まだ肌寒い日もある3月の終わり。
学校やったら春休みとかそんな時期やから、昼をちょい過ぎたくらいやけど街を歩く子供の姿がちらほら。
新学期の準備に忙しいんは新入生やら親が大半やから、在校生は割と気楽なもんやけど、自分にもそないな時期があったようななかったような、グレてた頃の記憶やから曖昧なもんや。
そうやって物思いに更けたりとあるのは、あたしがいま向かっとる場所にあるんやろうな。
仕事がない日に合わせてもろて、約束通りに電車に揺られてやって来たんは、大阪の中心、大阪市の北にある吹田市。
そこの南千里駅で降りて東に歩いとった最中。
すぐ近くには万博記念公園もあるところやけど、向かっとるんはそっちやなくて、そこより南に位置する高野公園。
隣接するんは住宅街なんやけど、その一角にどっしりと構えとる道場があって、その道場の前までなんとか来ることはできた。
できたんやけど、目的地ではあるその道場の門をどうしても潜れんで立ち往生しとったあたしは、端から見たら変な女なんやろうな。
そうやって3分くらい門の前で立っとったら、同じ目的地に辿り着いた男があたしに気づいて盛大な舌打ちをしてくる。
「……ちっ。何でお前が来とんねん、千雨」
「あんたこそ、何で今日に限って来とんねん、秀二」
近寄ってきたあたしの親戚で同い年の沖田秀二は、武偵高時代に会ったっきりで4年ぶりくらいになるわけやけど、向こうも卒業後はプロ武偵として大阪で活動しとるみたいな話は聞いとる。
やから今も腰には刀が1本差してあって、着てるもんもそれなりに高価な防弾性のやつやな。
「何でって、俺は兄貴に呼ばれて来ただけで、俺はお前が来とる方がビックリや。破門された分際でこの門を潜れると思とんのか?」
「それは……」
まだ秀二とは関係が良くないこともあって、互いに反発気味になってもうてるけど、兄さんに呼ばれて来た言うのは気になるな。
何故ならあたしも今日はその兄さんに呼ばれて来とるんやから。
そしてこの道場はあたしが破門になった沖田の家がやっとる剣術道場であり、秀二の実家っちゅうことになる。
やから秀二も私に対して帰れと言うような口調で睨んでくるけど、あたしも兄さんに会わずに帰るわけにはいかへん。どないな覚悟で来たと思とる。
でもそうやって2人で門の前で騒いどったから、声を聞きつけた兄さん。沖田秀一が門を開いて出てきてしもて、いきなりの兄さんの登場にあたしは挨拶のひとつも出来んくなる。
「2人とも来とったんならさっさと入らんかい」
「兄貴、何で千雨なんて呼んでんねん。聞いとったら絶対に来んかったのに……」
「お前ならそう言うやろと思たから言わんかったんや。今日は2人が揃わな意味がなかったからな」
話の全容が全くわからんのは秀二も同じみたいで、何をするつもりなんかわからんから、あたしも秀二も揃って兄さんを見てしもたけど、そんなあたしらを半ば無視してまずは道場に入れと強引な兄さんに促されて、10年ぶりくらいに門を潜ってあっさりと道場に入ってしもうた。あたしの苦労はなんやったんや……
あたしが破門になっとることは当然、兄さんも知っとるのに、わざわざその道場に引き込んできたからには何か重大な話があるんやろうと、秀二と嫌々ながらも兄さんの前に並んで正座して、とりあえず喧嘩もせずに黙っとるあたしらに笑顔を見せた兄さんは、いきなり本題には入らずまずはジャブを仕掛けてくる。
「それにしても千雨は大きなったな。最後に会うたんが11、2歳の頃やったから当然っちゃ当然やけど」
「ぜんぜん成長してへん部分もあるけどなぁ」
「ぐっ……せ、精神的にガキなままよりはエエと思とるけどなぁ」
「なんやと!」
「なんやねん!」
久々に会うた兄さんに成長を褒められたから頬を緩めとったら、横からなんやあたしのおっぱいを見ながら糞なことを言うてくるアホのせいで台無し。
デリカシーの欠片もない秀二は思春期のガキみたいな部分が相変わらずやから、すかさず仕返しして口喧嘩になりかけたんやけど、それを兄さんが制してくれる。
「ホンマお前らはいつの間にそないに仲が悪なったんや。俺が師範代やっとった頃はエエ感じで競っとったのに」
「千雨がこの道場の剣術で暴れて破門になってからや。兄貴が大事にしとったこの道場の評判を落としおって最悪やったわ」
「あれは……兄さんを……」
バカにしたやつらをこらしめただけや!
そうハッキリと言うたれば良かったのかもしれんけど、それは当時に何度も言うて全く受け入れられへんかった、子供の癇癪で片付けられた真実。
やからあたしがここで何をどう言うても秀二には言い訳にしか聞こえへんのやろうし、兄さんに話したとしても責任を余計に感じさせてまうことになる。
ただでさえ兄さんには監督不行き届きっちゅうレッテルを貼ってしもてるから、これ以上は迷惑をかけられへん。
「とにかくや。俺は千雨を許すつもりはあらへんし、武偵として立派に活躍しとっても、この道場の名を汚した事実は消せへん」
「別に秀二に認めてもらうために武偵をやっとるわけやないし」
「これは思うとったより重症やな……」
そんな感じやからあたしと秀二の溝は深まるばかりで、それを憂いた兄さんもなんや深刻な問題やと頭を悩ませてしもて、何で兄さんがそない悩む必要があるんやと思っとったら、ようやく本題に入ってくれた兄さんのおかげでそれがわかる。
「実はな。2人に大事な話があるんやけど、その前に2人には仲直り、までとはいかへんでも、顔を合わせたら喧嘩するような関係からは脱してほしいって思っとってん。2人とももう大人になる時期に来とると俺は思うから、子供の喧嘩は今日で終いにして、俺に気持ちよく話をさせてくれや」
あくまで本題の本題は伏せたままやけど、その前に兄さんはあたしと秀二を仲直りさせるのが目的やったことを話してくれて、話してから立ち上がって、壁に掛けてあった木刀を2本取り出して、あたしと秀二に1本ずつ投げ渡してくる。
それを難なくキャッチしたあたしと秀二も立ち上がって、これから兄さんが何をさせようとしとるのかを悟って互いに素足になってから距離を取って構える。
「勝っても負けても恨みっこなしや! 互いを許せなんて簡単やないことは言わん。ただ積もり積もった思いの丈をその剣に込めて撃ち合え! 俺が用意してやれんのはここまでや」
「おおきに兄貴。あれ以来、千雨とはガチで撃ち合うとらんから、ここらで格の違いってやつを叩きつけたる」
「……悪いんやけど、私闘で負けでもしたら、ウチのリーダーがネチネチ言うてくるのが目に見えるから、負けるつもりはあらへんよ」
今さら話し合いで仲良しこよしなんてできへんのはあたしも秀二も兄さんでさえわかってしもたんやから、やるならこうした強引な方法しかあらへん。
そんなことはずいぶん前からわかっとったのはあたしと秀二も同じやったけど、同じ空間にいることさえ嫌がっとったあたしと秀二じゃここまで来ることさえできへんかったから、マジで兄さんには感謝や。
そう思いながら木刀を構えた秀二には悪いんやけど、今のあたしは二刀流。構える前に壁に掛けてあった木刀をもう1本取り出してから、すっかり様になった左の木刀を前にした中段で2本を構える。
その様子に兄さんはちょっと寂しそうな表情をしたのが見えてしもたけど、今は気にしとる余裕もないから目の前の秀二に集中して、待ちは性に合わんとあたしから仕掛けていく。
「──フッ!」
我流で身に付けた二刀流やけど、これで秀二と撃ち合うんは初めてのことで、プロ武偵として活動し始めた秀二の成長の度合いも未知数。
初撃は防御されることを前提とした所謂ジャブで、左から放った袈裟に振り下ろす一撃を秀二は冷静に木刀で受けて止め、その際に開いた左脇へと右の凪ぎを鋭く放つ。
お互いに防弾・防刃性の服やから割と遠慮がない攻撃やけど、迷いのないその凪ぎも見切って左の木刀を捌いてわずかなバックステップをし、紙一重で躱した秀二は、すぐに間を詰めて互いに剣を振るえない間合いにまで接近してきて鳩尾に肘をねじ込んで昏倒を狙ってくる。
それをあえて当たりにいくことでインパクトをズラしてダメージを抑え、密着した秀二の脇に木刀を握った拳を数発ぶち込んで反撃。
意外と痛かったのか、すぐに力技で押し返して距離を取りにきて、互いにちょっと咳払いでダメージを確認。ぜんぜん余裕や。
「手数だけで何も怖ないな、二刀流っちゅうんは」
「言うとるけど、使わさへん間合いに詰めてきたんは嫌っとるからやろ? バレバレやで?」
「ちゃうちゃう。今のはあの間合いでお前が何してくるんか試しただけや。両手が塞がっとるとできることも少ないんやろ?」
昔やったらあたしの方が笑って相手して、秀二は必死な顔して食らいついてくるような関係やったけど、今の秀二はなんやえらい自信に満ちた感じでちょっと癇に障るわ。
中等部時代までは学舎が同じやったから見ることもあったけど、あの頃にもなかったこの自信は、おそらく大阪武偵高に在学して以降のどこかで付けたもの。
それでも力関係までそう易々と覆せはしないと思っとる。
あたしかてのらりくらりとやってきたわけやないし、それは実績にも繋がっとる。
せやけど秀二は余裕の態度を崩さずに、今度は自分から仕掛けてきて、上段からの振り下ろしで攻めてくる。
ただの上段と侮るには鋭いその一撃は、受けるにも重そうなんは瞬時に理解して、摺り足で横に動くことで回避。
すかさず振り下ろされた木刀を右の木刀で上から押さえて動きを制限して、左の木刀を膝の裏へと撃ち込んで崩しにかかる。
「ふんっ!」
崩したら間髪入れずに右の木刀を喉に押し当てて強引に倒して終いにするつもりやった。
けど秀二はあたしの左の木刀を振るう手首を木刀から放した右手で掴んで止めて、右手だけで持っとった木刀を滑らせてあたしの右脇に入れると、掴んだ手首を下に引いて木刀を強引に振り上げてあたしの体をぐわんっ!
合気道にも似た力で浮き上がらせて床へと倒してきた。
幸い何が起きたかを知覚はできたから受け身を取れはしたんやけど、そん時に右の木刀を捨てなあかんくなって、秀二の追撃を避けるために距離を取ったせいで木刀は手の届かんところにいってしもた。
「それが我流の限界や、千雨」
「なんやて?」
木刀を1本失ったせいで、必然的に両手持ちの構えになったあたしに対して、なんや上から目線の秀二が言うてくる。
我流の限界? なんやそれ? 我流が悪いみたいな言い方が気に食わんな。
どんな剣術や体術も、元を辿ればみんな我流が流派になったに過ぎひん。
それが後世に残ったかどうかの違いだけやろ。
秀二の振るっとる剣術も兄さんから教えてもろた天然理心流がベースになっとるけど、今の体捌きとかは独自のアレンジが入っとる我流。
言うてることとやっとることが合うとらんねん。
「言うて秀二かて我流みたいな動きしとるやろうが。そやのにとやかく言われる筋合いないわ」
「何もわかってへんな。俺は兄貴から教わった天然理心流を誇りに思とる。やからそれをリスペクトした上でアレンジしとんねん。やけど今のお前はなんやねん。見てて苛つくわ!」
実際にそれを口にしてみると、急に怒り出した秀二に面食らってしまったあたしは、何がそないに苛つくのかわからずについ見守っとる兄さんに視線を向けてまう。
すると兄さんもなんや秀二に賛同するような目であたしを見てきて、その視線の意味がわからんあたしは頭が混乱しかける。
その隙を突くようにまた突貫してきた秀二には不意打ちもエエところやろと思いつつも、心許ない木刀の1本を握りしめてそれを迎撃せなあかん。
力ではもう男の秀二に勝てへんのはしゃーないけど、実力では負けたなかったあたしは、再び振り下ろされた上段からの一撃をバックステップで躱して、持ち味である空間認識力で道場の間取りを把握し、追撃してきた秀二に追われる形で壁を背にする寸前に振り返ってその壁を蹴ってパルクールの真似事をして秀二を飛び越えて背後を取る。
それでも背後を取れたんは一瞬で、意表を突いたわけでもない秀二は、あたしの飛び越えに合わせて体の向きを変えてしもて、着地と同時にまた先手を打たれてまう。
中等部時代までは習得できてへんかったはずの木刀の先を前へと向けて腕を引いた構えをして、そこから一気に全エネルギーを前へと押し出して放つ突き。
鋭さはさすがや。けど神速の域には達してへんそれを木刀で外に払って躱したあたしは、転じて訪れたチャンスに渾身の力を込めて踏み込み腹へと一撃。
それをまともに受けた秀二はよろよろと下がりながらもあたしへの威嚇はしたまま構えを緩めず咳を何度かしてみせる。
「……なんやねん。体は正直やな」
「なんのこっちゃ……ッ!」
始めは秀二が何を言っとるのかわからんかったけど、あの緊迫した攻防を強いられて木刀1本で対処せなあかんかったあたしは、ずっと使わんようにと意識しとった天然理心流の動きを使ってしもうたんや。
それに気づいた時にハッとして兄さんの方を向いてみると、破門された分際で使ったあたしにニコッと笑ってみせてくれる。
「何で、怒らんのや……」
兄さんも秀二も、あたしが天然理心流を使たことに怒りを現す様子がなくて、意味がわからへんこの状況に困惑。
そんなあたしに目の前の秀二はさらに言葉を重ねてくる。
「何が我流やねん。お前の二刀流は兄貴から教わった剣術を捨てるためのもんやろ。やから見るもんから見れば動きの洗練さも粗も丸見えなんや。そらそうや。体に染み付いた剣術を完全に捨てるなんて無理な話や。必ずどこかにほころびが出てくる。そないちぐはぐな剣術が通用するんは一流の極一部まで。ホンモンに当たったらマジで死ぬで」
「今まで大丈夫やったんや! やからこれからも……」
「お前は! 兄貴が武偵になるっちゅう話を真剣に聞いてくれた唯一の門下生やった。やからお前が暴れたって聞いた時、必死に兄貴の味方をしてくれてたんやて、ホンマは知っとった。破門になったんも納得いってへんけど、何より苛ついたんは、それから兄貴の剣術を捨てたお前が中等部に来たことや!」
「……秀二……」
「お前はやり過ぎたのかもしれん。やけど間違うたことをしたなんて思うなや! それをお前が間違いやって認めて二刀流なんて始めたんが、俺は気に食わんのや! 間違うてへんと思てるなら捨てるな! お前は兄貴が……俺が認めた天然理心流の使い手なんやから!」
初めてや。初めて秀二の本音を聞いた気がした。
元からあんま熱血なタイプやなくて、道場に通い始めた頃も物静かで声を張る姿すら見んような男やったけど、ホンマはこない熱い思いを秘めてたんやな。
確かに秀二はあたしを嫌いやった。大嫌いの部類やろ。
でもそれはホンマはあたしのやることなすことが兄さんと秀二を傷つけるようなことばかりで、それをやめてほしいと願ってくれてたんや。
それがこれまでの嫌がらせに繋がるんは不器用っちゅうか歪んどるけど、言葉にされてようやく気づけたあたしも大バカやんな。
「…………使て、エエんか?」
「俺の許可が必要なんか?」
「兄さん、使てエエんか?」
「それは千雨の心が決めることや」
「あたしの心が……」
あの日の暴走は後悔ばかりや。
この歳になってもそれが呪縛となってしもうてたんやし、秀二に言われた後でも反省する気持ちは変わらん。
でもただ1点だけ。兄さんが武偵として大成せんっちゅう言葉を取り消させたことだけは、間違いやったなんて思わへん。
その思いひとつでずっと引っかかっとったもんが解けた感覚がしたあたしは、依然として構えを緩めん秀二を余所に近くに落ちとった木刀を拾い上げて再び二刀流で構える。
「それがお前の答えなんやな」
「そうや。あたしは二刀流を捨てへん。でも、天然理心流も、捨てへん」
1度はあたしの選択にガッカリしたような雰囲気になった秀二やったけど、続けたあたしの言葉でその目に闘志の炎を燃やしてくれる。
そんな秀二に対してあたしが返せるんは、いびつやった二刀流の可能性。
天然理心流には奥義と呼ばれる技がいくつかある。
正確にはちょい違うようなんやけど、かの沖田総司が使えたゆう技に『三段突き』っちゅう神業があって、真相は闇の中やけど、伝聞では『突きを放ったと思たら3度突かれてた』とさえ言い伝えられとる神速の突き。
いくつか説はあるんやけど、要は神業やっちゅうその奥義を、さっき秀二はやろうとしとった。
兄さんすら至れない奥義中の奥義やから、あたしもやろう思ても土台無理な話やけど、擬似的な再現は可能かもしれん。
その覚悟を秀二も感じたらしくて、柄にもなく完全な受け身の構えで受け切ろうっちゅう腹積もりや。
下手にカウンター狙いとかそないなことをなさそうやから、あたしも攻撃に集中して右手の木刀を引いて構えて、頭の中でこれからやろうとしとることを1度だけイメージ。
そのイメージが残ったままに突貫したあたしは、まずは右の木刀を出せる最速で突き出して秀二の構えとる木刀の腹に突き刺してみせる。
「──ラァッ!!」
そこから今度はほとんど間隔なく左の木刀をほぼ同じ位置に突き刺して追撃し、その威力でわずかに後退した秀二との距離でほんの少しだけ出来た空間を埋めるように突き出していた右の木刀を左半身が前に出とる分で前に出る力も利用してもう1度引ききらずに突く。
その間、わずか0.5秒の早業やったけど、ちゃんと木刀を狙ったにしても威力がいまいちで秀二を仰け反らせる程度で終わってまう。
「……二刀流で三段突きやなんてズルやな」
「まだまだ改良の余地ありやけどな」
それで受けきって出てきた秀二の言葉にはムッとしてもうたが、時間差で秀二の木刀が当てたところから折れて、その結果には秀二もやれやれといった感じの表情をする。
「終いや。得物を失うたら剣士の負けも同然」
「受ける必要あらへんかったんに、負け損やろ」
「うっさいわ」
木刀を折られたことで秀二が負けを認めてしもて、あたしも納得いかへんけど、ここでまた喧嘩をしてもうたら兄さんが怒りそうやから、仕方なくここでの決着はこれで納得してやって、2人でそもそもこうなった話の本題とやらを聞きに兄さんに近寄ってみる。
でもいざ話すとなってみると、何でか恥ずかしそうにする兄さんが気持ち悪くて、秀二がイラッとしたところでやっと口を開いてくれる。
「実はな、今年の6月に結婚するんや」
「……えっ? けっ……こん……」
「それで2人にも披露宴には来てほしいから、そこで喧嘩でもされたら台無しやろ? やから……って、千雨、どないした!?」
わざわざ京都から時間をかけて来て、収穫もあったけど、それ以上に衝撃的な現実を叩きつけられたあたしは、話の途中から意識が遠退いて放心状態になってしもうた。
ああ……さよならや、あたしの初恋……