ハイスクールD³   作:K/K

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記録、不屈

「お約束な台詞を言わさせてございますが、あの子の命が惜しければ抵抗しないで頂けますかねぇ? 悪魔御一行さん」

 

 事態を把握できず、おろおろとしている男の子に銃口を向けながらフリードは、見る相手は血液が沸騰するのではないかと錯覚させるほどの腹立たしい笑みを向け、勘に障る口調で一誠たちに要求を告げる。

 その態度に臓腑が焼け爛れそうな怒りを覚える一行であったが、そのまま怒りに身を任せてフリードに歯向かう訳にも行かず、知らずの内に人質となっている男の子の安否を優先してただ沈黙を続ける。

 相手の反応から抵抗する意思が無いと判断したフリードは突き付けられた剣を手で押しのけ、落ちている二本のエクスカリバーを拾いながら立ち上がる。

 

「とりあえずこの鬱陶しい舌を外してくんない? さっきから力が抜けてしょうがないんで。ほら、さっさとしろや! 腐れ悪魔がよぉ!」

 

 匙の『神器』を巻きつけられた足を見せつけながら声を荒げるフリード。匙は虫唾が走る程の腹立たしさから無意識に唸るような声を出して強く拳を握りしめるが、それ以上のことはせず屈辱から身が震えそうになるのを必死に堪えつつ巻きつけていたラインを解き、『神器』の中へと回収する。

 

「次はキミにお願いしたいんだけどぉー、悪魔の『騎士』くぅん。その物騒な魔剣をとっとと仕舞って俺から離れてくんない? 近くに立っていられると危なっかしいのと目障りだから」

 

 匙の『神器』から解放されたフリードは次に木場に対し要求をする。しかし、フリードの要求を聞いても微動だにせず、憎悪を込めた目で睨み続けていた。

 

「木場!」

 

 木場の態度に思わず一誠が呼びかけるが、木場はそれすら耳に入らない様子で皆が見ている前で魔剣の柄を手の色が白く変色する程握り締めた。

 

「……そんな言葉で僕が怯むと思っているのかい?」

「へぇー、殺る気満々なの? このまま俺様斬っちゃう? 人質を無視して? それはそれは悪魔の鑑なことで」

「言った筈だよ。――僕はキミを斬るって」

「おい! 待てよ、木場ッ!」

 

 このまま人質を無視して斬りかねない木場に一誠が咎める様に叫ぶが、木場は払われていた剣先を再びフリードへと向ける。

 

「ふぅーん……」

 

 剣先を向けられたフリードは特に驚いた表情は無く、探るようにして木場の瞳を覗き込んだ後、突如発砲した。

 フリードの凶行に一誠たちはすぐさま男の子の方へと顔を向けるが、弾丸は男の子には当たらず近くにあった木の幹へと着弾しており、刻まれた銃痕から白煙が立ち昇っていた。男の子はいきなりの銃声と着弾の衝撃に恐怖したのか、持っていたサッカーボールを落としてしまい、そのまま地面へと座り込んでしまっていた。

 

「ボクゥ、あんまりキョロキョロしないでくれるぅ? 今どんなことが起こっているのか意味不明なのはよぉーく分かっているけど鬱陶しいから。次に一ミリでもそこから動いでみろ額に穴が開くぞ、クソガキがぁ!」

 

 恐らく人生で初めて味わうであろう殺気を受けて、男の子は双眸から涙を流しつつ全身を震わす。

 フリードの蛮行。そんな光景を見せられて怒りを見せる一誠たちであったが、その中でも特に激昂する人物がいた。

 

「てめぇ! ふざけた真似してんじゃねぇよ! ガキ相手に自分が何してんのか分かってんのか!」

 

 その人物は匙であった。その剣幕は凄まじいものであり、同じく怒りの言葉を発しようとしていた一誠と木場が思わず言葉を飲み込んでしまう程であった。

 

「理解してるつもりですけどぉー?」

「だったらそんな物騒なものを向けてんじゃねえよ! あまつさえぶっ放しやがってトラウマになったらどうするつもりだ! ……代わりに俺が人質でも何でもなるから見逃してくれ、態々無関係な子供を巻き込まないでくれ……」

「匙……」

「匙君……」

 

 相手が望むなら土下座でもしそうな程、真剣な表情で譲歩を求める匙であったがフリードはそんな匙の態度を鼻で笑う。

 

「キミらがそんな反応をするからこそ、人質の価値ってのが上がるってもんですよぉ? あんがとねー、そこの茶髪の悪魔君。あんさんのその反応で人質のことを見限らないってのがよぉーく分かり申した」

 

 真摯な願いも悪意を以って斬り捨て、真剣な態度も嘲笑を以って答える。フリードという人間が悪魔という存在と一切相容れるつもりはないという意思の表示であった。

 

「それでぇー、木場くんだったけかなぁ? いつまでこの剣を僕チンに向けている気かなぁ?」

「……君をこの場から逃したら、より大きな被害を生む」

「ふむふむ。よーく理解していらっしゃる」

「……その為に必要な犠牲だったら――」

「本気で言っているのか、木場……!」

 

 子供を見捨てることを匂わす発言に匙が噛みつくが、そんな匙に対し木場は反応を全く示さずフリードの喉元に剣を突き付ける。

 

「おー、なんてこったい。このままじゃやられてしまうー、くそーてきにこんなひじょうになれるやつがいたなんてー」

 

 感情を込めず棒読みで怯えた芝居をするフリード。それは木場に向けたメッセージであり、『お前には出来ない』ということを暗に告げるものであった。

 

「どうした? 掻っ切ってみろよ」

 

 フリードはあくまで余裕に満ちた態度で笑う。その言葉に木場は奥歯を強く噛み締めると同時に踏み込み、その切っ先をフリードの喉に突き立てようとする。

 

「やめろ、木場!」

「早まるなぁ!」

 

 一誠、匙が同時に叫ぶ。そして――

 

「やっぱりねー」

 

 ――貫いたかと思われた木場の剣はフリードの喉元僅か数ミリ手前で止まり、それ以上動くことは無かった。

 

「くっ……!」

 

 悔しそうに唇を噛み締める木場。その剣を握る手は傍から見てもこれ以上ない程力を込めているのが理解出来るものであったが、それが止まってしまうのは偏に木場の良心による働きのせいであった。

 幼い子供の涙、震え、恐怖、理解しきれない現状への動揺、それがかつての自分と重なって見えてしまい木場から見捨てるという選択肢を消し去ってしまう。

 そんな木場の心情を知ってか知らずか、フリードは口の両端が裂けたのではないかと錯覚するぐらい吊り上げた笑みを浮かべた状態で、刺せなかった木場を呷るように顔を覗き込む。

 

「あれれれ? どうしたんでしょうかねぇ、さっきまで人質なんて関係無いなんてクールなことを言ってたのに、いざ本番となったらダメダメって……滅茶苦茶ウケるんですけどー!」

 

 フリードの馬鹿にした笑い、しかしそれを木場は甘んじて受ける。人質を見捨てないという選択肢を残したときからこうなる展開を予測できていた。ならば相手の気が済むまでやらせよう、と木場は思う。今耐えることでこの先にほんの僅かでも隙が生じることを考えて。

 木場は無言のまま突き付けていた魔剣を下ろし、そのまま消す。それを見たフリードは突如木場の髪を鷲掴みにし、顔を寄せた。

 

「最初から素直にそういてりゃあ良かったんだよ、このクソ悪魔が。無駄な時間と手間かけさせやがって」

 

 至近距離から罵声を浴びせるフリードを睨みつけたまま木場は無言を貫く。それが面白くなかったのかフリードは木場の髪を掴んだまま負傷している木場の足を容赦なく蹴りつけた。その拍子で足から血が飛び散るが、木場は呻くことも苦痛で顔を歪めることなくただフリードを睨みつける。

 

「あのガキに銃を突きつけたときからわかってたぜぇ、お前があのガキを見捨てられないなんてなぁ。自分でも理解してたかぁ? 明らかに俺様への殺気が薄れて、あのガキの方へ意識が向いてたって……甘すぎて正直クソつまんねぇぜ!」

 

 掴んでいた手を離しながら木場を乱暴に押し飛ばす。片足を負傷している木場はその拍子でバランスを崩しかけるが、それを見た一誠が背後からすかさず腕を掴み木場を支えたことにより転倒は免れた。

 

「ありがとう……」

「礼なんていい。お前の方こそ大丈夫なのかよ?」

 

 フリードが木場の足を蹴りつけていたときに初めて怪我の存在に気付いた一誠が気遣う様な声を掛ける。相手が神父であり更には聖剣も所持している為、負傷の具合がどれほどのものか、一誠も以前フリードから怪我を負わされた身としてその痛みを知っているだけに余計心配をしてしまう。

 

「はは、見た目ほど酷くはないさ」

「……そうか」

 

 それが強がりの言葉であると一誠は分かっていたが、同じ男として自分の弱さを見せない木場の心情が理解出来た為、意志を尊重しそれ以上深く聞くことはなかったが、せめて少しでも負担を軽くしようと支える手からは力を緩めなかった。

 

「ちょっと待ってね」

 

 フリードが近くに居たせいで下手に動けなかったピクシーが木場の肩から降りてすぐに傷口に手を翳す。その手から光が放たれると光の当たる部分から徐々に痛みが消えていくのが分かった。

 

「木場、わりぃ。あんなことされて……」

 

 匙が小声で謝罪する。木場一人屈辱的な行為をされ、それを黙って見ていたことに対する詫びと人質のことを考えて黙って耐えてくれたことに対する礼もそれには込められていた。

 

「気にすることはないさ」

 

 木場は軽く微笑み、重く考える必要は無いと言外に告げる。

 

「はいはいはいはい! 青春活劇お涙頂戴友情茶番劇はそこまででいいでしょうかぁ? ぜひともこっちの話も聞いて頂きたいんですけどねぇ」

 

 一連の流れを悪意の言葉を以って切り捨てるフリードに全員の目が向けられる。

 

「最初の要求通り君から離れた。……次は何をすればいい」

 

 フリードの理不尽な内容の要求を想像し、次に発せられる言葉に身構える一同であったが、フリードはキョトンとした顔をする。

 

「え? 次? 無いよそんなの」

 

 思わぬ言葉に一誠たちは唖然とする。付き合いは短いがフリードという半狂人の性格を考慮すれば無理難題を押し付けてくると考えていた為、フリードの口から出てきた台詞は予想外なものであった。

 

「……どういうつもりだい?」

「あー、それにしてもツイてないなー」

 

 疑問を投げかける木場の言葉を無視し、フリードは芝居がかった台詞で喋り始める。

 

「たまたま今日この公園で遊んでいて、たまたまそこに悪魔御一行さんがいて、たまたまそこにハイパーで素敵無敵なエクソシストがいて、たまたまそのエクソシストに目を付けられたなんてついてないわー」

 

 独り喋り続けるフリードの姿に、言い様の無い不安感が一同の胸の中に湧いてくる。

 

「うん、でもねよくよく考えてみたら一番悪いのってやっぱイッセーくんたちだよねー、こんな公園に居たのが悪い、あの時間に居たのが悪い、俺様に見つかっていたのが悪い、地球温暖化も人口爆発も税の値上がりも物価の上昇も最近、枝毛を見つけたのも全部全部全部全部全部全部全部! 悪魔が悪い! ……そしてちっちゃな子供が死んじゃうのもねー」

 

 粘つく様な悪意と恍惚に満ちた笑みをフリードが浮かべたとき、一誠たちはフリードという存在の持つ悪意についてほんの一端しか理解していなかったことを知る。

 

「おい……何考えてやがる!」

「あーかわいそ! 悪魔が近くにいたせいで今日が命日になるなんて」

 

 人質という優位に立っている状況を捨て、ただ一誠たちの心に傷を負わせる為だけにフリードは銃口の先にいる子供を射ち殺そうとしている。大義名分など何もないただ自分の中に溜まった苛立ちを解消する為の殺害。

 一誠たちはその狂気に表情を蒼褪めさせ、フリードに飛び掛かろうとするも間に合わない。肝心の子供も未だ恐怖によって身動きがとれない状態であり、例え動けたとしてもフリードの腕前からしてまず外すことは無い。

 

「バイバーイ!」

 

 一誠たちの必死な姿を笑いながらフリードは引き金を引く。銃口から飛び出した光の弾丸は着弾点として定めた子供の額目掛けて一直線に飛ぶ。

 誰もが子供の命が失われるかと思ったとき、風を斬り裂く音と共に真横から巨大な長得が旋回して現れ、地面に粉砕しつつ突き刺さり、子供の前に壁となって銃弾を防いだ。

 

「あ゛あ゛っ?」

 

 突然の横槍、そして思い描いていた予想図とは違う展開にフリードはドスの効いた声を上げる。一誠たちも突如飛来した物体に驚くも、その突き刺さった物体には見覚えがあった。剣身が幅広く厚みのあり、柄の部分まで刃と一体と化している大剣、その名は――

 

「『破壊の聖剣〈エクスカリバー・デストラクション〉』! ってことは!」

「外道もそこまで極まればいっそ清々しいな。フリード・セルゼン」

 

 聖剣が投げられた方向から現れたのは白いローブを纏ったゼノヴィアであった。

 

「ゼノヴィア!」

「少し遅れた。だがいいタイミングだったようだな」

 

 最悪だった状況を打破してくれた助っ人に、一誠は嬉しそうな声でその名を呼ぶ。ゼノヴィアも名を呼ばれたことに応えるように軽く手を挙げた。

 

「どういうこったですかコレ? まさか教会の人間、よりにもよって聖剣使いが悪魔とタッグ組んでいるわけ? なんつー冗談! それでいいのか君たち!」

「言いたいことはそれだけか? フリード・セルゼン、反逆の徒としてその命、神の名の下に断罪する!」

「はぁー! これだから大人は汚い! 目的の為なら多少のルール破りは黙認しちゃうんだから! 神の名の下にって何すかぁ? そんな器が伸縮自在な神様の名なんて出してんじゃねぇよ! 犯って殺ろうか、この教会のパシリがぁ!」

 

 言い終えると同時にフリードはゼノヴィアに向けて発砲。聖剣を手放しているゼノヴィアには現状防ぐ手は無い。しかし、ゼノヴィアに焦る様子は無かった。

 何故なら、ゼノヴィアにはこの攻撃が当たらないことが分かっていた。その考えを肯定するように、背後から現れた無数に枝分かれした刃が放たれた全ての光弾を防ぎ、ゼノヴィアの身を護る。

 

「先行しすぎよ、ゼノヴィア」

「悪い。だがそのおかげで最悪の事態は避けられた」

 

 ゼノヴィアの登場からやや遅れてイリナが姿を現す。手には『擬態の聖剣〈エクスカリバー・ミミック〉』が握られており、光弾を防いだのがイリナだということを示していた。

 

「最悪の事態?」

 

 ゼノヴィアの言葉に疑問を持ったイリナが周囲を見渡す。拳銃を構えるフリード、そのフリードから距離を取り不自然に固まっている一誠たち、そしてゼノヴィアの聖剣の陰で涙を流して震えている子供。それらを見て何があったのかおおよそ把握したイリナの目がスッと細まる。

 

「がんばってたんだね、イッセーくんたち」

「イリナ……」

「ここからは私たちに任せて」

 

 明るい笑みを一誠たちに向けた後、イリナは冷めた表情でフリードを睨みつける。

 

「噂通りの外道みたいだね、フリード・セルゼン」

「簡単に噂を信じちゃいけないってパパ、ママから教えられなかった?」

「貴方を神の名の下に断罪するわ!」

「聞き飽きたぜい! その台詞は!」

 

 枝分かれしている『擬態の聖剣』から新たに二本の刃が生えると、その新たな刃は子供の方へと伸び、一本は『破壊の聖剣』の柄へと巻き付き、もう一本は直前で形状を変化させ紐のような形になると、子供の腰へと巻き付いてそのまま自分たちの方へと引き寄せる。

 

「ゼノヴィア!」

「助かる」

 

 聖剣の方はゼノヴィアへと投げ渡し、ゼノヴィアは手に取りながら礼の言葉を言い。子供の方は一誠たちの方へと渡す。

 

「任せたよ、イッセーくん」

「ああ、分かった」

 

 エクスカリバーを構えた二人が同時にフリードへと斬り掛かる。フリードはニヤリと笑った後に背中に納めていた『夢幻の聖剣』を抜くと、一誠たちを惑わした時のように再び地面へと突き刺し術式を発動しようとする。

 

「急いで彼の動きを止めてくれ!」

 

 察した木場が慌てて声を飛ばすが、二人の距離からして既に届かないことは明らかであった。

 

「おっそいよーん!」

 

 嘲笑いながら地面へとエクスカリバーを突き刺すフリードだったが、一誠たちのときとは違い霧が一切発生せず変化が起こらない。

 

「あれ? ……ぶほっ!」

 

 術式が発動しないことに首を傾げるが、その間にもゼノヴィアが距離を詰めており間合いに入ったと同時にフリードに横薙ぎの一撃を放つ。真正面から首を刈る為に繰り出された斬撃を慌てて抜いた『夢幻の聖剣』の腹で防ぐが、七本あるエクスカリバーの中で最も破壊力のある『破壊の聖剣』とゼノヴィア自身の膂力が合わさってフリードの防御は簡単に崩され、振り抜かれた衝撃で防いでいた筈の『夢幻の聖剣』の腹をまともに顔面から受け止めた状態で吹っ飛ばされた。

 十メートルも飛ばされたフリードは背中から着地する瞬間に体を捻り両足で地面に降り立ち、全力で剣の腹を叩きつけられたことで赤く腫れた顔でゼノヴィアたちを睨む。よくみれば鼻から鼻血も流れている。

 

「このビッ――ておおお!」

 

 罵声がフリードの口から出る前にイリナの振るった『擬態の聖剣』が無数に分裂した状態で斬りかかる。その場からすぐさま飛び去ったフリードの背後に刃が突き刺さり、その刺さった刃から更に分裂して出来た新たな刃がフリードに迫る。それを腰に差していた『透明の聖剣』で振り払うと一気に駆け始める。

 それを追撃するイリナの『擬態の聖剣』であったが、フリードは両手に握った二本の聖剣を用いて巧みに払い、ある場所を目指す。フリードの狙いに気付いた二人であったが、既にゼノヴィアでは距離が遠く間に合わない、イリナの方も刃を増やして妨害するがフリードは致命傷になる攻撃だけを防ぎ、それ以外の傷は無視して駆け抜ける。

 頬、肩、腕、脚などに切創を造るが速度は緩まず、目当てのものに近付いたとき大口を開いて飛び掛かる。その瞬間を狙ってイリナは分裂させていた刃を一斉に集めるが、フリードが『ソレ』を咥えたと同時にその姿は霞の様に消え、目的を見失った刃が盛大な金属音を奏でる。

 

「はっはほれははふっちゃへー『やっぱ、これがなくっちゃねー』」

 

 聞き取りにくい声を出しているフリード、その口には『天閃の聖剣』の柄が咥えられている。その状態で聖剣の能力である加速を得ると一気に距離を開け、ゼノヴィアたちが迂闊に手を出せない状況を造る。

 移動したフリードは効力を発揮しなかった『夢幻の聖剣』を背中に納め、代わりに口に咥えた聖剣に持ち替えた。

 

「ちょびーとだけヒヤリとしやしたぜぇー、おたくらここに来るまでの間に何かいらないことをしてたんじゃないの?」

「ここの公園一帯に描かれていた術式のことか? それなら全てイリナが破壊した」

 

 ゼノヴィアの言葉でイリナが遅れてきた理由が明かされる。

 

「おいおいマジですか? 折角じいさんがこつこつと創ってくれたものをぶっ壊しちゃいましたかぁ! 何たる無慈悲! こんな血も涙も無い大人には成りたくないと俺様ここで誓いたいと思います!」

 

 顔を顰めて大声で叫ぶが、それを見たゼノヴィアが一笑する。

 

「大方、聖剣の力を拡大させる術式だっだのだろう? 最も私たちにはそんな小細工は通用しなかっただろうがな」

「生憎、聖剣の加護を受ける私たちには同じ聖剣の効果は薄いからね」

「へいへい、勉強になりまーす!」

 

 皮肉を込めた台詞を吐くがその表情に歪んだ笑みは無い。いつもの様な態度は振る舞っているものの、それは口調だけに留まっている。それだけ余裕の無い状況であることをフリードが認識している証であった。

 そして状況はフリードにとって好ましくない方へと進んで行く。

 

「イッセーさん!」

「……無事ですか?」

 

 術式が解かれたことでアーシアと小猫が一誠たちへと合流する。治癒の『神器』を持つアーシアと、一度戦ったことで大体の実力を把握している小猫。戦力の維持と増加が同時に来たことになる。

 この場に於いて流れがあるとしたら確実に一誠たちの方へと向いていることを感じ、フリードは短く舌打ちをする。如何にしてこの場を乗り切るか、それに思考を巡らせようとしたとき、新たな声がその場に響く。

 

「遊びが過ぎたな、フリード」

 

 フリードの側に前触れもなく現れたのは、神父の格好をした初老の男性。頭髪は全て白く染まり、顔にはひび割れたような皺が無数に刻まれているが、何処か年や老いを感じさせない雰囲気を纏っていた。

 

「バルパーのじいさん? ……どしたの?」

「コカビエルからお前を連れ戻す様に言われてきた。……全く、私の術式まで使っておいてこの様か」

 

 フリードの現状に呆れを露わにするバルパー。その二人のやりとりに堪らず口を挟む者たちがいた。

 

「ようやく姿を見せたな……」

「お前が……バルパー・ガリレイッ!」

 

 木場に名を呼ばれたことで、初めて視線がフリードから木場たちの方へと向けられる。

 

「騒がしいな。大声で名を呼ばずとも聴こえる。それほど耄碌はしていない」

 

 感情を感じさせない乾いた声。それはバルパーが木場たちにさほど関心を示していない為であった。

 

「初めまして、とは少し違うかな……久しぶり、と言った方が正しいのかな? 最も覚えてはいないだろうけどね」

 

 木場は憎々しげな口調で皮肉を言う。バルパーは一瞬木場の言葉に考え込むような仕草を見せたがすぐにそれは解かれ、口元に軽い笑みを作る。

 

「――ああ、見覚えのある顔だと思ったが私の『計画』の残骸か」

 

 思いがけない言葉に木場は激しく動揺する。まさか相手が自分のことを覚えていたとは予想外のことであった。

 

「何だね、その顔は? 私が自分の研究で使った貴重なサンプルの記録を怠っているとでも思ったのかね? だとしたらそれは研究者への侮辱というものだな。何なら私が使った彼らの名前を今からここで暗唱でもしようか? どんな内容の実験を行ったかということも添えて?」

「……やめろ」

「例えば『×××・××』、彼は『神器』を所有していた為、まずはその『神器』の能力を完全に引き出す為、手始めに五日間の絶食と不眠を行った。四日目で衰弱状態になった為実験は途中で中断されたがね」

「やめろ……!」

「次に『××××・×××』、彼女は因子を高める為の実験として精神と肉体を徹底的に追い詰めた。手っ取り早い方法として集めてきた浮浪者共の慰――」

「やめろぉぉぉぉ!」

 

 バルパーの口から齎される聞くに堪えない実験の内容。遂に感情を爆発させた木場が魔剣を創造しながらバルパーへと飛び掛かる。魔剣がバルパーを脳天から股下まで斬り裂く為に上段に構えられる。フリードはそれを防ごうとするが、バルパーは何故かそれを手で制した。やがて剣の届く間合いまでバルパーへと迫る。

 

「落ち着け『――――――――』」

 

 直後、バルパーの口から出たある名前。一誠たちには届かず、木場にしか聞こえない声量で呟かれたその名に、木場は心臓が硬直したのではないかと思える程の衝撃を受けた。

 木場が『木場祐斗』と名付けられる前に持っていた名前。人から悪魔へと転じたときに捨てた名前。かつて純粋に神を敬愛していたときの名前。

 木場の動きがこのとき止まってしまう。

 

「何事も記憶しておくものだな」

 

 そう言ってバルパーが軽く手を鳴らした瞬間、上から押さえつけられるような重さが一誠たちに圧し掛かる。

 

「こ、これは!」

「お、重てぇ!」

 

 体が前屈みに成りそうな程の負荷に呻く様な声を洩らす。皆なんとか抗おうとするが、重みでその場から一歩も踏み出せない状況であった。

 

「う、うう……!」

「動けない……」

 

 華奢なアーシアや非力なピクシーは四肢を地面に着けて何とか耐えている状態であり、この場で一番の力を持っている小猫も歯を食い縛り何とか移動しようとしていたが、やはり重さで動くことが出来なかった。

 

「く、苦しい……」

 

 人質にされていた子供もアーシアのように四肢を着いた状態で苦しがっていたが、動けない状態の一誠たちでは助けることも出来ず、子供の方に首を向けるだけでも精一杯であった。

 

「バルパー……!」

 

 唯一、木場だけが剣を杖にした状態で一歩だけ踏み出すことが出来たが、それ以上は体が言うことを聞かず、怨敵を前にした状態で無力を晒してしまう。

 

「ほう! この術式の中で動くか……大した身体能力――いや、執念といったところか」

 

 木場の形相を少しの間だけ興味深く観察していたバルパーであったが、横からの声にそれを中断し視線を移動させる。

 

「流石、バルパーのじいさん! ――と言いたいところなんだけど、俺っちまでえ、影響受けているんですけど……?」

 

 両手に持ったエクスカリバーを地面に突き立てて、辛うじて体を支えるフリード。その膝は力を込めている為激しく震えていた。

 

「生憎、発動者以外は効果の対象内なのでな。力を抜けフリード、これは力を込めた分だけ負荷が掛かる術式だ」

 

 一応、助言はするがおいそれと出来るものでは無く、バルパーもそれを見越した上で説明をしているようであった。

 

「くっ……! まだこれほどのものが仕込まれていたとは……不覚!」

「うう……! 全部壊したと思ったのに……」

 

 悔しそうに唇を噛むゼノヴィアと、罠を見過ごしてしまうという失態を犯してしまったことで声が弱々しいイリナ。そんな二人をバルパーは一笑する。

 

「『詰め』が甘かったな、聖剣使いの娘たちよ。常に二重、三重に保険を掛けておくものだ。まあ尤も、簡単に見抜けるようにするほど私も伊達に長生きはしていないのでね」

 

 余裕を持ったバルパーの発言に、二人は言い返すことが出来なかった。見抜けなかった時点でどう反論してもただの負け惜しみにしかならないことが分かっていた為に。

 

『フリード、五秒後に術式を一旦解く。それと同時に離脱するぞ……なるべく追跡しやすい痕跡を残してな』

 

 バルパーは術を使いフリードにしか聞こえない指示を出す。フリードは返事をせずに目線だけを送る。

 

『残りのエクスカリバーはコカビエルが直々に回収する。その為に奴らを我らの根城までおびき寄せる』

 

 バルパーの指示にフリードは口を歪ませて笑みを作り、アイアイサーと声を出さず口だけを動かして了承した。

 フリードの脳内でバルパーの秒読みが始まる。一誠たちは未だに術式の中で足掻いている状況が続く。

 ゼロ、という合図と共に体に掛かっていた負荷が一気に消失し、必死になって足掻いていた一同はその反動で大きく体勢を崩してしまう。事前に知らされていたフリードもよろけるものの、一誠たちに比べれば軽いものであった。

 バルパーによって生み出された隙の中で懐から発光する球体を複数取り出すと、辺り一面に放り投げる。

 

「じゃあな、教会悪魔連合諸君!」

 

 フリードの言葉の後に球体は光を放ち、周囲が白一色に染まって見えなくなる。一誠たちの視力はそれによって一旦奪われ、数秒後には光が収まったものの目の前で光が点滅を繰り返す状態が続き、万全とは言えない状況であった。

 

「追うぞ、イリナ」

「うん!」

 

 そんな中、ゼノヴィアとイリナは去って行ったバルパーたちを追い、一誠たちが声を掛ける暇無く走り去っていく。

 

「お、おい!」

 

 一誠が呼びかけたときには既に背中が小さくなっており、声は届いてはいなかった。仮に届いていたとしても、その足を止める程の効力は無かったかもしれないが。

 そして気付けば木場の姿も無い。いつの間に居なくなってしまったのか分からなかったが、先程の木場の様子を見ていると一人で動くことに危うさを感じていた。しかし、後を追うにしても姿が無ければ追うことも出来ない。

 

「ったく! ……畜生」

 

 勝手な行動とそれを止めることの出来ない己自身の弱さに、やや苛ついた声を洩らす一誠。匙もアーシアも小猫もピクシーも、どうすればいいか半ば途方に暮れていた。

 

「ここにいたのね」

 

 聞き覚えのある声に一誠たちは振り返る。そこにはリアス、朱乃、ソーナ、椿姫、ジャックフロストが揃って立っていた。

 

「か、会長! 副会長! あ、あのこれは!」

 

 思いもよらない登場に匙の顔が一瞬にして蒼褪める。一誠たちも匙と同様であった。しかし皆あることに気付く。主の指示を無視して勝手な行動をしたことに対し激怒してもいい筈であるが、リアスたちの表情に怒りは無く、反対の感情といっても言い哀しみ、焦燥、後悔といった感情が浮かんでいた。

 

「……落ち着いて聞いて」

 

 リアスが重い口調で話し始める。心なしか声が震えて聞こえた。

 

「シンがコカビエルと接触したわ」

 

 一誠たち誰もが息を呑んだ。それは晴天の霹靂といってもいい報せであり、激しい動揺が広がる。

 

「あ、あいつは無事なんですよね? 部長!」

「彼がコカビエルと戦った場所に行ったわ……残っていたのは戦闘後の破壊痕と夥しい血の跡だけだった……」

 

 一誠は言葉を失ってしまう。リアスの言葉が本当ならばシンは――

 

「……認めたくはないけど彼は恐らく――」

「生きてると思うよ」

 

 リアスの言葉を遮ったのはピクシーの言葉だった。

 

「ピクシー、お前分かるのか!」

「ん? 全然。ただ何となくそう思うだけ」

 

 慌てて問う一誠であったが、返ってきた答えは曖昧なものであった為脱力してしまう。

 

「何となくって、お前……」

「いいじゃん別に。アタシがそう思ったからそう言っただけだもん」

 

 ピクシーはそう言って俯いているジャックフロストの側まで飛んで行く。

 

「だからアタシを信じてメソメソしない、分かった?」

 

 ジャックフロストの帽子を軽く叩く。俯いていたジャックフロストは顔を上げた。その黒々とした瞳からは氷の礫が零れ落ちている。それがジャックフロストの涙であった。

 

「また泣いてる、本当に泣き虫だね?」

「オイラは……泣き虫じゃないホー……」

 

 弱々しくも反論するジャックフロストにピクシーは軽く微笑んだ。

 

「言い返せるんだったら大丈夫だね」

 

 ピクシーはジャックフロストの頭に腰を下ろし虚空を見上げる。

 

「今は信じよう? シンが戻ってくることを……」

 

 

 ◇

 

 視認出来ない程の速度で放たれた光の槍が肩を貫く。刺さった光の槍は勢いを失速させず、人一人を吊ったまま後方の壁へと突き刺さる。

 焼け付く痛みを堪えそれを引き抜こうとするも追撃の槍がそれを阻み、無数の槍が体を貫いて壁に張り付けにした。両手両足は固定され腹部も貫通している。呼吸をする度に言葉に出来ない程の激痛が体を奔る。だが、そのことに対して苦鳴を上げることもままならない状況は続いていた。

 槍を放った人物は目の前のことに対し酷く詰まらなそうな眼差しを送り、最後の仕上げとばかりに頭部に向けて光の槍を放とうとしている。

 手足は動かず避けることは不可能。しかし、唯一頭部だけは動かすことが出来る。激痛に耐え肺の許容限界まで息を吸い込みそれを冷気に変え、今まさに槍を投擲しようとしていた人物に全力で吹き当てる。

 視界は冷気によって白く染まり姿が見えなくなるが槍が迫ってくる気配は無い。これで終わりとは到底思えず今の内に何とか刺さっている槍を引き抜こうとしたとき、冷気の中を突き破って黒い手袋に覆われた右手が現れた。

 痛みは一瞬だった。右手が引かれると何かが千切れる音が体内に響く。そして同時に視界の半分が黒く染まり何も映さなくなった。

 

「……ああ」

 

 そこで唐突に目が覚めた。仰向けになって見上げた場所には白い天井と照明がある。シンは鈍痛で頭の回転がいまいち良くない状態で身体を起こし、はっきりとしない意識のまま視線を周囲に向けた。

 目の前にはあるのは、値が張りそうなテーブルの上に置かれた中身が詰まったビニール袋、周りの壁には絵画がいくつか掛けてあり、高そうな花瓶も置かれている。ただそういった芸術品はシンの視点からして無造作に置かれている印象を受け、これを飾った人物は芸術に対してさほど関心が無いという印象が生まれた。

 寝かされていたベッドから両足を降ろす。そのときになって今自分がどのような格好をしているのかに気付いた。学校指定の白いシャツとズボンには幾つもの大きな穴が開いた状態であり、その穴の周りは血で汚れていた。かなり時間が経っているのか血は黒く変色しており、触ると固い感触が伝わってくる。

 血液が大量に流れたことでぼーっとしてしまう思考を必死に動かし、穿たれた筈の箇所に手を当てた。そこには光の槍によって出来た貫通痕は無く、皮膚が張られ元通りになっている。一体誰がこれを治療し、ここまで運んだのか疑問に思うシンであったが、このときビニール袋の上に二つ折りにされた手紙が置かれていることに気付く。

 シンは手紙を開き中を見る。そこにはお世辞にも丁寧とは言えない、書き殴られた文章が書かれていた。内容をざっと流し読みしたシンは手紙をテーブルの上に置き、ビニール袋の中を覗く。袋の中にはコンビニで売っている弁当、おにぎり、サンドイッチ、飲み物、デザートなどがぎっしりと詰め込んである。

 この手紙を書いた人物は、やはりというべきかアダムであった。文章の初めは不手際でシンとコカビエルが戦ってしまったことに対する謝罪が書かれ、次にそれを治療したこと、目を覚ましたのならばとりあえず間に合わせではあるがこれで空腹を満たし、大人しく体力の回復に努める様に書いてあった。そして最後に書かれていたのは――

 シンは意識を失う前のことを少しだけであるが記憶している。目の前が暗くなる前に自分とコカビエルとの間に立ち塞がるようにして、突如影色の壁が現れた。それが何だったのかは分からないが、少なくともそれの御蔭で命を繋ぐことが出来たと考えている。

 シンは手近にあった袋へと手を伸ばす。その中に入っているおにぎりを手にしようとしていたのだが、その手は何故か空を掴む。僅かな間、空を切った手を見ていたが、やがて再び手を伸ばして袋の中からおにぎりを一つ手に取った。

 それを手に持ったまま反対の手で、自分の顔の左半分に触れる。包帯が幾重にも巻かれ視界が半分遮られた状態であったが、最初に触れた頬から順に上へと移動しやがて左目の位置まで移動すると、指先で軽く押す。本来なら返って来る筈の眼球の感触、だが今の左目にはそれが無く、指先は瞼の奥へと沈んでいくのであった。

 コカビエルによって抉られた左目、その喪失感を今になって味わう。アダムからの置き手紙の最後に書かれてあったのは、今ある傷は治せたとしても、失った血や目を元に戻すことは出来ないということであった。

 取り返せないものは失った衝撃、それを実感しながらシンは内心自嘲する。

 

(馬鹿だ)

 

 己の実力も弁えず、遥か格上の相手と一人戦った。

 

(どうしようもない)

 

 手も足も出ず半死半生となり一方的な敗北を喫し、その結果片目を奪われてしまう。それでも――

 

(……この借りを返すことばかり考えているなんてな)

 

 手に持ったおにぎりの包装を一気に剥がすと噛り付く。それを数秒で平らげると、袋の中から手当たり次第食べ物を取り出して、無言のまま凄まじい勢いで食べ始めた。失った体力を回復する為にはまず元を摂取しなければならない。

 大敗をしても未だ戦う意思は折れることなくシンの中で激しく燃え盛る。無謀、無茶は本人が一番理解している筈だが、それでも止まることは出来ない。

 食を進めていく度に脳裏では負けたときの記憶が次々と蘇ってくる。戦いの痛み、相手の嘲笑、敗北感、無力感。思い起こす度に胃の中に重石が乗せられるような感覚が奔り嘔吐しそうになり、それをペットボトルのお茶で無理矢理押し込む。

 敗北という事実、今は甘んじてそれを受け入れなければならない。己の糧にしなければ今よりも強くなれる筈がない。故にこの食事と共に自分の敗北を噛み砕き、呑み込む。二度とこの想いを忘れない為に。

 

 

 ◇

 

 

 胎児が身を縮めているような格好をした『ソレ』は宿主の心を敏感に察知していた。根の様に張り巡らした触手から流れ込んでくる強く、熱く、激しい渇望。今よりも『強くなりたい』という激しい想い。

 激しい想いは触手を通じて『ソレ』へと流れ込んでくる。その想いを糧にして『ソレ』を少しだけ目覚め、体を震わす。

 より強い力を得るには、今の力を張り巡らせた触手から流し込むだけでは足りない。もっと強い力、もっと怖い力、もっと壊す力を得るには今の体ではなく『本来』の体が必要である。

 しかし全てを替えるには未だに力が馴染んではいない。だが、丁度いいことに今は失われた箇所があった。

『ソレ』はそこだけを替えることにする。失われた箇所を新たに創り出し、そして改めて変化させる。

 『人』から『悪魔』の肉体へと。

 




主人公がどうやって生き延びたかの詳細については次回ぐらいに書きたいと思っています。

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