「言うだけあんなぁ……カッチンコッチンやわ」
「うっわ……理子の表現がそのまま表現されてる……」
「魔王が住んでそうだね」
エリア51に入ってから最初の食事後。
パソコンを自分仕様にする作業を再開した雅さんが、1時間ほどかけて自作のソフトを起動し、いよいよクラッキングの準備が完了したところ。
ババン、と3つ並んだディスプレイは画面の延長として活用されて表示され、微妙に開いた『コ』の字になるように置かれたディスプレイの中心に雅さんが陣取る。
そして雅さんの自作のソフトはつまらない表示のクラッキングをゲーム風にアレンジして、生成されたダンジョンをゲームキャラを操ってクリアするというもの。
雅さんが言うにはダンジョンはそのサーバーによって毎回、姿形が変わるらしく、それは難易度にも影響されると言う。
それで今回のエリア51のサーバーで生成されたダンジョンが、ここに入る前に理子が比喩で言っていた魔王の城そのものだったのだ。
禍々しいとさえ言えるその城のバカでかい城門の前で静止する雅さん似のキャラがまた雰囲気に合わない今時のきゃぴきゃぴ具合だから場違い感がハンパないが、キャラに性能などないからどうでもいいらしい。
「魔王とか入り口を潜ったらいきなり出てくるレベルやでこれ」
「魔王がまず歓迎してくる城とか斬新……」
「そんなの糞ゲー認定されるよね」
自作のソフトだけあって、こういうパターンでの難易度を理解してる雅さんの例えを聞くに、ラスボスを最初に置いて、それと同格のやつを各所に配置してるっぽいことはわかる。
そんなセキュリティーレベルに挑むとなると、さすがに無理があるのかなと思って雅さんの顔を見るが、当人はそうは思ってない笑みを浮かべて無線のゲームのコントローラーを用意してパソコンと同期させる。
「こういうバカみたいにでっかい入り口は侵入自体は簡単やってことなんやけど、その実、ゴキブリホイホイと一緒や」
「えっと……入れたって思った瞬間に御用だー! ってなるわけですな?」
「正確には入ったはエエけど、どこもかしこも袋小路で進めへんってことやけど、まぁ正面から行ってもしゃーないってのは当たりや」
オレと理子にも分かりやすく説明しながら、コントローラーでキャラを操作して城の外周を周り始めた雅さん。
他の入り口でも探してるのかと予想しつつ様子をうかがってると、案の定、キャラがギリギリで入れそうな裏門みたいなものが出てきて、雅さんもその前で止まる。
「そこで脇道から裏口入学や。わざわざ相手の釣り針に引っ掛かってやる必要はないっちゅう話やで」
「「なるほど」」
「そ・や・け・ど」
そうしてドヤってる雅さんにオレと理子はついつい相槌を打ってしまったのだが、話だけをソファーに座って雑誌を読んで聞いていた眞弓さんが割り込んでくると、こっちの様子も見ることなく口を開いてくる。
「あのねじ曲がった性格の悪さから考えて、それも釣り針と見てエエどすやろ」
「眞弓ぃ、先に言わんといてや。私ももうちょっとドヤ顔しとりたいんやで」
「そら余計なこと言いましたな。ウチはもう黙りますから、続けなはれや」
その眞弓さんの意見にまたも納得してしまったのだが、雅さんはそれも予想済みだったようで頬を膨らませながらも、またキャラを動かして元の城門前に戻ってくる。
「まぁそんなわけやから、普通に進んだら詰みのこっちから入るんやけど、京くんらの要望に応えられるんは早くても朝になるやろうし、それまではのんびりしときや」
そうした説明でオレ達に焦っても仕方ないと言った雅さんは、大量にある板チョコの1つを口にしてから完全に切り替わってディスプレイとにらめっこを始めていき、こうなると周りの音を遮断する雅さんとは会話が不可能。
偵察に行ってるヒルダも眞弓さんが人を呼ばない限りは戻ってこれない都合、オレと理子は装備のチェックをしてからは保険で光屈折迷彩を着て睡眠を取るのだった。
「眞弓、京くん達を起こしてや」
おそらくはぐっすり6時間ほどは寝た頃に、ちょっと急ぐような雅さんの声で目が覚めたオレは、起こそうと立ち上がった眞弓さんを煩わせないように光屈折迷彩を脱いで起きて、隣で寝てるはずの理子の頭だろう部分を叩いて起こすと、急かす雅さんの元へと寄る。
「あと2分が限界やから頭に叩き込んでや。コピーは足跡残すからなぁ」
オレ達を呼んだということはそういうことなのだろうと予想をしていたが、ディスプレイには現在進行形でエリア51の全体マップが表示されていて、雅さんのキャラが下でカウントダウンをしていた。
「理子、どこにあると思う?」
「んっと……捻りがないなら最下層だよね」
「そもそも侵入される前提にないから妥当なところだよな」
結構な最新具合で、表示されるマップは立体の骨組みのようなもので、現在のエリア51の構造をそのままにしている。
当然、このマップには『瑠瑠色金はここです』なんて目印も何もないので、当たりをつける必要があるが、オレも理子もこの構造と堅牢な守りから最奥に重要なものを置くのがベターだと判断し、マップ上で最下層になる地下5階のフロアに注目。
そこから残りの時間で現在地からの最短ルートを検索してみるが、目的地に通じる入り口が施設の外にあるという面倒臭さに舌打ち。
「ここに監視カメラがあったらアウトだな」
「どういう入り口かがこれだとわかんないよね。なんか地上に出てないからマンホールみたいな感じかな」
「剥き出しなら楽なんだが」
「ん、監視カメラなら……そいや!」
問題はその入り口を光屈折迷彩を着たままでどうこうできるかだったが、監視の目を気にするオレと理子の言葉に画面をキョロキョロ見てた雅さんがコントローラーを操作して、パッと監視カメラの有無とカメラの範囲を表示してくれる。
それによると入り口を見られる監視カメラは定点ではないようなので、隙間を抜ければどうにかできそうで、さらに幸運なのは当たりをつけた地下空間には監視カメラが基本的にないこと。
これも侵入されることがないからと無駄を無くした結果だろうが、入ってしまえば光屈折迷彩も必要ないかもしれない。
「あかんな。これで終いや」
監視カメラのデータも引き出したからか、表示されていたカウントダウンがぐんと減って、残り10秒足らずになったのを見て、雅さんはオレと理子を退けてキャラの操作を再開。
表示されていたマップも消えてしまって、まだ見足りなかった理子がぐぬぬ、と声を漏らしたが、マップの記憶は得意なオレがすぐに必要なマップを抜粋して書き記し、そこから改めて作戦会議。
あーだこーだと言い合ってる内に1時間は経ったらしく、食生活のリズムがある眞弓さんがオレ達に構わずに人を呼んだところで、偵察に行っていたヒルダを回収。
そのヒルダの最新情報によると、ついさっきジーサード達が乗った航空機がネバダ州に入ったところで撃墜させられたらしく、その指揮をしていたのがあのマッシュだったとか。
あのジーサードが撃墜程度で死ぬなら苦労はないので心配はしてないが、ここに辿り着けるかは怪しいのでこっちは失敗できなさそうだ。
「次の食事の回収の時に行くか」
「オッケー。ヒルダはどうする?」
「思ったんだが、理子の真下なら光屈折迷彩の中で見えなくなるだろ。試してみろよ」
とにかく、ジーサード達が動いてマッシュがそっちに意識を向けている間に行動を開始したいので、この朝食の回収に来るタイミングで部屋から出ることを決め、ヒルダもそもそもな解決策を提案したら、あっさり隠れられたのでいけそうだ。
「京夜はん。お互いにあのガキの鼻、へし折ったりましょか」
「ええ。オレもあれにはイラッとしたので」
「金髪はんも、京夜はんに迷惑かけたらあきまへんで?」
「理子、そこまで役立たずじゃないんですけど……」
そうして行動開始の前にのんびりしてリラックスしていた体を動かして引き締めていると、これでおそらくはお別れになる眞弓さんが言葉をかけてくれる。
「京くんのマジ顔、撮って愛菜に送ったら売れそうやから、行く前に撮ってエエ?」
「証拠品になるんでやめておいた方がいいですよ。冗談なんでしょうけど」
「それがわかっとれば判断力は落ちてへんな。まぁ心配いらへんとは思うけど、お姉さんとしての体裁やから」
次いでモリモリと朝食中の雅さんが先輩としてエールを贈ってくれて、それに後押しされて気も引き締めたオレ達は、1時間後に来た朝食の回収の際に、開きっぱなしの扉からスルリと抜け出て行動を開始した。
施設の正面入り口は人の出入りがあまりなさそうだったので、1階のトイレの窓から監視カメラのない外へと抜け出て、頭に叩き込んだマップから最短のルートで地下施設に繋がる入り口へと向かう。
「確かこの辺りか」
一見すると何もないようにさえ見える目的地に辿り着いて足を止めたオレは、地上に出てないという入り口を探して砂漠の地面を見回す。
するとよくカモフラージュされてはいたが、妙な枠の隙間を発見し、マンホールのようなそれは明らかに人工的なもの。
入り口自体は動かせば開きそうなのを少し確認してから、施設を出たところから別行動になった理子と合流するために事前に決めていた安全地帯に移動し、そこにクナイを立てて待つ。
「お待たせっ」
「監視カメラはどうだ?」
「みやっちの引き出したやつと同じっぽいね。あれに映らないで動けるのは8秒がギリギリ」
待つこと3分ほど。
唯一見えるクナイを目印に近寄って正面辺りに来た理子は、情報通りの監視カメラかどうかを確認してきて、それが大丈夫だと報告。
8秒あれば入り口を開けて入って閉めるまではシビアだが不可能ではないはず。
「あとは人の目に注意して、行くぞ」
「あいさー」
時間も昼前なので人の目が本当に怖いが、敷地の割と端の方なのは幸い。
今度は理子と手を繋いで移動して入り口の前まで来たところで、小声で段取りを確認して理子がスコープで監視カメラの死角のタイミングを見て、オレが周囲を警戒。とにかくスピード勝負だ。
「…………今だよっ」
静かに告げられた理子のサインにすぐさま反応して入り口を開け、まずは理子を中に入れてから滑るようにオレも入って入り口に蓋をする。その間、約6秒ってところか。大丈夫なはず。
入り口の下はタラップのような階段があって、そこを降りて廊下へと出ると、砂漠の色と同じコーティングの壁、床のひんやりとした金属の廊下はシンプルで、ここからは監視カメラの類いがないことは把握しつつ、人の気配の方を探りながら先へと進む。
が、進んでも一向に人の気配がなく、そのまま地下1階の電子ロックの隔壁まで到達。
「これはあれか。防犯なんだな」
「だねぇ。しかも身内すら信頼してない感じのやつだよ」
ここまで来れちゃうとオレも理子もこのセキュリティーの置き方が意図的であることに気づき、これ以降も人はいないだろうと予想。
要するに警備を配置しても、その警備が奥にある何かを盗みかねないから最初から配置しないし、そもそもここまで侵入してこれる人間がいないから警備を置く必要がないと。
だから人が触れないで済む鉄の壁に守らせておけばいい。その周囲を自分達が守れば、ほら要塞の完成。
「で、開けられそうか?」
「ちょおっと待ってねぇ……」
そうとわかれば油断はしないがコミュニケーションにも支障が出る光屈折迷彩は脱いでさっそく電子ロックの隔壁を開けるために理子があれこれと調べる。
「カードキーでぇ……磁気タイプのやつか。ほいほいっ」
この辺はお手のものとばかりにどういったものかをすぐに理解した理子は、この作戦用に用意したプラスチック性のリュックを下ろして、そこに入れていたよくわからん機材であれこれし始める。
磁気タイプとか言うので、ヒルダも呼び出されて作業すること十数分。
適当なカードを作った理子は、それを電子ロックにサッと通して、その際にヒルダが微量の電気を放出。何がどうなのかはさっぱりだが、それで認証がされて電子ロックが解除されたのだから誉めるしかない。
「各階にいくつ隔壁があるんだか」
「構造的に3つくらいかなぁ。ここ地下1階の隔壁は同じ電子ロックだから楽だけど、全部そうとは限らないから、時間はそれなりにかかると思うよ」
1つ目の隔壁を突破して先へと進み、さらにその先にあった隔壁も同様に開けて進んでる途中にそんな疑問を口にすると、理子は構造的に3つくらいと答え、またすぐに隔壁へとぶつかるがこれもすぐに開けて進めば、確かに下の階層に続く階段が現れ理子がドヤ顔。
「ドヤ顔するなら最下層まで辿り着いてからにしような」
「じゃあ辿り着いたらご褒美のチューね」
「ヒルダがするってよ」
「なっ!? ばっ!? サ、サルトビお前!?」
まだふざける余裕があるのは良いことなのだが、ふざけるのと騒ぐのは別なので、慌てふためくヒルダの口はすぐに塞いで地下2階に突入。
次の隔壁はまた電子ロックが違うらしく、さっきよりも手間がかかるものの、難しいのではなく単に工作に時間がかかるだけとかで、1時間ほどかけて1つ目の隔壁を開けることに成功。
「お前、開けられない電子ロックってあるのか?」
「そりゃありますよ。最新式のやつとかこんな簡易装備で対応できないしね。ここは長いこと侵入者が……侵入者自体が皆無だから、電子ロック自体は割と古いタイプで取り替えたりはしてないっぽいねぇ」
「それも侵入されないからか。さすがにこれは怠惰のような気もするが」
「そのおかげでここまで来れてるんだから、感謝しなきゃだよ」
なんだか簡単そうに解錠する理子を見てると、大したことないのかと錯覚するが、この理子も相当な手練。怪盗の一族だしな。
決して楽ではない電子ロックの壁を順調にクリアしていく理子の快進撃は、なんと地下4階まで続き、この地下空間に入ってから9時間が経過したところで最下層の地下5階に到達してしまう。
外はもう夜になってしまってるだろうが、そんなの関係ないとばかりにおそらくは最後になる隔壁の前まで来たオレ達は、これで最後かもという期待感で電子ロックと向き合うが、ここで初めて理子が「うげげっ」と嫌な声を上げたので、オレも見ていた電子ロックを確認する。
「パスワード式か」
「しかもミスしたらドボンのやーつー」
「桁数は……6、か?」
「100万通りですな。はっはっはっ……はぁ」
パスワード式の電子ロックはオレでもわかるので、0から9まである数字のボタンとその上の入力欄から6桁なのはわかったが、それだけだと理子の言う通り100万通りのパスワードがあるので、1発で当てるのは奇跡と言える。
しかも間違えるとアラートでも発信されるのか、1から順番に入力していく作業も出来ないとなると苦しい。
「……まぁ半分以下の確率にはしてやれるかもしれんが……」
理子もやれなくはないのだろうが、ここまで来るのにも相当な神経を使ってきたからか、これからこいつに取りかかるだけの気力がないようで、ここまで頑張らせたからオレも役に立とうと当たって砕けろ。
入力のボタンのところにもしもの時のために持ってきていた砂漠の砂の入った袋を叩いてその粒子を振りかけて、そこにライトを灯して目を凝らす。
本当はそれ専用のものがあるのだが、急ごしらえの無駄に終わる可能性が大だったが、超がつく奇跡。
粒子を振りかけられたボタンのいくつかにうっすらと凹凸が現れてくれる。
これはこのボタンに触れた人の指紋による跡。そこに粒子がほんのわずかに乗っかった形で浮かび上がったのだが、本当によくわからないレベルなので厳しい。
しかしそこからかつて押しただろう数字を抽出して、なんとか5つの数字は判明するが、どうやら同じ数字が使われてるらしく、理想的な絞り込みは出来ずに終わる。
「気休め程度の確率アップだな。分母が小さくなっただけだし」
「まぁその努力は無駄にしないよ。でも今日はもうギブぅ」
結果として100万が10万以下にはなったか程度の差――計算が面倒なので適当だが――で、分子が1である以上、厳しいのは変わらない。
それでも理子としては面倒な作業がいくらか削れたのか嬉しそうにはするが、さすがに10時間くらいは稼働しっぱなしだったからダウンしてしまい、今夜はもう寝かせてやることにする。
作戦行動前に判明したことだが、ヒルダの影はある程度の物なら持ち運び可能らしく、その便利な能力のおかげで1日分の水と軽い食料は持ってこれたので、それを口にしつつで理子の休息中の警戒を夜通しで行う。
あくまで保険なのでオレもかなり深い時間帯はヒルダに任せて光屈折迷彩を着て仮眠を取ったが、ここから抜け出ることも考えると、あと1日以内で片付けないと精神的にキツい。閉鎖空間ってのはそれだけ人に不安やら何やらを与えるからな。
「…………ちょっと。ねぇサルトビ。起きなさいな」
色々と考えながら寝ていたので、頭は全然スッキリしていない状態でヒルダに呼ばれて意識を覚醒させる。
ちょっとヒルダらしくない困惑混じりだった声色なのもあって異常事態なのも想定してヒルダを見るが、誰か人が来たとかではない――ヒルダが姿を隠していないから――ようで、そのヒルダはどこかを指差して動かないため、オレは釣られるようにその指差す方を向く。
するとそこには昨夜に頭を悩ませたパスワード式の電子ロックがあり、なんと何がどうなってるのか勝手に数字が入力されているのだ。
「……何だ?」
入力の速度は亀並みで、オレが見た段階で6桁中の2桁目が入力された段階だが、ヒルダが気づいて起こした時間から1分くらいで1桁が入力されているっぽい。
とかなんとか思考していたらまた1桁入力されてしまい、オレには理解の及ばない現象なので理子を起こして見てもらうが、その理子も驚くばかりで説明はできないようだ。
「どうする?」
「どうしよっか」
「…………見守るか」
「……見守りますか」
不思議で不気味な現象に立ち尽くすオレ達ではあったが、共通しただろうことはこの現象を止めてはならないという認識。
そうして見守っていたら最後の6桁目が入力されて不思議現象は停止。あとは確定のボタンを押すだけで、これもオレと理子の意見は一致してオレが代表で確定ボタンを押す。
するとそのパスワードは認証されたらしく、重たい鉄の扉はゴウンゴウンと音を鳴らしながらもゆっくりと開いていったのだった。