「──ん?」
魔法陣から出て来たシンは違和感から周囲を見回す。
何の運命の悪戯なのか。いつも通りに悪魔としての仕事で呼び出されたかと思えば、何故か数年前の過去に転送され、そこで呼び出した少女と契約という形で協力して鬼や妖怪と戦う羽目になった。
それで終われば良かったものの、何故かそこから五大宗家の四神や独立具現型のセイクリッド・ギアである四凶と誤解から戦うことになってしまった。
終いには神滅具所持者である刃狗とも本気で戦い合うこととなり、人生で何度目かになる死の予感を覚えた。
結局最後は誤解が解け、互いに自分たちの過ちを謝罪して一件落着となり、シンは魔法陣で現代へ戻る──筈であった。
戻ってきた場所は何故かオカルト研究部部室ではなくそこら辺りにある変哲もない寂れた公園であった。
場所が違うのは不正規の召喚をされた影響によるものだと思うが、真っ先におかしいと思ったのは肌に伝わる外気である。
最近少し寒くなってきたと思っていた程度であったが、この時の外気は真冬そのものであり吐く息もハッキリと白くなっている。
シン自身鈍くないので自分が置かれている状況を察し始めていた。だが、察しの良さなど要らなかった。鈍いままでいれば頭を抱えずに済む。
そう思いながらいつまでも公園で立っている訳にもいかず、公園を出て歩き始めた。
時刻は深夜。周囲に見覚えが無い。携帯電話で連絡を入れようとしたが過去に転移した影響のせいか故障して電源が入らない。何処までも優しくない状況に途方に暮れそうになる。
だが途方に暮れても何の意味も無いと分かっているので兎に角歩いた。暫く歩いた後、何気なく視線を動かした先に電光掲示板があることに気付く。そこに流れている日付を見て、シンは天を仰いだ。
途方に暮れても意味が無い。だが、この様な状況ならば仕方ない。
「過去の次は未来か……」
電光掲示板に流れる文字には数か月先の日付が流れていた。
今度こそどうしたものかと悩む。沈黙のまま悩んだ後、取り敢えず何処かで野宿をして明るくなったら何とかオカルト研究部のメンバーに連絡を入れることに決めた。
その際にこの時間の自分はどうなっているのだろうか、という疑問が生じたが無視する。何か起きたらその時はその時と割り切るしかない。
やることが決まれば寒さを凌げる場所を探す。真冬の気温に対してシンの服装はやや薄手であった。
適当に歩いて探そうとした時──
「うん?」
──シンは奇妙な感覚を捉える。悪魔でも天使でも堕天使でも魔人でも無い今まで経験したことの無い感覚であり、頭の中で金属の板がたわむ様な音が響く。
どう考えても普通のことでは無いが、シンの足はその感覚がする方へ向かっていた。
気配を辿って歩き続けた先にそれらはいた。
第一印象は昆虫であった。
銀色の外骨格の様な見た目に角張った箇所も無く丸みのある全体。一応人間と同じ様な四肢があり、頭部もある。頭部には鼻や口など無く複眼を思わせる目が付けられているだけであった。
数は二体。シンの存在に気付いてそれらは一斉にシンを見る。無機質な視線を浴びせられながらシンは、見る角度が変われば宇宙人のようだ、と場違いな感想を抱いていた。
「何だこれは……?」
見た事も無く生物か機械かも判断出来ない存在。
シンは取り敢えず一番近い場所に立っているそれに接近してみる。
それとの距離が二メートルまで縮まった時、頭を小刻みに震わせながら青い色の複眼が赤へと変わる。
全身に赤い紋様が浮かび上がり、目から赤い光線が──
「機械なのか?」
──発射される前にシンの指先がそれの喉を斬り裂き、左手で頭部を胴体から引き千切る。
首を千切られても体液は流れず、断面には触手の様なものが蠢いていた。
頭部の方もまだ赤い目を輝かせていたので頭頂部に拳を打ち込む。金属ではなく分厚いゴムを思わせる感触が拳に伝わってきた。
剛柔の性質を兼ね合わせた体を持っているが、万物を貫通してしまうシンの拳の前には意味が無く、突き抜けた衝撃が頭部に内蔵されている重要な装着を破壊したらしく目から輝きが失せた。
シンが一体に構っている間に別の個体が目から光線を発射する。視界に収めずとも攻撃の気配を感じ取ったシンは横に滑る様にしてそれを回避。すると、外れた光線が折れ曲がる様に軌跡を変え、再びシンを狙って来た。
追尾する光線に対しシンは引き千切った頭部を盾にする。頭部に光線が命中し溶け始める。光線を受け切ると手に伝う前に投げ捨てた。
目に赤い輝きが発するのが見える。撃ち出される前にシンは氷の息を頭部目掛けて吐き出す。
顔面だけでなく全身が氷の息によって凍結し出し動きが鈍ると、その間に接近して複眼に拳を打ち込んだ。
レンズの様な複眼が割れ、シンの拳が内部に入り込む。それでも痛覚が無いらしく目を一つ潰されても構わずに攻撃しようとしてきた。
シンが軽く息を吸う。空気の爆ぜる音と共にシンは魔力を電気に変換して放電。内部から相手を焼く。
電気を流し込まれた謎の物体は激しく痙攣するが、それでも動いて反撃しようとしてくのが分かったので、放電を止めて拳に炎を灯す。
頭を内側から融解させられると流石に限界が来たらしく動かなくなった。
「やっぱり機械か?」
引き抜いた手を振りながら機能停止した謎の物体を観察する。戦った感想としては有機物と思える要素が強いが、それだけでない生物的な何かも感じられた。もしかしたら両方の要素を持った新生物なのかもしれないが、そんな新種は天界、冥界に関わっているシンは見た事も聞いた事も無い。
そもそも何故こんな場所にいるのかさえ意味が分からなかった。
もう少し調べてみようと思った時、上から殺気と重圧を感じ取る。すぐにその場から離れると真上から巨大な物体が落下し、調べようとしていた謎の物体を押し潰してしまった。
【嫌な気配がすると思って来てみたら、面白そうな奴がいるじゃねぇか!】
ガラの悪い声を発するのは機械で創り上げられたドラゴンであった。
大きさは約十五メートル。緑色の光沢を放つ機械の体からは蒸気が噴き出し、両腕の前腕部分は一回り以上太く設計されており重厚感のある形をしている。背中に両翼は無いが腰部にはロケットエンジンに似た装置を付けおり、噴射孔から発せられる熱で陽炎が見える。
【へっ、赤い奴のガキ共以外に歯応えの──】
機械のドラゴンはそこで喋るのを止め、シンの顔を凝視する。或いは解析しているのかもしれない。
【て、てめぇぇぇ!】
突如として怒号を上げる機械のドラゴン。金属の口が生物の様に変形して牙を剝く。
【人修羅かっ! 何故てめぇがここにいるっ!?】
機械のドラゴンはどういう訳かシンのことを知っていた。
「……何で俺を知っている? 誰だ?」
【ふざけんじゃねぇぇぇ! 我が主レッズォ・ロアド様が受けた屈辱! そして、このガルヴァルダンに一生雪げない恥を掻かせてくれたことを忘れたとは言わせねぇぇ!】
レッズォ・ロアドとガルヴァルダン。どちらも全く聞き覚えが無い名前。だというのにガルヴァルダンの方はシンに強烈な殺意を抱いている。体内の機関がガルヴァルダンの怒りに合わせてエンジンの様な轟音を出していた。
二つの名前を聞いてもこれといった反応を示さないシンにガルヴァルダンは更なる怒りを募らせるが、不意に何かに気付いた。
【──ちょっと待て。てめぇ、顔の紋様はどうした? というかその恰好……】
一転して急に冷静になるガルヴァルダン。というよりも困惑している様子。
【ああ、そうか。そういうことかよっ! てめぇはこの時代の人修羅かっ!】
一人で納得したかと思えば急に笑い始める。
【我らが神に感謝するぜぇぇ! 未熟とはいえてめぇを殺せる機会を与えて下さったことに!】
腰部のロケットエンジンが火を噴き、巨体が急加速して突撃してくる。
突進を受ける前にシンは横へ移動して躱すが、ガルヴァルダンは即座にロケットエンジンの向きを変えて急旋回する。
【逃がすかよぉぉ!】
ガルヴァルダンの前腕部が左右に展開し、中から砲身が伸びる。
【吹っ飛べやぁぁぁ!】
砲口からシンの体よりも大きな光弾が発射された。相手の動きを見ていたシンは足を止めずに移動していたことで狙いを外し、光弾は数十の木々を消滅させた後に地面へ着弾。瞬時に地面を蒸発させて数十メートルの穴を作り上げる。
単発ではシンに当てられないと判断したガルヴァルダンは、両腕の砲身を向けと共に口部を開き、そこに光線の光を灯しながら更に背部のバックパックを展開。バックパック内部はミサイルで埋め尽くされていた。
周囲一帯全てを焦土と化してでもシンを倒すべくガルヴァルダンは一斉発射する。
【消えて無くなれやぁぁぁぁぁ!】
夜の世界が一瞬朝に逆転したのかと錯覚する程の閃光の後、その音だけで死人が出るのでは無いかと思える程の爆音が鳴り響く。
一斉発射後のガルヴァルダンは油断することなく両眼のセンサーでシンを探す。地形が変わる程の砲撃、爆撃であったがシンの遺体もしくは一部を発見するまで安心することなど出来ない。
爆風で巻き起こった煙をも透過するセンサーや熱探知、魔力による探知などを駆使してシンの今の状態を探るガルヴァルダン。
やがてセンサーがシンの場所を特定。そこは──ガルヴァルダンのすぐ傍。
【ごっは!?】
感知と同時に体に障壁を纏うガルヴァルダンであったが、シンの拳はそれを貫通してガルヴァルダンの装甲に拳を捻じ込んでいた。
機械のドラゴンの巨体が体格で遥かに下回るシンの一撃によって数歩後退させられていく。
振り抜いた拳を戻すシン。嵐の様な攻撃を受けて無傷とは行かず、制服の何箇所焦げ付き、血が滲んでいる。しかし、致命傷には至っていない。
【ごほ! ごほ! 覚えがあるぜこの痛み……! 嫌という程になぁ……!】
拳が打ち込まれた箇所は凹んでいたが、すぐに凹みが元に戻る。同時にガルヴァルダンの殺気が一段階上がる。
鋭さと荒々しさを増したガルヴァルダンの視線を受けてもシンはいつも通りの無表情で見返す。
【だが、やっぱりこの世界のてめぇはまだまだ未熟だなぁ! 俺の知っているてめぇだったら俺の下半身が一撃でおしゃかになってたぜぇ!】
痛みを覚えながらも勝機があることを確信して笑うガルヴァルダン。
【てめえもあいつらもここで殺すっ! 我が主レッズォ・ロアド様の名誉に掛けてなっ!】
ガルヴァルダンは武装を展開する。シンは片手に炎を灯し、もう片方には魔力剣を握る。
大地を揺るがす衝突が再び起こる。
◇
とある繫華街の喫茶店でアザゼルは時間を潰していた。ただし一人でではない。相席するもう一人の少年がいた。
鮮やかな紅髪の少年。その髪の色にも目を惹かれるが少年の容姿もまた整っており、二重で注目を集める存在感を放っている。
少年の名はイクス・グレモリー。グレモリーの姓からしてリアスの関係者であることは間違い無いが、その関係性を正確に見抜くことは不可能であろう。
何故ならばこの少年は三十年後の未来からやって来た一誠とリアスの息子なのだ。
赤龍帝と純血の悪魔を親に持ち、剣の師匠として木場に鍛えられ、戦いを白龍皇であるヴァーリに教えられたサラブレッドという言葉すら霞む途方も無い逸材である。
そして、未来から来た一誠の子供は一人だけでなく複数人来ている。アザゼルは既にアーシア、朱乃、ゼノヴィア、イリナ、小猫、黒歌との間に出来た子とも会っていた。
彼が未来から来たのはこの時代に現れた異世界の生物『
尚、この時代に『UL』が現れた理由は何十年も姿を消していたロキが突如として出現し、『UL』と結託して過去へ跳び歴史改変を行おうとしているとのこと。
過去へ時間跳躍する前、ロキは三十年後のアーシアに呪いをかけており、その呪いを解くことも彼らが未来から来た理由の一つである。
他の一誠との子たちと協力して『UL』とロキの撃退が目的なのだが、少々イレギュラーなことも起きている。
未来から来た『UL』の中で邪神の直属の眷属である『羅睺七曜』という凶悪無比な存在がいるのだが、その七曜は『
その七曜であるレッズォ・ロアドの四将であるルマ・イドゥラとガルヴァルダンがこの時代に来ているのだが、ガルヴァルダンが一誠の子たち以外の何者かと戦闘を行った形跡が見つかったのだ。
この事態にアザゼルと一誠の子たちは困惑する。未来への影響を最小限に抑える為に一誠たちに正体を隠して戦うなどの措置などを行っていたが、ガルヴァルダンと戦闘した何者かによって未来からの侵略が明かされてしまう恐れがあった。
ガルヴァルダンは龍王と同等以上の力の持ち主。戦闘の形跡にはガルヴァルダンの体の一部が破片として残っていたが、ガルヴァルダンと戦った者の死体どころか痕跡も残っていなかった。状況を見るにかなりの実力者であることは間違い無い。
その事も含めて一誠の子たちの上官と相談することなり、その時が来るまでイクスの一誠の子としての悩み相談を受けていた。
「アザゼル初代総督。上官の命でお迎えに参りました」
アザゼルに声を掛けるのは黒髪の細身の少年。男にしては妙に色気のある顔立ちをしており、男女問わず喫茶店の客の視線を独り占めにする。
青年の名は姫島紅。朱乃と一誠との子であり長男でもある。
準備が出来たので彼らの上官の下へ行こうと席を立ち上がったとき──
「アザゼル先生」
名を呼ばれて思わずアザゼルは硬直する。その声の主はアザゼルにとってよく知る人物のものであった。
「……何でお前がここに居るんだ?」
今回の件について知られたくない人物にあっさりと知られてしまい、流石のアザゼルもどうしたものかと悩んでしまう。
「ちょっと面倒なことが起きて……」
シンがアザゼルを見つけたのはただの偶然であった。駒王町に何とか戻り、これからどうするべきかと考えていた時に喫茶店に居るアザゼルを発見して思わず声を掛けてしまった。
浅慮だったかもしろないが現状最も頼りになるのはアザゼルしか思いつかない。
シンはアザゼルにどう説明するべきか言葉を選んでいる最中、二人の少年の視線に気付く。どちらもシンを呆然とした様子で見つめていた。
歳はそう変わらない黒髪と紅髪の少年たち。何故なのか初対面の筈なのに既視感を覚える。
「面倒なことって……いや、俺の方も面倒なことが起こっているんだが……」
アザゼルはイクスたちの反応を窺う。啞然としている二人だが、シンにバレたことに驚いている割には反応が過剰と言えた。
「ア、アザゼル初代総督。確認しますが……彼の名は?」
紅の態度がおかしい。イクスの方もシンに対して警戒している。
「あ? 間薙シンだが……?」
二人が息を吞むのが分かった。
「間薙シン……本物の人修羅だ……」
「『混沌王』……実在したんだ……」
未来に於いて『UL』と戦う魔人。圧倒的な強さ故に『UL』だけでなく他の勢力からも恐れられた存在。
彼が戦った後はあらゆるものが区別付かず入り混じったものと化すことから何時しか付けられた『混沌王』という異名。
彼が現れた戦場はまず全滅を免れないことからイクスたちにとっては名前しか知られていない存在であり、数少ない目撃者である彼らの父や師、上司の証言が無ければ実在したのかすら危ぶまれていた。
『混沌王』。聞いた事も無い筈の名を呼ばれ、シンは微かに顔を顰めた。
◇
「ご機嫌よう。先生」
駒王町の地下にある広々とした空間でアザゼルに挨拶するのは精悍な顔付きに黒いローブの上からでも鍛えているのが分かる体格をした金髪をオールバックにした男性。
アザゼルですら気圧されそうになるプレッシャーを放ちながらも気品に満ちており赤い双眸には懐かしむ色を宿していた。
この男性こそがイクスたちの上司であり、アザゼルには男性の容姿にある少年の面影を見た。
「そうか。ギャスパーか」
「はい。大分変わってしまいましたが、私はギャスパー・ヴラディです」
三十年後のギャスパー。今の女装男子のギャスパーからは想像も付かない雄々しい姿となっている。
ギャスパーが語るに『UL』は各神話大系の歴史すらも改変して自分たちの都合の良い歴史を創るのを目的としている。その過程で未来の仇敵となる一誠たちの存在も無かったことにしたかったと言う。
その為にレッズォ・ロアドは全ての『四将』とそれが率いる軍勢を未来に送る予定であったが、未来のギャスパーたちの妨害によって敵戦力の大半が時間転移に失敗した。
「問題は七曜のレッズォ・ロアドもこちらに転移しようとしている点でしょうか。流石に七曜クラスがこの世界に来てしまったら各神話大系に大きな影響を与えるでしょう。それは避けなければなりません」
現状でもかなりの戦力があるが時間との争いになっている。
「それなんだが……向こうにとっても俺たちにとってもとんでもないイレギュラーが起きてな……まあ、俺たちにとっては都合が良いんだが……」
「それはどういう意味ですか?」
「おーい」
アザゼルに呼ばれ、この空間へと入ってきたのはシンであった。
シンを見た途端、ギャスパーは双眸を見開く。
「間薙……先輩……」
信じられない様子でその名を呟くギャスパー。その様子にイクスたちも信じ難い気持ちであった。
彼らにとって上司であるギャスパーは、常に冷静沈着で威圧感があり、怖くて、どうやっても勝てる想像が出来ない絶対的な存在であった。
「久しぶり──というのは変か?」
未来でどういう関係になっているのかは分からない。しかし、無言近づいてきてシンの両肩に手を置いたギャスパーの顔を見て何となく察してしまう。
ギャスパーは再会を喜ぶと同時に後悔を含ませた複雑な表情をしていた。
「いえ……お久しぶりです」
◇
シンが何故ここに居るのかの説明をした時、皆が揃って特異な経緯に目を丸くしていた。
アザゼルが推測するに『UL』の過去改変の影響で引き寄せられたのではないかとのこと。取り敢えずこの時間のシンに絶対に会うなと念を押された。
シンの事情を説明した後は、一誠の子たちの自己紹介が待っていた。未来から来た一誠の子たちは全員で十人。悪魔同士の出生率の低さを考えると驚異的な数と言える。実際に一誠の子たちが十人も居ると知った時、シンも内心ではかなり驚いた。
(いつぞやの種龍という言葉が本当になるとはな……)
一誠の子たちの反応は二分されていた。シンの名を知って興味を持つ者と警戒心を抱く者の二つである。
「初めまして。僕の名前は姫島紅と言います」
最初に自己紹介したのは一誠と朱乃との間の子で長男である紅。その容姿は母の血が濃く出ている。
(長男は姫島先輩との子か……)
リアスはさぞかし複雑な心境になったと思われる。とはいえ仲がギクシャクする様な深刻な状況には発展しなかったとも思えた。
「次は私の番ですね」
紅に続いて自己紹介するのは金色の長髪に緑の瞳の少女。顔を見れば誰との間に出来た子なのかすぐに分かった。それ程までに母親に良く似ている。
「私は兵藤愛理と言います。母は兵藤──じゃなくてアーシア・アルジェント。兵藤一誠の長女です」
(容姿は母親。性格は父親譲りか)
控え目なアーシアとは違い、元気で溌剌とした挨拶に一誠の姿が重なる。
「──漸・クァルタだ」
簡素な自己紹介するのはゼノヴィアの息子で一誠の次男の漸。凛々しい顔立ちが母親に似ている。態度が素っ気無いのはシンに対して警戒をしている為である。
「こら! 初対面の人にそんな挨拶はダメでしょ! ごめんなさい、間薙さん! 普段はもっと礼儀正しい子なんです!」
「や、止めてくれよ、姉さん!」
漸に変わって愛理が詫びると漸はいたたまれない表情となる。姉弟間の力関係が完全に決まっているのが見て分かる。
「赤龍帝兵藤一誠と紫藤イリナの息子──三男の紫藤真と言います。ふふ、同じ名前ですね」
「──そうだな」
未来の友人の子に自分と同じ名が付いていることに気恥ずかしさを覚える。
「父と母は共通の友人の名前から僕の名を貰ったと前に聞いた事があります。それってやっぱり……?」
「──さあ? どうなんだろうな」
シンははぐらかす。シンなりの照れ隠しの様なものであった。
次に名乗ったのは長い銀髪を一本の三つ編みに束ねた少女。ヴァルキリーの鎧を着ているが装飾の何箇所かが『赤龍帝の鎧』に似せてあった。
「私はヘルムヴィーゲ。赤龍帝の父と元ヴァルキリーの母との間に生まれました。漸君と真君と同年生まれです」
一目でロスヴァイセの娘だと分かる。
「ロスヴァイセの娘か……はあ、同僚が結婚したり子供が出来たりすると何とも言えない気分になるな」
アザゼルがしみじみと言う。
「先生とは無縁な世界ですからね」
「違うわ。俺は出来ないんじゃない。しないだけだ」
独り身の苦しい言い訳の様なことを言うが、女に縁が無いどころか寧ろモテる方なので強がりでは無い、一応。立場的には色々と難しいのかもしれない。
「先生は未来でも独身なのか?」
「聞くなそんなこと!」
「……未来の話をするのは禁止されているので」
ヘルムヴィーゲの母親譲りの生真面目さが滲み出てしまった結果、反応で分かってしまった。
シンは無言でアザゼルを見詰める。
「何だその目は? 言いたいことがあるなら口で言え。そんな程度で俺は傷付かん!」
「──いえ、別に」
「気遣う様な態度を止めろ!」
シンとアザゼルとのやり取りにシンに警戒心を持っていた者たちは何とも言えない気持ちになる。噂に聞く混沌王と目の前の人物が同一には見えなかった。
そんな中でイクスに自己紹介の順番が回って来るが、どういう訳かイクスは一言も発しない。周りが急かすが態度は変わらなかった。
仕方なく彼を飛ばして次の子が名乗る。
金髪を四つの縦ロールにした西洋人形のような少女。
「ご機嫌よう、初代総督様、間薙様。無愛想なイクス君に代わりに私が挨拶をさせていただきます。私はロベルティナ・ヒョウドウといいます」
スカートの裾を軽く持ち上げ、優雅に挨拶をする。
その身から感じるのはフェニックスとドラゴンの力。レイヴェルと一誠との間に生まれた子なのを肌で感じる。
ロベルティナはシンの方を見て、微笑を浮かべる。
「お父様とライザー伯父様の親友と呼ばれる方と会えて嬉しい限りです」
親友ではない、と言おうとしたがロベルティナの心底嬉しそうな顔を見て無粋だと思い、黙る。
「私が白雪で──」
「私が黒茨だにゃん」
この中で最年少の少女たちの自己紹介。どちらも名に合った着物を着て、頭頂部に名前通りの白と黒の猫の耳を生やしている。
誰と誰の娘なのか即座に理解する。
(あいつ、姉妹に手を出したのか……)
業が深いと言うべきか、欲が深いと言うべきか。一誠の三十年後の姿に逆に興味が湧いて来る。
あと二人、一誠の子たちが居るらしいがやる事がある為、片や未来に残り、片やとある役目の為に席を外していて不在であった。
イクスを除いて一通り自己紹介が済むと今まで沈黙を続けていたイクスが口を開く。
「イクス・グレモリー。父は兵藤一誠、母はリアス・グレモリー」
突然の名乗りに兄弟たちも困惑する。
「剣を木場祐斗に戦いをヴァーリ・ルシファーに教えられました」
イクスはかつて一度だけ父、師匠たちに同じ質問をした事があった。
『混沌王は強いのか?』
その時は実在するかも怪しいと言われており、彼らの証言で語られるだけの存在であった。
その質問の答えは三人とも同じであった。
『強い』
迷いの無い断言に面食らった覚えがある。だが、それよりも印象に残ったのは三人とも先程のギャスパーの様に悔恨の表情を浮かべていたのが最も強く残っていた。
尊敬し最強だと思っている三人が強いと語る存在。それが目の前に実在する。
こんなことを言う場合では無いのは分かっている。しかし、内に宿るドラゴンと悪魔の衝動がイクスを突き動かす。
「お願いがあります──俺と一勝負してくれませんか?」
◇
ひと悶着が有りつつも協力関係を気付き、いざロキと『四将』との決戦に挑む。
ロキと『四将』は過去改変の為に現代の一誠たちを襲撃しようとしたが、紅によって『UL』の兵隊ごと人気の無い場所へ転送された。
イクスたちが駆け付けるとそこにはロキとこの時代に来たもう一体の『四将』が待ち構えていた。
メタリックブルーの全身。頭部には三本の角。バイザー型の目の奥から機械的な輝きを放つ。
背部右側には三枚の翼の様な機構。左側には長い砲身を装備している。
ガルヴァルダンと同じくドラゴンと人の中間の様な姿をしたこの機械生命体の名はルマ・イドゥラ。
【さあ、ロキ殿。積年の恨み、晴らされるといい】
「そうだな」
ルマ・イドゥラに言われ、ロキはその手に絶対零度の冷気を宿す。触れれば万物すら凍て付かせる氷結魔法。静寂を生み出す暴力がイクスたちに──ではなく『UL』の兵士たちに放たれ、全てを凍らせる。
ロキの凶行にルマ・イドゥラだけではなくイクスたちも驚く。
【な、何のつもりだ! ロキ殿!】
「何のつもり? ──見りゃ分かるだろ! 邪魔者消してんだよ!」
ロキが豹変し、顔半分に粗野な笑みを浮かべる。
【貴様! 裏切るつもりか!】
「そうだが、それがどうした? まさかここまで馬鹿正直にお前たちの技術を教えてくれるとは思わなかったぞ? ──それだけ俺たちの演技が上手かったってことかぁ? 狡知の神なんて止めて演技の神にでも転向するか? ひゃはははははは!」
全てを嘲るロキの哄笑に誰もが絶句する。
【三十年も雌伏の時を過ごした貴様に我々が力を貸した恩を仇で返すとは……!】
「勘違いをするな。お前たちの情報が欲しかっただけで力など不要! そもそも
ロキは手品の種を明かす様に意気揚々と言う。
「我々は三十年後のロキではない──俺たちも時を跳んだって訳さ! 人の縄張りを荒らすお前らの為になぁ! カンカンだぜぇ、あいつ!」
◇
三十年後の未来。百メートルを超える真紅のドラゴンが機械生命体の軍勢とたった一頭で互角に──否、圧倒していた。
機械生命体の奥に控えるのは『羅睺七曜』のレッズォ・ロアド。
真紅のドラゴンは兵士たちを蹴散らし、レッズォ・ロアドにその牙を届かせる──前に突然止まった。
真紅のドラゴンが視線を下ろすとそこには金髪の青年と少年、そして車椅子に座る老人が並んでいる。
戦場に不似合いなその三人であったが、真紅のドラゴンは彼らを強く警戒する。その三人から感じる力、それはレッズォ・ロアドよりも──
「手を貸そう、赤龍帝」
金髪の青年が真紅のドラゴン──赤龍帝に話し掛けた。
「君たちの侵攻は否定しない。寧ろそれが君たちの自由であり、あらゆる神を滅ぼそうする気概は称賛に値する」
今度はレッズォ・ロアドたちへ話し掛ける。褒めてはいるが、その声は冷たい。
「でも、仕掛けてくるということはやり返されることも当然の道理だね?」
青年、少年、老人の足元にある影が伸び始める。
「ましてや他人の領域に土足で踏み込もうとするのなら、それ相応の罰が待っているのも分かりきっていることだ」
三本の影が交わり、一つとなっていく。
「その覚悟をしているのなら君たちは大したものだ。……だけど」
一つとなった影から現れるのは大いなる意思が生み出した最高の闇。
「生意気だ」
去年の予告通りEXの噓予告というかダイジェスト話を書きました。
刃狗の三巻発売から二年以上経っている事実に驚愕します。
来年のエイプリルフールには四巻が発売することを今から祈っておきます。