の勢力が貴方に騙されていることに気付いたら、何をされるか分かっているでしょう!」

「まあ……責任をとって俺の首が飛ぶな。本当の意味で」

「責任どうこうの問題ではないでしょうがっ!」

 

 そこで一旦リアスの言葉が途切れた。喋りながらもヒートアップし続けていたリアスの激昂。遂に限界点を突破してしまったのだ。

 その結果──

 

「貴方が……そんな責任をとると言って……私たちが……安心すると本当に思っているの……」

 

 ──誰にも表情を見せないように俯き、声を震わせるリアス。感情的になり過ぎて普段は言わない本音を零してしまった。最初はアザゼルのことを忌み嫌い警戒をしていたが、オカルト研究部の顧問としてそれなりに交流するようになり考えも変わった。ただでさえグレモリーは身内や眷属に対して情愛が深い。既にアザゼルに対して情が移っている。

 グレモリー眷属たちの非難する視線がアザゼルに刺さる。

 

「何だよー……そんな目で見るなよー……」

 

 そう言っても眷属たちが目を逸らすことはなかった。アザゼルから聞きたいのはそのような言葉ではない。

 アザゼルは溜息を吐き、アザゼルはリアスへ頭を下げた。

 

「……すまん。言い訳をするつもりはないが、俺の考えとしてはこれが一番無駄な血を流さずに今の騒動を治める方法だと判断したんだ。──だが、今回ばかりは自分勝手が過ぎた。反省している。次からは何でもかんでも一人で進めずにちゃんとお前たちに相談する。だから機嫌を直してくれよ、な?」

 

 素直に謝罪をし、反省していることを言葉と態度で伝える。

 

「約束よ?」

「ああ、約束だ」

 

 リアスが顔を上げた。目が充血しているが泣いた跡は無い。

 

「いいわ。今回のことはこれ以上何も言わないわ」

「そう言ってくれて助かるよ」

 

 リアスがそう告げると眷属たちも息を吐き、緊張を解く。眷属である故にリアス側だが、アザゼルにも色々と世話になっている。出来ることなら二人の対立をこれ以上見たくなかったので安堵していた。

 リアスがソファーに腰を下ろした。先程までの騒々しさが消え、すっかり静かになる。全員が完全に会話をするタイミングを逃してしまったので気まずい沈黙が続く。

 誰でも良いので何か切っ掛けを出すことを願ったとき、朱乃が口を開く。

 

「お茶、冷めちゃいましたね。淹れ直してきます」

 

 話題では無かったが、少なくとも朱乃が茶を淹れ直すまでの間、猶予が生まれる。この間にそれぞれが気持ちを切り替えていく。

 リアスはまだ少し不機嫌そうであったが、隣に座っている一誠が彼女を慰めている。恋人同士の甘過ぎる空間が出来ており、見ている方が恥ずかしくなってくる。アーシア、ゼノヴィア、レイヴェル、イリナが羨ましそうにしているが、リアスの手前眺めるだけで我慢をしている。

 シンもソファーに座り、ピクシーとジャックフロストも各々の好きな場所に座る。そして、ピクシーたちは遠慮なくテーブルに置かれてある菓子に早速手をつけていた。

 シンはさりげなく黒歌とルフェイの様子を確認する。ルフェイはフェンリルを撫でて時間を潰し、黒歌はピクシーたちと同じくお茶請けの菓子を食べている。

 緊張感が無い、というよりも平常心であった。敵地のど真ん中にいると分かっているのにそれを保ち続けられるのはそれ相応の精神力と実力を有していることの表れである。

 だが、完全にリラックスしている訳ではない。

 

「欲しいのかにゃー?」

 

 黒歌はシンの視線に一瞬で気付き、悪戯っぽく笑いながら食べ掛けの菓子をこちらへ差し出してきた。

 シンは顔を逸らして態度で拒否。すると──

 

「なら、アタシが貰うー」

 

 ──代わりにピクシーがその菓子に齧り付いた。こちらのマイペースっぷりも大したものである。黒歌はピクシーの行動に楽しそうに笑っている。

 ソファーが沈む。シンの隣にアザゼルが座った。

 

「……ったく、あんだけ怒られたのは何時以来だ……?」

 

 リアスに本気で怒られたアザゼルは、少しだけ凹んでいた。常に大人として振る舞っていた彼であるが、先程のことでその威厳が若干揺らいでいる。

 

「俺も大人に怒られたのは久しぶりでしたけどね」

「誰だって怒るだろう、あれは。……オーフィスに殴り掛かりやがって」

 

 アザゼルの一言にその場が騒然となる。シンがアザゼルに怒られたのは周知の事実だが、何をして怒られたのか今知ったからである。

 誰もがシンの正気を疑うような眼差しを向けてくる。

 

「お前だけだぞ? オーフィスに仕掛けたのは……」

 

 オーフィスが現れたとき一触即発の雰囲気にまでなったが、ギリギリの所で踏み止まっていた。オーフィスに攻撃した怖いもの知らずはシンだけである。

 

「状況が状況だったので」

「何だそりゃあ……」

「最悪の事態を想定したんです。俺はオーフィスの性格を知りません。アザゼル先生がオーフィスをこの家に招いた結果、オーフィスの気まぐれで全滅してしまった。手を出すなと言われましたが、あの状況で俺はその可能性を考え、攻撃しました」

 

 スラスラと言い訳を並べ立てるシン。

 

「それっぽいこと言いやがって……そんな言い訳いつ考えたんだ?」

「……」

 

 今である。しかし、反省も後悔も微塵も感じさせないシンの表情。あまりに堂々としているせいか言っていることも一理あるのではないかと錯覚させる。

 

「こいつ……」

 

 肚が座っていると言うべきか、それとも図太過ぎると言うべきか。全く臆しないシンの態度にアザゼルは頬をひくつかせる。

 

「事前にちゃんと説明してくれていれば起こらなかったすれ違いですね──反省はします──報告と連絡と相談は大事だということです」

「おまっ……そこに繋げる方向へ持っていくのかよ……」

 

 言われたことを破った自分を棚上げして全ての責任をアザゼルへとなすりつける。アザゼルは嘆息した後、手を気だるげに振る。

 

「分かった、分かった。もう俺が悪いでいいさ。だが、誤解があったとはいえ殴り掛かったのは事実なんだからオーフィスに一言詫びとけよ」

 

 アザゼルは投げやり気味に責任を被る。発端の責任はアザゼルが背負ったが、アザゼルが言うように攻撃したのは事実なので一応は謝罪をしようとし、シンは目でオーフィスを探す。

 

「いい、我は気にしない」

 

 声はシンの傍から聞こえた。いつの間にかシンの隣に座っているオーフィス。彼女が声を発するまでシンはその存在に全く気付かなかった。それどころか、この場にいる全員がソファーに彼女が座るのを見ていない。

 オーフィスの底知れなさに戦慄し皆の背中に冷たい汗が流れるが、オーフィスは決して自らの力を示す為にそれを行った訳ではない。オーフィス自身の認識では、ただソファーに座ったに過ぎない。その何気ない動作ですら埋めることが出来ない絶対的な差を見せつけるのに十分だっただけなのである。

 皆が静まり返る中でシンはオーフィスと向き合う。その瞳にはシンへの興味が多少あるように見えた。

 

「すまない。悪かった」

 

 詫びはいいと言われたが、けじめの為にシンは頭を下げて謝った。オーフィスはそれを不思議そうに眺めている。

 すると、オーフィスは自分の掌を見つめた後、その掌をシンに見せる。見守っている面々はその行為が何を指すのか分からずに訝しんでいた。

 

「我、不思議に思う。人修羅の拳は特別?」

 

 受けたときに痛みを覚えたことをオーフィスは今でも不思議に思っていた。グレートレッドに遠く及ばない存在だというのに無限に届かせることが出来る拳。そのアンバランスさは普段は波一つ無い彼女の心を大いに刺激する。

 刺激するといえば彼女の興味を強く惹く存在がもう一人居る。

 オーフィスの視線がシンから一誠へと向けられ、一誠はギョッとした後に冷や汗をだらだら流し、顔を引き攣らせて下手くそなスマイルを浮かべる。

 

「オ、オ、オーフィス、お、俺たちと、は、話がしたいらしいけど……」

 

 言葉は詰まり、声は震え、喋りは最後尻すぼみになっている。オーフィスという強大な存在を前に一誠は怖がっていた。

 そもそもオーフィスがここへやって来たのは一誠、ドライグと話がしたいというもの。それが始まる前にシンがやって来ていざこざを起こしてしまい、後回しになってしまったが、落ち着いたのでいよいよ本題に入ったのだ。

 

「淹れ直してきました」

 

 そのタイミングで朱乃が新たに淹れたお茶を皆の前に置いていく。折角淹れ直してくれたお茶だが、殆どの者がオーフィスに気を取られて手を出せない。そんな中で真っ先にお茶に手を伸ばしたのは、渦中の人物であるオーフィスだった。

 皆の視線など一切気にすることなくティーカップの茶を飲み、口を離して一言。

 

「ドライグ、天龍をやめる?」

 

 脈絡の無い内容だったので問われた一誠──正確にはその内にいるドライグだが──訳が分からないという混乱と敵意の無いことを示す笑顔を半々に出した変な表情になっていた。

 

「あの……言っている意味が……その……俺には分からないというか……」

 

 なるべく言葉を選びながら全く伝わっていないことを説明する。

 オーフィスは虚空を見詰めて暫くの間固まる。その空間だけ一時停止したかのような完璧な静止であった。

 やがて、オーフィスは口を開く。

 

「宿主の人間、今までとは違う成長をしている。人から悪魔となった転生悪魔だとしても、説明がつかない。我、不思議。才能や素質ならヴァーリが今まで見た中で一番。でも、この所有者は歴代でも才能と素質は最低」

 

 オーフィスから面と向かって才能無しと評価され、一誠もショックを受ける。分かっていることなのだが、悪意無く言われると心に来るものがあった。

 

「ヴァーリは『覇』を我が物にした。それについては、我は不思議ではない。器がある。でも、ドライグの所有者は『覇』を超えようとしている。曹操との戦いで知らない進化、バアルとの戦いを経て、ドライグ、更に違う進化をした。鎧、紅になった。初めて。我、知っている限りは初めてのこと」

 

『赤龍帝の三叉成駒』も興味を惹かれたが、覇龍とは異なりながらも覇龍に匹敵する『真紅の赫龍帝』はもっと強く興味を持った。

 だからこそ、オーフィスは自分の知らない道を歩んでいる一誠たちに問いたい。

 

「だから、訊きたい。ドライグ、何になる?」

 

 すると、一誠の左腕に籠手が顕現し宝玉が光って一誠に変わってドライグが答えた。

 

『わからんよ、オーフィス。俺にとっても初めてのことだからな。俺の相棒がこの先どうなっていくのか予想もつかん。何せ俺の思考の範疇には収まらん男だからな』

「ドライグが分からないなら、我も分からない。ドライグの所有者、もっと強くなる?」

『強くなるかどうかは知らんが、面白い成長をしていくのは確かだ』

 

 一誠が口をもごもごと動かしている。ドライグの言葉に照れている様子。

 

「ドライグ、もう『覇』の力は要らない? 我の無限とグレートレッドの夢幻は不要? もう覇王にはならない?」

『不要──の一言で切り捨てるのなら流石に不義理だな、今までの所持者たちへの。『覇』は俺が力を求めた結果だ。そして、それ故に俺は滅びた。それ以外で力を高める術を知らなかったからな。俺はその宿業をこれまでの所持者たちに引き継がせてしまった。だが、それらの果てに俺は赤が紅になることを知れた……それが『覇』で散った者たちへの慰めになるか分からんがな』

 

 ドライグの言葉に哀愁が帯びる。

 

「後悔、している?」

『後悔か……この気持ちを言葉にする術を俺は知らん。少なくとも後悔とは違うな。きっと相棒が所持者にならなかったら、こんな考えを持つことすら無かった筈だ』

 

 オーフィスはドライグの気持ちが理解出来ないのか首を傾ける。

 

「我、『覇』、分からない。だが、誰もが『覇』、求める。『禍の団』、ドライグ、アルビオン、それ以外の者たちも。分からない、我もグレートレッドも『覇』ではないから」

 

 オーフィスの言っていることは抽象的で彼女のペースで話すので理解するのが難しい。だが、少なくともドライグには伝わっている。

 

『最初から強い存在に『覇』の理なぞ理解出来る筈もない。無限とされる『無』から生じたお前と夢幻の幻想から生じたグレートレッドは別次元のものだ』

 

 ドライグの説明通りならば、目の前に居る筈のオーフィスは、『無』という概念が形を持った存在ということになる。無なのにそこに在る。言葉だけ聞くと矛盾した存在。しかし、そういった矛盾が矛盾でなくなる世界が定めたルールを超えた存在だからこそドライグは別次元と評したのだろう。

 

『その別次元の存在であるお前はこの世界でどうする? 何かを得ようと思っているのか? ただ帰りたいだけか? それ以外の考えを持っているのか?』

「ドライグ、質問。『覇』ではなく紅になったドライグは何になる? 先に何を見ている?」

 

 ドライグの質問を無視してオーフィスは自分の疑問を投げ掛ける。会話をしているようでオーフィスが一方的な部分がそこそこある。超越した存在が自分の感覚で話しているせいなのかもしれない。

 シンが思い返せば、マタドールなどの魔人も言いたいことを言って好き勝手していたような気がする。強い存在程、それを咎める者が少なくなるので我儘になるのかもしれない。

 ドラゴンなどもオーフィスのような一面を持っているのかもしれない。因みに、シンが今まで会って来たドラゴンの中で一番まともだと思っているのはタンニーンである。次点で匙と仲の良いヴリトラ。ドライグは三番目である、暫定だが。

 

「それともドライグ、乳龍帝になる? 乳を揉んで天龍を超える? ドライグ、二天龍の名を捨てて乳を司る龍になる?」

 

 オーフィスの無邪気な質問がドライグの心を突き刺す。

 

『ごはっ!? こ、こいつまでそんなことを……! う、うぐぅ……い、意識が……意識が途絶えそうになる……!』

「ドライグ、乳になる? 龍じゃなくて乳になる?」

『や、やめろ! 無邪気に俺を傷付けるな……! や、やめてくれ……』

 

 ドライグが消え入りそうな声を出した後、籠手の宝玉から光が消える。

 

「ドライグ? おい、ドライグ?」

 

 一誠が呼び掛けてみるが返事は無い。完全に自分の殻の中に閉じ籠ってしまっていた。

 

「あぁ……貴重な龍神と天龍の会話だったのに……」

 

 このような形で二人の会話が強制終了されてしまったことにアザゼルが残念そうにする。

 

「それでオーフィス? お前はこれからどうする?」

「我、見ていたい。ドライグ、この所有者、もっと見たい」

 

 オーフィスは感情が薄いながらも一誠への興味を示す。

 

「ルイとベルのお気に入りも、もっと見ていたい」

 

 ぐるりと首を回し、シンにも興味があることを告げる。オーフィスから出された知らない名前に他のメンバーは『誰だ?』という反応だったが、二人を知るアザゼルの表情は険しいものとなる。

 

「……やっぱりそいつらはシンのこと知っているんだな」

 

 アザゼルの問いにオーフィスは首を縦に振る。

 

「どういう関係なんだ?」

「我、知らない。でも、ずっと気に掛けていた」

 

 詳細は知らないとするオーフィスに、アザゼルは眉間に皺を寄せる。

 

「……なあ、そのルイとベルって誰だ?」

 

 気になり、一誠が代表してオーフィスに質問する。

 

「我の友人。そして、グレートレッドの友人」

 

 オーフィスの発言に誰もが衝撃を受ける。この世で最強の存在の共通の友人。オーフィスとグレートレッドの名は知れ渡っているが、その友人の存在など誰も知らない。

 もしかしたら、とんでもないことを知ってしまったのではないかという緊張が一誠たちに走る。そして、同時にそのような存在から認知されているシンへの疑問が深まった。

 

「貴方は知っているの?」

 

 リアスがシンに二人のことを知っているの訊くが、シンは首を横に振りながら「知らないです」と告げた。

 

「もしかして、貴方の力の──いえ、何でもないわ。ごめんなさい」

 

 シンの力の根源は未だに謎。それに関わる人物なのかもしれないとリアスは推測するが、この場での追究は避けた。規模からして易々と聞いていいものではない。どちらにしてもシンは知らないと言ったので深く掘り下げることも出来ない。知らないというのが嘘か本当かは置いておいて。

 一方でシンが魔人であることを知っている一誠は背中に冷たいものを感じていた。もし、シンに深く関わる存在なのだとしたら、魔人とも強い繋がりがあるのかもしれない。もしかしたら、そのルイとベルが魔人の親玉である可能性が頭の中に浮かんだ。

 

「オーフィスやグレートレッドの友人ってのも興味はあるが、また今度話してくれ。これ以上負担を掛けるようなことをしたら、責任も取れやしない」

 

 既に二人と接触済みであるアザゼルはそれを隠し、この場では話を広げないようにする。アザゼル自身、リアスと一誠の推測に達しているが確証は得ていないのでまだ誰にも話してはいない。それだけルイとベルという存在は未知であるのだ。

 

「──まあ、話す機会はそのうちやって来るだろうさ。てなわけで数日だけこいつらを置いてくれないか? オーフィスはこの通りお前たちに興味津々だ。何かする訳でもなく、見るぐらいならいいだろう?」

 

 アザゼルはこの場の『王』であるリアスに最終確認をする。リアスはアザゼルを見て、その後にオーフィスへ視線を移し、一誠へ顔を向ける。

 

「イッセーとシンが良いと言うなら構わないわ」

「えっ!? 俺と間薙がOKならリアスもOKなのか?」

 

 てっきりリアスの一存で決まると思っていたので一誠は聞き返してしまう。

 

「オーフィスの興味は貴方とシンよ。貴方たちの意思を尊重するわ。貴方たちが嫌だというのならこの話は断らせてもらうわ」

 

 あくまで眷属と友人の意思を尊重すると言うリアス。

 このとき、一誠は考えてしまう。オーフィスをどうにかすれば『禍の団』は瓦解させる糸口が見つかるかもしれない。『禍の団』の首領と話し合いだけでテロリスト組織を止めることが出来ればそれに越したことはない。既に多くの血が流れている現状、これ以上血が流れることを防ぎ、無血で終わらせられればそちらの方が平和的である。

 勿論リスクはある。『禍の団』は血眼になってオーフィスを探している。それを先導するのは英雄派のリーダーである曹操。黒歌たちが言うにヴァーリらが足止めをし、追跡出来ないように痕跡を消してくれていると言っていたが、そう簡単に曹操が諦めるとは思えない。

 緊張状態が続く時勢、オーフィスの動向がそのまま世界の動向へ繋がると言っても決して大袈裟ではない。

 その重要な選択を選ぶ片割れとして選ばれた一誠は、考え過ぎて頭が痛くなりそうであった。

 助けを求めるようにもう一方の片割れを見る。シンは相変わらず何を考えているのか読めない無表情であった。

 

「──そんなに深く考えるな」

 

 急に口を開いてそんなことを言うので一誠は心を読まれたのかと思い、心臓が跳ねる。

 

「選んだ責任の半分は持ってやる」

 

 一誠は決して高望みはしていない。皆と仲良く暮らせて、恋人であるリアスと楽しい日々を過ごせたらそれで良かった。それを脅かすトラブルやイベントは御免被りたいが、何となくというこれといった根拠は無いが、こいつがいれば何とかなる、たぶん大丈夫だろうという気持ちになった。

 

「……俺はOKですよ。ただ、試験とか色々とやることが多いんで、そっちの邪魔をしなければ……」

 

 快諾、とはいかず迷いを抱えながらもOKを出す一誠。

 

「俺も別に構いません」

 

 表情を全く動かさずに了承するシン。

 二人の了承が出たことにアザゼルは頭を下げる。

 

「悪いな、本当に。迷惑も負担も掛けていることは分かっている。──だが、これはチャンスなんだ。上手く行けば各勢力を襲う脅威が緩和されるかもしれん。そうなればこれ以上死人が出ることもない」

 

 普段飄々としているだけにアザゼルがこれにどれだけ懸けているのかが伝わってくる。色々な形で世話になっている者が多いので、アザゼルに頭を下げられるとそれだけで多少あった不満も消えてしまった。

 

「それでだ」

 

 アザゼルは、オーフィス、黒歌、ルフェイを見る。

 

「こいつらは中級悪魔昇格試験前だ。時間が大事なんで邪魔はしないでくれ。……俺の言えた義理じゃないが」

「そういうこと。でも、念の為に問題を起こさないよう色々と契約をしてもらうから」

 

 アザゼルの言葉をリアスが継ぐ。問題行動を起こさないと言っているが、立場が立場なのでいざというときの為に契約などを結んでおく。破ったときにそれ相応のペナルティが発生するように。尤も、オーフィス相手には気休め程度の効果しかないが。龍神を罰する方法などこの世にほぼ存在しない。

 

「分かった」

「問題ないにゃん。私は適当にくつろぐだけにゃん」

 

 オーフィスと黒歌はあっさりと受け入れるが、何故かルフェイは了解する前に一誠へ何かを突き出す。

 

「あ、あの! サインを下さい!」

「……え?」

 

 ルフェイが出したサイン色紙に一誠は困惑する。

 

「この間のバアル戦! 感動しました!」

 

 何故敵対関係にある筈の彼女がサイラオーグとのレーティングゲーム内容を知っているのか一先ず置いておくとして、サインについて一誠はあることを思い出す。

 

「前にも書かなかったか?」

「あれはおっぱいドラゴンとして書いたものですから! 今度は赤龍帝としてのサインを下さい!」

 

「どんな違いが?」と声に出しそうになったが、それを飲み込む。言えばドライグがまた泣きそうな気がしたので。

 立場的には敵対しているのにマイペースで緊張感が無いルフェイと黒歌に苦笑しながら希望通りのサインを書く。

 

「……あっ、そうだ。言い忘れていたがシン、お前もオーフィスの興味対象だから暫くの間、イッセーたちの家に泊まれ」

 

 アザゼルのその言葉に──

 

『えぇ……』

 

 ──シンと一誠は口を揃えて嫌がった。

 




今年最後の投稿となります。来年もよろしくお願いします。
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