緋弾のアリア~影の武偵~   作:ダブルマジック

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Bullet105

 悲しいかな、こっちがあの手この手で捕捉したカツェをメーヤさんの幸運スキル1発で捕捉したジャンヌ達一行に理不尽さを感じながら、ケッテンクラートを駆るカツェを追跡するジャンヌ達をオレと羽鳥が追跡する。

 カツェの乗るケッテンクラートは時速50キロ程度しか出ないようで追跡もバレないように速度差を考慮して何度も道を外すジャンヌ達に合わせてこちらも別の道を逸れて目立つカツェを目印に捕捉し直す。

 そうしてパリ市内を南東方向へと進んでいったカツェは、市街地を郊外の住宅地も越えて田園地帯へと突入しまだ南東へと進んでいく。

 さすがにもう走る車やらもまばらというかあまりないところにまで来てしまったので、ジャンヌ達はともかくオレ達までそれを普通に追うとバレる可能性があったので、ジャンヌ達の遥か後方から双眼鏡を用いてギリギリの距離で跡を追っていくと、その先に飛行場のようなものが見えてきて、それを捉えたところで羽鳥は車を停めてオレから双眼鏡を取りそっちを見る。

 

「飛行場か。あそこから飛ばれるとなると追跡は難しいね」

 

「じゃあ仕掛けておいた発信器に頼るか?」

 

「それも仕方ないことだが、ジャンヌ達もメーヤの強化幸運によるこのチャンスを逃しはしないだろうから、ここからの追跡は彼女達に任せて、私達は『別件』を片付けに行くとしよう。そのために発信器を仕掛けたのもあるしね」

 

 言いながら双眼鏡をオレに投げて車をUターンさせた羽鳥は、そうしてカツェ追跡と武器庫の捜索もか? をジャンヌ達に任せて、別件と称した事を片付けるためにどこかへと向かい始めたのだが、まぁ十中八九でスパイの捜索のことだろう。

 オレが何を言おうとこいつは自分のやりたいことをやるとわかってるので、その決定自体にはもうツッコむこともなくパリへと戻ってるっぽい道中でこれから何をするのかは聞いておく。というか当たり前だ。

 

「昨夜にメーヤへ送ったメッセージは待ち合わせなんだよ。その場所へこれから向かって会う」

 

「メーヤさんとなら無理だろ。今はまだオレ達のずっと後ろにいるんだぞ」

 

「誰もメーヤとは言っていない。私はメーヤを中継にして会おうとしてるんだよ」

 

 話は昨夜のメッセージと繋がるらしく、メーヤさんを伝言板扱いしてこれから会うのはいったい誰なのか。

 それを少しだけ考えたが答えは割と簡単な方だったかもしれん。

 

「バチカン?」

 

「だけなら、事はスムーズに行くかもしれないね。それと先に言っておくけど、待ち合わせの場所には私1人で行く。君と行動を共にしてる事を知られたくはない……まぁ知られてはいるだろうけど、確信させるのはいただけないからね。だから君には私の近くで事のなり行きを観察していてほしい。そこに真実はあるかもしれない」

 

 断言しないところがまたあれだが、オレと合流するより前からスパイ捜索の方法を練っていた羽鳥が最悪、拘束される可能性がある事をするのだから、オレはその目でその全てを見届けなくてはなら……

 と、真剣さを増した表情で思考していたら、羽鳥は急にオレへと発信器の受信器らしき物を渡して簡単にレクチャー。携帯の地図と照合すれば地名などもわかりそうなのでギリギリなんとかなりそうな気はするが、さらに小型のインカムも渡して待ち合わせまでに付けるように言い口を開く。

 

「私はマイクだけを持ってその場に行く。君は私と相手との会話で君なりの推理をしてくれ。もしも危なくなったらマイクは木っ端微塵に破壊するから、その時はインカムは外した方がいい。雑音で耳があれだから」

 

「…………これで事態は進展すると見ていいわけだな」

 

「私はシャーロックのように条理予知を使えるわけではないし、特別な才能もあるわけじゃない。それでもやってみる価値はあると踏んで乗り出している。君は、そんな私を信じられるかい?」

 

 依然としてその待ち合わせで何をするのかを具体的に話さない羽鳥だが、師団のために尽力するこいつの気持ちはなんとなく伝わってくる。

 それがわかるからこそ、オレがここで言うべき事はこれしかないのだろう。

 

「信じねぇよ。これら全てがオレに間違った判断をさせるために仕組まれたことだったら大事だし、それでスパイに仕立て上げられたやつは不幸以外の何物でもないだろ」

 

「……よくわかってるじゃないか。そうだよ。君はここまで私がしてきたこと全てを疑っていなければならない。それを口に出せて言えたのは評価しようじゃないか」

 

「そりゃどうも」

 

 本当は、信じてもらいたいんだろう。

 自分のしてることが正しいことだとちゃんと言って、オレの協力を得たいのだろう。

 だがそれはおままごと。仲良しこよしで進むには辛い道をオレ達は歩いてしまっている。そこに一分の隙も見せないためには常に相手を疑わなければいけない。

 協力は策略。信頼は裏切り。そうしてひっくり返る可能性を考えた上で行動してこそ、今のオレ達の関係は成立する。

 

「いちおう聞いておくが、お前のピンチにはオレはどう動けばいい?」

 

「ははっ、どうもしなくていいよ。君は君の思うように行動しろ。私は君の上司でも保護者でもない。何を見てどう行動しようと、それが君の見た真実の結果ということだ。それで君が私を見放そうと裏切り者扱いなどしない」

 

「そりゃ助かる。オレもこれ以上の面倒事は避けたいしな」

 

 きっと羽鳥なら1人でどうにでもできることはわかってるのだが、なんとなくもう嫌な予感がしていたオレはついそんな聞かなくてもいいことを聞いてしまったが、珍しくイラッとした様子もなく言葉を返した羽鳥はそれ以降、口を閉ざして車の速度を上げパリへと戻っていった。

 パリ市内へと戻ってきた頃にはすでに日も暮れて街明かりが眩しいとさえ思ってしまうが、そんな景観を無視して目的地へと向かう羽鳥の表情にはもう真剣さしかない。

 もう完全にこれから先のことに集中してるように見えるが、こいつは大事において真剣さしかないなんてことはない。

 その羽鳥が運転する車が停まったのは、なんだか不吉な気もするがかのフランス革命の発端となった襲撃事件の起きた場所。バスティーユ広場だった。

 かつては牢獄があったここを待ち合わせ場所にした羽鳥のセンスを疑うが、スパイを捕らえてやるという意気込みと掛けたのか自分のこの先の未来を暗に指しているのか。

 どうあれ車を停めてオレに運転席へと移るように言ってきた羽鳥は車を降りようとしたのだが、先ほどから感じてる通りらしくないのでその羽鳥が車のドアに手をかけたところで口を開いた。

 

「心に余裕があるのとないのとじゃ、その時のコンディションに大きな差が出るとかなんとか、なんかの統計にあったな」

 

「…………スポーツ学や芸術など、様々な分野でそういった統計は取られている。それはスポーツにおいてプレッシャーや緊張による筋肉の硬直などがイップスに繋がったり……と、そんなことはどうでもいいか。いやぁ、君に心配されてしまって、私も落ちぶれたものだね」

 

「その悪態がつければ言うことはねぇよ」

 

 ストレートに言うのはオレもらしくないので、少し遠回しにそんなことを言ってみたら、キョトンとした表情を浮かべてから小さく笑った羽鳥はいつもの悪態をオレについて車を降りると、広場のど真ん中に向かって歩き出して被っていたカツラを取りその手にグローブをして戦闘にも備えてみせた。

 オレはその様子を運転席に移って双眼鏡も用いてインカムにも意識を集中。いざとなったらすぐに動けるように半ドアにし車のキーも挿したままにしておく。

 バスティーユ広場はバーやカフェ、歌劇場が周囲にあって夜でも割と賑やかな雰囲気を醸し出していたが、確かなんかの革命の記念に建てられたという少し高く大きなオブジェの前まで移動した羽鳥の周りは不思議と人の気配はなかった。

 やたらと監視はしやすい状況に気持ち悪さはありつつも、デートの待ち合わせでもしてるような羽鳥とその周囲を見ていると、羽鳥に近づく1台の車があって、羽鳥もそれに気づいて車を見る。

 その車は近くで停車すると後部座席のドアが開きそこから純白の法衣を着たバチカンのシスターが1人、全盲なのか白杖を携えて運転手の導きで羽鳥の前まで移動した。

 

『バチカンからわざわざお越しいただきありがとうございます』

 

『羽鳥・フローレンスさんですね?』

 

『如何にも』

 

『私はローレッタ。バチカンにて祓魔司教(エクソヴェス)をさせていただいております』

 

 まずはマイク越しに2人の挨拶代わりの会話を聞きインカムの調子を確かめると、問題ないな。あの距離なら相手の声もマイクが拾ってくれるようだ。

 ちょっと嫌なのは羽鳥に合わせているのだろうが会話が全て英語だということ。集中しないと翻訳出来そうにないぞ。

 

『ではシスターローレッタ。あなたがこちらに来られたということは、私がシスターメーヤに伝えたメッセージを知って、その代理……いえ、代表としてお話ししてもよろしいですか?』

 

『構いませんよ。それよりもメーヤさんにお知らせくださったことは本当なのですか?』

 

 そのバチカンの代表らしいローレッタさんはそれなりの立場にある人物なのだろうが、その辺はよくわからないのでスルーしつつ、話がいきなり本題へと突入しようとしたので目を凝らし耳を澄ませる。

 

『はい。まだ憶測が少し残ってはいますが、これからそれもわかるでしょう』

 

『はい?』

 

『事実だけをお伝えしてわざわざお越しくださったのですから、無駄足にはさせませんよ。では話します。我々師団の中に潜んで眷属へと内部の情報を漏らしているスパイの正体について』

 

 メーヤさんに伝えたメッセージが本当であるかの確認をしたローレッタさんにいつもの調子の羽鳥はハッキリとそう言ってスパイの存在を話し始めようとする。

 その瞬間、オレは周囲のわずかな異変に気付いた。

 いるな。バチカンかリバティー・メイソンか。はたまた別の何かか。

 とにかく複数の素人じゃない人の気配が警戒するような緊張感を持った。

 その変化にオレまで釣られて臨戦態勢になりかけたが、オレが気付くのだから向こうもその変化に気付く可能性がある。

 だからオレは自分の気配を殺して周囲への警戒もしつつ羽鳥とローレッタさんの方に意識を8割程度持っていく。

 

『最初に確認としてお尋ねしますが、そちらのシスターメーヤは大変な幸運を主より賜っていますが、その代償……誓約でしょうかね。それに味方を疑わないことが含まれていますよね?』

 

『あまり公言することではありませんが、確かにメーヤさんの強化幸運にはそのような信仰が必要となります』

 

『そのシスターメーヤを此度の戦役に前線へと送り出したバチカンの意向はどのような?』

 

『全ては戦役で勝利するため、我がバチカンが誇るメーヤさんを送り出した。それがおかしなことでしょうか』

 

『いえ、こちらとしてもシスターメーヤにはずいぶんと助けられていますから、そこに不満など一切ありませんよ』

 

 何やら初っ端からメーヤさんについてを掘り下げてる羽鳥だが、味方を疑えないなんて不自由があったのか。

 疑えない、か。それはつまり味方の誰か、何かに疑いがあっても『見て見ぬふりをする』ことになるのかもしれない。

 オレ達のような裏であれこれする人間にとって、メーヤさんのような人は言い方は悪いが非常に『扱いやすい』のは間違いない。

 

『ただし、彼女が師団の重要な会議に席を同じくするのは少々疑問のあるところ。彼女の意見はそういった一種の不自由さから参考にしにくい。あの人は前線に立たせてこそ力を発揮できるし、そういう方向で強化幸運を片寄らせている』

 

『つまり、私達の人選に問題があると仰りたいわけですね』

 

『どうかそのところの再考は検討してください』

 

『ご意見として1度持ち帰らせていただきます。ですがお話が逸れてはいませんか? フローレンスさん。あなたは師団にいるというスパイについてを話すと仰っていましたよね? そしてその疑いが向けられてしまっているのは現在、残念ながらあなただということもご自覚があるかと』

 

 なんとなく羽鳥がどういう話に持っていこうとしてるのかもわかってきたオレも、ここまでがただの確認作業であったことは理解。

 しかしローレッタさんの言うことも最もで、周囲を取り囲んでいるっぽいやつらも羽鳥をスパイと疑った上で配置されているのがわかる。

 さて、どう仕掛けるよ、羽鳥。

 

『そこは否定しませんよ。私を疑うのはむしろ当然。シスターには心苦しいでしょうが、どうかこのスパイ容疑者の言葉を聞いてはくれませんか』

 

『聞きましょう。野蛮な争いからは何も生まれません。対話は何事においてもまず率先して行うべきことですから』

 

『では最後までご静聴ください。とはいっても話すことなどほとんどないのです。まずはスパイの存在が露呈した先の香港での一件。聞き及んでいるでしょうが、あれはスパイの存在がなければあのスピードでの襲撃は不可能でした。日本で保守的だったバスカービルその他への奇襲の好機とはいえ、スパイは少々はしゃぎすぎました』

 

『それは同意します』

 

『ですが眷属による襲撃はアジア圏においてはそれだけとも言える。それはここ欧州戦線とは打って変わって大人しすぎる。それは何故か。答えは簡単。師団に潜むスパイの所在がここ、欧州にあるから。アジア圏での師団の動きはそちらの玉藻御前などから聞き及んだ程度でしか知り得なかった。だからアジア圏では大きな動きしか把握できず、その結果として大味な襲撃を眷属にさせてしまった』

 

 先日、オレにした話のおさらいをするようにローレッタさんに説明をし出した羽鳥に、ローレッタさんは無言で聞きに徹して続けるようにと訴えてるように見え、羽鳥も話し出したら止まらないところがあるのでローレッタさんの様子をうかがいつつ話を続けた。

 

『ではここで欧州戦線のスパイの存在を個として考えることをやめましょう。元々、我々「リバティー・メイソン」は無所属から始まり、1度は眷属への所属をしようとし、結果的に師団に落ち着いた。それは戦役において勝算がどちらにあるかを見定めるのが大きかったが、師団へと所属を決めた段階ではまだ眷属に分があった。それは勝算以外の利益が師団で発生すると踏んでの決定だ。対してあなた方「バチカン」はどうだろうか。あなた方は我先に師団への所属を決定したが、争いを好まないと謳うあなた方はしかし、敗者となることも避けたかったのではないだろうか。それは戦役ののちにバチカンの立場を悪くしたくないという全体の意思。それを可能とするには戦役でどう立ち回るかが重要になってくる』

 

 ……なるほど。オレとは見方が根本的に違ったのか。

 オレはてっきり眷属側の人間が師団へと成りすまして情報を引き出しているのかと思っていたが、羽鳥の推測は個人のスパイではなく『組織的なスパイ』である可能性。

 そしてそれを前提にするとおかしなことをしてるのは、今さっき羽鳥が指摘したメーヤさんの人選をしたバチカン。

 

『そこであなた方は今回の戦役においてシスターメーヤをバチカンの代表戦士として前線に立たせた。そのシスターメーヤの意志がバチカンの意向であると示し、味方を疑えないシスターメーヤは「戦役で眷属と戦う」という命に忠実にならざるを得ない。その裏でバチカンはシスターメーヤから報告される師団の情報を眷属へと流し、どちらの勢力にも良い顔をしてみせた。そして結果がどうあれバチカンは敗者とはならずに済み、戦役後も立場を落とすことはなくなる』

 

 バチカンはそうやって疑いがあっても疑えないメーヤさんを利用して表向きは師団に協力的にし――それで師団が勝てるならそれでもいい――裏では師団が負ける可能性も考慮して眷属にも明確な敵対はしなかった。

 それはメーヤさんのカツェ達への敵対心も相まって見えにくいバチカンの実態。

 前線に立つオレ達がメーヤさんくらいしかバチカンの人間を知らなかったことを利用されたことにもなる。

 

『その推測が事実だとして、それをどう証明しますか?』

 

『簡単なことです。それはあなたがここに来たことで証明になる』

 

『……はい?』

 

 しかしあくまで推測。それを証明するには確定させる何かが必要であるのはローレッタさんの言う通りで、オレもそこをどうするのかと耳を澄ませば、意外にも羽鳥はそう断言してその顔に笑みを浮かべる。

 

『正確にはこの場に「バチカンの人間だけが来た」ことで、ですがね。先のスパイの件でもあまり配慮が行き届いていない感じはしましたが、少々慎重さが足りませんでしたね。私はシスターメーヤにスパイの正体がわかったことと、この待ち合わせ場所をメッセージとして渡しました。それはシスターメーヤを通してあなた方バチカンを呼び寄せるのと同時に、そこからさらに私の所属先であるリバティー・メイソンにも話が通ると踏んでいた』

 

 マジかよあいつ……やることが大胆すぎるだろ。だからこうして今まで姿を眩ましていたってわけか。

 だがそうでもしないと証明はできなかったってことも聞いた今ならわかるし、それが最善であったことも理解できる。さすが尋問科のSランク。

 

『しかし実際はこの場にあなた方バチカンしか来なかった。それはつまりもしもリバティー・メイソンと一緒にここに来て、スパイの正体を知る私が捕まりでもすれば、自分達の企みがバレる可能性があると考えた。だからシスターメーヤからの情報を師団へと知らせることをせずに自分達だけで私を内々に処理しようと決めた。あのメッセージには念のために上の判断でどうするか決めろと指示もしておいたからね』

 

 これが羽鳥のやりたかったことの全て。

 この状況を作り出すためだけにオレを巻き込んであれこれと動き回った。

 だが冷静に考えてここまでのことでオレの必要性はほとんどないに等しい。あんな手間をかけてまで引き込んだ羽鳥の苦労に全然見合わない働きしかしていない。

 ならまだ何かある。

 羽鳥をなんとなく理解してきたオレはそう考えて痛いところを突かれたローレッタの反応を注視する。

 

『……なるほど。私達はあなたの策略に見事に嵌まってしまったと、そういうことですか』

 

 そして相手が羽鳥だけと言うこともあるのだろうが、肯定と取れる返事をしたローレッタさんは、観念したようにその堅そうだった口を開き始めた。

 

『推測の通り、私達は完全なる敗者となるわけにはいかなかった。だから保険をかける必要がありました』

 

『では、バチカンが眷属へ師団の情報を渡していたと認めるわけですね』

 

『頭のキレる方は時に大胆にして予測がつかないことをする。あなたはとても厄介な方でした』

 

 これはヤバいな……

 流れ的に肯定したところから嫌な感じはしていたが、ローレッタさんが羽鳥に過去形を使い出したのが非常にヤバい。

 これはもう、お決まりのあれだ。『バレる前に消す』ってやつ。幸い羽鳥は今行方不明。どこで死体となって出てこようと不思議はない。

 ――ピッ。

 そう思って車のエンジンをかけようかとした瞬間、インカムから何かのスイッチを押した電子音が聞こえてきて、遠くの羽鳥に目を凝らすと、その羽鳥はコートのポケットから何かを取り出して目は見えないのだろうがローレッタさんに存在をアピールする。

 

『その証言を待ってました。あなたとの会話の全てをボイスレコーダーで記録しました』

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