「京夜様はここ中国の貧富の差がどの程度か知っていますか?」
来たる藍幇の重要な会議までの劉蘭の護衛任務に就かせてもらったオレは、Nが暗殺まで狙う可能性があるという劉蘭の壮大な計画を聞き始めていた。
スケールの大きさは冒頭だけでも十分に察することができたので、渡された資料を手にまっすぐ見てくる劉蘭の質問に答える。
「人口も日本とじゃ桁が1つ違うからな。それだけ差も広がるってことなんだろうが……」
「現在で最上位5%と最下位5%の層で比べてしまうと、実に200倍以上も違うのですよ。彼ら最下層の人間が1日に
「……そうは言っても、最上位と最下位でだけ比べても仕方のないことにも思えるんだが」
仕事の話になるとオレへのいつもの照れなども一切なくなる劉蘭の切り替え様はこっちが面食らうほどだが、オレの言うことも正しいと頷く劉蘭は、しかしと予測できていたっぽい返しにも考える素振りを見せずに即答。
「ではこう言ってしまうとどうでしょう。今の中国の総資産の約60%ちょっとを、この富裕層の上位わずか10%が保有している、と」
「それは……」
「こうした所得の話では基本的にピラミッドが形成されますが、この中国におけるピラミッドは酷く歪なのです。この富裕層は当然ながら全体で見れば極々少数ですが、その下の層もバランスを取れるほど多くはありません。そうなると膨れ上がるのは下層、ということです。さらに都市部と農村部という違いでさえ、愕然とする大きな所得の差が生まれています」
「それが今の中国の現実ってことや」
貧富の差はどこの国でも必ず出来る格差でどうしようもないこととオレは思っていたが、中国の事情は想像よりもずっと劣悪な状況にあることが今の話でもわかる。
要はこの国の総資産の40%ほどを全国90%の国民が保有していて、残りの10%の国民がそれすら上回る資産を保有しているという、馬鹿馬鹿しいとさえ思える現実にあるのだ。
それでは経済が上手く回るということも難しく、持つ者と持たざる者の差は埋まることなどほとんどない。下手をすれば生まれからすでに勝者と敗者で分けられる世界なのかもしれない。
「もちろん、それで中国が国として成立している以上、どうにかなっているとも言えますし、大きな企業を運営していくとなれば、それなりの才覚や人材も必要になります。それら全てを否定するつもりは私にもありません」
「中国の戸籍の問題もあれやで。今は都市戸籍と農村戸籍っちゅう2つに分類されとるんやけど、その戸籍だけでも歴然とした待遇の差があんねん。都市戸籍は全国で4億人くらいおって、農村戸籍は倍以上の9億人。それだけの数が農村戸籍ってだけで色んなハンデを背負わされとる」
「例を挙げるなら、大学受験の際に合格ラインを引き上げられたり、医療や社会保障などにも制限や最悪、受けられないものもあります」
「……どうしてそんな問題を国は改善しないんだ?」
「当然、改善しようと国も動いているのです。ですが抜本的な解決のためには様々な弊害や連鎖的に起こる問題も解決せねばならなく、今日まで変革と呼べるものに至っていないのです」
国によって人種差別などがまだまだ根強いのは知っているが、中国では人種ではなく戸籍で差別が起こってるってことか。
いつからそうなったかはわからないし、そうならざるを得ない国の事情もあったのかもしれないから、オレがそれ自体をどうこう言ったり憤ったりするのは微妙なところ。
だが少なくとも劉蘭やメイファンさんは今のその状況を良しとは思っていない口ぶりで、そのための会議だと強い目をする。
それらの事情を知ってもらった上で劉蘭も改めて渡した資料の方に目を通すようにと促してくれて、まさかこの問題を解決する秘策が書かれているのかとちょっと期待してしまう。
「だからと言って、私など藍幇という組織の上役の1人でしかありませんし、藍幇自体が国を大きく動かすほどの力を持っていません。ましてや国の法を変えるなど不可能に近いです」
「じゃあ劉蘭はこの問題にどういうアプローチをしようとしてるんだ?」
「法は変えられませんが、法が変わるまでの間に変わらざるを得ない状況を促進するのです。そのために私はまず、戸籍問題を改善します」
しかしオレの期待はさっそく裏切られて、そこまで大きな力はないと断言して笑う劉蘭に苦笑。
だとしたらと資料を読み始めたオレにここに書かれている内容を説明してくれる。
「京夜様はこの蘭盛街の生い立ちについてはご存知ですか?」
「ちょっとした独立国みたいなところとは聞いたが、生い立ちまでは知らない」
「独立国ですか。表現としては如何なものかと思いますが、試験的な部分を含んで開発されはしました。言ってしまえばこの蘭盛街が今回の私の提案の先駆けなのです」
「劉蘭は別に思い付きで今回の提案を通そうとしとるわけやないで。それこそこの蘭盛街が開発される前から温めとったのを満を持してってことや」
「この蘭盛街は藍幇が土地を買い取って開発を進めました。さらに居住に関しては生活費を除いて家賃などは撤廃。社会保障なども藍幇が負担して、住民間での差を無くし働きやすい環境を提供しています」
「つまり農村戸籍とか都市戸籍とか関係なく、住めば最低限の生活が保障されるってこと、だよな」
「もちろん働かざる者食うべからずですから、住む以上は労働と教育。生活するための稼ぎが必要になるように負担も強いていますが、それらは差別とは関係なく、生きていく上で必要な負担にしているつもりなので、住民の皆さんも納得して生活してくれていますよ」
蘭盛街については陽陰から簡単に聞いてはいたが、まさかこの街すら劉蘭の提案の1つだったとわかると、今回の提案がどれほどの過程を経て出すものなのか計り知れなくなる。
先駆けと言ったこの蘭盛街の在り方も、聞いた限りでは確かに差別がなく、陽陰の独立国みたいなところというのも少し納得のいく説明だったな。
「現状、この蘭盛街の負担のほとんどは私がしていますが、私程度ではこの街だけで手一杯。とてもじゃないですがこれ以上の規模の開発は不可能です」
「やけど藍幇のお上もこの1年での蘭盛街の発展と実績は定期の報告で確認しとる。環境さえ整えれば人は動いてくれるっちゅう証明を1年かけて劉蘭はやっとったんや」
「ただし、この蘭盛街は開発段階で住民の募集を行い、その当時でさえ倍率が30倍ほどになっていました。そのほとんどが農村戸籍の人々で、こうして発展し栄えた今がある現状、不満の声も上がっているのです。どうして私達が住めないんだ、と。その気持ちは十分にわかっているつもりなのですが……私だけではどうしようもないのです」
「国民の全てを助けるだけの力はないってことだよな。なるほど。それで偽善か……」
そして蘭盛街の負担のほぼ全てを賄っている劉蘭は、そういう話で進めたのだろう計画が順調に進んでいる一方で、不満の声もあることを吐露。
それはそうだろう。農村戸籍の人にとってはまさに救いの手を差し伸べられたに等しいのに、その手を取れた人はほんの一握りだけ。
その一握りが幸せな生活を送れているなら、どうして自分達はと思うことは何も不自然なことではない。
そうなることもわかった上で計画を進めた劉蘭も独善的とわかってはいるのか、一部にだけ幸をもたらす偽善者の自覚で苦悩していた。
「その不満の声が爆発する前に手を打たんといかんっちゅうことや。そのための1年。その限界が1年やった。あとはアホでもわかるやろ。劉蘭がやろうとしとること」
「この蘭盛街のような土地を藍幇がいくつも開発して普及させるってことか」
「簡単に言ってしまえばそういうことになります。私個人での限界を藍幇が負担できる限界にまで上限を上げられれば、それだけ多くの人々を生活しやすい環境に置くことが出来るのです。それでも全ての人々を助けることはできませんが……」
「何も蘭盛街が儲からん仕組みやないこともあらへんからな。現状は収支がトントンやからギリギリやけど、やり方がしっかりしとればそれだけ稼ぎも多くなる。そうなれば藍幇の他にも同じことしよう思う組織は出てくるし、そこまでいけばもうこっちの勝ちやろ」
「…………連鎖的な競争で水準を上げる」
「そのためにもしっかりと稼ぎが出るような施策も同時進行しなければなりません。先立ってはままならないところもある全国へのライフラインの確保などが挙げられますが、そこは国がすべき案件です。その資料が他国言語に対応しているのは、稼ぎのための人脈を駆使したからです。例えば日本のとある企業には、中国のある土地で効率的に育つ作物の品種改良と量産、輸出入の契約など、土地を提供する代わりに技術の提供や出荷ラインの確保をしております」
藍幇も全体を含めれば富を独占する層に当たるはずで、その藍幇が社会保障などを負担するならそれは、国への還元でもある。
そうして富を放出させつつ、さらに稼ぎも出るなら、藍幇以外も確実に動く。
それが農村部だ都市部だを撤廃した環境で生まれる利益ならば、国も全国にまで普及してしまえば戸籍にこだわる理由がなくなる。
「……ん? でもそれで戸籍が統一化されでもしたら、今度は土地を治めるところの負担が減るから……」
「そこは考えてはいけませんよ、京夜様」
「……さすが食えない女……」
そうなったらなったで社会保障などの負担が減るので、その浮いた分は劉蘭の懐に余裕ができるということ。
結果として儲けが大きくなる仕組みに気づいてしまったことで思わず劉蘭を見てしまったら、その劉蘭もそうなることはわかってたからか、政治の話に可愛くウィンクして誤魔化されてしまった。
その後、資料の方も一通り読んだら貿易交渉の案件もあって、この話に幸姉が噛んでることを知り、その事を聞いてみたらなんと明後日にこの件で幸姉と会合があると言うのだ。
さらにその会合にはココ姉妹と猴も同席するらしく、護衛になったオレもそれに同伴することになると言われて、なんだか一気に久しぶりの面々と再会してしまう事実に苦笑してしまった。
それらの話を終えても、まだ陽は高くて劉蘭も今日やるべきこと自体は会う前に終わってしまったと言うので、この1年の成果をちゃんと見てほしいとかで蘭盛街を見て回ることになる。
その辺でスイッチがハッキリと切り替わる劉蘭は、メイファンさんもいるが意味合いで言えばデートに近いことからテンション高め。
暗殺を警戒しなきゃならない立場のオレからすれば、たとえ蘭盛街が劉蘭の統治する街といえ、オープンな造りな以上は油断ができない。
しかし楽しそうに建物を出ていく劉蘭を前にするとオレが険しい顔をしながら同行するのは気分を害することになりかねないため、そこはメイファンさんとアイコンタクトして「最低限の警戒はしておけ」と許可が下りた。
「ではまずは居住区から見てもらいましょう。居住区は北西の区画になりますのでこちらですよ」
「農村戸籍と都市戸籍って括り自体はまだあるわけだろ? その辺でいざこざとかないのか?」
「始めはやはり衝突は避けられませんでしたが、ここを運営していく上でそんなことをいちいち引き合いに出していても発展はないと気づいてくださる方が多く、運命共同体としての連帯感で大きな問題もなくこられていますよ」
「まぁ些細な揉め事は人間やさかい、するなって方が無理やけど、仲裁に入る人間もおるし劉蘭からの弾圧は一切してへんよ。こういうとこは頭が利益目当てで絞り出すと狂ってくるんやけど、欲があらへんからなぁ、劉蘭は」
「わ、私にも欲くらいはありますよ! た、例えばその……京夜様と一緒にお食事がしたいとか……」
「ちゃうちゃう! そういうのは欲とは言わんて! ワイが言っとる欲はのし上がろうとか、誰かを蹴落としてでも頭になろうとか、そういうやつやから」
まずはこの蘭盛街が蘭盛街たる理由の1つを見せようと歩く劉蘭に気になっていたことを尋ねてみると、やはりその戸籍問題というのは根強いようなことを返されるが、それは最初だけで今は上手くやれていると言う。
それも劉蘭が治めるからだと自分のことのように語るメイファンさんに対して、恥ずかしそうに我欲を漏らすものの、そんなものは小さいと笑われていた。
確かにオレと食事なんて今日にでも叶いそうな願いだもんな。それを幸せに感じてくれるのはこっちも恥ずかしいが。
「あっ、劉蘭だ!」
「美帆もー!」
自己犠牲とは違うが自分の幸せについてを後回しにする傾向が見える劉蘭の在り方は、いつか自分を不幸にしてしまわないかと心配になるが、周りを幸せにしてその幸せを自分のことのように思える劉蘭だからこそなのかもしれないとも思える。
その証拠として居住区の中心辺りに入ってすぐに外で遊んでいた子供達に発見されて走り寄られた劉蘭は、その子達を迎え入れつつ仲良さそうに挨拶を交わす。中国語だから翻訳が面倒だが、雰囲気はすぐわかる。
「おわ! 劉蘭が彼氏を連れてきたよ!」
「お兄さんお兄さん! 劉蘭とお付き合いしてどのくらい?」
「こ、こら! 子供がそういうことではしゃいではいけません!」
「劉蘭が照れてるー! 逃げろー!」
「劉蘭は走ったら転けるからダメだよー!」
「子供にまで転けるの心配されてるのか……」
「筋金入りの運痴やからなぁ」
人懐っこそうな子供達の興味は割とすぐに見慣れないオレへと移ると、10歳くらいの子供達は丁度そういうことではしゃぐ時期で、からかわれた劉蘭が律儀に付き合うから子供達もテンションが高い。
そして劉蘭の運動音痴は有名らしくて子供にまで心配されてる辺りにメイファンさんも苦笑し、顔がゆでダコみたいに真っ赤になっていた劉蘭を落ち着かせる。
オレもオレで女の子が興味を持ったようで、劉蘭のお叱りをすり抜けて質問攻めされ、子供の好奇心に圧される。無邪気って凄い。
「誤解しないでほしいんだけど、オレは劉蘭の彼氏じゃないよ」
「あれ、お兄さん日本人? じゃあ劉蘭が前に言ってた許嫁って人だ!」
「結婚の約束してるんでしょ!」
「話を聞いてるかな? オレは……」
「こらガキどもー。愛だ恋だで盛り上がるんは100年早いでー」
「100年も経ったらじいちゃんばあちゃんだよ美帆!」
「そんなんだから結婚できないんだぞ美帆!」
「おどれらは結婚がどないなもんかもわからんやろがー!」
「いやー! 美帆が怒ったー! 捕まったらほっぺが伸びるー!」
劉蘭が対応できなくなったのでオレが代わりに否定はしておくが、どうやら許嫁の話を子供達にも話していたらしく、それでまた盛り上がってしまい、見るに見かねてメイファンさんが止めに入ったものの、独身を弄られてキレてしまった。
別に今時27歳で婚期を逃したなんて全く思わないし、気にしなければいいのにと口にするのは琴線に触れることが明白なので、劉蘭と違ってガッツリ身体能力の高いメイファンさんは事もなげに子供達を捕まえてそのほっぺを引っ張ってお仕置きをしていた。
しかしそんな子供達からもわかるように、この居住区はとても穏やかで親しみのある雰囲気が醸し出ていて、その子供達の親とも顔を合わせたが都市戸籍と農村戸籍の親と子供が一緒になって普通に生活している風景は、あの話の後だと凄いことなのだろうと素直に思う。
来たついでに復活した劉蘭は何か些細なことでも問題はないかと話をしているのも聞こえ、住民ともコミュニケーションをしっかりとやってることもわかり、オレの中での劉蘭の株はうなぎ登り。
逆にこんな女に惚れられてるオレの不甲斐なさがどんどん浮き彫りになってきて、オレなんかを……とつい考えてしまうが、人を好きになるということは他人がとやかく言うことではない。たとえ惚れられてるのがオレだとしてもだ。
だったらオレが出来るのは劉蘭が少しでも胸を張って素敵な男だと言ってくれる男になること、なのか。
ん、何か違う気がする。オレは劉蘭と恋人になりたいと考えてるわけじゃなくてだな……んー?
そんなまとまらない気持ちを抱えて悩んでいたら、話を終えた劉蘭が次の区画へと移動しようと話しかけてきて、それに柄にもなく慌ててしまったオレは、内心を悟られないように表情にだけは出さずに応答。
しかし見れば見るほど綺麗なんだよな、劉蘭って……
その後、雑貨店の集合した区画。食料関係の集合した区画。飯店の集合した区画と順に回ったのだが、どこへ行っても劉蘭は大人気。
大人達からは「蘭ちゃん」とアイドルみたいな扱いを受けていたし、同年代や子供達からはモテモテ。女子からすらモテてたのは意外だった。
きっとこの街の人達は本当に劉蘭に感謝しているんだろう。親身になって自分達が生活しやすい環境を整えてくれる劉蘭に心から。
だからなのかオレが元許嫁だとわかると大人達はこぞって「蘭ちゃんを泣かせた男か!」とちょっとした怒りをぶつけられてしまったりもあったが、そこは否定もできないので甘んじて受ける覚悟でいた。
ただ劉蘭がすぐにフォローに回ってくれて大事には至っていないが、それだけの信頼を得ている劉蘭の気持ちを先延ばしにしているオレは最低のクソ野郎なのではないだろうか。
劉蘭だけでなく理子や幸帆の気持ちも知っていながら、学生であるうちは恋愛を遠ざけると線引きしたオレの気持ちも決して彼女達から逃げてるつもりはなかった。
だが今も未来も大事にしている彼女達と比べてしまえば、オレの覚悟なんてのはただの言い訳でしかないのかもしれない。
そんな気持ちを抱かせることとなった蘭盛街での時間を終えて、再び中心の建物へと戻ってくると、飯店で食事は済ませた都合、今日はもう休むこととなり、劉蘭とメイファンさんは入浴のために行ってしまい、こういう時の護衛は同性に任せるしかないなと思いつつ、せっかくの1人なので昼にメイファンさんに言われた功夫に着手。
しかしメイファンさんが言うように気のコントロールの功夫にはかなりの集中力を要するみたいで、色々と考え事も多くなった今では雑念が邪魔をしてしまう。
これでは功夫どころではないと夜風に当たるためにベランダに出てみると、近くにずっと待機していたらしい陽陰の式神の鳥が手すりに止まって話しかけてきた。
『何を黄昏れている』
「……若者の悩み相談にでも乗ってくれるのかよ」
『バカなことを言うな。貴様の悩みになど興味すら湧かない。その調子でNの襲撃に対応できるのかと聞いているのだ』
「そこは揺るがないさ。劉蘭は守る。絶対にな。それだけが今のオレが劉蘭に誓える唯一の思いだから」
『……青いな。絶対などこの世には存在しない。等しくある不変の事象は……死のみだ。肉体のある生命体である以上、これからは逃れられん』
陽陰も一応は周辺警戒という名目でオレ達の周囲に式神を待機させてはいるが、こいつが本当にNと敵対しているかはまだ確証を得られていない。
その意味でも馴れ合いは避けなきゃならないのだが、精神的に少し弱ると陽陰相手でも話し相手にしてしまうものなんだなと自虐。
ただ陽陰も雑談しに近寄ってきたわけでもなさそうで、オレが悩みを抱いているのを察知してか、はたまた風呂から上がった劉蘭がベランダに姿を現したのを見てかそそくさと飛び去ってしまい、チャイナ服をラフな感じに仕立てた寝間着姿の劉蘭が近寄ってくる。
「少し、お話をさせてもらってもいいですか?」
「オレなんかで良ければいくらでも」
「では、あちらに座っていたしましょう」
そうしてオレは劉蘭に促されてベランダに備えてあったベンチに隣り合って座り、穏やかに流れる時間の中で劉蘭の話に耳を傾けていった。
──自分の半端な気持ちを抱いたまま。