ハイスクールD³   作:K/K

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払拭、旧知

 公園でフリードとの交戦を終えた一誠たちは、いつまでもここに居る訳にもいかず、公園から離れることとなった。木場たちやシンの動向が気になるも、今優先すべきこととしては、匙に背負われている幼い子供を家へと帰すことであった。

 おぶられた状態の子供は朱乃の魔術によって寝かしつけられており、その間に魔力によって家の場所について聞き出し、ついでに今回巻き込まれたことへの記憶を完全に消去しておいた。他人の記憶を本格的に弄ることに対し、少々抵抗を覚えた一誠であったが、狂気と殺気に塗れたフリードの笑みなど、記憶していてもトラウマにしかならない。結局の所は記憶を消すのを素直に見守っていた。

 無事子供を家に送り届けた後、今後について一旦話し合う為、子供の家から一番近い場所にある一誠の家を話し合いの場として一同はそこを目指す。その道中リアスとソーナは、今回一誠たちが独断で行っていた、エクスカリバー破壊についての話を振ってきた。子供やシンのこともあった為、あの場では怒られることはなかったが、改めて怒られると思い一誠たちは一同に頭を下げ、謝罪の言葉を口にし出した。

 

「あ、あの勝手に動いてすみませんでした、部長」

「すみません、部長さん」

「……ゴメンなさい、部長」

「あ、主のきょ、許可無く動いてしまい、本当に……本当にすみませんでしたぁ! 会長ぉ!」

 

 皆が頭を下げて謝る中、匙だけは頭を地面へと打ちつける程勢いよく土下座する。その震えながらソーナの次の言葉を待つ姿に、心底恐れているのが伝わってくる。ソーナはそんな匙の土下座を見た後、椿姫の方に視線を送る。首を横に振るのを見ると、眉間に皺を寄せたまま軽く溜息を吐いた。

 

「サジ。頭を上げなさい」

「で、ですが会長……」

「サジ、今回エクスカリバーの破壊に参戦したことは不問にします」

 

 思わぬ言葉に匙は驚き、顔を上げる。

 

「え、え? でも俺は独断で――」

「独断ではありません。聞いていないのですか? 私は貴方のエクスカリバー破壊について参加することを許可しています」

 

 ソーナの言葉に匙は困惑した表情をする。

 

「正直に言います。私やリアスは、貴方たちがエクスカリバーを破壊しようと、陰で独自に動いていたことを把握していました」

 

 一誠たちは目を丸くする。リアスたちにばれない様に秘密裏に行動していた筈であるが、まさか今回の件で知られたのではなく事前に知られていたとは思わなかった。

 

「ど、どうして?」

「イッセー。エクスカリバーを破壊するという計画、この子たち以外にも話さなかったかしら?」

「このメンバー以外で話したのって――あっ」

 

 脳裏に浮かんだのは最初にこの話を持ちかけた人物、シンだった。聖剣絡みで他にすることがあるという理由で参加しなかったが、そのことにリアスたちが関わっていたとは思わなかった。

 

「確かピクシーからの伝言で、間薙が部長や会長のことはこっちで何とかするって言ってたな」

「おい、兵藤。……それは初耳なんだが」

「……悪い。言うのをすっかり忘れた」

「ふっざけんなぁ! こっちは寿命が縮まるかと思ったんだぞ!」

「悪い! 本当に悪かった!」

 

 立ち上った匙が一誠の襟首を掴んで激しく揺さぶりながら恨み言を言う。自分のミスである為、されるがまま一誠はとにかく謝るのであった。

 

「そこまでにしなさい」

「ですけど――」

「サジ。今回のエクスカリバー破壊について不問にしておくと言いましたが、それ以外で私に対して黙っていることはないですか?」

 

 その一言に真っ赤になっていた匙の顔は青白くなり、滝の様な冷や汗を流し始める。明らかに心当たりがある様子であった。

 

「エクスカリバー破壊を優先して、随分と生徒会の仕事を溜めこんでいるようですね?あろうことか、下手な嘘をついて他のメンバーに仕事を頼むようなことをして」

「あの……その……それは……」

 

 匙の目は泳ぎ、口が回らなくなる。

 

「この件が終わったら速やかに溜まっていた仕事をすること。追加として反省文を原稿用紙100枚に書くこと。――分かったわね?」

「……はい」

 

 匙は項垂れ、力の無い言葉で了解した。

 

「それで部長たちは間薙と一体何をしていたんですか?」

 

 リアスはここ数日間あった出来事を一誠たちへと話す。話が進むにつれて皆、神妙な表情へとなっていった。

 

「――そんな危ないものがこの街に仕掛けてあるんですか?」

「ええ、そうよ。……シンと椿姫、ジャックフロストのおかげで、他に仕掛けられた術式の場所はもう分かっているわ。後はそれを破壊するだけ」

「部長さん、そのアダムという人はどこにいるんでしょうか? 公園に来た時にはいなかったはずですが?」

 

 アーシアの疑問に答えたのはソーナであった。

 

「彼なら、椿姫とジャックフロストの二人がコカビエルが現れたことを報せる少し前に、突然姿を消したわ」

「いきなり? 一体どうして」

「理由については詳しくは分からないわ。でも――」

 

 ソーナ曰く、姿を消す前のアダムは普段浮かべている薄ら笑いを消し、険しい表情を浮かべていたらしい。そして何か小さく呟いていたという。言葉は完全に聞き取れなかったが『早い』『動け』と独り呟いていたらしい。

 

「もしもそれが間薙くんとコカビエルが戦い始めたことを感知してのものだったのなら……」

「シンはアダムが救い出したということ?」

「あくまで推測にすぎないわ」

 

 希望的観測だけに目を向けるのではなく、冷静に状況を判断しながらソーナは発言する。仮にソーナの推測が一見正しいものだとしても、それを裏付けるには根拠が足りなかった。アダムという人物と行動を共にしたことのあるリアスやソーナから見て、掴み所のない人物であることは分かっているが、如何程の実力を秘めているのかは未知数であり、それがコカビエルと同等あるいはそれ以上である可能性は低いと見てもいい。少なくとも、現代でコカビエル以上の実力の持ち主を探すのであれば、上から順に探した方が早い。

 先程の公園内でもあった重い空気が一同に再び蔓延する。しかし、それは無理もないことであった。シン、木場、ゼノヴィア、イリナ、行方の分からない人物たちの安否について、誰もが胸の中に不安を抱えていた。

 

『あまり自分のことで心配されるのってシンは嫌がると思うからあんまり深く考えないでね』

 

 シンが死亡しているかもしれないという考えを否定したピクシーがその後でこの言葉を付け加えていたが、やはり簡単に割り切ることは出来ない。あくまで外面上はいつものように振る舞っているものの、どこか空回りしている様な感覚を皆、胸中で覚えていた。

 特に椿姫とジャックフロストはかなり重症であり、公園に現れたときから殆ど喋る事無く、常に重い雰囲気を纏っている。理由はどうあれ、目の前でシンを置き去りにしてしまったことに対し、かなりの罪悪感を覚えている様子であった。

 時折、深く落ち込んでいる二人にピクシーやソーナが声を掛けているものの、返って来る声は生気の無い虚ろなものであり、返事の内容も簡単なものであった。

 

「参ったな……」

「しょうがねえよ」

 

 誰もが暗い雰囲気でいる中、前向きとも言える姿勢であったのは一誠と匙であった。二人は小声で言葉を交わしつつも、重苦しい空気をどうにかする方法はないか相談する。

 

「会長も副会長も責任感が強いからな……会長も冷静に見えるけど、間薙のことは相当応えている筈だぜ」

「うちの部長も多分そうだな。木場がはぐれになるかもしれないってときもかなり落ち込んでいたし……正直、周りがこんなんじゃなきゃ俺もあんな風になってたよ」

 

 友人とも戦友とも言える存在が行方不明になる。今まで生きてきた中で初めての経験であるが、これほど精神的に重く圧し掛かるとは想像出来なかった。

 

『そう深く考えるな』

 

 一誠の脳内にドライグの声が響く。そっけないドライグに対し、一誠はそれを咎める様に頭の中で言葉を返した。

 

(そう言っても簡単に平然とは出来ないだろ?)

『するだけ杞憂だ。力は他の奴にはまだ及ばないが『魔人』は『魔人』。そう易々とくたばる筈がない』

 

 ドライグの言葉には『魔人』という存在に対して嫌悪を感じさせるものが含まれていたが、その反面『魔人』という存在が持つ強さに関して、信頼とも言えるものが感じ取れた。

 

(『魔人』のことは嫌っているように見えるけど、死んでくれて嬉しいって訳じゃないんだな)

『奴らのことは嫌いだ、相棒。俺の所有者だった者の中には『魔人』の手によって命を落としている者もいる。……それでも相棒の言った通り死んで素直に喜ぶ所か否定してしまうのは、少しばかり関わり過ぎたせいかもしれないな』

 

 自嘲するようなドライグの小さな笑いが左手から伝わってくる。ドライグの心境は、一誠が完全に理解するには、経験も年月も足りないものであった。それは、長い時間の中で命を削り合った者にしか得られない心境なのであろう。

 

「さっきから何をボーっとしてんだ?」

 

 一誠が急に黙り込んだことを不審に思った匙が話し掛けてくる。不意を突かれて驚く一誠に、匙は呆れた眼差しを向けた。

 

「黙ったままころころ表情変えてどうしたんだお前? あの神父たちの術式で変な後遺症にでもなったのか?」

「いや、大丈夫だ! えーと、ああ! あれだ! ずっと張り詰めていたから今になって緊張の糸が切れて、な!」

 

 いまいち説得力が無かったのか、『何を言っているんだ、こいつは?』という感想を顔に書いた匙から思いっきり疑いの視線を向けられるが、それ以上は深く追求することはなく『人の話はちゃんと聞けよ』と注意されるだけに留まった。

 

「ああ、ゴメン」

 

 軽く謝った後に一誠はこれからのことを考える。今の所、相手に振り回されている状況であり、後手に回ってしまっていた。仲間の安否が不明なことで、メンバー内の精神状態は良好とは言えない。正直、この状況を和ますような台詞が頭に浮かばない。隣で同じことを考えているらしい難しい表情をした匙も同様である。

 最初はエクスカリバーを破壊するという内容だったものが、いつの間にか仲間の一人が生死不明となり、そしてこの街全員の命が掛かった戦いへとなっていた。重圧を感じないと言えば嘘になる、だがその重さで立ち止まる訳にはいかない。

 

「おおおしッ!」

 

 いきなり大声を上げながら一誠は自らの両頬を叩く。その突拍子の無い行為に一誠を除く誰もが目を丸くし驚いてしまう。

 

「ど、どうしたのイッセー?」

 

 リアスが戸惑った声を出すのも無理はない。一誠自身も、客観的に見て奇行の類であることは承知している。

 皆の視線が集まる中、頬が赤くなった一誠がはきはきと喋り出す。

 

「部長! とぼとぼ歩いていないで早く俺の家に行きましょう! エクスカリバーやコカビエルたちへの対策の為に今は一分一秒も惜しいです!」

 

 ある意味で場の空気を読まない行動であったが、そんなことを気にしているような状況では無い。一誠の心情を理解したのか匙もまたこれに便乗してくる。

 

「そうですよ、会長! このままやられっ放しなんて俺は御免です! 今度はこっちがコカビエルの鼻っ柱をへし折ってやりましょう!」

 

 一誠が匙を横目で見ると、それに気付き口の端を吊り上げてにやりと笑う。

 しばしの間、急に熱くなった『兵士〈ポーン〉』たちを見ていたリアスとソーナだったが、互いに目配せした後に苦笑を浮かべる。それは突拍子の無い行動をとった一誠たちに呆れたのではなく、眷属の二人に気を遣わせてしまった自分たちの未熟さを笑った為のものであった。

 

「そうね、そうしましょう」

「ええ、その通りですね」

 

 リアスとソーナが互いに頷く。そしてソーナはそっと椿姫の背に手を当てた。

 

「サジはああ言っているけど、貴女はどうするかしら?」

「……大丈夫です。私もここで折れる訳にはいきません」

 

 俯いていた表情を上げる椿姫。まだ陰りはあるものの、いくらか自分を取り戻したのか気丈な表情となっている。

 

「みんな頑張ろうとしてるよー、キミはどうするの?」

「ヒーホー……」

 

 ジャックフロストの頭に座っているピクシーが、叱咤するようにジャックフロストの額をぺちぺちと叩く。

 

「別に落ち込むなっていわないよ。でも王様になるんだったらいつまでもメソメソしてるわけにはいかないじゃん?」

 

 挑発的とも言えるピクシーの言葉に、次第にジャックフロストの体が小刻みに震えだす。それでも言葉を止めないピクシー。やがてジャックフロストの震えが限界まで達したとき一気に噴き出す。

 

「ヒーホーッ!」

 

 ジャックフロストが両手を天に突き上げて雄叫びを上げる。ヤケクソになって叫んだというよりは、自らの内にある暗い感情を吹き飛ばす為の気合のように感じられた。その勢いに頭からずり落ちそうになるピクシーであったが、それに構わずジャックフロストはその場から駆け出した。

 

「イッセーの家に行くんだったらオイラが一番乗りだホー!」

「行け行けー!」

 

 走るジャックフロストの帽子を掴みながらピクシーは声援を送る。一同走り去って行くジャックフロストの姿に虚を突かれた様子であったが、次第にその気合が伝播したのか最初に口を開いたのはリアスであった。

 

「あの子たちには負けてられないわね。なら私たちも急ぐとしましょう! 最後に着いた人はお仕置きよ。ハイ、スタート!」

 

 そう言ってリアスが走り出す。

 

「あらあらズルいですよ、部長」

 

 続いて朱乃が後に続く。

 

「正直、この様な状況ではあまり相応しい行動とは思えませんね、リアス? ――ですが気持ちを切り替えるには必要かもしれませんね」

「私もお供します、会長」

 

 苦言を呈しつつも、いつもの冷静な表情を取り戻したソーナと椿姫が、並走してリアスたちの後を追う。

 

「……負けません」

「わ、私も頑張ります!」

 

 一言呟いた後、走り出す小猫。少し遅れて、あまり運動が得意ではないアーシアも一生懸命駆け出していった。

 

「何だか全部持ってかれたみたいだな」

「だけどこうなりゃいいって思ってたんだろ?」

 

 最後に残った一誠と匙は小さく笑う。

 

「……きっと木場も間薙もあの聖剣使いの二人も無事だよな?」

「ああ、無事だと俺は信じてる」

「だな。俺もそう思っている」

 

 示し合わせた訳でなく互いに拳を突出し、それに合わせると二人はその場から走り出すのであった。

 

 

 ◇

 

 

「じーさーん! 後始末はまだぁ?」

 

 アジトへと戻ったフリードは、バルパーの研究用に使っている部屋の前で待機していた。アジト周辺で追手を上手く巻いた二人は、すぐにこのことをコカビエルへと報せる。コカビエルから戻ってきた答えは簡素なものであり、今まで使用してきたアジトを破棄するので、痕跡となるものを一切残すなというものであった。

 フリード自身特に荷物になるようなものは所持していない為すぐに後始末は出来たが、バルパーの方は膨大な研究資料が有る為、それなりの時間が必要であった。

 

「別に私を待つ必要は無い。コカビエルの下に行っても構わないぞ」

 

 バルパーはそう言いながら分厚い資料の束を手に持つ。すると資料は手の中で発火し一瞬にして灰となって崩れ去った。

 

「じいさん、いいの? それってあの堕天使を使って実験してたときの資料じゃなかったっけ?」

「問題ない。全てここに納めてある」

 

 手に付いた灰を払った後、自分の頭を人差し指で軽く叩く。

 

「流石はじいさんだことで。で、ホントに先に行っていいわけ?」

「構わんよ」

「んじゃ、お先に失礼しまーす!」

 

 フリードがバルパーの部屋の前から立ち去って行く。完全に居なくなったのを確認してから、バルパーは資料の廃棄を止めてその場から移動する。バルパーが立ち止まった先にあるのは壁であったが、そこで手を一振りすると壁に術式が現れ、発光すると壁の中心が左右に開かれ、そこに新たな空間が現れる。

 術式によって形成された数メートル四方の狭い空間。その内部には装飾などなく、床壁天井全て白一色であった。そしてその中心部には、長方形の物体が一つ置かれている。箱と思わしきその物体は長さが二メートル程あり、成人男性が一人入れるぐらいの大きさがある。その箱の前で密かに嗤う。

 

「くくくく、エクスカリバーの実験が終わればコカビエルにはもう用は無い、フリードも同様にな。尤も、簡単にはこちらを見逃してはくれる筈がないがな。――そのときになったらお前の出番だ」

 

 箱の表面を撫でながら中に話し掛ける。そこで何か思い出したのか一旦空間の外に出る。そして数分後戻ってきたバルパーの手の中には筒状のケースがあった。

 

「ついでにこれも置いておこう。――何の役に立つのかは今の私には分からない。だが長年の勘が囁くのだ。コレを手元に置いておけ、とな」

 

 箱の側にケースを置く。中は液体によって満たされており、そしてその液体の中には――

 

「さて、私の準備をすすめるとしよう。全ては私の『夢』の為に」

 

 

 

 ◇

 

 

「この辺りの筈だけど……」

 

 廃墟が連なる場所で、イリナは表情を険しくして辺りを探っていた。エクスカリバーが放つ独特の気配を感じ取りながら、フリードとバルパーの追跡をしていたイリナとゼノヴィアであったが、この地区へと逃げ込まれたのと同時にプツリと痕跡が途絶えてしまい、二人を完全に見失ってしまっていた。

 廃屋、廃工場などが無数にある為、時間を惜しんだイリナとゼノヴィアは手分けして探すこととなり、今に至る。

 イリナが今居る場所は、何処かの工場が使っていたと思われる従業員用の駐車場である。長年放置してあったせいか、アスファルトの隙間から雑草がいたる所に生えており、それによって地面が凹凸としていた。

 いつ奇襲されるか分からない為、既に『擬態の聖剣〈エクスカリバー・ミミック〉』は剣の状態で構えており、常に周囲に神経を張り巡らせている。

 いつ相手が来ても戦える。身も心も戦う準備が出来ているイリナ。そのとき――

 

「まるで子犬だな」

 

 蔑むような声と共に、コカビエルが空から舞い降りる。

 

「コカビエルッ!」

「初めまして、教会から遣わされた哀れな走狗、聖剣使いよ」

 

 いきなり現れた首謀者を前にしてイリナはその名に怒気を込めて叫ぶが、対照的にコカビエルは冷笑を浮かべるだけであった。

 

「ああ、こうして目の前に立ったのはいいが、もっと質の良い人材が居ないのか教会は? 期待外れもいいとこだ。欠伸が出そうになる」

 

 イリナの実力を一瞬にして判断したコカビエルの口から出たのは侮蔑の言葉。エクスカリバーを前にしても、明らかに見下し軽んじていた。そのような態度にイリナも黙ってはいられない。

 

「古の堕天使にして『神を見張る者〈グリゴリ〉』の幹部、コカビエル! 聖剣と仲間の命を奪った罪、神の名の下に断罪する!」

「神の名の下に、か。ククククク」

 

 イリナの言葉に気になる部分があったか、コカビエルは喉の奥で笑う。それを挑発と捉えたイリナは、構えていないコカビエルに向かって、躊躇う事無くエクスカリバーを振るった。

 明らかに聖剣の間合いから外れた位置からの一振り。しかし、イリナの持つエクスカリバーなら、すぐさまそこは間合いの中と化す。エクスカリバーの先端が使い手のイリナの意志を感じ取り伸びる。一メートル程の剣身は数倍の長さとなり、鞭のようにしなりながらコカビエルの首を狙う。

 しかし、コカビエルはそれを鼻で笑うと、振るわれた聖剣に左拳を叩きつける。エクスカリバーの剣身が大きく湾曲しながら地面へと叩きつけられる。その衝撃はエクスカリバーを通じてイリナの両手まで伝わり、その痛みと痺れをもたらす。

 

「所詮は砕けた聖剣の欠片か」

 

 失望を漂わせるコカビエル。恐るべきことに、手の甲を聖剣の腹ではなく刃に当てられたにも関わらず、傷一つ付いてはいない。並みの悪魔ならば触れるだけで消滅する危険が有り、耐性がある天使や堕天使でもそれなりの効力を発揮する聖剣の光。それに触れても一切傷を負っていないということは、単純に考えて、コカビエルの内包する力がエクスカリバーを軽く凌駕しているということである。

 エクスカリバーを以ってしても掠り傷を負わせられない。イリナは焦る気持ちを押さえながらどうするべきか考える。

 

(一旦引いてゼノヴィアと合流する? ゼノヴィアの『破壊の聖剣』、もしくは『アレ』なら何とかなるかも……と思ったけどまずここから引くのが無理みたい)

 

 地面に刃を立てているエクスカリバーを引き戻しながら、頭にいくつもの策を立てる。そんな心情を見透かしているのか、険しい顔をするイリナに対し、コカビエルは悪意を込めた笑みを向けた。

 

「色々と考えているな? 何を考えている? ここからどうやって離脱する方法か? この俺の首を落とす為の戦略か? それとも自分の状況をばれないように相方へと伝える方法か? 考えろ考えろ、その方が戦いの質が上がる」

 

 上から目線で話し掛けてくるコカビエルに内心苛立ちを覚えるが、言っていることのどれもこれもが的中している為、下手に言い返すことは出来なかった。少なくとも戦いにおいては、赤ん坊と大人以上の年季の違いがある。言葉一つでも墓穴に繋がる危険があった。

 

「さっきから難しい顔ばかりしているな、どうせなら笑えばどうだ? 神に仕えながらも欲に溺れ堕落した天使が目の前にいるんだぞ? 使命感で震えてこないか? 神の名の下で信仰を積めて幸福感に包まれないか? 神に殉じて笑ってみせろ聖剣使い」

「生憎、堕天使に見せる笑顔はないわ、残念ね。そろそろ口よりも手を動かして見せたら」

 

 イリナの挑発を混ぜた言葉にコカビエルは小さく笑い、長く伸びた髪を手櫛で軽く撫でる。

 

「舌戦を好みではないか? まあ、俺も好かんがな。――ああ、そうだ。なら最後に一言だけ言っておこう」

 

 コカビエルは赤く染まった瞳でイリナを見る。その目には獲物を嬲るような光があった。

 

「――紫藤イリナ」

 その一言にイリナの真剣な表情は崩れ、下から信じられないという驚きと動揺に満ちた顔が露わになる。聖剣使いの情報は教会にとって機密というべきものであり、イリナたちも上からの許可が無ければ、外に漏らすことなどまず出来ない。今回は牽制という意味も含めて、悪魔側であるリアスたちに名と身分を明かしたが、イリナの名を口にしたのが堕天使側であるコカビエルとなれば話が違ってくる。いつ、いかなる状況で情報が相手側に流れたのか。そのことが激流のような勢いで、イリナの頭の中で目まぐるしく動く。

 

「どうした? 何をそんなに混乱している? たかがお前の名前を呼んだだけだろう? もう少し気をしっかりもったらどうだ。自分の故郷の一つで無様を晒したくはないと思うが?」

 

 イリナの混乱を更は加速する。名前だけではなく、イリナがこの街で育ったという個人の詳細な情報まで把握していたからだ。コカビエルが名を知っていたのは、この街に派遣したエクソシストたちの誰かを、術によって吐かせたと最初に考えた。だが、名だけではなくこの街で育ったことがあるという情報まで知っていた筈がない。

 

(なら一体どこから――!)

「どうやって知ったのかなんて少し考えれば辿り着くだろうが、お前たちのような人種だと難しいかもしれないな」

「……どういう意味?」

「自分の視点から見た信じるもの全てが正しい、教えられたこと全てが正しい、といった輩だよ」

 

 勿体ぶった言い方に、言い様の無い苛立ちを覚える。堕ちた天使の言うことなど全て戯言、こちらを惑わす為に、意味深と捉えてしまう言葉を並べているに過ぎない。そう自らに言い聞かせると、イリナは胸の前で十字を切り気持ちを切り替える。

 

「これ以上貴方の戯言に付き合うつもりはないわ。私は私の使命を果たすだけ」

「所詮、狗は狗か」

 

 侮蔑の言葉に耳を貸さず、イリナは再びエクスカリバーを振るう。相手が同じことを繰り返してきたことでつまらなそうに鼻を鳴らし、コカビエルも同じように左手を掲げたとき、その目が軽く見開かれる。

 先程まで迫っていた筈の剣身が消えていた。イリナの手には鍔も柄もある。しかし剣身だけが見当たらない。フリードの所持しているエクスカリバーの能力ならば容易いことではあるが、イリナの持っているエクスカリバーにそのような能力が備わっていることなど情報には無い。

 何処から来るのか。このときコカビエルは、考えるよりも先に行動に移っていた。瞬時にその場から数歩程後退する。それは長年戦ってきた者としての経験が肉体に働きかけた結果であった。後退したコカビエルは頬に違和感を覚える。触れてみると指先に血が付着していた。数センチ程の裂傷がそこに刻まれていたのだ。

 指先に付いた血を見て口の端を歪めて笑うと、舌でそれを舐め取る。そしてその笑みをイリナの方に向けた。

 

「今のは中々面白かったぞ。たかが聖剣使い一人相手に、血を流すとは思わなかった」

「次は頬の皮一枚じゃ済まないわよ」

「その意気だ。もっと殺気を滾らせろ、もっと俺を殺す想像を働かせろ、俺の命に手を届かせてみろ。でなければ俺の退屈は紛らわせられない」

 

 手招きをして相手の攻撃を誘うコカビエルに、イリナは背中に冷たい汗が流れるのを自覚した。イリナの持つ、とっておきの一つを使っても、皮膚を少しだけ裂いた程度で済まされたことですら凄まじいのに、その斬られた本人は、正体不明の攻撃を受けても怯むどころか、初めに会ったとき以上の重圧を放って、次の攻撃が来るのを待っている。狂人のそれと言ってもいい相手に、攻めている筈が精神的な劣勢を感じさせられていた。

 汗が滲み出て来る手でエクスカリバーの柄をしっかりと握ると、鍔と地面とが水平になるようにして構え、剣身が未だに消えているそれを横薙ぎに振るう。

 一見すれば滑稽に見えるイリナの動作。だが確実にその刃は音も無くコカビエルへと迫っていた。コカビエルもそれを理解しているのか、イリナが剣を構えたときには浮かべていた笑みを消し去り、一瞬たりとも見逃さない様に目を細めていた。

 エクスカリバーの持ち主であるイリナだけが把握している、見えざる剣の軌跡。コカビエルの目を掻い潜り目標へと辿り着くと、振るった剣を今度は手首を返して切り返す。これにより、コカビエルの首は宙へと舞う。

 この時まではそう思っていた。

 

「成程」

 

 納得したように呟いた声の後に、振るったエクスカリバーから強い抵抗が伝わってくる。信じられないといった表情で見るイリナ、その目に映ったのは、左手を喉元の前に持ってきていたコカビエルであった。

 

「見えないのではなく見え難いのか」

 

 左手にはいくつもの頬の傷とよく似た赤い線が出来ており、そこから血が滲みだしている。手に刻まれた傷を感心した様子で眺めた後、コカビエルはイリナに目を向ける。

 

「『擬態の聖剣』は変幻自在に姿を変えることが出来ることは知っていたが、ここまで姿を変えられるとは少々驚きだ。蜘蛛の糸よりも細く、目視することが困難になる程の極細の刃、実際にこの手で触れているのに殆ど感触が無いぞ」

 

 この戦いで初めて侮辱以外の、賞賛とも言える言葉を聞いたイリナであるが、全く嬉しくはない。それどころか、内心では強い屈辱を感じていた。コカビエルが言った様にイリナの奥の手として使ったのは、『擬態の聖剣』の特殊能力を最大限まで活用した、剣身の極細化である。通常の相手ならば、自分が斬られたことすら理解出来ずに消滅させられる程のものであり、まず初見では見抜かれないものであった。だがコカビエルは初撃を回避したどころか、二撃目を回避するのではなく態々首に巻きつけられるまで待ち、イリナがエクスカリバーを引く瞬間を狙って、手で絡め捕るという芸当まで見せつけた。

 教会から授かり、今日の日までひたすら研鑽して得た力を容易く捌かれたことによって、言い様の無い哀しみが胸の裡に広がっていく。それはイリナにとって、致命的な隙を生みだした。

 コカビエルが掲げていた左手を握り締める。手に巻き付いていた刃が更に深く肉へと喰い込み、流血を激しくするが一切構わない。そして右手を持ち上げ虚空を掴む。肉に喰い込んでくる感触が伝わって来る、その手の中には、確かにエクスカリバーの刃が握られていた。

 両手で掴んでいることを確認すると同時に、コカビエルは両手を一気に引く。下手すれば手や指が千切れ飛ぶ危険性があるにも関わらず、行っているコカビエルの顔には、それすら楽しんでいる余裕さえあった。

 コカビエルの引き寄せる力に、イリナの両足が簡単に地から離れる。単純な膂力の差故の結果である。このときイリナの両手は頑なにエクスカリバーを掴んだままであり、決して離そうとはしなかった。それは使命を受けた身としての意地であり、このままエクスカリバーが敵の手に落ちるのを黙って見ていることなど出来なかった為である。

 その確固たる信念がこの先イリナを苦しめることへと繋がっていく。

 イリナが自分の手の届く範囲まで引き寄せたとき、コカビエルは刃を掴んでいた右手を放し、今度はエクスカリバーの柄の部分を掴む。そしてそのままの流れで容赦なくイリナの腹部を膝で突き上げた。

 呻き声を上げることすら出来ない程、イリナの体はくの字に折れ曲がる。だが、コカビエルは攻撃の手を休めることなく、そのまま同じ箇所に同じ威力の膝を再度叩き込んだ。

 イリナの口から吐瀉物が吐き出され、コカビエルの黒のフードにかかるが、それには一切の関心を示さずにもう一度蹴り上げる。

 それを何度も繰り返す。最初の方は吐いていたイリナも、終わりの方になると胃液すら吐き出せなくなり、呼気が抜けるだけの音が口から出て来るだけであった。だが、それでもエクスカリバーを掴む手は緩まず、意識も途絶えてはいない。

 

「くくくく、いい執念だ。やはりこれぐらいの覚悟が見えなければ殴り甲斐がないというものだな。――だが哀しいかな、それが戦う力に繋がっていたらもっと面白かっただろうに」

 

 コカビエルの声も殆どイリナには届いてはいない。半ば意識は失いかけており、意識と無意識との境界を彷徨っている状態であった。ただそれでも、エクスカリバーだけは死守しなければならないという思いだけは、消えることは無かった。

 柄を掴んでいた右手がイリナの顔を鷲掴みにする。既にエクスカリバーを振るう力も無いのか、両手が聖剣を握ったままだらりと垂れ下がる。

 

「まあまあ退屈は紛れた――これで戯れも終わりだ」

「あ……! うう……!」

 

 右手で頭蓋を締め上げ続ける。その痛みに途切れ途切れに悶える声がするが、やがてそれが聞こえなくなったときイリナの膝から力が抜け、エクスカリバーの柄から手が抜け落ちていく。持ち主の意識が完全に途絶えたせいで元の形状へと戻った『擬態の聖剣』を奪うと、コカビエルはその辺りにゴミでも捨てる様に、イリナを放り投げた。

 

「あれぇー、もう終わっちゃったの? コカビエルの旦那」

 

 腰に三本のエクスカリバーを差したフリードが、このときになって姿を現す。しかし既に相手が敗北しているのを見て、若干気の抜けた様な表情をしていた。

 

「何をしに来た?」

「ボスの手伝いでもしてろってじいさんが言ってたもんで」

「要らぬ気遣いだったな」

 

 そのまま無言で、フリードに『擬態の聖剣』を投げ渡す。それを器用に受け取ると、フリードは他の聖剣と同じように腰へと差した。

 

「で、これはどうすんですかい?」

 

 地面に横たわっているイリナをフリードが指差す。微かに胸が上下していることから、まだ息が有ることが分かる。

 

「好きにしろ。もう俺には用がない」

 

 既に興味を失ったのかどうでもよさそうな返答。それを聞いてフリードは下卑た笑みを浮かべた。

 

「んじゃあ、味見してもよろしいってこって?」

「二度も言わすな。好きにしろ」

 

 そう言うとコカビエルはイリナやフリードに背を向けて、その場から離れ始める。

 

「お許しも頂いたから、ちょちょいっと愉しんで!――後でバラそ」

 

 ニタニタと笑いながら気絶するイリナの側に近寄り、纏っている戦闘服を両手で掴み引裂こうとした瞬間――

 

「おい」

「へ? おぼっ!」

 

 呼び声に反応し顔を上げたフリードが見たものは眼前に広がる靴底であり、そのまま踏みつけられると同時に蹴り飛ばされた。本日二度目となる顔面への痛打を受け、鼻血を撒き散らしながらフリードが飛ぶ。やがて臀部から地面に接触するが勢いは止まらず、そこから一回転して今度は後頭部を地面に接触し、更にもう一回転してコカビエルの横を跳ねていき、最後は背中から壁に衝突した。

 

「男女の情事に口を挟む趣味は有りませんが、流石に強姦は見過ごせないもので」

 

 片足を上げて状態でイリナの側に立つ男、それはアダムであった。

 

「こ、この腐れ神父野郎がぁぁぁぁ!」

「結構強く蹴ったんですが頑丈ですね。あとその言葉、そっくり返しますよ」

 

 鼻を押さえつつ聖剣を抜いて立ち上がるフリードに、アダムは冷笑を浮かべて挑発する。

 

「こいつが教会から派遣されたエクソシストの最後の一人か……」

「はい。どうも初めまして、アダムと申します」

 

 コカビエルを前にしても飄々とした態度を崩さないが、コカビエルの方はアダムの挨拶を聞いた瞬間、哄笑し始めた。

 

「初めまして? アダム? クククク、ハハハハハハハハハハハハハハハ!」

 

 声を出して笑うコカビエルの姿に、訝しむような表情でフリードが見ていたが、やがて笑いは止み、コカビエルはフリードにある命令を下す。

 

「その聖剣を持ってさっさとここから去れ」

「はぁ! 一体どういう――」

「お前ではどう足掻こうとこいつには勝てん。無駄死にする前にとっとと行け」

「ああ? 知り合いなの?」

 

 コカビエルは答えず、威圧を込めた視線だけをフリードに送る。これ以上詮索することは得策では無いと理解したフリードは、肩を竦めると二人に背を向けた。

 

「わっかりましたぁ! 素直にここからドロンとさせて頂きまぁす!」

 

 最後に一度、アダムを殺気を込めて睨むと、壁を越えて離脱していくのだった。

 

「いやいや、彼も帰ったことですし私も彼女を連れてここから御暇を――」

「下らん演技は止めろ、三流役者が。ここまで近づいて俺がお前に気付かないと思っているのか?」

 

 その言葉にアダムは薄ら笑いを止め、代わりに悪鬼を連想させる様な獰猛な笑みを浮かべる。

 

「やっぱりバレたか。相変わらず鋭いねぇ」

「ふん。数十年ぶりに会っても変わらんな、お前は。その姿は変装しているつもりか? それにアダムだと――下らない言葉遊びだ」

 

 互いに友好的な気配は無く、ひりつく様な殺気だけが場を支配する。

 

「冷たいねぇ。仮にも打倒『魔人』で肩を並べて戦った仲だっていうのに」

「どうでもいいことだ。この件に首を突っ込んできたとなると、アイツの指示か」

「アイツ? 誰だそれ?」

「惚けても無駄だ。チッ! どいつもこいつも俺を利用しようと陰でこそこそとしているな」

 

 露骨に不快感を示すが、アダムの方もそんなコカビエルの態度が気に入らないのか、笑みを潜め真剣な表情となる。

 

「テメェがつまらない理由で戦争を起こそうとしているのが悪いんだよ、このエゴイストが」

「三勢力の誰もが内に秘めていることを、俺が代表してやってやっただけだ」

「白々しい。もっとマシな言い訳が出来ねぇのか?」

 

 コカビエルは辛辣なアダムの言葉を鼻で笑う。コカビエル自身そのようなことを全く考えていないことを自覚していた。

 

「今更となってはどうでもいいことだ。……あの『魔人』の小僧が仕留めきれなかったのはお前の仕業か」

「大したもんだろ? 俺のペットは」

 

 コカビエルの脳裏に、シンに止めを刺そうとしたときの光景が浮かび上がる。

 四肢を光の槍で貫いて壁に張り付け、その状態で左目を抉り取った後に、光の槍を心臓に突き立てようとした。だがその直前、シンの足元の影が盛り上がり、巨大な壁となって二人の間を遮った。

 コカビエルは一旦距離を取り、そのまま槍で黒い壁ごとシンを貫こうしたが、壁の一部が真横に裂け、そこから大きな眼が現れた。その眼に見られた瞬間、コカビエルの体は麻痺し動きを止めてしまう。その隙に黒い壁はシンを覆うと影の中へと潜り込み、姿を消してしまったのであった。

 

「――まあいい。殺せなかったとしても大した問題では無い。……それでどうする?このまま俺と戦うか?」

「生憎、テメェを倒すのは俺の役目じゃない。テメェの言った通りこのまま裏でこそこそとさせてもらう」

 

 そう言ってアダムは気絶しているイリナを抱え上げる。

 

「なら誰の役目だというんだ?」

「決まってんだろ」

 

 イリナを抱えた状態でアダムは指を三本立てる。

 

「『悪魔』と『龍』と『魔人』が倒すんだよ」

 

 


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