ハイスクールD³   作:K/K

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神恩、魔録

 即席、しかも会ったばかりの者たちで組まれたチーム。傍から見ればさぞ脆く、危うく見えるだろう。しかし、エルシャもベルザードも過去の白龍皇も不安は一切無い。

 赤龍帝は白龍皇の戦い方、能力を知っている。白龍皇は赤龍帝の戦い方と能力を知っている。そして、赤龍帝と白龍皇は一誠を通してシンの戦い方を知っている。

 それはシンにも言えることであり、時には共に戦い、時には本気で戦い合ったからこそ赤龍帝と白龍皇のことを良く知っている。

 彼らの初対面ではあるが、戦いを通じて互いのことを理解し合っていた。

 

『赤龍帝に白龍皇……過去の亡霊──ではなく()()か』

 

 地平線の彼方まで殴り飛ばされたトランペッターがいつの間にか四人の頭上で漂っている。やはりというべきか目立ったダメージは見えない。

 

「はぁい、魔人さん。貴方とは初対面だったわね」

『如何にも』

「死んでからレアな魔人と出会うなんてね。まあ、魔人自体レアな存在だけど」

 

 口振りからして魔人との交戦経験を匂わせるエルシャ。ベルザードは無言でトランペッターを睨むように見上げている。シンとの初対面であんな台詞を言った人物とは思えない威圧感と存在感を放つ。

 ベルザードは沈黙を保ったまま一人前に出る。独断専行のような行動に見えるが、前に出たベルザードの背中からは傲慢なものを感じない。

 

「少しやらせてあげて。久しぶりの体だから」

 

 エルシャがシンに囁く。シンはもう一度ベルザードの背を見る。少しの間任せてくれ、という無言のメッセージが送られたような気がした。

 ベルザードは持ち上げた左腕を胸の前に翳す。指先から肘まで覆う赤い装甲。纏ったそれは間違いなく『赤龍帝の籠手』。ベルザードは顕現した『赤龍帝の籠手』の感触を確かめるように右手で左手首を掴む。

 

「勿論、本物じゃないわ。イメージで作ったもの」

 

 エルシャたちの体は一誠の体から抜き出したグレートレッドのオーラによって作り上げられたもの。それ故にイメージで体の形を変えることが出来る。

 

「何で『赤龍帝の籠手』と思った? 決まっているじゃない。あれが一番私たちの気分を上げてくれるからよ」

 

 形だけの『赤龍帝の籠手』。しかし、それだけでも意味はある。嘗て、共に戦ったドライグと一緒に戦っている気分になれるからだ。

 

『英雄の帰還か、それとも亡霊の悪足搔きか。我が音色で試させてもらおう』

 

 トランペッターがラッパを口に当てる。初手からメギドラオンでベルザードだけでなくシンたち諸共全て消し飛ばすつもりだ。

 誰であろうと全力を尽くす。魔人にあるまじき生真面目さで過去の残像を滅ぼそうとラッパの音色を──

 

『ッ!?』

 

 ──吹きならす筈であったラッパが突然真上を向き、天で発生するメギドラオン。衝撃波が頭上から降り注いでくるが、シンからすれば直撃に比べたらそよ風程度にしか感じない。

 初撃を何らかの方法で妨害されたトランペッターはすぐさまラッパをベルザードへ向けようとする。しかし、先程まで居た場所にベルザードの姿はない。

 次の瞬間、トランペッターの体がくの字に曲がる。真下に移動していたベルザードの左拳がトランペッターの腹を突き上げる。

 そのまま悶絶するかと思いきや、トランペッターは拳を腹に受けたままラッパを鳴らそうとしていた。

 そうはさせまいとベルザードは拳からオーラを放出。拳からの追撃のオーラによりトランペッターの体が打ち上げられる。

 だが、二度の攻撃を貰ってもトランペッターの攻撃態勢は崩れていない。ラッパのベルから轟音が鳴る。

 轟きは雷光と化し、音を超える雷となってベルザードへ降る。

 命中すれば即死級のダメージを受けることは間違いない一撃が、攻撃直後のベルザードに突き刺さった。

 だが、仰け反ったのはトランペッターの方であった。

 雷撃を出したと同時に顔面にまたもや何かを打ち込まれる。同じ箇所を連続して狙われたらしくトランペッターの額には窪みが出来ている。

 トランペッターが小さいながらも傷を負った一方で雷撃を浴びたベルザードは無傷であった。

 全身に纏う赤いオーラ。高密度のそれがトランペッターの電撃を阻み、尚且つベルザードが反撃する時間を稼いでくれた。

 トランペッターはベルザードの攻撃を恐れることなくラッパを鳴らそうとする。

 ベルザードの一度目、二度目の攻撃を見逃していたシンは目を凝らして彼が何をしたのか探ろうとする。

 

「ベルザードの手に注目して」

 

 エルシャがシンにアドバイスをくれた。それに従い、シンはベルザードの手元を凝視する。

 軽く握られたベルザードの拳。その時、一瞬だけ親指がブレた。何かを弾くような動作の後、トランペッターの両眼窩に弾いたものが飛び込む。

 

『むっ……』

 

 トランペッターも目の中を攻撃され、流石に攻撃を中断せざるを得なかった。片手で両眼窩を押さえ、少しの間動きが止まる。

 ベルザードが何をしたのか。シンは今の動作で見抜くことが出来た。やった事は至って単純で極小のオーラを指弾のように弾いて攻撃したのだ。しかも、それをほぼノーモーション且つ最速、そしてトランペッターがダメージを負う威力で。シンもエルシャのアドバイスがなければ見極めることは難しかった。

 トランペッターの両目が塞がっている間にベルザードは跳躍。トランペッターを飛び越える。その時、視線が一瞬シンたちの方へ向けられる。

 トランペッターの背中に突き刺さるベルザードの肘。浮遊していたトランペッターが地面目掛けて落下する。

 そのまま落下によるダメージを受ける──ような生易しい結末など魔人相手には用意していない。

 落下地点で待ち構えるのは拳を構えているシン。その拳は赤いオーラを纏っている。

 ベルザードがこちらを見た時、既に行動は開始されていた。シンは駆け出し、エルシャはシンが離れて行く前にその手に触れ、『赤龍帝の贈り物』の能力によりオーラを譲渡していた。

 威力を最大まで高めたシンの拳が落ちてきたトランペッターの顔に炸裂する。

 垂直方向に落ちていたトランペッターは地面に着くことはなく真横へ殴り飛ばされた。百は軽く超える距離を地面と平行した状態で飛び、ようやく地面に落ちてもそこから地面を跳ねて行く。

 トランペッターは再び視界外の距離まで行ってしまった。

 

「流石は歴代赤龍帝でも最強と名高いベルザード」

 

 降り立ったベルザードを歴代白龍皇が讃えるが、若干の苦々しさが感じられた。

 

「ベルザードって白龍皇を倒した実績があるの。それも二回」

 

 何故苦々しさを含んでいるのかエルシャが説明をしてくれた。聞けばあのような表情をするのは納得出来る。

 

「……念の為に言っておきますが、僕は当人ではないので。『白龍皇の光翼』の中でベルザードに倒された者たちの恨み節を散々聞かされましたからね。嫌でも名や行いを覚えてしまいます」

 

 心底うんざりした表情をする。同じ白龍皇にこんな表情をさせるなど、余程深く、しつこい怨念を延々と聞かされ続けてきたのだろう。もしかしたら、今もヴァーリは聞かされているのかもしれない。

 そう考えると先程のベルザードの戦い方は対白龍皇を想定したものだったのかもしれない。近寄らせない為の牽制や妨害の中距離技。高密度のオーラで自分を覆う技も白龍皇に触れさせない為。他にも白龍皇への対抗策を持っているのかもしれない。歴代白龍皇が苦々しい表情をしていたのも、ベルザードの実績だけでなく技を見てそれが誰を想定していたのかが分かったからという理由も含まれていたかもしれない。

 

「それにしても、よく即席で連携が出来ましたね。私は反応出来ませんでした」

 

 ベルザードが注目を集めて好機を作り、その一瞬の好機に合わせてシンが動き、エルシャはサポートをした。打ち合わせ無しで出来る連携とは思えない見事なものだと歴代白龍皇は感心する。

 

「まあ、私とベルザードは神器の中で長いこと一緒に居たからね。何となく察しが付くのよ。私よりもこの子のことを褒めてくれる? 無口で無愛想なベルザードの意図を瞬時に判断出来たから」

 

 エルシャはベルザードの肩に手を置き、もう片方の手をシンの頭に置いて撫でる。シンはされるがままだが、シンを知る者が見れば肝が冷える光景であった。尤も、子供扱いされていてもシンは悪意が無ければ放っておく。

 

『見事……実に見事……』

 

 シンと歴代たちのささやかな交流を中断させる魔人の声。

 

「あらあら。随分と男前になっているじゃない」

 

 トランペッターの顔を見てエルシャは恐れ知らずの皮肉を言う。トランペッターは強化されたシンの拳の直撃を受け、顔半分に大きな亀裂が生じていた。

 

『我が試練は新たなる段階へ経た』

 

 今にも壊れてしまいそうな顔面であったが、トランペッターが言葉を発すると顔の骨が崩れていく。トランペッターの顔の半分は無くなり、その下に見えるのは骨の内部ではなく暗い穴。光すら呑み込んでしまいそうな程のがらんどう。

 だというのにその暗い穴からこちらへの視線を感じる。魔人は共通して目の無い眼窩でものを見ているが、それを失っても変わらない。

 まるで深淵がこちらを見ているような気分になる。

 

『汝らは権利を得た。我が終のラッパを聞く権利を、我が祝福のラッパを聞く権利を』

 

 トランペッターの恐ろしい気配の濃度が増す。恐ろしい──死の気配が空間全体に満ち、否応なしに死のイメージを脳内に叩き込んで来る。もしも、常人がいれば頭に銃を、喉元に刃を、間近に迫ってきた数多の死を連想させる光景を、強制的に幻視させられるだろう。下手をすればそれだけでショック死してしまうかもしれない。

 

『我がラッパは8つの時ごとに告げる。弱き者に救いを……そして滅びを……』

 

 先程の開始同時に放たれた弱体化はなく、代わりに行ったのはルールと思わしきもの。8つの時というのは、分なのか秒なのか時を指すのかまだ不明。そして、弱き者というのはどのような状態を指すのか、救いと滅びは何を意味するのか、それもまた不明。知るには最低でも一人対象にならないといけない。

 

「もう少し分かりやすく言ってくれない?」

 

 抽象的なルールに対し、エルシャはストレートな意見を言うが、当然のことながら魔人にその様な文句が通用する筈もなく、シンたちが見ている前でラッパを構える。

 

『見よ!』

 

 何かをする。だが、それを黙って見過ごす者などこの場に存在しない。

 ベルザードによる予備動作無しのオーラの指弾が、トランペッターが言葉を発すると同時に発射されていた。

 しかし、トランペッターも既に何をされたのか見当がついていたらしく、高速で飛来する極小のオーラを見切って射線上から移動する。

 だが、避けた先でトランペッターは視界を奪われる。トランペッターの動きを予測していた光翼を付けた歴代白龍皇が待ち構えており、トランペッターの顔を鷲掴みにしていた。

 

「捕まえましたよ」

『Divide!』

 

 トランペッターに触れることで即座に発動する半減。触れてから十秒ごとという制約がある筈なのに歴代白龍皇はそれが短縮されていた。

 

『Divide!』

『Divide!』

『Divide!』

『Divide!』

 

 そこから立て続けに発動する半減の能力。トランペッターの力が瞬く間に減少していく。

 

「私は相手の力を吸収しない代わりに短時間で連続して能力が発動出来ます」

 

 通常吸収し過ぎた力は『白龍皇の光翼』から排出されるが、光翼に変化はない。特性の片方を敢えて使用しないことでもう片方の能力を特化させていた。

 

「今です」

 

 歴代白龍皇が合図を送る。それに応じるのはシン。

 一点に集中させていた魔力を心臓の鼓動をトリガーにし、体表から魔弾として撃ち出す。

 放たれた複数の魔弾は弧を描きながらトランペッターに逃げ道を塞ぐように様々な角度から迫る。その間も歴代白龍皇はトランペッターへの半減を続けていた。

 時間の許す限りトランペッターを弱らせ、あわや巻き添えになるというタイミングで歴代白龍皇は離脱。シンの攻撃が初見で──もしかしたら一誠越しに見ていたのかもしれないが──ベストという言葉でしか表現出来ないタイミングであった。

 紙一重の差で躱した後、魔弾がトランペッターを貫く。祭服は穴だらけになるが、トランペッターは決してラッパから手を離さない。しかし、魔弾の影響で体の機能が一時的に麻痺し、空中から落下していく。

 

「はぁい」

 

 それを溌剌とした笑顔で待ち構えていたエルシャ。

 トランペッターが地に触れるまでの間、拳の嵐が吹き荒れる。

 エルシャの繰り出す拳は速かった。真っ直ぐ突き出された拳は見えず、赤いオーラの残像だけが残り、エルシャとトランペッターを繋ぐ赤い線が張り巡らされる。

 エルシャの突いた拳は重かった。トランペッターの体を拳が叩く度に打ち込まれた衝撃とオーラが祭服の穴から噴き出す。

 トランペッターの体内にエルシャのオーラが浸透していき、突く度に体の内側に溜まっていく。それは穴から噴き出す量よりも多く、やがて臨界寸前にまで達し──

 

「よっと」

 

 ──軽い声と共に撃ち込まれたダメ押しの蹴りによって爆ぜる。

 トランペッターの胸から下が膨張したように見えた瞬間、赤いオーラが体内から爆発し、トランペッターの下半身を消し飛ばした。

 これは地面に着く前の一瞬の出来事であり、地面に横たわる筈であったトランペッターはゼロ距離のオーラの爆発により吹っ飛んでいく。

 

「流石は女性最強の赤龍帝と謳われた女傑……恐ろしい」

 

 エルシャの容赦ない攻撃により吹き飛ばされたトランペッターを見た歴代白龍皇が感嘆と畏怖を込めた感想を零す。

 

「どうもー」

 

 小声で呟いたのにしっかりとエルシャには聞かれており、気さくに手を振ってくる彼女に歴代白龍皇は苦笑した。

 最強格の赤龍帝二人とそれに肩を並べられる実力の白龍皇、そしてシンとの連携によりトランペッターが何かを仕掛けて来る前に大きなダメージを与えられた。

 しかし、微塵も油断は出来ない。何故なら相手はあの魔人なのだから。

 その考えが正しかった。四人掛かりで攻撃したトランペッターは既に復帰しており、空中にいる。

 顔の半分は欠損し、片翼は失い、祭服は体に引っ掛かっている襤褸切れと化し、下半身が消失している。普通なら致命傷どころか既に死んでなくてはおかしいのだが、トランペッターは苦痛すら感じる様子を見せない。

 

『我が神は()()()()()()()!』

 

 トランペッターがラッパを鳴らした瞬間、トランペッターが負っていた傷が全て治った。寧ろ無くなったという表現をした方がいいのかもしれない。再生する過程など無く、ラッパの音が響いた時には無傷の状態となっていた。

 今までの攻撃を一瞬で無に帰す無慈悲な行い。だが、それに啞然とする暇はない。再びラッパが鳴らされ、滅びの力が四人の頭上に降ってきた。

 

 メ ギ ド ラ オ ン! 

 

 消滅の白光が降り注がれようとする刹那、歴代白龍皇が動く。

 

『Half Dimension!』

 

 発動する禁手の力。物体だろうと空間だろうと半分にする力がメギドラオンを覆う。飛散する筈であった消滅の力はあらゆるものを半分にする空間の中で縮小され、何段階も力を削がれる。

 

「これは……どうやら私の能力も解除されていますね……!」

 

 メギドラオンの威力を縮小させながら、その手応えにトランペッターに与えた半減の効果が切れていることを察する。とてもではないが数度半減をされた者が放つ威力ではない。

 持ち堪えようとする歴代白龍皇。しかし、縮小する回数にも限界があり、メギドラオンを無力化する前にハーフ・ディメンションの領域は内側から破壊された。

 元の威力と比べれば遥かに落ちる衝撃波により四人は吹き飛ばされる。だが、消滅させる程の威力はなく四人のダメージは少ない。

 数十メートル程飛んだ後に四人は急停止する。本当ならもっと早く止まることが出来たが、トランペッターとの距離が欲しかったので敢えて飛ばされていた。

 ダメージをゼロにされた上に反撃を貰ったシンたち。その精神的な動揺は──

 

「あれが救いか。だとすると次は滅びか」

「うーん……今のよりも強い攻撃が来るってことかな? 縮小で耐えられる? っていうか禁手無しでも縮小が出来るなんて君って歴代でも結構強い方の白龍皇?」

「鍛錬を積めば出来るようになります、時間はかなり掛かりますが。一年足らずでそこに至れるヴァーリの才能が異常なだけです。あと、今の攻撃でも縮小の効果がかなり効き難かったので、あれ以上の攻撃には焼け石に水だと思ってください」

 

 ──全く無かった。それどころか状況を冷静に分析し、対抗策がないかを考え、既に次の行動に移ろうとしている。

 ここにいる全員分かっているのだ。絶望など何の意味もないことを。そもそも彼らは奇跡や救いを待って祈るのではなく行動して自らの運命を切り拓いていく者たち。

 心弱き者など最初から存在していない。

 距離が開いていてもトランペッターの攻撃の手は緩まない。ラッパを鳴らし、シンたちの周囲に冷気が発生する。

 冷気は瞬く間に温度を下げていき、最終的にはシンたちを巨大な氷塊の中に閉じ込めた。

 まとめて凍結されたかと思いきや──

 

「宣言していたあたり時間と条件はあるのだと思われます」

「時間はともかくとして条件は……もしかして傷の度合い?」

「可能性の一つに考えられる」

「自分自身も対象に入れているようですし、上手く行けば自滅を狙えるかも……」

「都合が悪くなったらルールを撤回する卑怯者じゃなければねー」

 

 氷塊の中で続けられる作戦会議。氷に閉じ込められたかと思われたが、氷は彼らに達していない。ベルザードを中心にして発せられているオーラが凍結を防いでおり、シンたちはその中で安全に分析を進めていた。

 シンたちはトランペッターの試練という名の特殊ルールを推理していく。救いは傷の完全回復なのはついさっき見た。そうなると滅びはその逆──即死だと予測する。そして、その対象となる条件はトランペッター自身に発動していたのを見るに傷の深さが関係していると推測する。もしかしたら、滅びの場合ルールが逆転するかもしれないが、そうなったらそうなったで受け入れ、割り切るしかない。

 判断材料が少ないのでほぼ予測と直感で決めてしまっているが、猶予など無いのでそれを前提として動く。ダメだったら次に移ればいいだけのこと。

 完全凍結は不可能と判断したトランペッターは冷気を反転させて熱にし、灼熱の業火でシンたちを焼き尽くそうとする。

 しかし、それは少々軽率な行動だったかもしれない。

 炎はベルザードのオーラにより遮断される。炎が届かない間にシンが前に出る。そして、躊躇うことなくオーラに両腕を突っ込み、外へ飛び出させた。

 灼熱がシンの両手を焼く──ことはなかった。炎の中でもシンの皮膚は焼け爛れるどころか焦げ跡一つ付かない。

 この程度の炎、過去に受けた炎と比べれば温い。

 

「不死鳥とドラゴンに習ってこい」

 

 トランペッターの炎をそう揶揄し、両手に炎を纏わせてトランペッターの炎を奪う。

 奪った炎をシンの炎に書き換え、それを熱の塊にすると両手を突き出して光線のように放った。

 トランペッターはラッパを吹き、激しい旋風を起こして炎を吹き飛ばそうとする。しかし、旋風ではシンの炎の軌道を変えることは出来ず、一直線に伸び続ける。人を捻じ切れる旋風も収束された業火の前では微風と変わらない。

 トランペッターは空中で体を傾ける。シンの炎は直撃せずトランペッターの横を通過していった。

 だが、トランペッターも全く無傷だった訳ではない。炎が通過した後、一拍置いてトランペッターの翼から煙が立ち昇り、その煙は一瞬で炎と化す。通り過ぎた後に残る熱が火を点けた。

 片翼が端から燃えていてもトランペッターの視界は微動だにせず、シンたちに固定されている。先程の攻撃もそうだがトランペッターは痛みに関しては鈍感、そもそも痛みを感じているのかも疑わしい。

 再度攻撃を繰り返そうとするトランペッター。もう一度攻撃しようとしているのはシンたちも同じ。赤いオーラの中でシンは蹴りの体勢に入ると、右足に集めた力を後ろ回し蹴りと共に放つ。

 魔弾と異なる鋭利な魔槍が複数発射され、それらはトランペッターへ飛んでいく。

 威力は大きく、速度も魔弾と変わらない。ただ、トランペッターには魔弾の攻撃を一度見せてしまっている。同じような攻撃は二度は通じない。

 事実、トランペッターは既に軌道を見切っており、最小の動きで躱す準備が出来ていた。

 このままシンの攻撃は無駄になる──かと思いきや。

 

『Half Dimension!』

 

 ここで歴代白龍皇が動く。発動したのは縮小。だが、対象はトランペッターではない。

 回避行動に移ろうとしていたトランペッターの視界内から魔槍が消えた。消失した魔槍を探しながら動く。すると、トランペッターの肩部分が大きく抉れた。何かに穿たれたように。

 歴代白龍皇が縮小したのは魔槍。ただし、大きさのみを縮めて視認し難くしただけで威力はそのまま。縮小でサポートすることでトランペッターの視界から魔槍を隠した。

 とはいえ命中したのは複数放った内の一発。トランペッターは肩を抉られながらも見えない残りの魔槍を躱してみせた。

 

『素晴らしきかな』

 

 四人の連携を讃えるトランペッター。その眼前にはベルザードとエルシャ。共に左拳でトランペッターの顔をラッパごと打ち砕こうとしている。

 拳がラッパに届く寸前、ラッパは一音鳴らす。物理的な衝撃がラッパから発せられ、二人の拳を難無く押し返してしまった。

 反撃を受けた二人が着地。左手を覆う『赤龍帝の籠手』に深い亀裂が入っている。

 

「意外。そういうことも出来るんだ」

『必要とあらば』

 

 刹那、二人は防御の構えをとる。トランペッターは短くラッパを鳴らすと二人は防御の上から殴られたかのように吹き飛ばされた。

 エルシャとベルザードが攻撃を受けた間にシンと歴代白龍皇が前に出ようとする。トランペッターはそう動くと見越していた。エルシャたちへの攻撃は、そのままシンたちへの攻撃に移っている。

 轟音が鳴り、雷撃の嵐がシンたちを襲う。雷の速度を避けることが出来ず、シンは

 直撃を受けた。心臓を貫く電流がシンの体に流れ込むが、電撃に対しても耐性を持つシンは即死には至らない。それどころか受けた電撃を自身の力に変えて放電することでトランペッターが放った雷撃を相殺していく。

 

「分かっていたけど多芸だね、君は」

 

 シンの手札の多さに感心しながら歴代白龍皇は球体にした白いオーラをトランペッターへ投げ放った。半減の力を込めた白いオーラ。命中すれば先程のように力を半分にする。

 しかし、トランペッターは目の前まで来ていた白いオーラにただラッパを吹く。それだけで白いオーラは霧散した。力のみで真っ向から白龍皇の力を粉砕する。

 

「意外と見た目に反するタイプなのかい?」

 

 軽口を言いながらも歴代白龍皇の表情は険しい。自分の能力を容易く消し飛ばされるのは面白くはない。

 トランペッターは軽口には付き合わず、ラッパを激しく鳴らす。激しい音色は炎を生み出し、そこに旋風が起こすことで二つは合わさり炎の竜巻となり、辺り一帯高熱を帯びた風で焼く。

 吸い込めば一瞬で体の内側から焼け爛れる風が来る前にシンは息を吸い込み、トランペッターを凝視。その目から発射された光線がトランペッターへ伸びていくが、一度見た攻撃は易々とは通じず、トランペッターは軌道上から移動していた。

 光線を躱されたシンに炎の竜巻が迫る。火に対して耐性を持つシンだが、炎の竜巻に呑み込まれれば即死はしないが身動きが出来なくなる。

 そうなる前に炎の竜巻を打ち消す為、シンは掌を突き出し、そこに力を集める。すると、シンの両隣にベルザードとエルシャがやって来て同じような構えをする。

 

「共同作業と行きましょう?」

 

 力の充填が完了し、シンの掌から蛍光色の光弾が放たれると、ベルザードとエルシャもまた球状の赤いオーラを撃ち出した。

 三つの力が炎の竜巻を消し飛ばし、その後ろにいるトランペッターへ飛んでいく。

 トランペッターはラッパを鳴らし、三つの球体を生み出すとそれらは高速で回転して周囲にドームを形成。その中に入ってきたシンたちのオーラをドームごと爆発させることで消滅させる。

 三人分の力も容易く消してしまうトランペッター。だが、トランペッターが相手にしているのは三人だけではない。死角から飛翔してきた歴代白龍皇がトランペッターへ手を伸ばす。再び接触してトランペッターの力を半減させようとしていた。

 

『神の恩恵は二度も得られんぞ』

 

 その手が触れる前にトランペッターはラッパを吹く。高らかに鳴り響く音が歴代白龍皇の体を通過した瞬間、歴代白龍皇は身震いするような動作を見せた後、全身から血を噴き出した。

 

「くっ!」

 

 全身が血に染まりながらも歴代白龍皇はトランペッターに拳を突き出す。しかし、その攻撃もまた音色の衝撃に阻まれ、突き出していた拳が肘まで深い裂傷を負う。

『白龍皇の光翼』の一部も破損し、空中から落ちていく。頭から地面に衝突する間際、滑り込むように飛び込んだベルザードが彼を受け止めた。

 ベルザードは自身の力を分け与えて歴代白龍皇を回復させようとするが、その前に手で制する。

 

「これで……いいです」

 

 回復を拒む。それが何を意味するのかシンたちは察する。歴代白龍皇は傷だらけの体を動かし、ベルザードから離れる。

 

「巻き込まれますよ?」

 

 微笑を浮かべる歴代白龍皇の頭上から炎の礫が降り注ぐ。歴代白龍皇は視界にそれを入れることなく腕を一振り──しようとして止めた。

 炎の礫が命中すると共に爆ぜ、歴代白龍皇を炎上させる。白龍皇の能力を使えば炎の礫を縮小して無力化出来た筈だが、敢えてそれを使用しなかった。

 炎が全てを焼き尽くすかと思われたが、内側から膨張した白いオーラが炎を吹き飛ばす。

 歴代白龍皇は焼失を免れたが全身を焼かれた酷い状態であり、どう見ても致命傷である。しかし、歴代白龍皇は傷を物ともしない挑発的な笑みを浮かべていた。

 

「……こんな見飽きた技ではなく、せめて()()()()()で葬ってくれませんか?」

 

 歴代白龍皇が望むのはトランペッターが奏でる滅びの音色。条件、その効果を自らを犠牲にして皆に報せようとしている。

 条件など推論の域を出ていない。だが、歴代白龍皇はその推論に全てを賭す。外すことへの恐怖は無い。白龍皇という座に着いた時から分の悪い賭けには慣れていた。

 

『……』

 

 トランペッターが一瞬微笑んだように見えた。歴代白龍皇の覚悟を讃えてか、それとも無謀への嘲笑か、シンたちには理解出来ない感情によるものか、それともただそう見えただけの見間違いか。

 真意、真実は分からない。しかし、歴代白龍皇の言葉に応じるようにトランペッターはラッパを構える。

 

『聞けい!』

 

 今まで静かに語る口調であったトランペッターが、彼方まで届きそうな声量を出す。

 

()()がやって来たわっ!』

 

 滅びの宣誓。その言葉が指すのは重傷の歴代白龍皇。

 指された時、歴代白龍皇の笑みが安堵のものになる。これで推測は間違いなかったことが示される。最期を賭したことは無駄にはならなかった。

 

「こういう最期も悪くはないか……」

 

 残留思念である自分が、魔人と過去の赤龍帝と短い時間ながらも共闘した最期を奇妙と思いながらも満足した。

 トランペッターがラッパを吹く。奏でた音は歴代白龍皇に染み渡り、次の瞬間には内側から発生した力が呆気無く彼を消滅させた。

 泡が割れるように、花の花弁が落ちるように、水の流れが止まるように、大きな音も派手さも一切無く、ただ『消えた』という感想しか抱かない静かな滅び。

 消えた歴代白龍皇が復活する気配はなかった。残留思念がオーラで受肉していたからなのか、それともトランペッターの滅びの音色のせいなのか。少なくとも今の光景を見て以降、シンの頭の中では復活出来るという甘い考えは消えた。

 

「少しカッコいいじゃない、白龍皇」

 

 身を以って立証した彼をエルシャは少し哀しみを含んだ微笑みをしながら褒める。

 

「……」

 

 ベルザードは蛍火のように漂う白龍皇であった者のオーラの残滓を掌で受け止め、それを強く握り締めた。

 

「ベルザード」

 

 エルシャが呼び掛けるとベルザードは強く頷く。その途端、二人のオーラの量の桁が一つ上がった。

 歴代白龍皇が残したのは情報だけではない。彼を構築していたグレートレッドのオーラは、トランペッターの滅びの音でも消滅することは出来ず、エルシャとベルザードに吸収される。

 歴代白龍皇が能力を使用しなかったのは、自分の最期を悟って出来るだけオーラを残しておきたかったから。

 

 ──後は任せます

 

 吸い込んだオーラと共に最後のメッセージも二人へ届く。宿敵から託された力と想い。これに応えなければ赤龍帝に非ず。

 閉じられた白い空間を飛び越え、三千世界に響き渡るように、消えた白龍皇に届くように、力と意思を込めた世界の均衡を崩すその言葉を叫ぶ。

 

禁手化(バランス・ブレイク)ッ!』

 

 

 




過去の赤龍帝、白龍皇の戦い方は完全に捏造です。
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