ハイスクールD³   作:K/K

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適当、出発

 マダ。その名がドライグから発せられたとき、場は騒然とする。

 

「マダって……あのときの偽神父の正体じゃあ……」

「その口を開けば神どころか宇宙すらも呑みほすと言われているインド神話の阿修羅……まさか、そんな大物がここに現れるなんて……アザゼル先生、貴方は何てヒトを連れて来たんですか!」

 

 咎める様に言うリアスであったが、アザゼルは軽く肩を竦めただけであった。

 

「別に俺が頼んで連れて来た訳じゃない。ただ、こいつと飲んでいたときにポロッとお前らのことを零したら面白そうだと言ってついてきたんだよ」

「そういうこと」

 

 アザゼルが連れて来た経緯を軽く説明し、マダはそれに首肯する。

 

「そんな簡単に……」

「あの、いいですか?」

「何? イッセー」

「その、阿修羅とか言われていますけど、見た感じは普通の人っていうか……」

 

 未だに菓子と紅茶を飲み食いしているマダの姿とリアスの説明の差に戸惑い、本当に言うほどの存在なのか半信半疑らしい。

 

「そんなに見たいのか? 俺の本当の姿が?」

「え?」

 

 返事を貰うよりも早くマダの体が炎に包まれる。いきなり発火したことにオカルト研究部メンバーは驚くが、隣に座っているアザゼルは平然としている。

 不思議なことに、部屋の中で巨大な火柱が立っているというのに、マダが座っているソファーは引火せず、それどころか室内の温度も全く変化しない。これほどの炎ならば本来、熱の余波を感じてもおかしくないというのに。

 炎の中でマダが纏っている衣服が灰も残さずに蒸発。そして、マダを包んでいた変装用の特殊な皮膚も炎の中で溶けていく。

 その様は非常にグロテスクなものであり、そういったものへの耐性が弱いアーシアは顔を蒼褪めさせており、それを見兼ねてゼノヴィアが抱き寄せ、見ないようにさせていた。

 数秒後、マダを人の形に押し込めていたものは全て消え去り、火柱の中から異形の巨人が姿を現す。

 顔は知っているシンであったが、このとき初めてその全身を見ることとなった。

 青みがかった青緑色をした岩壁の如く荒々しい肌を持ち、腕は人の倍の四本、背に円形上の輪を背負い、頭頂部からは鬣の様に炎を噴き上げている。

 神すらも恐れを為す形相は生ある者に本能的な恐れを抱かせ、オカルト研究部一同止めど無い冷や汗を流し、中には己の意思に反して震える者も居た。

 威嚇している訳でも威圧している訳でも無い。ただそこに存在するだけでいかなる存在も畏怖させ、凄まじい重圧を受ける。

 誰もがその圧倒的存在感に口を開くことが出来なかった。

 

『その姿、変わらんな』

「いい男っていうのは、いつまで経ってもいい男なんだよ」

 

 そんな沈黙を破ったのはドライグであった。臆せず、何処か懐かしむ様な声。それに対し、見た目からは想像出来ない様な冗談を返すマダ。

 その二人のやりとりでほんの少しだけではあるが皆の緊張は緩んだ。

 一誠は少しだけ心に余裕が出来たので、改めてマダの全身を眺める。リアスは、宇宙や神ですら呑み込めると言っていたが、目の前にいるマダは確かに大きいが、言うほどの大きさには感じられない。

 

(何と言うか……)

「『聞いているよりも小さいなー』とか思っているじゃねぇか? 赤龍帝?」

「え! い、いや、そんなことは!」

 

 心の裡をあっさりと見破られ、それどころか思っていたことをそのまま口に出され激しく動揺する。その動揺こそ答えている様なものであった。

 するとマダが徐にソファーから立ち上がる。

 

「何ならお望み通りにしてやろうか? 床に穴が開いて、天井が抜けるだろうが……」

「い、いえ! 結構です!」

「へへへへ。冗談だよ、冗談」

 

 新築の家をいきなり壊されたら堪らないと思い、必死でマダを止めようとする一誠であったが、マダはそんな一誠の様子がおかしかったのか、一笑してすぐにソファーに座ってしまった。

 どうやらからかわれていたらしい。

 

『相変わらず掴み所の無い奴だ』

 

 ドライグはそんなマダに少し呆れた声を漏らす。

 

 正体を露わにしたマダ。そのとき朱乃が、アザゼルとマダが共に現れたときからずっと思っていた疑問を口にする。

 

「すみませんが。見た所、御二人は親しい間柄に見えますが、もしかしてアザゼル先生は、あの件のときに裏でこの方を使って、私たちを動かしていたんですか?」

 

 朱乃の言葉に若干の不審があった。だが、そう思うのも無理も無いことである。結果的に全員生還という形で終えられたものの、一歩間違えればこの場に何人か居なかったかもしれなかった。

 返答次第では深い溝が出来てもおかしくはない。

 朱乃の問に対するアザゼルの答えは――

 

「それはな――」

「それについちゃあ、全部俺の責任だ」

 

 ――横から口を挟んできたマダによって奪われてしまった。

 

「貴方の?」

「ああ、全部俺が悪い。何もかもな。本当ならアザゼルが用意した無難な策があったが、俺の勝手な判断でお前たちを巻き込み全てを託すことになった」

 

 先程までの飄々とした態度を潜め、真摯な声と態度であった。

 そうなのか? と問う全員の眼差しがアザゼルに向けられる。

 すると皆に見えない位置でマダの足が軽くアザゼルの足を蹴る。話を合わせろというサインであった。

 

「まあ、な」

 

 アザゼルは取り敢えず肯定した。尤もマダが言っていることは決して嘘では無い。

 

「言い訳はしない。許せないんだったらいくらでも俺のことを殴るなり罵倒するなりすればいい。だが、お前たちには本当に……本当に申し訳ないことをした」

 

 テーブルに四本の手を着けて頭を下げるマダの姿に一同驚愕する。

 これほどの大物に頭を下げられ、皆恐縮してしまう。

 

「あ、頭を上げて下さい」

「いや! こんな程度じゃあ謝罪にもならねぇ! いっそ土下座の方が……」

「大丈夫ですから! 結局皆は無事だったので! 大丈夫よね?」

 

 リアスの目線が恐らくあの事件の際に一番振り回されていたシンと木場に向けられる。

 木場は既に割り切っているのか無言で頷き、シンの方も同じ様に頷く。

 ただ、シンは頭を下げているマダから何とも言えない胡散臭さを感じていた。態度自体は反省し切って、心の底から謝罪している様に見える。だが、その背からは何か喜色とも呼べる様な気配が見える様に気がした。

 この場の空気がこれ以上悪くならない様に黙っていたが。

 

(こいつは……)

 

 頭を下げるマダにアザゼルは内心呆れていた。長い付き合いだからこそ分かる。今頃、下げて隠れた顔に満面の笑みを浮かべていることに。

 この怪物は如何なる状況も愉しむ。傍から見れば、格下の存在相手に謝罪しているという状況、それに対する相手の反応、それだけで愉快な気持ちになっている。

 この性格が厄介でもあり、長く付き合う理由でもあるのだが。

 

「そうか、悪いな……」

 

 下げていた頭を上げる。如何にも殊勝な態度だが、心の裡では自分や相手のことで大爆笑しているのであった。

 

「ところでイッセーの先生だと言っていましたが、まさかこのヒトを……」

「言葉通りの意味だ。俺がオカルト研究部の顧問になったとき指摘しただろう? こいつの力は、爆発力はあるが、不安定だって。ヴァーリを一時的とはいえ追い込められたのもそれのおかげだ。まあ、二度目は通じないだろうがな」

 

 アザゼルは顧問になったときはっきりと指摘していた。ヴァーリを退けられたのはミカエルに貰った『アスカロン』と『赤龍帝の籠手』。そして、相手が一誠の力に対し情報不足であったこと。

 そして、次に戦えば間違いなく負けるとも言っていた。

 

「問題点を上げればキリがないが、今のお前に必要なのは間違いなく禁手化だ。それもただ成るだけじゃない、長時間維持することが出来る程、完璧に扱うことだ。次点としてはヴァーリから奪った白龍皇の力を扱える様にすることだな。あれを使いこなせれば戦い方に幅が広がる」

 

 愉し気に語るアザゼル。神器に対して深い知識があるだけに、十全の力を発揮した『赤龍帝の籠手』を想像し期待を高まらせているのかもしれない。

 

「それに必要なのがそのヒトなんですか?」

「実を言うと既に他の奴に頼んでいたんだが、ヴァーリの奴が限定的とはいえ『覇龍』の力を使いこなしているのを聞いたからな、これは生半可な『修行〈じごく〉』じゃなくて、もっととびっきりの『修行〈じごく〉』を用意しなければと思っていたところにこいつが丁度、な」

「……え?」

 

 さらりと出てきた単語に思わず聞き返す一誠。

 

「今、地獄って言葉が聞こえた様な……?」

「この際、言っておく。比喩抜きでそれぐらいの修行をしなければ、お前はヴァーリに一生勝てない。『赤い龍』の力は『白い龍』に対する抑止力として考えられている。イッセー、お前は対ヴァーリとして期待されているという訳だ。だが、あいつは魔人相手に何度も地獄を潜り抜けて、今の強さを手に入れている。そして、今後もあいつは魔人と命のやりとりをして自分を高めていくだろうな。今、この瞬間にも」

 

 改めて突き付けられるヴァーリとの差。一誠自身、魔人と戦ったことは無い。ただ、その戦う姿を遠目で見ただけであった。だが、それでも分かる、魔人の圧倒的強さ。それを相手に殺し合いという名の修行をしているヴァーリに対し、畏怖を感じられずにはいられなかった。

 

「嫌だったら逃げ出してもいいんだぜぇ?」

 

 口を歪めて笑いを含んだ言葉を放つマダ。その言葉を一誠に逃げ道を用意する為の甘い言葉にも、神経を逆撫でする様な挑発の言葉にも聞こえた。

 そして、それを後者として受け取った一誠は、眉間に微かに皺を寄せ、少しだけ怒った様な表情をしながら言い切る。

 

「俺は逃げません。……強くなれるんだったら」

 

 宣言する一誠に対し、マダはゆっくりと立ち上がって一誠に近付くと、その肩に四本ある腕の内の一本を置く。

 

「安心しろよ。地獄を見せるたって、何も殺す訳じゃねぇ」

 

 一誠の耳元に顔を近付け、ぼそりと呟く。

 

「『殺してくれ』って泣いて懇願する様な目に合わせるだけだからよぉ」

 

 全身の汗腺が一気に開き、そこから汗が噴き出す。折角奮い立たせた意思を一気に折りに掛かる、奈落の底に引きずり込む様な声であった。

 

「まあ、楽しみにしてろよ」

 

 そう言ってマダは笑いながらソファーに戻っていく。

 

「イッセー、大丈夫なの? 顔が真っ青よ!」

「ハイ。ダイジョウブデス、ブチョウ……オキニナサラズ」

 

 何故か片言になっている一誠を疑問に思いつつもリアスは、アザゼルの説明で疑問に思ったことを問う。

 

「そう言えば、イッセーの先生はもう一人いらっしゃるみたいですが、一体どんな方なんですか?」

「冥界に着いたらそのときに説明する。そのもう一人は冥界に居るからな」

「もう一つ質問なんですが、このヒト――マダさんは」

「呼び捨てでいいぜ」

「……なら、そうさせて貰います。マダは冥界に行っても良いのでしょうか? 彼は三勢力と組していない他勢力の方の筈ですが……」

「そのことについては、既にサーゼクスに話は通してある。ちゃんと許可は貰ってあるさ」

「なら彼が所属している方々には……」

「それなら問題ねぇ」

 

 マダが口を挟む。

 

「他の奴がどうかは知らんが、俺は少々特別でねぇ、ある程度の自由が許されてるんだよ。悪魔側が許可してくれれば、それだけで大丈夫だ」

 

 リアスは少し不安気な眼差しをアザゼルに向ける。

 

「嘘は言ってない。マジで大丈夫だ。でなければ俺と一緒に行動なんかしていないさ」

 

 多少の不安を覚えつつもそこまで言い切られてしまうと、これ以上このことについて深く聞くことも出来なかった。

 アザゼルは懐から手帳とペンを取り出し、パラパラとめくる。

 

「んで? 冥界に着いたらどんな流れになるんだ?」

「あ、はい」

 

 アザゼルに聞かれ、リアスは到着後のスケジュールを軽く説明する。

 里帰りした後は、現当主に眷属悪魔たちの紹介。その後に新鋭の若手悪魔たちと、会合の予定があった。

 その間にもアザゼルは手帳にペンを走らせ、予定を書いていく。ずぼらに見えるが意外とマメな一面があるな、とシンはそんな感想を密かに抱く。

 

「じゃあ、その後ぐらいにお前たちの具体的な修行の説明だな……と思ったらサーゼクスたちとの会合が俺の予定に入っていたな。時間の擦り合わせで間が開くかもしれん。あー、めんどくせぇ」

「堕天使総督様が忙しい間に、俺は冥界を堪能させてもらうかぁ。あー、いい酒と女があればいいなぁ」

「嫌がらせか、てめぇは」

 

 役職も肩書もない自由さをアピールするマダに対し、アザゼルは顔を顰める。

 

「なら先生とマダは私たちに同行するという形でいいんですね? 予定もこちらで立てても?」

「ああ、よろしく頼む。悪魔側のルートで冥界入りしたことはないからなぁ。いっつも堕天使専用のルートだ。今から楽しみだぜ」

「俺も楽しみだ。何せ冥界に行ったことはあるが、外を出歩いたことなんて無かったからなぁ。出ようとするとこいつが本気で怒るし」

「冥界〈こっち〉に招いて貰っただけでも有り難く思え。和平協定結ぶ前にお前に好き勝手出歩かられていたら、宣戦布告だと思われるかもしれなかったんだぞ?」

「そりゃあ、愉快なことになっていたかもな」

「愉快なのはお前だけだよ、この馬鹿」

 

 アザゼルがマダの頭を軽く叩く。

 ここまで来る途中に何度も見て来た為、シンは慣れていたが、リアスたちは二人の漫才の様なやりとりをどぎまぎとした表情で見ていた。堕天使総督と神話級阿修羅の馴れ合いは初見だと心臓に悪いらしい。

 

「まったく……ああ、すまんが冥界での予定をもう少し詳しく教えてくれるか? なるべく早く修行に入りたいからな」

「え、ええ。分かりました」

 

 そこから先はリアスや朱乃が冥界での行動を詳細に説明し、それをアザゼルがメモを取りながら時折質問するという流れであった。たまにマダが口を挟んで雑談などが発生していたが。

 ピクシー、ジャックフロスト、ジャックランタンは早々に飽き、アーシアの使い魔である蒼雷竜のラッセーとじゃれ合いをし始め、待っている他のメンバーも特にすることが無かったので、時間を潰す為に色々と雑談をしていた。

 そうやって時間を消費していると気付けば日も傾いており、外は夕闇に包まれ始めている。

 話の区切りも付き、そろそろ自宅に帰ろうかと思ったとき、下の階から一誠の母親の声がする。

 

「良かったら家で夕飯でもどうかしら?」

 

 その言葉を聞き、立とうとしていたシンの動きが止まり、反射的に一誠の方に目を向ける。

 シンの窺う様な視線に気付いた一誠はニッと笑った。

 

「遠慮すんなよ」

 

 特に急いで帰宅する理由も無く、向こうから折角誘われたのを断るのも失礼だと思い、シンは夕飯を御馳走になることにした。

 

「俺もいいか?」

「あ、はい」

「下降りる前にきちんと変装しておけよ。その姿で現れたらイッセーの両親が卒倒するぞ」

「それはそれで見てみたいな」

「お願いですから止めて下さい!」

 

 

 ◇

 

 

 一誠宅、リビング。そこでオカルト研究部メンバー全員が揃って食事をしていた。かなりの人数だが、改築した一誠宅のリビングはそれでも窮屈に感じられない程広い。

 大人数である為、料理は一誠の母だけでなくリアス、朱乃、アーシアも手伝い、人数分の食事を手際良く出している。

 

「いやー、いつもうちのイッセーがお世話になっています!先生方。ささ、どうぞどうぞ!」

「これはどうも」

「では頂かせてもらいます」

 

 テーブルの隣に座っているアザゼルと人間に変装しているマダのグラスに一誠の父が酒を注いでいく。

 二人がそれを呷ると一誠の父が尋ねてきた。

 

「それで最近のイッセーはどうでしょうか? 先生方に迷惑をかけておりませんか?」

「いえいえ。最近の兵藤君はとても評判が良いですよ。成績も伸びてきていますし。兵藤君が居るとクラスも賑やかになります。彼はムードメーカーですからね。ハハッ」

 

 それに答えるのはマダ。彼は自己紹介の際、オカルト研究部副顧問という嘘を吐いている。

 一誠のことをにこやかに笑いながら高く評価するマダであるが、一誠と会ったのは今日が初めてであり、当然一誠の学園での態度のことなど何も知らない。それっぽく言っているが全部出鱈目である。

 よくここまで嘘をつらつらと重ねることが出来ると二人の会話を聞きながら、周囲は感心半分呆れ半分であった。因みに一誠は、嘘とはいえ並べられていく褒め言葉への気恥ずかしさから、妙な居心地の悪さを覚えていた。

 

「これもどうぞ」

 

 新しく出来た料理を置く一誠の母。マダは礼を言い、それを一口食べる。

 

「これは美味しい! いやー、料理上手な上に美人ときた。世の男性が羨む様な女性を掴まえてイッセー君のお父さんには正直嫉妬を覚えてしまいますよ」

「まあ、お上手ですね」

「いやいや、そんなことは……」

 

 照れる母親、謙遜する父。

 

「いえいえ、本当ですよ。あーあー、結婚していなければ是非お近づきになりたかったなー」

「もう、からかわないで下さい」

 

 マダの言葉を冗談として受け取った一誠の母は、他の料理の様子を見る為に台所へと戻っていく。その後ろ姿を上から下に掛けて眺めるマダ。

 

「マダ先生、ちょっといいですか……」

 

 思わず声を掛けてしまう。自分の母親に対し何やら不穏な視線を送っていることを察し、堪らずマダをリビングの外へ連れて行く。

 

「何だよー、気持ち良く飲んで、食べて、口説こうとしてたのにー」

「あのー……済みませんが人の母親に口説こうとするのは止めてもらえないでしょうか? というか、それ冗談ですよね?」

「いいじゃねぇか。抱けるよ、俺」

「本当に止めてもらえませんかぁ! そういう生々しいことを言うの! 親をそんな風に見られるの子供としてキツイんですよぉ!」

「俺ぁ純粋にお前の母親を女に戻し――」

「だから本当に止めてくださいって! うちの家庭を崩壊させないで下さい!」

 

 人より煩悩が強い一誠でもやはり思春期の少年。親のそれを想像することなど本能が拒絶してしまう。

 

「ええー」

「そんな残念そうな声出しても駄目です!」

 

 分かったよ、と不貞腐れた表情をし、席に戻ろうとするが、一誠はこの女性好きな阿修羅のことを不安視し、更に釘を刺す様な言葉を掛ける。

 

「言っておきますが、だからと言って部長たちにも――」

「手なんて出さねぇよ。俺は処女には興味無いんだ」

 

 その返答に思わず絶句しかけた。

 

「え? え? な、何でそんなことがわ、分かるんですか?」

「見れば分かる」

 

 言い切るマダ。自分の言葉に微塵も疑いを持っていない。

 

「そして、お前は童貞」

「なっ!」

「見れば分かる」

 

 『一体どんな特徴が!』という言葉が喉まで出掛かる。しかし、振り返って席に戻っていくマダの姿に、出掛かった言葉は胸の奥に引っ込んでいく。

 一誠はどっとくる疲れに思わず壁にもたれてしまった。

 

「何だ……あのヒト……」

『真面目に接すると痛い目に遭うぞ。あいつは昔からいい加減な様で真面目な様でやはりいい加減な奴だ』

「……要は疲れるヒトってことなのか?」

『それで合っている』

 

 溜息を一つ吐き、一誠もまた自分の席に戻る。

 

(上手くやっていけるかなー……)

 

 師事する予定のマダの掴み所の無さに、一抹の不安を抱きながら。

 

 

 ◇

 

 

 一誠宅での夕食も終わり、シンたちは一誠たちに別れの挨拶をした後、帰路に着いた。

 道を並んで歩くのはシンと仲魔たち、マダ、アザゼル、木場、小猫、ギャスパー。朱乃、ゼノヴィアは一誠宅に同居している為、帰宅する必要も無い。

 余談ではあるが、シンは、その二人が既に同居していることと小猫もまた同居する予定であることをこのとき初めて知り、思わずリアスの顔を見てしまった。こちらの視線に気付き、若干苦味を含んだリアスの顔が何とも印象的であった。

 

「へへへへ。なあなあ、あんだけ女に囲まれた生活していて何であいつは手を出さねぇんだ? あれか? 不能なのか?」

「んな訳ねぇだろ。あいつは、そりゃあもう思春期剥き出しよ。原因があるとすれば女に囲まれ過ぎて、逆に均衡状態みたいになってんだよ。下手に手を出したら誰かを悲しませるっていうのが頭の中にあるんじゃねぇか?」

 

 そこそこな声量で話すマダ。人が寝静まる様な時間ではないが、人によっては近所迷惑に捉えるであろう。

 

「あ、あんな大きな声で喋っていて、通報とかされないでしょうか?」

 

 心配そうに言うギャスパーであるが、そんなギャスパーもまた頭から段ボール箱を被っているという不審者そのものという姿である。

 

「……そうだな、通報されないことを祈ろう」

「あははは……」

 

 真っ先に目を付けられそうなギャスパーに呆れた声でシンは同意し、木場は困った様に笑う。

 

「はははははは! ハーレム王になりたいって言っている割には紳士だことで!一人に手を出して泣かせるんだったら、全員同時に手を出して啼かせてやりゃいいのに!」

「……下品です」

 

 品の無い台詞を言い続けるマダに小猫は軽蔑した目で見ながら、ぼそりと呟く。するとマダは、アザゼルとの会話を中断しそのまま小猫の顔を覗き込んだ。

 

「……何ですか?」

 

 自分の言葉が癇に障ったのかと思った小猫であったが、それでも動じずに睨み付ける様な眼差しでマダを見る。だが、マダは小猫の予想に反し、口の両端を吊り上げて笑みを浮かべる。

 

「俺ぁ自分の思ったことを正直に口にしているだけだ。そういうおチビちゃんはどうなんだ?」

「……私ですか?」

 

 そこでマダは声を潜める。

 

「猫を被っているんじゃあないのか? まあ、猫が猫を被るなんて変な話だがな」

 

 その言葉に常に無表情だった小猫に明らかな動揺が走る。目が見開き、瞳が激しく揺れる。

 

「親切心で言っておくと、今のままじゃあ頭打ちだぜ? 駒の力だけじゃなぁ」

「……余計なお世話です」

 

 あからさまに不機嫌な声を出すと小猫は集団から早足で抜けていく。

 

「……先に帰らせてもらいます」

 

 シンたちに一言残すと、返事も聞かずにさっさと先に帰っていく。

 

「ごめん、間薙君。いくら小猫ちゃんでも夜道を一人で先に帰らすのも危険だから、僕もついていくよ」

「ああ、分かった」

「あ、あの僕も行きます!」

「じゃあ~、ボクもついていくよ~。じゃあね~。ヒ~ホ~」

 

 紳士的な態度を見せる木場。そんな木場と家が近いギャスパー、ジャックランタンも続き、別れの挨拶を言った後、先に行く小猫の後を追う。

 先程まで大人数であったが、あっという間に半分の数になる。

 

「怒らせたかー」

「何言ったんだよ、お前」

 

 特に悪びれた様子も無いマダをアザゼルは、横目で睨み付ける。

 

「猫被ってんなー、とか、頭打ちになるぞー、とか」

「よりにもよって一番キツイこと言いやがって……お前は、言葉をオブラートに包むことを知らないのか?」

「知っている。そして、分かってやってる」

「余計質が悪いんだよ!」

 

 怒りの表情を見せ、アザゼルがマダの足を全力で蹴り付ける。が、受けたマダは痛がる所か微動だにせず、逆に蹴った方のアザゼルが自分の足を摩っていた。

 

「どうせ修行のときになったらお前も言うつもりだったんだろ? だったら早い方がいいだろ? わざわざ俺が憎まれ役をやってやったんだ。あー、礼ならいいぞ。俺とお前の仲じゃないか」

「この野郎、よくもまあ抜け抜けと……」

 

 嫌らしい笑みを浮かべるマダにアザゼルは苦虫を噛み潰した様な表情となる。しかし、マダの言葉を否定しなかった時点で、言っていることは大凡合っていた様だった。

 

(何か隠していることでもあるのか?)

 

 言葉の断片から小猫が何かを秘密にしているらしく。マダはそれを知っており、アザゼルも態度から見て、知っている様子であった。

 あの時、普段見せない程感情を露わにしたことから、余程触れてほしくない話題であることが良く分かる。

 

「気になるか?」

 

 思案していたシンにアザゼルが声を掛ける。

 

「小猫のことが気になるんだろ?」

「……別にそんなことはありませんよ」

 

 嘘では無いが、本音とも言えない言葉であった。

 気にはなる。だが、ここで素直に『はい』と言えば、アザゼルが、小猫が隠していることを話し出す様な気がして、敢えて否定的なことを言った。

 木場の件でもそうだが、シンは基本的に他人の口からそういう類の話は聞かないことにしている。聞くならば本人から。他人が聞けば面倒な拘りだと思われるかもしれないが、それがシンにとってのルールの様なものであった。

 

「ふーん。分かった」

「へへへへへ」

 

 あっさりとアザゼルは引き、マダの方はシンを見て、笑っている。二人ともまるでシンの考えを見透かしているかの様であった。

 その後、暫しの間沈黙が降りる。

 沈黙の間、シンはずっと冥界行きのことを考えていた。

 アザゼルによってなし崩しで冥界行きが決まってしまったが、未だにシンは冥界行きに関して乗り気では無かった。

 どうしても地上に残される不安が拭い切れない。

 しかし、頭でこのまま考え続けていても意味が無い。言葉にしなければ相手には伝わらない。

 やがて意を決し、シンは口を開いた。

 

「アザゼル先生、冥界行きに関してのことなんですが……」

「何だ? あー、そっちのチビ共を連れて行くってならもう向こうに話を通して了承を貰っているぞ。あと、不在時に『禍の団』が襲撃してくる可能性を考慮して、悪いがお前の親には、身辺保護と護身用の魔術を付けさせてもらう。すぐに逃げられるようにな。勿論、イッセーの両親にも付けておくが」

 

 アザゼルが、先回りしてシンの不安に対する解決策を出す。

 言うとしていたことを先に言われた所か、その答えまで出され開いた口が、再び閉じてしまう。

 

「これで気兼ねなく冥界に行けると思うが?」

「それは……そうなんですが……」

 

 シンは、歯切れの悪い反応を示す。

 確かに、そこまで対策してもらえると幾分不安を和らげることが出来る。だが、シンの頭の中には、とある最悪を想定していた。

 

「……もし、魔人が来たとすれば、言っちゃ悪いがお前が居てもどうにもならんぞ」

 

 こっちの頭の中を読まれているのではないかと思わせる程、的確にこちらの内心を見抜いてくる。組織の長、そして、長年生きてきた者が持つ洞察力には舌を巻く。

 

「まあ、魔人が攻めて来るという可能性は極めて低いだろうな。だいそうじょうの爺を動かすにしても今、『禍の団』は、天界、冥界だけでなく北欧の神族も敵に回している。動かすにしてもそちらの方にだろうな。そしてマタドールの奴は、性格からして直接お前を狙ってくる。実を言うと、マタドールから護る為という意味でもお前には冥界に来て欲しい。あそこなら、迎撃に十分な戦力もあるしな」

 

 あれこれ考えた上でシンにとって冥界行きが、メリットになるという答えを出したのであろう。

 

「と言ってもお前にもきちんと向こうで修行してもらうがな。ちゃんと教える先生も準備してある」

 

 そこでアザゼルは言葉を止め、少し躊躇いがちに言葉を続ける。

 

「……お前にとっちゃいい迷惑かもしれないが、一日でも早く強くなる必要がある。マタドールに命を狙われているのも理由の一つだが、目覚めたての魔人、未熟な魔人なんて存在は魔人に恨みを持っている輩にとっちゃ格好の獲物だ。八つ当たり、という意味でな。情報を広げない様にしているが……なるべく正体をばらさない様にしておけよ」

 

 魔人という立場への忠告。

 今の所、身近でシンが魔人だと知っているのは、オカルト研究部では一誠とギャスパー。仲魔であるピクシー、ジャックフロスト、ジャックランタン。それ以外だとアザゼル、サーゼクス、マダである。

 このメンバーから情報が洩れる可能性は低いと考えられるが、一番懸念しているのは同じ魔人であるマタドール、そして、シンは直接会ってはいないが、三勢力会談のときに現れたもう一人の魔人だいそうじょう。

 シンに執着を見せたマタドールが、そのことを洩らすことは無いと思われるが、問題は『禍の団』に属しているだいそうじょうの方である。

 どんなに楽観視しようともシンが魔人であるという情報は、『禍の団』に広まっていると思われる。

 何らかの形で接触してくるかもしれない。今の所何も無いが、今後どうなるかは全く分からなかった。

 

「肝に銘じておきます。――ところで俺にも先生を就けると言っていましたが、誰なんですか?」

 

 これ以上考えると気が滅入りそうなので、話題を変える。

 

「冥界に着いたらイッセーの先生と一緒に紹介する。まあ、それまで楽しみにしておけ」

 

 勿体ぶるアザゼルであったが、シンは特に追及せずに『分かりました』と言って素直に引く。

 

「安心しとけよ。別に変な奴じゃあないさ。きっとお前にピッタリな奴だ」

 

 マダがフォローする様な言葉を掛けてくる。しかし、そんなマダをアザゼルは半眼で睨む。

 

「……お前、俺が誰を就けたのか知らないだろうが」

「ああ、だから適当」

 

 しれっと言うマダの臀部をアザゼルは無言で蹴り付け、そのまま前に見た様な言い争いを始める。

 ピクシー、ジャックフロストはそんな二人の争いをケラケラ笑いながら囃し立てている。

 

(本当にいい加減だな、このヒトは……)

 

 好き勝手な言動を繰り返すマダにシンは内心呆れつつ、二人の喧騒を見ながら帰路を歩くのであった。

 

 

 ◇

 

 冥界へ行く日。シンは正装だという理由で駒王学園の制服を着て、指定された駅に仲魔二人を連れて行く。

 駅に着くと、ほぼ同じタイミングで一誠たち、そして、アザゼルとマダも到着。一行はそのままリアスと朱乃に先導され、駅内に設置されたエレベーターの前に行く。

 

「じゃあ、まずイッセーとアーシアとゼノヴィア来てちょうだい。先に降りるわ」

「お、降りる?」

 

 リアスの言葉に一誠が戸惑いの声を上げた。そうなるのも仕方ない。ここが一階であり、本来ならばこのエレベーターは上にしか行かない。地下など無い筈である。

 困惑する一誠たちの背中を押して、リアスと朱乃がエレベーターの中に入る。

 

「祐人、小猫、貴方たちは慣れているからシンたちと一緒に来てちょうだい」

「はい、部長」

「……分かりました」

 

 エレベーターの扉が閉まる。階層表示を見ても一階を表示したまま動かないままであった。

 その間にマダが小猫に話し掛ける。

 

「このエレベーターって体重制限は大丈夫なのか? 俺ってこう見えても結構重いんだがな」

「…………そんなこと知りません」

 

 下手すれば初対面のときの一誠以上に邪険な態度で接する小猫。だが、マダは気を害した様子も無く逆に笑い始める。

 

「へへへへ。嫌われちまった」

「自業自得だろうが」

 

 意図して声を掛けたのが分かる。その神経の太さにある意味で感心するシンであったが、決して見習いたくはないとも思った。

 やがて閉じていたエレベーターの扉が開く。中には誰も乗っていない。

 

「じゃあ、行くよ?」

 木場に促されて皆がエレベーターに乗った。あまり広いとは言えない中に大荷物を持った者たちが何人もいるのでかなりの圧迫感を感じる。

 木場がポケットからカードを取り出すと階層ボタンの前に翳す。すると電子音が鳴ると、エレベーターが動き出す。

 全身に掛かる浮遊感。間違いなく下に向かって降りていた。

 

「ここの地下に悪魔専用のルートがあるんだ。と言ってもこれはその内の一つだけどね」

 

 木場が軽く説明する。

 

「ほおー。なら何処にあるのか探すのも暇潰しになるなぁ」

「止めとけよ。下手に探して、向こうに不審者扱いされても知らんぞ」

 

 企む様な笑みを浮かべるマダとそれを窘めるアザゼル。この二人は本当に仲が良いらしい。尤もそんなことを言えば本人たちは強く否定しそうではあるが。

 一分程降下してエレベーターは停止した。

 扉が開いた先には広々とした空間。そして、駅らしきものがあった。

 地面を丸ごとくり抜き、そこに駅のホームを填め込んだかと錯覚してしまう。

 線路の数は一本では無く無数にあり、その数だけプラットホームがあった。

 

「おー、すごいすごーい!」

「広いホー! 大きいホー! ヤッホー!」

「ヤッホ~」

「やッほぉぉぉぉ!」

「ガキかお前は」

 

 大きな駅に目を輝かせ、興奮する三人とそれに加わるマダ。その声が空間内で木霊していく。

 

「こっちよ」

 

 降りて来たシンたちにリアスが声を掛け、呼び寄せる。

 

「これで全員揃ったところで、三番ホームまで歩くわよ」

 

 指定されたホームまで歩く一行。その間に一誠やピクシーたちは興味深そうに周りを眺めていた。

 シンも一誠たち程では無いものの、周りの光景を観察する。

 駅に光源など無く壁そのものが、恐らく魔力によって輝き、その光によって駅内が照らされている。電灯の灯りとはまた違う妖しいと言える光、人工的な光に慣れているシンからしてみれば、少々落ち着かない光であった。

 隈なく見渡したが、どうやらシンたち以外でここを利用している者たちの姿は無い。

 冥界行きを決めたシンは、その日のうちにソーナに、当分生徒会の仕事を手伝えない旨の連絡をした。

 返ってきた返事は、ソーナもまた眷属たちを連れて冥界に里帰りをするというものであった。

 向こうで会いましょう、と言われていたがもしかしたらこの駅に居るかもしれないと思い探していた。見つからないということは別のルートを通って冥界に行ったと考えられる。

 ソーナたちを探すのを止め、視線を前に向ける。すると前方を歩いていた朱乃がさりげない動きで一誠の隣に並び、その手を握るのを見た。一誠は驚いた顔をした後その手を握り返す。それに対し朱乃は顔を真っ赤に染めて嬉しそうであった。

 最初の頃は一誠の反応を楽しむ様にからかっていた朱乃であったが、三勢力会談以降は本格的に一誠に好意を抱いていると思わせる場面をポツポツと見る様になった。

 当然、アーシアもリアスも面白く無く。アーシアは涙目で、リアスは刀剣の様な眼差しで一誠を見ている。

 

「あー……からかいてぇ……」

 

 ウズウズしながら呟くマダを見て、アザゼルは溜息を吐いていた。

 やがて目的のホームに着く。そこには特徴的な形をした列車が停車していた。

 その列車には見慣れた紋様が描かれている。

 

「グレモリー家所有の列車よ」

 

 自慢する訳でも誇る訳でも無く、あっさりとした口調で言うリアス。それが却ってリアスの家の大きさを改めて認識させられる。

 圧縮された空気が抜ける音と共に列車の扉が開く。

 

「さあ、乗りましょう」

 

 リアスに促され一同列車に足を踏み入れるのであった。

 

 ◇

 

 

 ガタガタと小気味良い振動が体に伝わってくる。

 グレモリー家所有の列車が発車してから十分程経過した。

 冥界まで約一時間の道のりで、シンは窓に頬杖をしながら、代り映えのしない景色をぼんやりと眺めていた。

 

「ヒホッ! ヒホッ! ヒホッ!」

「わー! 景色がヒュンヒュン流れてくー」

「ヒ~ホ~。目じゃ追えないね~」

 

 列車に初めて乗る仲魔たちは、座席の感触を楽しんだり通り過ぎていく景色を楽しんでいる。

 

「ふふふーん」

 

 列車に乗ると同時に変装を解いたマダは、一人で二席独占していた。そこで鼻歌を歌いながら加工を施された瓢箪を持っており、そこから杯に液体を注いで呷っている。ここには手ぶらで来ていた様に見えたが。

 その向かいでは我関せずといった様子でアザゼルが眠っていた。

 それを見ていたシンにも眠気が襲ってきた。原因は、一定の間隔で来る心地よい振動か、あるいは変化の無い景色に眠気を誘われたのか、そんなことを考えているうちにシンの意識はブツリと途切れた。

 

 

 ◇

 

「はい。完了しました」

 

 一誠の前に機器を翳していた男が人の良い笑みを浮かべている。

 機器を持つ男は、この列車の車掌であり名をレイナルドという。一誠に翳していた機器は事前に登録している『悪魔の駒』のデータと確認、照合させる為のものである。

 既に朱乃たちは完了しており、一誠が最後の確認であった。

 

「ありがとう。レイナルド。後はシンやアザゼルたちかしら」

 

 リアスがアザゼルの方を見るとアザゼルは熟睡している。

 

「……よくもまあ、ついこの間まで敵対していた種族の移動列車で眠れるものね」

 

 リアスが呆れと感心を混ぜた表情で微笑を浮かべる。

 

「ホッホッホッ。流石堕天使の総督様は大物ですな」

 

 レイナルドは愉快そうに笑いアザゼルの下に行く。

 

「おや?」

 

 途中で足を止めるレイナルド。するとそこで再び笑う。

 

「ホッホッホッ。どうやら姫の客人は皆大物みたいですな」

 

 レイナルドの視線の先には、これから未知の世界に行くというのに動じず穏やかに眠るシン、ピクシー、ジャックフロスト、ジャックランタン、マダの姿があった。

 

 




取り敢えずマダは、その名の通りちゃらんぽらんな言動が目立つ感じのキャラで。

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