緋弾のアリア~影の武偵~   作:ダブルマジック

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Bullet92

 劉蘭とのデートの最中に理子に見つかり、あらぬ誤解を招いて話がこじれたと思ったら、今度はそれをどうにかするよりも早く香港藍幇のココ姉妹と孫が動いたという情報が入ってきて、オレと劉蘭、ヒルダはその騒動が起きそうだという上環へと向かっていた。

 途中で見逃しなどがあったら困るので路面電車などの乗り物は使わずに走っていたのだが、ヒルダはオレの影に潜って追尾してきながら、器用に会話をしてくる。

 

「あの女、劉蘭っていうのね?」

 

「あっ? そうだが」

 

「そう。あれが『食えない女(フォクシー・ウーマン)』ね。ツァオツァオから聞いたことがあるわ。生涯で絶対に仲良くなれない女だって」

 

 何やら劉蘭のことを知ってる風なヒルダには多少驚くが、フォクシーってことは女狐みたいなって意味にもなるから、オレが持つイメージとはだいぶかけ離れてるな。

 まぁ、ココの付けたあだ名ならあり得るか。昔から犬猿の仲みたいだし。それこそ三国志の時代からな。

 

「能力的なことは何か聞いてるか?」

 

「さぁね。そんなの呑気にデートしていたお前の方が知っていることじゃなくて? ただ、さっき見ただけであの女を『自然と受け入れていた』のは、ちょっと悔しいわ」

 

「自然と受け入れていた……ね。そこが劉蘭の凄さなのかもな」

 

 思えばオレは基本、初めて会った人間は相当な警戒をする。

 許嫁だと先に聞かされたこともあるだろうが、劉蘭と会った時はほとんど警戒をせずにコケたところに近寄った気がする。

 なんというか、それを狙ってるのかどうか判断に困るが、劉蘭はとにかく人に警戒されにくい人間なのだろう。

 特に悪く思わない人間なら抵抗なく受け入れてしまうくらいにはな。

 

「それはそうとサルトビ」

 

 と、劉蘭についての考察を終えた頃に話を切り替えたヒルダに耳を傾ける。

 

「あの女、全くついてこれてないわよ」

 

「…………ああっ!!」

 

 呆れ声でそんな事実を伝えてきたヒルダに促されて立ち止まり振り返ってみると、み、見えない。劉蘭がゴマ粒レベルになってて大変なことに。

 そういや中空知レベルの運動音痴だったんだ。オレの速度についてこれるわけがない。

 完全に息切れを起こして女の子走りの劉蘭を待っていたら、ヒルダは面倒臭そうだからとオレの影から次々と人の影に移って器用に移動していってしまい、ようやく追いついた劉蘭は肩で息をしながらオレに謝ってくる。どうしようかなこれ。

 

「も、申し訳、ありません。はぁ、はぁ、何ぶん、対人交渉を中心としていたもので、体力の方が、並み以下でして……」

 

 ぜぇぜぇ言いながらの劉蘭は本当に辛そうなので、今からでも戻らせようかとも思ったが、その目にはまだ強い意思を感じて、もしかしたら何かしてくれるかもと期待してしまう。

 

「……仕方ない。乗れ」

 

 オレの勘にはなるが、このまま連れていくことを決めて、移動にかかるロスは疲労と引き換えにして劉蘭をおんぶすることで少なくしよう。

 そう思って劉蘭に背中を向けて腰を下ろせば、始めこそ遠慮した劉蘭だったが、自分が足を引っ張ってる自覚はあるのでもたつく時間が無駄と考えたのか素直に背中に体を預けてきて、よいしょと立ち上がってレキより少し重いくらいかと体感で思いつつ、あの新幹線ジャック以来となる人を背負っての全力疾走を開始。

 いやぁ、足場がしっかりしてると走るのも楽だよなぁ。

 そんな現実逃避をしながら灣仔(ワンチャイ)の辺りにまで辿り着くと、なんだか街の様子が様変わりしてるポイントがあり、路面電車の通る道沿いにあるデパートに騒がしく人が集まっていたため、1度劉蘭を下ろして情報収集に切り替えてみる。

 2人で集めた情報によれば、どうやらこの辺り一帯に映画の撮影が入るから騒がしくなる、みたいなアナウンスが流れてそれ見たさにヤジウマが集まってきたようで、その映画撮影というのを理由に街中でキンジが孫とココ姉妹と戦っていると踏んだオレ達は、いま現在で騒がしいそのデパートに歩を進めてみれば、店内からはなんか聞き覚えのある、とても連射できる機械的な銃の咆哮が木霊し始めて、荒事は苦手なのか身を縮めた劉蘭を他所にオレは中に誰がいるのかなんとなく悟る。

 ココも使ってたが、これは違うわ。射撃に緻密さがない。

 当たらないとわかれば無駄には撃たないものだし、これはそういうの無視してる射撃。とにかく弾ある限り撃つ意思だけが前面に出てる。つまり白雪だ。

 中に他に誰がいるかはわからないが、あそこに劉蘭と入るのは大変そうなので出てこないかなぁと思っていると、機銃掃射が途切れて少しのタイミングでデパートの裏の方から遊んでるような鳴らし方で車のクラクションが聞こえてきて、ただ聞いてれば騒音以外の何物でもないが、これはモールス信号。

 それに気付いて急ぎ解読したところ、『……コリンリン』という後半の部分のみで誰が鳴らしていたかわかった。

 オレと別れてから車を調達したのか。やっぱり凄いなあいつは。

 

「劉蘭、デパートの裏に行くぞ」

 

「えっ、はい。何かわかったのですね」

 

 察しの良い劉蘭は先に移動を始めたオレのあとを文句も言わずについてきて、回り込むようにデパートの裏に行ってみると、このデパート、裏側は改装工事中だったのか、竹製の足場を最上階まで組んでいて、日本じゃまず見られない低コストな工事に驚きつつ、そのすぐそばに車が1台停まっていて、そこからちょうど調達してきただろう理子が降りて竹製の足場を登り始め、その上からは慌てて出てきたキンジと白雪が合流するために足場を降りてくる。

 その時に目ざといキンジと目が合ったが、だいぶ余裕はなさそうな表情をしていた。

 

「遠山! はははっ! あたしをここまでたぎらせたんだ、決着まで遊んでけって!」

 

 その原因はあれか。

 キンジ達に続くようにデパートの窓枠から飛び出てきた猴。

 今は十中八九で孫である少女は、なんとも楽しそうに降りていくキンジと白雪を動物的な動きで追いかけていくので、とりあえず緊急だしとクナイを取り出したオレは、追いつかれてフライング・クロス・チョップを叩き込んで見事に躱され下に落ちていった白雪と、その下敷きにされた理子というコントを他所に孫めがけてクナイを3本投げつける。狙いは動きの阻害。

 反応の早かった孫はいち早く回避に動いて笑いながら余裕で全部避けるが、すぐさま次弾を投げていたオレに気を取られて、その隙にキンジは距離を離して地上へと到達。

 理子の調達した車に乗り込んで、不時着していた理子もヨロヨロとしながらも後部座席へと乗り、白雪も華麗に拾ってオレ達が向かってきた方向に車を走らせてオレとすれ違う。

 その時に理子にアッカンベーされたが、今はどうでもいい。

 キンジ達を逃がしたのはいいが、遅れて地上に降りてきた孫に、どうにもならなそうな気配を感じてちょっと焦る。

 タイマンになったらまず勝てないぞ。どうするか。

 

「ははっ! お前は見たことあるな! あの時は猴に邪魔されて狙いが固定されてたが、如意棒を避けたのはお前だけだぞ」

 

「自分じゃ避けた実感なんてないんだがな」

 

「名は何と言う?」

 

「お前にも自己紹介か。猿飛京夜だ」

 

「猿飛か。今は遠山を追いたいところだが、邪魔するならお前からでも構わんぞ……」

 

 テンションの高そうな孫は、どうやらオレのことを覚えていたようで、猴に続いて名乗れば覚えたみたいだが、次にはオレに仕掛けてくる雰囲気を出し始めて、それを刺激するように反射的に構えてしまったオレに突撃してこようとした。

 が、オレと孫の間に割って入った劉蘭が孫に無言の圧力を与えると、孫はピタリとその動きを止めて面白くなさそうな表情へと変わる。

 

「劉蘭か。また面倒な女がいたものだ」

 

「京夜様に手を出すことは私が許しません。もしもそれをしたなら、香港藍幇の今後は私の一任で動くこと、覚悟なさい」

 

 劉蘭の目の前で止まった孫は、臆することなく言い放った劉蘭に対して闘志を失うことなく拳を握って放つ。

 ブワッ! とその拳速による風がオレまで届くが、拳は劉蘭の顔の前で寸止めされていて、微動だにしなかった劉蘭に笑った孫は、

 

「猿飛、お前は武運にも恵まれてるようだな」

 

 オレにそれだけ言って、行き交う車の中から1台に狙いを定めて、人間離れした脚力で並走し運転手を強引に降ろしてその車でキンジ達を追い始めてしまった。

 キンジ達が逃げ切れればいいが、それよりもまずはへなへなと膝を折って地面に座り込んでしまった劉蘭へと近寄ってみると、ぐったりとした表情の劉蘭はその体を震わせていた。

 無理もない。あんな寸止め。並みの人間なら気絶する。

 

「大丈夫か?」

 

「はい……孫は戦う力のない人間にはあまり興味はありません。立場を利用しましたが、本気で手が出るとは思ってませんでしたから」

 

「ありがとな、劉蘭。いま戦ってたらオレは死んでたかもしれなかった」

 

 自分が孫に危害は加えられないとわかってたとは言うが、その胆力は敬意を評すよ。まさかこんなに早く劉蘭を連れてきて良かったと思うことになるとはな。

 震える劉蘭の手を優しく握ってあげて、ここからどうするかと考えていると、豪快なドリフトを決めてオレ達のいる道に出てきた黒のオープンカーが、猛スピードで突っ込んできてすぐ横でビタッ! と停まり、誰だと思えば劉蘭のお付きの趙煬。

 今日は水入らずということで九龍のホテルに待機してたはずだが、心配で迎えに来たようだ。場所は携帯のGPSで特定したというところか。

 

是還在這樣的地方的嗎? 快速返回(まだこんなところにいたのか? 早く戻るぞ)

 

 運転席から顔を覗かせて劉蘭にそう告げた趙煬は、この件には首を突っ込まないとオレにも暗に言ってくるが、オレの手を借りて立ち上がった劉蘭は震えていた手を黙らせてはっきりとその意思を趙煬に伝える。

 

這個不是香港蓼藍幫的全體的意見。(これは香港藍幇の総意ではありません。)假如止住也我們應該搞事(ならば止めるのも私達のやるべきこと)

 

 早口でさすがに翻訳は不十分だったが、戻らないと言ったことはなんとなくわかった。

 それに困った表情を少し浮かべた趙煬だったが、劉蘭の性格を理解しているからか諦めたような態度で乗れと手で示し、劉蘭が助手席。オレが後部座席に収まると、どっちに進めばいいかを聞いてからアクセル全開で発進。

 香港島を東へと向かう乱暴な運転だが、上手い。

 車の性能が高いのか速度も130キロほど出てる中で先を走るキンジ達と孫を探すこと数分。

 ハイウェーの遥か先でオープンカーに立ちながら器用に足で運転する孫の姿が見え、そのすぐ近くにはキンジ達も走行していた。車の性能と総重量の差で追いつかれたか。

 そのおかげで追いつけたとも言えるかもしれないので幸か不幸かは置いておくとして、グングン距離を詰めていく趙煬は車上で物凄い戦闘を繰り広げる2台を1度追い抜いて状況を確認すると、車を孫の乗る車の前方のラインに乗せてシートベルトを外すと、急にオレに運転しろとニュートラルに入れてその席を空け後部座席に下がったので、エンジンと切り離されたことでガクンと速度が落ちるものの、後ろにいた孫の車に追いつかれて追突され、その間に運転を替わって再びギアを入れてアクセルペダルに足を置き速度を持ち直す。自己中な奴だな。

 

這個以上的戰鬥不能看到放過(これ以上の戦いは見過ごせない)

 

 後部座席で後ろを向いて立ちながら、青龍偃月刀を手に嬉々としている孫へそう言い放った趙煬は、その民族衣装の袖の余白部分からカナさんのサソリの尾のような三節棍を取り出してガシャシャン。

 1本の長い棒とすると、腰の辺りにあったナイフのようなものを抜いてその棒の先端に取り付けて槍を作り出し構えた。頑丈さを多少犠牲にして携帯性を高めた武器って感じか。

 それをバックミラー越しに様子をうかがうと、参戦した趙煬にさらに笑顔を振り撒いた孫。まさに戦神。戦いを楽しんでいる。

 

「はははっ! 趙煬のガキか! どれ、趙雲とどちらが強いか試してやる!」

 

 過去に面識があったのか、趙煬をガキ扱いの孫は1度キンジ達の車から離れて、誘いに乗って乗り移った趙煬とタイマンを始める。

 その隙に開いた隙間に速度を緩めて収まり、キンジ達の車と並走をするオレに、運転しながらのキンジが話しかけてくる。

 

「シンガポールに行ってるんじゃなかったか?」

 

「訳ありで昨日からこっちにいた。別件だったから報告してなかった」

 

「そう言ってるけど、そちらのお嬢さんはどうやらこっちにも関係ありそうだね」

 

「あなたがエネイブルですね? 孫を相手によくご無事で」

 

「女性の相手はお手のものだよ。とはいえ、かなり危なかったけどね」

 

 HSSのキンジはやっぱりキザっぽいが、察しが良いのは確かで劉蘭がただの女じゃないことをすぐに見抜き核心に迫ることを言うが、それよりもまずは孫を止めなければならない。

 

「呑気に話してるな! あいつは使えるぞ。今のうちに追い詰めるんだよ!」

 

 と、そこに呑気に会話していたオレ達を叱咤しながらこっちに乗り移ってきた理子が、少し離れた孫の方を見ながらその両手のワルサーP99を向ける。

 確かに理子の言う通り呑気に話をしてる場合でもないので、すぐ横の孫と趙煬の戦いに目を向けると、理子が言うように凄まじい攻防が繰り広げられていた。

 狭い足場でそれに見合わない得物を持つ両者。

 互いにボンネットと後部座席の端っことリーチをギリギリ生かせる距離で、趙煬が鋭い突きを足、腹、胸、頭とその度に狙いを変え連続して放つが、紙一重でそれを避ける孫も躱すのと同時に青龍偃月刀を振るう。

 それを槍で軌道を逸らして体をわずかに傾けて躱してそのまま攻撃に繋げる趙煬の技術も見ててよくわからない高等技。

 そんな趙煬にたかぶった孫はさらにその細長い尻尾を使って足払いまで狙い始めるが、驚異的なボディバランスを見せる趙煬はボンネットの上で片足を上げて尻尾の足払いを避けながら尚も攻撃を続ける。

 

「白雪、残弾13だ。猿飛、少し前を走ってくれ」

 

 その攻防に理子がちょいちょいワルサーでセーラー服を狙うのだが、超反射神経で避けるか偃月刀に弾かれて行動のキャンセルすらままならないため、運転するキンジが白雪にベレッタを渡しつつオレに撃ちやすいように移動を指示。自らもデザート・イーグルを取り出して孫を狙う。

 4丁の拳銃に趙煬。これだけの攻撃でどうにもならなかったらまさに化け物。

 そう思わざるを得なかったところだが、こちらの動きを察した孫はさすがにそこまでは無理と判断したのか、猛攻を仕掛ける趙煬の槍を躱したのと同時に柄を掴んで一瞬止め、偃月刀を後部座席に突き立ててその上でコマのように回転して趙煬に蹴りを見舞い、咄嗟にしゃがんで躱したかと思ったが遅れて振るわれた尻尾が趙煬の体を横から叩き、その威力で吹き飛んだ趙煬はオレ達の方に飛んできて、加速しかけていた車を止めてギリギリ後部座席に受け止め、その時に理子がバックジャンプでキンジの車に戻り、オレ達が加速できなかったせいで射線が確保できなかった白雪とキンジも撃つのを中止。

 完全にこちらの手を潰してきた孫だったが、それでも誤算はあるもので、吹き飛ぶ時に持っていた槍をボンネットに突き刺していた趙煬によって、孫の乗る車はヤバい感じになっていて、それがわかってる孫は偃月刀を抜くのもやめてこちらへと大ジャンプ。

 それと同時に車も爆発するが、逃げ延びた孫はオレの運転する車に乗り移って趙煬に蹴りまで加えてきて、逃げるようにキンジの車に移った趙煬は蹴りを躱すが、すぐ後ろに孫だけいるのはヤバいだろ。

 

「邪魔するぞ、猿飛」

 

 その孫はこの車が操縦不能になったら困るからか、オレを狙うようなことをすぐにしてこなかったが、隣の車から4丁の銃が狙いを定めた瞬間に向こうの車に乗り込んでいって、向こうでごちゃごちゃする中で孫が趙煬を誘導してこっちに戻ってきて後部座席で超近接戦を始める。

 こうなると銃は封じられたも同然。戦い慣れしてる。

 素手の攻防も相当なレベルの趙煬だが、孫の攻撃は見ただけで殺人レベルの威力を秘めてるためまともには防御しない捌きでしのぐものの、徐々に攻撃に手が回らなくなってきて防戦一方の様相に。

 これはマズイと思いつつ、先に見えた高速道路の出口にハンドルを切ろうとしたオレとキンジだったが、その出口から機関銃を携えた装甲車が顔を覗かせたために突き進むしかなくなり、装甲車にはココが乗っていたので行動を読まれてたようだ。

 

「いけません! この先は……」

 

 と、高速を突っ切ったオレの耳に劉蘭の焦った声が聞こえてきて、何に慌ててるのかと思えば、すぐに「道がないんです!」と叫んだため、遥か先にうっすら見えるヴィクトリア湾を見てブレーキを踏みそうになるが、後ろからはココの乗る装甲車が追走してきて、止まれば孫が戦闘力全開で襲いかかってくる。詰みじゃねこれ……

 

「キンジ、加速だッ!」

 

 そんな中、隣では理子がキンジに加速を指示し何やら動き始めたが、こっちもこっちで後ろが動く。

 激しい攻防から上手く抜け出た趙煬は、助手席の劉蘭のシートベルトを外して片手でつまみ上げて肩に担ぐと、孫の蹴りを避けて助手席のドアを蹴り抜き外れたドアに飛び乗ると、道路の上でサーフィンしながら脱出。とんでもないやり方だなおい。

 上海藍幇だからココ達も手が出せないし、劉蘭の付き人としての仕事は完璧だ。

 

「ははっ! おい猿飛、一緒に地獄にダイブするか!」

 

「できれば遠慮したい……」

 

 まんまと趙煬に逃げられて高笑いする孫だが、もう時間もなかったのでオレも脱出のために動き出す。劉蘭が先に脱出してくれたのは幸いだった。

 そう考えながら隣を見れば、運転席と助手席の間に乗ってセーラー服をいじってる理子が見えて、それで何をするのかわかったオレはもう向こうのことは無視。こっちはこっちで際どいやり方で逃げる。

 そう思って運転席から出れる体勢に入ってから、不意に助手席に目がいくと、なんと劉蘭のポーチが置き去りにされていて、その中には劉蘭の大切なものが入っていると知っていたオレは咄嗟にそれを掴んで運転席から脱出。

 同時に車は道路の終わりを迎え空中へと投げ出されて、慣性を計算してミズチのアンカーボールを道の端にくっ付けて飛んできた孫を受け止めつつワイヤーの限界の長さまで飛んでから、ターザンのように途切れた道の下へと急降下から上昇。道の裏側に当たるところで孫と一緒に蹴って勢いをつけて戻り、その時にワイヤーを巻き取ってアンカーボールに近寄っていき、巻き取る力と振り子の原理でくるんっ。

 道の端で緩い回転を決めて着地。超ギリギリで難を逃れたが、右腕が嫌な感じで軋んでいる。負担が大きすぎたな……

 なんとか落下は免れたオレは、その場に座り込んで隣で車の前輪をはみ出して止まるキンジ達の車に目を向ければ、その後ろに理子の制服でできたパラグライダーが力なく萎れていた。

 確か戦闘機とかの制動制御にも使われる空力ブレーキだ。空気を孕んだパラグライダーで急激な減速を可能にしたわけだな。咄嗟のアイディアとしては上出来すぎる。

 そんな意味も込めて後部座席から顔を覗かせていた下着姿の理子に目を向ければ、オレを見て安堵したような表情をしていたかと思えば、すぐにプイッとそっぽを向かれてしまい苦笑。

 心配してくれてありがとよ。それだけでも嬉しいからさ。

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