緋弾のアリア~影の武偵~   作:ダブルマジック

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 6月12日。土曜日。

 ランク考査も明日に控えた今日この日に、日本へと帰っていったキンジやイタリアにいるベレッタやメーヤさん達とのテレビ電話会議があるということで、朝も早くからメヌエット宅へと召集を受けたオレは、3人では携帯の画面は小さすぎるということでメヌエットのパソコンの画面で通話に応じていた。

 いくつかの画面が同時に表示されて、キンジとリサの画面。ベレッタ、メーヤさん、カツェの画面と白雪と粉雪ちゃんが映る画面とがあり、音声も届いているかの確認も挨拶で済ませる。

 

「キンジ。どう? まだ武偵免許はある? そこはどこ」

 

 開口一番に何だかんだで心配はしていたらしいアリアがどこにいるかもわからないキンジに退学後の進展を尋ね、ベレッタ達もメーヤさんによる日本語の同時通訳で会話に耳を傾けてくる。いやぁ、日本語での会話はありがたいね。

 その質問に対してあらかじめ策を授けていた側のアリアとベレッタはキンジが無事に武偵事務所を起業したまでは驚くことはなかった。

 が、その事務所も開業早々から問題が発生しまくりのようで、何をどう手違ったら事務所に饅頭工場が選ばれるのか大変に不思議なことを言う。

 すでに倒産寸前と聞いてアリアが無意味にガバを抜いて暴れようとするから、それをオレがなだめていると、画面の向こうの白雪はいつもキンジの味方なのでガミガミ言うアリアに対して「キンちゃん様社長をバカにしないで!」と一喝するが、ちゃんと様と社長とを繋げるヤバい呼び方には苦笑。初期のキンちゃん呼びが何でこうなった。

 それでアリアと白雪による口喧嘩はいつものことだから8割方スルーして強引に鎮火させると、メーヤさんが先日にネモに倒されて瀕死の状態にあるシャーロックの容態についての報告をしてくれて、一命は取り止めているものの、まだ昏睡中にあることを知らせてきて、それでもNとの戦いは止まらない以上は頑張ろうと、教職に就いたらしい人の言葉で鼓舞してくれる。

 そして捕らえたグランデュカからも情報を引き出すことはできたようで、そちらの報告を話を引き継ぐようにしてカツェがしてくれる。

 

『まずは、グランデュカへの聞き取り調査の報告だ。「我が祖先は神の国から来た」とか、身の上話が多くてなァ……要を得ない話ばっかだったぜ。ただな、Nには指輪で示される金・プラチナ・銀・鉄の4階級があるって事は分かった。いま言った順に偉い』

 

 そのグランデュカから取れた指輪の情報から、オレはこれまでに会った勇志さん達が指輪をしていたかどうかの記憶を遡る。

 勇志さんは、していた。

 アストゥリアス州で遭遇した際にオレの銃弾を指輪で受けながら勢いを殺して防御してみせた時に確認は取れてる。

 シャナとテルクシオペーの確認は取れていない……というかそこに注意してなかったからわからないが正しいが、階級があるならあの3人で同じ階級になることはないはず。頭が1つじゃないと統率は乱れるからな。

 それを考えれば明らかに勇志さんの上司のような態度だったシャナが勇志さんより上で、超能力の観点で見れば圧倒的なレベルのテルクシオペーが一番上。

 勇志さんが鉄階級にあったとしたなら、少なくともシャナは銀かプラチナ。テルクシオペーはプラチナか金になる。

 

「ふむ、プラチナが金より下というのは、一般的な感覚と異なりますね。18世紀中頃までプラチナは偽銀(フェイクシルバー)と呼ばれ、無価値なゴミとして捨てられていましたが……」

 

 それを鑑みて頃合いで報告しようと考えていたら、妙なことに引っ掛かったメヌエットが指輪の階級に疑問を覚えたことを口にする。

 確かに今はプラチナの方が金よりもその希少価値が高くて、そのプラチナが金より下という順番には違和感はある。

 だがメヌエットが疑問を解決できないということは、それ以下な脳みそのオレでは意見のしようがなかったから思考の邪魔はするべきじゃないなと口を閉ざしたのに、キンジがアホなことに絡んでいって、案の定「小舞曲のステップの如く」からのわずか4ステップで論破され撃沈させられていた。

 そんなんだから先行き不安になってるんだよとツッコミかけて、白雪を敵に回すリスクにギリギリで気づき引っ込めると、アホらしいキンジとメヌエットのやり取りに苦笑したカツェが話を続ける。

 

『あー、それでだな。Nは誰がメンバーなのか、その全容が──金指輪の階級以外には、自分たちでも分からないようにしてるって話だ。だから指輪はNのメンバーにとって超大事なんだ。奪われたり盗まれたりしたら、誰かがメンバーのフリをしかねない』

 

 つまりNは少なくとも金指輪であろうモリアーティやネモ以外は自分達の組織の全容を完全に把握していないってことか。

 まぁ仲良しこよしが動機な連中でもないし、何かが転じて敵になるかもしれないヤツに素性なんかはなるべく隠したいんだろうな。

 そうした意味でもNの仲間意識はそこまで高くはないだろうと推測しつつ、指輪に関してはこれで終わりだとカツェが締め、次にアリアが黄金紛失の件を切り出し、事前に話がいっていた白雪が口を開く。

 

『──アリアから依頼を受けて、私、イギリスから消えた金塊の件を占ってみたの』

 

 占いに頼るほど情報が不足してるってのは事実ながら、1つの結果として受け止めるくらいなら良いのかなと黙っていると、同じようにこの件で依頼をされてるキンジが他人事みたいな顔をしたのが気に食わなかったか、アリアが噛みついていく。

 そこでまた2人の喧嘩が勃発したりとあってオレとメヌエットがアリアから少し離れてあからさまにうるさいと態度で示しつつ、真面目な話をしているからか白雪もスルーして続ける。

 

『「(セン)」では大ざっぱな結果しか出ないんだけど、金塊は「世界5大陸のどこにも無い」って出たよ。172tも無くなってるのに、そんなはずないと思うんだけど……』

 

「サウサンプトンの黄金紛失事件が起きたのは、最後に国庫が確認された2004年以降。Nの活動が疑われ始めた、つまり顕現化し始めた、つまり活性化したのも、2004年。いくらモリアーティ教授が条理バタフライ効果を操れようと、Nの暗躍には莫大な資金が要ることでしょう。非超々能力的(ノンハイパーステルシー)に大質量の黄金を地上から「消す」手段が推理され得ない以上──ネモを擁するNと黄金紛失事件は、関係を疑うべき候補の1つです」

 

 確定情報ってことではないものの、白雪の占い結果からすると少し不思議な話ではあるな。

 5大陸に存在しないとなると、Nの拠点ってのがそもそも5大陸の上にはないって考え方ができるわけだ。

 それで考え付くのは、かつてのイ・ウーがそうであったように、原潜。或いはそれに類似した移動拠点か、洋上や海底、地下に拠点がある可能性になる。

 それなら5大陸になくても矛盾はないし、洋上、或いは空中、地中といった場所でも、ネモの瞬間移動があれば移動手段に困るようなこともない。

 その辺はメヌエットもすでに推理できているだろうが、重要なのはNと黄金紛失事件が無関係ではない可能性が濃厚になったことだから、まずはそこをハッキリと断言していた。

 これでオレも黄金紛失事件を追う者として、また勇志さんやシャナのこともあるNとの因縁は切っても切れなくなった。

 ここからはマジで運だけではどうにもならないだろうから、大事な場面で意図的ではないにしても悪運に頼る節があったオレは自力の底上げが益々重要になる。何度か死にかけてるのも事実だしな。

 とりあえず話はそれでお開きになりかけたので、オレが持ち得るNの情報はキンジ達にも教えておき、ベレッタには劉蘭との交流はどうなったかも聞いておく。

 

『劉蘭は凄い賢い人よ。武偵なら情報科(インフォルマ)とか鑑識科(レピア)で大成したんじゃないかってくらいにはね。ジュストもまだ原型は出来上がってないけど、進展としては良い方向に向かってるわ』

 

「そりゃ良かったよ。どうにもオレが運ぶ縁ってやつは良し悪しに関係なく繋がっちまうところがあるみたいでな。そこを心配してたんだ」

 

『縁? 面白いこと言うわね。でもそれなら素敵な出会いをくれたと思うわ。もちろん京夜と会えた縁も私にとって良縁と断言できるもの。貴重なジュスト候補でもあるし……そういえばロンドン武偵高のランク考査ももうすぐだったはずだけど』

 

『おっ? まさかとは思うが、メヌエットのわがままに付き合って試験をすっぽかしたとかあるんじゃないのか?』

 

「キンジはどうやら私を面倒な小娘と認識しているようですね。そんなキンジには今後一切の協力を断ることも可能ですが、さて、どうしましょうか」

 

 劉蘭はこれから忙しくなるだろうからプライベートな案件でのコンタクトは避けてあげたいから、ベレッタと話せるチャンスを逃すまいと聞いてみたところ、関係は良好なようだ。

 ジュスト候補からは外してもらって構わないんだが、ローマ武偵高では少し早くランク考査があったからと、キンジの退学が現実に起こった都合でオレの進捗に踏み込んでくる。

 それ自体は不都合はないんだが、試験と聞いて真っ先に絡んできたキンジの嬉しそうなこと大変にイラつく。

 さらにメヌエットまで巻き添えにして喧嘩を売ってきたので、ホームズ宅に集まったオレ達は視覚化してそうなほどのどす黒いオーラでキンジを威圧。

 人の不幸を喜ぼうとするその態度にはベレッタやメーヤさんも苦言を呈してキンジはすぐに萎縮してしまった。ざまぁ。

 

「ランク考査は明日だ。まぁそこにいるおバカさんみたいにならない程度には受けてくるから、その辺は心配しなくて良い」

 

『ケケッ。別にいんだぜ猿飛。お前が武偵高を退学になったら、イヴィリタ長官に取り計らってこき使ってやるからよ』

 

『いけませんよ猿飛さん。このような魔女の手先になっては悪に手を染めるのと同義です。そうなるくらいでしたらバチカンが責任を持って職を与えましょう』

 

『うわぁ、猿飛くんは人気者だね。じゃあ星伽も何らかのポストに就かせちゃおうかな。男の人は色々と立場が弱くなっちゃうけど、風雪も粉雪も喜ぶしね』

 

「この画面の向こうの無礼な方々は何を言っているのでしょうね。仮に京夜がそうなったなら、私の専属武偵として取り立てますから、職に困らせるようなことにはなりませんので心配には及びません」

 

「おいコラ。何で退学する前提で話を盛り上げてんだよ。それにロンドン武偵高のランク考査はローマほど厳しくないから、どのみち退学なんて余程のことがなきゃ起きんぞ」

 

 それはともかく、ランク考査が明日に迫ってるのを知った面々が最悪の結果になってもキンジのように路頭に迷いかけたりはないと新たな働き口を提案してくれる。

 それはありがたいと思う反面、退学が大前提で非常に不快。そういうのって現実になったりするから本当にやめてくれ……

 結局なんかオレのツッコミで笑い話になって会議が締められるという納得のいかない終わりになったが、メヌエットも笑い話ではなかったようでテレビ電話が終わってから念を押すように「あの方々の話を真に受けてはなりませんよ」と謎の釘を刺される。

 そうならないように最後の懸念であるメヌエットのわがままが明日に炸裂しないでくれよと逆に言ってやってから、まだ間に合うからとそそくさと通学していき、若干遅れ気味だった一般教科の補習を受けていった。

 ランク考査が明日に控えているのに一般教科の補習をやる変わり者なんてオレだけだろうなと思ったら、なんかヴィッキーもいたりでこいつも図太いヤツだなと自分を棚に上げて呆れてしまう。

 聞いた話じゃNの件で気が気じゃない生活を送らせていた時期は理子とジャンヌのお世話で学校に行ってなかったとかだが、そこは登校しておけと。あんな観光気分の2人に合わせてたら遊び人に転職しちまうぞ。行く末は賢者だな。あ、でもそれだと貴重な人材になる気がする。それは違うな。今のなし。

 といった心の内を読まれたかどうかは知らないが、不穏な空気は察したのかオレを見てなんかムッとした顔をしたヴィッキーの勘の鋭さはアリア並みではなかろうか。野性の勘ってやつかもしれん。注意しとこう。

 

 ともあれ補習が終わって一晩を寝て過ごせば、あっという間に翌日のランク考査の日。

 年に2度しかないロンドン武偵高のランク考査は、卒業や進級を控えたこの時期の緊張感は割と胃に来るものがある。

 オレは日本基準ということもあって卒業までにこれを除いてもあと1回は挽回のチャンスがあるから、周りよりもピリピリとした空気は纏ってないのだが、それが悪目立ちするというか場違い感が出てしまうので、諜報科らしくこの緊張感に紛れておく。試験怖い……帰りたい……

 兼科している武偵は必然的に試験も増え同時には試験を受けられないため、学科ごとに試験の時間は異なり、諜報科の試験は午後3時に1年から3年までが学年ごとに同時開始となる。

 それまでは適当に時間を潰そうかなと思っていたら、諜報科の実技試験の内容が昼から開示されるとかで、強襲科などでも試験時に口頭で説明なのになぜ諜報科だけ? と疑問は生じる。

 この場合に考えられるのは事前に作戦を練る必要があったり、或いはチームを作る必要がある可能性くらいだが、どっちもってのもあるな。

 その予測は案の定で的中してしまい、諜報科の教諭から渡された数枚の紙には色々と書かれていた。

 

「盗まれた機密文書の奪還作戦。1年は3人1組。2年は2人1組のチーム。3年は1人で、機密文書を保管している建物へ侵入し、これを奪還。配置されている警備に迎撃、または機密文書の消失は依頼の失敗とみなす、と」

 

 基本的な試験内容はそれだけで、方法に関しての制約は特になし。もちろん殺しはNGだがな。

 人数による難易度の上下の設定をしているってことは、1年から3年までの内容は同じものではあるが、求めるものは違うといった感じか。

 建物の見取り図は依頼主が事前に調査してくれている設定なため、構造は紙にもしっかりと図解されているが、警備や防犯に関してはまるっきり分からないし、機密文書とやらの保管場所もさっぱり。守る側に立って考える必要がありそうだ。

 そこら辺はじっくり考えるとして、まずはパートナーを確定させて能力の把握などを済ませないとかと思って、この試験内容に適した人選は早い者勝ちなところもあるなと行動を迅速にしようと、この2ヶ月ほどで把握していた同級生の中で最適なパートナーを選択。

 今回は試験向きとも言えない能力のヴィッキー辺りが泣きついてくる前にどうにかしようとしていたら、ふとした疑問が浮上したのと同時に、諜報科の教諭から直々にお呼びがかかる。

 疑問というのは2年の諜報科の所属人数についてで、オレの認識では確か2年生はオレ含めて合計で23人。2人1組を組むには数が合わないのだ。

 その辺で学校側が考慮していないはずもない──実際に1年生では余りが出ない──のにどうしてだと引っ掛かっていたら、その疑問に対する答えを教諭から伝えられてしまった。

 

「猿飛京夜君。君は東京武偵高では最高学年に当たるため、当校でも試験内容は同等のものとする。なので試験は3年と同じく1人で臨むように」

 

「…………こういう時だけ3年扱いなのかよ……」

 

 オレのロンドン武偵高での扱いは、9月の新学期までは2年生で、それ以降からは3年生というもの。

 なので試験も2年の扱いで受けるものと考えていたが、なるほどそういうことね。畜生が。

 それを当日に言い渡す学校側の意地悪に文句を言おうとも思ったが、最上級生という立場を忘れて生活していたこっちにも落ち度があるから、これはトントンくらいにしかならないと勝手に解釈して、色々と口から出かかったものを引っ込めてその通達に承諾。

 なになにと気になって近寄ってきたヴィッキーがもののついでにパートナーにしようと目論んできたが、ふっ。その策略も無意味に終わったな。神は死んだのだ。

 

「えー! キョーヤは1人で受けるのぉ!? 御愁傷様でーす」

 

「やめろ手を合わせるな。というかそっちも御愁傷様だな。この内容だとAランク維持は厳しいだろ」

 

「ちょっとぉ、あんまり私をナメないでよね。1人ならともかくパートナーがいれば私だってどうにか出来る可能性がなくもないし」

 

「あっそ。どうでもいいけど頑張れよ。オレもこうなると余裕がないからな。残りの時間は1人で集中させてもらう」

 

 オレをパートナーに選べなくなったことよりも、オレが1人で試験を受けることになったことに反応して合掌してくる辺りがヴィッキーの性格を表しているような気がする。

 リバティー・メイソン的にはオレのランクダウンは評価に影響しそうだから、この際Bランク以下に落ちて勧誘の手を引かせるのもありかとも考えたが、それよりもランクダウンと聞いてメヌエットのイラつくほど失望する様が頭に浮かんで、無いなと即決。

 教諭からは最後に試験の順番が最後であることを告げられて、待ち時間は他の生徒の様子を見学することも出来ないこともあり、とにかく情報不足がキツすぎて何に対しての対策を取るべきかもハッキリしない。

 見取り図の他には建物の外観の写真もあるが、侵入口くらいしか参考にならないな。どうしたもんかね。

 結局は中に入ってみての出たとこ勝負な部分が多いため、アンロックスキルだけは迅速に行えるように指を慣らしておきつつ、わざわざ校外の建物を使って行われる試験が始まったのを校舎から見学。

 建物までは自力で辿り着いてのスタートなので校外へと向かう試験者の姿は確認できるが、それだけなのでとりあえず戻ってくるまでの時間でも測るかと並行して思考もしていたら、1、2年の方は割と時間がかかっているのに対して、3年の回転率が早い。

 確かに1人で受ける3年は回数も多いから回転率は上げなきゃならないが、それにしても早いぞ。1、2年が1組終わる間に5人も出発してる。

 そうなるとやっぱり試験者はほぼ迎撃されたか、或いは驚くほど簡単なのかの2択──生徒がみんな優秀という考え方をしないのは悪いがな──だろうが、たぶん前者だ。誰も戻ってきてないし。

 その現実を受けて、オレも試験という名の付くものにこれまで大したプレッシャーを感じたことがなかったのに、どんどん迫る順番に少しずつ緊張の色が表れ始めたのだった。

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