緋弾のアリア~影の武偵~   作:ダブルマジック

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 翌朝。

 早起きなオレよりも早く起きて朝食の準備をしてくれたリサは、いつもより割増で調子良さそうだったので、オレとの添い寝は想像以上に快眠だったと見える。

 それならオレもちょっとだけ苦悩した甲斐はあったかなと思いつつ、リサの作った朝食でエネルギー摂取。やはりメイド。美味い。キンジ殺す。

 

「メヌエットの家まではオレが送るが、そこからはご主人様に守ってもらえよ」

 

「はい。猿飛様のエスコートなら安心して外を歩けますね。よろしくお願いします」

 

 半ば押し付けられたリサではあるが、こうしてお世話になった分は返さなきゃ悪いので、これから行くメヌエットの家までの護衛は受け持つが、やけに信頼を預けてるリサの笑顔は謎だ。リサに対して特別なにかしたことはないんだが。

 

「ああそうだ。メヌエットは基本的にお世辞は通用しないから、接する時は思ったままを口にする方が穏便に済むと思う」

 

「猿飛様はメヌエット様とすでにご面識があるようですね。ご主人様の命令が優先されはしますが、ご助言、痛み入ります」

 

 まぁ深く考えたところで仕方ないことなので、朝食ついでにこれから会うメヌエットの取り扱い注意を1つしてやり、余計なおせっかいなのは承知でスーパーメイド、リサを強化しておく。これもキンジへの貸しにしておこう。

 朝食を食べ終えてからは、キンジに呼ばれてご機嫌のリサに急かされて少し早くアパートを出てバスを利用しベイカー街へと赴き、見てるこっちまで幸せな気分になるスキップを披露するリサの護衛はあっという間に終了。

 メヌエットの家に着いて意気揚々とチャイムを押したリサは、出迎えたサシェに連れられてすぐに中へと通されていき、2人に一礼されたオレはそこでお役御免なので、今後のキンジとリサの働きに期待しつつ今日もバッキンガム宮殿に向かった。

 

「日本だとそろそろ夕方だが……」

 

 今日も今日で大した成果がない感じがプンプンする朝9時頃。

 それでも何もしないと怒るだろう人物の顔を浮かべながら、当人のいる日本の時間を計算する。

 そんなオレの内心を察したように、絶妙のタイミングでその当人から電話がかかってきて、もしかしたらロカが超人的なにかで知らせたのではとかアホなことを考えてから通話に応じる。

 

「どうかしたのか?」

 

『どうかしたのかではない。お前が色々と調べるように言ってきたのだろう』

 

「そりゃそうだ」

 

『帰ってきたらその態度を改める躾をしてやる』

 

「鞭で? キンジのように?」

 

『……ガルニエ宮でのあれも見ていたわけか。その通りだ』

 

 なんか久しぶりな感じがしないでもないジャンヌは、オレの反応に少しイラッとしてるのがわかるが、携帯越しではどうにもならないからか、それだけ言って切り替えて話を本題に移す。

 

『これから橘を連れて確認に行くのだが、お前の方からも応じないのか?』

 

「一応は何度か電話したが、向こうもこっちの行動を察してるんだろうな。だから頼む」

 

『察しているということは、核心に迫っているという証拠にもなるが、やはり確実な情報にすることが重要だな。戻ったらまた連絡するが、そちらも監視は怠るな。お前の判断で今後の作戦が実行されるかどうかが決まる』

 

「わかってる。まぁ前提からして不穏さは拭えないから、あまりスムーズに進んでほしくはないが」

 

『ポジティブな結果かネガティブな結果かはさすがに京夜の努力でどうにかなるものではないかもしれんが、できる最善をしてやれ。それに文句を言うほどあれも人間として出来てないわけではないだろう』

 

 話をする時に言葉を選んでる感じがわかったので、近くに小鳥がいるっぽいことを察して、オレも通話が漏れてもいいように言葉を選んで話を進め、着実に進行している作戦を成功に導くべく、オレも気を引き締め直してからジャンヌとの通話を切って、その報告を待ちつつ今できることを全力でやる。

 が、その腰を折るようにまたも通話の着信があって、誰かと思えば幸姉。

 まだ贈り物は届いてないはずだが、文句なら聞いてやらないと思いつつ通話に応じる。

 

『おっすおっす。声を聞くのはちょっとぶりぃ』

 

「いいのかよ。仕事で死にそうってメールにあったが?」

 

『死地は脱したわ。それよりこの前のメールで変な確認してたけど、また面倒なことに首を突っ込んでるでしょ』

 

「まぁな。だが無策ではないよ」

 

『やれないことはやらないのが京夜だし心配はしてないけど、なんか引っ掛かったから報告だけはしておくわ』

 

 想像よりも真面目だった幸姉にちょっと拍子抜けは食らったが、相変わらず勘は良いのでオレの現在の状況もなんとなく察した――送り先の住所もメヌエットの家にしちゃったし――上で何かを知らせるために電話をしてきたようだった。

 

『仕事柄で日本から物が出たり入ったりは割と耳にするんだけど、なんか呉に預けてたっぽい「アレ」がずいぶん前になくなってたらしいわ』

 

「呉? 広島の? アレって何だよ」

 

『イ・ウーの原潜』

 

「…………」

 

 ずいぶん軽い感じでサラッと凄いことを言うもんだから、完全に反応に困って沈黙したが、イ・ウー解散後にその拠点だった原潜がどうなったかを今更に知ったオレからできる反応なんてたかが知れている。

 

『私もアレがどうなったかは知らなかったんだけど、噂ってのはどこから出てくるかわからないものだからねぇ』

 

「呉か……そういや修学旅行Ⅰの時にアリア達が行ってたし、信憑性はあるな。んで、なくなってたってことは、盗まれたってことだよな」

 

『あんなもん盗めるやつなんて考えるだけ馬鹿らしいでしょ。だから報告。ロンドンにいるならお友達のメヌエットにでも伝えなさい。小躍りして喜ぶわよ』

 

「嫌な話だな。了解」

 

 幸姉の話を聞いてから、妙に聞いたことある地名だなと思い出し、噂の信憑性についてほぼ確定情報をして処理。

 あんなデカい原潜が『いつの間にかなくなってた』なんて怖い話、にわかには信じがたいが、生憎とそれができてしまうだろう人物がオレと幸姉との間で完全に一致。

 最後にオレの答え合わせをするようにメヌエットに触れた幸姉は、これからまた忙しくなるのか、割とあっさりと通話を切ってしまい、また面倒なことを知ってしまったオレは、それも踏まえて今後の行動をしていったのだった。

 2日後。

 特にこれといったこともなかったが、どうにか進展したジャンヌからの報告で作戦の方は着々と確実性が増している。不確定要素の方がまだ多いけど。

 この調子だとちょっとのんびり進行だが、緋緋神の問題も絶賛停滞中だし、何か起きてほしいとか不謹慎なことを思い始めた今日この頃だった。

 

『いいから来なさい』

 

「しゃらくせぇ」

 

 何でかこのタイミングで問題しか運んだ試しがない夾竹桃から電話がかかってきて、ゲッソリしながら通話に応じたのだが、何故か携帯越しの相手は夾竹桃ではなくメヌエット。

 何が何やらな状況でさらに謎の上機嫌なメヌエットがウフフ、オホホのこの上なく気持ち悪い感じだったこともあって、友達に紹介したいとか言うのにとりあえず落ち着こうと反抗してみたんだが……

 

『20分以内に来なかったらこの世から消しますよ?』

 

「オーケーわかった。オレが着くまでに謝罪の言葉を推理しておけ」

 

 互いに冷静になっていつも通り? なやり取りのあとに通話を切って、言われた通り今いるというカフェに全速力で向かっていった。

 

「お前……何したんだよ……」

 

「お前こそどうしたんだよ」

 

 20分という絶妙にギリギリで間に合う時間を指定したメヌエットに戦慄しつつ、どうにかメヌエットのいるカフェまで息を荒くして辿り着いたはいいが、その近くにキンジがアホ面を晒してベンチに座っていたから、挨拶がてら八つ当たり。

 

「お嬢様が大層な上機嫌でお友達を紹介したいそうでお呼ばれしたんだが、来るのを強要された」

 

「お、おう。なんか知らんがお疲れ……って痛っ! 何で殴る!?」

 

「他人事じゃねーんだよバカキンジが」

 

 何をどうやってもメヌエットがカフェに行くことなどないので、ここに連れてきたのはキンジで間違いない。

 さらに意味不明な夾竹桃の携帯でメヌエットが電話してきた理由は、紹介したいとか言ってた相手が夾竹桃だということをカフェの前に来て判明。

 これらから考えて、以前にメヌエットが言っていた友人が夾竹桃である可能性は高いが、どんな接点で知り合ったんだ。

 そんな疑問も残りつつ、オレに少しでも汗をかかせる原因を作ったキンジに一撃お見舞いしてからカフェに入って、優雅にアフタヌーンティーを楽しんでいたメヌエットと夾竹桃の席の前まで行くと、後ろ姿のメヌエットはわからんが、正面から顔を合わせた夾竹桃は眉をピクリと動かして「2人の時間を邪魔しやがって」みたいな空気を放ち始める。じゃあ今すぐにでも帰りますけどね!

 

「あら京夜。15秒前に到着なんて、紳士として恥じなければなりませんね」

 

「5分前行動ができなくて悪かったな。こちとらいきなり呼ばれて来てやったんだから、紅茶の一杯でも奢ってもらって然るべきではあるが?」

 

「呼んで差し上げたのにその言い草。素直に喜べば紅茶くらいお出ししたのに、最も残念な返事でしたわ」

 

「なら帰るわ。お友達とやらにもオレの紹介は済んだろうし、女子2人の方がトークも盛り上がるだろ」

 

 そうしたオレと夾竹桃のやり取りに気づいてないのか、呑気な雰囲気のメヌエットは隣まで来たオレに向き直ってらしい言葉で会話をするが、こうした態度のオレに本気の怒りを見せない辺りでそのご機嫌はうかがえる。

 夾竹桃もオレが帰ると聞いてあからさまに「あら残念」と心にもない表情でほくそ笑んでいたが、なんか自分の気持ち優先なのかメヌエットは気づかない。

 

「紹介はまだ済んでないでしょう。いいから紅茶の一杯だけでもいただいていきなさいな。モモコ、こちらが話していた私の数少ない友人、猿飛京夜よ」

 

「…………ええ、よく知ってるわ。幸音の腰巾着だったのだもの」

 

「……鈴木桃子様は何用でロンドンまで?」

 

「お友達に会いに来たのよ。そのついででロンドン観光もしていくけど」

 

「あら、2人ともすでに面識があったのですね。世界は広いようで狭いと言いますが、私の友人同士も知り合いだったなんて、素敵な偶然ですわ」

 

 自慢の推理力が著しく低下中なのか、明らかに仲は良くない雰囲気のオレと夾竹桃を和やかな雰囲気で包み込んでくるメヌエットが年相応すぎて、オレも夾竹桃もなんか険悪な空気を放出するにできなくなる。

 それが狙いだったかは知らないが、オレも言われた通りに紅茶を一杯だけご馳走してもらって、その間にどういった経緯で自分達が知り合ったかを話して3人の仲を深めたような深めてないような。

 メヌエットと夾竹桃はネットゲームで知り合って今日が初めてのリアルでの対面だったらしく、色々と嘘で塗り固めていた――プロフィールとか色々だ――ことも正直に話して今に至ると聞いた。

 続けてオレと夾竹桃の話もしたが、イ・ウーのことに触れるのはあれなので、幸姉経由の知り合いで軽いコンタクトだったと口裏を合わせた。嘘は言ってないし。

 とりあえず目的だった自己紹介は終えたので、わざわざロンドンまで来てガールズトークをする夾竹桃の意思を尊重してオレは退散。

 メヌエットも女友達だからできる話を優先したいからか咎めもせずに見送ってくれたから、退散ついでに本当のことは言っておく。

 

「メヌ、たぶんだがオレと桃子は互いに互いを好きじゃない。だから今後はブッキングをしないでくれ」

 

「私からも頼むわ。彼が、というよりも私は男という生物が苦手なの」

 

「私も男は嫌いですよ。ただ京夜は特別というだけで。でも2人共がそう言うなら、今後は同時に会わないよう取り計らいます。京夜、来てくれてありがとう」

 

 おそらくはこんなことを言わずとも、この3人が同時に顔を合わせることなんて皆無だとは思うが、ないとも限らないので可能性はなくしておく。

 そうしたオレと夾竹桃の関係を友人として少し残念そうにはしたが、世の中には合わない人間ってのはいるもの。

 それがわかってるからメヌエットも「仲良くしてほしい」とは言わずに進言を受け入れた。別にオレも夾竹桃が嫌いなわけではないし。羽鳥と違ってな。

 

「いつからだよ」

 

 カフェを出てすぐに待っていたキンジがここまでの様子からメヌエットとの関係を見抜いて質問をしてきた。

 

「極東戦役の停戦協定が組まれてすぐだから、1ヶ月くらい前」

 

「何で黙ってた」

 

「それを知った上でオレが介入したら、事はスムーズに行ったと思うか?」

 

「…………いや、思わないな……」

 

「黙ってたのは悪いとは思うが、お前はオレに感謝しておけよ。たぶんだが、お前の無礼の1つか2つはオレのおかげで許されたんだからな」

 

「……そういや初対面の時に礼儀がなってないとか言われてから『これでお願いは聞きましたから遠慮はしません』って言われた気が……」

 

 ――早ぇなオイ。

 オレがメヌエットと知り合いなのを黙ってたことに怒ってたっぽいキンジだが、これもメヌエットと会ってその性格はわかったからオレの言葉で冷静に納得。

 しかしオレが事前に張ってやった予防線が出会い頭で破られてるとは思ってなかったから、予想以上にバカを出していたキンジに再度グーパンを入れてやるのだった。

 それからさらに何日かが経ち、オレとメヌエットが友人関係であることが割と公になって、キンジ達と初めてのロンドン観光に出た。

 オレ、メヌエット、キンジ、リサ、ワトソンというちょっとした所帯で、物知りなメヌエットの案内でアビー・ロードまでやって来て、かの有名バンドのレコードのジャケットのように道に並んでみたりと観光っぽいことをして割と楽しんでいたのだが、そんなオレ達を明らかにマークしていた停まり方だった高級車から、白スーツに目元を隠すサングラスをした男が降りてきて、潔癖なのか手袋をした上で外気を直接吸わないようにハンカチを鼻に当ててオレ達を見る。

 

「この辺りは車通りが多く、臭くてかなわん。おい、お前たちが来い。余は、このような汚れた場所でなくとも歩きたくない。グズグズするな」

 

 誰だあの偉そうなやつは。

 と思ったオレの疑問に隣のキンジが「ハワード……!」とか反応して、すぐにメヌエットに手をつねられたことで解決。

 ワトソンやメヌエットの驚くような、おそれ多い雰囲気からもわかるが、オレもただロンドンでのほほんと過ごしていたわけではない。

 彼が噂の殿下。アリアの婚約者になろうとしてるハワード王子なのだ。街で話だけ聞いていたから、実物を見るのは初になる。

 その王族の命令とあって、メヌエットもワトソンも尻尾を振るように動こうとしないハワード王子に近寄っていき、オレとキンジとリサもとりあえずそれについて近寄る。一応は日本だと皇族と会ってるに等しい状況だ。

 

「――キンジ。余はお前の事を聞きにきた」

 

「話す事はないね」

 

 1度は面識があったような突然のやり取りにメヌエットとワトソンが揃ってキンジを睨んだが、キンジが無礼な人間なのは学んでるハワード王子もいちいち反応することもなく、今回のお忍びでの外出についてを話す。

 それによるとアリアを嫁にして王族にするが、アリアの過去でキンジと関わっていたことがマイナスになるから、手切れ金を払うからアリアとの関係を絶ってほしいという最大限の譲歩と秘匿のため。

 当然ながらアリアと2度と関わるなと言われて了承するキンジではないので、チラッと見えた手切れ金の額に目が飛び出そうになったものの、よく見てないキンジは断り「お前は嫌いだ」と言葉を足して突き返す。

 あまりの無礼にメヌエットもワトソンもフォローに回ったが、自分にこうまで楯突く輩が初なのか、愉快そうに笑って同じようにキンジを嫌いと言えば、今度はお金ではなく原始的な決闘という形で物事を決めようと提案してくる。

 お世辞にも喧嘩が強そうには見えないハワード王子に啖呵を切るキンジは即決でやると言うが、それで互いの了承が取れた瞬間、オレはメヌエットの車椅子を引き、リサの襟首を引っ張ってオレよりも後ろに下がらせる。

 

「な、なんですか京夜!」

 

「どうなさいましたか、猿飛様……」

 

 そんなオレの珍行動にメヌエットは怒り、リサは首をかしげたが、それとほぼ同じタイミングで横を通ったバスの影がなくなった瞬間、キンジの隣に1人のイギリス人男性が立っていた。

 

「王子。お戯れも、その程度に」

 

 直前にハワード王子が決闘には代理人を使うと言っていたので、突然に現れたこいつがその代理人なのは間違いないが、キンジもワトソンすらもその出現に気づかないほどの移動と気配のコントロールは只者じゃないどころではない。十中八九でヤバい奴だ。

 

「武偵・遠山キンジ。新進気鋭の有望株に会えて、嬉しく思う」

 

 遅れる形でキンジとワトソンが警戒する中、ダークグレーのスーツを着たそいつはキンジと同じ視線でハワード王子の方を向いたまま口を開き、次いでいち早く察知し備えたオレにはちゃんと視線を向けてくる。

 

「それから影の陰、だったな。お前は今後、私達とも『友好的であるべき』だ。そのまま女を守っていろ」

 

「……友好的であるべき?」

 

「誰だお前」

 

「ボンド」

 

 この場にいるだけで異質さを放つ男は、オレに意味深なことを言ってからキンジに問われてようやく名乗るが、それだけでなんとなくわかった。

 

「サイオン・ボンド」

 

 そして確定したものにするように姓名を名乗り直したサイオンは、イギリスのためなら殺しも許されたMI6。

 その中で00セクションと呼ばれる数人しか存在しないと噂のナンバー7だと自ら名乗ってきた。

 

「人類最強の中の1人、か」

 

 00セクションなど、敵にした時点で死ぬとさえ比喩されるほどの強さを持つのはこの道では有名。

 当然、オレなどサイオンの敵にすらならないが、だからこそ先程の言葉が意味を持つわけだ。ここで敵対すれば、オレの人生はその時点で終わる。黙るしかない。

 しかしこの渦中にいるキンジはそうもいかない。

 ワトソンは疑うように007がサイオンのような若者ではなかったはずと言うが、最近に世代交代を済ませたと即答するサイオンは、その先代の養子だと説明。

 ハワード王子も最年少で00セクションとなったサイオンを使ってみたかったと漏らし、ちょっと私情が見えたものの、出てきたからには事を収めるにはキンジが決闘するか、ハワード王子を説得するしかない。だが決闘すればキンジは殺される可能性がある。分が悪すぎる。

 

「――トオヤマ、逃げろッ! 殺されるぞ!」

 

 それをよく知るワトソンがいち早く動いて体に仕込んでいた暗器でサイオンに飛びかかって時間稼ぎをしようとするが、ワトソンを敵とすら認識してないサイオンはこれを不思議な体捌きで避けてカウンター気味に側頭部を打たれて失神させられる。

 

「ご主人様!」

 

 その光景にいよいよヤバい空気が満ちてきたところで、勇敢なのか無謀なのか、控えさせていたリサが飛び出してキンジを庇うように抱きつく。

 そんなリサに威圧するように退けと言い放ったサイオンに臆しないリサは抵抗したが、次の瞬間にはサイオンが何の予備動作もなくいきなり地面に向けて威喝射撃をし、コンクリートを抉る。

 そのコンクリート片の1つがメヌエットに飛んだので、咄嗟にキャッチしつつ今の威嚇射撃の凄さを遅まきに理解する。

 銃を撃つという動作は誰でも直前に「撃つぞ」という気配を放つものだが、サイオンはそれが一切なかった。

 それはサイオンにとって発砲が「呼吸するのと同義」であることを意味し、それほどまでになる訓練を積んだ証拠でもある。

 これほどの危機感を持つ人物と対面するのは、おそらくシャーロックや第3態のヒルダ、閻くらいだと思うが、人外クラスと肩を並べてる時点でおかしい。

 ――ヤバいぞこれ……どうしようもない……

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