ハイスクールD³   作:K/K

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毎年恒例のダイジェスト風嘘予告。


SLASHDØG-クロスオーバーSD³ー

 幾瀬鳶雄の青春は、ほぼ戦いの青春と呼んでも差し支えなかった。

神を見張る者(グリゴリ)』から袂を分かった堕天使サタナエルが従えるセイクリッド・ギアを所有する異能チーム『深淵に堕ちた者たち(ネフィリム・アビス)』と日夜戦い、排除及び捕縛を繰り返していた。

 神滅具である『黒刃の狗神(ケイニス・リュカオン)』を持つ鳶雄。同じく『永遠の氷姫(アブソリュート・ディマイズ)』を持つラヴィニア・レーニと『白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)』を所持するヴァーリ・ルシファー。更に四凶の名を持つ神器を持つ皆川夏梅、鮫島綱生、七滝詩求子(シグネ)。十代の少年少女たちに混じった、唯一の成人した男性である人工神器『マネカタ』のサカハギ。

 神器の名を知るだけで心がへし折れる程の錚々たる戦力であり、サタナエルのエージェント如きでは手も足も出ない。

 現に今まさに『深淵に堕ちた者たち』の構成員を神器ごとあっさりと無力化させてしまっていた。

 日々特訓を行っている彼らからすれば、苦戦する道理など無い。何せ全く怖くないのだから。

 戦いの中での緊張感は常に持っているが、その緊張感が恐怖に至ることはまず無かった。

 四騎士との戦いを経て、その辺りが鈍くなったとも図太くなったとも言える。

 出来ることなら思い出したくも無い記憶。それが四騎士との戦いの感想であった。

 全員が死の瀬戸際まで追い込まれた挙句、必死になって反撃を試み、お情けで見逃された。屈辱よりも生き延びたという安堵が先に来て、少し経った後にそんな思いを抱いた自分たちに気付き一生ものの屈辱へと昇華するという封じたい記憶。

 彼らの責任者であるアザゼル曰く、四騎士が個人を襲うなど前例が無く、また四騎士自体が黙示録の日が来るまで人類の守護者としての役目を担っているので、人間を襲うことなどしないらしい。互いの取り分が減るので。

 初めから殺めるつもりは無く、狗神と四凶を試していたのかもしれない、とアザゼルは言っていたが、鳶雄とサカハギは三日三晩意識不明状態となり、夏梅も重傷、綱生は大量出血で死にかけ、シグネは極度の脱水及び栄養失調状態にまで追い込まれ、本当に危ういところであった。

 勝手に試されたことに腹が立つものの二度と会いたくない。それが、鳶雄たちが四騎士への共通の感想であった。

 構成員たちを倒し、しばらくすると後方支援をしていたシグネから別地点で行われていた戦闘が終わったことが告げられた。

 鳶雄と夏梅。綱生とラヴィニア。ヴァーリにサカハギと組み分けられており、それぞれが別の構成員を相手にしていた。

 

「目標ベータの捕獲に成功。どうぞ」

 

 鳶雄は相棒であり神器である黒い狗──刃の頭を撫でながら耳に付けたインカムに報告する。もう一人の後方支援役であり、鳶雄の幼馴染である東城紗枝と連絡を取ろうとする。

 しかし、返事が無い。

 

「……紗枝?」

 

 もう一度問い掛ける。鳶雄の中に小さな不安が生まれる。

 

『きゃああああああああああ!』

 

 インカムから応じる声は、絹を裂く少女の悲鳴。間違いなく紗枝のもの。小さな不安は一気に焦燥と化し、鳶雄は刃を連れて走り出していた。

 

「鳶雄!?」

 

 夏梅の声が聞こえたが、鳶雄の足は止まらない。

 

(まさかまだ構成員が残っていたのか!? それとも、フトミミが……!)

 

 サカハギと同じ実験を受け、人工神器使いとなった青年──フトミミ。その性格は凶悪の一言に尽きる。日常動作の様に自然と人を刺し、殺めることが出来る外道。鳶雄たちは、そのフトミミに目を付けられており、今までに何度も戦ってきた。だが、いずれも倒せず、逃している。

 紗枝もまたとある機関と魔術師たちによって創られた獣をその身に宿しているが、現在は使用不可能となっている。もし、フトミミに狙われたら──最悪な想像によって鳶雄の足は速さを増す。

 

 

 ◇

 

 

 鳶雄が戦闘終了の報告をする数分前。紗枝は一人で鳶雄たちの報告を心待ちにしていた。

 鳶雄たちとの距離は、それ程離れていないが、夜の闇のせいでどうしても心細さと恐怖を覚えてしまう。

 

「早く声が聞きたいよ……鳶雄」

 

 その願いが届いたのか、インカムから鳶雄の報告が入って来る。返事をしようとすると──

 

「それは君のボーイフレンドの名前かい?」

 

 孤独の中で高まっていた緊張が想い人の声で解れた瞬間に突然の知らぬ声。不意打ちの様に叩かれる肩。その二つによって一気に弾け、紗枝の口から悲鳴という形で飛び出す。

 

「きゃああああああああああ!」

 

 インカムの向こうの鳶雄が何かを言っているが今の紗枝に、それに応じる余裕は無かった。

 

「わおっ!」

 

 紗枝に悲鳴を上げられ、肩を叩いた人物も驚く。紗枝の背後に立っていたのは、ブロンドの髪の三十代の外国人男性。場に不似合いな皺の無いスーツを着ている。

 

「いやいや待ってくれ! その反応は無いんじゃないかな? ボクは怪しい者じゃない! 考えてもみてくれ! こんな時間にこんな場所で女の子が一人で立っていたら心配になって声を掛けるだろ! 家出少女かもしれないし、幽霊かもしれない! ボク的には幽霊を期待していたが違ったみたいだ! 残念! 君は家出少女かい? 家出する場所は選ぼう! 人気の無い所で誰かに襲われるかもしれないよ! っというかよくよく考えたらこんな場所に居る僕も怪しいな! うん! 家出少女の君! その反応は正しい! 」

「えっ、えっと……は、はい……」

 

 男の夜の闇を吹き飛ばしそうな程のテンションの高さと早口に呑まれて、紗枝はつい普通に答えてしまった。

 

「しかし、本当に危ない場所だよここは! どんな理由があるかは分からないがさっさと帰った方がいい! ボーイフレンドが近くに居るんだろ!? さっさと迎えに来て貰い給え! それとも実はボーイフレンドとここで口には出せない様なことをする為に居るんなら先に謝っておこう! 申し訳ない! ボクが色々と雰囲気を壊してしまった!」

「ち、違いますから!」

 

 変な誤解が生まれそうだったので、紗枝は顔を真っ赤にしながら否定する。

 

「そうなのかね? なら──」

「紗枝ぇぇぇぇ!」

 

 刃と一緒に駆け付ける鳶雄。不審な男を見て即座に臨戦態勢に入る。

 

「誰だ!」

「ボクは怪しい者だっ!」

「おっ、おお……そうなんだ……」

 

 男の突然の宣言に、沸き立っていた怒りが一気に引っ込んでしまう。

 

「怪しい者ではないと言って怪しまれたから、今度は逆に怪しい者と宣言してみたが、君の反応を見て分かった! 失敗だなこれは! ちゃんと自己紹介をさせてもらおう! ボクはマニー・カター、ここに現れた理由は一言で言えば『趣味』だ! じゃあ、今度はこちらから質問しよう! 君たちは何者だ!? ここで何をしているんだ!? っていうか何だその犬はぁぁぁぁ!?」

 

 話の流れを自ら断ち切って刃に飛び掛かる様に近付くマニー。

 刃はいきなり近付いて来たマニーに威嚇の唸り声を上げる。

 

「これはあれだね! もしかして、もしかしてだけど! ボクも初めて見るが! セイクリッド・ギアってやつかね! 『独立具現型』の! 凄いなー! いいなー! ボクも欲しいなー! っていうか君らはそっち側の人間か! ここで何か揉め事でもあったかい!?」

 

 セイクリッド・ギア、独立具現型、その言葉だけでマニーという男がこの世の裏に関わっている人間なのが分かる。雰囲気に呑まれて掛けたが、マニーという男はやはり怪しい──言動は既に怪しいが。

 

「撫でていい? 撫でていいかい? こんな機会など滅多に無いからね! というか撫でさせてくれ!」

 

 マニーが刃に手を伸ばす。すると、刃は額から日本刀に似た突起を出してマニーに触れるなら刺す、と威嚇する。

 

「えい」

 

 一瞬の躊躇も無くマニーはその突起に掌を突き刺した。

 

「いったぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 掌から血を流しながら大きく仰け反り、そのまま倒れる。

 

「冒険し過ぎたぁ! せめて指先にしとけばよかったぁぁぁ! いたたたたたた!」

 

 ゴロゴロと左右に転がりながら、異常なテンションで叫び続ける。

 マニーの奇行に鳶雄は言葉を失ってしまう。刃など尻尾を丸めている。独立具現型の神器ですら、マニーの行動には恐怖を覚えるのだろう。

 

「だ、大丈夫ですか……?」

 

 そんなマニーに怖れを抱きながらも紗枝は声を掛ける。幼馴染の底知れぬ優しさに感動する一方で、お人好し過ぎて心配になる鳶雄。

 

「いたた! ふはははははは! 痛いなぁー! はっはっはっはっは!」

 

 悶絶する声に笑いが混じり、鳶雄はいよいよマニーを狂人と認識し始める。

 左右に転がっていたマニーであったが、急に跳ね起きて鳶雄と紗枝を見て、実に無邪気な笑みを見せた。正直、整った顔の部類であるマニーのその笑顔は、ギャップで女性をときめかせることも出来るだろうが、マニーの狂行を見ている鳶雄たちの視点では狂気染みた笑みに見えていた。

 

「いやー! 好奇心で首を突っ込んでみたが、いい経験が出来たよ! ありがとう! サンキュー! 二人ともありがとう!」

 

 マニーは二人と無理矢理握手をする。

 

「紗枝! 鳶雄! 今日のこの日の経験は、ボクの記憶の中に永遠に残るだろう! 実にグッドだ!」

「な、何で俺たちの名前を……!」

「え? 紗枝は鳶雄の、鳶雄は紗枝の名前を言っていたじゃないか? 片や心細さに思わず! 片や必死な様子で! 甘酸っぱい青春のニオイを感じるなー! ボクの青春なんて薬品と本のニオイしか覚えていないっていうのに! あはははは!」

 

 思わず赤面する鳶雄と紗枝。そういう関係に見られたことに気恥ずかしさを覚える。

 マニーは晴れやかな笑みを二人に見せながら、ポケットに手を入れ、厚みのある正方形の紙を取り出す。

 その紙は折り畳まれており、開くと顔を隠せるぐらいの大きさになった。

 紙を足元に置き、マニーは手を振る。

 

「この思い出が色褪せない内に、ボクの実験に生かさせて貰うよ。グッバイ、お二人とも!」

 

 ヒョイッと軽く跳び上がって紙の上に着地。すると、紙に複雑な記号が浮かび上がり光を放つ。紙に描かれていたのは間違いなく魔法陣であった。

 マニーの体が薄っぺらい紙の中へ沈んでいく。足、胴体、そして頭部まで入っていく。最後まで残っていたのは伸ばされた手。ずっと鳶雄たちに振られていた。

 その手も紙の中に消え、残った紙も独りでに燃え始め、すぐに灰になってしまった。

 マニーが消えた途端、夜本来の静けさが戻る。あまりにマニーが騒がしかったせいで、夜とはこんなに静かなものだったのかと実感してしまう。

 

「一体何だったんだ……」

 

 突拍子も無く現れ、嵐の喋って騒ぎ、最後は幻の様に消えてしまった。刃も困惑した様に鳴いている。

 

「紗枝、何もなかったよな……?」

「う、うん。凄い一方的喋られたけど……」

 

 幼馴染もマニーには困惑しか覚えていなかった。通りすがりにしては、色々と強烈な個性の持ち主であった。

 実は、紗枝は一つだけ鳶雄に隠してしまったことがあった。マニーに握手をされた際にコッソリと手渡しされた折り畳まれた紙。つい言いそびれてしまっていた。

 鳶雄が他のメンバーと通信している内に密かに紙を開く。しかし、紙には何も描かれていない白紙だった。

 渡された時に小声で『驚かせてしまったお詫びに。もしもの時にどーぞ』と言われたが、変な感じなどはしなかった。親切心から渡されたものだが、白紙を少し不気味に思ってしまう。

 

(やっぱり捨てようかな……)

 

 そんな事を考えると──

 

「捨てないでね」

 

 ──マニーの声が聞こえ、ビクリと体を震わせた後、急いで振り返る。だが、誰もいなかった。そもそも鳶雄も刃も反応していない。印象が強過ぎるマニーのお喋りが耳の中で残響しているのではないか、と考えてしまう。

 

「おーい」

 

 遠くから夏梅の声が聞こえてくる。

 鳶雄はその声に応えている間に、紗枝はその紙をポケットの中に仕舞うのであった。

 

 

 ◇

 

 

 ネフィリムに入り、初めての正月を過ごした鳶雄たち。休み明けはひたすら特訓の日々であった。

 グリゴリの幹部であるアルマロスの指導の下、同じネフィリムのセイクリッド・ギアの使い手や夏梅や鮫島と模擬戦闘をしたり、バラキエルの下で模擬戦闘の反省会をし、互いにディスカッションをするなどしていた。

 勿論サカハギもこれに参加しているが、殆どが十代の中で一人だけ倍以上年を取っているので存在自体かなり浮いている。だが、持ち前の社交的で紳士な性格のおかげで鳶雄たち以外の生徒にも慕われていた。

 セイクリッド・ギアの操作や術を覚える日々を送る鳶雄たち。

 大きな変化はアザゼルによって齎される。

 ラヴィニアが所属する魔法使いの組織『灰色の魔術師(グラウ・ツァオベラー)』の理事であるメフィスト・フェレスが来日した。

 目的は日本の五大宗家との会談。鳶雄たちはその護衛の任務を頼まれた。

 ラヴィニアは当然これに了承。一人では不安だというラヴィニアの頼みを聞き夏梅たちも了承。

 鳶雄も自分のルーツである五大宗家の姫島に興味があり、姫島の当主でありはとこである姫島朱雀と会いたいと思い、皆と同じく護衛の任に着く。

 それから二日後、鳶雄たちは空港にてメフィスト・フェレスと会う。

 スーツ、ステッキにシルクハットという目立つ格好。ただ、理事という肩書の割には固さの無い気さくな人柄をしていた。

 鳶雄たちはメフィスト・フェレスと共に五大宗家とゆかりのある神社を目指す。そこが待ち合わせ場所であった。

 しかし、そこで鳶雄たちにとって予想外のことが待っていた。

 

 

 ◇

 

 

 戦闘。一対一なのではなく異なる人種、年齢、性別の者たちが本気の殺し合いをしていた。中には見覚えのある者も居る。

 

「邪魔をするな。この聖剣は人間を斬る為にあるのではない。特に貴様の様な狂人などな」

「ははははは。頭おかしそうな奴に狂人呼ばわりされる筋合いは無いなぁ!」

 

 黄金に輝く長剣を振るう無精髭を生やした三十代ぐらいの男性が、青年──フトミミのナイフと斬り合う。

 

「わーお、わーお! 何このイレギュラー! センセ、センセ! 混ぜて混ぜてー!」

 

 十代前半の銀髪の美少年は、銃から容赦無く光で固められた弾丸を撃ち出す。フトミミはマネカタの力で数秒先の未来を予知していた為、光の弾丸を見ることなく回避してみせた。

 

「引っ込めガキー。弱い者いじめは暇な時にしかしないんだよ、俺はー」

「フリード、下がっていろ。これはお前の手に余る」

 

 ナイフと聖剣と称される剣が交差──するかと思いきや、二つの刃は触れる前に停まり、両者は同時に離れる。

 その間に降って来たのは坊主頭の屈強な体格の男性。白く発光した体から振り下ろされた拳が地面を叩き割る。

 

「おいおい。なに二人で盛り上がってんだよ?」

「何だ? 混ぜて欲しいのか? 来い来い、遊んでやる」

「上等だこらぁ!」

 

 フトミミの挑発に敢えて乗って坊主頭の男も二人の戦いに加わり、三つ巴となる。

 

「びゃ、白虎さん! 無茶しないで下さい! それに戦闘は私たちの仕事じゃありません!」

 

 小学校高学年ぐらいの小柄な少女が小さいながらも頑張って大声を出す。雨が降っていないのに黄色のレインコートを着て、甲羅の様な背嚢を背負っている。足元には亀が寄り添っているが、尾が蛇になっており、普通の亀とは違っていた。

 

「迎えるには、どっちにしろこいつらをどうにかしないといけないだろうが、玄武! キリスト教の戦士と噂の殺人鬼。戦うのは初めてだが、まあ、なんとかなんだろう」

 

 玄武と呼ばれた少女の言葉を聞かず、白虎と呼ばれた男は戦いを続ける。

 

「ああもう! どうしてこんなことに!」

 

 玄武は嘆きながらも背嚢から符を何枚も取り出して構える。

 真羅白虎、童門玄武。二人とも五大宗家の次期当主であり、五大宗家が司る霊獣と契約した者たちである。

 二人の役目は神社に来る筈のメフィスト・フェレスと鳶雄たちを迎えることであった。

 しかし、メフィスト・フェレスが五大宗家と接触する為に来日したという情報は外部に洩れており、教会の対異形用のエージェント──エクソシストと呼ばれる者たちがメフィスト・フェレス及び鳶雄たちを狩る為に待ち潜んでいた。

 聖剣ガラティーンの所有者ダヴァード・サッロとその教え子であるフリード・セルゼン。彼らはメフィスト・フェレスたちが来るのを待っていたのだが、そこへフトミミがふらりとやってきた。

 出会った瞬間、両者はお互いを敵と認識。五秒も待たずに殺し合いが始まる。その騒動を聞き、白虎たちも現れ、戦闘に巻き込まれてしまった。

 後は互いの手札を探りながら、隙あらば喉元に刃を突き刺そうとする命の取り合いである。

 やる気を見せる白虎とは対照的に玄武の方は早く戦闘を終わらせたかった。でなければ、メフィスト・フェレスや鳶雄たちも戦いに──

 

「おやおや」

「なっ! フトミミ!」

 

 ──玄武の動きが止まる。ダヴァードたちやフトミミ、白虎も止まっていた。恐る恐る声の方を見れば、立ち尽くすメフィスト・フェレスと鳶雄たち一行。

 

「間に合わなかったー! 白虎さん! 来ちゃいましたよー!」

「見りゃ分かる」

 

 慌てる玄武とは反対に、白虎の方は落ち着いていたが、面倒くさそうな表情をしている。

 

「エクソシストに五大宗家の方々、そして噂の殺人鬼君とは……何とも珍しい組み合わせだね」

 

 どう見ても戦っていたであろう状況で呑気な感想を言うメフィスト・フェレス。

 

「やあ。鳶雄君とそのお仲間さんたち。俺たちやっぱり縁があるね」

 

 友達の様に気さくに声を掛けるが、鳶雄たちは警戒し、刃は唸る。そんな中で無言で前に出る人物が居た。

 

「サカハギさん!」

 

 鳶雄が止めようとするが、その手が途中で止まる。サカハギから発せられる怒気と殺意に体が一瞬硬直してしまった。

 

「あんれぇ? センセ? 何か物凄く親近感というかー、こっち側のニオイがする方が出てきましたがぁ?」

「ほう? あれが資料にあったサカハギか。フリード、その直感は正しい。殺しの数ならお前を遥かに上回っているぞ」

「わーお」

 

 フリードは楽し気に笑う。

 殺意や狂気が入り乱れ、戦場は更なる混沌へ導かれていく。

 

 

 ◇

 

 

 エクソシストたちやフトミミを切り抜けた鳶雄たちは、五大宗家の屋敷『奥の院』に招かれる。

 そこで以前会った姫島朱雀と櫛橋青龍と再会する。

 四神の霊獣使いたちに案内され、奥の院にて五大宗家筆頭百鬼家の中核であり現当主百鬼中神黄龍と顔合わせをする。

 霊獣使いの長であり自らも霊獣『黄龍』と契約を結ぶ若くして才のある男であった。

 その後、メフィスト・フェレスと五大宗家のトップとの会談が行われ、姫島から離れ、神滅具の力を宿した鳶雄の実力を見せる為に、四神と四凶との模擬戦が行われた。

 互いに並々ならぬ実力を見せ合い、評価し合う四神と四凶。

 メフィスト・フェレス護衛の任務も一先ず終了したかと思った矢先、五大宗家本拠地が襲撃を受ける。

 敵は四国の大妖怪、化け狸の長隠神刑部とその一派。そして、おとぎ話の桃太郎のモデルとなった鬼、温羅とその配下の鬼たち。オズの魔法使いの者たちに焚き付けられ、五大宗家と『黒刃の狗神』を狙って動いた。

 妖怪たちにより奥の院を守る結界が破壊しながら進行していた。

 四神の霊獣使いたちと鳶雄たちは協力し、撃退に当たる。

 奥の院へと攻め入ってくる化け狸や鬼たちを、四神や四凶がその力で次々と返り討ちにしていく。

 優勢に進めていたと思いきや、妖怪側はオズの魔法使いから与えられた人工妖怪『空亡』によって力と再生能力を得て、押し返し始める。

 追い詰められていく鳶雄たち。そこで考えられたのは、『黒刃の狗神』が宿す『天之尾羽張』に儀式によって火之迦具土神の炎を宿すというもの。

 皆が防衛戦で時間を稼ぐ中で、鳶雄は朱雀により儀式が施される。

 その水面下で、静かに悪意が動いていた。

 

 

 ◇

 

 

 紗枝は鳶雄が儀式に行くのを見送り、車によって安全な所まで運ばれる筈であった。

 突如、その車が何者かに襲われ、転倒する車の中で紗枝の視界が何度も入れ替わる。

 

「うう……」

 

 車から這い出る紗枝が見たものは、周囲を囲む化け狸と鬼たち。

 

「おう。この娘でいいのか?」

「ああ、間違いねえ。西洋の術者どもが言っていた女だ」

 

 妖怪たちの狙いは間違いなく紗枝。

 

「な、何で……」

 

 思わず言葉が洩れる。彼女には妖怪たちや術者に狙われる心当たりが無かった。

 

「お前、狗神のつがいだろ?」

「お前が死ねば、狗神の奴は暴走するらしいじゃねえか」

「ちょっくら暴れさせて五大宗家の奴らを皆殺しにしようと思ってな」

「っていう訳で死んでくれや」

 

 あまりにあっさりと告げられた死の宣告。だが、紗枝が恐れたのは自分の死ではない。自分の死によって鳶雄の禁手が暴走し、鳶雄や皆を苦しめることを恐れた。

 

(何か、何か……! あっ)

 

 触れたのはマニー渡された例の白紙。もしもの時、そう言って手渡されたこれがこの絶体絶命の状況で役立つかは分からない。しかし、紗枝に残された手段はこれしかなかった。

 紙を取り出し、広げる。妖怪たちは白紙を見せられ、少し困惑する。

 広げた所で何も起きなかった。虚仮脅しと思い、妖怪たちの手が紗枝と伸ばされていく。

 

(助けて! 誰か! 死にたくない! 私は鳶雄や皆と一緒に居たい!)

 

 強く願った瞬間、白紙に浮かび上がる紋様。魔術に精通している者ならそれが召喚の為の魔法陣に似ていることに気付く。そして、見たことも無いアレンジが加えられていることにも。

 マニーが紗枝に渡したものは、彼の独自の研究によって作り出されたオリジナル転送魔法陣。マニーの()()()()()()()()()()()()()悪魔を呼び出せ、何か持っていそうだから渡してみよう、という完全な思い付きで紗枝の手に渡った代物である。

 光が輝き、何かがこの場に現れようとする。妖怪たちは只事ではないと察し、召喚される前に紗枝の命を奪おうとする。

 光の中から突き出された拳が妖怪の一体の顔面に打ち込まれ、そのまま粉砕。

 更に魔力の波が妖怪たちを呑み込み、荒れ狂い、渦巻く魔力によって妖怪たちを原型を留めない程破壊する。

 光が収まり、中から出て来たものを見て紗枝は目を瞠った。

 

 

 ◇

 

 

 四神と四凶。隠神刑部と温羅。禁手に至り天之尾羽張に火之迦具土神の炎を宿す鳶雄。

 空に浮かんでいた空亡はシグネの饕餮が喰い尽した。妖怪たちが強化されることは無い。

 全ての決着を付ける最終局面。

 

『ガハハハ! やるじゃねぇか! どれ最後に……ん?』

『……ああ?』

 

 隠神刑部と温羅が同時にある方へ目を向ける。彼らだけでは無い。朱雀たちの四神もまた同じ方を見つめていた。

 

「あ……ポッくんが起きた……」

 

 変化は四凶たちにも起きている。空亡を食べて寝ていた筈の饕餮が目を覚まし、やはり同じ方角を見つめる。夏梅と鮫島の四凶もまた同様であった。

 

「これは……」

 

 刃と一体化している鳶雄は寒気立つ感覚に襲われていた。火之迦具土神の炎ですらその寒気を消すことが出来ない。

 以前にも感じたことのある感覚。そして、刃を通じて鳶雄の中に強烈な意思が流れ込んでくる。

 斬れ。切れ。伐れ。斬れ。

 まるでそれが使命の様に頭の中に叩き付けてくる。

 過熱していた戦場が、嘘の様に静まり、それが来るのを待つ。 

 そして、来た。

 その姿に誰もが戸惑う。

 学校の制服を纏い、鳶雄たちとそう年齢が変わらない青年がごく自然な動きで歩いて来た。

 警戒する要素など何も無い──筈なのに目を離すことが出来ない。特に、その右手に輝く紋様から。

 

「誰、だ……?」

「──間薙シン。行ってくれと頼まれて来た」

 

 偶然に偶然が重なる奇跡によって、刃狗は人修羅と時を超えた邂逅を為す。

 




人修羅は、この話の後にハイスクールD×DEXの戦いに巻き込まれてから元の時間に戻ったという設定。
来年までにSLASHDØGの新刊が出なかったら、その話のダイジェスト風嘘予告を書きます。
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