緋弾のアリア~影の武偵~   作:ダブルマジック

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Bullet75

 

「場所は品川火力発電所。ここからだとスムーズに行って最短20分ってところか」

 

「最短はどうかな。今は夕方、帰宅ラッシュの始まる時間だから、交通量は酷くなってると思うけど」

 

 玉藻様からジーサード襲撃の報せを聞いて新宿から羽鳥の車で急いで出発したのだが、ジーサードがいるらしい品川火力発電所まで急行するのには少し時間がかかりそうで、その間に連絡をするべき人物達に携帯で報せておくことにする。

 玉藻様がすでに一番近いところにいたらしい白雪とジャンヌに連絡し向かわせたとのことで、オレとの通話を切る際にキンジにかけるようなことを言っていたので、とりあえずすぐ出そうな理子に繋ぐと、こちらの雰囲気を敏感に察知しおふざけ抜きで応答。

 自分で現場には急行すると言ってからレキに連絡すると報告があり、次はアリアに繋げば、こちらはもう玉藻様から報せを受けてすでに出撃準備に入っているようだった。

 ならばとワトソンに最後に繋ぐと、こちらはまだ報せを受けていなかったらしく、移動手段は車があるようなのでこれでこちらの陣営は全員が動いたはず。

 それらの連絡を終えてみると、車は交通量によって案の定ペースダウンしていて、ハンドルを握る羽鳥もどこかイラつく素振りをしていたかと思えば、急にその進路を変えて一車線の通路や人通りの少ない通路を進み始めて時間短縮を狙ったようだが、はたして上手くいくか。

 一応カーナビによって道路情報は逐一確認できるが、どのみち大通りを通過しなければならないので結果として遅くなることも十分ありえ……

 そこまで考えてオレはふと、こいつの行動に疑問を抱いてしまう。

 武偵の乗る車なら、おそらくは高い確率で赤い回転灯を搭載しているはずで、それを使えばたとえ大通りでも信号と交通量を無視できたのではないか。

 そう思って後部座席の方に目を向けて、そこに何もないことを確認し、助手席の前のグローブボックスを開けると、あった。赤色回転灯が。

 すぐにそれを取り出して羽鳥に付けることを言おうとしたが、よく考えてみたらこいつはこんな凡ミスをするようなやつではない。

 むしろ車を所持してるならこういう緊急時の行動として刷り込まれてる自然動作の1つ。

 そこまで考え至ってから現実に戻ると、車はいつの間にかどこかの建設中の施設の敷地内に入るところで、それにはもう疑問しかなかったオレが羽鳥を見た瞬間、香水ケースのようなものから何かの気体を顔に噴きかけられて、反射的に目を閉じてシートベルトを外しドアノブを開けて転がるようにして車から出たオレは、口内に噴きかけられたものを吸い込まないように呼吸を止めた状態で顔を拭い、皮膚に異常がないことを確認してから目を開けてすぐさま羽鳥の車から離れ敷地の奥へと下がった。

 

「相変わらず驚くべき即応力だね。いつもデータより良い動きをするから少し面白いが、今回に限っては厄介でしかないかな」

 

 一体どういうつもりなのか、全く悪びれる様子のない羽鳥は、敷地の出入り口で停めた車から降りてから、よくわからないことを言いながら両手に黒い革製グローブを付けて車に背を預けオレと正面から向かい合う。

 

「ああ、心配しなくても君に浴びせたのは即効性の催眠ガスだから、ほとんど吸ってないなら効果はないかな」

 

「なんのつもりだ」

 

「君をあの場所へ行かせるわけにはいかない。それだけだよ」

 

「だからそれがなんのつもりだって言ってんだろ。その行動に何の目的があるんだよ」

 

「ふむ、それに答えるとなると私も突っ込んだことを話さないといけないんだけど、話したらここに留まってくれると約束するなら……」

 

「ならいい。ぶっ叩いて聞き出してから行く」

 

「……野蛮なのは嫌いなんだがね」

 

 どうやらオレがジーサードの元へ行くことを阻止したいらしい羽鳥。

 その理由は全くわからないが、退く気がないやつと議論する時間はない。

 このまま羽鳥をやり過ごして向かう選択肢もあるにはあるが、今こいつを自由に動ける状態にしておくのもまた事態を悪化させる可能性が。

 それを避けるにはやはり羽鳥を無力化しておく必要はあるか。

 それを示すように防刃グローブを装備してゆっくりと身構えたオレに対して、実は戦闘能力に関してはほとんど知らない羽鳥は、その手にサプレッサー付きの拳銃を抜き、オレに向けて牽制。

 人の目も全然ないし住居もないこの周りでは、おそらくちょっとくらい派手に戦り合っても騒動にはならないっぽい。

 銃声もサプレッサーで減音されるし、事前に場所を選んだわけだ。やってくれる。

 

「時に君は、かのシャーロック・ホームズがその生涯で唯一『捕まえそびれた犯罪者』を知っているかい?」

 

 面倒な状況になりつつも、その状況を冷静に確認していたら、銃を向けながら羽鳥はいきなりそんなことを尋ねてきて、突然の質問についつい思考してしまったオレは、その一瞬の隙を正確に突いて放たれた銃弾に対して反応が遅れ、胸めがけて放たれていた銃弾を右肩に受けてしまい痛みで動きが鈍る。

 そこを容赦なく羽鳥が間合いを詰めながらさらに2発。

 今度は両の太ももを狙って機動力を完全に削ぐ気で迫ってきて、銃口の向きで狙いをおおよそ予想できたオレは撃たれる直前に横っ飛びでそれを回避。

 しかし体勢までは整えられなく、片膝の状態で接近してきた羽鳥の右足の蹴りを両腕で防ぎ体が後ろへ流れるが、それに抗わずに後転し蹴り上げていた羽鳥の右足を自分の足で払い上げてバランスを崩してやりつつ、後ろで両手を突いて倒立から跳ぶように立ち上がる。

 この時点で不意打ちへのリカバリーは完了したが、右足を持ち上げられた羽鳥はしなやかな身のこなしで手を使わない華麗な開脚バック転でバランスを崩すこともなくその場に留まってみせて、こちらが構えるより早く接近戦へと持ち込んできてアル=カタで押してくる。

 アル=カタでの拳銃を打撃武器に使う戦闘法は悶絶級に痛いので、羽鳥の右手を一番に警戒しつつ銃口がオレに向かないように捌き、隙あらば銃を叩き落としてしまうつもりだったが、異常に躱すのが上手い羽鳥はこちらのそんな動きに合わせてワンステップ後退してすぐさま元の位置に戻る芸当を見せてこちらに銃弾を撃ち込もうと捌く手をさらに捌いてくる。

 体術も独特ではあるがしなやかさを生かした受け流す柔術に近いタイプで、大振りがないため攻めに転じる隙も少ない。やりにくいな……

 羽鳥のペースで戦況をコントロールされつつある中、とにかく拳銃だけは優先的に処理しておくべきと判断して、羽鳥のワンステップ後退の1拍を逆に利用してミズチから分銅付きのワイヤーを1本取り出して突き出してきた羽鳥の右腕に巻きつけて離れられなくし、すかさず空いてる右手でグリップを握る指を殴り銃を手放させ、落ちた拳銃を蹴って敷地の端まで飛ばしてしまう。

 そしてもうこの際だからと互いに片腕を封じた状態でのガチンコでもして倒すかと決意しかけたが、それより早く左腕の袖からシュッ、と手術用のメスを取り出した羽鳥はそれでワイヤーを断ち切って離れてしまい、残念ながら実行の前に阻止されてしまう。

 あのメスは手首の特別な動作で取り出せる装備を腕に仕込んでるようだな。

 片腕だけとは限らないし、あと何本仕込んでるかもわからないから注意しておくか。

 ここでようやく羽鳥優位の立場がイーブンにまでできて、初撃で受けた銃弾のダメージは鈍く残りつつも問題ない程度に回復。

 ここから一気に倒しに行きたいところだが、今の攻防で羽鳥の戦闘能力がオレと同等か少し上くらいに感じたので下手に攻め込むと手痛いカウンターを受ける可能性も低くない。

 だからといってまた羽鳥から仕掛けられてペースを作られるのも避けなきゃならない。

 そうこう考えながら羽鳥をよく見れば、左手のメスを遊ばせつつ刃こぼれがないかを確認していたが、その顔は何故か楽しそうに笑顔を作っていた。

 

「さっきの質問、何か心当たりはあったかい?」

 

「……あっ? シャーロックが逃した犯罪者ってやつか。そんなの考えるより先に仕掛けてきたのはどっちだよ」

 

「ハハッ、それはそうか。ではヒントをあげよう。彼が活躍したのは19世紀末のイギリス、ロンドンを中心とした近隣諸国だ。最も有名なかの教授……ジェームズ・モリアーティは公式ではスイスのライヘンバッハの滝で転落死の扱いだから答えではないよ」

 

 また唐突に話しかけてきた羽鳥に、今度は十分な警戒をしながら応じてやると、どうやら本当に答えがあるらしく――てっきりただの隙作りの話題だと思っていた――わざわざヒントまでくれる親切心を見せるが、条理予知を持つあの完璧超人が逃がした犯罪者なんて本当にいるのか?

 当時はまだそれほど超人めいてなかったのかもしれないが、そんな記録は教科書にも……

 と、そこまで考えてまた意識が羽鳥から離れかけてしまったので、2度も術中に嵌まるのはバカもいいところだから今度はこちらから仕掛けていく。

 まずはクナイを2本取り出して、そのうち1本をすぐ足元に刃の部分を丸々地面へと突き刺して埋めて羽鳥へと接近。

 とりあえず防弾制服があるからメスは有効な武器ではない――頭部くらいしか狙えないし――と判断して処理は後回しにし、接触の直前にもう1本のクナイを羽鳥の左の足首めがけて投擲。

 しかしさすがの反応を見せた羽鳥はひょいっと足を上げただけでそれを躱し、その足で回し蹴りを放ってくるが、身を屈めて羽鳥の外側へと抜けて左足を腕に見立てた背負い投げで羽鳥を力技で放りほぼ同時に足元の地面に浅く刺さったクナイを踏んで深く埋め込む。

 投げられた羽鳥は頭から落ちるところを両手でしっかり勢いを殺して回転受け身からすかさず反転で立ち上がって即リカバリー。だがそのくらいは想定内。

 次には分銅付きのワイヤーを右手から遠心力を利用して羽鳥の胴に巻き付くように放り、同時に左手からも再び足首を狙う軌道と羽鳥の両側を狙う軌道でクナイを3本投げる。

 これでワイヤーを屈んで躱すことも横っ飛びで躱すことも封じた。が、これでもまだ布石。ちゃんと動けよ、羽鳥。

 そんな願いを込めながら羽鳥の対応を観察すると、迫るワイヤーに対して左手のメスを使って直前に迫ったところで断ち切った羽鳥は、同時に迫るクナイも半身で躱して対処。さすがだが、よく動いてくれた。

 それを確認するより少し早く接近をしていたオレが羽鳥の全ての動作が完了したところに右足で突くような蹴りをお見舞い。

 攻撃自体は単調だったので右足に正面を向ける形で左側へバックステップし難なく躱されたのだが、そこで羽鳥は何かに足を取られたようにバランスを崩して背中から倒れそうになる。

 そこに待ってましたとばかりに右拳を握って羽鳥の顔面へ叩き込もうとしたオレだったが、直前でその軌道をやや変えて胸の中心へと叩き込み地面へと倒した。

 地面に強く叩きつけられた羽鳥は一瞬苦痛に顔を歪めるが、次には人が変わったような鋭い目と恐怖すら覚える笑顔を見せて左手のメスを顔めがけて突き出してきて、それを体を傾けることで躱したのだが、首のすぐ横で止まった羽鳥の左手首が鋭いスナップを効かせて持っていたメスを投擲。

 完全に不意を突かれたオレは『死の回避』によって上体がわずかに反り返り首の皮一枚でメスを躱すことに成功。

 しかし次にはもう羽鳥が右手からメスを取り出してオレの首を狙っていたため、慌てて後退し十分な距離を開いた。

 そしてオレの首にはメスによって横一文字の切り傷が刻まれ、そこからわずかながらも出血。

 今のは完全にオレを殺しにきていた。でなければ死の回避が発動するわけがないのだから。

 武偵だから殺しはご法度、というのは常識レベルであったため、オレは羽鳥とやる前からそれ前提で戦っていたが……どうやら認識違いだったらしいな。

 ここにきていきなりの羽鳥の変貌とその危険性に戦慄しながら、ゆっくりと立ち上がった羽鳥を見るが、その目は依然としてギロリと睨むようなものでありながら、表情は不気味なほどに笑顔を作っている。

 まるでオレを絶好の標的か何かとでも見るような『狩人』の顔に、今までの羽鳥が虚像であったようにさえ感じてしまう。

 

「……不思議なことをするとは思っていたが、まさかここまで策を練っていたとは感服したよ」

 

 と、戦慄するような笑顔のままで右手のメスを足元へと投げ捨てて地面に突き刺した羽鳥。

 それによってオレが地面に突き刺した2本のクナイで張ったワイヤーが断ち切られてその効力を失う。

 先ほど羽鳥が回避行動の際に転倒しかけたのは、そのワイヤーがかかとに引っ掛かったから。

 すでに陽も沈んで明かりも少ないこの場で、このワイヤーに気付くのは至難の技だが、奇妙な行動を挟むから途中で気付かれないか本当に心配だった。

 そちらに意識がいかないくらいに攻撃を畳み掛けたのは結果として良かったかもしれん。

 

「だが君は、1つ大きなミスを犯した。あそこで私の顔面に拳を叩き込んでいれば、一撃で戦闘不能にできたかもしれなかった。しかし君は直前でそれを止めて、結果として私を『覚醒(めざ)めさせてしまった』……」

 

 オレのワイヤートラップを断ち切った羽鳥は、やはり気付いていたのか、オレの失策を的確に指摘しつつよくわからないことまで言い始める。

 覚醒めさせた? 何を言ってる?

 

「以前私は『自分を女だと思っていない』と話したことがあったね。あれは真実だが、それにはちゃんとした理由があるんだよ。私はね、『自らが女であることを自覚してしまうと、異性である男を無性に壊したくなってしまう』んだ。その顔を苦痛と絶望で染め上げて、腹を裂き内臓の1つ1つを丁寧に取り出し、溢れ出る血を周囲へと撒き散らしてやりたいと思うほどに、狂気的な衝動。だから私は普段男の格好をし、女としての恥を感じないほどに心を男にしていた。なのに君は今、私が女であることを意識して、この顔に拳を叩き込めなかった。それは私にとって自分が女であることを自覚するのに十分すぎる理由だったんだよ」

 

 不気味な笑顔のままでそうやって自分の秘密についてを暴露した羽鳥に、オレは言葉を失う。

 病気? いや、そんなレベルの症状ではない。殺人……いや、破壊衝動など、多くは願望の段階で理性が止めて体が拒否反応で力を大きくセーブしてしまう。

 だが今の羽鳥はどう考えても『それを犯した上で味を覚えた』レベル。快楽殺人などの犯罪者と同じでそれ自体を楽しんでしまっている。

 これは掛け値なしでヤバイ。

 

「…………どうしてお前は、そんなことに……」

 

「どうして? フフッ、それが知りたいならさっきの問題の答えを導き出すのがいいだろうね。何か心当たりはあったかい?」

 

 そんな破壊衝動をその身に秘める重症の羽鳥に対して自然と出てしまった問いに、羽鳥は笑いながらまたあの話を持ち出してきて、今度は真剣に思考し始める。

 が、よく見ると羽鳥がその間合いを牛歩ではあるが詰めてきているのがわかって、それに反応して下がると一気に詰めてきそうな危険があったので、気付いていないようにその場に留まりつつ頭をフル回転させる。

 しかし教科書にも載るほどの超有名人が取り逃がした犯罪者なら、当然それは歴史が残しているはずで、そんな史実は教科書にない。

 

「……少し、昔話をしようか。今から120年前。ロンドンを恐怖のどん底へと叩き落とした猟奇殺人事件が起こった。それを起こした犯人は、天敵となる名探偵が国を留守にしている間に、5人もの売春婦を殺害。その殺し方は残忍でありながら、一部では高度に外科的な殺し方だったと言われたそうだよ。そして検分の通り医師であった『彼』は、それだけのことをしながらその後もノウノウとロンドンに住み続け、遠方の地より国を追われて逃げて来た1人の東洋人女性と結ばれて子を成した。妻は元々、高名な忍の末裔であり、秘匿されたその姓は次の代から『羽鳥』へと変わり、残忍な殺人鬼とかつての忍の一族は歴史の闇に葬られた……」

 

 オレがまだわかってないことを表情で察した羽鳥は、最後のヒントとでも言うように長々とそう話すと、さすがのオレでも羽鳥の問題の答えに辿り着く。

 これはわからなくて当然で、意地悪な問題であったとも言える。

 何故ならその犯罪者には『シャーロックが関わっていない』のだから、史実に載っていなくても仕方がない。

 仮に『19世紀末のロンドンで最悪の犯罪者は誰か?』とでも問われれば、オレはすぐに答えに辿り着いた。

 それほどにその犯罪者は有名。名前さえわからないその犯罪者の通り名は……

 

「…………ジャック・ザ・リッパー……」

 

「日本では切り裂きジャックの方が通りは良いかもね」

 

 辿り着いたオレの答えにようやくかといった声色でそう付け足した羽鳥だが、やつの話はそれだけに終わってなかった。

 そのジャック・ザ・リッパーの妻になった女性にもオレは心当たりがあり、忍の歴史において江戸幕府の終わりと共に霧のように消えてしまった一族の直系がいたのだ。

 同族による暗殺によって血が絶えたのではないかとささやかれていたその直系は、どうやら海を渡って遠くイギリスの地へと逃げ延びていたらしいな。

 そしてそんな史実には絶対ないだろう昔話を語った羽鳥は、間違いなくその血族。

 

「さすがにもう理解したかな。そうだよ。私の本来の名は『服部・(ジュリウス)・フローレンス5世』。または『17代目服部半蔵』。現代において知られれば確実に日陰者となる、忌まわしき血筋さ」

 

 自虐を含んだ独白で自分の本名を晒した羽鳥は、付け足すようにして「だからこの名を名乗ることは禁じられていたんだよ」と話したが、それと破壊衝動が結びつかないことは明らか。

 そんなものは遺伝でどうこうの話では決してないからな。

 

「まさかお前がジャック・ザ・リッパーの血筋だから、破壊衝動を持って生まれた。なんて言うつもりはないよな」

 

「…………君にはわからないだろうね。影でありながら光の道を歩み続けた血筋の君には、一族の罪をひた隠して生きてきた者の血の呪いは……」

 

 オレの正論な問いに対して、いつもならバカにしながら肯定でもしそうな羽鳥が、少しの沈黙から作っていた笑顔をわずかに曇らせて、まさかの否定と取れる答えを述べたことに驚く。血の呪い、か……

 衝撃の連続で完全に戦闘中なのを忘れていたオレは、再び狂気の笑顔を浮かべた羽鳥に反応が遅れてしまい、目を疑うようなメスのクイックスローによって自分が散々狙っていた右足首を刺されてしまい膝を突く。

 思考を止めるほどの不意打ちだったが、すぐに刺さったメスを抜いて立ち上がろうとするも、その時にはもう羽鳥が有効射程まで距離を詰め終えて顎を蹴り上げるような右足の蹴りを放とうとしていて、直前で右手を挟んでダメージを軽減するが、勢いで体は後ろへと流れて左手のメスを手放してしまうと、そのメスを空中でキャッチした羽鳥は戦慄する笑みでオレの喉元へとメスを投げ下ろしてきた。

 当然当たれば致命傷となるそれを死の回避が察して今しがた防御に回した右手がそのメスを横から握って受け止めて刃の部分が喉元ギリギリで止まって難を逃れ……たと思えば、ほとんど倒れていたオレのその右手を押し込むように左足を振り下ろしていた羽鳥の攻撃にさらに死の回避が発動。

 喉元とメスの刃の間に今度は左手が割って入って、その上から羽鳥の左足が襲来。

 メスは刺さらなかったが、喉を強く踏まれたに等しい攻撃で呼吸ができなくなり、同時に地面に背中と頭を強打。

 思考まで奪われたオレは次の行動を行うことができず、成す術なくその首を左手で掴まれて右手にメスを持った羽鳥がオレを見下ろしながら、冷たい笑顔でボソリと呟いた。

 

「グッバイ、猿飛京夜」

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