ハイスクールD³   作:K/K

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行動、惨状

 一誠はゼノヴィア達との交渉が終わるとすぐ木場の携帯へと連絡を入れた。そして、聖剣の破壊についての話と、今ゼノヴィアたちと共に居て、木場にもこの場に来てほしいと頼む。

 昨日のこともあり木場も難色を示すかと一誠は思っていたが、予想に反して『分かったよ』の一言で了承し、あっさりとファミレスに来ることとなった。

 三十分もしないうちに木場はファミレスの店内へと顔を出し、一誠たちの顔を見ると少し翳りのある微笑みを浮かべた後、ゼノヴィアとイリナの姿を目に入れその微笑みを消す。会うことは了承したが、まだ割り切れない部分がある様子であった。

 木場はゼノヴィアたちと向かい合う様にして座る。そこにウエイトレスがやって来たので、木場はコーヒーを注文した。

 木場のコーヒーが来るまでの間、木場、イリナ、ゼノヴィアとで会話が発生する事無く、重苦しいとまではいかないがやや固い空気が場に満ちる。数分後、木場の注文したコーヒーがテーブルの上に置かれ、それを一口飲んだ後、木場から話を切り出した。

 

「エクスカリバー使いがエクスカリバーの破壊を承諾するとは正直意外だったよ。でも、意に背くものなら何でも切り捨てるのは君たちらしいと言えるかな」

「いきなり言ってくれるな。まあ切り捨てられた者特有のものの言い方だ。僻みに満ちているな」

 

 木場とゼノヴィア、互いに毒を吐き出す。二人の容赦ない言い様に空気は一気に殺伐としたものとなり、木場と教会の二人を引き合わせた一誠は、いますぐここで戦いでも始めるのではないかと心配し、両者の顔を何度も往復して見る。

 

「どんなに年月が経っても『聖剣計画』への恨みは消えないみたいね。中心となったエクスカリバーと、それを行った教会への憎しみも」

「当然だよ。年月が経てば全て忘れられるほど、僕は割り切った性格はしていない。あの日起こったことは今でも鮮明に覚えている」

「非人道的に思える計画だけど、それによって得られたものもあるわ。あの計画で聖剣使いの数は一気に伸び、それによって救われた命もある。無駄な犠牲じゃなかった」

「それがどうしたっていうんだい? 今の幸福が過去の不幸を帳消しにするのかい? 同志たちに君たちの犠牲は無駄じゃなかったと報告して彼らが救われるのかい? 本当に彼らが救われたかったのは今の言葉でじゃない、あの日、あの時なんだ。どんなことがあろうと、失敗作と断じて被験者全てを処分しようとしたことは、許すことは出来ない」

 

 態度、口調は至って平坦なものであったが、その瞳には尽きぬ憎悪が渦巻いている。既に木場の中では言葉で終わるような復讐ではなく、行動と結果でしか晴らせぬ復讐と化していた。

 イリナを突き放す木場の言葉と態度。真っ向から飲み込むような木場の敵愾心に、イリナは言葉を詰まらせてしまい木場の言葉に反論できずにいる。それに助け舟を出したのはやはりゼノヴィアであった。

 

「言っておくが、私たちだって計画に関しては全面的に肯定していない。はっきりと言えばあれは忌むべきものだ。しかし、イリナの言葉は犠牲になった命に少しでも意味を持たせたいという考えから出て来たものだ。イリナの言葉の意味を知ったとしても無意味と言い切れるのかな、君は?」

 

 今度は木場が言葉を詰まらせる。木場が聖剣を破壊するということは散って逝った同志たちの命、人生に意味を持たせる為のものである。ゼノヴィアの言葉を聞いてなお否定する言葉を吐くことは木場には出来なかった。

 

「……今のは意地の悪い言葉だったな。すまない、忘れてくれ」

 

 意外にもゼノヴィアの方から詫びを言って自らの言葉を訂正する。一瞬見せた木場の表情の変化に、多少なりとも罪悪感を覚えたのかもしれない。

 

「……話を戻すが、教会でも『聖剣計画』は忌むべき事件として我々の記憶に刻まれている。被験者の処分を決定した責任者は異端者の烙印を押され、本来ならそのまま処分される筈だったが……奴は生き延びた」

「生き延びたって……何でだよ」

「その異端者は今までの実験を手土産にして、堕天使側に保護を求めたのよ。そして彼は堕天使の手によって教会の追手から逃れ、今では堕天使側の住人」

 

 ぴしりという罅割れる音が響く。その音源へと全員の目が向けられる。そこには木場が手にしているコーヒーカップがあり、その取っ手の部分に細かい亀裂が入っていた。木場は指先の力だけで陶器を割ろうとしている。それほどまでに今の木場の感情は昂りつつあった。

 

「その逃亡した異端者の名は?」

「……バルパー・ガリレイ。『皆殺しの大司教』という忌み名で呼ばれた男だ」

『えっ?』

 

 木場以外にその名で反応を見せる人物がこの場に二名いた。一人は一誠、もう一人はアーシア。ゼノヴィアが出した名前は、昨日シンから聞かされた名でもあった。

 

「そいつ……今この街にいるぞ」

「何だって!」

「それは本当か!」

「イッセー君! 冗談じゃないよね!」

 

 木場、イリナ、ゼノヴィアの三人が一誠の言葉に激しく反応し詰め寄ろうとする。

 

「ま、待て! あくまでこの街に居るっていうのだけ聞いただけだ!」

「一体誰に!」

「昨日、間薙さんから聞かされました。間薙さんが言うにはアダムという神父の方からその情報を貰ったそうです」

 

 アダムの名を聞き、木場は神妙な顔となる。初めてアダムと接触した時点でバルパーの存在について知っていたのは間違いない。しかし、あの場で言わなかったのは何故か、という疑念が木場の裡に芽生える。もしかしたら今の様に第三者を通じて木場に伝わると見越して敢えて言わなかったのではないか、という考えが木場の中で浮かんだ。ならばこのように他のメンバーを交えてエクスカリバーを破壊すること自体、アダムの筋書き通りに進んでいるのではないかと一瞬考えたが、すぐにその考えを停止させる。

 木場自身一回しか接触していないので、これ以上間接的に得た情報を継ぎ接ぎにして一つの推測に纏めたとしても、それは憶測の域を出ない。例え誰かの手に導かれていようとしていても、木場のすべきことは一つであった。

 

「エクスカリバー以外にもすることが増えたね」

「待て、そのアダムという人物は誰だ? そんな神父がこの街に潜伏しているとは聞いていないぞ」

「そうよ。この街に派遣した教会の神父は全員連絡が途絶えているのよ」

「僕は会ったよ。……その彼に」

 

 木場にイリナとゼノヴィアの目が向けられる。

 

「バルパーという人物を教えて貰った代わりに、僕も君たちに情報を提供する。アダムという神父とは君たちが部長や会長と交渉するよりも前に会っている。そのときにこの街にエクスカリバーがあるという情報を貰った」

「馬鹿な……聖剣が堕天使の手に落ちたこと自体ごく限られた者にしか伝えられていないのだぞ。ましてやその奪還任務に参加する者なら人並み外れた信仰心を持つ選りすぐった者だ」

「例え拷問されようとも死ぬ瞬間まで黙っていることが出来る、とっても口の堅い人しかなれないのよ」

「教会を見限った人間とかじゃねえのか?」

「そんな人間を選別する程、上の目は曇っていないぞ」

「君、流石にそれは失礼だよ!」

 

 匙が思ったことをうっかりと口に出すと、二人からかなり強く反発されてしまう。その迫力に少したじろぎつつ、一応機嫌を損ねてしまったことを軽く謝ってから木場の話の続きを聞く。

 

「初めに聞いたときは僕も半信半疑だった。でも、軽々しく無視も出来なかった僕はその日からエクスカリバーの探索をし始めたんだ。そして先日、僕はエクスカリバーを所持した人物と一戦交えた。そのときに教会の神父が一人殺害されてしまっていたよ、その人物の手によってね」

「何だと……」

「そのエクスカリバーを持っていた人物は――」

「待って」

 

 話そうとする木場をイリナが制する。それに対し木場は少し怪訝そうな表情となるが、イリナの言葉を継ぐように今度はゼノヴィアが口を開く。

 

「それは後回しでいい。その前に聞かせてくれ。殺害された神父はその後どうなったんだ?」

 

 思いもよらない言葉だったのか木場は少しだけ目を丸くしたが、すぐに気を取り直してゼノヴィアに答える。

 

「警察には連絡しておいたよ。遺体はきっと丁重に扱われている筈だ」

「……そうか。礼を言う」

「なら良かった……」

 

 ゼノヴィアは微かにとイリナははっきりと安堵の表情を浮かべる。その二人の表情を見て木場は思ったことを素直に口にした。

 

「君たちも仲間を思いやるんだね」

「当たり前だ。共に戦ってはいないが同じ目的の為に集った同志だ。……他の連絡が途絶えた者たちの遺体を回収することは恐らく不可能だろう。それでも一人だけでも国に帰すことが出来て良かった」

「自分の家で死ぬことが出来ないと覚悟はしている人達だけど、せめて葬るのならば故郷の土で埋葬してあげたいからね」

 

 二人の言葉に場の空気が少し湿ったものとなった。一誠、匙は鼻をすすり、小猫は無表情ながらも心なしか眉が下がり表情を曇らせているように見える。アーシアは悲しげな表情となり、ピクシーはデザートを食べる手を止めていた。

 そして、木場は非常に複雑そうな表情をしている。毛嫌いしている教会側の人間ではあるが、考え自体には賛同や同情が出来る部分が有り、そのせいで木場の心の裡に感情の正と負が混在していた。

 

「後で教会本部に連絡をしておこう。そうすれば彼の遺体を無事彼の故郷に届けてくれるだろう。……正直に言えば、教会を憎む君ならば遺体のことなど無視すると思っていた」

「死んだ存在を冒涜したり、辱める程落ちぶれた真似をするつもりは無いよ、例え相手が誰であろうとね。僕は、僕の信条に従ったまでさ」

 

 そうか、と小さく笑うゼノヴィア。心なしか最初にあった険が少しだけ和らいだようであった。木場も同様であり、互いに結論からすれば嫌ってはいるが、それでも認めざるを得ない部分があると分かったからなのかもしれない。

 

「疑問も消えたことだし話の続きをしよう。僕が戦った者の名はフリード・セルゼン。彼は二本のエクスカリバーを所持していた」

 

 木場の出した名に場に居る殆どが表情を顰める。唯一、例外だったのはフリードという名を初耳であった匙だけであった。

 

「フリード・セルゼン……成程。随分と厄介な奴の手に渡ったというわけか」

「若干13歳にしてエクソシストとなったヴァチカンの法王庁直属の元エリートよ」

「あいつそんな大層な肩書きを持った奴だったのか……」

 

 理解の範疇を超えた言動と不安定とも言える感情の移り変わりを直に見てきた一誠からしてみれば、イリナの言葉を素直に受け入れることが出来ない。そういったものとは一切縁の無い存在にしか見えなかった。

 

「当時は天才という言葉はフリードを指すというぐらい彼は抜き出た存在だった。単独での悪魔討伐、数匹もの魔獣の駆逐、大量の人間を生贄とした邪教徒の殲滅、数えたらきりが無い程の功績を出していたわ」

「その実力から未来のヴァチカンを担う存在として期待されていた……だが、奴の本性は周囲が思い描いていたものとは程遠いものだったよ」

「最初に不審に思われたのは彼と共に行動したエクソシストの死亡率の高さだったの。フリードはその実力から危険な任務に赴くことが多々あったから事故と考えられていたけど、だんだんとそれが事故とは思えない程の確率となっていたの」

「教会も流石に見て見ぬ振りが出来なくなり、あるときフリードの任務に監視を付けた。そして分かったんだよ、何故フリードと共に行動したエクソシストが死んでいくのか」

「彼が殺したのよ」

 

 ごくりと匙が唾を飲み込む音がやけにはっきりと聞こえる。匙以外のメンバーはイリナとゼノヴィアの話を聞き、匙程の反応を見せなかったが心の裡でやはり、と納得していた。

 

「そのときの任務は魔獣を使役する邪教徒たちの捕縛であった。使役する魔獣を倒したフリードは残った邪教徒たちを捕縛ではなく殺害し始め、それを咎めた同胞に手をかけた。……そこからは悲惨なものだったらしい。男たちは拷問まがいな方法で殺害され、女はフリードに凌辱される。このことを報告した監視も途中でフリードに見つかり致命傷を受けて、死に際の言葉から分かったことだ」

「その危険性、何処に向くか分からない殺害意識、信仰心の欠如から、すぐにフリードを異端者として処理しようと動いたけど、本人もすぐにそれを察知してヴァチカンから逃亡したの」

「処理班数十人も編成し、フリードを討伐しようとしたがその結果が今だ。処理班の三分の一が返り討ちに遭い、フリードは今もこうして同胞に手をかけている。不始末のツケをまさかこういった形で払うことになるとはね」

 

 あからさまな侮蔑を込めたゼノヴィアの言葉。その名を口にすること自体忌々しいとでも言わんばかりであった。彼女たちからすればフリードという存在自体未だ拭えない汚点そのものである。

 

「エクスカリバーを奪還する理由が増えたな。一刻も早くその穢れた手からエクスカリバーを解放しなければならない。アレが容易に振るえる程、聖剣の名は軽いものではないからな」

 

 決意を新たにした様子のイリナとゼノヴィアの二人。ゼノヴィアは机に置かれている紙ナプキンを手に取るとその上にペンを走らせる。

 

「私たちの連絡先だ。これから共同戦線をするなら必要になるだろう」

「分かった、ありがとな。なら、こっちの番号も――」

「あ、それならおばさまからイッセー君の番号聞いているから大丈夫よ」

「マジかよ! 母さん! 勝手なことを――」

 

 そう言い掛けたとき、一誠はあることに気付く。ゼノヴィアから手渡された連絡先に書かれた番号。そこに携帯電話の番号もあった。

 

「なあ、お前らって携帯電話は今、持っているのか?」

「持っているが、それがどうかしたか?」

「それってやっぱり教会の本部の番号も登録されているのか?」

「まあ、一応ね」

「金が無かったときにそこに連絡して事情を話していたら、なんとかなったんじゃないか?」

 

 しばらくイリナとゼノヴィアは黙っていたが同時に『あっ』という顔をする。

 

「では、さらばだ。食事の礼はいつかしよう。赤龍帝、いや兵藤一誠」

「じゃあね、イッセー君! ごちそうさまでした!」

 

 足早に去っていく二人をそのまま見送ってしまった一誠。居なくなった後になんとも言えない脱力感を覚えてしまう。

 結果的にそれのおかげで交渉の場を設け、相手からエクスカリバー破壊の許可を得ることが出来た、これで良かったのだ。と無理矢理でも思わなければ、これから軽くなるであろう財布の中身のことを忘れられない一誠であった。

 

「イッセー君」

 

 一人心の裡で悶える一誠に木場が声を掛ける。

 

「どうしてこんなことを? それに他のみんなも……」

 

 エクスカリバーへの復讐に対し皆が積極的に力を貸してくれることが、木場は不思議でしょうがなかった。得る物は何もなく、もしかしたら命を失うかもしれないことなのに、何故自分の手助けをしてくれるのかということに。

 

「ま、悪魔の仲間だし同じ眷属だからな。お前にはいろいろと世話にもなっているからな」

「私も同じです。私が捕らわれたとき、イッセーさんと木場さんは助けてくれる為に戦ってくれました。私は少しでもそのときの恩を返したいんです」

「俺は成り行きだよ……でも、まあ多少なりとも事情を知っちまったんだ。今更引くのも格好悪いしな」

 

 それぞれが口々に参戦する理由を言う。だが、それでも木場は快諾する様子は無く難しい表情をしていた。

 

「今回のことは部長には話しているのかい」

「正直に言えば俺の独断だ」

「部長が知れば怒ると思うよ?」

「そんなのは分かっているさ。きっと部長には迷惑かけることになる。怒らせたり、嫌われたりするかもしれない……だけどよ、お前が『はぐれ』になるのを黙って見ているよりはきっとましな筈だ」

 

 一誠の言葉を聞き、木場は口を堅く結んだ。そうしなければ皆に対し、ありがとうという言葉を吐き出してしまいそうになるからだ。

 一誠たちの心遣いが痛い程に染み渡ってくる。だからこそ木場は自分の私怨に巻き込むわけにはいかないという思いが込み上げ、その思いを言葉にしようと席を立ちあがる。そのとき服の袖を引っ張られる感触を感じた。

 見れば、いつの間にか俯いている小猫が木場の側に来ており、立ち上がった木場の袖を掴んでいる。だが、その掴んでいる手からは小猫の持つ怪力は伝わっては来ず、振りほどけばすぐに放してしまいそうになるほどの華奢な力しか感じなかった。

 

「……祐斗先輩」

 

 俯く顔を上げる。そこには普段の無表情は無く、瞳を潤ませ寂しげな表情をしていた。

 

「……私は、先輩がいなくなるのは寂しくて嫌です。……だからいなくならないで下さい。……お願い」

 

 か細い声で懇願する小猫の姿は、余りに健気で可憐であった。その姿に一誠は勿論のこと匙も頬を紅潮させ、同性であるアーシアも紅くなっている。

 

(不思議なものだね……)

 

 小猫の姿を見ながら、木場の記憶は過去を振り返っていた。初めて彼女と出会ったとき、木場と小猫の間に会話など一切なく、ただ怯えられ警戒されていた。処分から免れてから間もないこともあり、教会の教えが抜けきらず、また精神的にかなり荒んでいた当時の木場に対する反応としては決して間違ってはいない。尤も、当時の小猫も精神的な問題から、リアスと朱乃以外には懐くことはなかったが。

 まともに会話することだけでもそれなりの時間が掛かった木場と小猫の関係。それが今では面と向かって会話し、あまつさえ居なくなることを拒否され、寂しいとまで言われている。

 袖を握る小猫の手を振りほどくのは簡単なことであった。だが、今の木場にはそれが出来ない。否が応にも小猫と過ごしてきた過去を思いだし、その積み重なった年数を実感してしまった木場には、その手を振り払うことなど出来る筈が無かった。

 

(本当にいいのだろうか? 僕の目的に彼女たちを巻き込んでいいのだろうか? 小猫ちゃんたちの厚意に甘えていいのだろうか?)

 

 そのとき木場の脳裏にある言葉が思い浮かぶ。

 

『お前はもう少し我儘に生きた方がいい』

 

 シンが木場の去り際に言った言葉。それが何故、今になって思い出していた。

 

(……困ったな。許されるのかな? 今の仲間を守りながら過去の同志たちの魂を救うなんて虫のいいことが。そんな選択を選んでもいいのだろうか)

 

 新たに生まれた選択に対し木場は答えをすぐに見つけだすことは出来なかった。だが――

 

「ははは。小猫ちゃんにそんな風にお願いされたら断るに断れないよ。分かったよ、皆の力を貸してもらう。そして、必ずエクスカリバーとバルパーを打ち倒して見せるよ」

 

 木場は安心させる様に小猫に微笑みかける。それは数日振りに見せる木場本来の笑みであった。その微笑みを見て小猫も小さく笑う。

未だ木場の中で自分が選んだ選択が正しかったのか、答えは出ていない。だが、皆と共に戦う意思を言葉にしたとき、不思議と心が微かに軽くなったような気がした。

 

 

 

 

「これで七個目ですね」

 

 そう言いながら朱乃は電柱の陰に刻まれた術式を破壊した。破壊された術式は剥がれ落ちるようにして消えるだけであり、それが偽の術式であることを示していた。

 

「お疲れ様です」

「お疲れだホー」

「うふふ、まだまだ先は長いですわね」

 

 シンとジャックフロストの労いの言葉に、朱乃は苦笑を浮かべる。シンは懐から折りたたんだこの街の地図を取り出し広げる。そこにはいくつもの丸が描かれており、その内の一つにペンで×印を書き込んだ。

 

「次はあっちの方角ですね」

「ちょっと待ってください。街一つを破壊するのなら、もっと効率の良い場所に術式を刻み込むと思います。私が同じ立場だとしたらこの辺りに術式を設置しますわ」

 

 朱乃が地図を覗き込み、その細くしなやかな指でシンが行こうとした場所の真逆を指す。

 

「なら、そこに行きましょう。こういった分野の知識は俺には一切ありませんからね。姫島先輩に従います」

 

 シンと朱乃とジャックフロストが地図の場所を目指し歩き出す。

 アダムから街を破壊するバルパーの術式の話を聞いた後、少しでも早く本物の術式を見つけ出す為に三組に分かれて行動することになり、シンとジャックフロストは朱乃と組み、ソーナは椿姫と組み、そしてリアスは話したいことがあると言ってアダムと組むことになった。

 それぞれの組がアダムが見つけた術式の場所を印した地図を手渡され、手分けして行動することになったが、掛かった時間を考えても成果はイマイチ悪い。だからといって最短でいくような方法も無く、今の様に一つ一つ地道に潰していくしかなかった。

 

「リアス――いえ、部長は大丈夫かしら?」

 

 向かっている最中、ぽつりと朱乃が言葉を洩らす。その心配はシンも理解できることであった。得体の知れない男と共に行動をする、更に最初に与えた印象からその心配は更に増すものがあった。下手をすればリアスの貞操が危機に晒される。

 

「まあ、あちらからこっちの協力を仰いでおいて馬鹿な真似はしないでしょう。……多分、きっと」

 

 断言ができず曖昧な感じな言葉を残したのは、シン自身がアダムという存在に対し思うところがある証拠であった。最初に会ったときから胡散臭く何を企んでいるのか分からない人物であり、良い印象は一度たりとも受けていない。今回の件についても裏で何を考えているかは分からない。

 だがそんなシンの側を、追い駆けっこをしていく子供たちや赤子を抱えた夫婦が通り過ぎていく。もし、これらが一瞬で消えてしまうのかと考えると黙っていることは出来ず、動かざるを得ない。

 

「――そうですわね。不思議なものですね。あの方もイッセーくんと同じ相当な女好きという印象を受けますけど、イッセー君と比べたらどうしてもあちらの方が女性として危険だと感じてしまいますわ」

「その感覚は間違っていないと思いますよ。あっちはなんだかなんだ言っている割にはヘタ――意外と純情ですから」

「うふふ、そこが可愛らしいと思いますけどね」

「ヒホ? イッセーはアケノには可愛く見えるのかホ?」

「ええ、そうですね」

「オイラは面白く見えるホー」

「あらあら、それも確かですわね」

 

 シンたち一行が新たな術式の場所に向かっている一方で、そこから数キロ以上離れた場所ではリアスとアダムがシンたちと同じく術式を探していた。こちらはシンたちとは違い会話が少なく、並んで歩くことはせずに、常にアダムを数歩先に歩かせ、その後ろをリアスが歩くという形となっていた。正体も目的も不明な相手に背中を見せる訳にはいかないリアスの考えからである。

 それを知ってか知らずか、アダムは背中から受ける不信感に満ちた視線を受けながらも、絶えず口角を吊り上げた笑みを浮かべつつ黙々と作業を行っていく。

 

「少し聞いていいかしら?」

 

 リアスが五個目の術式を破壊したとき、リアスは胸の内にあった疑問を確かめるべくアダムに声を掛ける。アダムは眉を片方上げ、リアスから声を掛けてきたことに僅かながら驚いた様子を見せたが、すぐにそれは胡散臭い笑みの下に隠れてしまう。

 

「なんでしょうか? 答えられる範疇ならいくつでも質問に答えますよ?」

「まどろっこしいことは抜きにして言うわ。貴方が私やソーナを巻き込もうとした理由は何?」

「何と聞かれましてもね……私自身見つけるのは得意なんですが、術式の破壊や解呪といった複雑なものは苦手なんですよ。どうしても強引な手段に移らざるをえないので。陰で動く身としてはあまり目立つことは避けたいので」

「本当にそれだけかしら?」

「と、いいますと?」

 

 リアスは目を細める。その目から放たれる視線には明らかな敵対心が込められていた。

 

「本当は私とソーナの背後にある力が目当てなんじゃないかしら?」

「ええ、そうですよ。背後の力、つまり魔王の力が目当てです」

 

 次に言う言葉を詰まらせてしまう程、あっさりとアダムはリアスの言葉を肯定する。リアスが態とはぐらかして言った部分もあっさりと口にするとは予想外であった。

 

「……随分と簡単に認めるのね」

「駆け引きでもしたかったですか? 止めときましょう、時間を掛けても得られるものなんておまけのようなもんです。せいぜい自分の知識に対する満足感ぐらいでしょう?」

 

 軽くあしらわれたことにリアスのプライドが多少なりとも傷付くが、それは表情には出さず務めて冷静に言葉を続ける。

 

「だとしたら今回の貴方の目論見は外れたわね。今回の件はお兄――魔王へと報告するつもりはないわ。全て、私とソーナたちで解決する」

 

 毅然とした態度のリアス。だがアダムはその話を聞いても薄ら笑いを消さず、寧ろ笑みを深くする。

 

「ええ、そうして下さい。決して魔王を呼ばない様にして下さいね? だって私が貴方たちの近くに居たいのは『魔王を呼ぶことを妨害したい』からです」

 

 またしても予想を上回るアダムの返答にリアスは絶句してしまった。

 

「きっと貴方が魔王を呼ばない理由は、自分の領土で起こった問題に身内を巻き込むことを避けたい為でしょうねぇ。ただでさえフェニックス家との婚約を破談させて自分の家に迷惑を掛けたばかりですし、これ以上身内の手を煩わせるのは避けたいですよねぇ? いやいや実に家族思いじゃないですか」

 

 言葉だけ捉えれば賞賛になるが、その語り口は皮肉気で嫌味に満ちたものが含まれており、リアスを言外に『小娘』と小馬鹿にしている風にも捉えることが出来るものであった。だが、それ以上に気になることもあった。それは、アダムが最近の冥界の事情を知っていることである。少なくとも、一介の神父などが知ることは出来ない情報であった。

 リアスはアダムの言葉で生まれた怒りを押さえこみ、一つでも相手の情報を得る為に会話を続ける。

 

「お褒めの言葉として受け取っておくわ。それで?どうして魔王を呼ばれるのが貴方にとって不都合なのかしら」

「簡単なことです。それが相手の望むことなのですから」

「ッ! コカビエルの狙いは魔王の命だというの!」

 

 リアスの声が震える。聖剣の奪取も街の破壊もそれに繋がるものでしかないと分かった上での動揺であった。

 

「まあ、手に入れるならそれも手に入れたいのでしょうが、コカビエルの目的とは少しずれますね」

「……一体何が目的だというの?」

「余談ですがこの街でコカビエルと魔王が戦ったとしたら、街に住む人々はどうなるんでしょうかね?」

「そんなの……多くの命が失われるに違いないわ」

「そう。天災でも人災でもなく多くの命が失われる……もし、そうなったらどうなるとおもいますか?」

「どうなるって……」

「この世にはね、悪魔や堕天使、そして天使によって人の命が沢山失われていくことに黙ってられない、おっかない人たちが居るんですよ」

 

 そのような存在がいることを初めて知ったリアスは一体どのような存在か気になり黙ってアダムの話を静聴する。

 

「人が滅ぶ日まで人々を守護するこわーいこわーい四人の騎士たち。きっと動くことになるでしょうねぇ、自分の先約している獲物を横取りされるなんて腹が立つでしょうから」

 

 

 

 

「ってなことがあったよ」

「そうか」

 

 その日の夜、自宅でシンは一誠たちとの交渉の場に参加していたピクシーから、そのときの様子について聞いていた。少々適当な感じのする報告であったが、どのようなことがあったか概ね知ることが出来た。

 

「このままアタシはイッセーたちについてればいいんだよね?」

「ああ、そうしてくれ」

 

 一誠たちの聖剣破壊に参加出来ない代わりにピクシーを送ったのは、戦力だけではなく互いの連絡を結ぶ為のパイプ役としての意味が有る。ピクシーから情報を貰ったシンは、逆にピクシーを通じて一誠たちに伝えておくべき内容を教える。

 

「うん、分かった。でも本当にリアスやあけのにばれずに出来るかな?」

「……まあ、任しておけ」

 

 実の所、シンは一誠たちが既に聖剣破壊の為に独自の行動をしていることをリアスたちにばらしていた。理由としては長期的に隠し通すことはまず無理であり、いずれ分かってしまうことならいっそのこと早い段階で報せた方がいいと判断しての行動である。

 それをリアスたちに教えたときは流石に顔色を変え、凄まじい怒気を放つという状態であった。

 

『イッセーが発端なのね。それに小猫、アーシアまで、あの子たちは……!』

『匙……お仕置きが必要ですね』

『部長、あいつが肝心な時に部長の言うこと聞きましたか? 会長、匙については契約した内容の延長ということで勘弁して貰えませんか?』

 

 あれこれ言葉を重ね一応は怒りを抑えて貰い、当分の間一誠たちの行動を黙認してくれる形となったが、いつまで黙っていてくれるか分からない。もしも聖剣破壊の際に怪我人が一人でも出たら、すぐに二人が行動に移るのは明白であった。眷属に対する態度は正反対であるが、想う気持ちは良く似た二人である為、シン自身そうなった場合は口を挟むつもりは無い。出来ればこの薄氷のような口約束が終わりまで持つことを願うだけであるが、きっとそんなに都合よく物事は動かないと冷めた考えもあった。

 

「もう報せることはないか?」

「うーんとね……あ、そうだ」

 

 最後にピクシーに尋ねると少し考えた後、思い出したことがあったらしい。

 

「ゆうとがね、昔のことを話してたんだ。あのね――」

「いや、そういった話なら別にいい」

 

 話し始めようとするピクシーに、シンはやんわりと断りを入れる。恐らくは木場が昔の実体験を語ったのであろうが、シンとしてはそれを又聞きするつもりは無かった。それが相手に対し失礼な気がしたからだ。そして聞いてしまえば、無意識な同情心が湧いてしまいそうになるのを嫌った為である。自分のことながら面倒なことを考えると思いつつも、あくまで対等な立場で手を貸したいというのがシンの考えである。

 過去に何があったかは詳しく知らないが、シンが木場に手を貸そうとしたのは少なくとも過去が理由では無い。シンが手を貸すのは『過去』の木場では無く『今』の木場にである。

 

「ふーん、分かった」

 

 聞かない理由を特に詮索はせず、ピクシーはあっさりと了承する。その後、背を伸ばし欠伸をすると半眼になり、もう寝るねとシンに告げて自分の寝床へと飛んで行こうとするがその直後、何かを思い出したようにピクシーが振り返る。

 

「ねえねえ、聞きたいことがあるんだけどいい?」

「何だ?」

「デキちゃった結婚てなーに?」

「……はあ?」

 

 ピクシーの口から出てきた言葉が予想の斜め上をいったものであった為、シンの口から呆けた声が出る。

 

「ゆうとの話を聞いた後、サジが泣きながらソーナとデキちゃった結婚したいって言ってたから」

「……どういう話の流れだ」

「そしたらイッセーも泣き出してリアスの胸を揉んで吸いたいってさ」

「……本当にどういう流れなんだ」

 

 恐らく木場の真面目な話の後にそのような会話が出てきたのであろうが、前後の繋がりが一切分からない、想像するだけでも恐ろしい。

 

「そしたらイッセーもサジもすごく仲良くなってたの」

「……似た者同士か」

 

 さぞかしその場には何とも言えない空気が流れていた筈であろう。というよりもアーシアや小猫、木場の前でよくそのような会話が出来たものである。間接的に聞いても酷い脱力感に襲われるが、その場で聞いた三人の心中は如何なものであったのであろう。

 

「ねえねえ、どういう意味か教えてよー」

「……」

「教えてったらー」

「……」

 

 この日、ピクシーが疲れて眠るまでの間、シンはひたすら沈黙を守り続けるのであった。

 

 

 

 

 某日某所。

 

「待て、フリード!」

「はいはい、何ざんしょ?」

 

 堕天使の隠れアジトからふらふらとした足取りで出て行こうとしたフリードを数人の堕天使が呼び止める。その誰もが険しい顔と不快感を露わにしていた。

 

「どうしたんですかー? 皆さん全員集まってー? え、もしかして集団告白! やだ! 俺、心の準備が出来ていないの!」

「ふざけるな! いいか、良く聞け! お前の勝手な行動は認めない!」

 

 歪んだ笑みを浮かべるフリードに対し、激昂した堕天使の一人が糾弾する。その言葉にぴくりとフリードの眉が跳ね上がる。

 

「勝手に動いては勝手な真似をする。コカビエル様が連れてきたとはいえお前の行動は目に余る!」

「お前の持つエクスカリバーはお前の欲求を満たす玩具では無い! それなりの責任感を持ったらどうだ!」

「お前が動けば計画に支障が出る。お前は黙って我々の指示通り動いてればいい」

「へーへーそうですかぁ」

 

 侮蔑と罵声を浴びてもフリードの笑みは変わらなかったが、そのときある堕天使の一言が耳に入ってくる。

 

「大人しく堕天使の庇護に入っていろ。所詮、下級の悪魔一匹に退散したぐらいの実力だ」

 

 フリードの笑みの質が変わる。だがそれに気付いたものはこの場に居ない。

 

「うん、分かった。皆さんのおっしゃるとおーり! ワタクシ、今までの行動を猛省する次第であります! つきましては皆さま方のお耳にいれたいことが!」

 

 神妙な態度となり声を潜めるフリードに堕天使たちは訝しげな表情をするが、手招きするフリードに一人の堕天使が近付く。

 

「どんな話だ?」

「かなり重要なことなので、出来れば声を潜めたいのです」

 

 口に手を当てるフリード。堕天使はその口に耳を寄せる。その瞬間、顎の下に鉄特有の冷たさを持った固いものを押し付けられる。

 

「天井に脳みそへばりつけろ」

 

 堕天使の顎下に押し当てた銃口から光の弾丸が発射され、顎を突き抜け、口蓋から頭蓋骨まで弾丸は走り、頭頂部を貫き砕くと同時に抜け出た余剰の力が堕天使の脳漿と脳を一気に引き摺り出し、フリードの言葉通り天井へとへばり付かせる。

 突然のフリードの凶行に誰もが言葉を失うが、その隙にフリードは聖剣を抜き放ち一番近くにいた堕天使の肩から胴体の中心目掛け斬り裂く。

 

「血迷ったか! フリードォォ!」

 

 仲間の血飛沫を浴び、正気に戻った堕天使の一人が光の槍を形成し、それをフリードに向けるが、そのときには既にフリードは堕天使の懐へと飛び込んでおり、光の槍を持った手を掴み捻り上げると、その先端を別の堕天使の心臓に向け突き刺す。

 

「がああああ!」

「ひーはははは! 意外と良い声がでるじゃあーりませんか!」

「き、きさまぁぁぁ!」

「あ、すみません。うざいんで黙ってくれます?」

 

 捻り上げていた腕に聖剣を一閃させ切断する。濁流の様に流れ出す血に堕天使は苦鳴を上げようとするが、それよりも先にフリードの爪先が顎を蹴り上げた。堕天使が血と歯を撒き散らして跳び上がる内にフリードの聖剣は次々と残りの堕天使たちを血祭りへと上げ、堕天使が地に落ちたときには通路は鮮血と堕天使だった者たちの部位で出来た血の沼が出来上がっていた。

 

「ひ、ひが……!」

 

 砕けて顎で何とか喋ろうとする堕天使であるが言葉にならない。それを見たフリードは盛大に嘲笑う。

 

「あれれ? どうしたんでしょうか? きちんと喋れないようですねぇ! これは何とかしないと! 聖剣よ、今こそ奇跡を!」

 

 聖剣の光の軌跡を描いたと思った次の時には堕天使の膝から下が両断され宙に舞う。

 

「あああああああああああああ!」

「おお! 喋れた喋れた! 流石聖剣! 何と言う奇跡! ひゃははははははは!」

 

 心底楽しそうに嗤うフリード。そのとき通路の奥から足音が聞こえてくる。

 

「何の騒ぎだ?」

「随分と派手にやったな、フリード」

「ありゃ? コカビエルの旦那とバルパーのじいさん? どうしたの?」

 

 姿を見せたのはコカビエルとバルパー・ガリレイであった。二人は目の前に出来た惨状を見ても眉一つ動かさない。

 

「こ、コカ、ヒエルさま……!」

 

 芋虫の様に這いつくばってコカビエルの下に移動する堕天使。コカビエルはその堕天使を見て膝を折ると、すがるようにして伸ばした手を掴む――のではなく砕けた顎を鷲掴みにして右手一本で持ち上げた。

 

「なんだその情けない顔は?」

「んー! んー!」

 

 コカビエルの行動、そして激痛によって堕天使の目は大きく見開かれる。

 

「戦争を求めて俺の下に集ったのだろう? なら少しはそれなりの顔をしたらどうだ? つまらんぞ、その顔は」

 

 コカビエルは悶える堕天使に冷めた表情で見下す。そこに同じ堕天使という意識は皆無であった。

 

「痛み、苦痛は戦う者としては当たり前だ。縋るような顔、救いを求める顔、そんな顔など俺はいらん。哂え、哂ってみろ。それぐらいの気概を俺に見せて見ろ」

 

 掴む手に力が更に込められ、指先が皮膚を突き破っていく。その痛みに堕天使はくぐもった絶叫を上げる。

 

「哂えないか――ならお前は不要だ。つまらん」

 

 心底面白くないという表情をした後、掴んでいる手に光が灯り出す。それが何を意味するか理解した堕天使は更なる絶叫を上げようとするが、その声もコカビエルが放った光に飲み込まれ消え去る。頭部が消失した堕天使の身体をゴミの様に放り捨てた。

 

「やれやれ、駒となる堕天使は全て消えたか。もったいないことをする」

「ひゅー! 流石は旦那! スマートだねぇ!」

「フリード、好きなように動け、お前の行動すべてを許容する。お前は少なくともこいつらよりかは面白いからな」

「アイアイサー、ボス! 旦那のそういう所最高に素敵!」

 

 堕天使たちに向けたのとは違って、心底愉しそうな笑みを浮かべるフリード。そのとき血だまりから呻き声が聞こえてくる。声の方にはフリードが最初に斬り裂いた堕天使、まだ息がある様子であった。

 

「詰めが甘いな、フリード」

「さーせん! きちんと今からトドメさっしまーす!」

「待て」

 

 聖剣を振り上げたフリードをバルパーが制止する。

 

「何だよ、じーさん」

「無駄なことはするな」

 

 止められたフリードが不愉快そうな顔をするが、反抗はせずバルパーの言葉を黙って聞く。

 

「そいつらが用済みになったら私の研究に使うことになっている。最後の一体まで殺されたら堕天使を使った貴重な実験が出来なくなるのでな」

「あ、そうだったの? じーさん、ゴメンね! お詫びにこいつをじーさんの部屋まで届けるわ」

 

 倒れ伏す堕天使の髪を掴みそのまま容赦なく引っ張る。

 

「やめろぉ……やめてくれぇ……」

 

 救いを求める声。だが誰もその声に手を差し延ばすことはない。

 

「まあ、一体あればそれなりの実験が出来るな。コカビエル、コレを使っても構わないな」

「好きにすればいい」

「じっけっん! じっけっん! たのしー実験! 解剖かな? 改造かな? 薬品かな? それともそれ以上かなー!」

 

 立ち去るコカビエルとパルパーの後を、鼻唄を唄いながら堕天使を引き摺っていくフリード。

 この場に正常な判断をする者は誰も居ない。いるのはそれぞれ方向性の違う、三人の狂人のみ。

 

「やめてくれぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

 渾身の叫びは誰に届く筈もなく。堕天使は通路の闇深くへと消えていった。

 

 

 




個人的にはフリードは過去に何か悲惨な過去があった、というよりも生まれて時からこんな感じですよーというのが似合っていると思っているので終始作中の感じでいくつもりです。
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