ジーサード襲来で慌ただしく動き出した矢先、それを阻むようにして立ちはだかった羽鳥の謎の行動によって戦闘となってしまったが、その最中で覚醒めた破壊衝動と衝撃の事実を語った羽鳥に完全に押されて死の間際にまで立たされていた。
地面に仰向けに倒されて左手で首を掴まれ、振り上げた右手のメスが躊躇なくオレの額へと振り下ろされた瞬間。
オレの生存本能が極限レベルで高まって、停止していた思考を無視して体が動き出す。
直前に投げられて右手で受け止めていたメスを羽鳥の左のこめかみを狙って振り、それに反応して動きが鈍ったところですかさず左手で振り下ろされていた羽鳥の右手首を掴んで止める。
ここで首から手を放して体を反らしてメスを避けた羽鳥は、振り抜かれたオレの右手を掴んで止めて互いに両腕を封じた状態になるも、倒れたままのオレの方が分が悪いため空いてる足で顎めがけて膝蹴りを放ってきた羽鳥にこちらも左足を振り上げて後頭部を蹴りほぼ相討ち。
ダメージはこちらが大きいが、この時のオレは考えて動いていなかったから、次の動作は怯んだ羽鳥よりも早く、掴まれていた右手を振りほどいてメスを投げ捨て、羽鳥の右手からもメスを剥ぎ取ってから鳩尾に左拳を撃ち込んで強引に羽鳥とオレの体の間に足を挟み込んで巴投げ。
そこから羽鳥を見ることなくグラつく体を無理矢理起こして右足を庇いながら距離を開いて反転。
ここでようやく思考が回復してきたが、顎への一撃が効いてて頭がぐわんぐわんして意識が混濁気味。
視界も若干ブレていて、喉もちょっとヤバイ感じでまともに声が出そうにない。
しかしあそこから生還したのは大きい。
正直自分でも信じられないが、勝手に動いていた間にちょっとマズイことをしたのを思い出し怖くなる。
――引っ張られた。
自分を本気で殺そうとする羽鳥に、オレの生存本能が理性を飛ばして最適な処理として羽鳥を『殺そうとした』。
今回はたまたま羽鳥の反応が良かったから大事には至らなかったが、もしあそこでこめかみにメスが刺されば……
そんな最悪のイメージが頭をよぎったのを振り払って、回復した視界で改めて羽鳥を見ると、向こうも頭へのダメージが効いたのか片膝を突いて頭を押さえ回復を待っているようだったが、その顔にはまだ貼り付けたような笑顔があって、それがまたオレの恐怖心を増大させる。
あいつが今、何を考えているのかオレには全くわからない。
「…………私が11歳になったばかりの頃、両親がミスをしてジャック・ザ・リッパーの子孫であることを知られてしまったことがある。それも家庭が崩壊するほどのゆすりをかけてくる悪党にね。両親はそれによって負債を抱え、脅された私は顔も名前も知らない男に買い取られ、3ヶ月ほどの間、男の性欲処理の道具として扱われたよ。そんな日々に心身共に疲れて生きることに苦痛すら覚えていた私は、毎日乱暴に扱ってくる男を同じ人間として見れなくなった。悪魔などの恐怖の対象としてじゃなく『ただの動く肉塊』としてだよ。その時さ、私がやっぱりジャック・ザ・リッパーの子孫なんだと思ったのは。それを自覚した後に人身売買の判明によって男の家に警察が来て私は保護されたけど、その時にはもう男は死んでいた。喉を掻き切られ、目をくり抜かれ、耳と鼻を削ぎ落とし、五体をバラバラにされ、内臓という内臓が腹から取り出されて1つ1つ外に並べられてね。後から聞いた話だけど、私を保護した警官がね、その男のそばで見下ろしながら笑っていたって。まるで与えられたおもちゃで遊んでいたように、この私が」
互いに動けないと冷静に判断したのか、回復までの間に自分の昔話を始めた羽鳥。
こいつはずいぶん前に11歳程度で処女を喪失したようなことを言っていたが、その時は冗談みたいに犯罪臭がするみたいに思ったのに、本当に犯罪行為でとはな。
そしてそれがきっかけであいつの中のジャック・ザ・リッパーの血が覚醒した、とでも言いたいわけか。
喉を攻撃されたせいでまだ声が出ないオレは、その話に対して文字通り言葉が出ないが、羽鳥の過去は確かに耳を塞ぎたくなるような内容が含まれていた。
しかし、だからといってそれで同情してほしいなどとあいつが思っていないことは明白。
ではどうしてそんなことを話したかと言えば、おそらくは言葉にして『仕方がないんだ』と自分に言い聞かせているんだろう。
オレを壊すことに対する諦め、と言い換えればわかりやすいか。
「当時のことはあまり記憶にないんだけどね。ただ1つ覚えているのは、男を壊している時にただただ楽しんでいたこと。我ながら壊れていると思うよ。その後私は精神科でカウンセリングを受けたり、社会復帰のためのリハビリをしてみたけど、芳しい結果は出なくてね。そんな時に薦められたのさ。普通に生きられないなら、普通から遠いところで生きればいいってね。それが武偵、羽鳥フローレンスの第1歩だった。そして私は壊れたままで尋問科で破壊衝動を抑えるように死なないギリギリの拷問に手を出し、救護科では鑑識科との連携でよく検死を担当して遺体にたくさんのメスを入れたよ。そうやって試行錯誤しても衝動を抑えられなかった私は、自らを男と思い込み、女性に愛情を抱くことでようやく抑え込むことができた。その時点で初めて私の衝動の根源が判明したが、当時のジャック・ザ・リッパーでもその殺人衝動にはある嗜好性があって、誰彼構わずのようなものではなかったのに対して、私は男という男が全て対象とあって重症だよ。つまり私はジャック・ザ・リッパーよりも狂暴な殺人鬼と言っても過言ではないのさ」
……だからこいつの2つ名は『闇の住人』なのかもな。
きっとこいつが拷問と検死をしている時も、今のように笑っていたに違いない。
Sランクを取得した時期はわからないが、そういう畏怖の念によって生まれた2つ名が、羽鳥を諦めさせる原因の1つにもなったのではないかと思うと、国際武偵連盟にも少しだけ怒りが込み上げてしまう。
そしてそれ以上に羽鳥にもな。
沸々と込み上げてくるものがありながらも、未だ発声するまでに回復しない喉を気にしていたら、先に回復したらしい羽鳥がすくっと立ち上がってその目にさらなる狂気の色を宿してまだ動けないオレに接近。
今度こそ仕留めにくるんだろうな。話にあった血の呪いに従って。
だが、そんなものでオレが死んだら、あいつはこれからも諦め続けてしまう。仕方がないんだと、その手を血に染め上げてしまう。
そんな悲劇……オレで止めてやるよ……羽鳥。
回復したばかりとは思えない俊敏な動きでオレに迫った羽鳥は、今までほとんど出さなかった笑い声を上げながらCQCで攻めてくる。
「ハハッ! 頑張らないとあっという間に壊れちゃうよ! ほらっ、ほらっ、ほらっ!」
笑いながら足首をやられた右足にローキック。
それでガクリと膝が折れたところに右手の手刀がオレの左側頭部に命中。
倒れかけたところに胸への蹴りで後ろへと吹き飛び仰向けで倒れる。
蓄積したダメージは思ってるよりも深刻で、正直もう立ち上がりたくない。
そんなオレに馬乗りしてきた羽鳥は、そこから拳で顔を連打。
両腕でガードはしたが、その上からガスガス殴られるだけでも相当痛いし、殺すために振るう拳の狂暴さは喧嘩などの比ではない。
なにせ打ち所など考えないで躊躇なく撃ってくるのだから。
「君は! 今までで! 一番頑丈な! おもちゃだったよ! 死んだら! 使える部分を! 丁寧に取り出して! 保存するから! 安心したまえ!」
オレを殴る度に口を開く羽鳥。
腕の骨が折れそうな拳の連打だがそれは向こうも同じで、アドレナリンでも出まくって痛みがないのか笑顔は全く崩れない。
そんな拳の連打によってついにガードが緩んで開かれてしまったところで、待ってましたとばかりにその袖からメスを取り出して右手に持った羽鳥は、空いたガードの隙間からオレの喉に一直線でメスを突き出してくる。
だがその手首を両腕で左右から挟んで止めたオレは、ぐりんっ、と手首を外側へ捻って、それによってわずかに体の重心がオレの上からズレたタイミングを逃さずに羽鳥を押し退けて馬乗りから脱出。
転がりながら片膝立ちまで体勢を立て直したところで羽鳥から寸分の狂いもなく眼球狙いでメスが投げられていたが、顔を右に傾けてこめかみをわずかに切る程度で躱すと、どうやらアドレナリンが切れたのか羽鳥も肩で息をし始めて両腕がぶらりと下がっていた。
「まったく……しぶとすぎるよ君は……」
憎々しげにそう口を開いた羽鳥だが、まだ笑顔を崩さない辺り衝動は収まっていないらしい。
これはもう、動けなくなるまでやるしかなさそうだ。
とはいえ状態としては羽鳥より深刻なオレは、両腕がまともに上がらないし、右足も引き摺ってでしか歩けない。
だがそれがなんだ。いま一番苦しんでいるのは、目の前のあいつなんだよ。
そうやって自分に言い聞かせて意地で立ち上がったオレだったが、羽鳥に近付こうとしたところで戦慄が走る。
戦闘の始めの方で処理して蹴り飛ばしていた拳銃が、羽鳥の手に握られていたのだ。
当然それを狙っていただろう羽鳥は、乱れた息を整えながらその銃口をオレへと向けてすかさず発砲。
しかし発砲の反動によってブレた羽鳥の銃弾は死の回避すら発動しないオレの頭の横を抜けていき、正直まともに動かない体で死の回避が発動するかもわからない状態だったから助けられたが、その結果が信じられないのか、撃った羽鳥の笑顔が固まって、そこからさらに2発、3発と撃つもオレには当たらない。
つまり、もう羽鳥は拳銃の反動にさえ耐えられないほど腕力と握力が落ちてしまっているのだ。
その事実に少なからず動揺している隙に接近していくオレに、あちらも意地で片膝立ちから立ち上がって扱えない拳銃を投棄。
先手を打とうと自ら近付いてその拳を顔面に叩き込んできたが、やはりもう力はない。
一応、左頬にまともに入ったので口の中を切ったが、その血を吐き出して顔を振り拳を押し戻したオレは、最後の力を振り絞って右拳を握って、それを全力で羽鳥の顔面に叩き込んでやった。
もはやそれを受けて踏み留まる力もなかったらしい羽鳥は、ここで初めて背中から地面に倒れ、再び立ち上がられても困るので今度はオレがそこに馬乗りして身動きを封じ、ようやく回復した喉でガラガラになりながらも口を開いた。
「……に……るなよ……」
「…………何?」
「……逃げるなって言ったんだ……」
「君は……何を言ってる?」
「……血の呪いとか……男を演じて自分を騙したりとか……逃げてんじゃねーよって言ってんだ……こんなんじゃお前の問題は……解決……しないだろうが……」
「逃げるなだと? 無責任なことを言うな! 君に私の何がわかる! こうやって生きるしか私には道はないんだよ! それが血の呪いなんだよ!!」
「ごちゃごちゃ言ってんなよ」
まだ叫ぶだけの元気がある羽鳥に対して、叫べないオレは、それでもずっと言いたかったことを言うために羽鳥の胸ぐらを掴んでわずかに起こしてやり、至近距離で聞き逃さないように言ってやる。
「お前がそうやって諦めてるのを見ると、腹が立つんだよ。お前はいつもキザで冷静で何をやっても大抵は上手くやる。そんなやつが自分を簡単に諦めてんじゃねーよ。ジャック・ザ・リッパーの子孫だからなんだ。それだけがお前を構成する全てじゃあるまいし、そんな『ちっぽけなもの』に支配されてざまぁねぇよな。カッコ悪いって思わないのかよ」
「…………カッコ悪いさ。この血に抗えない私は、最高にカッコ悪いと思ってるさ。だが…………でも……抑えられないのよ……どんなに心の奥に押し込んでも……全く色褪せない不気味な笑顔が私をどんどん押し潰していくの……」
ずっと貼り付けたような笑顔を見せていた羽鳥だったが、オレの言葉に感応したのか、ずっと秘めていただろう本音と一緒に、本来の羽鳥の人格とでもいうものが出てきて、今までしなかった女の子の話し方でその笑顔から涙を流す。
ようやく会えたな、羽鳥。
「抗えよ、羽鳥。血の呪いがなんだ。過去がなんだ。お前は今、オレに全てを打ち明けて、全力で殺しに来てオレを殺せなかった。今後お前が血の呪いに負けそうになっても、オレが必ず止めてやる。こうして殴ってでもお前を止める。お前はもう1人じゃない。だから逃げるな、羽鳥フローレンス」
逃げるな。
そんな言葉が無責任なのは百も承知だったが、それを言わなきゃこいつは自分の血と正面から戦えない。
だから無責任なりにこいつを止めてやるのだ。今回のように、動けなくなるまで戦ってでも。
自分の暴走を止めてくれる人がいるというのが、少なからずこいつを安心させることにも繋がると信じて。
そんなオレの言葉を受けた羽鳥は、左腕で顔を隠してしまって、そこから小さな声で一言「ありがとう」とだけ述べて、オレが馬乗りした瞬間から取り出していた右手のメスから手を放したのだった。
それから緊張の糸が切れたように気を失ってしまった羽鳥から退き、オレも両手足を投げ出すようにして地面に仰向けで倒れる。ちょっとマジで動けんなこれ。
それで場が落ち着いてから改めて何で羽鳥と戦ってたのかを思い出すと、ジーサードが来てるんだったなと思うも、今から駆けつけても足手まといも良いところなので、キンジ達のことを信じてとりあえず回復に努め始めたが、さっきの戦闘の中で異常に感覚が鋭くなった時に戦いを監視してるらしき気配に気付いていたので、終わったなら出てくるかなと待っていたら、案の定オレの察知できる範囲にまで近付いてきた監視者は、ジジ、ジジジというどこかで聞いたような音を立てて何もなかった空間に突然姿を現した。
「気付いていたようね」
「…………際どいな」
そうして現れた監視者、ジーサードの仲間である銀髪オッドアイの少女、ロカは、オレの頭のすぐ上から覗き込むような上下逆さまの状態で話しかけてくるが、この状態だとロカの短いスカートの中が見えてしまって、確かオレより年下なのにずいぶんと大胆な下着を穿いていたので口に出すと、すぐに顔を真っ赤にしてスカートを押さえ1歩下がってから頭に蹴りをお見舞いしてきたので、本気で死にそうになる。マジやめろ……血もちょっと出てきたし。
「女のスカートを覗いてそれだけで済んだんだから感謝すべきよ、猿飛京夜」
そんなことを思いながら顔を上に向けたら、オレの心を読んだような言葉を発したロカに疑問が。
それにしても可愛いなぁ。
「そういう確認の仕方はバカにされてるみたいで不快なんだけど。言っておくけど、上辺だけの言葉もちゃんとわかるんだからね」
と、オレが棒読み気味に思ったら、案の定心が読めるらしいロカはプンプン。ご機嫌ななめになってしまう。
これ便利だな。このまま話していい?
「開く口があるなら開きなさい。これは隠しても無駄だって示したに過ぎないわ」
それで楽しようとしたら、何か聞きたいらしいことを告げたロカは、こちらの意思は関係なく話を始めてしまう。
まぁ、下手に逆らって殺されるかもしれないなら従うしかないか。
「最初に私とあなたは初対面なのだけど、どうして私を知っているのかしら?」
「調べたからってのはあるが、顔の方は実際に見たからな。ずいぶんリッチなマンションにご在住でしたね。水着もちょっと頑張ったビキニだったし」
いきなり何か重要な質問でもされるのかと思ったら、案外気になっていたらしく自分のことを知られていた理由について尋ねてきたので素直にそう答えると、また顔を赤くしたロカは頭を蹴りそうになるが、さすがにもうオレも限界なので嫌そうな顔をすると、ギリギリで足を引っ込めて小言で「かなめったら、あれだけ尾行は気を付けろって」とかボヤく。
いや、気付かなかった君にも落ち度はあるよ? 言わないけど。
「今、私も悪いみたいな顔したわよね」
「どんな顔だよそれ。それより続きをどうぞ。オレも聞きたいことあるし」
「……はぁ、まぁいいわ。尋ねる案件は元々1つだけだし。私はまだ納得しかねてるのだけど、サードの命令だから仕方なく聞くわ。あなた、サードの元に来る気はない? サードの部下に、私達とは仲間にならないかって意味だけど、伝わった?」
「オレはチンパンジーか何かか。言葉の意味くらい伝わってる。だが何でこのタイミングで?」
「別に急にってわけではないわ。サードが直接あなたに会って決めたことよ。『こいつは上手く使えばバカみたいに有能だぜ』って珍しく上機嫌に言ってたから、私は面白くないんだけど」
それで改めて話をしたロカから出た言葉は、まさかの勧誘。
1度ボコボコにしといて、そんなので気に入ったとか言ってんのかあいつ。意味わからん。
「断るとどうなるんだ?」
「何も。サードがちょっといじけて、私達は一喜一憂するだけ。あなた1人で私達をどうこうするほどの脅威にはなり得ないことはわかりきってるし、第一、サードがヘッドハンティングなんて異例すぎてこっちも意見が真っ二つだったのよ。だから今日、それを使ってあなたを試したの。ついでにこれにあなたの戦闘を記録してね。私はその見届け人兼勧誘の話をしに来たわけ」
話しながら懐からかなめやジーサードが付けていたのと同じヴァイザーを取り出して、この場にいた理由を明かしたロカは、しかしオレの返答がわかっていたのかすぐにそれをしまって話を畳んでしまう。
「お前達と羽鳥はどういう関係なんだ?」
「言っておくけど、それと私達は仲間じゃないわ。ただ、今のサードには必要な人だから、私達もそれなりの優遇をしてるだけ。それは『サードとかなめの担当医』。怪我とかの外傷じゃなくて、もっと根本の『命の担当医』。戦闘力も今日はフルで発揮してたから、私達ともそう引けを取らなかったけど、戦意喪失させて決着なんて拍子抜けよ。だからサードのあなたへの評価は納得がいってない」
「オレのことはもういい。で、羽鳥は今日どうしてお前達の命令に従ったんだよ。立場としてはイーブンってところだろ」
「それはそいつから提案してきたのよ。『君のところでも意見が分かれてるなら、私が彼の実力を引き出してあげよう。だから彼を連れ出す場所を指定しろ』ってね。こっちとしても不利益があるわけでもなかったから、サードが快く了承して……」
と、そこまで素直に話してからしまったヴァイザーに通信でも入ったのか、そちらに意識を持っていったロカは、2、3応答してから通信を終えてまたオレに向き直ってくる。
しかし羽鳥からの提案なのか。これは後日ちゃんと聞く必要がありそうだ。
「向こうも決着しそうだって。今サードが空で遠山キンジと一騎討ち中。勝つのはサードだろうけど、ベースでの待機命令が出たから私はもう行くわ。一応、そいつを死なせたりしないでね。私はそいつのこと嫌いだけど、サードにはまだもう少し必要な人間だから」
「じゃあせめて応急手当くらいしてくれないか、ロカちゃん。こちとらしばらく動けない身なんだから」
「ちゃん付けとか鳥肌立つんだけど。凍え死ぬわけでもないんだから、自力で帰りなさい。私がそこまでする義理はないし、ここで殺されなかっただけマシだと思えば、今の状況も悪くないでしょ?」
完全に帰る感じになったロカに、せめて治療をと懇願したが、願い叶わず放置された。
最後に無駄に可愛い笑顔と一緒に姿を消したロカに勝手ながら恨みの念を込めたら、どこかで盛大にコケたらしい姿なきロカの短い悲鳴が木霊す。
それを笑ったらどこからともなく見えない何かが顔面を連打してきてボッコボコにされて気を失ったのだった。
ああ……最後に余計なことした……