ハイスクールD³   作:K/K

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双剣、決闘

 静まり返る部室の中。そこでは一触即発の状況が続いていた。

 木場は無数の魔剣を宙へと創造しつつその両手には一本ずつ魔剣を握り締め、絶対零度の瞳でイリナとゼノヴィアを睨みつける。対する二人もその手の中にエクスカリバーの柄を握り締めいつでも迎え撃つ準備をしていた。

 

「先輩と言ったがどういう意味かな? 少なくとも君からこのような殺気を向けられる記憶がないのだが」

「言葉通りの意味さ。最も僕は聖剣を扱うことの出来なかった失敗作だったけどね」

 

 自嘲気味に笑う木場。

 木場の言葉に心当たりがあったのか、イリナとゼノヴィアは目配せし小声で呟く。

 

「ゼノヴィア、もしかしたら――」

「ああ、私も同じことを考えていた」

 

 短い会話であるが、その内容から木場の素性についてある程度の認識があることが窺える。だが、それが分かった所で両者の剣先は揺れることなく、絶えず相手の急所へと向けられ膠着した状態が続く。

 

「剣を引くんだ、木場」

 

 その膠着を破ったのは両者の間に割って入る一人の男、シンであった。エクスカリバーを背中にし、無数の魔剣の射線を遮るようにして立ち塞がる。

 

「――どういうつもりだい? そこをどいてくれないかな。じゃなきゃ君を巻き込むことになる」

「頭を冷やせとまでは言わないが深呼吸の一つでもしたらどうだ。今のお前は冷静じゃない」

「自分でも怖いくらい僕は冷静だよ。――その上で彼女たちに剣を向けている」

「冷静? 頭に血が昇り過ぎて、そういった感覚が麻痺して錯覚しているだけだろが」

 

 互いに口調は淡々としたものであったが、どちらも引く様子は見せない。木場も殺気を向けることは無かったが強烈な敵意を当てシンの意志を挫こうとするが、その敵意を受けてもシンの顔色は何一つ変わらない。

 

「相手がどんな言葉を吐こうとも、交渉の場で血でも流させたらその時点でこっちが悪だ。お前は部長に恥をかかせるどころか顔に泥まで塗るのか?」

 

 そう言われ、僅かに木場の敵意がほんの少しではあるが緩まる。完全には納得していないが、恩義のあるリアスの名前を出されたことに多少なりとも罪悪感を覚えたらしい。

 

「ふむ。中々面白い展開になってきたな」

 

 他人事のように言うゼノヴィアの一言に流石にシンも腹立たしさを覚え、首だけ背後に向けた。

 

「少し黙っていろ。この馬鹿二人が」

 

 元はと言えばゼノヴィアとイリナが不用意な言動をしたことが原因である。あのまま帰っていればこのような事態にはならなかったのかもしれないと思うと、シンは思わず直球の罵声を浴びせてしまった。

 

「どうやら揃いも揃って悪魔として教育不足のようだな、グレモリー。彼らの寿命が縮むことになるぞ」

「祐斗は私の眷属だけれどシンは違うわ。彼は人間よ。少し特殊な事情があって私の協力者になってもらっているの。言っておくけど、眷属でなくとも私は彼のことは重宝しているから、下手なことは考えないでね」

 

 シンという人間がグレモリーの庇護の下にいることを告げる。リアスの言葉が思ってもいないことだったのか、僅かに目を丸くしたイリナとゼノヴィアがシンを凝視する。

 

「人間が悪魔に協力をするか……嘆かわしいな」

「貴方って『悪魔崇拝者〈サタニスト〉』なのかしら?」

「生憎、悪魔に祈りを捧げたことはない。勿論、神様にもだ」

 

 言い切ったシンは視線の圧力が僅かに増すのを実感する。教会の教えを遵守して生き、神に祈りを捧げることを当たり前として生きてきた人間から見れば、自分と言う存在はさぞかし不真面目な存在に映るのかもしれない。

 

「無神論者か……この国特有だな」

(別に神様に祈りはしないだけでその存在を否定はしていないがな)

 

 今心の裡で思ったように、シン自体は神という存在について不思議と信じていた。自分の性格からして真っ先に否定をするようなものであるが、空想の産物と言って切り捨てず、ただ漠然とどこか高みにいて、自分たちを見下ろしているのではないかと思っていた。

 

「十数年間、まともに祈らず生きてきたんだ。今更手の平を返して祈り始める方が不敬じゃないか?」

「神に祈るのに遅いも早いも無い。どれだけ深いかが重要だ」

「そうよ。必要なのは絶えず神への愛を感じ祈ること。ここで貴方のような存在と会ったのも神が与えて下さった試練! さあ、今すぐ悪魔と手を切って私たちと共に主への信仰を行いましょう!」

 

 まさかこの場で宗教への勧誘をされるとはシンも想像出来なかった。二人の顔は一切茶化している様子は無く至極真面目なものだ。特にイリナの方は目をぎらつかせながら鼻息を荒くして誘っている。

 

「だから――」

「そこまでにしてもらおうかな」

 

 言い掛けたシンの言葉は木場の声とシンとゼノヴィアたちを間を塞ぐようにして並び立つ数本の魔剣によって中断される。

 

「ああ、そう言えばこういった状況だったな。私としたことがうっかりしていたよ」

「……挑発のつもりかい?」

 

 本気か冗談なのか、真顔で木場の存在を忘れていたというゼノヴィアの言葉。それは木場の神経を逆撫でするには十分なものであり、より殺気を凝縮し零下の瞳で二人を射抜く。が、ゼノヴィアとイリナの態度は微動だにせず、それがより木場を苛立たせた。

 

「気分を害したのか? 教会に身を置くものとして闇に囚われている哀れな子羊が居れば、それに救いの手を差し伸べるのは当然のことであり優先すべきことだと思うが?」

「それは僕の存在が眼中にない、という解釈でいいのかな?」

「君の想像に任せる」

 

 最早互いが衝突するのが、秒読み段階に入ってきたことが分かる。今の木場の形相は鬼と称してもいい程であり、荒れ狂う感情が部室の中を満たしていく。対するゼノヴィアとイリナも表情は最初の時と変わらないものの、二人ともいつでも構えられるよう手がエクスカリバーへと置かれており、微塵も油断が無い。

 

「祐斗! そして貴女たちも待ちなさい!」

 

 この張り詰めた空気の中それを打ち砕こうと声を張り上げたのはリアスであった。その声に反応しゼノヴィアとイリナは視線をリアスへと向けたが、木場の視線は二人に固定されたまま動こうとはしない。

 

「何かなグレモリー? 今、君の眷属に勝負を挑まれている最中なのだが」

「それは……分かっているわ……」

 

 止めに入ったリアスであったが、非常に苦しい立場にあった。この件の発端は間違いなく教会の二人のアーシアへの言葉から始まっているが、一誠がそれに反論していた段階ではまだ口論の内であった。だが、そこに木場が魔剣を無数に携えて危害を加えようとした為に、リアスは分の悪い立場となってしまう。

 この場を切り抜ける方法としては、二人の前で主自らが眷属に制裁を加えるという方法もある。しかし、木場の過去を知っているリアスとしては木場に対し制裁を加える気は起きず、またリアス自身そういった方法を好まない。

 この場を切り抜けるにはどうすればいいのか、制止の声を出したリアスは、頭を全力で回転させ方法を考える。思考するリアスの沈黙はほんの数秒ほどだったが、その間絶対零度の空気が場に漂い、その中でリアス以外の眷属たちは、各々が思いつく限りの最悪の事態を想定しつつ、木場の挙動を逐一見ていた。

 部室に掛けられてある時計の秒針が12の文字を通過したとき、考えが纏まったのかリアスが口を開く――

 

「一つ提案があるのだが?」

 

 ――前にゼノヴィアが口を開いた。

 

「何かしら?」

「このまま何もせずに帰っても彼らとの遺恨が残るだけだ。ここは一つお互いの気持ちを整理するために『決闘』を行ってはみないか?」

 

 思わぬゼノヴィアの提案。しかしリアスの渋面は変わらない。

 

「あくまで私とイリナ個人が行う私闘という形での決闘だ。このことは教会には一切話さないし、そちらの眷属を殺さないことを誓おう。なんならきちんとした効力を発揮するように契約の書面を書いてもいい」

 

 リアスにしてみれば都合のいい展開であったが素直に喜ぶことは出来ない。相手の真意が分からない為慎重に言葉を選ぶ。

 

「本当の目的は一体何かしら?」

「そうね。もしこの決闘で私たちが勝ったら、貴女の縄張りに関する情報を全て提供するというのはどうかしら? 万が一私たちが負けた場合は、貴女の縄張り内では貴女の指示に全て従います。ああ、それとアーシアという子に言った言葉を全て訂正して謝罪するのも付け加えるわ」

 

 ゼノヴィアたちが勝ったのなら縄張り内の行動の黙認から全面支援へと繰り上げられ、敗ければ行動の指揮権を得られるという。悪魔としては教会を全面的に助けるという行為はあまり快いものではないが、反面好き勝手されないように制限を与えることも出来る。

 リアスの出す答えは――

 

「受けるわ、その決闘。祐斗、貴方もいいわね?」

 

 ゼノヴィアとイリナの提案を了承し木場に意志を尋ねる。少なくとも木場が望む、エクスカリバーと真正面から戦える権利を得たことになる。

 木場は無表情を続けていたが、やがて宙に留まる魔剣の群を消し、両手に持った魔剣も消す。それは木場もまた、ゼノヴィアたちの提案を呑んだ証であった。

 

「リアス・グレモリーの眷属の力、試させてもらおう。――そして『先輩』の実力の程もな」

「そういうこと、さあ私と勝負をしましょう! 兵藤一誠君!」

「……え?」

 

 イリナから決闘の相手として名指しされた一誠は呆けた声を出す。話の流れからゼノヴィアと木場の決闘だと思っていたのか、自分も参加することは予想できていなかったらしい。

 

「え……え? 俺も戦うのか?」

「兵藤一誠君……いいえ、昔の幼馴染としてイッセー君と敢えて呼ばせてもらうわ。イッセー君、時間の流れってとても残酷よね。かつては一緒に日が落ちるまで、泥だらけになるまで遊んでいた友達と再会をしたら、まさか主の敵である悪魔に堕ちていたなんて。そして、その悪魔を滅ぼせる聖剣が私の手の中にあるなんて……」

 

 戸惑っている一誠の前でイリナは瞳を潤ませ、過去を懐かしく思いながら自分と一誠との立場の違いを嘆くように喋り出す。

 一誠としても、アーシアについて口論した敵対関係になる前は友人関係であった、幼馴染の少女の心境に同情を覚えたのか、何も言えず口を閉ざしていた。

 だがそんな一誠の前でイリナは突如弾ける。

 

「だからね、これは主が私に与えた試練だと思うの! 悪魔として堕落してしまった昔の友達を私の手で救うという厳しい試練! イッセー君、今は悪魔となってしまっても貴方のことは嫌いじゃなかった――でもそれはそれ。私は主によって与えられたこの試練を乗り越えなければならないの! それを乗り越えてこそ私が日々積んできた信仰を更なる高みへと押し上げていく筈だから! イッセー君! 私と決闘し、そして悪魔となってしまった罪を裁きましょう! 安心して、私の思い出の中のイッセー君はあの頃のままの綺麗なイッセーくんのままだから……アーメン!」

 

 口早に出て来るイリナの言葉。当の本人は自分の置かれた状況を嘆き、悲しみ、そして乗り越えようとしていると思っているが、第三者からすれば自分の言葉と信仰に酔っている風にしか見えず、先程まで同情していた一誠も明らかに可笑しいと思ったらしく引き攣った表情をしていた。

 

「……イタイ」

「塔城、思っていても口にしないほうがいい」

 

 無口の小猫から思わず出た感想は実に的確なものであったが、聞かれたら厄介なのでシンが軽く窘める。部室のメンバーの大半は小猫と似たような感想を抱いていたが例外としてゼノヴィア、そして何故かアーシアもイリナに同情するような視線を送っている。

 

「イリナ、君の気持は痛い程分かる。乗り越えようこの試練、供に」

「ゼノヴィア……」

「イリナさん……」

「ありがとう。私の為に悲しんでくれて……貴女の『聖女』という名、伊達じゃなかったわね」

 

 同じ信仰をしていた三者によって形成される微妙な空気。失礼とは承知でこのときシンの脳裏に、寸劇という言葉が浮かんでいた。

 

 

 

 

 木場、そしてなし崩しに参加することとなった一誠の決闘前に準備が欲しいとリアスはゼノヴィアたちに言い、それをゼノヴィアたちは了承し三十分の準備時間が設けられることとなった。

 ゼノヴィアたちは一足先に決闘を行う場所に向かい、木場は風に当たってくると言って部室の外へと出て行ってしまった。今の木場の不安定さに不安を覚えていたリアスは小猫と朱乃に木場の監視を命じ、二人はそれに応じて木場が部室出て少し間を置いてから退室をしていった。

 今の部室に残っているのはリアス、アーシア、一誠、シン、ジャックフロスト、ピクシーの六名である。

 

「時間も余り無いから手短にこれを見て聖剣について学びましょう」

 

 リアスが机の引き出しからDVDのケースを一枚取り出す。そのケースにはゴシック体の黒文字で『聖剣の恐怖特集!』とタイトルらしきものが書かれえていた。

 

「何ですか、それ?」

「魔界でも数少ない聖剣所有者と、上級悪魔が戦っている場面を録画したものよ。これを見て聖剣が如何なるものかをイッセーに学んでほしいの」

 

 あくまで口頭でしか聖剣の恐ろしさを知らない一誠に見て学ばせようとするリアス。戦う前に見るのは逆効果ではとシンは一瞬考えたが、知らないよりも斬られたらどうなるか予め知っていた方が必死になって回避するかもしれないと思い、特に口を挟むことは無かった。

 

「それじゃあ見るわよ」

 

 リアスはケースからDVDを取り出し、部室に置かれてあるプレイヤーの中に挿入する。

 それから十数分後。

 

「これが聖剣よ。分かったかしら」

「……はい」

 

 中身を見終わった一誠は、青白い顔をしてリアスの言葉に一応返事をする。そのまま気分転換でもしようとしたのか置かれていたティーカップを手に取るが、心なしかカップが小刻みに震えて見えた。一誠の隣に座っているアーシアも蒼白な表情となっており、口元を押さえ言葉が出せない様子である。

 それほどまで彼らに聖剣の恐ろしさが刻まれていた――と思われるが、実際は違う。

 

「うう……気持ち悪かった……」

「ヒーホー……今晩ご飯が食べられないホー!」

 

 全員が青褪めているのは聖剣の恐怖もさることながら、兎に角DVDの中身が徹頭徹尾非常にグロテスクな内容であったからだ。始まって早々から血飛沫が飛び交い、どこに収められていたのか分からない内臓が外にこぼれ出し、吐瀉物が撒き散らされる等々、一秒たりともそれらが映らなかった場面は無いと言っても過言では無い血生臭い内容。

 

(まるでスプラッター映画だったな……まあ、殺し合いの場面を映しているから仕方の無いことか)

 

 聖剣の効果を教えるものであったが、それ以外のものが強烈過ぎて印象は薄い。確かに聖剣で斬られた部分が煙を立てて消滅する場面があったが、血などが出ていないせいで健全にさえ見える。

 リアスは慣れているのか表情は変わらないものの、耐性の無い他の一同の精神は戦う前からこれでもかというぐらい疲弊していた。

 

「そろそろ時間ね。皆、場所を移動するわよ」

 

 時計を見たリアスがそう指示すると、先程の映像を吹っ切るように一誠は勢い良く立ち上がる。それを見たアーシアもまた一誠を見習い、頬を軽く叩いた後に同じく勢い良く立つ。

 リアスを先頭にして、戦いの場所となる球技大会に向けて練習をしていた旧校舎の裏手を目指し歩いていく。

 その道中、一誠がシンの隣に移動し小声で話し掛けてきた。

 

「なあ、実際の所俺って彼女たちに勝てると思うか?」

 

 少しだけ不安を覗かせた一誠の声。リアス、アーシアなど女性の前では馬鹿みたいに体を張る一誠であるが、心のどこかに不安を覚えているらしく弱音らしきものを見せる。それを見せるのはシンの性格と、普段から共に実戦形式で戦っていることで培われた信頼から来るものであった。

 

「勝てる、とは断言しないが少なくとも――紫藤イリナだったか?――にお前が負ける姿はあまり想像出来ないな。お前には『切り札〈ロンギヌス〉』がある訳だしな」

 

 そう言ってシンは一誠の左腕を見る。今は姿を見せていないがそこには『赤龍帝の籠手〈ブーステッド・ギア〉』というエクスカリバー以上の武器が眠っている。

 

「胸を張れ。お前が最強の『兵士』になるのを諦めない限り、お前とその籠手は強い」

「間薙――ああ、そうだな」

(フッ、分かっているじゃないか、小僧)

「……何か言ったか?」

「いや! 何も!」

 

 背中を後押しするシンの言葉に、幾分緊張が解れた様子の一誠。だが、シンは一誠よりも心配とする人物がいた。

 

「問題はあいつの方だな」

「あいつって……木場か?」

 

 シンは首を縦に振って肯定する。

 

「間薙は木場とゼノヴィア、どちらが勝つと思っているんだ?」

「木場」

 

 迷わず即答する。が、その言葉の後に、ただしと語句を続ける。

 

「普段の木場だったらの話だ」

 

 

 

 

 旧校舎の裏手に着くと、既にそこではゼノヴィアとイリナが戦闘準備を完了した状態で立っていた。纏っていた白のローブを脱ぎ捨てた二人は、黒革のような材質で出来た、体型が一目で分かる程密着した戦闘用の装束を一誠たちの前に晒している。

 

「どうやら全員揃ったみたいだな」

 

 エクスカリバーに巻き付いた布を取りながら視線をリアスたちから離し別の方向へと向ける。そこには既に『魔剣創造』を発動し周囲に何本もの魔剣を浮遊させた木場が立っていた。その顔には歪な笑みが浮かんでおり、普段の木場を知る者ならば想像出来ない程の不気味さを放っている。

 木場が現れてから間もなくして朱乃と小猫も姿を見せ、禍々しい敵意を放ち続ける木場を不安そうな眼差しで見ている。数年間同じ屋根の下で暮らしてきた故、兄あるいは弟を心配する身内の心境なのであろう。

 現れた朱乃にリアスは目線で指示を出す。朱乃は頷くと小声で詠唱を始め、魔力を集中し終えると軽く手を払う、すると周囲一体を膜の様に覆う結界が形成された。外部にこの戦いが洩れないようにする為の処置である。

 そんな光景が拡がっていく中、一誠は現れた木場の様子から目を離すことが出来ずにいた。

 

「木場……お前……」

 

 いつも異性から黄色い声援を送られ、それに絶えず爽やかな笑顔を送っている木場の見せる憎悪に塗れた顔に、一誠は何とも言えない気分となる。普段からはモテる奴は絶滅してしまえばいいと思い、その中の筆頭である木場に対してもそれを言葉にして何度もぶつけていた。今の木場の顔を見れば、彼に対し熱い視線を送っていた女生徒たちの気持ちも冷めるかもしれない。だが一誠は、正直今の木場をこの場に居るメンバー以外見せたくは無かったし、自分も見たくは無かった。

 

「――嫌な顔だ」

 

 一誠と同じくしてシンもまた小さく呟く。それは一誠と同じ気持ちから呟いた言葉であり、高校一年の頃からという長いとは言えない付き合いであるが、それでも友人として接してきた存在が見せるあのような笑みは見たくはない。

 

「それは思い違いだよ」

 

 二人の声が耳に届いたのか、木場の視線が一誠たちの方へと向けられる。

 

「これが僕の本当の顔なんだ。ずっと……ずっと待っていた。打ち倒したくて、壊したくてたまらない聖剣が現れるのを……それがいざ目の前に現れたら君たちだって笑うだろ、……嬉しくってさ? だからこれが僕の本当の顔なんだ……そう、この顔でいいんだ僕は……」

 

 初めは他者に聞かせるようであったが、言葉の後半になると、まるで自分へと言い聞かせる独白のように聞こえてくる木場の言葉。それが今の木場の精神の不安定さを示しているかのようであった。

 

「あの場でも見たが成程、『魔剣創造〈ソード・バース〉』か……話には聞いていたが目にするのは初めてだ。魔剣系神器の中でも希少なもの。あの計画から生き延びたのも頷けるな」

 

 一人納得するゼノヴィアに木場の殺気が密度を増す。教会の人間が木場にとって最大のトラウマである計画に少しでも口にするだけで感情が高まるらしい。

 木場が歩み出しゼノヴィアたちの方へと近付いていく。一誠もまた木場の跡を追って小走りで駆けだしていくがその途中、後ろへと振り返りシンたちに意味ありげな視線を送った。視線の中に混じっていたのは不安の色であり、その不安は試合形式で行う筈の決闘の中で木場が暴走し、殺し合いに発展させるかもしれないという所から来ているものであった。

 リアスたちも一誠の感じた不安を共通で抱いており、代表してリアスが力強く頷く。それは、もし木場が思わぬ行動に出ても自分たちが止めるという言葉の代わりであった。一誠もその頷きの意味を理解できたのか、少しだけ不安を和らげてから前を向く。

 一誠と木場の二人がゼノヴィアとイリナの前に並び立つ。

 

「さあ、イッセーくん、裁きの時が来たわ……ぐすっ、本当に運命というものは残酷ね。幼馴染が記憶を交えて過去の思い出話に花を咲かせるではなく、互いに力を交えて血の華をさかせることになるなんて……ああ! でもそれこそがエクスカリバーを手にした者にこそ訪れる試練! イッセーくん! 私は貴方の屍を乗り越え信仰の道を進むわ!」

「あれ? これって殺し合いじゃなくて試合だよね? 部室のときもそうだったけど俺のことを殺すことが前提になってない?」

「『擬態の聖剣〈エクスカリバー・ミミック〉』よ! 今こそ私に試練を打ち破る力を授けたまえ! アーメン!」

 

 感極まって瞳から涙を流すイリナ。完全に自分の世界に入ってしまっており、一誠の言葉も碌に耳に入っていない様子であった。

 

「頼むからこっちの話も聞いてくれ! ああ、もう! 『赤龍帝の籠手』!」

 

 泣いているがどこか喜色も混ざって見えるイリナの姿に一誠は半ばやけになりながらも『神滅具』を発動させ自らの左手に『赤龍帝の籠手』を出現させる。

 この戦いの場に『神滅器』が現れたことにゼノヴィアとイリナも素直に驚きの感情を見せた後、表情を厳しいものと変える。

 

「……まさかイッセーくんが『赤い龍の帝王』の力の所有者だなんてね……本当にあなたには驚かされるわ」

「『魔剣創造』に『聖母の微笑〈トワイライト・ヒーリング〉』か……悪魔とドラゴンは力を引き寄せるという話はどうやら眉唾物ではないらしい」

 

 警戒の色を強くする二人の前で『赤龍帝の籠手』の固有能力である能力の倍加が発動し、一誠の力が倍となる。そして、それと同時に一誠の隣に立つ木場の姿が消え、次に現れたときにはゼノヴィアと剣を交える状態となっていた。

 

「だからこそ悪魔になったこともイッセーくんが現れたのも感謝しないといけない。想像していたよりも早くエクスカリバーが僕の前に現れたのだから!」

 

 擦れ合う金属音の中で、木場は思いを吐き出しながら二本の魔剣を交差して押し付ける。だがゼノヴィアも悪魔の身体能力に勝るとも劣らない力を見せ、その場から一歩も動かずに止まる。

 

「執念深いな。このエクスカリバーを君の同志たちの墓に捧げるつもりかな?」

「笑わせてくれるね。同志たちの墓に折れた聖剣なんて相応しくない!」

「そちらも笑わせてくれる」

 

 ゼノヴィアの口の端が微かに吊りあがり、木場の口元にも似たような笑みが浮かび上がる。

 木場は鍔迫り合いの中、周囲に浮かぶ魔剣の群の先端をゼノヴィアへと向けると、それぞれタイミングを僅かにずらしながら発射する。相手が回避し難いよう行動の隙を突く様な魔剣たちに、ゼノヴィアは表情一つ変えず後方へと一気に飛ぶと、迫る魔剣の一本を横薙ぎに振り払う。甲高い音によって魔剣は剣身の半ばからへし折られるがそれだけでは終わらず、折れた部分が後から押し寄せてくる魔剣たちへと接触すると、それすらも容易に砕いてしまった。これには木場も驚き、軽く息を呑む。

 直撃だけではなくそれによる余波だけでも破壊してしまう、ゼノヴィアのエクスカリバー『破壊の聖剣〈エクスカリバー・デストラクション〉』。ゼノヴィアはその先端を木場へと向けてこう告げる。

 

「このエクスカリバーの前では数など無意味。全て破壊し無に変えるだけだ」

「……それでも押し切る!」

 

 木場は魔剣を構え直し、ゼノヴィアへと向かうのであった。

 木場とゼノヴィアの戦いが激しく始まったのとは対照的に、一誠とイリナの戦いは静かに幕を開ける。

 

「いくわよ、イッセー君!……そして思い出をありがとう!」

「やっぱ殺すこと前提にしているよな!」

 

 『擬態の聖剣』を構えたイリナがエクスカリバーの間合いになる距離まで一気に飛び込むと、上段の構えから振り下ろす。一誠は右に大きく跳びそれを回避するが、イリナもまた倍加した状態の一誠を凌ぐ程の身体能力であっさりと距離を詰めると、下から斜め上に斬り上げる。

 

「なんの!」

 

 今度は回避するのではなく籠手をエクスカリバーの前に出すと、腕から手の甲の上を滑らす様にして力を流す。一誠の狙い通りにエクスカリバーを大きく振り上げた格好となったイリナに左腕を突き出そうとするが、そのとき見えたイリナの顔に焦りがないことに気付き左腕を動かすのを止め、殆ど勘任せでその場から離れる。

 その直後、振り上げられていたエクスカリバーが初撃をはるかに上回る速度で振り下ろされ、地面を深々と斬り裂いた。

 それに目を剥く一誠であったが、そのまま驚き続ける暇も無くイリナは地面へと刺さったエクスカリバーを引き抜くと、間合いの外に立つ一誠にそれを振るう。その瞬間、『擬態の聖剣』が使い手の意志を反映して剣身を変化させる。固い筈の剣身はいきなりしなり始め、そのまま剣身の半ばから伸び始めると鞭の様になって一誠へと襲い掛かる。

 首元目掛け迫る白刃に、一誠は咄嗟に身を低くして避ける。すると弧を形作る『擬態の聖剣』の剣身の一部が隆起し、そこから第二の切っ先が現れしゃがむ一誠を狙い射出された。

 

「うらあっ!」

『Boost!』

 

 隠し刃に意表を突かれるが、それでも日々鍛えてきた一誠の反射神経は主の命を守る為に全力で稼働し、倍加の後押しもあって一誠の左腕を拳を突き上げる形で刃の前に持ってこさせる。しかし――

 

「重っ!」

 

 重量など感じられない『擬態の聖剣』の先端が籠手へと直撃すると、一誠はそのまま弾かれて数メートルの距離を後転していく。全身の至る所に土埃や草を纏わせながらも後転の勢いを利用し立ち上がる一誠。押されてはいるが未だに無傷の一誠に、イリナは感心した様な眼差しを向けた。

 

「やるわね。さっきの攻撃は当たると思っていたんだけどね。生半可な鍛え方はしてないようね、イッセー君」

「いろいろと周りに手伝ってくれる人たちがいるからな。だから聖剣相手でも粘るよ、俺」

『Boost!』

 

 三度目の倍加により一誠の能力はさらに上昇。これを機に反撃に移ろうと一誠は考えているのか表情が一層引き締まる。が、すぐにその表情に煩悩めいたものが混じり始める。

 

「……狙っていますね」

「……狙っているな」

 

 その表情と左腕に集束していく魔力を見て一誠が何を狙っているのかすぐに察する。山での合宿で一誠が身に付けた対女性用限定技『洋服崩壊〈ドレス・ブレイク〉』。その名の通り女性の衣服を剥ぎ取る為に編み出した技である。

 

「……気をつけてください。その人の手に触れると服が全部弾け飛びます」

「小猫ちゃん!」

 

 練っていた作戦が小猫の一言で全て水泡に帰した一誠が、裏切られたような顔でシンたちの方を見たが、小猫はしれっとした表情のままである。

 

「イ、イッセー君! 堕落していることは分かっていたけどまさかそこまでの最低な変態に! そんな色欲の権化のような技は最低よ!」

 

 顔色を変え、身を守るように自分を抱きしめるイリナ。

 

「ああ、主よ! この哀れな変態悪魔に慈悲を……」

「人を可哀そうな奴扱いするな!」

「実際、可哀そうだろ」

「うるせぇよ! 味方まで俺の心を傷付けないでくれ!」

「イッセーさん! そ、そんなに女性の裸を求めているのなら! 私が……!」

「……アーシア先輩にここまで言わせるなんて……最低です」

「二人の心が嬉しくも悲しいよ!」

 

 若干生温い空気に染まっていく場。だがそれを断つかのような轟音と地響きが起こり、ゼノヴィアと木場が戦っていたであろう場所に大量の土煙が舞う。その土煙を破り、中から転がり出て来る影があった。

 何度も地面に身体を打ちつけてから立ち上がるその影は木場であり、鍔の根本から砕けた魔剣と、剣身を半ばで砕かれた魔剣を握り締めている。

 目立った傷は無いが荒く息を吐く木場。その態度には明らかな苛立ちが混じっている。

 

「さっきも言ったはずだ。数など無意味、とな。どんな特性を持つ魔剣であろうとこの『破壊の聖剣』の前では全ての有象無象は塵と化す」

 

 土煙の中から歩いて出て来るゼノヴィアに木場は唇を噛み締める。歯が唇を破り、一筋の血を流すも木場は拭うことなくゼノヴィアを睨みつける。

 

「それがどうしたんだい? その言葉を聞いて僕が諦めると思っているのかな? エクスカリバーを破壊することが楽な道ではないなんて最初から分かっていることさ……だけど僕は成し遂げねばならない!」

 

 木場の頭上、そして足下から無数の魔剣が顕現する。今の木場が持てる魔力ほぼ全てを注ぎ込んで作り上げる魔剣の園。

 

「僕は二度とエクスカリバーには負けない! 数が無意味? ならその数の力で押し切らせてもらう!」

 

 無手の木場が駆け出すと共に浮かぶ魔剣たちも突貫する。

 

「二度?……まあいい、全て破壊するのみだ」

 

 木場は走りながらも後方から飛んできた魔剣を二本掴むとそのままゼノヴィアに斬り掛かる。軽く振るったようにしか見えないゼノヴィアのエクスカリバーが魔剣へと触れた瞬間、二本の魔剣はあまりに簡単に砕かれるが、木場は構わず何も握っていない状態で剣を振るう構えをとる。するとその手の中に新たな魔剣が収まり続け様にゼノヴィアへと斬撃を繰り出した。

 

「ほお?」

 

 軽く感心するゼノヴィアは新たに握られた魔剣も砕くが、すぐに地面から突き出してきた魔剣の柄を握り、木場は下から斬り上げる。

 砕ける度に魔剣を補充し絶えず攻撃をし続ける木場。ゼノヴィアもその度に破壊していくがどちらも一歩も譲らない展開となる。

 それを見ているシンであったが、どうしても木場が勝つ姿が浮かばない。普段の木場ならもっと足を生かした戦法を使う筈だが今の木場は正面から聖剣を破壊することに固執しており動きが直線的に見えた。

 いざというときには恨まれるのを覚悟で戦いを中断させるよう見学という立場をとったが、それは木場が命を奪う為では無く木場の命を守る為に止めるという目的に変わりつつあった。

 

「もらったぁ!」

 

 一方で一誠とイリナの対決も互角の勝負となっていた。イリナの動きについていき尚且つ相手の動きの先を読みながら攻撃を行っている。イリナは小猫からもたらされた情報で必死に触れまいと回避し、距離も開こうとするがそれにも喰らい付き、一定以上の距離が開けられない。

 そのとき、がくんとイリナの膝が折れる。元々碌に整備をされていない土の上である為、運悪く窪みに足をとらわれたことによって出来てしまった隙。それを鷹の目の様な眼光をした一誠は見逃さず、その場で大きく跳び上がり倒れそうなイリナへと突っ込んでいった。

 しかし、このときイリナはその場で踏みとどまるのではなく後方へと倒れるという行動をとる。そして倒れる勢いで足を振り上げると巴投げのような形で一誠の腹部へと押し付け、そのまま背後に向けて投げ飛ばす。

 

「なっ!」

 

 勢いを殺せぬまま一誠は結界を通り越し、その先に立っている小猫とアーシアの下に向かっていき、その手が彼女たちに触れる。

 

「ぐっふ!」

 

――かに思えたが、突如として一誠と小猫たちの間を遮るように分厚い氷の壁が出来上がり、一誠はそこに頭から衝突し蜘蛛の巣状の罅を氷壁に刻んでから頭を押さえて悶絶する。

 氷の壁の根本、そこには両手を地面に着けたジャックフロストの姿があった。

 

「……ジャック君ナイス」

「ヒホ!」

 

 親指を立ててジャックフロストの行動を褒め称える小猫に、ジャックフロストも親指を立てて応じる。

 

「大丈夫ですか、イッセーさん! 今すぐ治療を……!」

「だ、大丈夫だから……これは決闘だし……アーシアが『神器』を使ったら反則になる……」

 

 悶えている一誠の近くにシンが近寄る。

 

「よかったな仲間に手を掛けずに済んで。俺もお前を軽蔑せずに済んだ。ジャックフロストに礼を言っておけよ」

「こ、心遣い感謝するが……首が縮まるかと思った……」

「事故と思って諦めろ。それとそのままの状態で聞いてくれ」

 

 シンは声を潜めだす。

 

「この戦い、木場は負ける可能性が高い」

 

 悶えていた一誠の動きが止まる。

 

「お前も気付いているだろ? 木場の動きのおかしさに。あの状態が続けば遅かれ早かれ木場は打ち負ける……だからこの勝負お前は勝ってくれ」

 

 一誠が顔を上げ、シンの方を見る。

 

「お前が勝てば引き分けに持ち込めるかもしれない。そうすれば勝ち負けに代償も無しになる。お前だって部長が教会の人間にいい様に使われるのは嫌だろ? ……だから勝ってくれ、頼む」

 

 真摯に頼むシンに一誠は唇を固く結び、力強く立ち上がる。

 

「任せろ」

 

 一言、言ってイリナと対峙する為に歩き始める。

 

「イッセー君、そんな卑猥な技ばかり使っているといつか天罰が下るよ? 悪いことは言わないからあの技を使うのを止めた方がいいよ?」

「分かった」

「えっ?」

 

 呆れた様子で忠告をするイリナであったが、その言葉を一誠はあっさりと了承したことで呆けた声を出す。外野一同もイリナと同じく驚いた様子で一誠を見始める。

 

「どうしたのイッセー! 急に!」

「まさかさっきの衝撃で頭が!」

「……ショック療法」

「イッセーさん! やっぱり治療を!」

(やっぱりこういった認識なんだな)

 

 何気に酷い言葉が飛び交う中、一誠の籠手が倍加を告げる音声を出し、一誠はその状態で倍加を停止させる。

 

「『洋服破壊』の代わりに密かに特訓していた、とっておきの新技を見せてやるぜ。驚くなよ、イリナ!」

 

 一誠がイリナの前で両手の手首を合わせた構えをとる。それは一誠がドラゴンショットという魔力波を放つ構えと同じであったが、新技というからにはドラゴンショットを放つ為のものではない。

 手首を合わせた状態で右手と左手の指を組ませて閉じるとその中で魔力を収束させ始める。その魔力の密度にイリナは頬から汗を流し警戒の色を強める。

 そして閉じた両手を開くとそこには直径五センチ程の魔力の塊が出来ていた。一誠はそれを左手で掴み、突き出しながらイリナへと投げ放つ。

 

「『D2ショット』!

 

 技名らしきものを叫びながら放たれた魔力の塊は、ドラゴンショットのように巨大化することなく、硬球を投げた程度の速度でイリナへと向かい真っ直ぐ飛んでいく。

 

「この程度!」

 

 避ける必要も無いと言わんばかりにイリナがエクスカリバーをその魔力の塊に向けて払う。エクスカリバーと接触した瞬間、魔力の塊は爆発どころか音も無く、煙を散らすかのようにあっさりと霧散し消えてしまった。

これには見ている方も消し去った本人もあまりの呆気なさに戸惑う。そんな中、シンは一誠を見る。そこには不気味で不敵な笑みを浮かべる一誠がいた。

 

(嫌な予感がする)

 

 そう直感で思ったとき、ビリッという何かが裂ける音がした。音源の方を見るとそこには戸惑う顔をしたイリナの姿。

 再びビリッという音がするとイリナの手首辺りから何かが地面へと落ちる。落下した物体を見るとそれはイリナの戦闘服の切れ端であった。

 

「ま、まさか……」

 

 引き攣った顔をし始めるイリナの耳に今度は連続して裂ける音が聞こえ始める。見れば手首から腕にかけて衣服が次々と崩壊をし始めていた。

 

「きゃあ!」

 

 破れた部分を押さえるが効果は無く、今度は腕から肩にかけて崩壊し始める。

 

「いやあ!」

「隙あり!」

 

 衣服の崩壊に意識を傾けていたイリナに接近した一誠は、手に持っているエクスカリバーの柄頭を拳で突き上げ、高々と宙に放らせた。

 

「しまっ、きゃん!」

 

 そのままの流れで一誠はイリナの腹部に体当たりして地面へと押し倒すと、馬乗りになってイリナの身動きがとれないようにする。

 

「ふっふっふ! 見たか! 俺の新技『ドラゴン・ドレスブレイクショット』略して『D2ショット』の威力を!」

「どいてぇ! このままじっくりと脱がされていくなんて嫌ぁ!」

「安心しろ。この技はまだ未完成だから全部剥ぎ取られることは残念だが無い」

 

 一誠の言った通り衣服の崩壊はイリナの肩までで止まっており、そこから浸食していく気配は無かった。

 

「やっぱりエッチな技じゃない! 本当に天罰下るよ、イッセー君!」

「ふはははは! 何とでも言ってくれ! 『洋服破壊』はいつか見ただけで衣服を壊すまで昇華させるつもりなんだ! この技はその為の汗と努力による偉大な一歩だ!」

 

 高笑いをしながら自らのドラゴンショットと『洋服破壊』の合わせ技を誇らしげに語る。そんな姿にリアス、朱乃は苦笑しアーシアは微妙な顔付きとなり、ピクシーとジャックフロストは爆笑していた。

 

「……最低です……最低過ぎます」

「……あいつ、いつか訴えられるだろうな」

 

 小猫は軽蔑の言葉を口にし、シンはほんの数分前のやりとりは何だったんだろうかと思いながら、笑う一誠の姿を見ているのであった。

 

 




真面目且つ不真面目な戦い。でもこういった戦いはこの章ではこれで最後の予定です。
今年も今のペースで書いていけたらなと思っています。

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