ポケスペ after 作:稀里
誰かが言った。
この出会いが全てのはじまりだったのだと──
◆◇◆◇
見渡す限りの青だ。空は晴天。雲ひとつない。
海と空の青が延々と広がっている。
「気持ち悪い……」
その海を航海する船の上では、晴れやかな天気に不釣りあいな暗い声が漏れる。
口許を押さえ、甲板にうずくまる少年は荒く呼吸を繰り返す。少年、シオンは忌々しげに目の前の光景を睨み付ける。
黒の短髪。額には汗が浮かび、いかにも具合が悪そうである。
「大丈夫、シオン?」
「……大丈夫ではないけど、大丈夫」
「ダメなのね。船酔い激しいなら着いてこなければ良かったのに」
背中を擦る少女、ベリルはため息混じりにそう言う。
シオンは何も言えずに黙りこむ。生まれてこの方、船に乗ったのは今日が初めてである。ポケモンに乗って空を飛ぶのは平気だし、船も大丈夫だと思ったのだ。
第一、ベリルに着いてきたのは何も自分が行きたかった訳ではない。彼女の父と、自分の両親に"女の子の一人旅は危ないから"と半ば無理やりに付き添うことが決まったのだ。
酔っている時点で、カッコ悪いことこの上無いのに更にそんなカッコ悪いこと、口に出しはしないが。
別段ベリルとシオンは仲が良いわけでも、よく遊んでいる訳でもない。男と女ということも理由の1つだが、まず歳も違う。
数ヵ月前に11歳を迎えたシオンと、来月で13歳になるベリル。2歳も離れていれば遊ぶこともない。
更には住んでいる場所も違う。
ホウエンのミシロに住んでいるシオンと、ミナモに住んでいるベリル。両親が仲が良いのもあって、幼い頃はよく両親に連れられてミナモに行ったものだが、両親の仕事が忙しくなったのと兄弟の世話などで最後に会ったのは2、3年くらい前である。
「ベリルちゃん。それで、カントーに着いたらどうするの?」
「まずはヤマブキかなぁ。リニアで人が一杯来てるみたいだし、次はタマムシかしら。最有力候補よ」
「そう……。ベリルちゃんはお父さんの仕事継ぐの?」
所謂、ベリルは社長令嬢である。彼女の父の立ち上げたおもちゃ会社は今やホウエン一有名なのだ。
今回はカントー地方進出のための視察目的らしかったが、ベリルの父が仕事で行けなくなりやむ無くベリルが行くことになったのだ。
「私は……今のところ継ぐつもりはないなぁ。社員を纏めるみたいなのは私には無理だし、何より私は何かを作るよりパソコン弄ってる方が得意だし。社長になんかなるもんじゃないって父さんいつも言ってるもん」
「へぇ……」
「シオンはどうするの?」
「どうって?」
額に浮かぶ汗を拭き取りながら聞き返す。揺れる船からはいくつかの島が遠くに見えていた。
「将来。シオンは頭も良いし研究者にでもなるの?」
「ボク、研究とかあんまり興味ないから。将来とか、まだ考えてないな。いざとなったら旅にでも出ようかな」
「そういえばポケモンバトルは折り紙付きだったわね。お祖父様はお元気?」
自身の祖父を思い出す。未だに現役のジムリーダーで、シオンの師でもある祖父は衰え知らずだ。
「元気だよ。あれは当分引退する気はないんだろうなぁ」
ため息混じりにそう言う。
遠くに見える島がナナシマだろうか。そんな事を思いながら腕を擦る。汗をかいたからか、妙に寒い。
「それにしても、海の上って寒いのね。上着着た方が良いかしら」
ベリルも腕を擦ながらそう言う。腰に結んでいた上着を羽織り、ベリルはふと空を見上げた。
その時、船に影が落ちる。一瞬で影に隠れた船からシオンは空を見上げた。
大きな影。スッと辺りが涼しくなったのが分かる。
「なに、あれ……」
ベリルの呟きに反応したようにそのポケモンは羽ばたく。
強い風。まるで吹雪のようなその風に二人は手すりにすがり付く。
昔、本で見たことがある。伝説のポケモン、フリーザーだ。
船が騒がしく、人が逃げていく。
フリーザーはもう一度羽ばたくと、ジッと二人を見詰めて一鳴きする。
そしてそのまま飛び立つ。凄まじい突風に二人は目を閉じた。
凍てつく風に暫く固まっていると、徐々に暖かさが戻ってくる。
船上にいた人々は伝説のポケモンを追って甲板の後ろへと向かう。
一気に行ってしまったら船が沈むんじゃないかと不安になりながらも、シオンはよろよろと立ち上がるとベリルへと手を伸ばす。
「大丈夫、ベリルちゃん?」
返事のないベリルを不審に思い、シオンは顔を覗き込む。
「ベリルちゃん?」
一度シオンを見たベリルは再び下を向き、握っていた自分の手を開く。
騒がしい甲板の上で、ベリルはいつの間にか自分の手の中にあった冷たく光る珠を見つめた。
さて、とりあえず3組の子供たちの旅がはじまりました。
いやはや……。今後どうなるのやら。(考えなし)
現在のてもち
シオン
・トロピウス
・ミズゴロウ
ベリル
・サマヨール
・ウソハチ