ハイスクールD³   作:K/K

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英雄、怪物

 ジークフリートの前に立ち塞がった木場。視線をジークフリートに向けたままアジュカに話し掛ける。

 

「アジュカ・ベルゼブブ様。申し訳ありませんが、彼の相手は僕に任せて貰えますか?」

「祐斗……」

 

 ジークフリートと対峙する木場を心配すると同時にジークフリートとの戦いにやる気を見せていたアジュカに割って入り戦いを譲るよう頼む。不敬と捉えられてもおかしくない行為であり、そちらの方にも肝を冷やす。

 しかし、リアスの心配とは裏腹にアジュカはあっさりと椅子に座ってしまった。

 

「見たところ君と彼は面識があるようだ。それだけでなく因縁もあるらしい。構わない、存分に戦うがいいさ。このビルと屋上庭園は特別に手をかけていてね。堅牢さは保障するよ。万が一、ビルが崩壊するような戦いになったとしても俺がどうにかしよう。だから遠慮はいらない」

 

 場所の提供だけでなく周りの被害まで抑えることを約束してくれたアジュカ。

 

「──感謝します」

 

 本当ならアジュカの方を向いて頭を下げるのが礼儀なのだが、木場は感謝の言葉だけで済ませる。ジークフリートを相手に一瞬たりとも視線を外す訳にはいかない。

 

「ジークフリート……!」

「おやおや。随分な憎悪だ。何か嫌われることでもしたかな?」

 

 木場の激情を浴びせられてもジークフリートは顔色一つ変えない。それどころか心当たりがないと言わんばかりに首を傾げる。

 

「君たちの企みのせいでイッセー君は次元の狭間に消えた。それがどれだけ多くの悲しみを生んだか……! それだけじゃない、間薙君も君たちのせいで命を……!」

「……えっ?」

 

 木場の憎悪の理由をジークフリートにぶつけた時、彼はポカンとした表情になる。

 

「赤龍帝は死んだんじゃなくて行方不明なのか? まさか、死んだのが人修羅の彼の方だったとは……」

 

 初耳だという表情。演技には見えない。ジークフリートの態度に木場だけでなくリアスたちも訝しむ。

 

「そうか……」

 

 ジークフリートは自分の左腕を見る。先の戦いでジークフリートはサイラオーグと戦い、途中でシンが参戦して来たのでやむを得ず撤退した。今は接合されているが、その時の戦いでシンに左腕を捻じ切られていた。片腕を取られたのは屈辱だが、喧しい寄生虫の声を止めさせたことは素直に感謝している。

 ジークフリートは撤退後にマザーハーロットの企みを直接本人から聞かされた。シャルバが敗北することを最初から想定しており、殺害もしくは自害の際に発生したシャルバの怨念を使い、一誠を外部から強制的に覇龍化させ、同士討ちをさせた挙句に自滅させるというジークフリートからしてもえげつないと思える策であった。

 オーフィスによって暴走した一誠は異空間へ隔離され、それによりマザーハーロットの目が届かなくなってしまった。最後はどうなったのかジークフリートはここに来るまで知らなかった。

 一誠不在のリアスたちを見てマザーハーロットの企みは半分失敗し、一誠だけが自滅したものだと思っていたが、今の木場の言葉で想像の真逆の結果を知ってしまう。

 

「そんなことになっていたとは知らなかった──正直、残念だよ」

 

 ジークフリートの言葉に一瞬カッとなった木場だが、すぐに冷水を浴びられた気分になる。ジークフリートは一誠やシンのことについて知っている様子はなかった。もしかしたら、先程の不用意な言葉で敵側に余計な情報を与えてしまったかもしれない。

 

「彼には左腕と魔剣の件で借りがあったが……仕方がない。代わりに君に返すとしよう。ついでに盗られたノートゥングとダインスレイブも返してもらおうかな」

「悪いがこっちもイッセー君と間薙君のことで対価を払って貰う必要がある。対価は……君の命だ」

「ならこっちもノートゥングとダインスレイブの代償を命で払ってもらうとしよう──少し安いかな?」

 

 互いに殺すと宣言する。能面のような無表情の木場に対しジークフリートは余裕を持った笑みを浮かべる。

 

「前よりも殺気と重圧が増している。いい感じじゃないか、『騎士』君。クールで澄ましているよりもそっちの方が悪魔らしい」

 

 ジークフリートは鞘から音も無くグラムを抜く。魔帝剣を抜いただけで今まで木場が支配していた筈の空気が簡単に塗り替えられてしまう。

 

「出し惜しみは無しだ」

 

 ジークフリートの背中から龍の腕が四本出現する。『龍の手』の禁手である『阿修羅と魔龍の宴』。ここから残りの腕に魔剣を抜かせるかと思いきや──

 

「前の戦いで経験してね」

 

 背中から生えた四本の腕が弧を描くように動きながらジークフリート本来の両腕に添えられていく。

 

「圧倒的な力というのはやっぱり心惹かれる」

 

 四本の腕が同化し、ジークフリートの両腕を銀の鱗が生えた籠手に変えてしまう。サイラオーグとの戦いで得た経験を生かし、新生するジークフリートの禁手。

 ジークフリートがサイラオーグと戦ったことは、サイラオーグ本人から聞いている。強者というのは敵味方区別なく影響を与える存在らしい。

 

「禁手が……!?」

 

『阿修羅と魔龍の宴』の形が変わったことに木場は驚いた。文字通り手数が減ったが、その分力を両腕に集中させている。しかも、ジークフリートの禁手に呼応してグラムのオーラも増す。木場の額から噴き出す冷や汗がジークフリートの強大さを表していた。

 

「……前みたいに六本がかりじゃないのかい?」

「ああ。悪魔一人斬るのに剣六本は豪華過ぎる」

「──舐めているのかい?」

「そう思うなら、多分君は一撃で死ぬよ?」

 

 ジークフリートはせせら笑いながら帯剣しているもう一本の魔剣を抜く。魔剣バルムンクが鞘から放たれると渦巻く空気が木場の頬を撫でる。

 

「ノートゥングやダインスレイブを構えてもいいんだよ?」

「元の持ち主の前であの魔剣たちを使うなんて怖くて出来ないさ」

「宝の持ち腐れだ」

 

 言葉を交わしている間に木場の肌から出た冷や汗の玉が周りと融け合い一つになり顎の先から滴り落ちる。その汗が地面に着くよりも速くジークフリートが動く。

 前傾姿勢になったかと思えば、そこから急加速。踏み込んだ地面が一瞬遅れて爆発するように踏み砕かれる。

 

(速──)

 

 思考よりも先にグラムの刃が木場の首を薙ごうとするが、木場の肉体が反射的に動いて聖魔剣でグラムを受ける。

 

(重っ──)

 

 防ぎ切れないと即座に判断し、木場は踏み止まるのを止める。ジークフリートがグラムを振り抜くと木場の体が弾丸のように弾き飛ばされた。

 木場の体は一直線に飛んで行き、そのまま屋上庭園の外へ落ちる──かと思いきや、屋上庭園周囲に展開されている不可視の結界により落下は免れた。ただし、跳ね返る程の勢いで木場は結界に叩き付けられ、全身を強く打つ。

 

「──っ!」

 

 背中や腰までなら何とか耐えられるが、後頭部も強く打ったせいで強い光を浴びせられたように目がチカチカする。しかし、それよりも意識を向けるのは首の微かな痛み。木場の首筋に赤い線が浮かんでいる。グラムの一撃を完全に逸らすことが出来なかった。あのまま耐えていたら聖魔剣ごと首を切断されていた。

 視界が不十分な状態の中で木場は全身の痛みに耐えながら即座に体勢を立て直すと、すぐに殺気を感じ取る。

 咄嗟に木場はしゃがみ込む。木場の頭上を回転するオーラが通過し、結界と衝突して凄まじい音を立てる。

 

「ほお」

 

 バルムンクのオーラにアジュカは関心を示す。強固と言ったがバルムンクの回転するオーラは結界をドリルのように削り、放っておけば貫通する事態になっていた。

 

「想像以上だ」

 

 想像を上回れたことを愉しみながらアジュカは指を鳴らし、結界を補強する。

 バルムンクの攻撃を紙一重で躱した木場は、兎に角動かなければと思いその場から移動する。

 高速で動く木場に影が差す。すぐ傍までジークフリートが迫っていた。

 

「くっ!」

「こんなに鈍かったかな? 騎士君?」

 

 遅いと嘲笑しながら閃光のような速度でグラムを一閃する。先程の経験で一本では受け切れないと分からされた木場は、もう一本聖魔剣を創造して二本で防ぐ。

 

(速く、そして重い……!)

 

 木場の腕の筋肉は限界まで力が込められて震えているのに対し、ジークフリートは軽く乗せているだけにしか見えない。それなのに木場は、ジークフリートのグラムを押し返すことが出来なかった。

『龍の手』四本分の力を両腕で本体に還元することで力と速さが前回戦った時以上に増している。このままでは押し返すことも出来ずに両断される──過去の木場であったなら。

 

「これでお終いかい?」

 

 ジークフリートがグラムを押し付けると木場の膝が折れる。木場を片腕で封じ込めながらもう一方の手に握るバルムンクを構えるが──

 

「むっ!」

 

 ──ジークフリートは背後から気配を感じ取り、横へ飛ぶ。直後、銀閃がジークフリートの首があった位置を通過した。

 木場と向かい合うようにドラゴンを模した兜を被った甲冑騎士が、聖剣を振り抜いている。

 

「へぇ……京都で見せてくれた『聖輝の騎士団』の完成形かな?」

 

 ジークフリートの前で地面から無数の聖剣が生え、生えた聖剣の前に龍の騎士たちも創造されていき、瞬く間に騎士は騎士団と成る。

 

「いいねぇ。呆気なく終わるかと思ったら、ちゃんと隠し玉を用意しているじゃないか。良ければその禁手の名前を教えてくれないか?」

「……『聖覇の龍騎士団(グローリィ・ドラグ・トルーパー)』」

「ははははは! 僕と同じ禁手化の亜種か! それにしても赤龍帝に影響を受け過ぎていないかい?」

 

 前の時には無かったドラゴンの意匠。一誠の影響の受けているのが丸わかりであり、ジークフリートはそれを揶揄うが木場は表情一つ変えない。

 

「それはそうさ。親友だからね」

 

 迷うことなく一誠との友情を認める。

 

「言い切るね」

「恥じることなんて何も無いからさ。尊敬し、信頼出来る仲間を親友以外に何て言うんだい? もし、それを馬鹿にするとしたら……その人は友達が居ないんだろうね」

「ははっ! 刺さる奴には刺さる台詞だ!」

 

 ジークフリートは特に気にする様子もなくグラムを構える。制限を解除されたグラムはオーラを迸らせる。空気とオーラが擦れ合う音はグラムの歓喜の叫びのように聞こえる。

 

「一撃で全滅なんて呆気ないことはしないでくれよ!」

 

 魔のオーラを全開にしたグラムを振るうとオーラの奔流が大口を開けて木場たちに迫ってきた。

 単純な出力ならエクス・デュランダル並。聖なる気が無くとも悪魔ぐらい容易に消滅出来る威力。それに加えてグラムには龍殺しの特性を持つ。エクス・デュランダルとアスカロンを足したような性能が魔帝剣グラムなのだ。

 この場合、危険視するべきなのは龍殺し能力。禁手『聖覇の龍騎士団』は一誠の影響を受けて発現したもの。ドラゴンの因子を持っている訳ではないが、ドラゴンと関わりを持っている。グラムの龍殺しはドラゴンに関して何処まで効果を発揮するのか木場には未知数であった。

 しかし、未知数であってもこの攻撃を防がなくてはならない。木場は龍騎士の一体をグラムのオーラの前に立たせた。

 

「たった一体で!」

 

 頼りない壁を嘲笑するジークフリート。

 龍騎士は左右の手に持つ聖剣を交差させ、グラムのオーラを受ける。

 その光景にジークフリートは眉を顰める。予想では薄紙のように龍騎士を突き破る筈であったが、龍騎士の二本の聖剣はグラムのオーラに耐えている。

 

「龍殺しと聖剣の中和か!」

 

 ジークフリートはすぐに理解した。龍騎士が持っている聖剣はアスカロンとデュランダルを模倣した聖剣だと。本物には劣ると思われるが特性もちゃんとコピーしており、グラムの負の龍殺しと魔のオーラに対し正の龍殺しと聖なるオーラを衝突させるのではなく混ぜ合わせることで大幅に威力を削いだのだ。

 グラムの本気の一振りをこのような形で受け止めている木場に感心するジークフリート。恐らく京都での戦い以降様々な事態を想定して数え切れない程のイメージトレーニングをしてきたと思われる。

 対グラム用の龍騎士が拮抗している間に、その背後から龍の影が無数飛び出す。短いながらも稼いでくれた時間を生かす為にジークフリートにあらゆる角度から斬り掛かる。

 

「ふっ」

 

 自分を倒そうという執念にジークフリートは自然と口角が上がる。骨の髄まで、魂の奥底まで戦士として育てられた故にどうしても戦いに高揚を覚えてしまう。

 ジークフリートの眼球が瞬時に斬り掛かってくる龍騎士団を捕捉する。二つの眼球では追い切れない数だが、皮膚に伝わってくる空気の動きで残りの龍騎士の位置を確認した。

 迎撃の初撃はグラム。溜め無しで先程と変わらないオーラを三日月状に放ち、頭上から迫って来ていた龍騎士を複数巻き込む。この龍騎士たちもまた対グラム用の聖剣を装備していたが、空中での迎撃であった為に踏ん張ることが出来ずまとめて吹き飛ばされていく。

 ジークフリートはそのまま見向きもせずにバルムンクを突き出し、側面から来ていた龍騎士の胴体を貫く。バルムンクの螺旋状のオーラにより龍騎士の胴体は抉られ、大穴が空いた。

 貫かれた状態でオーラが回転すると、その捻じれに巻き込まれて龍騎士の上半身は原型を留めない程に絞られて消失する。

 龍騎士の一体を容易く屠ったジークフリートは突き出したバルムンクを動かし、振り下ろされた別の龍騎士の斬撃を止める。受け止めた状態で今度はバルムンクのオーラを龍騎士が持つ聖剣に流し込む。すると、オーラは聖剣を伝って龍騎士の両腕に浸透。回転するオーラが内部で発生し、龍騎士の両腕は一瞬で何百回転させられた後に捻じ切れてしまった。

 それでも残りの龍騎士たちはジークフリートをあらゆる角度から同時に聖剣を振るう。それこそ腕二本では到底足りないぐらいの速度と数で。

 

「くっ」

 

 ジークフリートが失笑すると両腕が銀光を発し、一体化していた四本の腕が分離。刹那で抜いたディルヴィングに加え量産型のエクスカリバー『折れる聖剣』を三本握り、六刀流で周りの龍騎士たちを一掃してしまう。

 

「こっちの手数が減った途端に今度はそっちが数で押すのは少し考えが足りないんじゃないかな? こっちはいつだって戻せるんだよ?」

 

 龍騎士たちの後方に立っている木場を笑いながらジークフリートは見せつけるように六刀流をグラムとディルヴィングの二刀流へ戻す。手数で隙の無い六刀流と力と速度の二刀流を切り替えて戦う。そこに魔剣の切り替えも合わさって前以上に変幻自在の戦い方をするようになった。

 

「騎士団一つ増えた所でどうとでもなるさ。何ならもっと戦力を増やしてもいい」

 

 ジークフリートは横目でリアスたちを見る。彼女たちに助力を求めるように促す。

 

「自分に都合が良いからそんな提案をするんだろう? 君のことだから多対一でも何通りも倒す方法があるだろうし」

 

 木場はそんな挑発には乗らない。ジークフリートは元教会の戦士にして近接戦のスペシャリスト。木場の見立てではゼノヴィアと小猫以外近接戦でジークフリートと渡り合うのは厳しい。彼の中では既にリアスたちを屠る算段が立てられているように見えた。

 

「かもしれないね」

 

 ジークフリートは含みを持たせたことを言う。

 木場もまた横目でリアスたちを見る。その視線に『手を出さないでください』というメッセージを込めて。

 最悪の場合、木場が犠牲になったとしてもアジュカがいればリアスたちをどうにかしてくれる。アジュカが傍観者に徹しているのは、ジークフリートという存在に興味を抱いているのも理由の一つだが、木場がジークフリートと戦いたいという意思を汲んでくれているからでもあった。

 

「本当に助けを求めなくていいのかい?」

「くどいよ」

「そうかい。なら勝ち目は薄まった」

 

 犠牲者が出るがリアスたちを参戦させれば木場にも勝機はあったかもしれない。だが、それを断った時点で木場の勝機はゼロに近付いた。

 二刀流形態からジークフリートが踏み込む。空間転移と見間違う速度で木場へ接近し、ディルヴィングを払う。

 ディルヴィングの特性は破壊力。軽く振り下ろしただけでも地面にクレーターが出来上がる。まともに受けたら木場の上半身が千切れ飛ぶ。

 木場は足元から龍騎士を召喚。出現する際の反動を利用し、木場は上空へと逃げて龍騎士と入れ替わる。龍騎士は聖剣でディルヴィングを受けるが、木場の目にはディルヴィングに触れた瞬間に聖剣が粉砕され、続いて龍騎士の甲冑が粉微塵になる光景をスローモーションで捉えていた。回避行動を選択したことが正解であったのが分かる。

 しかし、先程は正解であったとしても正解が続くとは限らない。跳んだ木場を打ち落とす為にジークフリートはグラムを振ろうとしている。

 木場は魔剣を創造。空中でその魔剣の柄を蹴り、ジークフリート目掛け飛ばす。

 苦し紛れの反撃と思い、一笑しながらジークフリートはグラムで飛んで来た魔剣を斬る。グラムが魔剣の剣身と接触すると魔剣が爆発を起こした。

 

(爆発の魔剣か!?)

 

 間近で爆発を浴びるジークフリート。だが、彼は無傷であった。纏っている人工神器の防御力と再生能力のおかげである。ただ着ていた戦闘衣は爆発に耐え切れず吹き飛ばされてしまい、ジークフリートの鍛え抜かれた上半身が晒された。

 前方が爆炎と煙によって覆い隠される。これにより視界が封じられた。しかも爆発の音を近距離で聞いてしまったせいで鼓膜も麻痺しており音で探すことも出来ない。

 

(何処から来る? 左右か? それとも意表を突いて正面か?)

 

 間髪入れずに攻めて来るのは分かっている。ジークフリートは何処から攻めて来ても木場以上の速さで対応しようとする。

 肌が粟立つ感覚を捉え、ジークフリートは右にグラムを振るう。しかし、そこに居たのは龍騎士。まんまと囮に釣られてしまう。

 右に意識を取られたということは、隙を晒している左から来ると推測してすかさずディルヴィングを突き出す。ジークフリートの読みは当たり、左から攻めてきた相手を突き刺す。だが、それもまた龍騎士であった。

 直後、ジークフリートは再び右側から悪寒を感じ取る。首を動かし右を見ると、崩れいく龍騎士──とその背後から斬り掛かる木場の姿。

 龍騎士のすぐ背後に隠れていた木場。一歩間違えば龍騎士ごと両断されていたかもしれなかったが、ジークフリートの反応の速さに賭けていた。間違った対象を斬ったと判断すればジークフリートは少しでも体勢を早く立て直す為に浅く斬るであろうと。

 賭けに勝った木場は起死回生の一撃──ゼノヴィアから預かっているエクス・デュランダルによる斬撃を放つ。

 木場がエクス・デュランダルを持っていることに驚きつつ、魔剣による防御は間に合わないと冷静に判断し、エクス・デュランダルの斬撃に対して身を捩りながら回避を試みた。

 木場の斬撃とジークフリートの回避。どちらが速いか。

 木場は歯を食い縛りながらエクス・デュランダルを両手で振り抜く。エクス・デュランダルを片手で扱うには木場には大き過ぎた。両手で振るうということは防御を捨てた捨て身の攻撃である。

 木場の覚悟に呼応したのかエクス・デュランダルは木場に力を貸してくれる。それにより木場はエクス・デュランダルの聖なるオーラの流れを掌握する。

 剣身に纏うオーラを剣の背から噴射。それにより斬撃が加速。ジークフリートの回避よりも速く剣先がジークフリートの体を薙いだ。

 ジークフリートが呻く。圧縮された聖なるオーラを宿した刃がジークフリートの体を通り抜けていく。刃が触れる瞬間にジークフリートの人工神器が反応し、鱗状に硬化したがそれでもエクス・デュランダルの斬撃は通った。

 木場は振り抜いたエクス・デュランダルに振り回され、ジークフリートは避ける際の動きのせいで互いに独楽のように回り、ジークフリートの方が離れていく。

 出来る事ならもう一撃入れたかった木場。扱い慣れていないエクス・デュランダルを振るった反動でバランスを崩し掛け、それも叶わなかった。

 ジークフリートは脇腹を斬られていた。人工神器で傷口は既に塞がっているが、ジークフリートはまだ冷や汗を流している。聖なるオーラは細胞に浸透しており、そのダメージまで再生出来ず、ジークフリートの体を内側から焼く。

 

「まさか、エクス・デュランダルを持ち出すとはね……良い一撃だった」

人工神器(それ)に助けられたね。それが無かったら今頃上半身が下半身にぶら下がっていた。フリード()に感謝するんだね」

 

 木場のその挑発に今まで余裕が感じられたジークフリートが顔を顰める。

 

「それは絶対に御免だね。それにもう彼は残っていないさ。大王の拳でへばりついていた魂を砕かれてしまったようだ」

 

 ざまあみろ、と言わんばかりの表情。ジークフリートにとってフリードが如何に嫌悪の対象なのか伝わって来る。

 あらゆる攻撃に対して高い防御力を誇るフリード産の人工神器。最大の欠点であり問題点であったフリードの残留思念が消え、いよいよジークフリートの纏う神器はまともなものとなる。

 

「仮にも君の命を救ってきた存在だろうに……酷い言い草だね」

「頭の中でうんざりする程喚かれれば未練も残らないさ。同じ立場だったとして君はアレに感謝の言葉を送れるかい?」

「…………ごめん」

「敵でもまだ君の方がフリードよりも仲良くなれそうだ」

 

 互いに軽口を言い合う。仲を深めているようで実のところ体を少しでも休めているに過ぎない。会話になっているのは呼吸を整えたい、ダメージを回復させたいという思惑が一致したからに過ぎなかった。

 

「──さて、君がエクス・デュランダルなんてとっておきを出したんだから、僕の方もとっておきを出そうかな」

 

 新しい武器を見せると宣言するジークフリート。再開が近いことを告げる。

 

「新しい魔剣でも手に入れたのかい? それとも新しいエクスカリバーを創ってもらったのかな?」

「どちらも外れだ。きっと君も驚く」

 

 ジークフリートはそう言い、ディルヴィングを鞘に仕舞う。左手前に転移魔法陣を展開。『折れる聖剣』のように別空間に格納していた。

 魔法陣から引き抜かれたソレを見た時、木場は我を忘れそうになる。

 

「き、み、は……!」

「折角譲って貰ったものだ、ちゃんと使わないとね」

 

 現れたソレは間違いなく聖魔剣。木場の『魔剣創造』が禁手化したことにより生み出される剣。

 過去にジークフリートからノートゥングとダインスレイブを奪った際、代わりに聖魔剣を一本持ち帰られた。ジークフリートが握っているのはその持ち帰られた一本。

 木場は意識を集中させ、ジークフリートが持っている聖魔剣を自壊させようとする。しかし、通常なら感じられる筈の聖魔剣との繋がりが感じられない。

 

「何かしようとしているのなら無駄だよ。この聖魔剣は君との繋がりを既に断ってある。もう独立した存在だ」

 

 作り手である木場の前にわざわざ出したのだからちゃんと対策は済んでいる。

 

「解析したのはいいが出来たのはそれだけだ。出来る事なら量産したかったが、流石は禁手だ。聖と魔が奇跡のバランスで成り立っている。君以外にはこれを創造することは出来ないだろう──バルパーも匙を投げていた」

 

 挑発だと分かっていてもバルパーの名を出されると心が騒めく。木場と奪った聖魔剣との繋がりを断ったのは恐らくバルパーの仕業。自分の聖魔剣がバルパーに調べられたと思うと過去の記憶が蘇り、吐き気を覚える。

 

「実際に手にして分かったことだが、この剣は扱い易い。それに前から思っていたがデザインも好みだ。良いセンスをしている」

「……そうかい。それは良かった。大事に扱ってくれ──もう二度と手に入らないからね」

 

 ジークフリートの聖魔剣を破壊することを決意し、木場はエクス・デュランダルを片手に持ち替えた後、空いた手に聖魔剣を創造する。

 共に聖魔剣を持った二刀流。聖魔剣と共に握るのは片や聖剣、片や魔剣。構え方も似ており、鏡合わせのようであった。

 少し前まで弛緩していた空気が一気に張り詰める。両者が発する殺気に戦い慣れていない者は息を忘れてしまうぐらいに呑まれる。リアスは木場を瞬きもせずに見続ける。本当なら手を貸したいが、木場の思いを汲んで見ていることしか出来ない。そもそもついさっきまで自室に引き籠る程精神的に落ち込んでいた自分が木場の役に立てるとは思えず、せめて足を引っ張らないように見守るしかない。主という立場でありながらそれしか出来ない自分が恨めしかった。

 ゼノヴィアもまた木場とジークフリートの戦いを見続けていた。ジークフリートは教会の中でも最強の戦士。その名と実力はゼノヴィアも良く知る。しかし、実際に戦ってみて人伝の話は当てにならないことを知る。ジークフリートの力は話で聞くよりも遥かに上であった。

 ゼノヴィアは今の木場の立場になったとしてジークフリートと戦っても勝利のビジョンは見えない。せめてエクス・デュランダルが十全に扱えるように思念を送る。少なくともこの戦いの中では木場はエクス・デュランダルの性能をゼノヴィアと同等に引き出せる。

 アジュカは称賛を送りたい気分であった。その称賛を向けるのは木場ではなくジークフリート。

 単純な身体能力なら『悪魔の駒』を得て転生した木場の方が上の筈。しかし、ジークフリートは人間の身でありながら木場を力でも速さでも圧倒している。『騎士』相手にである。

 ジークフリートの神器は『龍の手』。能力を倍にするという数ある神器の中でも言い方は悪いがハズレの部類の神器。だが、ジークフリートは『龍の手』を自らの素質と実力により禁手化、しかも前例の無い亜種の禁手である。それに加えてグラムを始めとした強力な魔剣を所持。魔剣自体扱いが難しく、持ち主にさえ牙を剥く魔性を秘めているがジークフリートはそれを巧みに操る。

 そして注目すべきはジークフリートが纏っている人工神器。アジュカが解析した所、素材となっているのは多種多様な魔獣と人間。それが奇跡的な配分によって完全に結合している。

 

(よくぞここまで業の深いものを生み出したものだ。天使や悪魔ですら作り出すことは出来ないだろう)

 

 悍ましく、禁忌的且つ冒涜的で、最悪にして醜悪。しかし、目を離せない。モラルや道徳を完全に捨て去ったことで誕生した唯一無二のソレはアザゼルでも作ることが出来ないだろう。

 

「──素晴らしい」

 

 魔王という立場故に誰かに聞かれては不味い感想なのでアジュカは誰の耳にも届かない声量で零す。

 善悪を抜きにしてそこには可能性の塊があった。

 神が創り出した神器を肥大化させ、それだけで飽き足らず模倣し、己の為に使う。悪魔の目線からして、それは怪物、化物と呼ぶ存在である。

 そんな人間を相手に悪魔である木場はどんな可能性を見せるのか。片時も目が離せない。

 二人の剣士が睨み合う。互いの剣気が衝突し、それによって生み出される緊張感は今度は静寂を作り出す。

 ジークフリートと対峙してから木場は寒気が止まらない。認めたくはないが剣士としての本能がジークフリートを格上だと認めてしまっている。しかし、それが分かっていても木場の選択に最初から逃亡は無かった。

 

(──来るっ!)

 

 悪寒が最高潮に達した時、ジークフリートは聖魔剣をその場で振り抜いていた。

 木場の目の前に壁が出現する。それはオーラによるものであり渦を巻いている。

 

(魔剣の相乗攻撃!?)

 

 バルムンクもディルヴィングも帯剣している状態だというのにジークフリートは魔剣のオーラと能力のみを引き出し、聖魔剣に乗せて放っていた。

 ジークフリートの魔剣には意思があり、プライドが高い。自分が一番だと思っているので魔剣に他の魔剣のオーラを注ぐと激しく反発する。故に魔剣の相乗効果を狙う場合は魔剣から離れたオーラを混ぜ合わせなければならず、必ず魔剣を抜いておくことが必須であった。

 だが、聖魔剣は違う。聖魔剣には反発するような意思は存在しない。しかも聖の属性を有しつつも相反する魔の属性も持っているので他の魔剣のオーラを損なうこともない。ジークフリートが手に入れた魔剣の中でも聖魔剣はとびきりの優等生であり、他の魔剣を繋ぐ優秀な仲介役でもあった。

 聖魔剣のおかげで帯剣したままでも他の魔剣の能力を引き出せる。

 

(本当に良い物を手に入れた! 木場祐斗! 君に心からの感謝を!)

 

 感謝の念を込めた魔剣のオーラが殺意のまま木場へ飛んで行く。

 それは恐ろしい光景であった。トンネルを掘る為にシールドマシンという掘削機が存在するが、正にそれが自分へと迫っている。

 このままではオーラの圧に潰されるか、回転するオーラに削り切られるかの二択。逃げようにも幅があり過ぎる上に速度も速く間に合わない。

 

(だったら!)

 

 魔剣に対抗するには魔剣しかない。危険は百も承知で木場は行動に移る。

 聖魔剣を一旦消失させ、エクス・デュランダルも開いた亜空間の中へ投げ捨てる。続けて亜空間の中に手を突っ込み、中から二本の魔剣──ノートゥングとダインスレイブを引き出した。

 下手をすればジークフリートに魔剣を奪い返される可能性があるが、現状を打破するにはこれしかない。幸い巨大なオーラが壁になって木場の動向は見えていない。ジークフリートが察知する前に終わらせる。

 木場は上半身を捻りながらノートゥングとダインスレイブを平行になるように構える。溜めた力を解放し、加速を付けた状態で二本の魔剣を振り抜いた。

 ダインスレイブの発するオーラが巨大な氷柱を作り出す。そこにノートゥングのオーラが重ねられた。巨大な氷柱が一瞬にして砕け散る。魔剣同士のオーラが反発した結果かと思いきや、砕けた氷柱は無数の薄い氷と化していた。

 一見すれば脆く砕けそうな薄氷。しかし、その薄氷一枚一枚はノートゥングのオーラを纏っている。空間すらも斬り裂ける程の切れ味を持つノートゥングの力を帯びれば薄氷もたちまち魔剣の刃へと化ける。

 持ち主がジークフリートであったのなら叶わなかった魔剣らによる本気の衝突がここに起きる。

 バルムンク×ディルヴィングの掘削するオーラの壁に真正面から突き刺さっていくノートゥング×ダインスレイブの薄氷の刃。薄氷の刃の大半は、オーラの回転によって粉砕されていく。しかし、中には回転の弱い箇所に上手く突き刺さるものもあった。一度刺されば後は薄氷の刃に分がある。大質量のオーラなど紙よりも容易く裂いていき、反対側へ突き抜ける。

 

「おっと!」

 

 木場を摺り潰す筈であったオーラを貫通して現れる氷刃にジークフリートは驚きながらも聖魔剣とグラムで斬り払う。バルムンクとディルヴィングを合体させたオーラを貫く威力、そして肌で感じ取った感覚からして木場もまた二本の魔剣を掛け合わせて反撃して来たと推測する。

 

(──数が多いな)

 

 巨大な氷柱を砕いて派生した氷刃は大質量のオーラに大半が防がれても尚多数来ている。ノートゥングの切れ味を知っているジークフリートは重要な部位のみを守り、後は人工神器の防御力に任せる。

 多くはジークフリートの二刀流によって砕かれるが、小さな氷の破片がジークフリートの体に刺さる。鱗状になって防御力を上げている体に切れ味のみで突き刺さる破片。もう少し勢いがあったら体内への侵入を許していた。

 全ての氷刃を打ち落とした直後、光刃がバルムンクとディルヴィングのオーラを縦に斬り裂き、そのままジークフリートも斬ろうとする。

 ジークフリートは頭頂部まで来ていた光刃をグラムで受ける。

 Ⅴの字になったオーラの向こう側にはエクス・デュランダルを振り下ろしている木場。木場はエクス・デュランダルの光刃をグラムで防いでいるのを見ると、エクス・デュランダルを振り下ろした体勢のまま低い軌道での速い跳躍をした。

 グラムの刃の上で滑っていく光刃。摩擦により火花の代わりに聖なるオーラが散ってくる。

 跳び込んで来た木場が聖魔剣で斬り抜けようとする。しかし、ジークフリートが持つ聖魔剣がそれを防ぎ、二人は近距離で睨む。

 このまま力比べが始まるかと思いきや──

 

「がはっ!」

 

 木場が呻くと共に血反吐を吐く。ジークフリートの背中から伸びた二本の腕が木場の脇腹に拳を埋め込んでいた。

 

「一手遅かったね、騎士君? いや、この場合は二手足りなかったかな?」

 

 胴体への強烈な打撃を受け、木場の体が前のめりになる。だが、次の瞬間ジークフリートの顎が跳ね上がった。

 真上に上げられた木場の爪先がジークフリートの顎を蹴り上げたのだ。木場はダメージを負いながらも前屈みになることで蹴りを放つのを隠していた。

 

 

「そっちは一歩遅いじゃないか……!」

 

 




同じ武器を使うというシチュエーションをようやく書けました。
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