――あの人は本当にもう!
そんな怒りが込み上げてきてる今日この頃。
すでにバレンタインデーから数日が経って、妙なそわそわ感が漂っていた学園島も平穏を取り戻していつも通りになっていましたが、私の心は穏やかじゃない。
今月の上旬に帰ってきたと思って、バレンタインデーでは手作りチョコを最初に選んでくれて上げられたかと思えば、数日後にはまた海外に高飛びしてしまった京夜先輩の奔放さに振り回される私の滑稽さ。
さすがに本人を前にこのクソとは言えないので心の内に留めますが、もう本当に徒友契約が終わってしまうのにこの放置プレイは責任放棄なのではなかろうか。
私の一端の武偵ですから、いつまでもあれを教えてこれを教えてではダメなのはわかりますが、徒友っていうのはそういうことをしていい間柄になることではないのかと。
そうした苛立ちが面に出ていたのか、専門科目の授業中にシャーペンの芯を延々と出しまくるという奇行が先生の目に止まって注意されてしまった。
「珍しいでござるな。小鳥殿の素行が悪くなるとは」
「私も人間としては未熟なもので……」
その放課後。修行に行く途中まで陽菜ちゃんと下校を一緒にしていると、さっそく授業中のことをツッコまれて苦笑してしまう。恥ずかしいなぁ……
「して、小鳥殿の悩みの種は?」
「悩みっていうよりは不満というか……塵も積もり積もって山となりかけてる段階って感じ」
「よくはわからぬが、あまり溜め込みすぎては身体にも精神にも影響するでござるから、思い切り発散するも手でござる」
「発散、か」
そうしたいつもと違う私の原因が悩み事だと思った陽菜ちゃんのちょっと鋭い質問に素直に答え、詳しくは聞かなくても解決策を言ってくれる辺りは優しい。
しかし陽菜ちゃんのお悩み相談もここまで。どうやら修行の時間が早まったとかで走っていってしまって、それから1人でとぼとぼと帰路についていると、なんだか同じような空気を纏った人と帰る集団を発見。
よく見なくてもあかりさんのグループでしたが、その中心のあかりさんの姿がなく、仲良さそうなライカさんと麒麟ちゃんを先頭に桜ちゃんと志乃さんがその後ろに続いてる。
けど、あかりさんがいないせいか志乃さんが明らかにどんよりとした雰囲気で見てるこっちが鬱になりそうなあれな感じで、桜ちゃんが何度か声かけして反応を見てますが、上の空な返事をするだけで無駄っぽい。
「ん? 小鳥じゃんか」
「小鳥様、お疲れ様ですー」
「あ、うん。お疲れ様ぁ」
違う道から来たライカさん達が立ち止まっていた私の存在に気づいて挨拶をしてくれたので、とりあえず挨拶は返したけど、やっぱり後ろの志乃さんの負のオーラが気になってしまい、私の言いたいことがすぐにわかったライカさん達も苦笑いを浮かべて志乃さんを見る。
「これはまぁ……気にすんな。あかりのやつがアリア先輩に付いてイギリスに行っちまって、元気ないだけだからよ」
「イギリス? アリア先輩の祖国ですね。帰国ってことでしょうか」
「さぁな。けどすぐには戻ってこないかもって話で、それで志乃がこの様ってわけ」
話を聞くとやっぱりあかりさんの不在が原因っぽいことがわかり、アリア先輩の名前が出たことで志乃さんがピクッと反応し、次いで「神崎……アリア……」と念仏のように唱えたので、隣にいた桜ちゃんがビクッと怯える。
あまり人に依存するのも良くないとは思うけど、友達に会えない悲しさは個人で大小が異なるものだしね。
「でもあの様子だと周りにも伝染しかねないですよね」
「そうですの。佐々木様にはなんとか持ち直してもらいたいのですが……」
「うーん。それなら……」
ただ、その悲しみのオーラを周りに影響させるのはよろしくないので、ライカさんも麒麟ちゃんもどうにもしたいとは思ってることを知って提案を出そうかと思ったところで、また別の道から志乃さんに近いオーラを纏った高千穂さんが愛沢姉妹を連れてやって来て鉢合わせ。
ちょっと仲が良いんだか悪いんだかわからないグループの遭遇で微妙な空気が流れますが、高千穂さんはあまり元気がないので挨拶もそこそこで立ち去ろうとしてしまう。
「あの、高千穂さん。もしかしてあかりさんがいなくて元気ないですか?」
「なっ!? 橘小鳥! お前は何を言って……」
「図星ですか。でも丁度良いです」
思い返せばクラスでも「あかり……」とか独り言してた高千穂さん。となれば志乃さんと症状は同じな気がして尋ねると慌てたので、分かりやすい人と思いつつこれから言おうとしていた提案を聞いてもらおうと足を止めてもらう。
「私を含めてどうにも皆さん、鬱々とした雰囲気が漂っているので、ここは1つ、溜め込んでいるものを吐き出しに行きませんか?」
「吐き出しにって、どこに行くんだよ」
「女子高生の定番ですっ」
そうした私の提案に一同が首を傾げる中、ちょっと可愛くそんな返しをすると麒麟ちゃんがまず気づき「賛成ですのー」と味方に。
そこから麒麟ちゃんが行くならとライカさんも参加。桜ちゃんも上手く志乃さんを誘導して加わり、なかなかにプライドの高い高千穂さんには「これも友達付き合いですよ」と友達というワードで釣って愛沢姉妹も一緒に同伴が決定。
……あっ。女子高生の定番とは言ったけど、2名ほど女子中学生がいますが、そこはまぁ気にしないことにしよう、うん。ちっちゃいことは気にすんな、です。
こうしていつもとは違った女子グループを形成して学園島を出て、港区の適当な場所まで移動してくると、私の意図がわかってる麒麟ちゃんが行きつけの店を紹介してくれたのでそこで即決し少し移動。
辿り着いた飲み放題のカラオケ店にぞろぞろと押し寄せて部屋を確保しドリンクも頼んで準備完了。
「ではでは、日頃の鬱憤を歌に込めて発散しちゃいましょう!」
『おー!』
一応の言い出しっぺである私がマイクとドリンクを持って音頭を取ると、意外とノリも息も合った一同は乾杯。
さっそく曲を入れ始めますが、なんとライカさんがいきな無茶振りで私の曲を勝手に決定してしまい、そのままトップバッターにされてしまう。
あ、あれ。こういうのは一番明るい子がムード作りのためにやるのが定番では……
「いえいッ!」
強制的な選曲でしたが、ライカさんなりの優しさでメジャーなアップテンポの曲でなんとか歌い切り、それなりに場のムードも盛り上げられたかなとピースをすると、みんなが笑顔を向けてくれたのでとりあえずは成功でしょうか。
私が歌ってる間にみんなが割とがっつり曲を入れていたので、以降は途切れることなく歌が続き、ライカさんと麒麟ちゃんのデュエットや桜ちゃんの子供向けアニメの歌、高千穂さんの歌に合いの手を入れる湯湯さん、夜夜さんの盛り上げもなかなか。
さぁ流れが来たぞ! ってなタイミングで次の曲のイントロが流れ出すと、なんとも言えない謎の勢いがあるイントロでみんなして知らないからか微妙な表情になる中、スッと立ち上がってステージに移動した志乃さんはマイクを両手持ちして超マジの歌を披露。
その曲がもうあれで、歌詞が大好きだった人を横取りされてその怒りを周りにぶつけるという乱暴さが超目立つもので、サビなんて志乃さんが泣きながら拳を握って歌うもんだから、みんなしてその迫力に圧されてだんまりになってしまった。こ、怖い……
「ふぅ……ちょっとスッキリしました」
そして全部歌い切ってから志乃さんは丁寧なお辞儀でペコリとしてから、次の曲がかかる前に席へと戻り飲み物に口をつけて落ち着く。
でもちょっとだけと言った証拠に、まだ発散し足りないのか次の負のオーラを纏う曲を探し始めたので、それを私と桜ちゃんでさりげなく止めつつ、仕方ないので他の人達が歌ってる間に愚痴を聞くことで発散させる作戦に切り替える。
「というかですね。いくら先輩で
上手い具合に歌が志乃さんの愚痴を掻き消してくれるけど、聞かなきゃいけない私と桜ちゃんは嫌でもそれを耳にしないといけない。
しかし志乃さんが言ってることもなんとなく共感できちゃう辺り、私もずいぶん徒友制度に不満を抱いているのかもしれない。
「戦妹は戦姉の道具じゃないんですよぉ」
「それは言えてますねぇ。まぁ、戦妹を放置プレイされるのも問題がある気もしますが……」
「あれ、小鳥先輩は猿飛先輩に不満があるんですか? 私から見たら羨ましい先輩ですが」
「桜ちゃんは京夜先輩の良いところしか見えてないからそんなこと言えるんだよ。実際には頼りたい時にいないし、どうでもいい時に限って色々と言ってくるし」
ソフトドリンクを飲んでいるはずなのに、何故か酔ってる風になってきた志乃さんの本音が駄々漏れですが、毒には毒。愚痴には愚痴と言うように私も戦兄への不満を口にすると、京夜先輩の評価が高い桜ちゃんが驚くような反応をしたことに驚く。いつの間に好感度を上げたんでしょうか、あの人は……
「そうなんですか。来学期にダメ元で徒友申請してみようと思ってたんですが」
「桜さん……浮気ですか?」
「えっ? いえいえ! 今はちゃんとしっかりあかり先輩から学ばせてもらいますよ! あくまで次の話ですから」
「なんだかんだで私の次の徒友契約は倍率高そうですよねぇ。EランクからAランクに飛び級する先輩なんて話題に事欠かないし」
「ですけど、冷静に考えて3年生と徒友契約はメリットが少ないですよね」
「ですねぇ。3年になったらその道のプロと差し支えない扱いになりますし、海外進出や依頼で後輩の面倒なんて見てる暇はないはずですぅ」
愚痴だったはずなのにいつの間にか真面目な話になって、酔った風の志乃さんが冷静な思考で意見するのをホゥホゥと聞き入ってしまったけど、確かに3年生ってあんまり学校で見ないから徒友契約はメリットがなさそう。みんな色々と考えてるんだなぁ。
「そういえば志乃さんは白雪先輩が戦姉ですけど、戦姉自慢はないんですか?」
「白雪お姉様のですかぁ? そんなのアリア先輩と比べるまでもないほど素敵なお姉様ですよぉ。いつも『親切』を学ばせてもらってますぅ」
「親切、ですか?」
「そうですぅ。『親切』ですぅ。フフフッ」
そこで良い流れなのでネガティブ方面からどうにかポジティブ方面に舵を切ろうと白雪先輩の話題を聞き出そうとしましたが、なんか志乃さんが口にする親切が妙に凄みがあって鳥肌が立った。
きっと凄く優しくて非の打ち所がない戦姉なんだろうなってのは雰囲気でわかるんですが、なんだろうな。この志乃さんだからこそ最高の戦姉である、という確信に近い何かは……
おそらく私が春先から見聞きし下の階で繰り広げられてきた数々の暴動――怪獣大戦争かと思った――のせいなのでしょうが、アリア先輩や理子先輩が絡まなければ白雪先輩は温厚で優しい人。だと思うので、きっと私のマイナスの思い込みが悪いんでしょう。
「おいおい。折角カラオケに来てんだからもっと歌っとけって」
「ですのー! 佐々木様もデュエットなんていかがですか?」
などなど、雑談がメインになり始めたところに積極的に歌っていたライカさんや麒麟ちゃんが誘ってくれたので、デュエットなら志乃さんも曲のチョイスは大丈夫だろと私も桜ちゃんも勧めてステージへと上げ、ちょうど歌い始めようとしていた高千穂さんと必然的にデュエット開始。
「な、何で志乃と一緒に歌わなきゃならないっちゃ!」
「こ、こっちこそ御免被ります!」
「歌姫2人でデュエットなんて最高だなぁ」
しかし普段は仲の悪い2人が歌うより先に喧嘩を始めそうだったので、その喧嘩のベクトルを変えてあげるガヤで高千穂さんをノセて、ステージを降りようとした志乃さんを煽るように仕向ければ、はいデュエット開始です。
そうして歌い始めたらかなり息の合ったパート分けとハモりを披露するんだから、本当は仲がとっても良いんじゃないかと疑いたくなる。
そんなカラオケは2時間くらいで終わってしまいましたが、店を出た頃には歌い疲れたのもあるでしょうけど、グチグチとネガティブなことを言う人もいなくなっていた。
作戦は概ね成功と言っていいのではないでしょうか。
帰りは港区に居を構える志乃さん、高千穂さん、桜ちゃんがそれぞれ迎えの車やらバスやらタクシーやらを捕まえて、ひと足早く帰路についていこうとし、私とライカさん、麒麟ちゃんも学園島に戻るために別のバスに乗りに移動をしかけたタイミング。
全員の携帯に着信があり、そのシンクロした動きにお開きムードから真面目な雰囲気に切り替わった私達は一斉に届いたメールに目を通す。
やっぱりメールは教務科からで、周知メールのそれには現在進行形で品川駅の近くで無差別な爆破をしてる輩が暴れてるとあった。
「爆破って、手榴弾とかでしょうか」
「火炎瓶とかで車に引火させてんのかもな」
「RPGでド派手にってこともあり得ますの」
「警察の方からも情報を引き出してみますね」
緊急のメールだからか内容が酷く薄くて、現場を見ないことにはどうにもならなそうな雰囲気が流れ、桜ちゃんが橋架生のコネで警察の方にも確認を取ってくれるけど、もうその警察が対応してくれてる気もする。
楽観視は良くないけど、こういうメールはよくあるし、駆けつけた頃には解決してるなんてこともザラだと聞いてるので、私達も詳細が来るまでは近場で待機か現場に行くだけ行ってみるかで分かれる。
「…………人がせっかく気分良く帰ろうとしていたのに……」
「空気の読めないバカには本当にイライラするわね……」
しかし志乃さんと高千穂さんはこの騒動に足を止められたことが非常にイラついたらしく、2人して不気味な笑い声を出したあとは、私達の意見も聞かずに品川駅へと一目散に走っていってしまい、なんだか暴走気味の2人を放っておけないので私達もすぐにそのあとを追っていった。
「何あれ……特攻隊?」
「人間爆弾だろありゃ」
「バカな男の行動は読めませんの」
「これでは手を出すのも難しいですね」
辿り着いた品川駅の近くの交差点の中心。
今や警察のパトカーが周囲を取り囲んで1人の男を包囲してはいたものの、その暴れていた男は体に巻いたベルトにびっしりと装備された手榴弾で周囲を威嚇していた。
目視ではあるけど、手榴弾の数はおよそ30はあり、ピンもベルトから取るだけで外れちゃうような仕組みがあるっぽい。
その男の近くではすでに5台の車が炎上し黒い煙を噴き上げていて、ガソリンへの引火で爆発も起きている。
男もすぐに使ってしまえば御用なのはわかってるからか、無駄に手榴弾を投げたりはしてこないで、不気味な笑い声で如何に多くの犠牲が出せるかを考えている節が見られる。
「なんか、捕まってもいい感じを出してますよね」
「ああいう類いの奴は自棄を起こしてるケースが多いからな。どうせ捕まるなら被害を最大にしたいとか思ってんだろ。迷惑極まりねぇよ、ホント」
一応の増援なので、各々が主武器を持ち出して話し合いをするけど、これはもう交渉人とかの出番な気がしないでもなく、強襲でどうこうはリスクが高すぎると思う。
もちろん、犯人の生死を問わないのならすでに狙撃の準備くらいはされてるだろうし、そのための包囲である可能性の方が高い気もするけど、日本はそっち方面への舵切りは色々と判断が遅い。
「ちょっ!? 高千穂先輩!」
時間も時間でもう日が落ちてしまったものの、警察によるライトで犯人の姿は完全に捉えていたところに、スタームルガー・レッドホークを装備した高千穂さんが包囲を抜け出て犯人へと歩み寄って射程距離にまで近づいてしまい、それには警察の方々も私達もどよめく。
「これはあとで始末書とか書かされるんじゃねーか?」
「それよりも何の策もなしに前に出たかもしれませんのよ……」
「麗様、戦術の組み立ては苦手なのに……」
「でもバカじゃないからもしかしたら……」
完全に直前のあれが尾を引いて考えなしで出ていったと思われてる高千穂さんですが、現場においては冷静さを欠かない高千穂さんが無謀なことはしない、と思いたい私は、その行動に意味があると考えて周囲に目を配る。
「……あれ、志乃さん?」
と、そこで初めて志乃さんの姿がないことに気づいてみんなにも知らせるが、誰もわからないとなって頭を抱える。
よりによって暴走気味の2人が奇行に走るなんて……
と、ストッパーとして来たはずの自分に落胆していると、昴が何かを見つけたようでそれに従って移動してみると、近くのマンホールが開けられて地下への穴がぽっかりと空いていた。
マンホールが勝手に開くことはないので、誰かが意図的に開けたことになり、少し思考してから犯人の近くを観察すると、すぐ足元にマンホールが。
「あれ、もしかして……」
そこで思い至った私は、スタームルガー・レッドホークを犯人に向けてベラベラと挑発するように喋って自分に注目させる高千穂さんの狙いがわかり、警察の影に隠れてそれをライカさん達にも伝達。
高千穂さんの挑発によってその注意が高千穂さんに寄ったところで、マンホールの通って地下を移動してきた志乃さんが、犯人の近くのマンホールを開けようとしたところで高千穂さんが空に向けて発砲し音を掻き消す。
そうしてマンホールから出てきた志乃さんは、すぐに持っていた刀を抜刀し犯人の体に巻きつくベルトを斬り落として、地面に落ちたベルトを後ろへと放り捨ててしまうと、それと同時に私達も突撃。
息もつかせない強襲で無力化した犯人を取り押さえて、何かの拍子でピンが外れてしまった手榴弾が前の方で盛大に爆発してしまったけど、みんな退避していたので犠牲者はなし。
「まったく、ヒヤヒヤしたぜ」
「ホントですよ。やるならやるで私達にも知らせてくれないと困ります」
何はともあれ志乃さんと高千穂さんの機転で事件が解決して、反省会をする中で、おかんむりなライカさんや桜ちゃんの言葉にはぐうの音も出ない様子の2人でしたが、やっぱりなんだかんだで仲が良くなきゃ出来ない連携をした2人が仲良しさんなんだなぁと思いながら、そのあとはしっかり私達も一緒に警察からのお叱りを受けてしまうのでした。