緋弾のアリア~影の武偵~   作:ダブルマジック

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武偵殺し編
Bullet1


 習慣とは恐ろしいモノで、オレは日々の生活リズムをほとんど崩さないため、毎朝6時に自然と目が覚める。

 起きてからしばらくはダラダラと過ごすのだが、そうするうちに腹も減るわけで、いつものように買い溜めしてある食パンにジャムなんかを塗ってムシャムシャと食べる。

 オレの住む学生寮は4人が共同で使う広い部屋なのだが、運が良いのか悪いのか、ルームメイトはいなく独り占め状態。

 下手なホテルよりリッチな気分だな。

 朝食を食べ終える頃には時間も7時になっていて、高校2年生になったオレは、始業式に出るために『防弾制服』を身に付ける。

 それから校則に従って刃渡り30センチほどの『小太刀』を懐に入れ、登校の準備を整えた。

 まぁわかるだろうがオレの通う東京武偵高校は『普通じゃない』。

 近年凶悪化する犯罪に対抗して新設された教育機関で、警察に準ずる活動ができる国際資格『武偵』を育成する学校である。

 武偵は警察とは違い金で動くいわゆる便利屋。

 この東京武偵高では、通常の一般科目に加えて、武偵の活動に関わる専門科目を履修できる。

 オレは諜報や工作を専門とする諜報科(レザド)を履修しているが、その評価は6段階で最低のE。落ちこぼれといったところだ。実際銃の腕は壊滅的だしな。

 そんなわけで男子寮を出たオレは、普段なら7時58分の武偵高行きのバスに乗るのだが、今日はなんとなく歩きたかった……まぁぶっちゃけるなら始業式がだるいので歩いて行くことにした。

 男子寮を出た矢先、前方に見知った女生徒を発見。

 男子寮の前にいるというのも変な話だが、この子については心当たりがある。

 

「おはよう、白雪」

 

「あっ……お、おはよう猿飛くん」

 

 長い黒髪にパッツン前髪の大和撫子を地で行くおっとり少女、星伽白雪(ほとぎしらゆき)。現役の巫女さん武偵である。

 

「いい加減すんなり話すくらいにはなってほしいんだけど……」

 

 オレに話しかけられて少し慌てる素振りを見せる白雪は、男性への免疫があまりなく、知り合ってから1年経つが未だに慣れないみたいだ。

 

「あ、あのごめんなさい」

 

「……いいんだけどさ。キンジのところに行ってきたのか?」

 

「う、うん。最近キンちゃんのお世話できなかったから」

 

「キンジとは仲良く話せるのにな」

 

「キ、キンちゃんはキンちゃんだから大丈夫なんです」

 

 ……意味わからん。

 これ以上意味不明なこと言う前に終わるか。

 

「まぁ、話をしてくれるようになっただけマシか。それじゃあな、白雪」

 

「うん。猿飛くんも気をつけてね。『武偵殺し』の模倣犯とか出るかもしれないから」

 

「はいはい、気をつけますよ」

 

 武偵殺し、ね。

 確か年明けに周知メールが出てた爆弾や短機関銃(サブマシンガン)付きのラジコンヘリを使って武偵を追い詰める奴だったか。

 犯人は逮捕されてるし、模倣犯って心配しすぎじゃないかと思うが、『あの』白雪が言うんだから注意するに越したことはないか。

 そんなことを考えながら通学路を歩き始めたオレは、この後起きる事件に首を突っ込むことになる。

 東京武偵高は、レインボーブリッジの南に浮かぶ南北およそ2キロ、東西500メートルの長方形をした人工浮島(メガフロート)の上にある。

 通称『学園島』と呼ばれるその人工浮島で日々生活しているオレは、間に合ってしまいそうな始業式に出るため体育館のある方向へ歩いていた。

 ――ビュンッ!

 そんなオレの後ろからチャリの全力疾走で追い抜いていった武偵高の男子生徒が。

 よくまぁ朝からあんなに元気に走れるもんだ……と思ったのもつかの間。

 その男子生徒の後ろ姿に見覚えがあった。

 

「……あれキンジか」

 

 遠山キンジ。

 探偵科(インケスタ)の2年でオレの1年からの腐れ縁。

 あいつはちょっと『変わった奴』だから、オレの中での評価はかなり高い。

 オレが評価したからなんだってのは考えたら負けだ。

 そのキンジが漕ぐチャリと並走するように無人のセグウェイ? だったかに、人の代わりに1基の自動銃座が載ってるな。

 銃には詳しくないが、たぶん短機関銃の類だろう。

 とりあえず現状把握のためにキンジに連絡を入れてみたが出ない。

 そうこうしてるうちにキンジが小さくなっていくが、その進行方向の建物の屋上。あれは確か女子寮だな。

 そこに人影が見えた。

 と思った瞬間にその人影が屋上から飛び降りたから驚きだ。

 

「ツインテール……女子か。色はピンク……ああ、最近こっちに来たっていう強襲科(アサルト)の……」

 

 オレはそう考え至ると、落下しながらセグウェイを両手の2丁拳銃で撃破し、パラグライダーを開きキンジの救出に乗り出した少女を見ながら走りだした。

 ――なんだか面倒臭そうなことになってるなぁ……

 そんな堕落したようなことを思いながら。

 それからパラグライダー少女に救出されたキンジは乗っていたチャリを乗り捨てる形で降り、コントロールを失ったチャリは道路の真ん中で盛大に爆発した。

 チャリに積む爆薬の量じゃないだろこれ。

 ってか、チャリに爆弾ってチャリジャック? 今時変わった奴もいるもんだな。

 などと考えながら爆破現場を走り抜けたオレは、パラグライダーの跡を追って体育倉庫の前までやってきた。

 とりあえず様子見のため体育倉庫には入らず草影に隠れてみるが、一向に2人が出てくる気配がない。

 

「ヘンタイ――――!」

 

 うおっ! なんか聞こえた。

 さらに続くように「さっ、さささっ、サイッテー!! このチカン! 恩知らず! 人でなし!」などと噛み噛みな声が聞こえてきたが、おいキンジ。お前は中で何をしてるんだ?

 などと考えていたら、体育倉庫の入り口に先ほどのセグウェイが7基姿を現し、中に向けて掃射を始めた。

 

「武偵高が基本的に防弾仕様じゃなかったら即死だなあれ……」

 

 オレはその様子を見ながら、本当なら蜂の巣にでもなりそうなその掃射に肝を冷やすが、物陰にいれば大丈夫かもと楽観視する。

 短機関銃による掃射が1度止み、中からの射撃で一旦射程圏外に追い払われたセグウェイ。

 応戦したのはおそらくツインテールの子。キンジは『いつも』は役に立たないからな。

 そう思ったのも束の間。

 再びセグウェイが体育倉庫に接近し掃射を開始した。

 今の間でちゃんと安全な位置に移動をしてればいいが。

 オレがそんな心配をしていると、7基から放たれる銃弾の雨を潜り抜けて出てくるキンジ。

 あの目付き……『今のキンジ』なら大丈夫だな。

 キンジは襲い来る銃弾を恐れることなく平然と避けて、手に持つ愛銃、ベレッタ・M92Fで7発の弾丸を放ち、その全てを7基の短機関銃の『銃口』に入れ一瞬で破壊した。相変わらず人間離れしてんな、キンジ。探偵科から強襲科に戻れよ。

 などと思っていると、体育倉庫に戻っていったキンジが、数発の発砲音がしたあと突然中から飛び出してきた。

 いや、飛び出してきたというか、投げ飛ばされてきたって感じだな。

 

「逃げられないわよ! あたしは逃走する犯人を逃がしたことは! 1度も! ない! ――あ、あれ?あれれ、あれ?」

 

 キンジに続く形で出てきたツインテールの子は、キンジに叫びながらスカートの内側を両手でまさぐっていた。

 弾倉(マガジン)を探してるみたいだが、お探しのモノはたぶんキンジが今持ってる。

 ってあーあ、投げんなよキンジ。弾倉だってタダじゃないんだから……な!

 オレは思いながらあさっての方向に投げられた弾倉をフック付のワイヤーを伸ばして空中で掴み確保した。

 

「もう! 許さない! ひざまずいて泣いて謝っても、許さない!」

 

 その後ツインテールの子は銃をホルスターにぶち込み、怒りそのままに背中から刀を2本抜き構えた。

 さすが『双剣双銃(カドラ)のアリア』。2つ名は伊達じゃないな。

 まぁでも、『今のキンジ』には及ばないか。

 オレはその様子を見ながら回収した『空の弾倉』を片手で弄びつつ結末を見届ける。

 

「強猥男は神妙に――っわぉきゃっ!?」

 

 キンジへと突っ込んだツインテールの子は、足下に蒔かれたキンジが投げた弾倉の中身の銃弾に足を取られて奇怪な声を上げて真後ろにすっ転んだ。

 その隙に逃げ出したキンジは、すっ転ぶツインテールの子を置いてその場を離れてどこかへ行ってしまい、置いてきぼりを食らった本人は、

 

「この卑怯者! でっかい風穴――あけてやるんだからぁ!」

 

 などと叫んでいた。

 オレは悔しそうにするツインテールの子を見ながら草陰から出て近寄ってみると、警戒されたのか刀を向けられるが、武偵高の制服を見てすぐに刀を下げてくれた。

 

「あんた誰よ」

 

 不機嫌丸出しの顔で尋ねてくるツインテールの子。

 近くで見るとかなり可愛いな。

 

「名乗るほどの者ではないな」

 

 オレは言いながら辺りに散らばる銃弾を持っていた弾倉に入れていき、全て入れ終えてからツインテールの子の目の前にそっと置いた。

 まぁ、1度地面に転がった銃弾なんて使い物になるかは知らないけどな。

 

「神崎・H・アリア。強襲科のSランク武偵に新学期早々に会えるとは光栄だよ」

 

 オレは言ってからツインテールの子、アリアに手を差し伸べて立ち上がらせてから、軽く土埃を払ってあげる。

 

「……あんたは強襲科では見かけなかったから、他の学科ね。どこの誰か名乗りなさい。これは命令よ」

 

「諜報科の2年、猿飛京夜だ」

 

 何故か怒り気味なアリアをこれ以上怒らせるのも嫌なので、名乗るだけはしておこう。

 触らぬ神に祟りなしだ。

 

「諜報科の京夜ね。あんたいつからここにいたのよ」

 

「最初から」

 

 普通に即答したオレにアリアは目を丸くしていた。

 何故そんなに驚く。

 

「嘘よ!? だってあたしが気配に気付かないわけない!」

 

 ああ、そういうことね。

 それは仕方ないだろ。オレは『そっち系』のスキルが他人より高いんだからな。

 

「気配を消すことくらい諜報科では基礎で習うからな」

 

「それでもあたしの『カン』ではわかるの!」

 

 カンねぇ。素晴らしい感性をお持ちで。

 今までそのカンとやらに頼って事件を解決してきたのなら、それはそれで凄いな。

 その証拠に犯人逮捕は99人全員1発逮捕の達成率100%。

 こんなちっこい身体でやることはずば抜けてる。

 

「まぁ神崎の「アリアでいいわ」……アリアのカンがどんなもんか知らないが、万能なもんでもないんだろう? ほら、冷静さを欠いたら誰だってカンくらいは鈍るし」

 

 よし、それらしいこと言った気がするぞ。

 アリアもアリアで「確かにそうね」なんて顔してるし、とりあえず追求は逃れられそうだ。

 だが、これ以上アリアと一緒にいたら色々『バレそう』だな。

 そのカンとやらが働く前に離脱するとしますか。

 

「そこに転がってる残骸、回収してもらった方がいいよな?」

 

 オレはアリアの後ろに転がるセグウェイの残骸を見ながら携帯でどこかへ連絡する素振りを見せつつアリアにそう問い掛けて、それでアリアが後ろを向いてる隙に気配を完全に消して『全く気付かれることなく』その場から姿を消した。

 

「そうね。鑑識科(レピア)に連絡入れて、探偵科にも調査してもらいましょ――ってあれ? いない……」

 

 今頃アリアはキョトンとした顔をしてそうだな。

 オレはアリアのそんな顔を想像して笑みをこぼしながら、結局出なかった始業式の会場である体育館に行かずに教室へと歩いて向かっていた。

 ……いや待て!

 あの時のアリアは冷静さを取り戻していた。

 そこでオレが完璧に姿を眩ましたら、逆に怪しまれたんじゃ……

 失敗したな、オレ。

 まぁバレたところでどうなるわけでもないだろ。深く考えすぎたな。

 オレはこの判断が間違いであったことを、すぐに思い知ることになった。

 

「理子、おはよう」

 

 新しいクラス、2年A組に辿り着いたオレは、今現在で最も仲良しの女友達、峰理子(みねりこ)の姿を発見し軽く挨拶する。

 理子はツーサイドアップに結ったゆるい天然パーマの金髪をしていて、武偵高の制服をヒラヒラのフリルだらけに改造したちっさい子であるが、胸の発育はいいアンバランス少女。

 ちなみに科目は探偵科。

 その理子はオレの挨拶を聞くや否や、ハイテンションで席を立つ。

 

「キョーやん、おいーっす!」

 

 言いながらハイタッチを求める理子に合わせてオレも渋々ではあるが右手を挙げてハイタッチを交わした。

 理子は他人に勝手にあだ名をつけて呼ぶ癖があり、オレの場合は京夜だからキョーやん。そのまんまだな。

 

「キョーやんや。始業式にいなかったが、一体何をしていたんだい?」

 

「事件見学」

 

 オレのそんな答えに首を傾げた理子。

 説明するのは面倒臭いな。

 あとで教務科(マスターズ)から周知メールが来るはずだから、それで推理しろ。

 仮にも探偵科にいるんだからな。

 

「まぁいいや。キョーやんは変わってるから気にしてたらキリないしー」

 

「失礼な。そういう理子もオレからすれば変わり者だけどな」

 

「えー、理子はフツーだよー」

 

 普通の奴がそんなフリルだらけの制服を着るのか?

 などとは言ってはいけない。言ったら最後、このウザいレベルの理子に延々絡まれる。

 オレはこれでも色々と察しが良い、はずだ。

 理子とそんな風に流れで話していると、クラスに疲れた顔をしたキンジが入ってきて、自分の席に座ってぐったりと伏せた。

 朝からご苦労様だな、キンジ。

 何か言ってやりたいが、生憎とHR(ホーム・ルーム)の時間だ。ねぎらいの言葉は休み時間にでもしてやるよ。

 

「先生、あたしはアイツの隣に座りたい」

 

 ……神崎・H・アリア。せめてキンジを休ませてやってくれ。

 先生から紹介された転入生、アリアは、開口一番にキンジを指差しそう言うと、指名されたキンジは訳がわからないといった顔をしていた。

 オレはキンジを哀れみながら視線をアリアへと向ける。

 ……あっ……目が合った。しかもなんか凄く嫌な予感がする。

 オレはそんな予感がしつつ知らん顔で視線を逸らすと、あんたはあとみたいな雰囲気でアリアは持っていたベルトをキンジへと投げ渡した。借りていたみたいだな。ベルト。

 

「理子分かった! 分かっちゃった! これ、フラグばっきばきに立ってるよ!」

 

 その2人の様子を見た理子が、席を立ちながらおバカ推理を発動。

 恋愛だなんだと騒ぎ始めて、クラスも浮き足立ってきた。

 よしよし、そのまま騒いでHRよ終わってしまえ。

 ――ずぎゅぎゅん!

 そう思った矢先に2発の銃声が教室に響き渡り、その内の1発が壁から跳弾しオレの机に当たる。

 危なっ! オレにはキンジみたいな超人能力はないんだ! 下手したら顔に当たってたぞ!?

 

「れ、恋愛だなんて……くっだらない! 全員覚えておきなさい! そういうバカなことを言うヤツには……」

 

 突然の発砲により騒いでいた奴らも一瞬で沈黙し、理子などシュバッと綺麗に着席する変わり身の早さだが、そんな一同に対してアリアが発した言葉は、実に武偵高らしく暴力的だった。

 

「――風穴あけるわよ!」

 

 その夕方。

 学校でのらりくらりとアリアから逃れて過ごしたオレは、着ていた制服の上着をリビングのソファーに投げて座りくつろぎ始めた。

 ――ピンポーン。

 こう静かだと、真下の部屋のチャイムもかすかに聞こえるな。

 ――ピンポンピンポーン。

 …………

 ――ピポピポピポピポピピピピピピンポーン! ピポピポピンポーン!

 うるせー!!

 どこのピンポン魔だコラ!

 真下の部屋はキンジだったな!

 今日はゆっくりさせてやろうと思ったが、我慢できん!

 オレはイライラしながら両手に黒の防刃グローブをはめてベランダに出ると、持っていたワイヤーをベランダの手摺りに巻き付けて両手に持ちながら、逆さ吊りの状態で下の階のベランダを覗き込み叫ぶ。

 

「キンジ! 近所迷惑を気に掛けないバカはどこの誰だ!」

 

 ……見て言って気付いた。

 神崎・H・アリア……またお前か。

 そして目が合うなりアリアは、バカ呼ばわりされたことが頭に来たのか、ホルスターから銃を抜いてオレに発砲してきた。

 この時命の危険を感じたオレは、つい『本気』になってしまった。

 誰だって自分の命は惜しいだろ?

 オレは発砲の瞬間にワイヤーを手放しベランダに着地して初弾を躱すと、履いていた部屋用スリッパをアリアの目線上に蹴り放ち、オレが一瞬だけ視界から消えるようにした。

 

「とりあえずバカ呼ばわりしたのは謝るから、銃を収めてくれ」

 

 その一瞬でオレはアリアとの距離3メートルを詰めてすかさず謝りながら銃を持つ両手の手首を掴み外に開かせて射撃線から外した。

 

「あっ……わ、わかったから放して!」

 

 アリアは顔を真っ赤にしながらオレに叫ぶ。

 まぁ、命の危険がなくなったので、オレもアリアの両手を解放しキンジの部屋のソファーに大きな息を吐きながら座り込んだ。

 あー、強襲科のSランク武偵様を取り押さえちまった。

 これは嫌な予感しかしないな。

 キンジ。旅は道連れっていうが、どうやらオレは余計な好奇心の所為で墓穴を掘ったみたいだ。

 こうしてオレ、猿飛京夜(さるとびきょうや)の比較的静かな日々は終わりを告げた。

 

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