緋弾のアリア~影の武偵~   作:ダブルマジック

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Bullet14

「理子には――お父さまも、お母さまも、もういない。理子は、お2人がお歳を召されてからやっとできた子なの。お2人とも、理子が8つのときに……亡くなってる」

 

 寂しげな表情のまま、オレ達にそんな話を始めた理子。

 こればかりは本当に寂しいのだろうなと感じずにはいられないが、100%かと言われれば、怪しいな。

 

「十字架は……お母さまが、理子の5つのお誕生日に下さった物なの」

 

 そこまで聞いたアリアは、向けていたガバメントを下ろしてすとんと席に着いた。

 

「あれは理子の大切なものなの。命の次ぐらいに大切なものなの。でも……ブラドのヤツ。アイツはそれを分かってて、あれを理子から取り上げたんだ。それを、こんな警戒厳重な所に隠しやがって……ちくしょう……」

 

 感情が入ってはいる。おそらく母親に対する愛情も、ブラドに対する憎悪も本物だ。

 だが、そういった感情すら利用するのが、峰理子という人物だ。

 だからオレは情には流されない。オレはオレの目的だけを考える。

 そうしないと、非情にならないとこいつに出し抜かれるかもしれない。

 

「ほ、ほら。泣くんじゃないの。化粧が崩れて、ブスがもっとブスになるわよ」

 

 そんなオレとは対照的に、アリアは情に訴える理子に優しく手を差し伸べる。

 

「ま、まぁ……とにかく、その十字架を取り返せばいいんだな?」

 

 キンジもアリアに合わせるようにそう言い話を本筋に戻す。

 

「泣いちゃだめ理子。理子はいつでも明るい子。だから、さぁ、笑顔になろっ」

 

 自分にそう言い聞かせた理子は、その時お冷やを注ぎに来たメイドさんを見ていつもの調子に戻って話を再開した。

 

「ふつーに侵入する手も考えたんだけど、それだと失敗しそうなんだよね。奥深くまではデータが無いし、お宝の場所も大体しか分かんないの。トラップもしょっちゅう変えてるみたいだから――しばらく潜入して、内側を探る必要があるんだよ!」

 

「せ……潜入?」

 

「どうすんだよ」

 

 アリアとキンジが当然の質問をすると、理子は両手を高々と上げて宣言した。

 

「アリアとキーくんには、紅鳴館のメイドちゃんと執事くんになってもらいます!」

 

 潜入捜査は武偵としては今や珍しくない。オレも最近はやってないが、何度かやってるしな。

 それで、今回潜入する紅鳴館。

 理子の話では、ハウスキーパーが休暇を取るらしく、管理人が帰ってくるのに加えて、臨時の雑用係を2人募集していたらしい。

 その採用通知をすでに貰っていたという理子の仕事の早さに驚きつつ、アリアとキンジはその雑用係2人に選ばれたわけだ。

 そして除け者と思われたオレにも仕事が与えられていた。

 『紅鳴館内部に潜伏しアリアとキンジのサポートに回る』という仕事だ。

 まぁ、当然管理人に見つからないようにという条件付きではあるが、アリアとキンジが雑用係な分、俄然やりやすい。これがハウスキーパー2人だったら地獄だ。

 そんなことを考えながら、オレは学園島の一角にある工場現場の上階で理子の与えた仕事をシミュレーションしていた。

 そのオレの目に不意に飛び込んできたものがあった。

 ――白い犬。

 だとは思った。

 その犬はオレがいる工場現場に入っていき、すぐに姿が見えなくなったが、遠近法からその犬の寸法を概算で出すと、明らかに大きい。大型犬という枠にすら入らないほど。

 その後すぐにその犬を追いかけるかのように1台のバイクが疾走してきて、そのバイクにはキンジと、後ろに下着姿のレキが乗っていた。

 ……いけない関係か、キンジ。おっと、冗談言ってる場合じゃないか。ちょっと気になるし下に降りるか。

 そうして降りた階には、バイクで犬と押し合うキンジとレキの姿が。

 しかしあれは……犬じゃない。『狼』だ。

 マ、マズイ! 狼はマズイぞ。オレは狼が……

 思っていると狼はキンジ達から離脱し、10メートルはあろう工事中の亀裂を飛び越えて逃げてしまう。

 

「キンジ! レキ!」

 

「猿飛?」

 

「京夜さん」

 

「あの狼は……」

 

「急に現れて俺たちを強襲してきた。逃がすわけにはいかないだろ」

 

 キンジは言ったあとベレッタを抜き工場現場の足場を撃ち崩してジャンプ台にしてから、狼が飛び越えていった亀裂をレキを乗せたままバイクで飛び越えていった。

 お、置いていかれた。ちょっとこの亀裂は飛び越えられないぞ。

 

「――私は1発の銃弾――」

 

 亀裂をどう飛び越えようか考えていたオレの耳に、レキの狙撃の時の呪文が聞こえてきた。

 見ればレキはバイクの後ろで立ち上がり、狙撃銃、ドラグノフを目の前の新棟を登っていく狼に向けていた。

 

「銃弾は人の心を持たない。故に、何も考えない」

 

 待てレキ。待ってくれ。そいつはオレが……

 

「ただ、目的に向かって飛ぶだけ――」

 

 ――タンッ。

 オレの願いも虚しく、レキのドラグノフから1発の銃弾が飛び、それは狼の――背中を掠めただけで、命中しなかった。

 レキが外した? 初めて見たぞ。

 思いつつ、仕方なく遠回りしてそちらに行き、新棟の屋上へと辿り着くと、そこには力なく倒れる狼と、対峙するレキに、おそらくは『使えるキンジ』がいた。

 

「――脊椎と胸椎の中間、その上部を銃弾で掠めて瞬間的に圧迫しました。今、あなたは脊髄神経が麻痺し、首から下が動かない。ですが――5分ほどすればまた動けるようになるでしょう。元のように」

 

 おいおい。外したんじゃないのかよ。

 もう殿堂入りだな、レキ様よ。

 

「逃げたければ逃げなさい。ただし次は――2キロ四方どこへ逃げても、私の矢があなたを射抜く」

 

 そしてそのままレキと狼はしばらく見つめ合っていた。

 それに緊張を覚えたキンジがベレッタを抜いたが、オレはそれを手で制して黙ってその様子を見ていた。

 

「――主を変えなさい。今から、私に」

 

 そう言ったレキに対して狼はよろよろと立ち上がり、レキの前まで来ると、そのふくらはぎに頬ずりをした。まるで従順な犬のように。

 ……はぁ、先を越されたか。

 キンジはその様子に驚きつつも、安堵の息を吐いてベレッタを収めた。

 

「……で、どうするんだ? その狼」

 

「手当てします。服従していますから」

 

 キンジの問いに対してレキはそう即答し狼を撫でてみせる。

 

「それからどうする」

 

「飼います」

 

「か……飼う?」

 

「始めからそのつもりだったな、レキ」

 

「はい」

 

「そ、そうだったのか……でも女子寮はペット禁止だぞ。まぁ、そんなルールは厳密には守られてはないと思うが、ソイツはでかすぎる」

 

「では武偵犬ということにします」

 

 ははっ、強引。武偵犬は警察犬や軍用犬の武偵版だが、狼を犬とはね。

 

「いいんじゃないか? オレとしてはソイツを手懐けたかったが、まぁレキなら仕方ないさ」

 

 オレは言いながらレキのそばで屈んで狼と目線を合わせて見つめると、狼は数秒オレを見てから、顔を執拗に舐め始めた。

 もうオレの動物に好かれる体質は誇っていい気がしてきた。

 

「京夜さんもこの子を?」

 

「ま、まぁな。子供の頃に怪我した狼の子供の世話をしたことがあってな。その頃から狼には目がなくてつい。だが、レキに服従したなら諦めるさ」

 

「そうですか」

 

「……まぁいいよ。レキの意思を尊重して、その狼のことは任せる。あと……そろそろ、服を着てくれないか?」

 

 その後、『ハイマキ』と名付けられたその狼は、レキの武偵犬として正式に通ったらしく、時々オレも構いに行ったりしていた。

 そんなこんなで数日。

 どうやらアリアとキンジのメイド、執事化する準備に手がかかるとかで、オレは半ば放置気味にされていた。

 オレはバリバリ専門分野だから、何かを新たに仕込む必要はないからな。こればかりは仕方ないと割り切ろう。

 そう思いつつ音楽室の前を通りかかったオレは、そこにいた人物をつい2度見して、気付けば話しかけていた。もうほとんど無意識でだ。

 

「ジャンヌ」

 

「猿飛京夜か」

 

 そこにいたのは、武偵高のセーラー服姿の魔剣、ジャンヌ・ダルク30世だった。

 ジャンヌは何食わぬ顔でオレを見て名を呼ぶと、座っていたピアノの椅子から立ち上がり窓の外に目を向けた。

 見ればポツポツと雨が降り始めていた。

 改めて見てもこいつは……綺麗だな。細長い2本の銀髪おさげを頭の上でまとめ、さらに長い後ろ髪を背中に垂らした切れ長の碧眼。

 

「同じ人間に見えん……」

 

「なんだ? 猿飛」

 

「あ、いや、なんでもない」

 

 やべっ、口に出た。

 ジャンヌには聞こえてなかったみたいだな。良かった。

 

「それよりお前がここでその制服を着て自由にしてるってことは……」

 

「察しのとおり、司法取引だ」

 

 やっぱりか。

 理子の件もあったからな。予想は容易だったが、まさか武偵高で堂々としてるとはな。

 

「とはいえ、自由とは程遠い。今の私は囚われの身も同然だ。取引条件の1つで、東京武偵高の生徒になることを強制されているのだからな。そして今の私はパリ武偵高から来た留学生、情報科2年のジャンヌだ」

 

 ……タメかよ!?

 てっきり1つくらい年上かと思ってたぞ。

 

「今の待遇に不満か?」

 

「本来であれば拘置所行きだったことを考えれば、幾分マシだ。しかしこの制服はなんだ。いくら女性が拳銃を腿に隠すのがデリンジャー時代からの伝統とはいえ――未婚の乙女は、こんなにみだりに脚を出すものではない」

 

 そう話すジャンヌはオレとは顔を合わせずに、窓ガラスに映る自分の姿を恥ずかしそうに見ていた。

 それにしても古い考え方だなオイ。第1、未婚の乙女って……

 まぁ、オレも好きな女性には過度な露出はしてほしくはないが……ってなに考えてる。

 

「嫌なのか? 制服。オレは似合ってると思ったが」

 

「なっ!? 私が似合ってるだと!?」

 

 ジャンヌは言われてバッ!

 オレに振り向きそんな確認をしてきた。

 その顔はほんのり赤く染まっていたが、可愛い一面もあるんだな。

 

「オレは女性を褒める時は正直だよ。特にジャンヌみたいな美人にはな」

 

「口が達者だな、猿飛。だが、褒められて悪い気はしない。ありがたく受け取っておくとしよう」

 

「京夜でいい。武偵高にいる以上はジャンヌもオレと仲間ってことだろ?」

 

「その辺りの割り切りの良さはリュパン4世……理子から聞いた通りと言ったところか。だが、私は私をこんな仕打ちへと追いやったお前と馴れ合うつもりはない」

 

 ああ、だからアドシアードの時、オレを知ってる風だったのか。

 しかしオレも嫌われたもんだ。

 

「いいじゃないか。これを機に武偵として真っ当な道を歩んだってよ」

 

「私は魔女だ。貴様等と対等な立場に納まると思うのか?」

 

「自ら孤独になろうってか? 寂しいねぇ。なら対等に見なくていいさ。困った時はオレを頼れ。出来る限りの力は貸してやる。いや、こうかな? 『力をお貸ししますよ、姫君』?」

 

 オレは言いながら紳士さながらの丁寧なお辞儀をしてジャンヌに敬意を払う。

 

「私を蹴落としたお前が力を貸すだと? これはいい。それならば存分に利用させてもらうとしよう。お前が割と優秀な人種であることは確認済みだからな」

 

「割とって……まぁ互いに可もなく不可もなくな関係が今のところはベストだろ」

 

「それ以上にはならないぞ」

 

 それで互いにフッ、と薄い笑みを浮かべて、オレは机に浅く座り、ジャンヌはピアノの椅子へと腰を下ろしたのだった。

 

「ジャンヌ、少し話を聞いてもいいか?」

 

 互いに座って数秒、オレはジャンヌにそう話を切り出すと、ジャンヌは目を閉じたままピアノの鍵盤を開けて音の調子を確かめるようにドから順に音を鳴らす。

 

「内容にもよるが、とりあえず話してみるといい。答えるかはそれからだ」

 

 とりあえず話は聞いてくれるらしいな。

 それだけでも十分だ。たとえ答えが返ってこなくても、本気になれば表情の変化から探れることも多々ある。

 やって損はないだろう。実は逮捕した時に聞きたかったことでもあるし。

 

「ジャンヌは真田幸音という名に聞き覚えはあるか?」

 

「真田幸音? ああ、あの変人か。知っているよ」

 

 この反応は……ジャンヌは絡んでないっぽいか?

 オレはずっと魔剣が絡んでると思ってたんだが……となると幸姉は自分の意思で家をってことになるのか……

 それにしても変人……ねぇ……

 確かに世間一般から見たら群を抜いてるくらいの変人ぶりだよな、あの人は。

 だが『ジャンヌも知っている』となると、ある可能性が生まれてくる。

 

「その人は今、イ・ウーにいるのか?」

 

「……知りたいか? 猿飛京夜」

 

「当たり前だ」

 

「ふむ……しかしイ・ウーは知っているだけで身に危険が及ぶ、国家機密だ。そうほいほいと話すわけにもいかない」

 

「今更オレの心配か? 優しいじゃないか」

 

「違う。問題はイ・ウーが私闘を禁じていないことだ。話す内容によっては、私が狙われる」

 

「仲間なのにか?」

 

「イ・ウーに仲間意識などない。ついでに言うなら、私はイ・ウーでは『最弱』だ。私闘になれば勝ち目はまずない」

 

 ……はっ? ジャンヌが最弱だと?

 オレ達が束になってやっと逮捕したこのジャンヌが……イ・ウーで最弱、だと?

 冗談も程々にしてほしいもんだ。

 

「イ・ウーでは、天賦の才を神より授かった者達が集い、技術を伝え合い、どこまでも強くなる――いずれは、神の領域まで」

 

 要は互いの長所を集め合って無敵の超人になろうってのがイ・ウー。

 これが可能なら確かに神にでもなれるかもな。

 

「組織としての目的はない。目的は個々人が自由に持つものだ」

 

 だが、その集まりに法が存在しないのだ。

 そんな無法者達が集まってるとなると質が悪い。なんて組織だ。

 

「じゃあ、ジャンヌが理子の得意な変装や変声術を使えるのも、理子がジャンヌから作戦立案術を学んだりも、その理念の賜物ってわけか」

 

「そういうことだ。だが、全員が全員、仲良くやれているわけではない。ああ、私は理子は好きだぞ。あれはイ・ウーきっての努力家で、そのひた向きさには好感を持てる」

 

「理子が、努力家?」

 

「イ・ウーで最も貪欲に力を求め、勤勉に学んでいたのが――峰・理子・リュパン4世だ。理子は自分を誰よりも有能な存在に変えたがっていた。悲痛なまでに、一途に……な」

 

「……有能な存在に変わる必要があったから?」

 

「そうだ。理子は少女の頃、監禁されて育ったのだ。理子がいまだに小柄なのは、そのころロクな物を食べさせてもらえなかったからで……衣服に対して強いこだわりがあるのは、ボロ布しか身にまとう物がなかったからだ」

 

「……リュパン家は泥棒家系だが、それなりに裕福だったんじゃないのか?」

 

「リュパン家は理子の両親の死後、没落したのだ。使用人たちは散り散りになり、財宝は盗まれた。最近、母親の形見の銃を取り返したそうだがな。没落した当初、まだ幼かった理子は、親戚を名乗る者に『養子に取る』と騙され……フランスからルーマニアに渡った。そこで囚われ、監禁されたのだ。長い間な」

 

「……ブラドに、か?」

 

「察しがいいな。その通りだ」

 

 なるほどな。これで理子のブラドに対する怒りの正体が見えてきた。

 だが、今まで監禁されていた理子が今こうして動けている理由は……なんだ?

 

「とはいえ――理子が監禁されていた話については、私も詳しくは知らない。ブラドから僅かに聞いただけだからな。しかし……ブラド本人については、少しだけ教えておこう。あいつは危険すぎるからな。先日ここに現れたというコーカサスハクギンオオカミ。あれは私の見立てではブラドの下僕と見てまず間違いない」

 

 先日、となると、レキが手懐けたあの狼しかいないな。

 

「ブラドについて、詳しいのか?」

 

「我が一族とブラドは、仇敵なのだ。3代前の双子のジャンヌ・ダルクが初代アルセーヌ・リュパンと組んで、3人組でブラドと戦い――引き分けている」

 

 ……はっ? 3代前? 初代アルセーヌ・リュパン? 一体いつの話を……

 

「1888年。まだ下半分しかできていなかった、パリのエッフェル塔で、ブラド本人とな」

 

「120年以上前……まさかブラドは人間じゃないとか言わないよな?」

 

「そうだ。奴は人間ではない。日本語でなんと言えばいいかはわからないが――強いて言うならばオニ、と言ったところか」

 

「……それを信じろと?」

 

「信じる信じないはお前が決めることだ。だが、私は嘘は言っていない。……そしてブラドは理子を拘束する事に異常に執着していてな。檻から自力で逃亡した理子を追って、イ・ウーに現れたのだ。理子はブラドと決闘したが、敗北した。ブラドは理子を檻に戻すつもりだったが、イ・ウーで成長著しかった理子に免じて――ある約束をした。『理子が初代リュパンを超える存在にまで成長し、その成長を証明できれば、もう手出しはしない』と」

 

 それでその証明にアリアを……シャーロック・ホームズ4世を倒そうとした……いや、してるってわけか。納得。

 

「ブラドって奴がヤバい相手だってのは理解できた。ついでに理子の行動目的も、今に至る経緯もなんとなく、な。話を聞けて良かったよ」

 

「礼など不要だ。これからブラドの屋敷に潜入しようというお前に、警告してやったまでだ」

 

「優しいんだな、ジャンヌは」

 

「なっ!? やめろ! お前はそのような言葉を平然と言う奴ではないと理子から聞いていたが、訂正しなければならないな」

 

 言ったジャンヌはオレから顔を逸らしてしまうが、照れ隠しに見えて仕方ない。

 

「オレをわかった気でいる理子にはあとでげんこつ混じりに言っておくとして、潜入前に話を聞けて本当に助かった。なんか幸姉の話から逸れたが、そっちはまたの機会にしておくよ」

 

「そのまた、があればの話だがな」

 

「怖いこと言うなよ」

 

 オレはそれで机から立ち上がり音楽室を出ようと歩を進めた。

 

「おっと、肝心なことを言い忘れた。お前が武偵高の生徒なら、オレがお前をパートナーに勧誘してもいいわけだな」

 

「バカかお前は。そんな誘いに応じるわけ……」

 

「オレは結構本気だぞ。実力はこの目で見てるしな。まぁ、心の片隅にでも留めておいてくれよ」

 

 そう言い残して音楽室を出たオレは、その直前に本気で困惑した顔をしたジャンヌを見て、思わず笑みがこぼれたのだった。

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