ハイスクールD³   作:K/K

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途中リタイヤ系のエンディングです


IF END  魔人転生

 沈み行く意識。暗い底へ、底へと落ちていく。抗うことも足掻くことも藻掻くことも出来ずに。

 肉体と意識は既に切り離されており、五感も失せたままここではない何処かへ意識は向かっていく。

 

 ここで終わりでいいのかい? 

 

 耳も無いのに声が聞こえた。口が無いので答えることも出来ないのだが──

 

 そうか。

 

 ──声の主に声なき声を聞き届いていた。

 

 なら、ここで終わりだ。

 

 その声に失望も怒りの感情も無い。淡々と認め、応じるだけ。

 

 その前に──

 

 何かが抜き取られた。全身に張り巡らされた根、もしくは魂の片割れを持っていかれたような喪失感を覚える。キチキチと虫のような声が聞こえたような気がしたが、すぐに聞こえなくなった。

 

 君にはもう必要のないものだと思ってね。

 

 善意なのか悪意なのか声からは全く伝わらない。仮にそのどちらかだったとしても今の意識だけの自分では何も出来ることはない。されるがまま声の主に委ねるしかない。

 

 このまま別れても良いが、君には楽しませてもらった。楽しませて貰った分、君に礼として何かしらの形で返そう。

 

 奪ったそばから今度は与えると言ってきた。すぐには信用出来ない。礼とは言っているが悪魔の取引を持ち掛けられた気分になる。

 

 無いのかい? 無いのならこちらが勝手に決めさせてもらうよ? 

 

 返答が無いので勝手に決めると言ってくる始末。声の主は相当我儘か自分勝手な性格なのかもしれない。

 

 傲慢と呼ばれたことはあるけどね。

 

 口に出さなくとも読まれてしまうのであまり会話をしたくない。する気がなくなる。

 

 ──ああ、そうだ。君に相応しい贈り物を思い付いた。

 

 何か閃いた様子だが、嫌な予感しかしない。

 

 そんなに警戒しなくていい。嘗ての君には……いや、今の君にも無いものさ。

 

 それは何かと問う前に意識が何処かへ引っ張られていく。

 

 ──な世界を楽しむといい。さようなら。

 

 

 ◇

 

 

 目が覚めると同時にセットしていた目覚まし時計が鳴る。目覚まし時計が一瞬鳴ると同時に切るのは長年の朝の決まり事であった。

 寝ていたベッドから降りる。学園祭が終わってから朝の空気の冷えを感じるようになった。そろそろベッドの掛け布団を厚めにし、暖房器具を出す必要があるかもしれない。

 部屋から出て洗面所で顔を洗う。そして、母が用意してくれていた朝食を食べ、食後に再び洗面所に行き、歯磨きなどをして着替えの前準備を済ませる。

 駒王学園の学生服に着替え、身嗜みを整えると忘れ物はないか確認してから両親に出発の挨拶をして間薙シンは登校。

 

「行ってきます」

 

 朝の外気を全身で感じながら黙々と駒王学園を目指す。

 登校していると女子の揉めている声が聞こえてきた。視線を向けると小柄で無表情な少女と金髪ロールツインテールで勝気さと育ちの良さを感じさせる少女らが向かい合って言い争いをしながら歩いている。

 三人の顔をシンは知っている。目を惹く容姿で注目されている駒王学園の一年生である。ただ名前までは咄嗟には思い出せない。

 

「で・す・か・ら! いい加減にその呼び方をお止めください!」

「……焼き鳥に焼き鳥と言って何が悪いのか分からない。しかも姫も付けている」

「フェニックスと庶民の食べ物を一緒に纏めないでください!」

「……焼き鳥姫」

「こ、この……洗濯板猫!」

 

 売り言葉に買い言葉。金髪少女が言い返すと無表情であった少女の目が吊り上がる。

 

「……洗濯板じゃないまだ発展途上」

「どうせ百年経っても変わりませんわ!」

 

 バチバチと火花を散らす中、二人の喧嘩を止めようと色素の薄い色白の少女が涙目で何とか会話に入ろうとしていた。

 

「あぅぅぅぅぅ……あ、朝から喧嘩は止めましょう……」

 

 しかし、二人の耳には届かない。

 このままではどんどんヒートアップしていく。

 シンは朝の静けさは嫌いじゃない。喧しくなるのは勘弁して欲しいし、朝っぱらから言い争いを聞きたくも見たくもない。

 

「そこの一年」

 

 声を掛ける。急に話し掛けられた三人は驚いてシンの方を見た。

 

「朝から騒がないでくれ」

 

 必要最低限の注意だけをすると、言い争っていた二人は恥ずかしそうに離れる。

 そこでシンは二人の名前を思い出した。小柄な少女は塔城小猫。小学生ぐらいにしか見えない体型のせいか、そういうのが好みの男子学生と女子学生に人気が高い。金髪ロールのツインテールの少女はレイヴェル・フェニックス。今年留学してきた女子で見た目と振る舞いから男女問わず人気がある。

 

「あ、あの……ありがとうございますぅ……」

 

 蚊の鳴くような声で礼を言ってきた色白の女子の名も思い出した。正確には女子ではなく女子の制服を着た男子であり、名前はギャスパー・ヴラディ。その見た目と女装男子という珍しさもあってこちらも男女問わず人気がある。

 シンは改めて思うが駒王学園は外国人の生徒が多い。シンのクラスにもいる。全員どういう訳か日本語を話せる。変なイントネーションも無い完璧な発音で。話を聞く限り日本生まれ、日本育ちという訳ではないのに不思議なことである。

 

「あ、あぅぅぅ……」

 

 そんなことを考えていたら、返事の無いことに困ったギャスパーがオロオロとし出す。

 

「気にするな」

 

 シンは短く言い、早々に会話を切るとさっさと学園へ向かう。

 立ち去っていくシンの背中を三人は見ており、視界からいなくなるとついでに止めていた息を吐く。

 

「妙に緊張感を覚える人でしたが……お二人は彼を知っていますか?」

 

 駒王学園に来て日が浅いレイヴェルはシンのことをギャスパーと小猫に訊いてみるが、二人は首を横に振る。

 

「……顔を知っている程度。話をしたのは今日が初めて」

「あぅぅ……イッセー先輩と同じクラスメイトなのは知っているけど……」

 

 顔は知っているが名前は知らない。顔見知りと言っていいのか怪しいぐらいである。

 

『……』

 

 シンが居なくなって小猫とレイヴェルはお互いを見たが、そこからまた口喧嘩に発展することなく二人は無言のまま歩き出す。

 第三者に注意され、流石に反省した様子であった。

 二人の喧嘩が再燃する様子はなく安堵の息を吐いたギャスパーは、二人に遅れまいと後を追う。

 既にこの時には三人の中からシンのことは忘れられていた。

 

 

 ◇

 

 

 教室に着き、席に座る。ホームルームが始まるまでの時間を何もせずに過ごす。クラスメイトもそれぞれ自由に時間を潰している。本を読む者、勉強をする者、他のクラスメイトと他愛のない会話をする者。その中でも一際目立つグループがある。

 坊主頭の男子、メガネの男子、前述二人と比べると精悍な顔付きで色々と有名な男子が真剣な顔を突き合わせて喋っている。

 

「……今から話すのは非常にショッキングな話だ」

「ま、まさか……」

「あの話は事実なのか……!?」

 

 坊主頭の男子──松田の次に続く言葉をメガネ男子の元浜、そして最近話題に事欠かない男──兵藤一誠が固唾を呑んで待つ。

 

「隣のクラスの小田原が学園祭で告白して同学年の女子と付き合っている……!」

『ば、馬鹿な!?』

 

 松田から齎された情報に元浜と一誠は愕然とする。

 

「あ、あいつの非モテ度数はトップテン入りするレベルだったぞ! どうして女子と付き合える!」

「ワイルドを通し越して獣のような見た目の男だぞ!」

「あいつ……学園祭前からちょくちょくと身嗜みを整えて獣から原始人ぐらい進化してやがった……! その上学園祭準備では誰よりも働いていたらしい……。点数を稼いで頼れる男子というポジションを手に入れて、そのまま彼女も手に入れやがった……!」

 

 傍から聞くとどうでもいい話なのだが、三人は頭を抱えている。

 

「くそっ! 非童貞リーチがかかっちまった!」

「待て! まだそう決まった段階じゃない!」

「……噂じゃ秒読み段階らしいけどな」

 

 松田からの凶報に再び絶望する一誠と元浜。

 思春期故なのかそれとも男子学生の平均的な値から外れるレベルの性欲の持ち主たちなのか毎度毎度朝っぱらからこういった性に関わる話を隠そうとせずに話している。

 そのせいで一年の頃から悪い意味で有名人であったトリオ。シンもその悪評を耳にしていたが、学年が上がって同じクラスメイトになってしまった。

 三人に関するシンの印象は、噂に違わぬである。互いのキャラクター性が対極にあるせいかシンと一誠たちは無意識に避けており、同じクラスメイトになった今でも会話を全くしていない。

 

「相変わらず朝っぱらから馬鹿話で盛り上がっているわねー」

 

 ニヤニヤと笑いながら三人に近寄るのは髪を三つ編みにしたメガネの女子──桐生である。他の女子から蛇蝎の如く嫌われている三名だが、そんな女子の中でも三人に中庸の立場で接する稀有な女子が桐生である。

 尤も、性的な話題に関しては桐生もいけるタイプなので、それをネタにしてよく三人を揶揄って遊んでいる。

 シンも桐生とは話したことがあるが、互いにそこまで印象に残る会話をした記憶は無かった。

 一誠たちがワイワイ盛り上がっていると他の女子たちと会話をしていた者たちが、一誠たちのグループに合流する。

 金髪の長い髪を揺らす清純な空気を纏った少女。ショートヘアーの凛とした雰囲気の少女。栗毛ツインテールの活発そうな少女。全員が揃って容姿が整っている。

 

「イッセーさん。どうしたんですか? お気分でも悪いんですか?」

 

 心配そうに訊いて金髪の少女はアーシア・アルジェント。普段の言動が聖女のように優しく男子も女子も癒しを求めて彼女との会話をしている。

 

「深刻な話でもしているのか?」

 

 凛とした少女の名はゼノヴィア。色々と常識が抜けている所はあるが、さっぱりとした性格なのでこちらも男女から人気者である。

 

「悩みがあるのなら言ってね?」

 

 栗毛ツインテールの少女は紫藤イリナ。外人の転校生が多いクラスの中での唯一の日本人。ただ帰国子女なので日本の知識がやや欠けている。

 三人が三人共誰もが惹かれる美人であるが、三人共一誠に好意を寄せている。傍から見れば首を傾げる光景だが、一誠と彼女らの間にここ一年の間に惹かれるような何かが起こっていたのかもしれない。

 アーシアたち三人も加わり、会話が更に弾む。初心なアーシアに桐生が変な知識を吹き込み、ゼノヴィアとイリナはそれを興味深そうに聞いている。

 一誠はそれを喜んでいいのか訂正すべきなのか苦悶に満ちた表情をしており、松田と元浜はそんな一誠に嫉妬し血涙でも流しそうな表情をしていた。

 賑やかなグループをぼんやりと眺めていた時、一誠が何かに気付いたような素振りを見せる。

 理由は無いとはいえジロジロと見ていたら相手も気を害すると思い、こちらを向く前に目を閉じて視線が合わないようにする。

 一誠は視線を感じ、その視線を辿ってシンの方を見る。しかし、視線の主と思われたシンは机に頬杖を突いて眠っている。

 他にそれらしき人物を探して見るが、よくよく見るとクラスメイトが時折こちらを見ていることに気付いた。そうなると視線の主はシンとは限らなくなる。

 

「どうかしましたか?」

 

 急に明後日の方向を見始めた一誠にアーシアは何があったのか訊ねる。

 

「いや、別に何も──なぁ」

 

 一誠はちょっとだけ気になったことを皆に訊いてみた。

 

「彼奴って……名前なんだっけ?」

 

 声を抑え、グループ内でしか聞こえないようにする。

 

「あんた、もう半年は経つっていうのにまだクラスメイトの名前も覚えられないわけ? 男子に興味を持てとは言わないけど、もう少し人間に興味を持ったら?」

「分かってるって! 失礼なことを言ってんのは!」

 

 呆れる桐生。一誠も失礼なのは自覚しているのでだからこそ本人に聞こえないようにしていた。

 

「間薙君よ、間薙シン君。あんたら野猿共と違って見た目も中身も綺麗な男子よ」

「誰が野猿だ!?」

「誰の中身と外身が汚いんだ!? ああん!?」

 

 松田と元浜は抗議するが桐生は無視する。

 

「お前が君付けって珍しいな」

「私だって相手に合わせて呼び方の一つも変えるっての。あんたらみたいに上も下も粗末な連中と違って間薙君は頼りになるから」

「誰のナニが粗末だ!?」

「見た事あんのか!?」

 

 流れるように混ぜられた品の無い台詞にまたもや松田と元浜は声を上げるが、桐生どころか一誠も無視して話を進める。

 

「仲良いのか?」

「普通かな。まあ、何度か手伝いをしてもらったこともあるし、学園祭の時も嫌な顔一つせずに手伝ってくれたわ。口数は少ないし、いっつも無表情だけで良い人よ」

「ふーん……」

 

 一誠はもう一度シンを見る。桐生が言っていた通り、綺麗な顔立ちをしていた。一誠の親友にも美形がいるがそれとは異なる顔の良さである。

 

(何で今まで気にも留めなかったんだろう?)

 

 存在感が薄かったと言ってしまえばそれまでだが、それでも不自然なまでに交流が無く、それどころか挨拶した記憶すらない。

 これを機に何かしら会話でもしてみようか、と考えた矢先担任の先生が教室に入ってきた。

 ホームルームが始まるのでそれぞれ自分の席へ戻る。

 担任から朝の挨拶をされた時には先程まであったシンへの関心は一誠の頭の中から綺麗に無くなっていた。

 

 

 ◇

 

 

 一日の授業が終わり、シンは帰宅の準備をする。シンは部活動に入っていないのでそのまま帰る予定であった。

 必要なものを鞄に詰め、無駄のない動きで教室の外に出る。

 廊下を出て暫く歩いていると正面からクールビューティーという言葉が似合う眼鏡をかけ女子が数名の生徒を連れて歩いている姿が見えた。

 先導している人物をシンは知っている。恐らくはこの学園でトップ3に入る有名人である。

 駒王学園生徒会長支取蒼那。三年の上級生であり、近寄りがたい厳しそうな雰囲気を纏う美人である。名前は日本人だが、容姿は日本人離れをしており異国の血が混じっているか、若しくは海外から移住してきたのかもしれない。

 彼女が引き連れているのは生徒会のメンバーであり、殆ど女子だが一人だけ男子が混じっている。

 生徒会役員という肩書きがあまり似合わない粗野な感じがあり、顔は見た事があるが名前を思い出せなかった。

 蒼那が進路上にいるので道を譲る為に右に動く。すると、彼女もシンに道を譲ろうとしていたのか同じ方向へ動いていた。

 結果、二人共足を止めて向き合ってしまう。

 止むを得ず逆方向に動くが、蒼那も息がピッタリなタイミングでまたも同じ方向へ動いたので二人は軽く衝突。一歩下がって再び向き合うことになる。

 

『……』

 

 沈黙。

 二人共無表情でこれをやっているので当人たちよりも周りの方が気不味さを感じてしまう。

 

「俺が──」

「私が──」

 

 道を譲ります、と言うつもりであったが、これもタイミングが悪く声まで被ってしまった。

 

『……』

 

 二人は無表情のまま沈黙。周りは『今、この二人は何を考えているのだろう?』と心配そうに見ている。

 

「おいおいおい。いくら何でも被り過ぎだろ。わざとじゃないよな?」

 

 痺れを切らした男子生徒役員がシンに絡んで来た。

 

「お止めなさい、サジ」

「会長、そうは言っても──」

「お止めなさい」

 

 念を押されてサジと呼ばれた男子は黙ってしまう。ただ不満そうな視線はシンに向けている。

 サジと呼ばれて思い出した。この男子の名前は匙元士郎。シンと同じ二年である。一年の頃はもう少し尖っていたというか余裕の無い感じがあったが、二年になってから大分丸くなっている。

 丸くなった理由が生徒会長なのだとしたら随分と慕っている。

 蒼那の行く道を邪魔するシンを今も睨んでいる匙。シンはそんな彼と視線を合わせる。喧嘩を売っている訳ではない。見詰められているから見詰め返しているだけである。

 視線が衝突し、匙の眉間に皺が寄る。丸くなってはいるが、尖りを失った訳ではない。

 

「うちのサジがごめんなさい。間薙シン君」

 

 蒼那から名前を呼ばれ、シンの目は蒼那の方へ向けられた。生徒会長が自分の名前を覚えているのは意外だった。少なくともシンは蒼那に覚えられるような目立つ生徒ではない。

 

「学園の生徒の名前と顔を覚えるのは生徒会長としての義務ですから」

 

 シンの考えを読んで蒼那は答える。一見近寄り難い蒼那が皆に慕われている理由を垣間見た気がした。

 シンは横に移動し、蒼那の為に道を開ける。

 

「邪魔をしました」

「こちらこそすみません」

 

 蒼那は微笑をシンに見せると匙を含む生徒会メンバーを連れて歩き出す。蒼那とのやりとりで興味を持ったのか去り際に生徒会メンバーの女子たちからジロジロと見られた──匙は最後までシンを威嚇するような眼付きであったが。

 

「サジ。貴方も学園を愛する生徒会のメンバーなら平和を乱すような行動は慎みなさい」

 

 足を止め、シンにガンを飛ばしていたことを注意する。

 

「す、すみませんでした」

 

 匙は素直に謝る。蒼那を敬愛しているので彼女には絶対に頭が上がらない。尤も、シンに嚙みついたのもその敬愛心が原因の一つである。

 

(ですが、会長! 彼奴、あろうことか会長と接触して、その上会長の胸が彼奴に触れて、触れて……あああああああああっ!)

 

 もう一つの原因は単純に嫉妬である。偶然とはいえ蒼那と接触。しかも、匙が憧憬して止まない二つの頂が押し当てられるという奇跡を体験している。

 いずれは蒼那と──と密かに思っている匙からすれば冷静ではいられない。

 

「気を引き締めて下さい。他の皆もです。学園祭という大きな行事が終わりましたが、そのせいで他の生徒も気が緩んでいます。学園の風紀が乱れないように我々がちゃんと目を光らせておく必要があります」

 

 蒼那の言葉に生徒会メンバーは程良い緊張感を得る。全員の表情が引き締まったのを確認してから蒼那は再び歩き出した。

 

 

 ◇

 

 

 昇降口付近まで来ると男子のグループ、女子のグループがひそひそと小声で話している姿が目に入った。他にも棒立ちになっている学生もちらほら見える。全員の視線はある一点に向けられている。直視するのも憚れるのか数秒に一回は視線を外し、数秒間を置いた後にまた同じ場所へ視線を向ける。

 数が多いので視線の先は簡単に辿れた。

 二人の女子学生が廊下で会話をしている。その様子にほぼ全ての学生は釘付けになっている。

 片や紅色の光沢のある長髪を揺らし、雪のように白い肌を持つ女子学生。完成、という言葉が似合う美貌とプロポーションをしており、畏怖すら覚える美しさがある。

 もう片方は艶やかな黒髪を一房に束ねたポニーテールにしており、絹のような滑らかな肌は薄っすら朱が入っている。大和撫子という言葉を極限まで美化させたような女子であった。

 紅い髪の女子は三年のリアス・グレモリー。この学園の誰もが知っている人気者の頂点。全校生徒は駒王学園の学園長の名を知らなくともリアスの名前ならば全員言えると言っても過言ではない。

 そして、その彼女と話しているのは同じく三年の姫島朱乃。リアスに次ぐ有名人であり、リアス、朱乃、蒼那の三人がこの学園の人気者トップ3を独占している。

 ナンバー1とナンバー2が楽しく談笑をしているとあれば、それだけでこの学園の生徒の視線を奪ってしまう。

 聞いたところによればリアスはオカルト研究部という部活の部長であり、朱乃は副部長のポジションとのこと。二人が話しているとなるとそれに関わることかもしれない。

 オカルト研究部という言葉で思い出したことがある。シンのクラスの一誠、アーシア、ゼノヴィアとイリナもオカルト研究部に所属していた筈。そこから連鎖するように朝に会ったギャスパー、小猫、レイヴェルもオカルト研究部に入っているという話を耳にしたことがある。

 全員有名人なのでそういった話が学園のあちこちでされているので自然と耳に入ってくる。そう考えるとオカルト研究部という名に反して随分と明るいメンバーが集まっている。

 

「お前らー。廊下でたむろってるんじゃないぞー。部活がある奴はさっさと行け」

 

 覇気は無いが渋さのある声が廊下に響く。見た目からして日本人ではない二十代の黒髪の男性。しかし、纏う貫禄は二十代のそれではない。

 最近学園にやって来た先生で名前はアザゼル。アザゼルの一声にリアスと朱乃を観賞していた生徒たちは蜘蛛の子を散らすようにその場から動き出す。

 アザゼルはそのままリアスたちに何か喋っていた。アザゼルはオカルト研究部の顧問と聞いているので部活動関連の話と思われる。

 アザゼルはあまり先生らしくない不真面目な態度が目立つが、教師としては非常に優秀だと評判であった。分からないことをアザゼルに訊けば分野問わずに分かり易く説明してくれるとのこと。

 アザゼルの他にもロスヴァイセという女性の教師も居る。長い長髪の北欧出身の美人である。全校集会で紹介されて以降シンは見ていないが。

 シンは横目で一瞬だけリアスたちを見ながらその横を通り過ぎる。意識している訳ではないが、目立たない一学生だと自覚しているシンにとって学園トップクラスの人気者たちは無縁な存在であった。

 そのまま昇降口まで行き、校舎の外に出る。校舎外では部活動へ行く生徒、帰宅する生徒、友達と話す生徒などそれぞれの時間を過ごしている。

 その時、黄色い声が聞こえて来た。声の方へ目を向けると女子の人だかり。その中心にはとある男子学生がいる。

 爽やかな容姿をした王子という言葉が良く似合う美形の男子。駒王学園の男子生徒の中で間違いなく最も人気があると思われる男子生徒の名は木場祐斗。

 偶に見る度に女子生徒に囲まれており、キャーキャーとアイドル同然の存在として扱われている。

 そんな女子たち相手に嫌な顔一つせずに丁寧に対応する木場。見た目だけでなく中身も出来ており、それもまた女子の人気のある理由である。

 木場はどうかしらないがシンは木場の事を知っている。一年生の頃に同じクラスメイトだったからだ。ただし、まともに会話したことはない。せいぜい朝か帰りに一言挨拶をしたぐらいである。

 お互いに嫌っていた訳ではない。仲が深まるような縁や切っ掛けが無かった。それだけのこと。

 木場が女子たちに一言、二言告げると女子たちは名残惜しそうに離れて行く。部活に遅れてしまうとでも言ったのだろう。

 女子たちが居なくなるまで手を振って見送る木場。最後まで紳士な対応をすると、歩き出す。

 向かおうとしているのは校舎の裏手。校舎裏には今は使われていない旧校舎がある。普段は学生の立ち入りは禁止にされているが、一部例外として入れる者たちも居る。

 旧校舎に部室を持つオカルト研究部である。木場もまたオカルト研究部の部員なのだ。

 わざわざ旧校舎に部室を持つのも変な話ではあるが、七不思議の噂も立つのでオカルト研究部として雰囲気作りとしても合っているのかもしれない。シンは旧校舎に見たことがないのでどれだけ老朽化しているのか知らないが。

 木場が旧校舎に向かう途中に集団と合流する。

 同じく部室へ行こうとしていた一誠たちであった。

 リアスや朱乃も既に合流しており、木場が入ることでオカルト研究部の面々が勢揃いする。

 学園の有名人たちにより構成されたグループ。目を惹くと同時に声も掛けづらく近寄りがたい雰囲気もある。オーラがあるというのはこのようなことを言うのかもしれない。

 一誠たちは何かしら談笑しながら部室の方へ向かっていく。グループの中心はリアスでも朱乃でもなく一誠になっており、彼の周りには女子たちが集まっている。

 昔は評判が悪かったが、最近になって色々と良くなって来たと他の女子たちからの評価も上がっている。もしかしたら、リアスたちの影響なのかもしれない。

 ぼんやりとそんなことを考えていると一誠と目が合った。

 一誠はシンの方を不思議そうに見ている。

 

(別れの挨拶ぐらいするべきか?)

 

 そう考えた時、一誠にリアスが話し掛け視線が外れた。

 挨拶をするタイミングを逃したシンは上げかけた手を下げ、一誠たちに背を向ける。

 一誠がもう一度シンの方を見た時、彼の背は遠くへ離れていた。

 

 

 ◇

 

 

 校門前まで来るとシンが知る二人が居た。シンに気付き、二人は軽く手を振る。

 流行りの髪型にセットし、オシャレを気にして学生服のベルトや変えたり、アクセサリーを密かに身に着けているお調子者の雰囲気がある少年。

 頭の天辺から爪先まで隙の無い凛とした佇まいでありながら、何者にも屈しなさそうな強気な印象を与える長髪の少女。

 クラスは違うが数少ないシンの友人たち。

 シンは彼らに許へ向かう。

 集まり、話し、放課後の予定を決め、学園から去る。

 そうやってシンの一日は過ぎていく。

 平穏な時間がそこにはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 意思に従い、平穏な道を歩む……それが君の選択だ

 

 君の前にもう敵は現れることはない……その代わりに真の友が現れるだろう

 

 交差していた道はもう交わることは無い……永遠に

 

 力を失った君には彼らと共に歩むことは出来ないのだから……

 

 魔人(かれ)が死んで、(きみ)が生まれた

 




人修羅が力と今までの記憶や縁を代償にして完全にハイスクールⅮ×Ⅾ世界の住人となり、並行世界で平穏に暮していくという結末です。
当人は幸せそうですが、プレイヤー側するとモヤモヤする感じのエンディングですね。
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