緋弾のアリア~影の武偵~   作:ダブルマジック

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「それじゃ京夜。お互いに頑張りましょ」

 

「……おーう」

 

 ローマでのアリアとの密談を終えてから、何を思ったかNにとっての要人になり得る人物、ベレッタと会わせたアリアは、そのベレッタと結託してオレを巻き込んだ話をほとんど勝手に進行。

 昨日にNと遭遇しその命を脅かされた身でありながら、翌日の今日にはベレッタ社の四半期の全体方針案のプレゼンに参加してきたらしいベレッタは、そのプレゼンでとんでもないことを口にしたのだとか。

 ベレッタ社はキンジが愛銃にしているM92FS(ベレッタ)などからもわかるように、武器製造会社の大手。いわゆる武器商人だ。

 世の中の流れとしてはこういった会社が儲かるのはあまり良くないが、なければないで困るという需要と供給が保たれてもいるところ。

 そんな武器製造が本業の会社のプレゼンで、ベレッタは『武器を世界にバラ撒くのはやめよう』と言い出した。

 ざわつく会場の人達を他所に至って真面目に話を続けたベレッタは、Nがベレッタの殺人未遂に使った銃がM92FSだったことを理由に、自分の作った武器が悪用もされることを痛感し、そういう会社だからと開き直らずに武器をバラ撒くことを否定した。

 ただし武器の製造をやめても、減らそうと施策しても、武器を所持する世界を変えようとしても、すでに溢れた武器を悪人は簡単には手放さない。

 それでは悪がのさばる世界になってしまうから、その悪を討つための『正義の味方』を立て、その正義の味方にベレッタが武装を造る。

 これはアメリカの人間兵器の思想。つまりロスアラモスの思想を元にした国単位ではなく、世界の変革。

 『ジュスト』と名付けたその正義の味方は、その正体を隠して日常に溶け込み、有事の際には無償で悪を裁く。

 まさに日本のアニメのようなその正義の味方を実現させようとベレッタが本気でプレゼンしてきたのが、たった数時間前の話で、プレゼンの結果についてはまだ出ていないが、ほぼ100%ベレッタのプレゼンは採用されないだろうとのこと。

 その影響で今後のベレッタの会社での進退が悪い方向に向かうかもしれないことも含めての今で、それを包み隠さずオレに話してくれたからには、オレも話の全容は嫌でも見えるわけで。

 

 まだまだジュストの制度のようなものが明確化していない、仮とも言える段階の話なので、ベレッタもオレを今すぐにジュストに任命するといったことにはせず、まずはオレの評価を定めたいと言う。

 オレとしてもベレッタの提唱したジュストは考え方としては肯定的だが、やはり現実として見れば綺麗事すぎることも理解できるため、世のため人のためと無償で危険を冒す行為には前向きにはなれない。そこまでオレも聖人じみてないからな。

 そこは包み隠さずにベレッタには伝えて、ついでにジュストになる特典らしいベレッタ特製の武装とやらも今のところ全く思いつかないし、そもそも必要性を感じてないことも話しちゃったら、ちょっとムクれさせてしまった。

 自分の造る武装に自信を持つ職人気質な性格からのプライドを傷つけられた怒りなので、そこは素直に謝罪しつつ、ジュストに関してはそれ以上の進展はなし。

 まだ骨組みの段階の草案をこれからキッチリと整備したのちに、改めて会おうと握手を交わしてベレッタは笑い、アリアも今はまだそれで良いかとこの出会いをもたらした側として笑顔を見せた。

 それから打って変わってテンションを上げたベレッタがオレの懐に忍ばせていたミズチと単分子振動刀とブローニング・ハイパワーを発見して取り上げると、それら武装に「凄い(ブラーヴォ)!」と感嘆の声を上げていたのだが、結果として完全分解させられたから、その分で時間を食ってしまった。

 

 単分子振動刀とかちゃんと元に戻ってるのか心配で仕方ないが、ベレッタが大丈夫と言うからとりあえず信用して邸宅を出てから、見送りに出たアリアと短いやり取りをして別れて、待っていたオロチに乗って理子達が待ってるはずのバチカンを目指して発進。

 その移動の間に、ベレッタ邸宅に入る前にLOOに捕らえさせておいたネズミを受け取り、てっきり暴れるのかと思っていたら異常なほど大人しくて、むしろ捕らえておく必要すらなさそう。何で?

 その疑問に対して運転中のアシが察して答えてくれる。

 

「どうやらそのネズミは京夜様にお話があるそうです。それを終えるまでは逃げるつもりはないと」

 

「つまり話が終わったら逃げる気満々なわけか。やっぱこのままで」

 

『こんな使いっぱしりの式神を捕らえたところで、お前達には何のメリットもないがな』

 

「そう言っておけば、もし何かお前に繋がる手がかりがあっても見逃すかもしれないからな。オレはそこまで甘い考えじゃないぞ、土御門陽陰(つちみかどよういん)

 

『ふんっ。どうとでも取ればいい。式神など俺にとって目と耳としての機能しかないに等しいのだからな』

 

 どうにも怪しいこのネズミは、以前から色々と因縁がある敵である元イ・ウー主戦派(イグナティス)の土御門陽陰の式神で、この式神を通して陽陰本人は姿を全く晒さないまま世界中を見て回り、時に人の心の弱さにつけ込んで操り、その様を見て楽しむ快楽犯。

 その正体を知る者が誰もいないとさえ言われていて、国をも滅ぼすだけの力を持ちながら幻のようなその存在から『完璧な犯罪者』と呼ばれている。

 以前まではこの式神も独自の魔力供給システムで際限なく世界中に放てたのだが、2ヶ月ほど前にオレや羽鳥が加わって出来た精鋭部隊で陽陰本人を誘き出して逮捕に踏み切った。

 激しい戦闘の末、実際にその場に現れた陽陰と思しき人物の逮捕には成功したのだが、これは陽陰が操っていた身代わりにすぎず、真の逮捕には繋がらなかった。

 しかしその後、陽陰の存在を大々的に認めた世界が動き、この式神の無限供給システムをぶっ壊してくれて、今はかつてのように世界中のどこでも目が届く状況にはなっていないし、陽陰本人も国際指名手配がされている。

 だからこそこうして式神であろうと陽陰に繋がるものに出くわしたのを逃す手はなく、余裕の態度を崩さない陽陰だが、それも油断を誘う罠と考えて取り合わずにネズミは掴んだままにしておく。

 その気になれば自壊くらい出来るだろうから本当に痛くも痒くもないのかもだが、敵である以上は一切付け入る隙を見せてはいけない。

 

「それで話ってのは何だ」

 

『緋弾の娘から話くらいは聞いているのだろう。昨日のNとの接触についてだ。俺もあの場にいた』

 

「あ? そんなことアリアは……」

 

『気づかんだろうよ。誰もな。これ自体は会談が行われた部屋の天井に潜ませてそこから透視していたからな』

 

「……お前、Nとの接触を予知してたりしたのか」

 

『俺がではない。あのシャーロックの老いぼれが条理予知し、俺はそれに同伴しただけのこと。以前にも話したはずだがな。あの老いぼれの拠点には式神を配置していると。それがこいつだ』

 

 その敵の陽陰からわざわざ接触してきての話なら、オレ達への報復やら文句やらがしたいわけではないとは思ったが、意外とペラペラと喋る陽陰は昨日にあったと言うNとの接触の場に自分もいたことを告げる。

 さすがに堂々と居合わせたわけではないようだが、ずっとシャーロックに付けていたこの式神を動かしてきたことは話からわかった。

 

「……それでその話について何なんだ」

 

『あの場でシャーロック以外に俺に気づいている奴はいなかった。俗に言う「味方」にはな。だが奴らは俺の存在に気づいていた。それがわからんほど馬鹿ではない。だからこそだ』

 

「だからこそ?」

 

『俺がその気になればこんな式神だろうと1人くらい道連れにしてやれるくらいには力を持っていた。だが奴らは終始で俺を歯牙にもかけずに行動し逃走した。つまり俺を脅威にすら捉えなかったということだ』

 

「お前は無視すれば無害と思ったんじゃないのか。余計な手間をかけたくないって」

 

『本当にそう思うか? だとしたらお前は愚かだな。俺は今回のことで確信に変えたのだ。その意味がわからんなら、わざわざお前の前に姿を現した理由がない』

 

 おそらくNに関する話ということもわかったものの、陽陰の真意には辿り着けず問いかけばかりになる。

 そんなオレになかなか直球を投げてこない陽陰も陽陰だが、あの独断行動万歳な陽陰がオレだからと接触してきたと聞き、さらに今回のスルー案件とでも呼ぶ事柄から、1つの事実に辿り着いた。

 

「『天地式神』か」

 

『ふんっ。さすがに馬鹿ではなかったか』

 

「だがそう考えれば確かに……」

 

 今はすでに世界の警察・武偵機関によって全て排除されはしたが、陽陰が世界中にバラ撒いていた魔力無限供給システム、天地式神は、その存在を知っていればみすみす放置しておくには鬱陶しい。

 Nのような裏であれこれと画策するタイプの組織になればなおのこと邪魔に感じるだろうに、昨日の陽陰の察知からわかるようにNはこれを知ってて放置していた可能性が高い。

 互いに不干渉を決め込む不文律が存在していたとも思えないし、陽陰も自分以外に世界的に裏で暗躍する組織を良くは思ってなかったはずだ。きっと奴らの企みの1つくらい意図せずに潰したりもしただろう。

 

『奴らは俺をそもそもの敵とさえ認識していない。或いは俺の気まぐれさえも奴らの教授に条理予知され、良いように使われていたかもしれんなら、気持ちの良い話ではない』

 

「好き勝手やってたはずが動かされていた。いや、そう動くならこういう結果にしてしまおうって感じか。その教授とやらは思い描いた結果へと導く逆算が出来るっぽいからな」

 

『俺は誰かの掌の上で踊らされるのが死ぬほど嫌いだ。だから……』

 

 Nが暗躍していたのは、少なく見積もっても1世紀ほど前。

 それほど前から動いていたなら、ここ何十年かほどの陽陰の横暴な幅の利かせ方はやはり邪魔だったはず。

 いや、その陽陰の活動すらも隠れ蓑にして何かしていたとも考えられるわけだが、それら含めて自分が利用されてきたことを悟った陽陰が怒りを露にする。

 ただ話をしていたらオロチがバチカンに到着したようで、それを察知した陽陰はあからさまに不機嫌な感じで黙り込んでしまう。

 

『……何故バチカンなどに来た。ここは好かん。用があるならさっさと済ませろ』

 

「お前、別に魔女とかの血筋じゃないだろ。それとも異端って自覚はあるのか」

 

『バチカンの聖人面が気持ち悪いだけだ。自分達のルールに沿わないものを徹底的に排除する排他的な思想も、魔女狩りの時代から変わらない』

 

 魔的な存在はバチカンを嫌うとか聞くが、それはそういう場所にバチカンがあるからとヒルダがローマ入りの時に愚痴っていたのを思い出しつつ、それに漏れずに毛嫌いしている陽陰が話を中断してしまったので、仕方なくオレも理子達を連れ戻すために動く。

 アシはオレと陽陰をオロチから降ろすと「ご入り用の際はサード様にお取りつぎを」と残して行ってしまい、陽陰も逃げるつもりはないとオレの手から解放されると物陰に隠れて待つ姿勢。

 まぁ待ってくれるならいいかとオレもバチカンに入って理子達を探すと、その理子とヴィッキーが変なことをしないようにと付けられただろうメーヤさんが困り顔をしているのを発見。

 本格的に飽きて何かし始める前に保護者として回収しなければと近寄ったら、花が咲いたように笑顔になったメーヤさんが、相変わらず豊満なその胸をポヨンポヨン揺らせて駆け寄ってきた。すげぇ……別の生き物みたい。

 

「猿飛さん、お久しぶりですね。またお会いできて嬉しいです。これも神のお導き。感謝です」

 

「そんな大袈裟な。それよりあの2人が迷惑かけなかったですか? かけたならゲンコツくらい入れときますけど」

 

「いえいえ、とても大人しくされていましたよ。これ以上のご滞在は退屈されてしまいそうでしたが」

 

「落ち着きのない連れで申し訳ない」

 

 普段は女性の胸を凝視なんてしないが、メーヤさんのは別格なので仕方ないと開き直りつつ、近寄って手を取って再会を喜ぶメーヤさんと簡単な会話でやり取りをする。

 その仲良さげな雰囲気に理子がニコニコ笑顔の中に不吉なオーラを含ませるので、我慢強さはどこ行ったと内心でツッコミながら、外では陽陰も待ってるのでさっさと退散する流れに持っていく。

 メーヤさんとしてはもう少し話もしたいといった空気はあったのがわかるし、オレもNの襲撃以降は少し気を張り続けているから、その癒しにメーヤさんと雑談でもしたいところ。

 しかし外にいる陽陰が律儀に待ち続けるとは思えないし、理子達も娯楽施設などもないこのバチカンで大人しくしていられる保証がない。というか無理。だからメーヤさんも困りかけてたんだから。

 

「すみませんメーヤさん。今度またゆっくりお話する機会は作りたいと思うので、今回はこれで失礼します」

 

「そんなお気遣いはいりませんよ。私も今年から教職に就いてローマ武偵高に身を置いてますから、お暇もそこまでありませんしね」

 

「あー、じゃあキンジを教える立場になったわけですか。あれはそっちの武偵高でも迷惑かけてそうですね」

 

「いえいえ。遠山さんはクラスにも馴染んで人気者ですよ」

 

 うっそだー。あのキンジが人気者とか世も末だよー。

 と、大変に失礼なことを思いつつも、聖職者として嘘はつかないだろうメーヤさんの言葉は一応は真実と受け止めることにして笑顔で会話を終わらせると、話が終わったならと腕を引く理子によってズルズルと引き摺られて、笑いながら手を振るメーヤさんとお別れしバチカンをあとにする。

 日も暮れてきて闇討ちには適した時間帯に突入してきたこともあって、今日はもう大人しくホテルに戻ろうと話して移動を開始したオレ達の姿を見て、陽陰の式神のネズミもオレの足元からスルリと駆け上がってオレの胸ポケットに侵入してくる。

 それをバッチリと目撃した理子とヴィッキーには当然のごとく追い払うようにと促されたが、そうもいかないので歩きながら事情を話す。

 

「これは土御門陽陰の式神だ。なんか話があるからってコンタクトしてきたんだが、まだ話が全部終わってないから、どうこうするのはその後だ」

 

「土御門って、キョーやんがジャンヌ達と逮捕大作戦やってた相手じゃん。イ・ウーにも姿さえ見せなかった陰気なやつって印象しかないけど」

 

「土御門陽陰……リバティー・メイソンでも最近ようやくその存在が肯定された最高峰の超能力者じゃない。そんなやつが何で?」

 

 元イ・ウーメンバーの理子は知ってて当然で、ヴィッキーもリバティー・メイソンでの情報で知ってはいた。

 ヒルダなんてあからさまに影絵で首を絞めろとジェスチャーしてるが、それは用が済んだら自分でやってください。

 ともあれ陽陰同伴でホテルへと戻り、ささっと夕食を済ませてからオレの部屋に集まると、ヒルダも理子の影から出てきて陽陰を警戒しながら腰を落ち着ける。

 

『チッ。また面倒な女どもが引っ付いていたものだ。お前らには用はないんだがな』

 

「無理言うな。こちとら現在進行形で漏れなくNに狙われてるんだ。別行動はほとんど取れない」

 

「お前がどんな理由でサルトビに近づいたかは知らないけど、それが巡り巡って私達にまで影響が及ぶのなら、私達にも聞く権利はあるでしょう」

 

『紫電の魔女もずいぶんと丸くなったものだな。昔は人間など下等生物と罵るだけに過ぎなかった愚かな竜悴公姫が、どんな心変わりだ? 男でも知ったか?』

 

 こいつぶち殺す! みたいな殺意をみなぎらせるヒルダは遠回しに理子を守るようなことを言って、それが見抜かれて爆発寸前。

 挑発に乗りやすいところがあるヒルダを理子になだめてもらいつつ、この場に理子達がいる上で話を聞く旨を伝えれば、仕方ないといった雰囲気ながらも、しかし中断された話から再開するというささやかな抵抗に出てくる。

 ただしここまでのやり取り全てが日本語なので、ヴィッキーは完全に置いてけぼりだ。

 

『俺は奴らに後悔させてやるのさ。俺を侮ったことを生涯忘れぬくらいの屈辱を与えてな』

 

「お前の決意表明なんて聞かせるためにコンタクトしてきたわけじゃねーだろ。後悔させるってやつは、実質的にお前は動かない。そういうことだろ」

 

「えっ、話が見えないけど、もしかして理子達、こいつの手足になれって言われてる?」

 

「ねぇちょっとぉ、日本語わかんないんだけどぉ」

 

 陽陰も英語を話せないわけもないだろうが、わざわざこっちに合わせるほど良い奴では決してないので、ヴィッキーにはあとで伝えるとして話を要約する。

 高圧的な上から目線なのでわかりにくいが、陽陰が誰かを頼るなんて小さい男ではないのは重々承知で、言葉だけなら陽陰自らが手を下すことを決めたように聞こえる。

 が、そんなことを始めの1手からやるならこいつは完璧な犯罪者になんてなっていないし、何より現在進行形で国際指名手配されてる身。オレ達と顔を突き合わせることも絶対にない。

 そう考えれば必然、この話はオレ達を利用しようとする陽陰の思惑があり、自らはチェスのプレイヤーが如く高みの見物を決め込むつもりだ。

 

『勘が冴えているな。だがお前はこの交渉を呑むしかない。何故なら俺からもたらされる情報はお前にとって重要な案件になるからな』

 

「……今のお前は手足をもがれたに等しいと思うが、それでも情報を武器にするか」

 

『天地式神がなくとも、俺の特別製の式神はこれを含めて今も問題なく動いている。無駄遣いは出来ないが、お前達よりもNについての動向は探れるんだよ』

 

「こいつのペースに呑まれたらダメよサルトビ。交渉な以上、私達とこいつは立場の上で対等。妥協はするべきではないわ」

 

 それを否定しなかったおかげでこっちとしての意見も決裂の方向に出来そうだったが、何やら含みのある物言いに話だけでも聞かなきゃならない気がしてくる。

 だがそこで素直に話を聞けば、情報を与えた対価として労働力に使われてしまうので、ヒルダが止めに入る。

 こいつは商才はないのに駆け引きは微妙にわかってるんだよな。謎すぎる。

 

『そう邪険にするな。俺は善意で言っているぞ。事態は刻一刻と進行中だ。緋弾の娘から聞いたならわかるだろうが、分岐点の話だぞ』

 

「それはベレッタの話だろ」

 

『理解が乏しいな。いや、とぼけているだけか。人類史の分岐点に立つ人物は1人ではない。ベレッタなどはその内の1人に過ぎない』

 

 陽陰のことは信用など到底できないし、ヒルダの言うようにこの交渉は対等な立場の上で成り立つから、こちらにも陽陰がメリットと感じるものと同等のメリットがなければ決裂にした方がいい。

 それをわかってて情報を出し渋り聞くしかない状況にしてくる陽陰はイラッとするが、聞かなければこちらのメリットもわからないし、分岐点の話を持ち出したからには、オレのコミュニティの中の誰かがその話の中心にいることは予測がついた。

 そもそも陽陰がNのメンバーである可能性だって十分にあるし、これ自体がすでに罠の可能性もある。が、Nに繋がる案件に先手を打てるかもしれないなら、こちらとしても聞く価値はあるかもしれない。

 そんな意味も込めての長いため息から、ある種の覚悟を決めたオレが話を聞くことを決断すると、式神の向こうでニヤリとしただろう陽陰がようやくその重たい口を開いたのだった。

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