緋弾のアリア~影の武偵~   作:ダブルマジック

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ロンドン編
Bullet133


「1ヶ月経たずにまた来てしまった……」

 

 贅沢出来ない身の男2人――約1名は女装してる――が格安の飛行機で辿り着いたロンドン、スタンステッド空港の入国審査を無事に通過。

 クロメーテルと化していたキンジは、人の目を盗んで速攻で男子トイレに駆け込んで女装を解きに行き、それをやけに多い人混みの中で待ちながら独り言。

 一応、こういうサプライズを怒りそうなメヌエットにはメールをしておき、ついでに宿泊の当てとして羽鳥にもメールをしてから、元の姿になってトイレから出てきたキンジがワトソンが迎えに来てると言うので、そのまま空港を出て車寄せを見ると、ポルシェに寄りかかるワトソンが笑顔を向けてきた。

 

「また派手な車で」

 

「911に愛着が持てんのは同感だ。ライトがカエルの目玉みたいだし」

 

「そこが可愛いんじゃないか。トオヤマもサルトビもセンスがないな」

 

 別にオレはポルシェが悪いなんて一言も言ってないのに、まとめてツッコまれると納得しがたい。が、どうでもいいから流しとく。

 それから空港がやけに混んでいたのが近々ロンドン市内で競技バルーンの世界大会が開かれるからとか、アリアの救援要請を受けてワトソンがこっちに来たことを移動しながらしてくれる。

 が、ワトソンに救援を求めたってことは、事が上手く進んでないということを示しているわけで、続けた話ではどうやらまだメヌエットと会えてもいないっぽい。

 さらに当のアリアはどこかに身柄を押さえられてしまっているらしく、捕まってるとかそういうことではないと話すワトソンに、キンジがバカなのでこのロンドンでMI6。イギリス情報局秘密情報部の中の00シリーズの名を出そうとしたから、助手席の後ろから締め上げて言葉を切らせたが、ワトソンの厳重注意が飛んできて話が中断されてしまった。

 そんな厳重注意をが終わった頃に大英博物館の辺りに差し掛かって、そこからさらに南下しようとするワトソンの運転がどこに行くかわからないので、とりあえずオレだけは降ろしてもらう。

 

「こんなところで降りてどうするんだい?」

 

「ん、ちょっと友達に会ってくる」

 

「お前に友達なんていたのか。しかもこんな海外に」

 

「ほほぅ。そんなことを言うキンジには仲のよろしいお友達がいらっしゃるので?」

 

「ぐっ、ブーメランが痛ぇ……」

 

 オレがメヌエットと友達なことをここで言っても良かったとは思うが、じゃあそれでキンジとワトソンに取り次いでくれと頼まれたところで、素直に「いいでしょう」なんて言うような質じゃないのは分かりきってるし、そうしてプライベートに余計なものを持ち込む無粋はするべきじゃない。

 だからまだメヌエットとの関係は黙っておきつつで事を進め、キンジ達とは後でまた合流することを決めてから、ワトソンはポルシェを再び走らせていき、オレもメールの返事が来ていたメヌエットの家を目指して歩き始めた。

 

「「ようこそ、京夜様」」

 

「サシェもエンドラも変わりないな……って言っても1ヶ月も経ってないし当たり前か」

 

 地理もある程度だが頭にあるので、迷いなくメヌエットの家まで辿り着き出迎えてくれたサシェとエンドラと会話とも言えない会話をしてから中へと通される。

 メールによると今はちょうど客人と対談中とのことだったので、待つ間にこの1ヶ月の変化を調査。

 家を調べるならまずは冷蔵庫ということで、割と偏食なメヌエットの食べ物に大した変化は見られなかったが、作り置きされたクレープがあって、頻繁に使ってるのかキッチンにも焼き器が目に見えるところに置かれていた。

 これがメヌエットが自分でやってるかはわからない……いや、もう飽きてやってないな絶対。

 とか失礼なことを考えつつも、なんだかメヌエットの空き時間を待つ自分がことのほかソワソワしてることに気づいてらしくないなと深呼吸して気持ちを落ち着かせる。

 しかしその様をサシェとエンドラが見てクスクスと笑うので、普段はあまり気にしないが妙に恥ずかしくて口笛で誤魔化してしまい、それがまた2人から笑いを取ってしまう。あ、穴はないか!

 

「京夜、来ているのでしょう。上がってきなさい」

 

 一応、サシェとエンドラには釘を刺しておき、30分ほど経ってから客人が下りてきて、サシェとエンドラが見送りに出たところで上からお呼びがかかったので、今回は意地悪して足音を殺して応接室の方に向かおうとした。

 だが階段を上がりきったところで応接室から出てきたメヌエットがごきげんようしてきて、その見透かしたようなドヤ顔で「京夜のやることなどお見通しです」と口にしてないのに言ってきてイラッとする。シット!

 

「これからティータイムにしますが、京夜の分は必要かしら?」

 

「味の良し悪しはよくわからんが、出してくれるならいただこうか」

 

「私の飲む紅茶が気に食わないなら、それは京夜の舌が平民である何よりの証拠でしょうけど」

 

 相変わらず人をからかうような話し方はイラッとするが、挨拶みたいなものと割り切ることでオレも流しつつ自室に入っていったメヌエットを追って部屋に入り、テーブルについていたメヌエットの向かいの席に椅子を持っていって座る。

 

「その付け襟はなんかのイメチェンか?」

 

「ええ。お姉様のご帰国を祝ってあつらえたのですが、私は実物を見たことがありませんの。何かおかしなところはありませんか?」

 

 対面してからの第一声はまず、女子の変化についてとなんか相場は決まってるらしいので、以前に会った時にはなかった付け襟が東京武偵高のセーラー服みたいな感じになっていたから、その辺を指摘するが、どうやらアリアの帰国はもうメヌエットの知るところのようだな。

 

「どうせなら実物を見て自分で判断しろ。確か写メの中にセーラー服が写ってたのがあったはず」

 

 私服にセーラー服の要素を足したような服装なのでなかなかパーツの違和感が拭えないが、出不精で人ともあまり会わないメヌエットなら別にいいのかと思いつつ、携帯に入ってた理子の勝手に送ってきた写メの1つをメヌエットに見せてやる。

 

「この女性は京夜のガールフレンドですか?」

 

「同級生で悪友だ。メヌとは合わないだろうから、一生かかわらない方がいい」

 

 なにせリュパン家の人間だしな。

 そんなことを知る由もないメヌエットは、ただの確認だったのかすぐ納得して写メのセーラー服を見てから、化粧台の鏡で自分の付け襟を再確認してその出来に一喜一憂。女子だねぇ。

 おおよそ付け襟の出来には満足できたようなメヌエットは、サシェとエンドラがティーセットと茶菓子とクレープを持ってきたところでテーブルに戻り、優雅なティータイムに突入。

 オレにも紅茶が出されたので、とりあえずひと口だけ飲んで2人に美味しいと感想を述べて、それを聞いてから部屋を出ていった2人を見送って改めてメヌエットと対面。

 

「アリアとはまだ会ってないのか?」

 

「ええ。お姉様はいつも忙しない方ですから、私が会いたいと言っても会いに来てくださるのは稀で」

 

「ふーん。まぁそれは『いつものアリア』だったら納得できるが、今回は違うだろ」

 

「そうですね。今回に限ってはお姉様から会いたいと言ってくださってる状況で会えてませんので、その予想は当たってますよ。ですが会えていないということは私にとって『良い方向に進んでいる』ことを意味しますから、寂しくはありません」

 

「…………なるほど。帰国早々に嫌がらせしたわけか」

 

「フフッ。嫌がらせなど可愛いものですよ」

 

 たぶんだが、今回のオレの訪問はメヌエットにとって予測できていた1つの可能性なのは間違いない。

 そこから雑談混じりで聞かれるであろうことも予測済みで、隠す気がないことも今のでわかる。

 

「それで、今アリアはどこにいると推理してる?」

 

「京夜はわかりませんか? ここに来るまでに考える時間はあったでしょうに」

 

「アリアに会えなくてもメヌにとって良いことになるんだろ。となると……アリア経由の間接的にでも自分に得がある事態になることだが……」

 

「ヒントをあげましょう。それは今の私の位にあります」

 

「位……貴族……より上……王族……?」

 

「良い線ですよ」

 

 それでも素直に教えてくれないメヌエットに付き合って思考を巡らせていき、王族にまで辿り着いたところでなんとなくメヌエットが何をしたのかわかる。

 

「えっ、なに、アリアと王族をくっつけようとしてるの?」

 

「京夜も立派に頭を働かせましたね。私はそのようになれば面白いと根回しをしただけですが、京夜でさえお姉様と会えていないのなら、おそらく今頃はバッキンガム宮殿で優雅な日々を送ってらっしゃるのでしょう」

 

「それで会えない、か。一応は聞いとくけど、アリアが帰国した理由についても推理できてるんだろ」

 

「それはもちろん。ですがこうなったならば、1つの解決になっていることになりませんか?」

 

 メヌエットがどう根回ししたのかはわからないが、とにかくアリアと王位継承権のある王子とを巡り会わせて、見た目だけなら超絶美少女なアリアを気に入らせ、そのまま王太子妃にする。

 そうなればメヌエットもアリアの妹だから王太子妃の妹となり晴れて王族の仲間入りとなる。

 よくできた話だが、続けたメヌエットの問いかけには少し理解が追いつかずに首を傾げてしまう。どういうことだ?

 

「はぁ。まぁ京夜ならこの程度が限界なのは予測していました。では小舞曲のステップの如く順を追って説明いたしましょう」

 

 そんなオレを見たメヌエットは優雅に飲んでいた紅茶のティーカップをソーサーに置き、いつもの口上の後に話を始める。

 

「まずお姉様は緋緋神になりたくなく、その解決のために私から知恵を借りようと帰国してくださいました。ですがそもそも緋緋神というのは恋と闘争を好むというではありませんか。ならばその2つの要素をお姉様から遠ざけてしまえば、事は解決したことになると考えられます」

 

「……その理屈だと闘争はわかるが、恋は遠ざかってなくないか?」

 

「あら、私はお姉様にはすでに想い人がいて、その上で殿下と引き合わせたのですが、これはある種の政略結婚。王子からは愛あるものでしょうが、お姉様に果たしてそれはあるでしょうか」

 

「なるほど。って、納得するかアホ」

 

 懇切丁寧に話してくれたメヌエットの謎の説得力はさすがだが、オレも鵜呑みにするバカじゃないので1度は乗ってからツッコむと、やはりツボがわからないホームズ家はクスクスと笑いやがる。

 

「恋と闘争から遠ざけるってのは解決策じゃない。逃げの一手だ」

 

「逃走もまた策ですよ」

 

「それは一理あるが、あのアリアから恋と闘争を遠ざけること自体がナンセンスだとオレは思うぞ。遠ざけても勝手に近寄ってくるから、アリアは緋緋神に適合しちゃったとも言えるわけだしな。王子だってある意味、それに引き合わされたと考えられるわけだ」

 

「京夜にしては説得力のある話ですね。少し感心しましたわ」

 

 とりあえず緋緋神化の脅威を退ける根本的な解決にはなってないのは確かなので、メヌエットが起こした事態では不十分だとそれらしい言葉で否定すると、意外にも受け入れる反応を見せたメヌエットは、しかし余裕を崩さない態度でクレープを頬張る。

 

「私もそんなことで丸く収まるとは思ってませんから、今はお姉様の足掻きを遠目に見て楽しんでいるといったところです。そんな中でも私の元まで来られたなら、知恵を貸すこともやぶさかではありませんわ」

 

「ああそう。要するに『お姉ちゃんを私の元まで連れてきて』と言いたいのか。これはオレへの嫌がらせも含まれてたな」

 

「考えすぎですわ。大切な友人に嫌がらせなんて」

 

 ――フフフッ、フフッ。

 なんか求婚者に試練を与えるかぐや姫よろしくなメヌエットのやり方にはアリアどんまいとしか思えないが、自分の元に来たなら考え直すと言うので、それをオレに言う辺りはやはりそういうことなんだろう。

 それを表すように2人して変な声で笑い合ってこの話は一旦は終了する。これ以上は話しても無駄だろうしな。

 ちなみにこの嫌がらせは「お姉様に協力的な京夜はなんだか気に食わない」とかその辺の可愛い理由なので、この嫌がらせに対する効果的なダメージはアリアを連れてくる他ない。

 まぁ、それでメヌエットがぐぬぬしてくれるなら頑張ってやろうではないか。

 

「今、何やら不純な事を考えましたね。私を見て口角が上がりましたよ」

 

「いや、やっぱりメヌは可愛いなって思っただけだよ。それが不純なことなら、オレはもうメヌを可愛いとは思わないように努力するが?」

 

「そんな努力はするだけ無駄です。それは事実をねじ曲げる嘘になるのですから」

 

「自分で自分を可愛いとか言う子は将来が心配になる」

 

 自信過剰なのか照れ隠しなのかよくわからんメヌエットの言い回しには深く言及するのはやめて、話題を方向転換してみようと部屋をなんとなく見回す。

 しかしそれにはすぐメヌエットのお叱りを受けてしまったが、その中でふと目に入った無駄にお洒落なカレンダーだけはしっかりと見ながら話題作り。

 

「カレンダーに書き込みがあるな。1週間以内には花丸があるし、もしかして誕生日だったりするのか?」

 

「ええ。もうすぐ私も14になりますね」

 

「ふむ。ならなんかプレゼントしてやりたいところだが、何あげても喜んでくれるか?」

 

「それはもちろん物によります。ですが京夜は特別なので、ハードルはかなり低くしてあげますよ」

 

「いやぁ嬉しいなこれで気楽にプレゼント選びができるよぉ」

 

「まったく心にもない言葉ですが、本当に気楽に選んで落胆させないでくださいね」

 

「それはまぁ、期待せずに待っててくれれば最低限にはしたい」

 

 よくよく考えたら記憶力も抜群のメヌエットがカレンダーに印なんて必要ないので、カレンダー自体はあっても不思議はないが、印についてはオレに気づかせる目的だったことに思い至る。

 それでまんまと誕生日ネタに食いついたオレと嬉しそうに話すメヌエットは、期待してないとか言いつつも初めてであろう友達からの誕生日プレゼントを楽しみにする女の子そのもの。

 表情にこそほとんど出ないが、必要以上に言葉を発しないのはオレをこの段階で萎えさせないための注意ってところか。口は災いを呼ぶからな。

 

「プレゼントの件は了解した。それと言い忘れてたが、近いうちにエル・ワトソンってやつがアポイントメントを取りに来ると思うが、話くらいは聞いてやってほしい」

 

「ワトソン家の長男ですわね。旧知の家系ですし、門前払いにはいたしませんよ」

 

「あとアリアのパートナーの遠山キンジも来てるが、あんまり邪険にしないでやってほしい」

 

「京夜はお願いばかりですね。友人の頼みですから聞き入れるのはいいですが、私からも何かをお願いしてもいいのですよね?」

 

「そうくると思ったよ。ただ2日くらい待ってくれ。準備に時間がかかる」

 

「……私はお願いがしたいのであって、何かをしてほしいわけでは……」

 

「まぁまぁ。メヌのお願いなんて難題の確率が高いしオレも勘弁したいところ。だから今回はオレのおもてなしで手を打ってくれ」

 

 とにかくこれでメヌエットを気持ち上向きにはしたので、もののついでみたいな感じで今後のワトソンとキンジのコンタクトをやんわりソフトなものにする手回しをしてやった。

 が、やはりお願いを聞いてばかりはメヌエットも気分が良くないので、オレもそうくることを予測してすでに手は打ってある。

 そうやって妙に先回りしてごり押しするオレにメヌエットは怪しい視線をぶつけて腹の内を探りに来たものの、オレが先日にやったクレープサプライズが効いてるのか、その最後の1つを食べてから「まぁいいでしょう」と妥協してくれた。

 

「さて、そろそろ次の客人が来ると思いますから、今日はもう帰りなさい。次に来る時はこちらからメールを送りますから、それを待ちなさい」

 

「それまでには準備しておけってことか。了解。邪魔したな」

 

 そこで丁度ティータイムも終わりのようで、紅茶を飲み干したメヌエットは事務的にそう告げてオレを帰そうとするので、忙しい中で時間をくれたメヌエットに感謝しつつ、最後に応接室まで車椅子を押してやってから別れた。

 

「さってと。次はこっちだが……」

 

 サシェとエンドラに見送られてから、とりあえずキンジ達と合流しようとメールを入れておき、奇跡的に羽鳥からメールの返事が来ていたのでその内容を見てみる。

 それによると羽鳥は今、ドイツのベルリンにいるらしく、ロンドンに戻ってくるのは来月3月になるとのことで、滞在中に会うことはできなさそうだった。

 しかし宿泊先については羽鳥の使ってる拠点の使用許可が下りて、リバティー・メイソンの息がかかってるものの、これで生活には困らないだろう。

 その代わりに部屋の掃除をやってほしいと頼まれたが、嫌な予感がヒシヒシとするなこれ。

 あんまり贅沢を言うとバチが当たるので、愚痴は実際に行ってみて改めてするとして……うげっ、小雨が降ってきやがった。早くもバチが……

 と、そんなタイミングで今度はワトソンから電話がかかってきたので、適当なところで雨宿りをしてからそちらに応じる。

 

「アリアとは会えたか?」

 

『会えたには会えたが、トオヤマが拗ねてしまった。一時的なものだろうけど、僕も至らなかった』

 

「おおかた王子にアリアを取られてってところだろ」

 

『その口ぶりだと、サルトビはもうアリアがどこにいるか突き止めたわけだね。さすがジャパニーズ忍者だ』

 

「とにかく今はメヌエットとコンタクトするのが先決だろ。アリアはアリアで何とかするだろうし、1つずつ状況を良くしていくぞ。とりあえず迎えに来てくれ」

 

『その通りだね。今どこにいるんだい。行き先はもう決まってる?』

 

 何をどうやってアリアと会えたかは合流してから聞くとして、今の状況はだいたい把握したので、言葉通り1つずつ片付けていくしかない。

 そうしたポジティブさがワトソンにも伝わったのか、少し沈んでいた気持ちが上向いた声が返ってきたから、オレもなるべくはベイカー街から離れた場所に移動してそこを合流地点にした。まだメヌエットとの関係は勘づかれたくない。

 

「ここがそうっぽいね」

 

「サンキューな。今日はオレも休むから、ワトソンも気を張りすぎるなよ」

 

 ワトソンと合流してすぐに羽鳥の拠点へと足を伸ばして、キングス・クロス駅の東側すぐ近くに建つアパートに辿り着き、送ってくれたワトソンはオレを降ろしてから「本当にあのフローレンスが協力的なのが不思議でならない」とか言い残して行ってしまう。オレもそう思うよ。

 話はすでに通してあるという大家さんから部屋の鍵はすぐに渡され、案内された部屋の前まで来て覚悟を決め扉を開ける。

 

「ぐっ……さすが羽鳥……いや違う。クソ羽鳥が……」

 

 事前に注意はあったのでかなり警戒していたが、入った部屋はあまりにもあれな感じだったので、ついここにいない羽鳥に悪態をついてしまう。

 そこはゴミ屋敷。とは言わないが、あまりにも整理整頓のされていない部屋。とてもではないが人が住める環境にはなかったのだった。

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