金碧艦隊~艦これ~   作:ダンテこったい聖司

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第4話

 小木曾が佐世保鎮守府に着任して早五日の時間が経った。

その間にも山内中将率いる白玉艦隊は修理と整備、補給を完了させ、再び印援任務に復帰し、大本営からは小木曾に対して佐世保鎮守府近海の哨戒任務の命が下り、小木曾の率いる艦隊は連日哨戒任務に明け暮れていた。

 さて、ここで時間は二日前にまで遡る。

 

「これは……」

「資料でデータ上では分かっていたが、直に見るとさすがに大きいな」

 

 正規空母『翔鶴』完成の報を受け、横須賀造船所にその日のうちに発った小木曾と翔鶴は目の前に鎮座する、洋上航空基地とも言える鋼鉄の船に圧巻されていた。

 全長二五七メートル五◯センチ、水線幅二六メートル、排水量二九◯◯◯トンを超す、この航空母艦は記録にある『翔鶴』とはやや異なる。

 その理由はあらゆる記録などを元に、艦娘が運用できるよう再現をする形で建造されているが、そのまま再現をするのではなく、艦娘が運用できる範囲で強化工夫がされているからである。

 例えば航空母艦で言えば、飛行甲板を記録上では木材であったところを軽金属装甲板に換装され、木材に比べて防御性を向上させるなどされている。

 無論、この新翔鶴も同様で、飛行甲板を軽金属装甲板、エンジンもガスタービン機関に換えた他、両舷にバウスラスターを一基とスタンスラスターを二基ずつ備え、緊急時の変則機動を可能としている。

 その可能な限りの最新テクノロジーで強化された空母に乗り込んだ二人は、艦内見回りもほどほどに、早速佐世保へ向けての短い船旅へと発とうとしていた。

 

「翔鶴、調子はどうだ? 」

「好調です。艦の隅々まで様子が手に取るように分かります」

「よし、同調も良好だな。それでは佐世保へ戻ろう。翔鶴、出港。両舷前進最微速。港を出た後、対潜警戒をしつつ両舷原速へ」

「宜候(ようそろう)、両舷前進最微速。出港します」

 

 こうして小木曾は翔鶴を受領し横須賀を発った。

 時間は戻ってそれから二日後の佐世保へ。予定の航路を大きな狂いもなく航行した二人は短い船旅を終え、そのまま翔鶴の艤装と補給を兼ねてドッグ入りさせた。

 二人のいない間の二日間を含め、この間に一隻の深海棲艦も発見できず、今日も何事も無く終わるだろうと、資料を片手に執務室の窓から暮れ行く夕日を小木曾は眺めていた。と、急に通信機に通信が入った。それは即ち艦隊に何かしらのトラブル発生を示すものだった。

 

「<<提督!深海棲艦を発見した!艦種は駆逐艦イ級、数はニ! >>」

「木曾か。応戦は可能か」

「<<問題ない。指示通り撃破すればいいんだろ? >>」

「ああ、そうだ。深追いをする必要はないが逃走を始める前に何としても沈めてくれ」

「<<了解。そんじゃあ、戦闘を開始する>>」

「健闘を祈る」

 

 通信が途絶えると、小木曾は窓へと歩み寄り、じっと窓の外を凝視した。

 当然、そこから海戦の様子が見えるわけもないのだが、小木曾の心中には出撃している全員の身を案じる思いで満たされていた。

 その通信から一時間あまりの時間が過ぎた。

 

「やはり心配ですか? 」

「あ、ああ。まぁな。負けることはないとは思うが、怪我をするんじゃないかと考えると過保護なのかもしれんが、やはり心配ではあるよ」

 

 小木曾はそう言いながらそっと目を閉じる。瞼の裏には燃え盛る炎と崩れる家屋。そして逃げ惑う人々の姿が映し出された。

 

「あの子達なら大丈夫ですよ、きっと」

 

 翔鶴の一言にはっ、と眼を開く。

 

「そうだろうか……」

「お優しいんですね、やっぱり」

「優しい? 俺が? 」

「ええ。とても、優しい方だと確信しました。やはり、大石元帥のお弟子さんだと思いました」

「俺は単に大石長官に師事を受けたというだけだよ。そんな弟子だなんて恐れ多い」

 

 自嘲とも取れる様な笑みを小木曾は浮かべながら返した。

 

「いえ、大石元帥は小木曾提督の事を高く評価されてました。自慢の弟子だと」

 

 小木曾はふと、翔鶴へと目を向け、続けるように促す。

 

「実は、最初は私、大石元帥の指揮する艦隊に編入される予定だったんです。私もずっとそう思ってました。でも、ある日大石元帥から、別の艦隊。小木曾提督の艦隊へと編入される、しかも旗艦として配備されると聞かされたんです。今では大変失礼な事だと反省していますが、その人事に私は反対したんです。小木曾提督もご存知ですよね。この海軍に私達艦娘を只の兵器として見ている方もいらっしゃる事」

「ああ。ごく少数派ではあるが、そういう考え方をする派閥があることは聞いている」

 

 翔鶴は俯きがちに、申し訳無さそうな顔をしながら、

 

「私は、私達艦娘を大事に、人として見てくださってる大石元帥の元を離れたくなかったのです。その話を聞いた時はまだ、小木曾提督の事も、何も聞かされていなかったものですから、もし私達を『物』として扱うような提督の元に配属させられたらどうしよう、と不安で仕方ありませんでした。……でも、大石元帥に聞かされたんです。配属先は元帥が教育した、自慢の弟子の元だと。その時の大石元帥の目を見て、大石元帥がとてもその方を信頼しているのが分かったので、此処に来ました」

 

 翔鶴は一度そこで言葉を切ると、顔を上げて満面の笑みを浮かべ、

 

「そして小木曾提督に出会いました。ほんの短い間ですが、私達に対する振る舞いを見ていれば分かります。間違いなく、大石元帥のお弟子さんだと」

「そうか。なるほど、なるほど。大石長官に随分と買われているのだな。ならば俺はその期待に応えねばな」

「提督なら大丈夫ですよ、きっと」

 

 翔鶴との会話で程よく緊張が解けたちょうどその時、通信機に通信が入った。その内容は敵を撃破し、皆無事である旨であった。

 小木曾はそれを聞き、ほっと胸を撫で下ろすと、労いの言葉と共に、そのまま帰投するよう命令を下すのであった。

 気付くと窓の外に見える景色は夕暮れ時から夜の帳が下り、満天の星空が広がっていたのだった。

 その後、数日の間を置いて『翔鶴』が正式に艦隊旗艦として就航したのであった。

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